東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!
ぼっちなクリスマス、タノシカッタデスヨ。

さてみなさん! 新年あけましておめでとうございます!!
今年も私トーレと、東方一年郷をよろしくお願いいたします!

というわけで、予告通り、新年特別号を投稿いたしました!
タイトルからわかると思いますが、アンケートで投票数一位を獲得したのは

『博麗神社で年越し・正月』

でございます!
また、二位に輝いた、つまり次の特別篇の舞台は後書きにて公表してあります。
気になる方はぜひに!

では博麗神社ですね。年越し正月と書きましたが、今回の話は年越しがメインとなっております。
……なんか正直年越しって感じの話じゃないけど、そこは僕の文才のなさが露呈した結果だね仕方ないね。
あ、あと特別号ということで時間系列はまるっきり無視しておりますのでご了承ください。

また、幻想郷での正月の定義も、僕の勝手な考えとなっております。できればそこは目を瞑っていただきたいですっ

ではどうぞ! 温かい目でみていってね!



お正月特別号 ~そうだ、博麗神社にいこう~

 

 

 12月30日。その日が事の始まりだった。

 その日は特別寒く、朝なんぞは凍えて死んでしまうかと思ったレベルだった。

 そんなこともあってか、昼間に寒さをこらえながら冬の暖房の為、薪を切っていた俺のところに、珍しい来客があった。その来客は、いつも万物すべてめんどくさそうな顔をして、でも根はやさしくて、そして、俺に幻想郷で生きる上で大切なことを教えてくれた少女。この幻想郷を守る存在である、博麗の巫女。

 そんな彼女は、突然の訪問者に驚きを隠せない俺にこう言った。

 

 

「明日、私のところに来てくれないかしら?」

 

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在俺は、博麗神社内にて、四人の女性の前で、乾杯の音頭を取らされていた。

 

「えー、この年の終わりまで、残すところ数刻となってまいりました。今思い返せば、私が幻想郷に来てからの数か月経った今日にいたるまで、様々なことがありました。紅魔館で執事をし、永遠亭の薬を売り歩き、妖怪の山に侵入し、旧地獄に足を踏み入れました。あぁ仙界にもいきました。そんな怒涛の日々でしたが、不思議と忙しさや疲労は感じず、むしろ充実した気持ちを味わっております。また、その行く先様々の出会いがあり、やはり人生は一期一会だと――」

 

「ちょっとー、挨拶長いわよー」

 

「霊夢の言う通りだぜ。てかお前の冒険譚なんかに興味ないんだぜ」

 

「魔理沙の言うとおりね。さっさと始まりの音頭、とってくれない?」

 

「お酒、お酒―!」

 

「だーっ! お前らが俺に挨拶しろって言ったんだろい! だってのにこの扱いは何だってばよ! 普通ここは主催者の霊夢がやるべきなんじゃないのかよっ」

 

「だって…挨拶ってめんどくさいじゃない。ねぇ、魔理沙?」

 

「そうだぜー。まったく、宴会に挨拶はつきものだとか誰が考えたんだ。なぁ、アリス?」

 

「そうね。めんどくさいことは白滝に押し付けるのが一番だわ」

 

「お酒、お酒―!」

 

「あーもうっ! わかったよ! てか萃香は酒しか頭にないのかっ! …ごほんっ。えーそれでは……今年はお疲れ様でしたっ! 乾杯っ!」

 

『かんぱーい!!』

 

 

 俺達は笑顔で、それぞれ手に持った杯を「カンッ」と鳴らしあい「乾杯」と口々に言った。

 こうして、博麗神社にて『忘年会』という名の宴会がスタートしたのである。

 

 今日は31日。つまり、大晦日ってやつだ。幻想郷にもその概念はしっかりあったようで、そこら中に、特に人里には新年を迎えるムードが満載であった。幻想郷ってのは元は日本であるわけだし、当たり前と言えば当たり前だけどな。

 という事なので、博麗神社でも、毎年この時になると宴会を開いているそうだ。俺が着いた時にはもう料理や酒などはすべて用意されていて、準備万端であった。

今の時刻は申の刻終わり、まぁ夜の六時といったところか。先ほど忘年会といったが、この宴会は、このまま飲み明かして新年を迎えようという意義の宴会でもある。要するに忘年会と新年会をいっぺんにやってしまおうという事らしい。めんどくさがり屋な霊夢らしい考え方である。

 メンバーは、俺、霊夢、魔理沙、アリス、萃香といった面々だ。……いや、いいメンバーだよ? 霊夢が宴会とくれば魔理沙は来るだろうし、魔理沙と仲がいいアリスもそれに連れられてくるだろう。萃香もあの連続宴会異変の後は博麗神社に入り浸っていたそうだから、このメンバーが集まることはほぼ必然である。それに俺もこの面々とはそれなりに仲良く交流を……仲良く…仲…良く? さっきの挨拶の反応を見ると仲良くかは疑いを持ちたくなるが、それなりの交流は持っているつもりであるから、気まずさなどはない。

 特に萃香なんかはすごく俺を気に入ってくれたみたいで、べったりくっ付いてくることもある。…相手が鬼だけに最初はすごく緊張したというか恐縮してしまったのだが今ではもう慣れ、名前も呼び捨てを許してもらった。故に友好的な関係を築けている。だが……

 

 なんか、メンバー少なくね?

 

 正直に言うとそう思った。俺の予想ではもっといろいろな方がいるものだと思っていたのだが…。いやだって宴会だよ? しかも博麗神社で。いつもの感じではもっと人数いてもおかしくはないと思うのだが。

 宴会が開始してすぐの今で聞くことではないかもしれないが、俺は霊夢に素直に聞いてみることにする。

 

「なあ霊夢」

 

「なによ?」

 

 霊夢は口につけていた杯を離し、俺の方を見る。

 

「こう言う事聞くのどうかと思うけど……今日の人数ってこれだけなのか?」

 

「ええ、そうよ。何いきなり、どうしたのよ」

 

 少し怪訝な顔をした霊夢に、俺は慌てて理由を言う。

 

「いや、いつもの宴会と違って人数が少ないから…さ」

 

「なんだぜ、白滝は私達だけじゃ不満だっていうのか?」

 

 魔理沙がずいっと俺に顔を近づけてくる。その顔は少々不機嫌そうだ。とはいえいつものごとく可愛い。

ふっ、魔理沙よ、それは……違うぜ。

 

「不満なんてないさ。俺は魔理沙たちと一緒に年を越せるなんて、すごくうれしいよ」

 

「っ……そ、そうかよ」

 

 俺の言葉を聞いた魔理沙は、何故かそっぽを向いてしまった。でもちらっと見えた顔はほんのりと赤くなっていた気がしたが…なんだろ、もう酔いが回ってきちゃったのか? 早いな……

 魔理沙のことを気にかけつつ、俺は言葉をつづける。

 

「そういう不満とかじゃなくて、ただそう疑問に思っただけ。だって年越しとか正月ってけっこう大きくて楽しい行事なわけじゃんか。だから、いつもの宴会…いやそれ以上に集まっていいと思ったんだけど」

 

「……でも正月って、こういうものじゃない?」

 

 俺の言葉に、杯を持ったままアリスが少し不思議そうにそう答えた。こういうもの?

