東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!
えっとこさ大学における我が部活、演劇部の公演会が終わりを告げたトーレでございます!
これでやっと羽を広げれるぜイェイ!

投稿遅れてすみませんでした。今も言いましたが、部活の兼ね合い上全然気力が湧かなかったんです……

これからはいっぺんに長い話を投稿するという形より
短く区切って早く投稿するという形にしていこうかなと思います。

さてさて本編。白滝が紅魔館を離れた一日目の話となります。
白滝の運命やいかに!


ではどうぞ!温かい目で見ていってね!


第二十六話 ~新たなる出会い~

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります、上白沢先生。私は、白滝というものです。以後お見知りおきください」

 

「丁寧にありがとう。私が上白沢慧音だ。今後ともよろしく頼む」

 

 俺のあいさつにそう返し、微笑みを見せてくれているこの美人なお方こそが、上白沢慧音その人である。あぁ…やっと巡り会えた。できればもっと早く……具体的には俺が幻想入りして霊夢の元を離れ人里にやってきた時ぐらいに巡り合いたかった。だがそれも過ぎた話、今は憧れの女教師、もとい上白沢先生に会えたことを感謝しよう。

 

 上白沢慧音。原作で言えば知識と歴史の半獣の二つ名を持つ、ワーハクタクである。勘違いしてほしくないのは、彼女は後天的な半人半獣なだけであって、人間と妖怪のハーフというわけではない。まぁそこは関係ないか。

 この世界の上白沢先生は、内面はまだわからないが、外見で言えば原作のそれと同じでああった。青のメッシュが入った銀髪。特徴的な帽子。青色で上下の一体化している服。何より美人。ここポイントね、美人。うん、予想通りの上白沢先生で安心した。

 

 今俺は、上白沢先生に案内された客間にて正座している。あの服屋の主人に先生のことを話した後、なんとそのまま上白沢先生の寺子屋に案内してくれたのだ。日も暮れ夜と呼べる時間になっており、もうお休みになられているかもしれないから半分はダメ元だったが、先生は快く俺を家に挙げてくれたというわけだ。ありがとう先生、ありがとう服屋のご主人!

 ちなみに、上白沢先生の家と寺小屋は一体化していて、兼用みたいなものなんだって。

 さて俺が感謝の気持ちを噛みしめていると、ふいに上白沢先生が口を開く。

 

「ふむ……ほぉなるほど。お前が噂の紅魔館執事の男か」

 

「ふへ? はっはい。よくご存じで」

 

「なに、どこかで見たことある顔だと思ったら、お前の写真が新聞に載っていたことを思い出してな」

 

「新聞…?」

 

「カラス天狗、といったら話が早いか?」

 

「あぁ……なるほどですね」

 

 俺のことを言い当てられた時はめっちゃ驚いた。けど、なるほどそれなら合点がいくな。あの新聞に……射命丸さんがでっち上げた「桃魔館」の新聞には確かに俺がばっちり写った写真乗ってたもんな。……俺、変な方向に有名になってなきゃいいけど。

 っと、その前に、あの新聞を見たということは……うん、勘違いされている可能性が高い。これから藤原妹紅さんを紹介してほしいと頼むのに、もしかして俺があの新聞に載っているままの男、つまり紅魔館住人の誰かに色仕掛けをしそのおかげで紅魔館で働いている男だと思われたら…堪ったもんじゃないな。いやもう新聞にそう書かれたこと自体たまったもんじゃないんだが…今はそこは良い。話がこじれる前に早めに否定しておこう。

 

「えっと…新聞の内容に関してなんですが……」

 

「ん? あぁ、新聞の内容は気にしてはいないから安心してくれ。次の新聞で訂正されていたからな。もとより、あのカラス天狗の新聞など信じるほどのものでもないさ。それに」

 

「それに?」

 

「初対面の相手にあれほど丁寧なあいさつができる者が、そんなことをしているとは思いたくはないからな」

 

「そうですか。よかった…」

 

「その様子を見るに、お前も苦労しているようだな……」

 

「いえいえ、理解されているだけ嬉しいですよ」

 

「まったくあのカラス天狗は……前までは普通の新聞だったというのに、いつから道を踏み外したか」

 

「ははは。我が主も同じようなことを言っていましたよ」

 

 よかった、上白沢先生が常識人でよかった。誤解されていたならばどれだけ面倒くさいことになっていたことか。しかし…自業自得とはいえ、信用されない新聞というのもかわいそうなものだな。

 俺は上白沢先生の入れてくれたお茶をすする。お構いなくとは言ったのだが、客人をもてなすのは当然だと有無を言わせてくれなかった。原作通り、礼儀正しい人だ。どこかの設定で、礼儀知らずは嫌いだったとあった気がしたから、挨拶は俺に似合わず堅苦しく丁寧なものにしたが、うむ、いい結果に出たようだ。……有無を言わせてくれなかったあたり、頑固というか自分がやると決めたことは押し通すというか、失礼ながらそんな感じもした。

 上白沢先生はお茶を一口飲んだ後、ふと何かに気づいたように俺に問いかける。

 

「主で思い出したが、お前紅魔館の仕事はいいのか? お前の主…レミリア・スカーレットとか言ったか、そいつは吸血鬼なのだろう? 吸血鬼ならば、夜のこの時が忙しいのではないのか?」

 

 …さすが先生、そこに気づきますか。

 確かに、先生の言う通り、紅魔館の執事の仕事はレミリア様が起きた夕刻頃から忙しくなると言っても過言ではない。俺のはじめのころは生活リズムに慣れなくて、レミリア様の前で大あくびして咲夜に殺されそうになった覚えがある。あぁ、今となっては懐かしいな。

 俺は少し思案する。正直に「俺はもう執事じゃない」と言うべきかどうすべきか。いや、別にどっちでもいいんだけど、正直に言っておいた方がのちのち助かるかな? ほら、宿の提供とか。

 ということで、素直に話すことにするよ。

 

「あぁ……いやー、実は紅魔館の執事クビになりまして」

 

「なに、クビ?」

 

 ぴくっと先生は反応する。

 

「はい。ちょっと、へましちゃいまして」

 

「ほお…?」

 

 上白沢先生は少し不思議そうに俺の顔を除く。うっ嘘は言ってないぞ?

