東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレです! 大学生活が忙しすぎて死にそうなトーレです!
高校生の時…大学というものはフリーダムなんだと、勘違いしている時期もありました。なぜこんなにも忙しくなったし。

さて、一か月以上遅れての投稿ですよ! 視聴者様の次のセリフは「ふざけんなっ!」だ!
いや、ほんとすみません! まさかこんな遅くなるとはね! びっくりだね!
でも代わりと言っちゃあなんですが、今回の話はいつもに比べ長くなっております!

さて、気を取り直して…
タイトルからわかるように、今回の話で紅霧異変が終了となります! いやー長かった。まぁ紅魔館編はもうあと一話続きますが(笑)

はたして白滝は霊夢に対してどのような行動をとるのか!
そして今のところ全く描写されていない図書館組は!
この異変の行く末は!

ではでは、過度の期待をせず、温かい目で、本編へどうぞ!

※後書きにとあるお知らせがありますので後書きまで目を通してくれるとうれしいなぁ(チラチラッ




第二十三話 紅霧異変 ~終幕~

 

 

 

 

「フランドール……スカーレット」

 

 薄暗く、異様な雰囲気を放っている大きな扉の前で、パチュリーはその名前をつぶやいた。

 自分の親友の妹にして、この異変の原因となったものの名である。その名をつぶやくことさえ何故だかはばかれるような気がした。

 とはいえ、フランに対して、この異変に対して、正直にパチュリーが思っていることを吐露してしまうと、「どうでもいい」だったりする。別段、親友に妹が増えたところで何かあるわけでもなく、この異変に関してもパチュリーには何の得もないことだった。正直、こうやってフランがいるこの部屋の扉に、親友の願い通り「異変が終わるまでフランが部屋から出てこれないようにする」ために魔術を施すのも、パチュリーにとっては何の得もなく、逆に魔力を消費して疲れるくらいだ。親友とはいうが、損得関係もある。一番初めに異変の話を聞いたとき「めんどくさい」と一蹴してもよかったぐらい。

 だが、パチュリーは、この異変に全面的に協力することを選択した。図書館を守り、フランのこの部屋を守ると豪語した。ではそれはなぜか? なぜなら……

 

「……紅魔館当主に頭を下げられたら…断れるわけないじゃない」

 

 そう、パチュリーは懇願されたのだ。紅魔館当主であるレミリア・スカーレットに。誇り高き吸血鬼が、一魔女に頭を下げて懇願したのだ。……いや、少し語弊があるかもしれない。あの時のレミリアは、紅魔館当主ではなくあくまで「フランドールの姉」だったのだから。

 あと……頭を下げられたのはレミリアだけでなく白滝からもなのだが、今ここでその名前を出すと、まるで異変協力の理由にあのハイテンション無計画バカが一役買ったみたいになってしまう。それは非常に癪だったので、あえて口にはしなかった。

 

 さて、扉の魔術の結界は張り終えた。これでこの扉に何かとてつもなく大きなエネルギーがぶつからない限り大丈夫だ。今はフランは寝ている。この結界が破壊されない限りはフランが起きることはない。

パチュリーは小さく息を吐いた。これで安心してこの異変の行く末を見守れる、そう思った。……だが。

 

「パチュリー様! 外の魔術結界が破壊されました! 侵入者です!」

 

 声に反応して振り向くと小悪魔がパチュリーのもとに走ってきたのだ。そして、その言葉にパチュリーは驚愕した。

 結界が破壊された? そんな馬鹿な。

 結界は白滝に注文されて張ったものである。白滝は、この図書館が狙われることをひどく恐れていた。まぁフランの居場所なのだから当たり前ではあるが。一応お願いされた通りにはしたが、正直パチュリーはこの図書館が狙われることはないだろうと考えていた。だからこそ驚きをパチュリーは隠せなかった。なぜわざわざここを狙ってきたのか? それにあれほどの強力な結界を、こうも早く破壊できるものなのか? ……いや、可能性はある。なにせ相手は博麗の巫女なのだ。幻想郷の人間で最強の巫女。結界破壊などたやすいのかもしれない。もし博麗の巫女でなくレミリアの言っていた白黒の魔法使いであっても、博麗の巫女とともに異変を解決しようとする輩だ。実力は高いとみるべきである。ならば、結界を破壊されるのも無理はない。ならば今考えるべきことは……侵入者を迎撃すること。

 

 小悪魔をその侵入者の捜索を任ずけ、パチュリーが戦闘モードに入ろうと居た時、パチュリーの前の暗がりから、足音が聞こえた。その足音は、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 

「結界なんか張りやがって……霊夢の対結界霊符がなかったら、入場すら許してもらえなかったぜ……さすがにこれはひどいんじゃないか?」

 

 足音の先から声が聞こえてきた。……侵入者だ。パチュリーは確信した。

 

「ひどいも何も、あなたは招待してないわよ」

 

「招かれざる客ってところか」

 

「客でもないのだけれど」

 

「そう固いこというなって」

 

「私としては、今すぐにでも、帰ってほしいのだけれど」

 

 パチュリーは少し凄みを入れて声を相手に放つ。だが相手は、「はっはっ」と笑った。

 

「そうはいかないんだよなぁ。私はこの異変を解決しなくちゃいけないんだぜ」

 

「なら尚更、退場してくれないかしら。今すぐに」

 

 パチュリーはあえてそっけない態度を見せ、その場を立ち去ろうとした。そうしてフランの部屋の近くであるこの場所を変えるのと同時に、相手の出方を見ようと思ったのだが……逆効果になってしまったことにパチュリーは気づいていない。

 足音が大きくなってくる。そろそろ姿顔が見える距離だ。パチュリーは戦闘態勢に入り魔導書を強く握った。

 少しの間があってから、もう一度奥から声がした。その声にはため息が混じっている。

 

「まったく、いろいろ話したいことがあったんだが……仕方がない」

 

 ぼんやりとだが、相手の姿が見えるようになった。博麗の巫女ではなくレミリアの言った通り、白と黒の服。そして大きな帽子に金髪。そこまでは判別できたが、あとはよくわからない。まぁ今はそんなことは問題ではない。この侵入者を倒して、すこしでも紅魔館陣営が有利となるために。

 

「そんな態度を見せるなら、まず、さっきの結界のお返しをくれてやることにしたぜっ!」

 

「――っ!」

 

 刹那のその言葉から、まるでドスを効かせるかのようなその声の調子から「何かが来る」そうパチュリーは直感的に予感した。近接格闘か、はたまた弾幕か。なんにせよ、迎撃するのみ! パチュリーは魔導書を開き、いつでも戦闘をはじめられるように構えた。

 

「マスタースパークッ!」

 

 次の瞬間、その相手から放たれた一撃は、予想をはるか上回るものだった。

 

「なっ…!?」

 

 まるで巨大な光。あたり一面を明るく照らしてしまうような巨大な光だった。

 パチュリーは一瞬の判断で、横にダイブするかのように緊急回避をとった。そのパチュリーの横を通って行ったものは、巨大な光線だった。あれを正面からもらったらひとたまりもないだろう、そんな気さえした。これをあの結界のあいさつ代わりに放つなど、誰が予想できるものか。

 すさまじい着弾音がと図書館中に鳴り響いた。その音だけであの攻撃の威力がうかがえる。事実、周辺の本棚や本を四方八方に吹き飛ばしている。パチュリーはあの攻撃を避けれたことをすくなからず安堵した。

 

 だがその安堵は、すぐに後悔へと変わった。

 

 考えてみてほしいパチュリーが避けた。ということは、あの光線はパチュリーの後ろに向かって通り過ぎたということだ。ではパチュリーの後ろには何があった?

