東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!
すっごく今更ながらパズドラを始めたトーレでございます! ほんとに今更だなおい。あれだよ、ヴァルキリー可愛いよヴァルキリー。

さて、投稿遅れてすみませんでした! ほんとお待たせいたしました。
言い訳しますと長くなるので、言い訳を見たいというお方はそちらへどうぞ。

さてさて、投票同率二位の、今回は紅魔館編となります。
お正月を迎えた紅魔館。白滝達はどのように過ごすのでしょうか。

今回、非常に本文長くなってしまいました。そこだけご注意下さい

ではどうぞ! 温かい目で見ていってね!



お正月特別号 ~そうだ、紅魔館にいこう~

 ある日のことだ。俺の元に、射命丸さんが手紙を届けに来てくれた。しかも二通である。手紙が来ること自体とても珍しいのに、しかもそれが二通とは、びっくり仰天と言っていいレベルの出来事である。……なんかそう考えると俺、日ごろから寂しい人生を送ってるような気がして仕方がなかった。

 まぁそんな俺の自虐は置いておいてだな……手紙が来たことにはとても驚いた、だが、それ以上に驚いたのは、差出人の名前だった。まさかこの人からくるとは思ってもみなかったのでな、びっくりした。

 諸君らには、先に中身をお見せしよう。きっとそれで、差出人も分かるだろうと思う。

ではまず、こちらの一通をお見せしよう。

 

 

 

『白滝さんへ

 

 白滝さん、お元気ですか? 私は元気です。いつもお姉さまと楽しくすごします。

 本日はお日がらもよく、お手紙をかいたのはほかでもあります。白滝さんは、今しゅう末が年こしだということをご存じあげているでしょうか? 

 ここまでね、フランがんばってかいたんだよ? さくやにかんじもおしえてもらいながらかいたんだよっ! すごいでしょ。でもね、てがみみたおねえさまが「てがみはフランらしく、いつもどおりのようにかきなさい」っていったの。おねえさまためいきついてたけど、ふらんどうしてなのかわからなかったから、おねえさまのいうどおりにするね。

 それでね白滝さん、げんそうきょうではもうすぐとしこしのひなんだって。そのとしこしがおわればすっごくたのしいパーティがあるんだって! おしょうがつっていうらしいんだけど、白滝さんしってた?

 いまからすっごくたのしみなんだ! でもね、ふらん、おしょうがつがどんなぱーてぃなのかぜんぜんしらないの。それをおねえさまにいったらね、白滝さんはそとのせかいのひとだからいろんなたのしいおしょうがつのあそびをしっているだろうから白滝さんにおしえてもらえって。ふらんそれすごくいいかんがえだとおもったの! だってそうすれば白滝さんといっしょにあそべるじかんがふえるんだもん!

 

 白滝さん、おしょうがつのひ、フランにあいにきてくれる?

                                 フランより』

 

 

 

 抜粋するとこんな感じであった。さぁて差出人は誰でしょう! ……こんなのクイズにもならないや。イージーモードとかってレベルじゃない。

 差出人はもちろん、紅の妹、フランドール・スカーレットである。フランの手紙は拙くはあるが一生懸命で、可愛らしい字で書かれていた。文法とかがおかしいのはフランの可愛い所と言ったところか。

 というか、まずフランが手紙をかけたことがすごい。実際問題、フランは何百年も封印されていたわけで、まだ言葉づかいも幼いし、もしかしたら文章を書くということ自体慣れていない可能性もある。……前見た前当主の日記から見るに、文章を書けるぐらいの年齢にはなっていそうだったがな。だがさすがに漢字は書けないようだった。……なんで白滝だけ漢字でかけるんだろうね。頑張って憶えてくれたのかな。よし、会ったらうんと褒めてやろう。頭を撫でてやろう。……あれこれ俺へのご褒美じゃないか。

 俺はフランの可愛らしい字にほんわかしながら、もう一つの手紙に視線を移す。フランの可愛らしい封筒とは違い、なんというかしっかりとした、白い普通の封筒である。

 差出人を見る。

 

「レミリア・スカーレット…ね」

 

そう名が書いてある。……うん? なぜ姉妹そろって手紙を?