 なんでほんとのことを言わないんだって? だってなぁ……レミリア様と口論になって勢いで辞職した、なんて言いにくいじゃんか! 特に相手はかの上白沢先生だ。そんな口論ごときで仕事を辞めたなんて絶対俺の事幻滅するに決まってるじゃんか! そんなあのフランに関すること全部話すわけにもいかないしさ……だから、うん、ヘマしただけだと言っておこう。

 少々の間疑問そうな顔をしていた先生だったが、

 

「ふむ、なかなか厳しい職場だったのだな」

 

 と、微妙に曲解した考えで納得してくれた。あー、紅魔館の評価下がっちゃったかな、ちょっと失敗だったか…

 そういや評価で思い出したけど、あの異変での紅魔館への苦情やらなんやら、人里ではほとんどありませんでした。というのも人里の人からすると「紅い霧が消えた」という認識だけで、特に犯人は誰だって考えにはなってないらしい。一応射命丸さんが新聞で伝えまわってたらしいんだけど……今回の慧音先生のように、新聞を信じる人が少なすぎてほとんど意味をなさなかったらしい。オオカミ少年ってやつだ。日ごろから嘘をつくから真実も嘘になってしまう。だが今回はそのおかげで紅魔館への直接的な苦情もなく、俺の個人的な話だが紅魔館執事として肩身が狭いと感じることはほとんどなかった。

 

 上白沢先生は一口茶をすする。それにつられるように俺も茶に口をつけた時、「それで」と先生が口を開いた。

 

「本題に入ろう。私に何の用なんだ? 白滝」

 

「おお、そうでした」

 

 うっかり目的を忘れるところだったぜ。いやー上白沢先生の雰囲気というか、まぁぶっちゃけ先生に会えたことが強すぎて忘れるところだった。

 それに気づいたのか、先生も「おいおい…」と首を振る。いやーごめんなさいね!

 

「上白沢先生、折り入ってお話が――」

 

「慧音でいい」

 

「…ふえ?」

 

「名字は呼びづらいだろう? 慧音でいいさ」

 

 いきなりのそのお誘いに若干戸惑った。いや急にそんなこと言われるなんて思ってもなかったからさ。でも……ふむ、本人がそう言っているのだ。ここはお言葉に甘えて、そう呼ばせてもらおう。

 

「では慧音先生」

 

「先生は無くならないのだな」

 

「ここは譲れません」

 

 『先生』をなくすなんて! そんなアイデンティティをなくすようなこと許されません! 俺からハイテンションを抜くのと同じことですよ! 何が残るっているんですか! 自分で言って悲しくなったよ!

 ため息交じりに「まぁいい。続けてくれ」と慧音先生は言う。俺は、その言葉に頷いて本題を始める。

 

「慧音先生。折り入って話があります」

 

「ああ、なんだ?」

 

 慧音先生がふわっと微笑んで俺を見る。……くっそ綺麗。美し、いやふつくしい。

 っと危ない、心の声があふれんばかりになるところだった。

 

「紹介してほしい人がいるのです」

 

「紹介? ふむ、私はしがない寺子屋の教師だからな…顔が広いというわけではないのだが…」

 

「いえ、きっと慧音先生でなければなかなか難しいかと…」

 

「ふむ? ではそれは誰なんだ?」

 

「はい。……藤原妹紅さんです」

 

「おお、妹紅か。はっはっ、なるほど確かに妹紅と私は共にいることが多いからな」

 

 俺の言った一言に先ほどの微笑みがより一層笑顔になる。……なんかもうそれだけであの二人が仲良しだということが分かった。うん、やっぱりこの二人は仲良くなくてはな。もこけねは神の国。

 

「妹紅ということは……ふむ、察するに永遠亭への道案内か?」

 

「はは、よくお分かりで」

 

「なに、妹紅を紹介してほしいとなると、その型が多いからな。それに、迷いの竹林の道案内は私が言いだしたことでもある。ならばそれくらいわからなくてはな」

 

 慧音先生はそう言って茶を口に含む。型…あぁ、パターンって意味か。しかし道案内は慧音先生が言いだしたことだったのか。確かあれって人里との人の交流を増やすためじゃなかったっけ。そうなると、こちらの世界のもこ……いや、藤原も人見知りが強い子なのだろうか。

 しかし、服屋の主人に続いて、慧音先生にも予想されてしまった。しかも、慧音先生は俺が永遠亭に用事があることまで見抜きよった。さすが寺子屋の先生。…そうなると妹紅が道案内しているのは慧音先生公認の請負業だということだな。これで精神的に頼みやすくなった。

 

「妹紅はいつも日がどっぷり落ちた頃に私に顔を見せに来てくれる。もうそろそろだから、ここでこのまま待っているといい」

 

「そうなんですか。ではお言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

「なに、お礼は道案内をする妹紅に言ってあげてくれ」

 

「そんなわけにもいきませんよ! 慧音先生がいなかったら藤原に会うこともままならなかったでしょうから。お礼ぐらい言わせてください」

 

「……そうか、では素直に受け取っておこう」

 

 慧音先生はふわっと微笑んだ。はぁー、やっぱこの人美人だで。

 だが、その微笑みもつかの間、なぜか険しい表情を慧音先生は見せる。

 

「一つ…忠告だが」

 

「なんです?」

 

「お前はきっと、礼儀心で読んだのだろうがな……妹紅のことは、名字で呼ばず、名前で呼んでやってほしい。あいつは…その…なんだ、名字にいい思いを持っていないからな」

 

「本人は気にしていないと言ってはいるがな」と付け足して呟いた慧音先生の表情は若干暗いものだった。

 妹紅の名字、藤原。公式の設定には言及されていないし不確定要素が多いが、妹紅の父親は藤原氏の初代、藤原不比等ではないかと言われている。これまた確定事項ではないが、その男は竹取物語にてかぐや姫に求婚した皇子ではないかとされている。あとは…お察しの通りだ。あくまでこれは二次設定で広がっただけで公式ではないと付け加えることになるのだが……もし上記のことが本当ならば、藤原という受け継がれてきた名字を嫌うのも無理はないかもしれない。