 

「っ……なんてこと…」

 

 パチュリーは様々な感情がないまぜになったそんな気持ちに襲われていた。驚愕、落胆、絶望、恐怖、そして後悔。パチュリーは今、あの攻撃を自分が喰らっていればよかったのにとさえ思った。なぜなら先ほどの白黒魔法使いのあの光線がフランの部屋の結界付扉に直撃したのだ。当たらなかっただけで周囲のあの状況。威力は大きい。もはや結界は破壊されてしまった可能性が高い。そしてそれは……フランが目覚めてしまうことにつながる。

 

 パチュリーは、結界が壊されてしまったであろう扉を見つめた。見つめることしかできなかった。外の結界も扉の結界もこわれた今、フランを守れる存在が、レミリアや白滝の願いを叶える要が、なくなってしまったのだ。

 ……いや、諦めるのはまだ早い。フランがまだ起きていない可能性は十分にある。今からでも、この白黒魔法使いのスキをついて結界を張りなおすこともできる。パチュリーは魔導書を握りなおした。

 

 だが……不意に、扉は開らかれた。その現象の意味を理解したパチュリーは何も言わず、否、何も言えずただ扉を見つめるばかりであった。手から魔導書が力なく落ちた。白黒の魔法使いも「なんだ?」と首をかしげていた。

 

 扉から人影が現れた。その人影は、年端もいかないような少女の姿で。

 

「んん……なんだか騒がしいよぉ。どうしたの?」

 

 パチュリーの祈りも甲斐なく、今運命の歯車が、一つ狂いだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてここで、あれほどの啖呵を切った白滝の戦いに戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、時間もない。そろそろ始めようじゃないか」

 

「ええ、構わないわ。弾幕勝負でも、ただの殴り合いでもなんでもいいわよ。先手はあんたにあげる」

 

「ありがとう。その傲慢さに感謝するぜ!!」

 

 俺は目を思いっきり見開き、相手を捕らえた!

 それと同時に、両掌を地面に力いっぱいたたきつける!

 

「さぁ! 始めようぜ! 霊夢!!」

 

 俺は霊夢を睨み付け、そして!

 

「頼む! どうか許してくだせぇ!」

 

 土下座した。そう、ドゲザである。あぁん? 何度も言わせるな、DO☆GE☆ZAだよ!

 お前ら考えてもみろ、両方の掌を地面にたたきつけてんだぜ? それしかないだろ! どっかの錬金術師じゃあるまいし!

 俺は、額を地面にごりごりと押し付ける。これで霊夢に諦めてもらえるのならば安いもんだ、いつまでもやってやる!

 不意に、「はぁー…」と盛大なため息が耳に入った。まぁその発信源は霊夢なのだが。

 

「あんた、あんだけかっこつけといてそれはないでしょ」

 

「何とでも言え。これで諦めてもらえるのなら!」

 

「……諦めるって、なにをよ」

 

「この異変のことだ!」

 

「はぁ?」

 

 霊夢は驚いたような、呆れたような表情を見せた。だがそれも無理もない。霊夢はこの異変を解決しに来たのだ。それを土下座して帰ってもらうなど、なんというか…愚の骨頂?

 そんなことはわかってる。だがそれでも俺は土下座をやめない! 霊夢がッ! 諦めるまで! 土下座するのをやめないッ!

 俺は霊夢の目を睨むほどに見つめ、自分の思いを叫ぶ。

 

「この異変はっ! なんとしても成功させなきゃならないんだ! 止められるのだけは避けなきゃいけないんだ! 俺はフランを守るっそう決めた! フランを守って、レミリア様やみんなと幸せに暮らしてほしい。それだけなんだ。だから霊夢!」

 

 俺はもう一度、誠心誠意で、一生懸命に、全身全霊で、全力全開で

 土下座をした。

 

「頼む! 一生のお願いだ! この異変を諦めてくれ! 許してくれ! 見逃してくれ! 諦めてくれるなら何でもする。フランを見逃してなら何でもする! だからこの通りだ、頼む!」

 

 もう俺は思いを出し切った。ここはあえてこの異変のすべてを話すことにした。そうして、霊夢の心が揺らぐことを誘うのだ。もう霊夢に言うことはない。あとは霊夢の返答を待つのみだ。

 少しの静寂が場を包み込んだ。霊夢は言葉を失っているのかもしれない。まぁそれも無理はないがな。

 

「……そう。あんた、そこまでこの異変を想っているのね」

 

 霊夢がそんなことを口にした。俺はまだ顔を上げない。

 

「あんたの気持ちはよくわかったわ。それに、何でもするって話は魅力的ね。……わかったわ」

 

 ……へ? これって。まさか? へ、マジで?

 

「霊夢…?」

 

「あんたのその言葉に免じで、今回のこの異変は見逃してあげる」

 

 マジかよ! なんか信じれないが万々歳じゃないか!

俺は驚きとうれしさのあまり、顔を上げた。

 

 だが、そこにあったのは、ため息をつく霊夢の姿だった。

 

「なんて言うと思ったのかしら?」

 

「でっデスヨネー」

 

 うん、知ってた。そんなこと言うわけないのは知ってた。ちょっとでも期待した俺ぇ…。

 まぁ……うん。仕方ない、霊夢には霊夢の職務があるわけだし。

 俺は、土下座をやめ、立ち上がった。

 

「いやー、いきなり土下座とかして悪かったな」

 

「ほんとよ。まぁ普通に勝負をしてくるわけないとは思ってたけど、まさかね」

 

 いつも通りめんどくさそうに霊夢はため息交じりにそう言った。

 

「はははっ、普通の勝負で勝とうなんて、そんな馬鹿なこと考えないさ。俺紅魔館最弱だし」

 

「あんた、それ自分で言ってて悲しくならないの?」

 

「悲しいし、悔しいけど、仕方がないさ。それが現実、認めないわけにはいかない」

 

 俺は少し拳を握る。そりゃ悔しいさ。こんなかわいい女の子に勝てないなんて。でもそれは仕方がないことなんだ。今どうあがいてもどうしようもならないこと。どっかの漫画の主人公じゃないんだから勝てない相手に無理に挑んでも意味がない。だから、だからこそ

 

「俺は、俺ができることをしたまでさ」

 

「……あんたの言う、できることって何だったのよ。結果私はあきらめてないわけだし、意味なかった気がするけど?」

 

 霊夢がそう訪ねてくる。ふっふっ、甘いな霊夢。ちゃんとこの行動には意味があったのさ! ま、教えないけどね! 教えたらあんまり意味なくなってしまいそうだし。

 だから俺は霊夢にこう言ってやることにした。

 

「霊夢、意味を知りたいか?」

 

「……なによ?」

 

「それは秘密」

 

「……」

 

 あ、今霊夢の顔が凍り付いた。「ピシっ」って擬音聞こえてきそうだったわ。

 少し霊夢は固まった後、今日一番のため息をついた。

 

「はぁぁぁぁ……もう、あんたと話してると疲れるわ…」

 

「!!」

 

「もうここ、通ってもいいわよね?」

 

「ああ、俺の負けだし、構わんぜ!」

 

「なんであんたイキイキしてるのよ」

 

「気のせいじゃないか?」

 

「はぁ……まぁいいわ。それじゃ」

 

「おう。レミリア様によろしくな」

 

「ええ、あんたの主様に、ちょっと挨拶に行ってくるわ」

 

 そういって霊夢は歩いていった。俺はその背中をみて、にやりと微笑んだ。

 お分かりいただけただろうか? 俺の一連の行動の意味が。

 俺は霊夢と直接戦って、霊夢を疲れさせることはできない。だがそれは肉体的にだ。俺が目指したのは、精神的疲労である。精神的疲労はけっこう重要だったりする。心が疲れてしまっていては、本来出る力も出なかったりするものだ。例えば、野球で三振をしてしまったとして、それが気にかかって次の守備でミスをしてしまった。これって、バットを振っただけで肉体的には疲れてないだろ? でも三振したショックから生まれる疲労によってミスをしてしまう。つまり俺が目的としていたことはそういうことだ。……あれ? これってちゃんと伝わってる? まぁいいや。俺こういう説明すること苦手なのよね。悲しいけどこれ俺の性格なのよね。

 そしてだ。先ほどの霊夢のセリフ、あいつは確かに疲れるといった。つまりあいつは精神的に疲労した! そうでなかったならば、わざわざ敵である俺に、弱点となる「疲れ」を見せたり口に出したりはしないだろう。これぞまさに

 

「計画通り」

 

 と、いうことで、俺の考えた俺のできることは、無事終わった。あとは十六夜さんとレミリア様に任せよう。他力本願だといわれるかも知れないがこればっかりは仕方がない。頼みますよ! お二方!