俺は若干恐る恐ると言った感じで封を開けた。

 

 

 

『白滝へ

 

 前略

 あなたに時候の挨拶とか必要ないだろうから略させてもらうわ。敬語もいいでしょ別に。フランはすごく丁寧に書いてたみたいだけど、私は白滝なんかに敬意は払いたくないもの。

 さて話を戻して。あなたのことだからフランの手紙をはじめに読んだんでしょ。フランの手紙を読んだのならから分かっていると思うけど、お正月はいつもとは違って楽しくいこうと思ってるの。それこそ、フランとの初めてのお正月だからね。

 それで、せっかくだしあなたを誘ってあげようと思ったのよ。……正直、あなたを誘う気なんかなかったけど、フランを含んだ約二名が白滝と一緒がいいって言って聞かなくてね。ほんと、それだけの理由よ、勘違いはしない方が身の為ね。

 まさかと思うけど断らないわよね? フランだけじゃなくて私からも誘われてるんだから。断ったりなんかしたら、あなただけ、新年は訪れないことになるわね。

 さてそれで、スケジュールね。きっとフランは日程とか時間をかいていないだろうから私が手紙を送ることにしたのよ。

 一月一日、元旦に来てもらうわ。早朝、辰の正刻に人里に着てちょうだい。時報台あたりがいいかしら。美鈴に使いを頼んだから、美鈴と一緒にくるように。

 それじゃ、楽しい正月、楽しみにしてるわ。

 あ、返事はそこにいるであろう鴉天狗に伝えておいて頂戴。じゃ。

草々 』

 

 

 

 これが全文である。……うん、こんなしっかりした手紙なのに丁寧語一切使われていないの俺初めて見たよ。完全に俺舐められてるよね。まぁレミリア様に勝てるわけないから仕方ないんだけど。てかフランの手紙を読んだのは偶然だよレミリア様! …あっでも先に二つの差出人見てたら、きっと先フランの呼んでたね。正解だよレミリア様!

 レミリア様の手紙は詰まる所、フランの手紙の補足と言ったところだった。うん、ちゃんとお姉ちゃんしててよかった。フランの見えないところでフランをカバーしているレミリア様を想像すると、なんだかとても可愛かった。

 しかし最後の文、完全に俺のハードルを上げにかかってる。フランの手紙にもあったが、このお誘いに乗ったら、正月を全力で盛り上げる必要があるようだ。下手なことをすると殺されかねないレベル。いやでもレミリア様を喜ばせるとか無理ゲーなんだが……

 だがしかぁし! ここで恐れる俺、白滝ではない! その勝負、受けて立とうではないか! てか紅魔館のみんなとお正月とか最高か!

 

 そうして正月に紅魔館に行くことを即決した俺は、なぜか俺が手紙を読む終わるまで待っていた射命丸さんにその旨を伝え、どんな正月にしようか考え出すのであった。

 

 ……射命丸さん、レミリア様に脅されて頼まれたんだろうな、きっと。そうじゃなかったら俺の返事待つとか優しいことないもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新年一日目の元旦の今日の人里は、非常ににぎわい、正月ムード一色であった。

 家の前には門松が飾ってあり、あちらこちらに着物を着た人たちがいて、街道が色鮮やかである。道行く人の話を聞くと今年の運勢がどうだと話していたり、破魔矢を持っていたりするから、初詣がえりという人も多そうだった。……霊夢、ちゃんと仕事してんだな。さすがに正月だし客の入れ時だから当たり前か。今考えたら、早苗ちゃんの方の神社に人里の人って行けないよな……あそこは妖怪が相手なのかな?