 慧音先生は幻想郷の歴史を編纂するが故、妹紅の過去を知っているのか。もしかしたらそうなのかもしれない。

 

 だがまぁ、そんな過去のことは俺には関係ない。それに、考えたって仕方のないことだ。それならば、呼ばせてもらおうじゃないか。

 もし名前を呼び捨てして妹紅の機嫌を損ねたとしても俺が土下座でも何でもして機嫌を直してもらえばいい。それだけでいいのだ。

 

「分かりました。では遠慮なく妹紅と」

 

「……理由を聞かないのか?」

 

「あなたの今の、そんな顔をした人から理由なんて聞けませんよ」

 

「白滝…、すまないな」

 

「いえいえ、むしろ名前を呼べるなら本能ですからね!」

 

「…ふふっ、お前は不思議な奴だ」

 

 先ほどの暗い顔から一転。慧音先生は笑顔を見せてくれる。うむうむ。美人の暗い顔を見たくないよ。俺を蔑むような顔なら見たいけどってなんて俺はドM発言をしているんだ!?

 

 …ん? ふと慧音先生が俺の体をまじまじと見ていることに気が付いた。

 

「なっなんです?」

 

「おお、すまない。いやなに、永遠亭に用があるにしては特に外傷はなさそうだし、病気な様にも見えないのでな。不思議に思っただけだ」

 

「ああ、そういうことですか」

 

 もう! もしかして俺に気があるんじゃないか!? とか思っちゃったじゃん! ……あーうん。ごめん、今の俺は自分でも気持ち悪いと思った。

 まぁでも慧音先生が不思議に思うのも仕方ない。なんてったって俺今超元気&健康状態良好だもの。

 

「別に、体が悪いから用があるってわけじゃないんです」

 

「ふむ? では、何用で…」

 

「お礼を言いに、でしょうか」

 

「お礼?」

 

 慧音先生が首をかしげる。なんかわからんが、その様子が可愛らしかった。ほら想像してみてよ! 超美人の女教師がきょとんと首をかしげてるんだよ! 可愛いよ! っとそんな俺の妄想はどうでもよくて。

 

「執事を務めてた時に、ちょっと厄介ごとに巻き込まれまして。その時に負ったケガを、永遠亭の方に治していただいたんです」

 

 …一応ケガの詳細は伏せておこう。右腕が吹き飛んでそれをくっつけてもらった、なんて言う必要なさすぎる。てか俺もいまだに信じれん。今も何事もなく動く俺のこの腕が、一度胴体からおさらばしたなんて。いや、もう思い出さないでおこう。というか思い出したくはない、な。

 俺の説明に慧音先生は「ふむふむ」と頷きを返す。

 

「では今回はそのお礼、ということか」

 

「そういうことです」

 

「……ふふっ」

 

 慧音先生がなぜか俺の顔を見て笑い出した。ん? 可愛いが、どうしたんだろう?

 俺が不思議そうな顔をしていたからだろうか、慧音先生は「いや、すまない」と俺と向き合いなおす。

 

「失礼なことは承知で言うが、お前は能天気そうな雰囲気を纏っているのに、礼儀はしっかりしている。その差が少し面白くてな。なかなかお前のようなやつはいない」

 

 ……あぁ。なるほど。ふむ、確かに否定はできないな。礼儀がしっかりしているかは……自分ではよくわからないが、能天気なのは自覚めっちゃある。ふむ、そう考えると面白い…のかな? でも俺は当たり前のことをしているつもりだし、正直お礼のついでに永遠亭のみんな顔を見たいっていう下心ありありなんだけど。

 

「……お前なら、大丈夫かもな」

 

「?」

 

 不意に慧音先生がぽつりと何かをつぶやいた。俺は疑問に思い、聞くことにする。

 

「なんです?」

 

「あぁ、いやなに、少々お前にお願い事、というかな…」

 

「お願い?」

 

 なんだろ? 俺にできることならどんとこいだけど。

 俺のその意気込みを感じ取ったのか、慧音先生は小さく頷いたようにすると、改めて俺と向き直す。

 

「……こんなこと言えばまた妹紅にお節介だとどやされるだろうから、黙っておいてほしいんだが…」

 

「秘密ですね。了解です」

 

「助かる。それでお願いというのがな」

 

 そこまで言って慧音先生は一つ咳払いをする。

 

「…妹紅の話し相手になってはくれないか?」

 

 ……話し相手?

 

「えっと、それは…」

 

「あぁ言い方が悪かったな。話し相手、というより、積極的に妹紅に話しかけてくれないだろうか。妹紅は、少し人見知りをするやつでな。なかなか人との交流を持とうとしないんだ。あいつ自身は気にしていないと言っているが……私としてはやはり交流を持ってほしい。だからこそ道案内を請け負わせているんだが、あいつ自身がああ言っているなかなかうまくいかなくてな。故に一つお前に協力してほしいんだ」

 

 慧音先生が、どこか遠慮したようにおずおずと俺に聞いてくる。

 

 んーと、整理しよう。まず公式や原作である『東方Project』における藤原妹紅の性格というか人柄を思い出してみる。確か『気が強く、若干やさぐれている。また人見知りで人付き合いも苦手。だが見知った相手には気さくであり、身の上話は喜んで聞いてくれたり』そんな感じのはずだった気がする。記憶が曖昧なんだ、ごめんね! 

 そしてこの状況である。考えるに、この世界の妹紅は原作よりも人見知り、とか人付き合いが苦手、というだろうか。それを見かねた慧音先生が俺に話し相手になってほしい、と頼んでいるという事だろうか。原作のままだったら、得体のしれない俺なんかに頼るほどでもないだろう……でもそう考えても、なんか、何の脈絡のない話だぞ?