 

「こういうものって…どういうもの?」

 

「だから、あなたが言うような、どこかにみんなで集まって騒ぐようなのは正月はちょっと違うってことよ」

 

「そうね。アリスの言う通り」

 

 霊夢はアリスの言葉に同意の姿勢を示した。ということはアリスの言葉が核心をついていたという事だろうか。だが俺はまだピンと来ていなかった。

 その俺の様子を察したのか、霊夢が一つ小さなため息をついて酒を一口飲んでから口を開く。…あれ? なんか俺、バカな子だと思われた?

 

「正月っていうものは、盂蘭盆……世間一般で言えばお盆ね、それと同じように先祖を祀る行事。なのにその先祖様と全く関係ない場所に集まって騒ぐなんて、おかしいでしょ? だから、自分たちの先祖がなじみ深かったり、縁があったりする場所で正月を過ごす。むやみやたらに集まって騒ぐことはない。それが普通の正月、その正月へ続く年越しの過ごし方なのよ」

 

「そうなのか…」

 

「そうなのかってあんた……さっきも言ったけど、これが普通よ?」

 

 霊夢が怪訝な顔で俺を見てくる。うーむ、そう言われてもな。

 

「俺がいた場所……外の世界ではちょっと考え方が違うんだよ」

 

「そうなの?」

 

 アリスがきょとんとした表情で俺にそう問う。うん、アリスその顔可愛いよっ。

 俺はアリスに頷いて見せて、話をつづける。

 

「外の世界の正月は、新年を迎えたことをお祝いする行事なんだよ。もちろん神事を行ったりはしてるんだけど……うん、そうだな。幻想郷の正月や年越しみたいな厳粛な感じはいない。むしろ、お祭りみたいな感じなんだよ」

 

「なるほどねぇ。信仰心とか他宗教とか影響かしら」

 

 霊夢が若干呆れたよう言った言葉に俺は苦笑いを返した。

 

「経緯は分かんないけど、外の世界はそんな感じなんだよ」

 

「私はそっちの方がいいなー」

 

 先ほどまで溺れるように酒を飲んでいた萃香が「ぷはー」と息を吐いて言った。

 まぁなんというか、萃香らしい考え方か。

 

「仲いいやつらと萃まってお祭り騒ぎ。そっちの方が楽しいよー」

 

「そんなのいつもの宴会と変わらないじゃないの、まったく」

 

 霊夢がため息をついた。その様子を見てか「にゃはははー」と楽しそうに笑う萃香。うーん、なんとも見ていて楽しい。グレートですよ…こいつぁ…。

 しっかし、正月と一言で言っても、やっぱり世界が違えば考え方も違うか。いつも宴会に来ているメンバーを考えれば、例えば紅魔館メンバーもきっと紅魔館で過ごしているだろうし、紫様や藍さん、橙も家にて過ごしているという事であろう。逆にここに集まっている面々はいつも一緒にいるメンバーであるし、博麗神社で過ごしている時間も多い。問題はないということか。

 そこまで考えて、ふと疑問が頭に浮かんだ。

 

「そうなるとさ、霊夢。俺ってなんで呼ばれたの?」

 

「…どういうこと?」

 

 霊夢が不思議そうに俺に聞く。

 

「いやだってほら、俺って別に先祖が幻想郷にいたわけでもないしさ。むしろ幻想郷から見ればイレギュラーな存在なわけで、そんな俺が博麗神社っていう一応神聖な場所に呼ばれた理由は……と思ったわけよ」

 

「一応って失礼ね。ここはいつでも神聖な場所よ」

 

「その神聖な雰囲気が全くないのは問題だぜ」

 

 少しふてくされた顔をした霊夢に魔理沙は笑いながら辛辣なことを言う。その言葉にさらにふてくされたのか「はぁ」と霊夢はため息をついた。

 

「理由……そうね、一番の理由は…」

 

 霊夢は少し考えるように上を見上げ、「あぁ」と思いついたかのように俺に口を開く。

 

「魔理沙があんたと一緒に居たいって言ったのよ」

 

「ぶふっ!?」

 

 霊夢がそう言った瞬間、魔理沙が咳き込んだ。どっどうした!?

 魔理沙が咳き込んだこと&霊夢が言った言葉に驚きを隠せない俺を置いて、魔理沙は顔を真っ赤にしながら霊夢にかみついた。

 

「霊夢お前何言ってるんだぜ!?」

 

 慌てたように魔理沙が言葉を発する。それとは対照的に霊夢は至極当然と言ったような様子だ。

 

「でも事実じゃない。白滝も誘おうって言ったの魔理沙でしょ?」

 

「それは…そうだけどさっ! でもっ一緒に居たいなんて一言もっ!」

 

「そんな意味合いのことは言ってたじゃない。ほら、白滝がお誘い了承したって私が言った時、『これで一緒に居られるぜ』って言いながらニヤケ顔まで浮かべ――」

 

「わーっ! わーっ! 人の独り言何勝手に聞いてるんだぜ!? あと何勝手に暴露してるんだぜ!?」

 

 霊夢の言葉を途中で遮るかのように魔理沙が茹蛸のように真っ赤になりながら大声を張りあげた。若干涙目のようにも見える。

 ……魔理沙が…一緒に居たい? 俺と…? それって、つまり……

 

「えっと…」

 

 俺がそう呟いたとき、はっと魔理沙が顔を上げ、今度は俺の顔を振り返り見る。そして手をぶんぶんと振り、慌てた様子で言葉を発する。

 

「ちっ違うんだぜ白滝! そそそそんなこと言ってなくて、あぁいや言ったんだけど。でっでもそう意味じゃなくてっ! えと…えと……」

 

 そこまで行った魔理沙が口ごもってしまった。依然として顔は真っ赤である。

 ほぼ刹那、何か思いついたかのように魔理沙は顔を上げた。

 

「そう! お前、寂しいんじゃないかなって思ったんだぜ!」

 

「えっ?」

 

「ほっほら! 白滝って外来人だから、こういう行事だと一人になっちまうじゃんか。だから、寂しいんじゃないかなって、だったら誘ってやってもいいんじゃないかなーなんて……それだけ! ほんとそれだけなんだぜ!」