 俺は帯の位置を治しながら人里の様子を眺める。今のかっこう? 着物だよ。せっかくの幻想郷の正月なんだからな。気合い入れてガチ装備にしてみました。とはいえ着物を買うほどの贅沢はできないので、いつもの服屋の店主に頼みこんでレンタルさせてもらってるんだが。うーん、日柄着慣れてないからなんだかむずむずするね。

 

 辰の正刻を告げる鐘が、時報台から鳴り響く。真下で紅魔館からの使いである美鈴を待っている俺はその音に若干びっくりしちゃったり。心なしかいつもより鐘の音が大きい気がする。鐘を鳴らす人も正月でテンション上がってんだなきっと。

 

 今考えると、レミリア様とフラン、この時間起きてるのか? 辰の刻って朝の8時ぐらいだと思ったんだけど……まぁ、これはレミリア様達が言い出したことだし、気にしないでおこう。

 

 しかし美鈴遅いな。遅刻とは珍しい。待ち合わせの時間とか守れないやつじゃないんだけど……居眠りしないしね、この世界の美鈴。

 ほぉ、と白い息を吐きながら俺は空を見上げる。しかし……紅魔館に行くのも久しぶりだ。このところ立て込んでたからな。みんな元気にやっているだろうか。

 

「白滝さーん!」

 

 そんなことを考えていたら、ふと俺の名を呼ぶ声が聞こえた、考えるまでもなく美鈴であろう。俺は空から俺の名前を呼ぶ声の主へと視線を移す。

 ……美鈴を捕らえた俺の目は、大きく見開かれることになる。

 

「ごめんなさい白滝さんっ。遅れてしまいました」

 

 俺の元に早歩きのようにして駆け寄り、息を切らせながら苦笑いを浮かべる美鈴。その美鈴は、着物を着ていた。いやなに、着物を着ていたことにも少し驚いていたんだが、それ以上にすごく美鈴が綺麗に見えて驚いた。いつもきれいな美鈴が倍以上に綺麗に見える。いつもの服を若干思わせる緑主体の着物である。それが美鈴の髪の色とすごくマッチしていて……あぁ、なるほど、これが見惚れるというやつか。

 

「……白滝さん?」

 

 俺の様子を不思議に思ったのか美鈴が俺の顔を覗き込んできた。急に美鈴の顔が近くに来て、俺は慌てたように我に返る。

 

「ああ、ごめん。見惚れてた」

 

「へっ?」

 

 俺の言葉に、美鈴がきょとんとする。急すぎて何を言われたのかわからなかったのか。俺は苦笑いを浮かべつつ、美鈴に言葉をかける。まずは恒例の挨拶からだな。

 

「久しぶりだな。明けましておめでとう、美鈴」

 

「はいっ! 明けましておめでとうございます、白滝さん!」

 

「しかし…美鈴の着物姿、初めて見たよ」

 

 美鈴は、すこし顔を赤くして恥ずかしそうにしながら袖をもって自分の着物を眺めた。

 

「そうですね。こういうのは着なれてなくて……変じゃないですか?」

 

「ううん、むしろ似合ってるよ」

 

「そっ、そうですか? えへへ、ならよかったです」

 

 美鈴は顔は赤くしたままだが、いつものような優しいふわっとした笑顔を見せてくれた。うーん、やはり美鈴、天使か。

 

「うん、いつものもいいけど着物姿の美鈴もいいな」

 

「あうっ…」

 

 俺は美鈴の見せてくれた笑顔が可愛くて、ついつい美鈴の頭を撫でてしまった。しまったと一瞬思うが顔を赤くした美鈴が俺の手を拒否することはなくて、俺はつい調子に乗って撫でることをやめなくなってしまった。これも美鈴が可愛すぎるのがいけないんだよっ。

 あ、そういえば。

 

「しかし、美鈴が時間に遅れるなんて珍しいね。何かあった?」

 

 俺は先ほどの疑問を口にする。知って特に意味はないのだが、一応気になって。

 俺の質問に美鈴は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。

 

「いやー、いつもの服じゃないのでなかなか歩きにくくて」

 

「あー、なるほど」

 

 着物って歩幅制限されるし歩きづらいもな。

 納得の理由に俺が頷いていると美鈴は苦笑いのまま「それに、」と続ける。

 

「着くずれするから走るなって咲夜さんに言われてて」

 

「おん? もしかしてその着付け、咲夜がしたの?」

 

「はい。すごいですよね咲夜さん、普段着ない着物の着付けまでできるなんて」

 

「あぁ…驚きだな」

 

「私だけじゃなくて、紅魔館みんなの着付けも咲夜さんがしたんですよ」

 

「へーっ。……ってことは今日みんな着物なの?」

 

「はい」

 

 俺と咲夜のハイスペックさに改めて感服した。何でもできるなあの人。紅魔館、着物なんて無縁そうなのに。

 それと同時に、紅魔館メンバー全員が着物なのに驚きを隠せない俺。着物……だと? 正月だしもしかしたら――と考えていたことが現実になるなんてっ! こりゃ会いに行く楽しみが増えたぞっ!