 俺のその考えが表情に出たのか、少し慌てたように慧音先生は話す。

 

「いや簡単でないことは知っている。お前と妹紅は顔を合わせたことすらないわけだからな。なかなか難しいと思うが……」

 

 そこまで言って慧音先生は口も紡ぐ。大かた自分で言っていて、事の脈絡のなさに気づきどう言葉を伝えようか悩んでいるといった感じだろう。

 ……話し相手か。いや不服なわけがない。妹紅と仲良くなれるんだ、これほどのチャンスはないだろう。そして、慧音先生がどれほど妹紅のことを考えているのかもわかった。初対面のしかもどこの男かもわからないやつにそんなことを頼むなど、少し暴走気味だがそれでも妹紅のことをどれほど思っているのかは分かった。だが…

 俺が口を開かないままでいると、それに気づいたのか苦笑いを浮かべた慧音先生が取り繕うように言葉を口にする。

 

「いや、すまない、変なことを言ったな。第一初対面のお前にこんなことを話すのがおかしかったんだ。申し訳なかった、今の話忘れて――」

 

「どうして、俺なんです?」

 

「…え?」

 

「俺は、妹紅と会ったこともありませんし、あなたとも初対面です。それにあなたも知っているように俺は人里の人間ではなく、しかも紅魔館で働いていた、そんな普通と違う男です」

 

「…そうだな」

 

 慧音先生はこくんと頷く。自分でも言っているが、あの紅魔館で執事をしていたなんてなかなか稀有な人間だと自分でも思う。だからこそ、そんな馬の骨ともわからない人間に妹紅と仲良くしろという慧音先生の気持ちがわからない。初対面の俺よりも人里の誰か、妹紅よりも面識がある誰かに頼んだ方がいいんじゃないだろうか? 人見知りなら尚更だ。いやもう頼んであって、さらに俺にも頼んでるのかもしれないけどさ。

 そんな考えを持ちながら、俺はもう一度慧音先生に問いかける。

 

「なぜ…俺なんですか?」

 

 俺の問いかけの答えを、何故か慧音先生は少しの笑みを浮かべたような表情で口にした。

 

「答えは簡単だ。お前が一番適任だと思ったからだ」

 

「適任?」

 

「ああ。適任だ。…業務的表現で気を悪くしたのなら謝ろう。私の性なんだ、許してくれ」

 

「いやいや! そんな謝ることじゃないです! それよりも…話の続きを聞かせてください。なぜ俺が適任なんです?」

 

「……そういうところだよ」

 

「へ?」

 

 慧音先生はふふっと笑みをこぼす。俺は訳が分からず?マークを浮かべるばかりだ。

 慧音先生は続ける。

 

「お前は今、私を敬い気を使ってくれただろう? お前はそういう気遣いができる。一番初めのあいさつも丁寧で印象がとてもよかった。私や妹紅のことを名字で呼んだのもお前の気づかいだろう? それに永遠亭に礼を言いに行く件も、普通わざわざ迷いの竹林を超えてまで行こうとは思わんさ」

 

「それは、当然なことであって…」

 

「その当然を、当然と言えるのがお前のいいところだ。私は、お前とは初対面。それなのにお前からそれほどまでの気づかいが見て取れた。人付き合いにとって気遣いはとても重要なことだとは思わないか?」

 

「そりゃ…まぁ」

 

 …いかん、こんな風に褒められるとは思ってなかったから恥ずかしくなってきた。

 そんな俺の気持ちを慧音先生は知ってか知らずか、慧音先生はさらに続ける。

 

「それに、先ほど能天気といったが、お前からはどこか…人懐っこい雰囲気というか、楽天的な雰囲気というか……そうだな、分かりやすく言えば片意地張るのが馬鹿らしくなる雰囲気を感じ取ったんだ。これはあくまでも私の感覚ではあるがな。だが親密な人付き合いをするうえで、心の垣根を取り払えるお前のその雰囲気は、とても素晴らしい物なんだ。特に妹紅は人との間に心の壁を作りやすい。そう考えれば、お前は最適だろう?」

 

 慧音先生がなぜか力説する。初めは冷静に淡々と話していたのだが、なんだか力が入ってきていた。最後とか!マークつくレベルだったよ? どしたの先生?

 少々唖然とする俺を知ってか知らずか、

 

「以上がお前を妹紅の話し相手として適任だという私の考えだ。これでも私は寺子屋の教師。いろいろな人間と関わってきたおかげか、人を見る目はあるつもりだ。自分のこと考えは間違いではないと信じている。故に……どうだろう。私の願いを聞いてくれないか?」

 

 慧音先生はずいっと顔を俺に近づけて、もう一度自分の願いを口にした。その目はまっすぐ俺の目を捕らえている。これは……うん、断れない。まぁ断るつもりもなかったけど。

 

「…そこまで言われたら、断れませんね」

 

「……では?」

 

 俺は姿勢を正し、座ったまま、深々と頭を下げた。

 

「非力ながらそのお役目、全うしたい所存でございます」

 

「本当か! ありがとう、感謝する!」

 

 俺のなぜか意味不明に堅っ苦しい返事も気にせず、慧音先生は笑顔を俺に見せてくれた。…若干予想はしていたけどツッコみは無しか。いやそこはどうでもいい。

 ではこれで、俺は妹紅と堂々と仲良くなれる権利を保護者様(?)から得られたわけだ。これはありがたい!

 さて、ではではと。

 

「でも、さすがに初対面から仲良く話すのは難しいですね…」

 

「ふむ…さすがのお前でもそうなのか…」

 

「いやいや、買いかぶりすぎですよっ」

 

 初対面でどれだけ俺の事買ってくれてるんですか! 人を見る目があるってのは真実だろうけど、そこまで行くとどうなのさ!

 少し、慧音先生はしょぼんとしていた。いやいや、ほんとにどれだけ期待してたの? いや今の慧音先生ちょっと可愛いけど!

 俺はその慧音先生の様子に苦笑いを浮かべつつ、口を開く。

 

「でも俺も妹紅とは仲良くなりたいですから……そうですね、妹紅のことを教えてくれませんか? そうすれば、初対面よりは、ずっと話せるようになると思いますよ」

 

「そう…なのか?」

 

「はい、お任せください!」

 

 俺の胸を張った自信たっぷりの言葉に、慧音先生のしょぼんとした顔から一変、明るい顔になった。

 俺はもうひと押しと、慧音先生に問いかける。

 

「教えていただけますか?」

 

「ああっ、もちろんだ!」

 

 ぱっと笑顔を慧音先生は見せてくれた。うん、やっぱり女の子は笑顔でなくちゃ! …俺とあんまり見た目年齢変わってなさそうだけど、女の子って言い方でいいのかな? いやこの話題はあまり深くかかわらないでおこう。

 明るい表情になった慧音先生はお茶を一口飲むと、少々厳しい表情を作る。

 

「まず理解していてもらいたいことは、妹紅のことを勘違いしないで欲しいということだ。妹紅は少々ガサツな所があったり、無愛想だと思ったりする所がある。だがな、それは決してお前のことが嫌だと思っているわけではないんだ。裏でどうしようとか、なんていえばいいんだろうって考えた結果そういう反応をしてしまうんだ。それをわかっていて欲しい」

 

 …なんか、すごいいっぺんに話された。さっきの俺のことを話した時と言い、今と言い、語ると熱が入っちゃう人なのかな? ていうか慧音さん、妹紅のそんな内面的なこと話していいんですか?