 

 そこまで矢継ぎ早に話した魔理沙は何故かそっぽを向いてしまった。顔は見えないが…だが耳まで真っ赤なのはわかった。

 

「…素直じゃないわね」

 

「うっせ」

 

 霊夢の嘆息交じりのその言葉に魔理沙がそっぽを向いたまま答える。

 

 ……そっか、魔理沙。俺のことを気遣ってくれたのか。なんだよちくしょう、泣けてくるぜっ。

 

 魔理沙は依然そっぽを向いている。でもなんというか、魔理沙のその気遣いの気持ちを分かった今では、その様子も愛しく可愛らしい。

 俺は魔理沙の頭にポンと手をのせ、その気遣いへの感謝の気持ちが伝わるように優しく撫でた。

 

「ありがとう、魔理沙。うれしいよ」

 

「ん……」

 

 最初ビクッとなった魔理沙だったが、撫でること自体を拒否されることなく、俺は魔理沙の髪の感触を確かめるようにゆっくりと撫でる。うん、すごく綺麗な髪だ。さらさらしてるし艶もある。……うん、家の中は蒐集した物でごった返しており一見ずぼらに見えるが、魔理沙はこういうところしっかり気を使っている。魔理沙はしっかり女の子なんだと、改めて感じる。しかも飛びっきり可愛いしね!

 ちょっとした妄想の世界に入り込んでいた俺を我に戻したのは、身じろぎをした魔理沙だった。

 

「んんっ……白滝、いつまで撫でてるんだぜ…」

 

「おっとごめんね、可愛い魔理沙」

 

「かっ、かかか可愛いっていきなりなんだぜ!?」

 

 おもむろに魔理沙は俺の方を振り返って、俺から離れるように後ずさる。魔理沙だけでなく、霊夢とアリスは酒を吹き出し、萃香は爆笑していた。……あ、やべ。

 俺は魔理沙に向かいながら苦笑いを浮かべる。

 

「あはは、ごめんごめん。つい心の声が漏れちゃったよ」

 

「こ、心の声ってぇ」

 

 目を真ん丸に開いてあわあわといた様子を魔理沙は見せる。その様子はすっごく可愛いんだけどね。

 何か罰の悪さを感じた俺は、ふと周りを見てみる。というのも、何か視線を感じたからだ。俺の視線の先には、

 

「いやー、こいつはいい肴だねぇ。にゃははははー」

 

 と爆笑しながらぐびぐびと酒を飲む萃香と、

 

「まったく……白滝? あんた夜道に気をつけなさいよ」

 

 と意味深な忠告を俺に向けてくる霊夢と、

 

「……」

 

 何故か俺のことをめちゃくちゃ睨んでくるアリスと、

 

「あーもうっ! 酒持って来い! とことん飲むぜ! 飲んでやるぜ!」

 

 と、もはやヤケ酒に近い状態になっている魔理沙がいた。

 その四人の様子を見た俺は、

 

「あははは…」

 

 苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混沌の様子を呈したにも関わらず、博麗神社の忘年&新年会の宴会は、まだ始まったばかりである。

 ……なんというか、波乱の展開が、簡単に予想ができてしまった。いや、はじめの波乱を呼んだ俺が言うのも何なんだけどね? なんかごめんね。

 

 その後の宴会は、俺の先ほどの予想とは反し、つつがなく時間がたって行った。いや勘違いしてほしくないのが、『いつもの宴会』と比べてつつがなく、ということである。現にいま萃香が霊夢に絡んでいて霊夢はスペル切りそうになってる。やめておくれよ? この室内でスペルとか死んでしまうよ。いやでも別になんか……そこまでやばいって感じないのが、おかしい所なんだろうな。ってかいつもの宴会の方がやばすぎるんだよ。何がやばいって…盛り上がりと、酒の量だな。今日の宴会は飲兵衛は萃香だけだからな。

 魔理沙とアリスはなぜか時々不機嫌そうにしつつも会話を楽しんでいる。……時折俺の名前が出ているから、不機嫌になっているのは俺のせいだろうか……って年末なのにネガティブになってしまった。

 俺は杯に入った酒をちょびっと飲む。それだけなのにカーッとのどに日本酒の風味が広がる。……あー、やっぱりまだこれ慣れねぇわ。宴会で何回も飲んでるんだけどなぁ。

俺はついしかめっ面を浮かべてしまった。それが萃香の目に入ってしまったようで萃香が俺のそばにすり寄ってきた。

 

「なんだなんだ白滝ぃ。そんな顔して」

 

 にやにやとした笑顔を俺に向けながら萃香は俺の右肩にもたれるように体重をかけてきた。俺はこの飲兵衛から逃れるわけにもいかず、素直に白状する。

 

「いやー、やっぱり度の強い酒はなれなくてな」

 

「情けないなー、毎日飲めばこんなの慣れるって」

 

 そう言って萃香はいつも持っている瓢箪に口をつけ、ごくごくとのどを鳴らして飲んだ。

 

「さすが、いい飲みっぷりだね」

 

「こんなの普通だよ。褒められるほどのもんじゃないさ」

 

「それが普通だったら幻想郷ほとんどの人が異常になっちまうよ」

 

「にゃはは、まぁ白滝ほど飲めないのは異常だけどねぇ」

 

「うぐっ」

 

 痛いところを突かれた。確かに俺はほとんど飲めないと言っても過言ではない。そんな俺に比べたら幻想郷の人ほとんどが飲める人になってしまうだろう。

 

「うーん、でも慣れないものはなかなか慣れないしな。何かいい方法はないかな…」

 

「……」

 

 ふいに萃香が黙った。そのことに違和感を覚えた俺は萃香の方に視線を向けると、何故か萃香が少し不安そうな顔をしていた。

 

「…嫌ってわけじゃないんだよな?」

 

「萃香?」

 

「もし…もし……酒がほんとは苦手で、飲むのが嫌なんだって言うんなら、無理して飲まなくてもいいんだ。宴会は楽しくなくちゃダメなんだから」

 

 そう呟いて萃香は少し俯く。……いつもの萃香と比べれば、正直驚いてしまうほどの態度の違いかもしれない。だが、この世界の萃香は時々こういう、なんていうんだろ、自制をかけるというか、そんな感じで、ひどく遠慮がちになってしまうことがあるのだ。

 伊吹萃香は、『人間』との関係にひどく敏感だったのだ。言葉にするのは難しいんだが、妖怪達ではなく人間に対して、何かこう嫌われたくないというか、そんな感情を萃香は抱いているらしい。それはある過去の出来事が発端で、またその敏感さが異変につながったりしたのだが……その話はおいおい話すとしよう。