 

「……えっと、白滝さん?」

 

 なぜか美鈴が伏し目がちに俺のことを見てきた。心なしか顔を赤い。どうしたんだろ。

 

「どうしたの?」

 

「…いつまで、私の頭を…」

 

 恥ずかしそうに美鈴は呟いた。おおっ、そういえばずっと撫でっぱなしだった。

 

「ああっとごめんな」

 

 俺が謝罪の言葉を言いながら手を離すと、何故か美鈴はすごく慌てたようにぶんぶんと手を振る。

 

「いえいえそんなっ白滝さんが謝るようなことじゃ! むしろ嬉しかったです――ってそうじゃなくてっ!ちょっと周りの目が気になったといいますか…」

 

「周り? ……あー…言われてみれば確かに」

 

「あうぅ…」

 

 美鈴の言葉に気づかされ周りを見てみると、おじさんやおばさん、道行く人や顔見知りの店の人が俺たちのことを微笑ましいように見ていた。なんと、なんと慈愛のこもった目っ! 小っさい子供の仲良しカップルを眺めるお母さんのような眼をしてる! ありゃー…こりゃ確かに恥ずかしいわ。

 俺は苦笑いを浮かべ、美鈴は恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯く。これは…早急に退散しますか。恥ずかしいし。

 

「…レミリア様達待たせると悪いしな。美鈴、行こうか」

 

 俺は美鈴の手を取り、紅魔館方面に歩き出した。美鈴は急に手を取られたことに驚きを隠せていないようだった。

 

「えっ白滝さん、手…」

 

「人が多いからね、はぐれないように…さ。嫌だった?」

 

「…嫌じゃ…ないです」

 

「よかった」

 

 美鈴の了承と取れる言葉を聞き、俺は微笑み、そのまま歩みをつづけた。よし、ちょっとずるい聞き方だったが、美鈴と手をつなげたぜひゃっほう! これは新年早々嬉しいイベントだ! ってかもう新年から美鈴と会えること自体幸せである。今年もいい一年になりそうだ。

 最初俺が美鈴の手をひっぱるようにしていたが、そのうち美鈴から俺の隣に寄り来てくれて。

 人里を離れた後も、言い出すきっかけもなく、俺と美鈴は手をつないだまま紅魔館へと向かったのだった。

 

 美鈴の手が妙に熱く、でも温かく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、今はパチュリー様の魔法の完成を目指して、紅魔館全体で協力し合ってるんですよ」

 

「パチュリーさん、まだあの魔法諦めてなかったんだ……図書館崩壊事件の二の舞にならなければいいんだけどな」

 

「いえ、今目指してるのはあの技じゃないそうですよ?」

 

「あ、そうなの? じゃあどんなのなんだ?」

 

「確か…ワールドデストロイヤーとか言ってましたけど」

 

「ほんと若本さんはお帰りください」

 

 それRPG最強と名高い技じゃないですかやだー、ダメージが億を超える技じゃないですかやだー。ってか前もツッコんだけどそれ魔法じゃねぇから! ってか紅魔館みんなで完成に近づけてるのか…止めた方がいいな、うん。

 

「っと、もう到着か」

 

「…いつもより、あの道のりが短く感じました」

 

「確かに。美鈴と一緒に居たからだな」

 

「そっそんなことないです。何もしてませんよ、私」

 

「謙遜するなよ、美鈴と一緒に居られるの、俺は楽しいよ?」

 

「あうう……そういう言い方…勘違いしちゃいますよ…」

 

「ん? 勘違い? なにをだ?」

 

「……なんでもないです」

 

 紅魔館のこの頃の様子を美鈴から聞きつつ歩いていれば、いつの間にやら紅魔館の門まで来てしまっていた。……なぜか美鈴がふてくされてしまったけど、理由がわからないのでどうしようもないか…何を怒ってるんだ美鈴?