 

「…よく知ってますね、そんな心情的なこと」

 

「前に妹紅に相談を受けたんだよ。つい素気ない態度をとってしまうんだけどどうしよう――っと、しまった。これは妹紅に他人に話すなとくぎを刺されていたんだった……聞かなかったことにしてくれ」

 

「俺のログには何もないな」

 

「ログ? なんのことかは分からないが、まぁいい。妹紅と接する時はその勘違いさえ起こさなければ自然と妹紅の魅力に気づくはずだ。素っ気なくはあるが話はしっかり聞いてくれている。相槌もうってくれるし、時折助言もしてくれる。その助言が的を得ているんだこれが。いわゆる聞き上手というやつだな。私自身妹紅に話を聞いてもらって何度心が楽になったことか」

 

「えっと…慧音先生? ちょっと落ち着いて――」

 

「妹紅の魅力はそれだけじゃないぞ。先ほどはガサツといったが、気遣いもしっかりできるんだ。私が編纂でほっと一息したいときに、温かいお茶をさっと出してくれた時があってな。あの時は本当にうれしかった。道案内の時も口数は少ないが、ちゃんとついてきているか適時確認したり、様子を見て手を貸してくれたりもする。優しいな全く妹紅は」

 

「慧音先生? けーねさん?」

 

「優しいだけじゃない。妹紅は強くもある。迷いの竹林という人間の不安を煽るあの場所で妹紅の強さと炎の灯りはどれだけの安心を与えているのだろうか。想像しただけでも素晴らしい。優しさと強さ、両方兼ね備えている」

 

「……」

 

「しかも、妹紅は外見もいいと思うぞ。私は…その…可愛いやら綺麗やらいう男性の好みなどはよくわからないが、妹紅は美人の部類に入るんじゃないだろうか。いや絶対入るだろう。綺麗な白髪、整った顔立ち。村人の誰かが『迷いの竹林を照らす輝き』と妹紅のことを比喩していたが、今思えばあながち間違いでもなく大げさでもないな――」

 

 そこまで慧音先生が語った時、

 

「…ぷっ、くくっ……はははっ!」

 

 俺はついに我慢できず、笑い出してしまった。

 

「なっ、白滝。何がおかしい」

 

 慧音先生が俺が笑い出したことに若干の不平を漏らすように、俺に問いかける。

 いやー、だってなぁ。慧音先生すごい力説するんだもんな。きっと妹紅のことがほんとに大好きで、ほんとに大切に思ってるんだろうな。だからこそ、妹紅のいいところがほかの人に理解されるのが嬉しくて仕方がないんだろう。でも、さっきの俺の時も力説だったよな。

 あ、分かった。語りだすと熱くなって止まらなくなっちゃうタイプの人だきっと。ほら、いるじゃん? ディベートとかパネルディスカッションとか弁論大会とかで妙に張り切って熱こもってる人。きっとこの世界の慧音先生はそんな感じなんだろう。指導者としては良い所でもあり、悪い所でもあるって感じか。

 でも笑い出したのは勘違いしないでくれ。力説したのが面白いとか話し方が面白いとか内容が面白いとかじゃなくて。なんというか……その、一生懸命に妹紅の魅力について語ってる姿が、なんていうんだろう。……あぁ、この言い方が一番しっくり来るか。

 

「可愛いですね」

 

「ん? あぁ、そうだな。妹紅は綺麗だけでなく可愛い一面も――」

 

「違います。慧音先生が可愛いんですよ」

 

「……えっ!? なっなにを言ってるんだお前はっ!?」

 

 俺の「可愛い」発言に一回妹紅だと勘違いした慧音先生は、自分のことだと分かった瞬間、茹蛸のように真っ赤になってしまった。

 

「おっお前、わっわわ、私が可愛いなんてっ! そんなことっ」

 

「そんなことありますよ。実際、今真っ赤になってる慧音先生も可愛いですよ?」

 

「わー! わー! そんなっ、可愛い可愛い言うんじゃない!」

 

 両手を前に出して、ぶんぶんと振る。顔は依然真っ赤である。

 あー、この反応。慧音先生、可愛いって言われ慣れてないな? ウブだな? 確かに綺麗とか美人かは普通に日常的に言われてそうだな。寺子屋の生徒も「けーねせんせーきれいー」とか言ってそうだし、人里の人の間でも美人な方だという声はいくつか聞いたことがある。あの服屋のご主人とかな。だから……だからこそ、可愛いって言われるのに耐性がないんだろう。そう考えると、なおさら可愛いな!

 慧音先生は顔を真っ赤にしながら俺から視線をそらす。

 

「そういうことは妹紅に言ってやってくれ…」

 

「妹紅も可愛いかもしれませんが、今は慧音先生が可愛いんです」

 

「やめろっ! 恥ずかしくて死んでしまう! あぁぁ、顔が熱い…」

 

「世界一! 可愛いよ!」

 

「あぁもう、だからなぁ――」

 

 

「慧音―! ただいまー!」

 

 

 俺の物凄い歌シリーズのワンフレーズをいい、それに反応して慧音先生がさらに顔を赤くしたところで、慧音先生を呼ぶ声が、遠くから聞こえた。タイミングと言い、女性の声だったことと言い、慧音先生を呼び捨てしていたことと言い、今の声の主を当てることは容易だった。

 

「妹紅が帰ってきましたか?」

 

「あぁ、そのようだな。まったくお前のせいで顔が熱いまま妹紅を出迎えねばならん」

 

「ははっ、すみません」

 