 それに、連続宴会異変でのこともある。そんな萃香だから、もしかしたら俺が無理に酒の席に付き合ってるんじゃないか、とでも思ったんじゃないだろうか? もしそうなら、無理しなくていい、と。まったく、そんなことは全然ないのに。

 

「そんなに後ろ向きに考えないの」

 

「んっ」

 

 萃香がじっと俺の顔を見てくるその顔がなぜか可愛らしくて俺は萃香の頭をポンポンと撫でつける。萃香は気持ちよさそうに目を細めた。

俺は自分の気持ちを伝える若干の恥ずかしさを覚えつつ言葉をつづける。

 

「嫌なわけない。むしろ俺は、こうやって萃香とお酒飲んでる時間、すっごく好きだぜ?」

 

「白滝…」

 

「俺は、もっとその時間を大切にしたいし、もっと長く味わいたいんだよ。それなのに酒が飲めないってんじゃ本末転倒だろ? だから……さ。あー、なにか慣れる方法ないかなぁ」

 

 そう言って俺は萃香の頭を撫でながら天井を見上げ、軽く模索し始める。先ほど萃香も言っていたが、やはり毎日少量ずつでも飲むことが大切だろうか。でもそうなるとお酒代でもバカにならなくなる。一回限界になるまで飲んでみるってのはどうだろう。いやそれだと危ないしな……うーん。

 ふと気づくと、右肩にかかる重みが増したように感じた。まぁ右肩って言う事は萃香なんだけど……

 俺は視線を天井から下げ右肩、萃香の方へ向ける。すると萃香は、

 

「にゃははー」

 

 と嬉しそうに笑いながら俺の肩にピタッとくっ付いて、頬をすり寄っていたのだ。って

 

「おおおっ!? なっなにやってんだ」

 

 俺は慌てて萃香から距離を取ろうとする。だが「逃げちゃだめだぞー」とグイッと引っ張られ、また元の体勢に戻されてしまった。まったく踏ん張りがきかんかったな。恐るべし鬼の力。

 俺の言葉に、依然笑顔のまま、頬ずりをしたまま萃香は答える。

 

「いやー、白滝がうれしいこと言ってくれるからさー」

 

「…萃香が嬉しくなるようなことは何も言っていないと思うが…」

 

 なんだか頬ずりされてる俺の頬が気まずくなって、俺は萃香から視線をそらしながらそう答える。だが実際、そんなことを言ったつもりはなかったんだが。

しかし萃香は本当にうれしそうに俺の右肩に抱き付きながら言葉を紡ぐ。

 

「あんたに自覚がなくっても、私は嬉しかったんだよ。ありがとね」

 

「……ん、そっか。じゃ、どういたしましてかな」

 

 萃香は、満面の笑みを俺に浮かべてくれていた。ずるいなぁこういう笑顔、ドキッとする。いいねェいいねェ最高だねェ、惚れちゃいそうだぜ! 伊吹萃香! っとあぶねぇ。萃香が可愛すぎてついつい永年のライバル同士のセリフを並べて賛美してしまった。

 俺の言葉を聞いた萃香はまた笑いながら、何故か俺の右肩を手から離す。いや寂しいとか思ってねぇし。

 

「にゃはは、あんたのそういう素直なところ……私は、好きだよっと!」

 

「おおわっ!?」

 

 いきなり萃香が飛びついてきて俺の体をがっしりホールド! そのまま萃香は顔を俺の顔に近づけてきて……そのまま俺の頬に頬ずりをしてきた。って何しとんじゃい!

 

「何してんだよ萃香!?」

 

 先ほど俺の手を離したのはとびかかる準備の為だったのか!!

 慌てる俺とは正反対に、萃香は笑いながら、ひっつくのをやめない。

 

「んー? 白滝にくっ付いてるんだよ?」

 

「みりゃ分かるよ!」

 

「じゃあいいじゃないか。それとも、こうされるのは、嫌なのか?」

 

 見上げた萃香の目と俺の視線が合致する。なんだかいつもより萃香が可愛く見えた。それにそんなまっすぐな瞳で見られると、紛らわすことはできそうになくて

 

「……大好きです」

 

「にゃははー、素直だなぁ」

 

 もっとひっつかれる結果となった。……正直すぎるぜ俺。素直なんて通り越してるぜ俺。

 いつもはこんなにひっついてくることなんて無いのにな……いや、無いと言えば嘘になるけど。宴会になると時々こうなってた記憶がある。それに、萃香のあの異変の後よりかはまだましか。

 だが、そうはいってもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。俺は顔を赤くしながら、なるべく萃香の姿を見ないように視線を背ける。

 だがそんな抵抗が萃香にばれてしまったのか、

 

「んんー? 顔を背けて、どうしたんだい?」

 

「いやー、これはだな…」

 

「……にゃははー、とうっ!」

 

「どぅわがっさ!」

 

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。だがやっと俺は今、萃香に押し倒されたのだと言う事を理解した。驚きすぎてつい某ロリコンコーチみたいな悲鳴を上げてしまったじゃないか!

 だが萃香の驚きの行動はこれだけに終わらなかった。萃香はそのまま、自分の胸にある紅いリボンを取り、胸元を俺に見えるようにはだけさせてきたのだ。ってえええええっ!?

 

「なっなななな、何を!」

 

「んー? 素直な白滝にはご褒美をあげようかなぁって」

 

「ごっ、ご褒美?」

 

「……さっきの以上の事、今ここでしちゃう?」

 

 そう言って、萃香はさらに胸元をはだけさせる。萃香の透き通るような柔肌がどんどん露わになっていく。それと同時に萃香の顔もどんどん俺に近づいてきている。

 それ以上の事って、さっきみたいに抱き付いて頬ずり以上の事ってことか!? ってことは――ごっごくり。

 俺が生唾を飲み込んだ、その時。

 

「それ以上はダメなんだぜー!!」

 

 その叫びと共に俺の脇腹に鋭い衝撃が走った! 俺は叫ぶこともできず、そのまま吹っ飛ぶ。そして吹っ飛んだ先にあった木の柱に後頭部を直撃させた。鈍い音と衝撃が全身に走り俺は一瞬にして俺の意識の糸がボロボロになった感覚を味う。あ、これやばい。

 

「おお、止める為に私じゃなくて白滝をどかしたとは、賢いねー」

 

「お前に行ったら返り討ちを喰らいそうだからな。ってそんなことより何やってるんだぜ!?」

 

 魔理沙が「ぎゃーす!」と言わんばかりに叫んでいる。そうか……あれは俺と萃香を離れさせるためにやったことだったんだな……にしても、もうちょっと、優しくできなかったかな…? 俺の意識の糸もうすぐで切れそうなんですが。

 だが俺のそんな状態にも気づかない。今度は霊夢の声が聞こえてきた。

 