 俺は美鈴をなだめつつ、共に門をくぐった。今日は美鈴も門番の職は休み、正月を満喫するそうだ。

 

「ん?」

 

 ふと俺は、紅魔館の玄関に誰かが佇んでいるのを発見した。いったい誰だろうか、身長はそんなに高くはなさそうだ。あの頭上の広がり、傘のようなものを広げている。ううむ、影になってよく見えない。だがまぁ、あそこにいるぐらいだし紅魔館のメンバーのだれかであることは確実か。

 

「おーい!」

 

 試しに俺は声を上げ、手を振ってみた。

 その影の相手は、俺のその声に気づいたようで、体が動いた。そして…次の瞬間には、こちらに向かっていきなり走り出したのだ。

 こちらに走ってくるその人物の姿は、どんどん大きくなっていき、俺はやっとそれが誰なのか理解した。

 金髪の短めの髪をふわふわと揺らし、虹色に輝く羽をぱたぱたとさせ、草履の音を鳴らしながら走ってくるあの姿。恰好はいつもと違い着物だが…見間違えるわずもない。

 

「おー! 久しぶりだなフラ――」

 

「あけましておめでとうっ! 白滝さん!」

 

「ぐふぁ!」

 

 腹部に衝撃が走るっ! その少女、手紙の差出人でもあるフランドール・スカーレット、通称フランは走ってきたその速度を落とすことなく俺の腹に飛び込んできたのだ。そう文字通り、物理的に。

 だがしかし、そんな衝撃でへこたれる俺じゃない。何せ俺はきゅっとしてドカーンを喰らって生き抜いた男だからな!(耐えれたとは言ってない)。俺はフラン激突の衝撃にも耐え、フランを抱きとめた。

 

「はは、いいタックルだ。相変わらず元気だな、フラン」

 

「うん! フランはいつも元気だよ!」

 

 そう言ってフランは俺ににぱっと笑って見せる。うん、何ともフランらしい可愛い笑顔だ。俺は微笑みを返しながらフランの頭を優しく撫でつける。するとフランは非常にうれしそうに笑った。

 

「えへへー、久しぶりのなでなでだぁ」

 

「あー、確かにな。ここ最近は全然顔だせてなかったもんな」

 

「ほんとだよー。フラン寂しかったんだからっ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「むー。でもいいよ、許してあげる。その代り、今までの分も、なでなでして?」

 

「…ははっ。おう、任せとけ」

 

 俺はフランに言われた通り、フランの頭を撫でることをやめなかった。フランはキャッキャッと笑って楽しそうにしている。……うん、あの紅霧異変以来、フランの精神状態はますますよくなってきている。まだ精神年齢は幼いように感じるが、これは仕方がないことであるし、経過良好というやつだ。

難点と言えば、今までの反動のせいか、この頃妙に甘えん坊になってきたところかな。俺個人としては可愛いからいいんだけどね。

フランの姿を見てみる。先ほども言ったが、いつもとは違い、着物を着ている。紅魔館メンバー全員着物を着ているという美鈴の言った通りだな。うむ……赤色の着物に黄色の帯。なるほどいいじゃあないか。

 

「着物もいいな、可愛いぞフラン」

 

「そう? でもフランあんまり好きじゃないの」

 

「どうして?」

 

 ほんとに可愛いのに。俺は疑問を口にした。

 その疑問に対しフランは、ぶーと口を尖らせながら答える。

 

「だって動きずらいんだもん」

 

「はは、確かにな」

 

 いかにもフランらしい答えだった。活発になってきているからなフランは。おしとやかにできる年頃ではないか。

 

「でも…白滝さんが可愛いって言ってくれるなら嬉しいな」

 

「おお。可愛いぞ、フラン」

 

「えへへー」

 

 俺がそう言うとフランはにへらと笑う。その様子が可愛くて、俺も自然と笑みがこぼれた。

 不意に美鈴がフランのそばに立っているのに気が付いた。

 

「フラン様」

 