 

 

 ということで、俺の、というより俺VS霊夢のバトルはこれにて幕を閉じたのだった。

 ……全然バトルって感じじゃなかったけどね! 壮絶なバトルを期待していた人はごめんよ! ってか俺にそんな戦いを求めるなしっ! あれが俺の精いっぱいの策だったんでよ……堪忍してつかぁさい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、霊夢の背中を見送ってから少しの時が過ぎたか。俺は霊夢が向かった場所、つまりレミリア様と十六夜さんの待つ大広間とは別の場所に向かって走っていた。今すぐにでもそのレミリア様や咲夜と霊夢のガチバトルを見に行ってもいいのだが、俺にはやらなければいけないことがある。それは美鈴に会いに行くことだ。

 ここに霊夢がたどり着いたということは、悔しい事実だが美鈴は倒されてしまったのだろう。ならば、だからこそ、俺は美鈴の元に行かなきゃならない。美鈴は、負けた姿など見られたくはないかもしれない。前に霊夢に負けた時のあの様子が思い出される。今回で二連敗したわけだ、悔しいったらありゃしないだろう。だからこそ俺は美鈴に会わねばならない。美鈴に会って「ありがとう」と伝えなくては。あの時と同じように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴!」

 

 美鈴は、門にもたれ座っていた。正直言って……俺の予想より美鈴はぼろぼろだった。ところどころ肌は擦り切れたり痣になっていたりしてるし、服なんかもボロボロだ。……こんなになるまで、こんなになるまで、美鈴は戦ってくれたのだ。この異変のために、フランのために、俺の願いのために。

 

「あっ……白滝さん…」

 

 俺に気づいたのか美鈴はこちらを向き微笑んだ。だがその笑みも力がない。

 

「美鈴…」

 

「あはは……負けちゃいました」

 

「…みたいだな。でも謝るんじゃないぞ。お前は……ほんとに頑張ってくれた」

 

「……はい。自分でも…褒めてあげたいくらいです」

 

 ははは、と美鈴は力なく笑う。悔しいだろうに、めちゃくちゃ悔しいだろうに、今拳を血が出てしまうくらい強く握りしめているほど悔しいだろうに、美鈴は笑った。笑ってくれた。その様子が愛しくて、綺麗で、でも儚げで今にも消えてしまいそうに思えた。

 だから俺は、そんな消えゆくものを掴むように、大切に包むように、美鈴を抱きしめた。

 美鈴の体は、異変が始める前に抱きしめたあの時より、ずっとか細く感じた。これ以上力を籠めたら折れてしまいそうな、そんな気がした。

 少しビクッとして驚く美鈴に、俺は伝えたかった言葉を口にする。

 

「ありがとう、美鈴。ほんとに……ほんとにありがとう…」

 

「白滝さん…」

 

 はじめは驚いていた美鈴だったが、顔を赤くしながらも、微笑んでくれた。その笑みは、少しだが、いつもの美鈴の笑顔みたいだった。

 

「えへへ……白滝さんに抱きしめられるの…安心します」

 

「そうか?」

 

「はい。……頑張った甲斐がありました」

 

「ばか、俺でよかったら抱きしめるくらいいつでもしてやるっ。もっと大きなことをねだってもいいんだぞ?」

 

「もっと…大きい…?」

 

「そう。んー…例えばだな、俺に一つなんでもいうことを聞かせるとか」

 

「なん…でも…?」

 

 そう呟いた瞬間、美鈴の顔がいきなり真っ赤になった。なんかもう「ボンッ」って音が聞こえそうなほどに、なんかもう茹ダコのようになっていた。なっなんなんだ?

 

「どっ、どうした?」

 

「(えっえっ、なんでもって…ほんとになんでも? じゃっじゃあ、毎日ぎゅっとしてほしいとか…もしかして…キっキキキ、キス……とかでも!? あわわわっ)」

 

「えっと…美鈴?」

 

「(もっ…ももももしかして…恋人に…なってくださいって言ったら…もしかして、もしかして!?)」

 

「美鈴! どうした?」

 

「ひゃっひゃい!」

 

 ビクッ! ってなって美鈴は抱きしめていた俺からババッ離れた。ええー……なんだろ、この美鈴だけ見たらすごく元気なんだが…てか顔真っ赤にするって、どういうことだってばよ。

 

「大丈夫か?」

 

「だっ大丈夫ですよ! あははっ、あはははは…」

 

 ……まぁ本人が大丈夫だと言っているのだ、気にしないでおこう。……一瞬美鈴が壊れてしまったかと思った。なんか聞き取れなかったけどぶつぶつ言ってたし。

 でも……うん。なんだろう、少し元気になったっぱいかな? 疲れは見えるが、そればっかりは仕方がない。俺の言った元気ってのは……んー、所謂さっきの霊夢とは逆のことだ。つまり精神的疲労の逆。美鈴には精神的安定を与えようと思ったが…なんとか成功したみたいだ。

 

「白滝さん」

 

「ん?」

 

「ありがとうございました」

 

「……ま、ここはどういたしましてと言っておこうかな」

 

「はい」

 

 にっこり笑う美鈴。うん、まだ疲れは見えるがいつもの美鈴だ。ここまで回復するとは思っていなかったが、まぁ結果オーライ?

 ……よし、ここまで復活してるなら大丈夫だろう。酷なことだが仕方がない。

 

「行くぞ、美鈴。立てるか?」

 

「はい、なんとか」

 

 ふらふらとしながらも、何とか立ち上がる美鈴。だがさも危なそうなので肩を貸すことにした。

 さて、こんな美鈴を連れてどこに行くかと聞かれたら、それはレミリア様の元にである。これは「この終末は、しっかり自分の目で見たい」という美鈴の願いであった。美鈴に会いに来た理由も、この願いを助けるためであったりもする。

 なんにせよ、レミリア様のところに行こう。どんな結果になるかはわからないが、もうすぐこの異変にも決着がつく。美鈴ではないが、それを見届けなくては!

 俺は美鈴をしっかり支えつつ、レミリア様と霊夢の戦い大広間へ、一歩一歩しっかり踏みしめていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『驚愕』。今の俺の感情を一言で表すのであればその一言に尽きる。というよりこの一言しかないだろう。

 少々の時間はかかったが俺は今、レミリア様と十六夜さんの戦っている大広間へと到着した。美鈴もここに到着する間だけで、普通に歩けるまでに回復していた。いやいや回復速すぎだろってツッコんだら「気の応用です」と言われてしまった。気というもののメカニズムが一切わからん。波紋の呼吸みたいなものなのかな? だがまぁそれはいい。美鈴が回復したことは喜ばしいことだ。驚愕はそんなことじゃない。そんな、生易しい驚愕じゃあない。

 

「もうお終いなのかしら? 紅魔館当主、レミリア・スカーレット」

 

「くっ! まだよっ! この私がそんな程度で終わると思っているのかしら!」

 

「そう。それじゃあ楽しませてもらうわね!」

 

 ……レミリア様が…劣勢…? そんな……そんな馬鹿な!?

 そう、驚愕するはこの状況である。レミリア様が…あのレミリア様が、押されていた。美鈴も驚いた表情を隠しきれないでいた。気持ちは俺と同じなのだろう。

 

俺は…いや、俺だけではない。紅魔館メンバーみんな、レミリア様の完全勝利を信じていた。苦労することなく博麗の巫女を、白黒の魔法使いを圧倒し、勝利するその姿を信じていた。

だが……今まさにその願いが、覆されようとしていた。

……まてよ、レミリア様が戦っているということは……まさか…

 

「っ! 十六夜さん!」

 

 俺は名前を呼び、辺りを見まわした。そう、十六夜さんだ。十六夜さんは霊夢にとって、レミリア様の前の最後の砦としてレミリア様のそばにいてもらっていた。つまり、レミリア様が戦っている今、十六夜さんも倒されてしまったということだ。

 十六夜さんは、わき腹を抑えながら、壁にもたれ倒れていた。まるで先ほどの美鈴のようである。急いで俺と美鈴は十六夜さんの元に駆け付けた。

 

「十六夜さん! 大丈夫ですかっ!」

 

「あ…ら。白滝…じゃないですか…」

 

 よかった、意識はあるみたいだ。一瞬最悪の状態を想像したが、そうではなかったようだ。ってか弾幕勝負なんだから死ぬことなんてないんだけどさっ!