「冗談が過ぎるわよ萃香。魔理沙が止めてなかったら私があんた達追い出してたわ」

 

「にゃははー、いやー白滝が可愛くってついねぇ」

 

「ついじゃないぜこの酔いどれ鬼が!」

 

 魔理沙が萃香にかみつき、怒りの様子を呈していることが声だけでわかる。

 だが俺の意識は糸、そこまでしか聞き取れない間に、脆くもちぎれ去り、ブラックアウトするのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は白滝が萃香に絡まれる少し前。魔理沙はアリスに注いでもらった酒をぐいっと飲み込み、魔理沙の見た目年齢に似合わない「ぷはー」という声だした。その様子を見たアリスは少し呆れたようにため息をつく。

 

「そんな中年のおじさんみたいに…」

 

「今日ばっかりは小言は勘弁だぜアリス」

 

「はいはい」

 

 アリスはもう一杯酒をすすめ、魔理沙もそれを承諾した。なんだか夫婦のような印象を受ける。

 アリスと魔理沙は俗にいう春雪異変にて知り合った仲である。つまるところ、約一年の付き合いである。異変当初は敵として現れたり、永夜抄異変でコンビを組んだ時も、アリスは嫌々ながらであったし、魔理沙も報酬のグリモワールが目当てなだけであった。だが同じ魔法使いであるし、魔理沙の性格の影響もあってか、二人がよく話し合うようになるまでにかかった時間は長くなかった。今ではともに研究をしたり、異変をコンビで解決したりしたりとそれなりに仲良くなっていた。

 さてそれで今の現状であるが、酒をいくら飲んでも、残念ながら魔理沙の若干不機嫌そうな表情は変わらなかった。

 

「白滝の奴……ほんと考えられないぜ」

 

「まったくね。いつか刺されると思うわ、あの男」

 

 アリスも魔理沙に注いでもらった酒を、一気にではなく、少しずつ飲む。その仕草には一種の優雅さがあった。

 魔理沙も一口酒を含む。ヤケ酒気味に飲んだ影響か、魔理沙の頬は早くも紅潮していた。

 

「会うたびに可愛い可愛い言ってくるんだぜ? 心にもないことをさ」

 

「あら、それはちょっと違うと思うけど」

 

 アリスに否定されるとは思っていなかったのか、魔理沙は不機嫌そうな顔を向ける。

 

「違うって、どこがだぜ」

 

「心にもないってところね。彼、きっといつも彼が言っている通り本心から魔理沙のことが可愛いって思ってるわよ?」

 

「はぁ? そんなわけないぜ」

 

「逆に考えてみなさいよ。あの白滝が、そんな歯の浮くようなセリフを恥ずかしがりもせず堂々と言えると思う?」

 

 アリスの、若干失礼にもとられかねない発言を受け、魔理沙は少し思案する顔をする。

 いつもの白滝の素行を思い出しているのだろうか。少しの時間がたってから魔理沙は口を開く。

 

「いや、無理だな。あの白滝にそんな肝はないし。それにあいつは人付き合いを計算や策略でするようなやつじゃない」

 

「でしょう?」

 

 魔理沙の言葉を聞いて満足してか、アリスは酒をグイッと飲み干す。魔理沙もその様子を見て杯に入っていた残りの酒を飲みほした。

 

「……」

 

「…どうしたのよ?」

 

 魔理沙が動かないまま飲み干したはずの杯をじっとみつめているのに疑問を持ったのか、アリスが声をかけた。だが魔理沙は顔を上げないままに答える。

 

「いや…なっ何でもないぜ」

 

 魔理沙は口ではこう言ったものの耳が紅くなっていることをアリスは見抜いていた。

 

「白滝の言葉、思い出してたの?」

 

 その言葉は核心をついたようで、魔理沙は顔を真っ赤にしてアリスの方を見る。

 

「そっそんなわけないぜ! 誰があんな奴のこと!」

 

「でも顔真っ赤よ?」

 

「うぅぅ…今日のアリスはいじわるだぜ…」

 

「ごめんね、魔理沙可愛くって」

 

「お前も可愛いっていう…」

 

 むー、と唸る魔理沙の様子にアリスはクスッと笑みを浮かべた。普段はクールであまり笑わないアリスの笑顔を見れてか、魔理沙の顔も自然と笑顔に変わる。この瞬間だけでも、二人の仲の良さがうかがえた。

 

 少し笑いあった後、魔理沙が「しかし」と口を開く。

 

「意外と信用してんだな、あいつのこと」

 

「白滝?」

 

「おう」

 

「……そうねぇ。信用、って言葉を使うほど仲良くなった覚えもないし、心を開いたつもりもないわ」

 

「おお…けっこうズバッといくな」

 

「隠したって仕方ないでしょ? ……まぁでも、人間としては、嫌いじゃないけどね」

 

 そう言ってアリスは、白滝の方を見る。白滝は今萃香に絡まれてあくせくしているところである。無理もないあの鬼に絡まれているのだから。アリスとしては正直絡まれたくない相手。だがあの男は嫌な顔一つせずあの飲兵衛と接している。なんというか、その誠実さや人間の良さはアリスは評価していた。最初は、紅魔館の執事やら永遠亭や寺子屋の手伝いやら博麗神社のパシリやら、どんな人間かと思っていたが。白滝と直に接しあったことで、アリスは白滝の多少なりとも良い所を見つけていたようであった。無論、彼女曰く高すぎるテンションは論外だそうだが。

 アリスは、白滝たちの様子を居てなぜかやきもきした表情を見せている魔理沙に問うた。

 

「逆に聞くけど、魔理沙はどうなのよ」

 

「どうって?」

 

 魔理沙は視線をアリスに移す。

 アリスは至極淡々と質問をした。

 

「白滝の事、どう思ってるのの?」

 

「ぶぶっ! いきなりかっ」

 

 魔理沙は酒を思うとして盛大にそれを吹きだした。

 だがアリスはそのことを気にしたような風もなく勧める。

 

「いい機会だし、はっきりさせておこうと思って」

 

「そんなのさせなくていいぜ!」

 

「いいじゃない。別に白滝に言うわけでもなし、心の整理は早いうちにつけといた方がいいと思うわよ?」

 

「うぅ、今日のアリスはやけに積極的だぜ…」

 

 少しげんなりとした顔をした魔理沙。アリスはあくまで冷静に装っていた。だが内心には先ほどの魔理沙の言葉が刺さっていた。

 アリスはなぜか、妙な焦りを感じていたのだ。その焦りが何なのか全くわからないし、どういう感情からくるのかもわからない。だが、どこからか来る焦りだけは何か感じていたのだ。

 少し思案をしていた魔理沙だったが、少し伏目勝ちに口を開く。

 