「あっ美鈴! 白滝さんの案内お疲れさま」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 フランがそう声をかけると、美鈴は笑顔を向けた。おお、労いの言葉をかけるほどには成長してきているわけだなフラン。美鈴もそれに気づいているのか嬉しそうだ。あの救出劇の後は、俺の次にフランと交流があったのは美鈴だからな。こういう成長には敏感だろう。

 美鈴はその笑顔のまま、フランに話しかける。

 

「ところでフラン様、その傘のお加減はどうですか?」

 

「すっごくいいよ。お日様の下に出ても全然平気だもん」

 

「それはよかったです。パチュリー様に報告しておきますね」

 

 …あぁ、フランまだ朝なのに普通に外に出て大丈夫なのかと思ったら、その傘のおかげか。

 

「レミリア様と同じ、遮光傘か」

 

「うん! お姉さまとお揃いなの!」

 

 フランは笑顔でそう頷いた。…反応を見るに、外に出られるよりも、お姉様、レミリア様とおそろいの傘を持っているということの方がフランにとっては嬉しいように見えた。

 遮光傘というのは、吸血鬼であるレミリア様の日中でも外に出たいという願望をパチュリーさんが叶えた際にできた代物である。名前通り太陽の光を遮断することで吸血鬼の弱点であるそれを無効にする。それを使いさえすればレミリア様でもフランでもに中で歩くことができる。

 

「これでフランも、気軽に外に出れるようになるな」

 

「うんっ」

 

「……気軽に出ていかれるのは、困るのだけどね」

 

「はは、まぁ確かにな――っておわっ!?」

 

 いきなり声がしたと思い、後ろを振り向くと、そこには。

 

「驚きすぎじゃないかしら? 白滝」

 

「いっいやーははは、お久しぶりですレミリア様」

 

「ええ、久しぶり」

 

 今俺が頭を撫でているフランの実の姉、紅魔館当主、レミリア・スカーレットその人が俺のすぐ後ろに立っていた。いつものように、微笑みを浮かべながらカリスマたっぷりで。……正直今のは素で驚いたよマジで。だっていきなり後ろにいるんだもの。いったいどうやって……瞬間移動かな? そんな馬鹿なことを思った俺は少し辺りを見回してみる。そして、答えは案外簡単に見つかった。

 

「…あぁ、なるほど」

 

「その目はなんですか、白滝?」

 

 俺の視線に気づいたのであろう。そう言って、紅魔館メイド長である十六夜咲夜は、レミリア様の従者らしく、主のすぐななめ後ろに下がっている状態で俺のことを睨んできた。なるほど、咲夜が直ぐそばにいるなら、先ほどいきなりレミリア様が直ぐ近くに来たのも納得である。咲夜がこんなことに能力を使うのは珍しいけど、俺への歓迎サプライズだと思っておこう。

 このまま睨まれてるのも嫌なので、ここはごまかしておく。

 

「いや、なんでもないよ。気にしないで」

 

「…そうですか。ならいいです」

 

 なにか言いたげな顔をしていたが、咲夜は俺から視線を外した。ううむ、執事をやめたあの日、咲夜との心の距離はちょっと縮まったように感じたんだけどな……まだまだ仲良くなる道は遠いようだ。ま、地道にやっていこう。

 さて、と。俺はレミリア様の方を見る。レミリア様もそれに応じて「何かしら」と聞いてくる。

 やはり御呼ばれしたのだから、ここはひとつ挨拶をしておかないとな。

 

「この度は、お呼びいただきありがとうございます。それと、明けましておめでとうございます」

 

 俺のいきなりのかしこまった挨拶に驚いたのかレミリア様は一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を切り替え、俺に微笑みを見せる。

 

「ええ、明けましておめでとう。ただ招待のお礼は、私だけじゃなく、もう一人にもしてほしいわね」

 

「分かってますよ。フランも、今日は呼んでくれてありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

「手紙もちゃんと読んだよ。ありがとう」

 

「えへへー。今日はいっぱい遊ぼうね、白滝さん!」

 

「ああ、思う存分楽しもう!」

 

 俺のそのフランに言った言葉に、レミリア様は笑みを浮かべた。だがその笑みは、優しいものではなく、そう言うなれば何か悪だくみをしているようなそんな笑みだ。

 