 それにしても信じられない。信じたくもない。こんなことが本当にあるのだろうか。

 俺が信じられないのは十六夜さんが負けたことじゃない。負けることを確信していたというわけじゃないがその可能性は十分にあったからな。俺が信じたくないのは霊夢のスピード、そして強さだ。

 俺が霊夢を見送った後、すぐに美鈴のところに行き、そして美鈴を連れてここにやってきた。詳しい時間経過はわからないが、工程はこれぐらいしかない。それなのに、霊夢はその間にここにたどり着き、十六夜さんを倒し、ラスボスであるレミリア様を劣勢に追い込んでいる。しかも霊夢は俺の作戦である程度の疲労を蓄積しているはずだ……なのに、これはいくらなんでも早すぎやしないか? だが事実そうなっているのだ。認めざるを得ない。

 

「白滝……気を付けてください」

 

「十六夜さん…?」

 

「あの女は…博麗の巫女は……化け物です」

 

 化け物。まさかそれが、かの十六夜咲夜の口から出てくるとは思わなかった。女の子に向かって、そんなことは言いたくはない。だって化け物と言われて喜ぶやつがいるだろうか。それも相手が女の子なら尚更だ。……だが、まぁ、その、なんだ。ごめん霊夢。

 

「ええ……俺も今、そう思ったところです」

 

 女の子を化け物呼ばわりとか最低な男だけれど、こればっかしは、否定ができなかった。

 大妖精を倒し、チルノを倒し、美鈴を倒し、俺を倒し、十六夜さんを倒し、今レミリア様を倒さんとする勢いだ。……正直、恐怖すら覚える。

 

 俺と十六夜さん、それに美鈴は、レミリア様の戦いを見ていた。……もはや見ていることしかできなかった。美鈴、十六夜さんは負傷し戦える状態ではないし、俺ははじめから戦力にならない。俺たちは、黙って見て、ただただレミリア様の勝利を望むしかない。

 

……悔しい。あぁ悔しい。これほど悔しいことはない。これほど無力を感じることはない。前の霊夢の一件で感じた無力さに勝るほどだ。レミリア様は今全力をもって霊夢と対峙している。その手伝いをすることができない自分が死ぬほど悔しかった。

 美鈴の拳は固く握られ、十六夜さんは唇をかんでいる。きっと、俺と同じ悔しさを味わっているのだろうと予想ができた。

 

 紅い閃光が目に映る。レミリア様の弾幕だ。レミリア様はこの大広間を縦横無尽に飛び回り霊夢に向かって弾幕を放つ。大きい弾幕小さい弾幕を、速度を変え、放つタイミングを変え、配置を換え、織り交ぜながら、放つ、放つ、放つ。その弾幕は非常にきれいだった。魅了された。惚れさせられた。

 だが霊夢にはその弾幕は届かない。一つたりとも霊夢に当たることはなかった。掠るものはあった。だがそんなものはダメージにならない。

 霊夢の動きは完ぺきだった。悔しいが…綺麗だった、美しかった。

 

「『こんなにも月が紅いから、本気で殺すわよ』だったかしら? つまりこれがあんたの本気ってことかしら?」

 

 弾幕がいったん止んだところで霊夢がレミリア様に向かってそう言った。レミリア様はあからさまに不機嫌そうな表情になる。

 

「どういうことかしら?」

 

「いや、これが本気なら……弱すぎる、と思って」

 

「っ!?」

 

「ま、紅魔館当主と言えど、お嬢ちゃんだものね。こんなものね」

 

「ふざけるな!」

 

 レミリア様は霊夢に突撃しつつ大量の弾幕を放った。でも、今のはどう考えても、霊夢の煽りセリフでしかない。レミリア様をわざと侮辱し、冷静さを失わせる罠でしかない。

 

「駄目ですレミリア様! 挑発だってことがわかんないんですか!」

 

 俺は叫んだ。だがその声がレミリア様の耳には届かず、レミリア様は速度を下げない。

 ……そうか。この中で一番驚愕しているのはレミリア様なんだ。一番悔しい思いをしているのはレミリア様なんだ。考えてみれば当たり前のことだった。みんなの信頼を全身に受け、誰よりもこの異変を勝つことを望んでいたのはレミリア様なのだから。その願いが今、破れそうになっている。しかも、自分の敗北のせいで。……そんなの悔しくないわけがない。

 だから今レミリア様は冷静さを失ってしまっている。霊夢のあからさまな挑発に乗せられてしまうほどに。

 

「ひっかかったわね!」

 

 霊夢が指を鳴らした。それと同時に、レミリア様の周囲に札が張り巡らさ、レミリア様を拘束した!

 

「くっ! これは!」

 

「空間固定型の任意発動式結界よ!」

 

 その言葉と同時に霊夢が弾幕を張る。拘束を解くことに時間を取られたレミリア様はその何発かを被弾した。

 完全にレミリア様の体勢が崩れた。好機と言わんばかりに霊夢はありったけの弾幕を放つ。さきほどのレミリア様のような様々な弾幕を織り交ぜた弾幕だ。今のレミリア様には避けきれない!

 

「レミリア様ぁ!」

 

 届くわけない、届いても意味のない叫びを俺は上げる。無意識に声を出していた。

 だが、俺のその声が届いたのか、レミリア様は即座に体勢を立て直し弾幕を避けつつ、自身も迎撃用の弾幕を張る。

 第一波は避けきった。だがまだ第二波、第三波と弾幕は続く。レミリア様は防戦一方。弾幕を避けきれず、被弾が続く。

 

「お姉…様…?」

 

 第二波が来る。第二波はホーミングが主体の追跡型弾幕。だが逆に言えば追跡するということは軌道は見えやすくなる。レミリア様はここはノーダメージで切り抜けた。

 

「お姉様……」

 

 だが、そこに来る第三波が直線的であるが速度がずば抜けて早い弾幕だった。第二波に気を取られすぎていたレミリア様はこれを避けきることができない。直線ゆえに避けやすくはあったが、かなり数を被弾した。

 

「お姉様」

 

「これ以上私をなめるな!」

 

 レミリア様は霊夢の弾幕を避け急上昇した。そして、霊夢を見下ろしながら

 

 

「これ以上…なめないでちょうだい!」

 

 レミリア様は弾幕を避けきった後、急上昇した。そして霊夢を見下ろしながらこう言い放つ。

 

「これで決める! スペルカード、紅色の幻想きょ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様ぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 ……なんだ? なにが起きた? 何があった? 今のセリフはなんだ? 今のは誰の叫びだ?

 声がするほうを見た。みんなが見た。俺も十六夜さんも美鈴も霊夢も、レミリア様も。

そこにいたのは……いるべきはずのない存在。いてはならない存在。

 

「フっ…フラン?」

 

 眠っているはずの、フランドール・スカーレットだった。フランがここに…存在していた。

 

「どうして…どうしてあなたがここに?」

 

 レミリア様が狼狽した、震えた声を出した。計画にない事態。全くのイレギュラー。ここにいる皆が困惑していた。俺でさえ、今何が起こっているのかわからなかった。ただ一つ分かることと言えば、図書館に何かがあったこと。だからここにフランが存在してしまった。きっと魔理沙が何か関係しているのだろう。

 

 いや、一人だけ。一人だけ困惑も狼狽も震えもしてない者がいた。

 

「スキありよ、レミリア・スカーレット」

 

 博麗霊夢。こいつにとってはこんな状況好機でしかない。霊夢はいつの間にやらレミリア様の背後をとっていた。

 そして

 

「レミリア様!」

 

 俺が気づいたときには、もう、遅かった。

 

「霊符、夢想封印!」

 

 刹那、レミリア様の周りに、幾度となく折り重なる札の結界が出来上がる。

 

「博麗の巫女ぉ!」

 

 レミリア様は声を上げ霊夢を睨んだ。だが霊夢は平然と答える。

 

「スキを作ったあんたの負けよ」

 

 霊夢が、拘束され動けなくなったレミリア様に、七色に光る魔力弾を複数放った。

 そして、その弾幕は、無情にもレミリア様に直撃し、結界は、爆発した。

 

 俺たちの目に、力なく落ちていくレミリア様の姿が映った。ゆっくりと、ゆっくりと落ちていくのを、俺たちは見ているしかできなかった。地面に落ちた後も、レミリア様は起き上がらなかった。動かなかった。……俺たちに、悲しむべき事実が突きつけられる。

 

 勝敗は決したのだ。俺たち、紅魔館サイドの『敗北』によって。

 

 だが、

 

 この物語はそれで終わらなかった。終わるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……」

 

 少しの静寂の中、うめくような、弱々しい声が聞こえた。

 

「あああぁぁ……」

 

 その声は、次第に大きくなり

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁ……」

 

 その声は、悲しみや、憎しみや、後悔、そんな感情をごちゃごちゃに混ぜ込んで

 

「ああぁアァぁぁあっぁぁァぁぁっぁあアアあぁぁァアぁぁっ!!」

 