「正直言うと……わかんないんだぜ」

 

「わからない?」

 

「あぁ。あいつの事、もちろん嫌いじゃないんだけど、私は好きじゃないって思ってるんだ。でもあいつの事、ふと思い出しちゃうときもあってさ。その度、なんだか、もやもやするんだ」

 

「……」

 

「好きなのかって聞かるとさ、否定する気持ちがまず来るんだぜ。でもそのすぐ後に正体の良く分からない気持ちが出てきて、それでごちゃまぜになって……結局、もやもやしたままで終わっちゃうんだ」

 

 魔理沙は、きゅっと自分の胸を掴むように拳を握る。その姿は、本当に迷っているかのように見えて、でも何かを決意しているかのようにも見えて、もやもやしていると言った魔理沙の言葉をなぜだかよく表しているように見えた。

 アリスは気づいていた。その気持ちがなんであるかを。そして、その気持ちが生まれたての赤ちゃんのようで、まだ成熟していない気持ちであることも。

 

「そう」

 

 魔理沙の気持ちの告白に、アリスはそう短く答えた。聞きようによってはひどく淡白に聞こえる言葉だが、今のアリスでは、それが精いっぱいだったのだ。

 アリスの中の焦りのような感情は大きくなっていた。魔理沙の気持ちを見抜いたアリスでも自分のこの気持ちの正体は分からず、困惑を感じるばかりである。

 

 ふいに「がたっ」という大きな音がした。困惑を感じていたアリスだったがその音で我に返り、向き的に音の発生源である白滝に視線を向けた。そして視界に広がるのは驚きの光景。

 目の前で白滝があの鬼に押し倒されたのである。なんというか、無意識にため息が出た。

 先ほど注いでもらった酒を口にしつつ、嘆息交じりでアリスは魔理沙に話す。

 

「あそこ、なんだか面白いことになってるわね、魔理――」

 

「あんの鬼っ! 何やってるんだぜ!」

 

 魔理沙はすぐさま立ち上がり、次に瞬間には白滝を突き飛ばしていた。まるでアリスの言葉など、聞く必要もなく、無意味であるかのように。無論魔理沙にそんな心づもりはないが、アリスには少なくともそう感じられたのだった。

アリスは伸ばした腕を静かに戻す。それと同時に、アリスの胸には寂しさを感じる気持ちが生まれていた。焦りはまだ消えない。

 

 アリスは気づいていない。今アリスが感じている気持ちは嫉妬であるということを。

 アリスは気づいていない。魔理沙が白滝に対して持っている気持ちを、自分自身が魔理沙に対して持っていることを。

 

 アリスは、騒ぐ三人の姿を眺めて、そしてその中心となっていた白滝を見る。

 一人になったアリスは、ぽつりとつぶやいた。

 

「私も、白滝みたいになれたら……魔理沙ともっと仲良くなれるのかしら」

 

 まだ見ぬ未来を思い浮かべ、アリスは一人、微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか、後頭部に柔らかい感触がある。

 意識を失っていた俺の覚醒を促したものは、そんな感覚であった。

 意識がだんだん回復していくのを感じる。何だろう、現実に引き戻されるような感じだ。それと同時に、俺が気を失う前の記憶が蘇ってくる。確か俺、魔理沙に突き飛ばされたんだっけか。それで頭打ちつけて……気を失ったと。なんともハチャメチャで魔理沙にもう少し優しいやり方はなかったのかを問いたい気分でもあるがそれはおかしいことだろう。現に俺は魔理沙に救われたのだ、理性を。あのまま放っておかれでもしていたら、俺は萃香にどんなことをしていたか分からない。今更ながら感謝の気持ちがこみ上げてきた、ありがとう魔理沙。

 しかし……あぁ、俺は何と気持ちのいい枕で寝ているのだろう。俺は少し寝返りを打つようにして枕の感触を楽しむ。なんだか柔らかくてふにふにしてる。それに心地のいい温度と、何やら気持ちが安らぐいいにおいもする。あぁ、なんて完璧な枕なんだろう。

 自分の今後頭部の後ろにある枕の素晴らしい感触をもっと楽しめるように俺はうつぶせで寝ようと寝返りを打つ。そして、あと90度回転! というところで。

 

「こらっ、何をやってるのよ」

 

「いてっ」

 

 こめかみに何か鋭い刺激と痛みが走った! 白滝に1のダメージ! 白滝は倒れた。白滝はもう二度と目を覚ますことはなかった。

 っていう冗談は置いといて。いったい今の衝撃は何だったんだろう。それに今の聞き覚えのある声、というか最早間違えようもない。

 

「霊…夢?」

 

「ええ、おはよう。白滝」

 

 俺はまだ枕の感触を味わいたいという欲望を抑え、目を開けた。開けた視界に映るのは霊夢の端正に整った顔で、しかも霊夢は俺に少しの微笑みも浮かべていた。

 

「意外と早いお目覚めだったわね。もう少し、いえ永遠に目覚めないと思ったわ」

 

「そんな怖いこと、言わんといてぇな。ってかえっ暗!? 何これ……外?」

 

「ええ、あんたの意識回復も含めて外に連れてきたのよ。それに、もうすぐ初日の出だったから」

 

 霊夢が少し微笑む。てか霊夢の顔がめっちゃ近い。なんだか覗き込むようにしてる……もしかして寝顔見られてた!? うえ何それ恥ずかし!

 霊夢から視線を逸らした先に見えたのは、夜空であった。その下には木々が生い茂っている。それに……ふむ、確かに山の端が若干、ほんとに若干だがオレンジ色に染まっている。なるほど、日の出はもうすぐってわけだ。幻想郷では、初日の出を、年の変わり目だとするらしい。つまり、太陽が顔を出してやっと、新年の挨拶ができるというわけだ。気絶で新年を迎えたく無しな。霊夢の気遣いに感謝だ。

 社に置いてある灯籠(のようなもの)が俺達二人を照らしてくれている。それ以外に照明はなかったが、逆にそれが神秘的な雰囲気を醸し出しており、日の出を待つ俺達にピッタリであった。が、それと寝顔を見られたことに対する恥ずかしさは別物だよ!