 慧音先生がまだ顔に赤さを残したまま、すっと立ち上がり、俺に恨みごとのような呟きをぶつける。でもそれさえも今の慧音先生からすると、可愛く見えてしまった。

 

「少し待っててくれ。連れてくるからな」

 

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

 

「気遣い感謝する。ではな」

 

 そう言って慧音先生は客間を離れ廊下を歩いて行った……と思ったら足音がこちらに戻ってきていることに気づく。

 そうして戻ってきて客間に顔を出した慧音先生の表情は「うー…」と睨むようなものだった。

 

「妹紅の前で、私に可愛いなんて言うんじゃないぞ?」

 

 …釘を刺しに来たのか。真面目なこって。

 俺もさすがにそこまではしないと了承し、慧音先生が廊下を歩いて行くのを見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえてきたのは、慧音先生を送り出してすぐのことだった。もう妹紅が来てくれるのだろうか? いやでも人見知りならそんなに簡単に了承してくれるだろうか。ましてや人里の者でない俺である。いやでも慧音先生から頼まれている請負業ならしぶしぶでも了承するか。ふむ。

 そんなことを考えている間に足音も大きくなり、声もちゃんと聞こえるようになってきた。だが……

 

「落ち着け妹紅! 何をそんなに早歩きで…」

 

「邪魔しないでくれ! いくら慧音でも怒るぞっ」

 

 ……あれ? なんか不穏な気配? 聞こえてくる声にはなぜか怒気が含まれているような、そんな気配がした。

 二つの足音が俺のいる客間の前で止まる。……なんでかわからないが、失礼なことは言えそうにない雰囲気だ。俺は姿勢を正しいつでも相手を迎えれる準備をする。相手は妹紅だということは確定事項なんだ。ふすまが明いた瞬間ぐらいに挨拶をしよう。

 

 サーッとふすまが開く。それを見計らって俺は頭を一度下げて、挨拶を口にした――

 

「お初にお目にかかる。白滝というものだ。今日は道案内をたのm――ぐぱぁっ!?」

 

 瞬間、俺は殴られた。頬に激しい衝撃が走り俺は後ろに倒れこむ。…えっ!? なにこれ!? 手厚い歓迎!? まぁそんなわけもなく。

 だが状況についていけていないのは俺だけでなく慧音先生もだ。慧音先生は「もっ妹紅!?」と驚きを隠せないでいる。きっと怒るよりも驚きが先に来ていたのであろう。

 

 俺を殴った張本人、藤原妹紅は唖然とする俺と慧音先生をしり目に、殴った右手の拳を硬く握りしめつつ、俺を睨みながらこう言い放った。

 

「お前、紅魔館の奴らじゃ飽き足らず、慧音にまで手を出そうっていうのか!」

 

『……』

 

 その一言。そのたった一言で俺と慧音先生は、すべてのことを理解した。

大かた、俺のことを慧音先生が話したんだろう。あとは……ねぇ。想像できるでしょ?

 だが俺たちのそんなどうしようもない脱力感というかそんな気持ちに気づくわけもなく、妹紅はその整った顔を激昂の表情に変え、俺に向かってくる。

 

「どうなんだ! 返答次第じゃただじゃおかないぞ!?」

 

 ずいっと、顔を近づける。うん、やっぱり慧音先生の言った通り綺麗な白髪と整った顔だ。真っ赤に燃える深紅の瞳もとても澄み切っている。服の意匠もイラストなどにある通り、白シャツに赤モンペ、それとサスペンダー。うん、誰がどうみても妹紅だ。ただ……はぁ。なんでこんなことに。

 俺は鬼のような形相の妹紅はいったん置いとく事にして、

 

「…慧音先生」

 

「みなまで言うな、私も分かっている」

 

「いいや、ここはあえて言わせてもらいますよ」

 

 俺は決意にも似た心情を胸に抱きながら立ち上がった。頬はまだ痛む。てかめっちゃ痛い。だが今はそれは問題ではない。

 俺は妹紅の怒気に負けないくらいの気持ちで妹紅の前に立つ。

 

「藤原妹紅よ」

 

「…なんだ?」

 

 依然警戒は強いままである。だがその警戒も、あれが原因だと考えると、異常にむなしく感じる。

 俺は静かに、されどしっかりとした意志をもって妹紅と対峙する。

 

「お前は、あの時の文々。新聞を読んだのか?」

 

「…ああ、そうだ。だから私はお前のことを知っている。お前が何を紅魔館でしたのかも、な」

 

「……では、その次の新聞は読んだのか?」

 

「次の新聞? 読んでない。あの新聞以降手を伸ばしてないからな。で、それがなんだっていうんだ?」

 

『……』

 

 俺達の予想確定です本当にありがとうございます。妹紅、そのドヤ顔はやめておけ、あとで真実を知って悲しくなるだけだ。

 

 ぽん、と慧音先生が妹紅の肩に手を置いた。

 そんな行動は予想できていなかったのか、妹紅が不思議そうに慧音先生の方を見る。

 

「なんだ、慧音? 今こいつを成敗するので忙しいんだ…け…ど…?」

 

 妹紅の声がひきつったものに変わる。きっと今の慧音先生の様子を見たからだろう。

 慧音先生は笑顔だった。びっくりするぐらい笑顔だった。

 

 だが目が笑っていなかった。

 

「妹紅。今から持ってくる新聞をすぐに読むんだ」

 

「はぁ? 何言ってるんだ。今はこいつを何とかするのが先決――」

 

「いいから読むんだ」

 

「慧音…? もしかして、もうこの男に何かされちまったのか!? だから――」

 

「よ・む・ん・だっ!」

 

 そう言って、慧音先生はさらに笑顔になって妹紅に迫る。

 ……待って、今の慧音先生めっちゃ怖かったんですけど。いや、マジで。あれは普段温厚な人ほど怒らせるとやばいやつだ。

 妹紅もそれを感じ取っているのか。「わっ、わかった…」としぶしぶ了承した。

その答えを聞いた慧音先生は、

 

「そうか。聞き分けがいい子は好きだぞ。妹紅」

 

 そう言って『いつもの笑顔』を浮かべながら慧音先生は客間を離れ、廊下を歩いていく。

 俺と妹紅は、その背中をただただ眺めることしかできなかった。

 