 その声は、フランの叫びとなった。

 フランの体からはおぞましいほどの妖気が漂っていた。いや、あれは殺気か。どちらにせよ……今のフランはやばい。フランは霊夢を見据えていた。その目が合ったものすべてを殺してしまいそうな眼光で霊夢を睨んでいた。……てか、なんかいやに冷静だな俺。あれほど望んでいた異変が、終わってしまったというのに。だがそれも仕方がないか。その異変の原因である存在がもはやここにいるのだから。

 

「白滝さん」

 

 不意に美鈴が訪ねてくる。

 

「なんだ」

 

「フラン様は…どうなさったんですか?」

 

「…狂気に囚われた」

 

「狂気?」

 

 十六夜さんが俺の言葉を繰り返す。……そう狂気。今のフランはまさにそれだ。

 

「自分の姉を目の前で殺されてしまったんだ。あんな状態になっても不思議はない」

 

「殺されたって……弾幕ごっこだからレミリア様は死んでませんよ?」

 

「そうだな。レミリア様は殺されてない。ただ魔力ダメージを食らいすぎて気絶してるだけだろう」

 

「じゃあ白滝、あなたなんでお嬢様は殺されただなんて…」

 

「殺されたことになってしまったんだよ、フランの中では」

 

「え?」

 

「どういうこと?」

 

「言葉通りさ。フランの中では、今自分の姉があの紅白の女に殺されたことになってるのさ」

 

 そう。フランの中では、レミリア様は、死んだ。

 

「フランは五十年近く祠に封印されていたんだ。……スペルカードルールなんて知るわけがない」

 

「あっ…」

 

「なるほど…ね」

 

 そういうことだ。スペルカードルールを知らない。つまり今幻想郷で主流になりつつある「争いごとを誰も死ぬことのない弾幕ごっこで解決する」という概念すらも知らないのだ。この概念を作ったのはほかならぬ博麗霊夢だからな。つまりはそういうことだ。

 

「それなら、今すぐフラン様にそのことを伝えなくては!」

 

 美鈴はおもむろに立ち上がり、駆け出そうとした。俺はそれを全力で止める。

 

「やめろ! 今のフランは危険すぎる! うかつに近づくのはやばい! それに、今伝えても聞く耳を持たない!」

 

 狂気に囚われたのだ。きっとそんなことを言っても信用されないし、まずもって聞く耳すら持たないだろう。言葉は伝わらなくては意味がない。

 

「でも、それじゃあ…っ」

 

「! 妹様が!」

 

 十六夜さんが指をさす。その方向では、フランが……フランが霊夢に向かって突撃を仕掛けようとしていた。

 

「よくも……よくもお姉様をおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 霊夢にフランは殴りかかった。霊夢も不意を突かれたようで回避行動がとれていない。

 

「くっ!」

 

 いったん霊夢は体勢を整えるべく弾幕を放ちながらフランから距離をとる。だがフランは放たれた弾幕をもろともせず霊夢に突っ込んでいく。……あれはもう、姉の仇をとる、つまり霊夢を殺すことしか考えていない、そんな様子だ。何か、いやな胸騒ぎがする。これじゃ…このままじゃだめだ!

 

「くそっ!」

 

「白滝さん!?」

 

「あなた、自分でダメって言っておきながら!」

 

「俺は大丈夫なんです! 俺は…死にませんから」

 

 俺は二人に微笑んで、フランと霊夢の元に走り出した。なんとかしてフランを止めなくては! このままでは、あの力を使ってしまう!

 

「ああぁぁぁぁああああぁっぁああっ!」

 

 フランは手を振り回し、ひっかくように霊夢に攻撃する。

 だが体勢の整った霊夢は何でもないようにステップを繰り返し、これを避ける。はじめ慌てた様子の霊夢だったが、今はもう、フランを敵として認識し対応しているようだ、そう思う。

 …問題はフランだ。完全に狂気にとらわれている。霊夢を完全に殺しにかかっている。

 くそっ! 距離がある! フランがあの力を使う前に行かなくては!

 

「殺すっ! 殺すっ! 殺すっ!」

 

 おもむろにフランがバックステップで距離をとり、勢いをつけて飛び一気に霊夢との間を詰める。フランの指がまっすぐに伸びていて、まるで槍の刃先のようだ。

 だが、その行動にも霊夢は焦りを見せなかった。フランの手による突きを回転するように回避し、命中しなかったことでバランスを崩したフランの背中に、回転の勢いのまま裏拳を入れた。フランは地面に顔面から叩き付けられ、その勢いのまま転がり飛んだ。

 

「ぐうぅぅぅ…」

 

 今のはかなりのダメージが入ったように思われる。だがフランは唸りながらも立ちあがり……あっあれはやばい! フランが右の掌を開いて、霊夢に向けた! あの力を使うつもりだ!

 だが、霊夢がフランを吹き飛ばした方向の助けもあって、今俺はフランの元にたどり着いた。

 

「フランやめろ! それだけは使うな!」

 

 俺はフランを後ろから羽交い絞めにした。特にあの力を使う右手を抑える。

 フランは、俺のその手を振りほどこうとする。

 

「邪魔をしないで! 白滝さん! そいつ殺せない!」

 

「だめだ! それで霊夢を殺したって、なんにもならないぞ!」

 

 そう、霊夢を殺しても…恨みの狂気に任せて殺しても、何も生まれない。ただ憎しみが続くのみだ。よくある漫画とかのベタな常套句だ。だがゆえに真実でもある。むしろ霊夢を、というより博麗の巫女が死んだら、幻想郷に悪影響が出るのは予想ができる。

 前を見る。霊夢がこちらに向かって突っ込んできていた。俺が捕まえている間に攻撃しようという考えか!

 だが俺が気づいたということはフランも気づくのは当たり前で、フランの視線が俺から霊夢に移る。

 

「ああぁああぁっ!」

 

「なっ…ぐぅ…ぐあぁぁ!」

 

 ありったけの力を込めたが、フランに振りほどかれ俺は飛ばされた。だめだ、幾ら幼い女の子でも吸血鬼。力では勝てないかっ。

……だが、なによりも悔しかったのは、俺の声がフランに全く届かなかったことだ。正直、ちょっとした期待があったのだ。あれだけ一緒にいた俺が全力で止めて、声をかければ、フランも止めるんじゃないかって。」正気に戻るんじゃないかって。……だが、結果はこれだ。俺が今まで積み重ねてきたことすべてが意味のないことだったんじゃないかと、そう思いだしてしまったくらいだ。……だがっ! ここで諦めるわけにはいかない!

 フランが右手を上げる。だが霊夢は接近をやめない。きっと霊夢はフランのあの力を知らないのだ。あの……すべての元凶と言っても過言ではない「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」。あの能力を知らないから、突っ込んできているに違いない。この力の前では自殺行為だ。

 フランが掌を開いた。どうする……力では勝てない、それはさっき実証された。ならもうあの力を発動させることは止めようがない。だがここで霊夢を失うことは非常に悪い。もしもこのままフランが狂気のまま暴走し始めたら、今ここに止められる存在がいなくなるからだ。それは非常にまずい。もうそうなると、フランを救えなくなる。なら……俺にできることは、一つしかないじゃないか!

 

「きゅっとして――」

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 フランが掌を閉じようとしたその時、俺は両手を広げて霊夢を守るように、フランに立ちふさがった。

俺はフランのこの力の設定を思い出したのだ。フランには、すべてのものに「目」というものが見え、その目を掌の中にきゅっとして、どかーんすることでそのものを壊すという設定を。だから俺はフランが掌を閉じてしまう前に霊夢の前に立ったのだ。霊夢に見える「目」を俺に見える「目」にすり替えるために。これは東方projectの設定で、この世界のフランはどうなのかわからない。だがかけてみる価値はある!