 俺は赤面しつつ慌てて起きようとした。だが俺のその行動を拒んだのは、霊夢の手である。

 

「気を失うほどの重症でしょ。もうちょっと休んでなさい。それまでは私の膝、貸しといてあげるから」

 

「ん? そうか。じゃ恩にきてもう少し休むか。ありがとな」

 

「お礼を言われることじゃないわ。私が開催した宴会で死人なんか出られちゃ、新年早々夢見が悪すぎるもの」

 

「僕は死にましぇん! あなたが好きだから!」

 

「……もう一回こめかみ、お祓い棒に突かれたい?」

 

「さっきのお祓い棒だったの!? ……でもな霊夢、人の愛の告白をな、そうやって無下にするのは先生感心しないぞ?」

 

「無下になんかしないわよ。今の言葉、私は大切に大切に屑かごに放り込むことにするわ」

 

「大切の意味をもう一度よく考えてくださいお願いします」

 

「はいはい。あんたの戯言は聞き飽きたから、早く休みなさいな」

 

「悲しみが鬼になった」

 

 そこまで言って俺は霊夢に強く頭を押さえられ、先ほどの気持ちの良い枕に戻っていた。ちなみのさっきの告白はみんなわかってると思うが冗談だからね? 

 ふーむ、仕方がない。ここはお言葉に甘えて休むとするか、と考えゆっくりと目を閉じたその時、先ほど霊夢が言った言葉が蘇る。

 

「私の膝、貸しといてあげるから」

 

 膝を貸しといてあげる。膝を貸す? ……膝!? まっまさか!

 俺は、信じられない真実を知ってしまった。震える声を抑え、俺は霊夢に確認をとる。

 

「なぁ霊夢」

 

「何?」

 

「もしかして俺、今霊夢に膝枕されてる?」

 

 そう、それが俺の至った結論。ふにふにしていて柔らかくていい匂いがして、目を開けるとすっごく近くに霊夢の顔があって、これはもう、ねぇ?

 俺の質問に、霊夢は至極当たり前のように答える。

 

「ええ、そうよ」

 

 瞬間、俺はがばっ! っと立ち上がり、霊夢に向かい合う。

 霊夢は俺のそんな様子に驚きを隠せないでいた。

 

「なに? どうしたのよ。」

 

 霊夢は俺に問う。俺は、その質問に答えるように、おもむろに頭を下げた。

 

「幸せなひと時を、ありがとうございやした!」

 

 そう、俺が言ったのは感謝の言葉である。普通に考えると、このタイミングでのこの感謝の言葉は意味不明脈絡なしのものであるが……

だが諸君よ、君たちは分かるだろう? この…このお礼を言いたくなる気持ちが! 可愛い女の子の膝枕という男の夢を叶えてくれたことに対するこの…この熱い気持ちのお礼を!

 俺は全力のお礼を霊夢に向けた。だが、霊夢は何も言わなかった。いつもなら「何バカなこと言ってんのよ」とか「虫唾が走る。私の目の前から消え失せなさい」とかあってもおかしくないのに。あ、後者を言われたら俺速攻自害しよう、そうしよう。

 しかし、霊夢からの返答は無し。不思議に思った俺は恐る恐る顔を上げる。

 気になる霊夢の顔。その表情は――

 

「あれ!? すっごく微妙な顔!?」

 

 ほんと、微妙な顔をなされていました。なんだろ、怒っている顔にも見えるし、呆れてる顔にも見える、しかし微笑みかと言われればそのような気もしてくる。なんとも微妙な顔であった。

 

「えっと…霊夢さん?」

 

 何とも言えない微妙な空気から逃れるため俺は霊夢に声をかける。

 すると霊夢は盛大で大きなため息をついた。

 

「はぁ、あんたって年末になってもそのテンションは変わらないのね。まぁ分かってたことだけど」

 

 霊夢は心底呆れたようにそう言葉を吐く。あぁそう言う事ね。

 

「はっはっはっ、俺のテンションは変わることはない。テンション高いの含め、これが俺だからね!」

 

「そうみたいね。もう私の方があんたのそれに慣れることにするわ」

 

 そう言ってもう一度霊夢はため息をつく。そして顔を上げた時、ばっちり俺と目が合った。それが何故だか面白くて俺と霊夢は微笑みあった。

 

「隣、いいか?」

 

「ええ」

 

 霊夢の了承を得て俺は隣に座る。よく見たら、ここは神社の正面か。

 霊夢は酒も持ってきてくれていたようで、俺に酒の入った杯を渡してくる。

 

「飲みなおさない? あんたが気絶なんかしたから酔いがさめちゃったわよ」

 

「あー悪いな。気使わせた」

 

「私なんかより、魔理沙の方がひどかったわ。『白滝が目覚まさないんだぜ!?』って大騒ぎ」

 

「そうなのか。心配かけたみたいだな、あとでお礼言っとかないと」

 

「お礼? どうして」

 

「ん? そりゃ、心配してくれてありがとうって。自分の身を案じてくれる人が身近にいてくれるって、うれしいことだぜ?」

 

「……なるほどね」

 

「だから、ね。霊夢も、ありがとう」

 

 俺は深く頭を下げる。最大の感謝を込めて。

 霊夢からの返答は、また無かった。あれ? もしかしてさっきと同じ感じ? でも今回は至極真面目だったんだが……

 俺は恐る恐る顔を上げ、霊夢の顔を見る。

 

 霊夢は、微笑みを浮かべていた。

 

 俺は予想していなかったその表情に、つい見惚れてしまった。夜の闇に包まれ、灯籠の光に照らされる霊夢は、とても輝いて見えたのだ。

 ふいに霊夢が口を開いた。

 

「あんたのそういう所、好きよ」

 

「っ!? ……ずるいぜ霊夢、そういうの」

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 そう言って霊夢は「ふふっ」と笑う。それとは対照的に俺の心はドッキドキしていた。霊夢ってそういう小悪魔ちっくなところあるよな。

 こいつは負けてられない! 俺も霊夢をドキッとさせるようなことを言ってやるぜ!!

 

「俺も! 霊夢のこと、大すk――」

 

「あっ、太陽が出てきたわよ」

 

「空気読んだな初日の出さんよぉ!」

 

 言葉の対象を霊夢から即座に変え、何の罪もない祝われるべき存在であるはずの初日の出にツッコミを入れた。いや入れてしまった。新年初セリフがツッコミとは……今年も受難になりそうだ。

 はぁとため息をついた俺の様子を見てか、霊夢がくすくすと笑っていた。くそぉ、ドキドキさせれなかったじゃないか!

