IS-光は舞い上がり、無限の時代が始まる―   作:今日は晴れ

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 プロットが出来上がりつつあるので、軽めに更新


ある夫婦の過ごし方

 東北地方の山村と山村を繋ぐ県道を一台の車――黒のセダンが進んでいた。

 

 地方の農村部における高齢人口の占める割合が増え、特に山村の過疎化が懸念される昨今であるが、それを如実に示すかのように県道沿いには、つぶれた個人店と民家があるだけで、分け入っても分け入っても青い山が続く風景をフロントガラスに描いていた。

 

 少し時期が早ければお盆で田舎に帰省し、これから都会に戻る家族を乗せた乗用車ともすれ違うだろうが、八月の下旬ではそうした期間も過ぎているので、すれ違う対向車もない。

 帰省の家族を顧客に選定し、限定で店を開く個人商店もシャッターを下ろしたばかりと見え、より一層ものさびしい様相を見せていた。

 

 この道を走っていれば、いつまでも変わらない景色と乗り合わせる相手の顔に飽きてしまい、同乗者同士の会話は途切れ、車内をにぎやかせるのは運転手が気まぐれでつけたラジオと時折カーナビが示すマップ表示と決まっているものだが、県道を行くセダンの車内には、それすらもなかった。

 

 助手席に座った同乗者が俗を好まないと運転手が知っている配慮とある理由があるが、それ以上に車内は静寂に満ちていた。

 

 車には、二人の人間がいた。

 

 一人は運転席でハンドルを握る、見るものが見れば、美男子と判断できなくもない顔つきの二十代前半の男性である。軽く鼻歌を口ずさみながら、長らく整備もされておらず、時折コンクリートがひび割れ、並の運転手ならハンドルを取られそうになり悪戦苦闘するだろうが、涼しげな態度を崩すことのなく自在に車を操っていた。

 

 

 もう一人は助手席に座る女性だった。退屈な旅だというのに携帯を取り出していじることもなく、車内の静寂を通り越し、険悪といってもいい空気などどこ吹く風とばかりに威風堂々たる様子で腕を組んで豊満な胸を持ち上げているが、本人には自覚はないだろう。百人が百人、佳人と評する美貌を持ち合わせているが、その目の端はつり上がり、どこかきつい印象を持たせている女性だった。

 

 女性も男性も夏用のスーツであるため、地方に出張にいく会社員二人組、と思わせる組み合わせだったが、この二人は会社の従業員という、職場をともにする間柄ではなかった。

 

 「千冬」

 

 男は声を上げた。軽い調子で、気の強そうな女性に臆することなく堂々といってのけた。千冬と呼ばれた女性は、なんだ、と態度を軟化させることもなく、そっけなく応じる。外見を表すかのように、声の端端にどこかとげが感じられる声色であった。

 

 「音楽、聴いていいか?」

 

 コンソールボックスからCDケースを数枚取り出し、千冬に見せた。

 

 「それぐらい許可をとるな。私が聴くなといったら聴かないつもりだったのか、貴様は?」

 

 千冬を知らない人間でも、一目で機嫌が悪いと判断する様子であった。これに、男性は軽く肩をすくめて、軽い冗談染みている所作をみせるが、千冬が態度を変えることはない。むしろ、片眉をより吊り上げて、不機嫌をより深刻にさせただけであった。これ以上は藪蛇だと許可をもらった男性はすごすごとCDを取り出し、カーナビを兼務したカーオーディオで音楽を流そうとした。

 

 「貸せ、運転に集中しろ。危険だろうが」

 

 その前に、男性からCDケースを千冬が奪い、カーオーディオで再生をかけようとしていたが、慣れていないのか、カーナビのシステム画面から別な操作パネルをタッチしてしまったが、それに気づかない。

 

 あ、と男性が気付いた時には既に遅く、

 

 『――ですからブリュンヒルデといえども怪しいと思うんですよね』

 

 AM/FMと表示され、その隣に数値が書かれた画面――ラジオ放送を選択してしまったのだが、その第一声は二人を、車内に漂う空気を凍りつかせるには十分な威力をもっていた。

 

 二人は表面上、一切動じなかったが、一瞬、車内が凍りつき、危うく男性はハンドルを悪路に取られ、千冬は持っていたCDケースの中身ごと罅を入れ、使用不可能にするところだった。千冬は一刻も早く他の放送局に変えるか、もしくは別な機能を起動すべきだったろうが、一瞬の逡巡が、その考えすらも吹き飛ばしてしまった。

 

 よって、二人の動揺を知らず、ラジオは流れ続けた。

 

 『弟がISを動かしたとわかって数日のうちに結婚発表ですよ、しかも相手は公務員の男性とかありますけど、公務員というところが怪しい』

 

 『と、いいますと?』

 

 『公務員ですが、政府関係者ではないかと思うんですよ。言い方は悪いですが、私は身内を守るためにブリュンヒルデと言われた織斑千冬さんは身売りしたのではないかと――』

 

 男が手を伸ばし、別な機能に切り替え、流れる声を遮断した。これを流して話しているコメンテーターか何かはしらないが、勝手にいってくれる、と内心唾を吐きながら。

 

 「浄正」

 

 唐突に、千冬が男に声をかけた。

 男――浄正は特に気取られる様子もなく、

 

 「ん? なに?」

 

 「……なんでもないさ」

 

 「そっか」

 

 しばらく、千冬は何かを言いかけていたが、彼女にしては珍しく言いはばかれる様子であり、その末に口をつぐんだことに関して、浄正も何も言わずにハンドルを取った。

 

 しかし、心の中では千冬と浄正は完全に一致する思いがあった。

 

 ――はぁ

 