 

俺が立ちふさがった時、フランは驚いたような表情を見せた。……なぜだろう、どうしてそんな表情を? 狂気になっているのならば、俺なんか気にしないはずなのに。

フランはなぜか戸惑っているように見えた。焦っているように見えた。だが、一度閉じられた掌は、開くことしか許されておらず。

 

フランが掌を開いた瞬間、

 

 

俺の右腕が、爆ぜた。

 

 

 飛び散る血しぶき。視界に入る吹き飛んだ右腕。なぜかすべてがスローモーションに見え、そして……痛みがやってきた。

 

「ぐがああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 今まで感じたこともないような痛みが俺を襲う。今まではなまじ致命傷すぎてすぐ気絶したから痛みなぞほとんどなかったが、今はそうもいかなかった。

 

「ぐっ…ぐあ……はぁ…はぁ…」

 

 いかん、息ができないほどに痛い。なんというか痛みを通り越して熱い。マグマの中に手を突っ込んでるかのようだ。再生するとはいえ、それまでこの痛みに耐えねばならないと考えると、気が遠くなる。というか、まず再生するよな? いつも腹に大穴開いても再生してるんだから大丈夫だよな? いかん、痛みが強すぎて逆に冷静になってきた。

 

「つぐぅ……がはっ……あ、があぁ……」

 

 ついに俺は痛みによって立っていられなくなった。そのまま、一応右手を庇いながら地面に沈む。目の前に広がるのは天井だ。

 遠くから「白滝さん!」「白滝!」と俺を呼ぶ声が聞こえる。声から察するに美鈴と十六夜さんだろう。俺を心配してくれるのか…うれしいねぇ。

 

 ふと一つの声が聞こえてきた。その声は、美鈴のものでもなく十六夜さんのものでものでもなかった。

 

「白滝さん!」

 

 ……? この声は…はて、誰の声だ?

 

「白滝さん! 白滝さん!」

 

 ……フラン? フランなのか?

 

「白滝さん! どうして…どうしてあんなことしたの!」

 

 それはこっちのセリフだ。狂気で支配されているお前が、どうして俺の元に駆け付けて…どうして俺の顔を覗き込んで…どうして俺の名前を呼ぶ?

 

「私は…そいつを殺したかっただけなのに…っ! ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 フラン…お前はどうして謝っている? どうしてお前は…泣いている?

 ふと、考えた。フランは…どこも狂ってはいないのではないか? 狂気なぞ、俺の勝手な勘違いではないのか?

 よく考えたら、自分の姉が殺されて、その犯人を殺したいと思うのは妹として当たり前の心理ではないのか? フランはただ、精神が幼くその感情を抑えきれなかったというだけで、当たり前のことだったのではないか? 特にフランは家族がいなくなる「変化」というものに恐怖心を抱いていた。そのことがさらに歯止めをかけられない事態につながっている。それに、もしも狂ってしまっているのであれば、俺がフランを羽交い絞めにしたとき、「邪魔しないで」なぞいわず、無理やり引きはがしたのではないか? 俺に視線を向けず話も聞かなかったのではないか?

 ……なんてこった。俺はまた…また間違えたのか。前と同じように、勝手にフランと狂気とをイコールさせてしまったのか。…情けない。あの時の反省は何だったのか。何も学習してはいないじゃないか! このことに気づいていれば……

 後悔や反省は後でいい。そんなものあとでいくらでもできる。今はこのぐしゃぐしゃに泣いてる子の頭を撫でてやろう。そして「お前の姉は生きているぞ」と伝えてやればいい。フランが狂気でないと分かった今ならそれができる。それで……終わる。

 

 俺はフランの頭を撫でてやろうと、全身に走る激痛に耐えながら左手をフランの頭に伸ばした。

 

 だが、その手がフランに届くことはなかった。

 

 フランの体が浮きあがったのだ。一瞬俺はどういうことか理解が追い付かなかった。フランの顔は先ほどまで俺の目の前にあったのに、気づけばフランの体が見えるばかりだ。どういうことだ?

 視野を広げようと少し頭を上げた時、俺は驚くべきものを目にした。

 

 霊夢が、フランの首を締め、持ち上げていたのである。

 

「なっ……なに…を」

 

 信じれない光景に、俺は驚きを隠せなかった。フランはもがき苦しんでいる。どういうことだこれは? 霊夢は…何をやっているんだ…!?

 霊夢はまるで俺の心を読んだように、こちらに目線を向けることなく口を開く。

 

「前に言ったわよね、白滝。もしもこの子が幻想郷のパワーバランスを崩すようであれば、殺すと」

 

 霊夢の言葉は至極淡々としていた。…いつもの霊夢とはまた違う。もっと恐ろしいもののように感じる。

 霊夢の言葉を思い返す。あれはフランを封印の祠から連れ出したとき言われたセリフだったと記憶している。でも今、どうしてそんなことを…?

 ……まて。まてまてまて! まさかっ!

 

「今のこの子の様子と、この力を見て、判断したわ。狂ったように私を殺しに来る、それにありとあらゆるものを破壊する力。たとえ距離があっても、相手の姿さえ見えれば、その体を壊す力……初めて目の当たりにしてやっとわかったわ。この子は…このまま存在していたら、いずれ幻想郷のバランスを壊すことになる」

 

 霊夢はあの力のことを知っていたのか。知っていたにもかかわらずフランに突撃したっていうのか。その力を見定めるために。まぁその可能性もあるとは考えていた…が。

だが…そんな……だからって…

 

「だから…フランを殺すって…いうのか!」

 

「ええ、そうよ。幻想郷のパワーバランスは、最重要事項。驚異的な力を持つものは、存在するだけでも幻想郷という絶妙なバランスを崩しかねない。……もしもそのバランスが崩れた時、最悪幻想郷が滅亡するわ」

 

 ……正直、反論はできない。どれをとっても正論だ。スペルカードルールが完全普及しつつある今、相手を殺すことがたやすいフランのこの能力は驚異以外の何物でもない、というか「殺さないためのスペルカードルール」というもののイレギュラーナンバーだ。霊夢の言っていることの理解はできる。……だが、納得はできない!

 

「お前も…フランがずっと封印されていたことを知っているだろう…?」

 

「ええ」

 

「なら……もう少し…ぐっ……もう少しでも、生きていてほしいとか……思わねえのかよ!」

 

「……思わない…わ。これが私の使命。博麗の巫女の使命。そんな同情とかいう私情で、幻想郷に影響のある危険なものを見逃すわけにはいかないのよ」

 

 霊夢は後半、吐き捨てるように言った。それがなぜだか俺には分からなかった。

 くそ! まだ諦めれねえ!

 

「それなら……殺すんじゃなく…封印するっていう手はないのかよ…っ!」

 

 そう、封印する。そうすればフランの脅威はなくなるわけだし、殺さずに済む!

 

「どうせあんたのことだから、封印したらしたで、封印を解除する方法を模索しだすんでしょ?」

 

「!?」

 

「あんたがやらなくても、この紅魔館の誰かがやるって予想ができるわ。それじゃあ…何の解決にもならないのよ」

 

 だめだ! 俺の手の内がばれていた! 霊夢の言った通り、俺はいったん封印させてこっそり封印を解こうとか考えていた。くそっ!

 どう説き伏せたらいいのだろうか、どう霊夢を止めたらいいのだろうか、どうフランを救ったらいいのだろうか……だめだ、もはや意識がぼうっとしてきて…考えることもままならなくなってきた。出血が激しい、もはや血の池みたいだ。そろそろ多量出血でやばいかもしれない。

 シャキン、という音がした。あまり聞いたことのない音だ。その音の発生源である霊夢を見る。その手には大きな針のようなものが怪しく光っていた。……あれが、封魔針と呼ばれるものなのだろう。霊夢がゲーム内で前方集中装備で標準弾幕として使っているあれだ。だが俺の知っている封魔針と違うのは……弾幕のための封魔針ではなく、「妖怪を殺し、退治するための封魔針」であるということだ。どうして殺すためのものかわかるかって? そんなこと……今の霊夢の様子から、霊夢のあの目から、分かりたくなくても分かっちまうんだよ。

 俺の体はもはや全く動こうとはしない。いや動かせない。出血の影響か…っ

 霊夢が封魔針を構えた。やばいやばいやばいやばい、早く止めないとフランが! だが俺の体は動かない。美鈴、十六夜さんも走ってきているようだが…遠い。俺はありったけの力を込めて叫ぶ。

 

「やめろ…やめろぉお!」

 

 俺の声は……むなしく響くだけだった。俺にはまったく見向きもせず、霊夢が封魔針を

フランに刺そうとした。フランの顔に戦慄が走る。

 

 俺は……フランを救えないのか…。情けねぇ…女の子一人の命も守れないとは……だがもう手立てがない。霊夢を止めることはできない。

 

 諦めかけた。その時だった。

 

 

「これ以上、私の妹をいじめないでくれるかしら」

 

 

 声がした。霊夢の動きが、フランに封魔針が刺さる寸でのところで止まった。

……その声は、期待していた、信用していた、信頼していた、待ち望んでいた、その人の声だった。

 

「レミリア…様…」

 

「白滝、その情けない恰好はなに? 元とはいえ、あなたは紅魔館の執事なのよ? プライドを持ってほしいものね」

 

 レミリア様は腕を組みながら、いつものように、カリスマたっぷりに立っていた。まったく、いつものように無茶を言ってくださる……あぁ……待っていましたよ。レミリア様!