 ま、これ以上気にしても仕方がない。今は素直に、新年を無事明けれたこと。そして、

 

 今年も、仲間がそばにいてくれること。

 

 その幸せを噛みしめるとしよう。

 俺は微笑みを浮かべながら、何も言わずに霊夢の隣に座り、姿勢を正す。その様子から霊夢も俺がなにをしたいかわかったようで、同じように姿勢をただした。

 そして俺たちは目を合わせ、同時に頭を下げた。

 

『新年、明けましておめでとうございます』

 

 きれいにそろったのが面白くて、俺と霊夢は笑ってしまった。

 

「ははは、さすが霊夢。よくわかったな」

 

「大体あんたの考えることがわかってきたのよ。新年だからね、せっかくだから乗ってあげたわ」

 

「ははっありがとう。……霊夢」

 

「なに?」

 

「今年もよろしくな」

 

 そう言って俺は霊夢に手を差し伸べる。

 霊夢は少しの間だけ目を閉じると、今までで一番柔らかい笑みを俺に向けてくれて、俺の握手に答えてくれた。

 

「ま、よろしくされてあげるわ」

 

 何とも霊夢らしい、少し素気ない言葉だった。でも、つないだ手から霊夢の本当の気持ちが伝わってきたみたいで、それがうれしかった。

 少しの間俺と霊夢はこの心地よい気持ちを享受しあう。そして俺は自然と溢れた笑みを浮かべ――という時に、障子が思いっきり開けられる音がした。それと同時に足音が大きくなっていく。

 

「新年早々なに二人でいい雰囲気作ってるんだぜ?」

 

 足音の正体は魔理沙だった。その表情は怒りに満ちている。

 俺は少しのため息をついて恒例の挨拶と共に魔理沙に対する。

 

「あけましておめでとう魔理沙」

 

「……おめでとうだぜ」

 

「でも新年なのに、怒ると運が逃げてくぞ魔理沙」

 

「誰のせいだと思ってるんだぜ?」

 

「…………俺?」

 

「そうだぜ! もー」

 

 そう言って魔理沙は「ぷんぷん」という擬音が似合う様子でそっぽを向いてしまった。あらら、なんか分からないけど機嫌を損ねてしまったらしい。新年早々これでは先が思いやられるのでなんとかしよう。

 

「そう怒らないでくれよ魔理沙。せっかくの新年なんだから俺は魔理沙の笑顔が見たいなぁ」

 

「ふん、絶対見せてやらないぜ」

 

 あらー、こりゃ重症だ。仕方がない。俺は謝罪の気持ちを込めて、魔理沙の頭を撫でた。

 魔理沙もまさか撫でられるとは思っていなかったのか、びっくりした様な顔を俺に向ける。

 

「どうかこれで一つ」

 

「…これで許す女がいると思ったのか?」

 

「世界のどこかにはいると信じてる!」

 

 俺は撫でることはやめないままそう力説する。どこかにいるといいなぁ、俺の頭撫でたくなる衝動を受け止めてくれる女の子。

 魔理沙は、うつむいて沈黙してしまった。あー、やっぱり駄目だったか。諦めかける俺。だが魔理沙は、

 

「……このままずっと撫でてくれたら、お前の信じるその女に、なってやらないこともない…ぜ?」

 

 顔を赤くしながら、そう小さくぽつりと呟いたのだ。その様子が可愛くって可愛くってもう。俺は満面の笑みを浮かべながら、

 

「了解っ、ありがとね」

 

 そう言って魔理沙の頭を撫でるのだった。後ろから霊夢が「唐変木」と俺に言った気がしたが何の事だかさっぱりだったのでスルーすることにした。

 また足音が聞こえてきていることに気が付いた。…音は二つ、つまるところ、萃香とアリスだろう。

 姿を見せたのはやっぱりその二人で、俺と魔理沙の様子を見た萃香はにやにやと笑う。

 

「おーおー、新年早々仲がいいなぁお二人さん」

 

「ばっそんなじゃないぜ!」

 

「そういう割には顔が真っ赤だけど?」

 

「くぅぅぅっ! やっぱりお前とは決着をつけないといけないみたいだぜ」

 

「にゃははー、望むところだよ? 新年初弾幕勝負、行こうじゃないか」

 

「吠えづらかいても知らないぜ?」

 

「そっくりそのままお返しするよー」

 

 何故か弾幕勝負やる気まんまんに二人はなってしまっていた。うーむ、このまま弾幕勝負発展させていいものか。俺はちらりと霊夢をみる。

 

「好きにやらせればいいわ」

 

 俺の視線の意味に気が付いたのか霊夢はそう答えた。ま、止めるのも野暮ってもんか。やりすぎたら霊夢が止めるだろうし。

 ふと気づくと、俺の隣にはアリスが。

 

「あけましておめでとう、白滝」

 

「おう。今年もよろしくな、アリス」

 

「ええ、今年は『特に』よろしく頼むわね」

 

「特に?」

 

「何でもないわ。さ、二人の弾幕勝負を肴に、もう一杯やらないかしら?」

 

 そう言いながらアリスは酒を俺の前に出してくる。ふむ、それも一興かな。

 

「私も混ざっていいかしら?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 そう言って霊夢も酒をもらい、一口飲む。俺達三人は観戦状態に入った。

 魔理沙と萃香はそれぞれに構えをし、二人も準備完了のようだ。

 

「二人とも準備いいわね?」

 

 声をかける霊夢に、萃香と魔理沙はうなずいた。なんだ、霊夢も霊夢で乗ってるじゃないか。正直、俺も楽しみだしな。アリスも二人の様子を微笑んでみている。

 

「それじゃ、弾幕勝負――開始!」

 

 霊夢の号令と同時に、二つの光がぶつかり合い、混ざり合い、それはとても、綺麗な光となった。

 

 

 

 

 忘年会から続く新年会。この宴会は、たった今始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

まったく、こんなに楽しい年初めは、初めてだよ!

 

 

 

 

 




お疲れ様でした。そして読んでくださってありがとうございます!

さぁどうだったでしょうか博麗神社編。なんか、ずっと魔理沙のターンだった気がするけど気のせいだよね!

賛否両論ある魔理沙とアリスですが、旧作の関係は全くないです。この小説、旧作とはまるっきり切り離して書いているので、そこらへん疑問に思った方、すみません。

またアリスは魔理沙に対して確立していない恋心のようなものを抱いています。が、これもこの話は本編には全く関係ないことですので、本編のアリスはこのような気持ちを持つかは未定になっております。マリアリ展開になるかもしれないし、まったくそんな匂いもしないかもしれません。そこのところはご了承ください。

しかし自分は、複数人を一つのシーンで絡ませることを苦手としているようです。何とも難しい。精進いたします!

さてさてお次の特別篇なんですが、なんと二位が同率で二つあったんです。
同率二位、この二つです!

「紅魔館で年越し・正月」
「白玉楼で年越し・正月」

この二つになっりました! 活動報告欄では紅魔館がすごく多かったんですが、個人メッセージが白玉楼票多し! 同率とはいえ二位なので、この両方を書かせていただきます。順番は、先に紅魔館ですかね。

そしてお知らせです。次の特別号、6日投稿予定だったんですが、少々都合がつかなくなりまして
来週の内に投稿する、という風にいたします。よろしくお願いします。

感想誤字脱字指摘待ってます。

ではでは、また次回お会いいたしましょう! グッバー!
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