 きっと、俺と妹紅は同じことを考えているはずだ。

 

 最後の『いつもの笑顔』が、一番怖かったと。

 

 

 

 

 

 

 妹紅が真実を知り、顔面蒼白になるまでの時間。俺と妹紅は恐怖で心をやられて、一歩動けなかったとさ。めでたくねぇめでたくねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいでひどい目にあった…」

 

「ひどい目にあったのは俺の方だ……まだ痛むぞ、妹紅に殴られた頬」

 

「だからそれは……悪かったって言ってるだろ」

 

「ごめんごめん、冗談だよ。まぁひどい目にあったとは思ってるけど……おかげでこうして道案内してもらってるって思うと、殴られるのも悪くないかなって思った」

 

「……」

 

「なんでちょっと俺から離れたの今!?」

 

「…殴られるのも悪くないってのはちょっと……」

 

「言葉のあやだよ! 変な意味にとるなよ!」

 

 俺と妹紅は、慧音先生の寺子屋兼家であった場所を後にして永遠亭へと向かっていた。妹紅のいうひどい目にあったというのは……まぁわかるだろ? 正直言って俺も思い出したくないわ、あの笑顔。

 さて、今俺達が永遠亭に向かっている事情は今俺が言った通りだが……分かりやすく言うとだな。

 

 妹紅真実を知る。

 ↓

 妹紅は素直に謝れない。慧音先生が申し訳ないことをしたと妹紅の代わりに謝る。

 ↓

 妹紅自身も申し訳ないことをしたと思っている。

 ↓

 ならば、殴ったことの謝罪の代わりに永遠亭への道案内!

 

 といった感じだ。妹紅に何の報酬もなく永遠亭…妹紅が忌み嫌う筈の場所に案内してもらうというのは正直気が引けていたので、いい口実ができたと思っている。まぁその口実のせいで今妹紅にドン引きされているのだが。なんか理不尽だ。はっ!? 社会の理不尽さってものか!?

 普通に考えれば道案内は無償なわけで、それを慧音先生も気にしていたが、俺は外来人であって妹紅の裏を知る人間だ。正直無償は遠慮したいところだったからちょうどよし。

 

 そして嬉しいことがもう一つ。先ほどのいざこざのおかげで、初対面時の独特の雰囲気が俺と妹紅の間に無くなったのだ。ほら初対面だとさ、へんに緊張して仲良くなるのに時間がかかるじゃんか? その過程がすっ飛んで、いきなり話せるようになったわけだ。これは大きい。

 また、妹紅も話してみると想像よりずっと気さくで話しやすいやつだった。…慧音先生の話を聞いた後だったからな。もっと人見知りなのかと思ったよ。まぁ、気さくで話しやすいのはうれしい限りだ。

 同時に、原作にある『いい意味でズケズケと物をいう』とはこう言う事なんだと理解した。さっきの会話でもそうだろ? なんか友達同士で遠慮なく話してる感じが滲み出てるだろ? そういうことだ。

 ……そうか、今自分で説明してて自分で理解した。妹紅と話していて感じていたこの気持ちは、それだったのか! 今分かった! 妹紅と話しているノリが高校とか大学でバカやってる時の友達とおんなじ感じなんだ! だからこう…若干の安心感というか、懐かしさを俺は感じていたんだな。たまにいるよね、初対面なのに、まるで友達だったかのように仲良くなって話せる奴。俺にとって妹紅がまさにそれだったわけだ。

 

「なるほどなるほど…」

 

「なっなんだよいきなり?」

 

 俺の納得のつぶやきに妹紅は少々驚いたように返す。当たり前だが俺の心を読み取れるわけないから、いきなり「なるほど」とか呟かれてもそりゃ驚くわね。

 

「いや、何でもないよ」

 

 そう俺は言って話を切り上げる。妹紅も「そうか?」と言ったきり深く言及しないでくれた。うん、大学とか高校とか外の世界の話になっちゃうからなぁ。説明がめんどくさい。それに妹紅も慧音先生も俺が外来人だと分かってはいないだろうし。……いやまぁパーカー来てる時点で周囲の人とは服の意匠がまるっきり違うんだけどね、そこは気にしない。

 

 俺は俺を案内するために一歩前を歩いている妹紅の姿を改めて眺めてみた。腰まで伸びた長い白髪が歩く度にふわりふわりと楽しそうに揺れる。今日は月明かりが強いからか、髪の輝きも先ほど部屋で見たよりもずっと増している。端的で幼稚なことばになってしまうが、すごくすごく綺麗な髪だと思った。

 俺の中でとある欲求がふつふつと湧き上がってくるのがわかる。そんなエロおやじみたいなゲスイ欲求じゃないぞ!? もっとライトでふわっととした欲求だけど……だけども、うん、きっと頼んだら一発殴られるだろう。そんな気がする。てか初対面の女の子にするお願いじゃあない。……だがしかし、なんか…止めれそうにないぜこの欲求!

 俺は拳を握り、力を貯め、準備をする。なんのって、殴られる準備だよ!

 

「なぁ、妹紅」

 

 俺は妹紅に声をかけた。俺の下心、とうか欲求がばれないように平然として声をかける。

 妹紅は「ん?」と振り向いた。バレテない…バレてない…

 

「一つ、お願いがあるんだ」

 

「なんだ? 道案内なら今してるじゃんか」

 

「いや、道案内とは全く関係ないことなんだ」

 

「そうなのか。じゃあなんなんだ?」

 

 俺は意を決して、妹紅に俺の願いを話す。

 

「頭を…」

 

「頭?」

 

「頭を、撫でていいか?」

 

 俺はそう言ってから目をぎゅっと閉じる。殴られるのを覚悟していたからだ。殴られると分かっていても……痛みを痛感すると分かっていてもっ! 男にはやらねばならない時がある!

 

 だが、俺のその覚悟は、意味をなさなかった。

 

 

 

「頭を撫でる? 別にいいぞそのくらい」

 

 

 

 ……最初、俺は妹紅が何と言ったのか理解ができなかった。日本語じゃないように思えた。エンテイスラ語かと思ったレベル。

 

なんと妹紅は俺の願いを、普通女の子だったら抵抗されてもおかしくないような願いを、あっさりと了承したのだった。

 

……え?