 

「お姉…様ぁ…」

 

 フランが今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「……夢想封印をもろで喰らって、こんな短時間で起き上がった奴は久しぶりよ」

 

「当たり前よ。私を誰だと思っているのかしら。怪異の王と謳われた吸血鬼一族の長、レミリア・スカーレットよ?」

 

 霊夢の皮肉めいた言葉に、レミリア様は高らかに笑うように答えた。瞬間、霊夢は何かに気づき、苦虫をつぶしたような顔をした。

 

「あんたが途中から意識を取り戻していたのはわかっていた。でも、全く動こうとしなかったのは……ここぞというときのための体力を貯めていた?」

 

「ええ、そうよ」

 

 レミリア様がゆっくりと霊夢に近づく。だが霊夢も動ずることなく、そのままフランを持ち上げているままの体勢を維持している。

 

「フラン」

 

 レミリア様が、フランに声をかけた。

 

「おっ…ぐしゅ…お姉様…」

 

 フランの目に、涙が見えた。無理もない、死んでいたと思った姉が生きていたのだから。

 

「お姉様…生きてた……お姉様ぁ!」

 

 フランがさっきよりも激しくもがいた。霊夢の腕がさっきよりも大きく動く。急のことでフランの動きに対応できていないのだ。俺は、今が霊夢の手からフランを脱出させるチャンスだと直感で感じた。今が好機!

 

「うおおおぉぉぉぉ!」

 

俺は右の腕からくる激痛を涙目になりながら堪え立ち上がり、霊夢の腕にタックルを喰らわせた。

 予想通り、霊夢の腕は大きく軋み、フランを解放した。フランはすぐさまレミリア様の元に走り、思いっきり抱き付いた。

 

「お姉様っ…お姉様っ…お姉様っ!」

 

「フランっ!」

 

 レミリア様もフランをしっかり受け止め、ぎゅっと抱きしめた。二人の…何十年もの間引き裂かれてきた二人の姉妹が、今、やっと、心の底から再会できたのだ。実に感動的である。……だが、今は素直に喜べない。大きな問題はまだ解決の糸口すら見せていないのだから。

 

「白滝っ…」

 

「へへっ、いっちょかましてやったぜ」

 

 俺は睨む霊夢に、笑みを浮かべてやった。だが内心では、もはや死にそうであった。先ほどのタックルの衝撃が右手にわたり、痛みがさらに増してきたからだ。……正直、いつ倒れてもおかしくはなかったと思う。もう気合いの問題だった。

 ……なんだ? 理由はわからないが妙に霊夢が動揺しているようだった。俺がタックルしたからか? それとも、そのタックルごときで手を放してしまった自分への動揺か? なにかはわからないが、これもまた…好機ではないか? さっきまでの霊夢は、レミリア様を倒し、フランを殺すことだけを考えていたように思えた。だが今は違う。なにか雰囲気が霊夢にいつもの戻ったような、そんな感じ。今なら……俺の話をもう一度聞いてくれるんじゃないか?

 

「霊夢!」

 

 俺は霊夢の名を叫んだ。霊夢はゆっくりと俺のほうを見る。

 

「なにかしら?」

 

 よし、やはり聞く耳を持ってくれそうだ。……俺はもう、いつ倒れるかわからない。いつ意識がなくなるかわからない状態だと自分で気づいていた。この出血量だ、そればかりは仕方がない。ならば、いつ倒れてもいいように、悔いを残さないようにしなければならない! 全力を尽くさなくてはならない!

 俺は、もう一度、俺の気持ちを霊夢に思いきりぶつける!

 

「霊夢、もう一度だ。もう一度だけ俺の声を…俺の願いを聞いてくれ! フランは、ずっと独りで閉じ込められていた。愛情がいくら欲しくても、それをくれる相手すらいなかった。そんなフランが、やっと今幸せになれる時がきたんだよ! ……それなのに、こんなのあんまりじゃないか! 頼む! フランを殺さないでくれ。フランを暴走なんて絶対させない。幻想郷にも害を与えさせない。俺が命に代えてもそんなことさせない! だから頼む! ……フランに…フランに幸せを、与えさせてやってくれ…っ」

 

 俺は頭を下げて霊夢に懇願した。これが今俺が伝えたいすべてのことだ。これで霊夢がわかってくれることを信じるしかない。

 だが、霊夢は頑なだった。

 

「何度言われようとこの意志は変えられないわ。……殺す殺さないじゃない、殺さなくちゃいけないのよ! 幻想郷に危険になる可能性があるというだけで、理由は十分なのよ。幻想郷を守るため…私は…!」

 

 霊夢はなぜか苦虫をつぶしたような顔をした。そして、霊夢の言葉にフランはビクッと反応してレミリア様にさらにしがみつくように見えた。

だめだ、霊夢の決意は固い。ここまでいっても駄目だとは……

俺の心が折れ、諦めかけてしまったその時、ありえない言葉が耳に飛び込んできた。

 

「なら……フランの代わりに私を殺しなさい。霊夢」

 

 その言葉を発したのは、レミリア様だった。レミリア様はまっすぐ霊夢をみつめている。なっ何を馬鹿なことを!、レミリア様は!

 

「なっ何を言っているのお姉様!」

 

 フランは驚きを隠せず、レミリア様にしがみついて涙をボロボロ流す。当たり前だ、自分の姉が自分の代わりに死ぬと言い出しているのだ驚かないわけがない。

 だが驚いていたのはフランだけではないようだ。霊夢が一瞬目を丸くしたことを俺は見逃さなかった。

 

「……どういうこと? あんたはその子の代わりにはならない。それにあんたを殺したって何の意味もない。ただの無駄死によ」

 

「わかっているわ、そんなこと。……でも、フランが死んで、それでも私は生きるなんて……できないのよ。私だけがのうのうと生きるなんてできないのよ!」

 

 レミリア様が叫んだ。レミリア様が、こんな風に叫ぶのは初めて見た。失礼かもしれないが……誰かを思いやって、心の底からの気持ちを叫んだレミリア様を初めて見たのだ。

 

「フランが……自分の妹がたった一人で暗闇に閉じ込められているとき、私は何も考えず生きていたわ。今周りにある幸せをただただ享受して生きてきたわ…フランのことを忘れてしまうほどに。……だから、次に生きるべきなのはフランなの。フランが幸せになる番なのよ! これ以上…っ!フランを、苦しませたくない……」

 

 レミリア様は、泣いていた。自分の気持ちも、思いを素直にすべて吐き出して…そして心の底から流れる涙がそこにはあった。レミリア様は…フランのことが大好きなのだ。それはきっと、記憶とかそんなちゃちなものに囚われる感情ではないのだろう。記憶がなくなっても体は覚えているし…『心』は覚えている。今の言葉は、真にレミリア様の心の言葉なのだろう。

 そしてレミリア様は、霊夢に、頭を下げた。

 

「だから……お願いよ、霊夢。私を…フランの代わりに私を殺し――」

 

「そんなの嫌だよぉ! お姉様!」

 

「っ! フラン……」

 

 フランが、まるでレミリア様が言わんとすることをわざと言わせないように遮った。フランの顔は…もう涙でくしゃくしゃだった。

 

「お姉様がいないのなんて絶対やだよぉ! フランはお姉様と一緒いたいの! お姉様と一緒にご飯食べたいの! お姉様と一緒にお風呂入りたいの! お姉様と一緒に遊びたいの! お姉様と一緒に……一緒に……なのに、お姉様が死んじゃったら、フランどうしたらいいの…?」

 

 フランは顔をレミリア様の胸に押し付けて、泣きながらそう叫んだ。フランにとっては、レミリア様は、唯一の肉親であり、一番心を許した存在だ。そんな存在が消えてしまうのはあまりに酷すぎる。

 ぼろぼろぼろぼろと大粒の涙を流してレミリア様に抱き付きながら泣くフランを、レミリア様は自身も泣きながら、でも微笑みながら優しく撫でる。

 

「わがままな子は嫌いよ? フラン。あなたには、生きる権利があるのよ」

 

「そんな権利いらない! お姉様にも…お姉様にも嫌われたっていいもん……でも、それでも、お姉様と一緒にいたいの……お姉様と一緒にいたいよぉ!」

 

「フラン……フランっ!」

 

「お姉様ぁ!」

 

 二人は強く抱きしめあった。フランは顔をくしゃくしゃにして泣き、レミリア様は静かにだが大粒の涙を流している。二人とも、お互いが、お互いを愛しているのだ。今やっと、二人はお互いの気持ちを認識しあったのだ。なんと酷なことか。今にフランは…殺される運命だというのに。何とか……何とかできないのか!