「ええ、存分に楽しませてもらうわよ、白滝。存分にね」

 

「……Yes,sir」

 

「……なんで英語なのかしら」

 

 いやだってねぇ、手紙にもあったけどどう考えても俺を虐めて楽しむ発言でしょそれ! まったく、俺が執事をやめてもドSは続くんだな…いや当たり前なんだけど。

 ふと俺は、レミリア様と咲夜の姿に目線を移す。うむ、話の通り、二人とも着物だな。レミリア様はピンク色の着物に赤い帯、咲夜は青地にレミリア様と同じ色の帯という感じだ。うーむ、二人とも見慣れない服装なのによく似合っている。いや見慣れないからこそいつもより魅力的なのだろうか。ふむ、確かにそうと言えるかもしれない。

 俺がレミリア様と咲夜の着物姿をガン見していたのに気付いたのか、レミリア様がため息をつきながら俺に問う。

 

「どうしたのかしら、そんなにじろじろ見て?」

 

「いや、服装が着物というだけでどうしてこうも魅力的に見えるかを考察してます」

 

「…もうすこしましな褒め方はなかったのかしら?」

 

「あぁ、すみません。二人ともすっごく似合ってますよ! ばっちりです!」

 

 俺のサムズアップしながらの褒め言葉に、

 

「そう、ありがとう」

 

 レミリア様は少し微笑みながら答えて、

 

「白滝に言われてもうれしくはありませんが、一応受け取っておきます」

 

 咲夜は、いつものように冷静に受け流すのであった。咲夜相変わらずだな。一周回って逆に安心するよ。

 俺とレミリア様と咲夜の話の輪に、飛び込んできたのはフランだった。フランは笑顔を見せながらレミリア様に抱き付く。

 

「フランもさっき白滝さんに可愛いって言ってもらったんだよ! えへへー」

 

「そう」

 

 そう言ってレミリア様はフランの頭を優しく撫でた。フランもレミリア様に甘えきっている。……うん、ちゃんと姉妹らしくなってきたじゃないか。異変直後のぎこちなさはほとんどなくなっている。少々の不安はあったが、その不安も完全に払しょくされたよ。

 

 俺達は笑顔あふれるそのまま、紅魔館の中へと入って行った。

 今日は正月だ。しかも元日。遊ばないわけにはいかないな!

 楽しい正月を味あわせてやろう。改めて、俺はそう胸に決意するのだった。

 

 

「白滝、それじゃ準備はいいかしら?」

 

 応接間に入るや否やレミリア様が俺に話しかけてきた。準備? 何の話だ?

 

「準備とは?」

 

「フランの手紙にあったでしょ? 外の世界のものでもいいし、この幻想郷のものでもいいけど、正月にするいろいろな遊びを教えてほしいって」

 

「あぁ、その事ですか。ってか俺が呼ばれた理由ってほんとにそれなんですね」

 

「ええ、そうよ。正月と言っても、今までは派手もせず騒ぎもせず過ごしてきたのよ。それこそ宴会に行くくらいだったわ。だから…正月にする遊びってのには疎くてね」

 

「なるほど…」

 

 納得だな。もともと紅魔館って日本的じゃなく西洋的だから、新年を迎えるという気持ちはあっても正月という概念はないだろうし。それに……美鈴、咲夜、パチュリーさん、こあさん、それにレミリア様。正月だからって騒ぎそうなメンバーじゃない。正月の遊びをしないのも当然か。

 レミリア様はすっと視線をフランに持っていき、すこし寂しそうな、悲しそうな顔をする。フランはその視線に気づきはしたものの意味は分からないようできょとんとしていた。だがしかし、俺には分かるぞ! レミリア様は「フランには正月という特別な日を楽しんでほしい」と考えているんだろう! あぁなんという妹愛か! 任せてくださいよレミリア様!