 互いに声はなく、相手に悟られないように心の中で嘆息をついたのだ。

 

 

 約一週間前のことである。全世界を驚愕させるニュースが駆け巡った。

 

 男性IS適合者でも十分に世界を賑やかせたが、ある意味、このニュースはそれ以上の衝撃をもって伝えられる。

 

 織斑千冬が結婚した、という知らせが。

 

 織斑千冬といえば、世界最強のパワードスーツ、インフィニット・ストラトス(以下ISと略称)に携わるもので知らぬ者がいない伝説の存在であった。

 ISは世に出て9年目になるが、4年に一回、世界各国の国家代表操縦者と国家を代表するISが集まり、様々な競技ごとに分かれ、覇を競う大会――モンド・グラッソの第一回総合優勝者となり、ブリュンヒルデという称号を与えられた人間であった。

 

 ISに関しての技量は語るに及ばず、ISに関わらずとも、世界トップクラスの人間であることを疑う者はいない。現在では、後学育成のため、国際IS育成機関であるIS学園にて教鞭をとっているなど、いまでもIS業界の最先端を行く第一人者であり、多くの女性の憧れとしてその名を広く知られていた。

 

 その女性が、結婚する。

 

 これに対して、最初は予想通りのものだった。驚きはあったものの、モンド・グラッソで互いに熾烈を極めたかつての各国代表者たちやISに携わる業界の人間は祝福を表明し、織斑千冬は見目麗しいこともあってか、異性同性問わず、ファンが数多く存在しており、絶望にたたき落とした。

 

 だが、それはあくまでも表面の話である。

 

 実は、これは、千冬自らが発表したわけではなかった。そして、この相手とニュースの発表経緯が問題だった。

 織斑千冬が、ひとつ年上の国家公務員と結婚した、とどこからかマスコミが嗅ぎつけたのが一週間前だった。どこから漏れたのか、いまでも千冬には謎である。そもそも記者会見を開いたわけでもなく、その時点では職場に相談し、役所に婚姻届を出したに過ぎない。

 

 後日、詳しいことは記者会見を開き、ほとぼりが冷めてから行うはずだったが、連日、千冬の自宅や職場を問わず、関係先にマスコミが押し寄せ、問題となっていた。

 

 結果、これ以上の混乱を避けるために、千冬は結婚の事実を発表することとなる。

 

 仮に役所から漏れたとすればコンプライアンスの崩壊であるが、そちらは疑ってはいない。仮に漏れたとすれば、千冬はサイドミラーでトランクルームを横目でみた。

 

 なぜ相手が国家公務員で炎上騒ぎとなるのか、その理由は、千冬の弟、織斑一夏がIS適正検査にて、ISを動かしてしまったためであったからだ。

 

 男がISを動かすという、世界の法則を乱れさせるのに等しい所業をやってのけたが、マスコミはなぜ動かしたか、よりも、これからどうなるのか、に注目していた最中であったのだ。

 いわく、男性適正者は各国の圧力に屈して、実験場送りとなるのだと、いわく、すでに某国が男性適合者を拉致するために特殊部隊を国内に潜入させたのだと。

 

 根も葉もないうわさに過ぎないが、それがより一層、民衆とマスコミの妄想を駆り立て、そのため、邪推された。

 

 織斑千冬は、弟、織斑一夏を守るため、国家の後ろ盾を作るために結婚したのだと、そのために自分を生贄に差し出したのだ、と。

 

 記者会見で千冬は真っ向から否定したが、誰もそれを信用する者はいなかった。

 ゴシップ紙の類は下世話に掻き立て、市井の人々もそれを信じてしまっている。

 

 普段の千冬ならば、烈火のごとく激怒しただろうが、それを強く言えない理由があった。

 

 なぜなら、誰かを守るために結婚したことは真実であったのだ。

 

 では、誰かを守るためなのかといえば、

 

 「千冬」

 

 浄正が千冬を呼ぶ。

 

 「そろそろ、俺んちだが、そのな、あれだ、親父はセクハラしてきても、ぶっ飛ばすなよ?」

 

 それに対して、千冬はこめかみを疼かせ、

 

 「ほう、貴様は自分の妻よりも父親を取るのか? 平然としていられるとは」

 

 千冬はむちゃくちゃ言っていたが、浄正はすました顔で、

 

 「いや、自分の女が汚されて黙ってられるか、俺が一発入れるっていいたんだよ」

 

 そう言いのけた。

 

 「戯言を……第一に、私は誰かの物になったつもりはない。大体、私は自分の意思で結婚を選んだだけだ」

 

 千冬は僅かに頬を染めながら、形のよい眉を吊り上げる。

 

 「まぁな、夫婦になったんだからさ、あとで離婚しても、最悪の記憶にはしたくはないだけだ」

 

 浄正は千冬にいった。

 

 その言葉が、それなりの付き合いで、挙句婚姻関係を結び、夫となった男の人となりを知る千冬は真実だと判断し、窓の外に視線を向けるしかなかった。

 

 織斑千冬と飯盛浄正、この二人は、婚姻関係を結び、書類上夫婦となっている。

 

 しかし、恋愛結婚の末でも見合いでもなく、ある理由のために夫婦となった。

 

 それは、第三のIS男性適合者のためであり、現在、その男性の元に向かっていた。

 飯盛浄正の実家である、東北の山中に居を構える家――六根家へと。

 




 はい、千冬さんが結婚してしまいました。
 どうしてこうなった(困惑)
 
 実を言えば、結婚したところが想像できないキャラクターだったので、一番書きたい部分でもあります。
 あと、まだ超技術がでて原作がすごいことにならないですね。
 
 早く魔改造した白式とか出したいなぁ(遠い目)
 
 ご意見ご感想お待ちしております。
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