 

 

 

 

 

「……あー、もう。これじゃまるで私が悪者みたいじゃない」

 

 

 

 

 

 俺は、霊夢のため息と同時にでたそんな呟きを聞き逃さなかった。

 霊夢がもう一度大きなため息をついた。そして、抱きしめあう二人に、こう言ったのであった。

 

 

「はぁ……私の負けよ、レミリア・スカーレット、。それにフランドール・スカーレット」

 

 

 ……? どういうことだ? 負け? 霊夢の負け?

 俺のその気持ちを代弁するかのように、レミリア様が涙声で問いかける。

 

「どういう…こと?」

 

 霊夢はもう一度ため息をついて答える。

 

「フランドール・スカーレットのことは見逃すことにする。そう言ったら理解できるかしら?」

 

 !? なっ! 本当にか!

 フランが恐る恐るといった感じで霊夢に尋ねた。

 

「…本当に?」

 

「ええ」

 

「本当の本当に?」

 

「そういってるでしょ」

 

「ほんとのほんとの本当に?」

 

「どれだけ信用ないのよ。本当よ。私は負けたわ、あんたたちの姉妹愛に、ね。ただし、異変自体は私の勝ちよ。すぐにあの紅霧をなくすこと、いいわね?」

 

「ええ…ええっ! フランの命に比べれば、それくらい…っ!」

 

「やった……やった! やったよお姉様! フラン、またお姉様と一緒に暮らせるんだ!」

 

「そうよフラン! もうあなたを一人なんかにしない! ……一緒よ、ずっと一緒」

 

「うん! お姉様!」

 

 二人は涙でくしゃくしゃになった…でも眩しいくらいの笑顔で抱きしめあった。涙もさっきの涙とは違う。嬉し泣き、に近いものだろう。なんと…なんと素晴らしき、美しき姉妹愛か。これだけ……二人のこの姿を見ただけで、今までの努力が報われた。良かった…本当によかった…。

 美鈴も涙目で二人を見守り、十六夜さんもいつもの無感情そうな表情とは打って変わって、にこりと微笑んでいる。

 だが、一つだけ腑に落ちない、というか気にかかることがある。フランのあの力に関しては何一つ解決していないのに、なぜ霊夢は見逃すことにしたのだろうか。俺は痛む体にムチ打って聞くことにする。

 

「なぁ…霊夢…」

 

「なに?」

 

「どうして…フランを殺すことを諦めたんだ? 姉妹愛なんて…感情的な都合でしかないだろ。…いいのか? パワーバランスの問題は」

 

「あんた、あれだけ人に頼んどいて…フランドールが助かってうれしくないの?」

 

「うれしいさ…そりゃうれしい。もう…逆立ちしながら幻想郷一周するくらいうれしいさっ!」

 

「やめときなさい」

 

「でも…それと同時に、幻想郷を案じているのも本当なんだよ。幻想郷が滅亡なんて…笑えないからな」

 

「そうね。あの子が、私を殺さなかったからかしら」

 

「殺さなかった?」

 

 どういうことだ?

 

「あんたが邪魔して、フランが私の手から離れた時あったでしょ?」

 

「ああ」

 

「あの時、私はスキだらけだったはず。でもあの子は私を攻撃しようとなんてしなかった。私なんか無視して、自分の姉のところに走って行ったわ。なんとうか、それで興ざめというか……ね」

 

 ……なるほど。確かにあの時フランは霊夢なんか見向きもせずにレミリア様に駆け寄ったな。本当に霊夢のことが憎くて、狂気に任せて殺そうとしていたならば、あのスキを逃すことはなっただろう。

 

「それに…」

 

 霊夢はそう続けた。疑問に思った俺は素直に聞くことにする。

 

「それに?」

 

 俺がそう霊夢に尋ねると、霊夢は俺から視線を外し、別に移す。その視線の先には、今もなお笑顔でお互いを抱きしめあうレミリア様とフランの姿があった。

 

「……あんなにも」

 

「ん?」

 

「あんなにも、幸せそうに、でも涙を流して姉を想うあの子が、パワーバランスを崩すような行動をとるなんて、思えなくなったのよ」

 

 ……ああ、なるほど。それならば理解ができるし、納得もした。まぁとはいえ、さっきまでの雰囲気の霊夢だったらば、もしもフランが幻想郷に本気で危害を加えようとしたならば、なんの遠慮もなくフランを殺すだろう。霊夢は今回のことで、そこに境界線をひいたということだ。

 

 ま、難しいことは後で考えればいい。今は、この……二人のスカーレットの名を背負う者の、この笑顔を胸に刻んでおこう。

 

俺がフランの存在を知ってから、ずっと……ずっと……ずっと願っていた光景が、今目の前に広がっているのだ。なんと嬉しく、なんと幸せなことか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今ここに、俺たちの起こした紅霧異変は、

 

最高に感動的なフィナーレを迎え、

 

真に幕を、閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せをかみしめた瞬間、いきなり俺の体に力が入らなくなって、まるで糸の切れた操り人形のように地面に倒れこんだ。

……さすがに、限界が来たようだ。自分で言うのもなんだが、ほとんど気合いで立っていたようなものだったからな。もはや感覚がマヒして痛みは感じないが…出血が多すぎたのだろう。

 ずっと朦朧としていて気合いだけで何とかしていた意識も、もう気を抜けば一瞬で切れてしまいそうだった。

遠くから声が聞こえる。俺の名前を呼んでいるような……でもそうじゃないような。だめだ、もう耳までバカになってしまった。

 

 …もしかしたら死ぬかもしれない、そんなことを考えてしまう。でも今の俺は満足していた。もっとたくさん東方projectのキャラクターたちに会いたいとかいう若干の後悔は感じるが……でも、あの二人の、レミリア様とフランの笑顔を見ていたら…満足だった。このまま死んでも、悔いはないと思えてしまうのだった。

 

俺はゆっくりと目を閉じた。そして最後にもう一度、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの素晴らしい姉妹の笑顔を思い出しながら……

 

 

 

俺は意識を手放したのだった――

 

 

 

 

 





お疲れ様でした! そして見てくださりありがとうございます!

壮絶なハッピーエンドで終わりましたね!(笑)
でも自分としては書きたいようにかけたので満足です。
やっぱり最後はみんな幸せにならないと!

さて、これにて長きにわたった紅霧異変は終了となります!
本当に読んでくださり、ありがとうございました。
前書きで書いたあと一話というのは、後日談+異変終了後の宴会の模様を描きたいと思っています。ですが白滝は……おっとこれ以上はいえねぇな。
その話にて、紅魔館編も終了となる予定です。お楽しみに!

さて気づいた方もいらっしゃると思いますが……この話、異常に長くなってしまいました(笑)
いつもは1万~1万5千文字ぐらいなんですが、今回2万5千文字という…頑張りすぎですよ私!
でも、これを読んで少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです!

感想、誤字脱字指摘待ってます。こんな長ったらしい話にも感想をしてくださる読者様はもはや僕にとって神です。崇める存在です。

さてさて、前書きで書いたお知らせですが

実は僕トーレが、ニコニコミュニティを作りました! いえーい! まだまだ新参ものですがな!
XBOX360を主とした実況や艦これ実況、マイクラ実況などを生放送+投稿していくつもりです!

ぜひ興味上がる方は覗いていただいて、お気に召しましたら、メンバーになってくれると嬉しいです!(チラチラッ)

ユーザー名 トーレ  コミュ名 トーレと言ふべきにもあらず!
URL http://com.nicovideo.jp/community/co2396453

(もしもこういう宣伝が駄目ならすぐに修正しますのでおしえてください)

あと、Twitterも始めました!
上記のニコ生の配信開始お知らせや、この小説の執筆状況などをお知らせするものになっております! こちらもぜひぜひ

ID @tre_0825

次回は後日談+宴会の明るく楽しい話を計画しております

ではでは、次話でお会いしましょう! グッバー!
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