 

「いっ、いいの?」

 

「いいのって…お前が頼んできたんだろ?」

 

「いや、そうだけどさ…」

 

 いやいやいやいや、おかしいだろ! ええっ!? あっさりすぎませんか妹紅さん!? 普通女の子だったら「えーやだ」とか、例えOKだとしても「はずかしいよぉ」とかなるじゃん普通! 妹紅は前者で、殴られること覚悟だったんだけど、まさかの展開にお兄さんびっくりだ!

  妹紅は俺の慌てっぷりなんか知りもしないような感じで俺に言う。

 

「別に頭を撫でられるくらい気にしないさ」

 

「な…なんでぃ?」

 

「なんでって…そりゃ慧音によくやられてるしな。恥ずかしがるなんて今更って感じだ」

 

「……」

 

 ……あぁ、そういうこと……か。なるほどなるほど。

今の妹紅の発言で俺はなぜ妹紅がこうもあっさり了承してくれたのか、大体のことを理解した。理解したくはなかったが、理解できてしまった。

 

 俺、妹紅に男として意識されてないわ。

 

 なんというか、納得の理由だった。てかきっとこれ以外ありえない。なるほど道理で、男である俺が頭を撫でるというのに、女性である慧音先生の名前が出てくるわけだ。

 …もしかしたら、俺が男として意識されていないんじゃなくて、妹紅の中で性別なんて意識がないのかもしれない。勝手な俺の解釈だが、妹紅が生きた長い年月が、そんな意識を消し去ったのかもしれない。

 

 俺は妹紅の頭を撫でさせてもらった。

 サラサラの髪で、確かにすごく綺麗な髪だったんだけど……

 俺の中に渦巻く釈然としない感情を拭うことはできなかった。

 

 いやまぁ、妹紅に触れられたってだけで十分幸せなことだったんだけどね!!

 できれば恥ずかしがるような顔も見たかったなぁ、なんて思ったりした、今日この頃のゲスい俺の心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と妹紅が慧音先生の家を後にして数分、夜だというのに騒がしい人里の賑わいから離れ、村のはずれをもうすぐ過ぎるころだろうというところで、

 

「おっ? あいつは…」

 

 と妹紅が声を上げた。「あいつ」ということは、誰か見知った相手でも見つけたのだろうか。

 妹紅の視線の先に俺も視線を移す。……月の光だけが頼りだから薄暗がりでよく見えないが……ふむ、確かにあの岩陰に何かがいる気がする。

 

「知り合い?」

 

 俺は素直に聞いた。妹紅は俺の質問に若干唸るように口を開く。

 

「んー…知り合いってほどじゃあないが、顔見知り? ぐらいか」

 

「そうなんだ、人里の人?」

 

「いんや、違う」

 

 ふむ? では誰だろう。てかこの暗がりでよく顔とかまでわかるねもこたん。わしにはさっぱりだよ。

 妹紅が「ふむ」とちょっと悩む様子を見せた後、俺の方に向き直った。

 

「ま、これからのお前と縁がある相手だろうから、顔ぐらい知っておいた方がいいかもな」

 

「? 縁があるのか?」

 

「ああ、なにせ、今日の目的地のパシリ兎だからな」

 

 ……え? まじで? もしかして……?

 俺の驚きを知らぬまま、妹紅はずんずんその岩陰に隠れるその存在に近づいていく。俺も我に返って妹紅の後について行く。

 

 ……さすがの俺でも、月明かりだけで人を判別できる距離まで来た。

 そして俺は、自分の予想が正解だということを知る。

 

「よお、永遠亭んとこの兎よ」

 

「えっ? ああっ、妹紅さん。どうしたんですかこんなところまで?」

 

「あぁ、ちと頼まれごとをな。こいつを永遠亭まで連れていくところなんだよ」

 

「あぁ、また患者さんですか? 重症そうなら先に戻ってお師匠様にお伝えしますが」

 

「いや、その必要はなさそうだ。なんでもお礼を言いにいきたいんだと。前にケガを直してもらったとか何とかで」

 

「へー、では見知った方かもしれませんね。どなたですー?」

 

 妹紅と会話していた岩陰の人物はひょこっと顔をだし俺の方へ歩み寄る。

 俺はそこで、はっきりと其の者の姿をとらえた。

 

 明るい紫色のロングヘアーに紅色の瞳。黒を基調としたブレザーにスカート。そして、うさ耳。俺の目の前には、永遠亭の苦労人して永遠亭一番の人気キャラ、鈴仙・優曇華院・イナバがいた。

 

 なんか…満を持して登場って感じがする!! さすが一時期新参ホイホイとか言われたお方! うおぉぉテンション上がるぅ!

 

 だが、俺のテンションとは真逆に、俺の目の前の者はは、まるで世界に絶望したかのような目で事らを見てきて……

 

 

 

 

 

「げぇ!? あんたあの紅魔館の人間!? うわ…なんでこんなところにいるのよ…」

 

 

 

 

 

 ……俺の予想とは裏腹に、俺に向けて放たれた言葉は、俺の心を抉った。

 なにがあったかは知りませんが……そんなに嫌そうな顔しなくていいじゃないですかぁ!

 

 俺の心の声は、誰に届くこともなく、空しい響きを立てるのだった――

 

 

 

 





お疲れ様でした! そして見てくださってありがとうございます!

念願の慧音先生、そして妹紅、優曇華というこの新たな三人との出会い回でした。
というかまぁ…半分以上慧音先生のターンだったんで、今回は慧音先生回ということで一つ(笑)

永遠亭組が出ることを夢見ていた方、申し訳ありませんでした。
様々な都合上、永遠亭ズが出るのは、次かその次話となりそうです。

また前書きでも言いましたが、次回より
「話を細かく区切り、投稿間隔を短くする」
という方針に変更しようかと思います。
よろしくお願いします!

感想、誤字脱字指摘待ってます。
みんなオラに力を分けてくれ!

次回は、妹紅&優曇華と共に永遠亭を目指します。
なぜ、優曇華は白滝に対して最後のように冷たいのか、理由もわかりますよ(笑)

ではでは次回お会いいたしましょう! グッバイ!
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