 

「事情は理解しました。そしてご安心ください! この白滝、ちゃんと準備はしてきております!」

 

 俺は力を込めてレミリア様に言った。そう、俺はこの正月紅魔館お呼ばれが楽しみすぎて、遊びなどは用意周到に準備しておいたのである! 楽しいことを愛する俺に抜かりはない。

 俺の言葉に一番興味を示したのはフランだった。

 

「ほんとに!? ねねっ白滝さん! すぐ遊ぼ! ねっねっ」

 

 フランは俺に抱き付かんばかりに催促をしてきた。…よほど楽しみだったんだな。

 

「慌てるなフランよ。遊びは逃げない。一つずつじっくり楽しんでいこう」

 

「遊びは逃げない……うん! 分かった!」

 

 にぱっっと笑顔をフランは俺に見せてくれる。ああぁもう!この子はほんとに素直だな! フランが素直でかわいくて、あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

 この子の期待に応えたい。俺は拳を強く握る。

 レミリア様はおれのやる気たっぷりな様子を見て微笑みを浮かべた。

 

「そう、準備万端ならよかったわ。じゃあ、さっそくパーティを始めましょうか」

 

『はいっ!(うんっ!)』

 

 レミリア様の一言でみんなの雰囲気が一気にお正月パーティモードに変る。心なしか咲夜も表情が柔らかいし、美鈴も笑顔だ。フランは…言わずもがなすごくはしゃいでいる。

 

「それで白滝、最初は何をするつもりなのかしら?」

 

「最初はですねぇ……」

 

 レミリア様の催促に答えた俺は、様々な遊び道具を入れたカバンに手を入れる。……よし、最初はこれにしよう!

 

 こうして俺たちのお正月パーティは幕を開けたのだった。

 

「そう言えば、図書館のあの二人は来ないんですか?」

 

「パチェが正月は読書に限るって決め込んでて…小悪魔に連れてくるように頼んでいるところよ」

 

「おうふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、まず初めに、福笑いをしようと思います!」

 

『ふくわらい?』

 

 俺の高らかな宣言にフランと美鈴が同じ声を上げた。そうだな、まったくこういう文化を知らない人だとなんのこっちゃとなるに決まっている。声には出していないが見た感じレミリア様も分かってはいないようだった。咲夜は…よくわからないな。

 俺は二人にもわかるように丁寧を心掛けて説明を始めた。

 

~少年説明中~

 

「つまり、目隠しした人が、人の顔の部品を正しいと思う位置に間隔で置いていくって遊びですか」

 

「そういうことだな」

 

 美鈴のまとめの言葉に俺はうなずく。さすが呑み込みが早い。だがフランは首をかしげていた。

 

「でも白滝さん、目隠ししてるなら、変な顔になっちゃうよ?」

 

「それを楽しむ遊びなんだよ」

 

「そうなの? よくわかんない…」

 

「はははっやってみればわかるさ。じゃ、用意するから待ってて」

 

 そう言って俺は人里で買った福笑いセットを出して机の上に置いた。皆もそれを合図にその机を囲む。

 

「それじゃ、最初にやってみたい人は?」

 

「はいはい! フランやる!」

 

「よーし、じゃあフラン。この見本を目指しておいていくんだぞ?」

 

「うん!」

 

 フランが楽しそうに笑いながら見本を見て、目隠しをし始める。俺もそのようすを微笑ましくみていると、レミリア様が俺のそばに寄ってきて耳打ちをした。

 

「白滝、ほんとにこんな遊びが面白いの?」

 

「日本の伝統的な遊びですから、面白いのは保証しますよ。ただ、一番面白いのは福笑い自身じゃなく、目隠しを外した時の驚きと、その驚きの様子を見て笑いあうことなんです」

 

「…なるほどね」

 

「準備オーケーだよ!」

 

 フランがそう声を上げた。確かにフランの目には目隠しがされているし、準備万端な様だ。

 

「フラン様、ファイトです」

 

「うん、ありがとう美鈴!」

 

 美鈴の応援でさらに笑顔になった……口見えないからわかんないけど、きっと笑顔であろう。フランの準備がいいなら、さっそく始めよう。

 

「よし。じゃあ、まずは……目からだ。さ、フラン、今渡したのは目だよ」

 

「分かった! ……えーと…ここかな?」

 

『……』

 

「次、もう片方の目だ」

 

「うん! ……ここっ」

 

『…!?』

 

「次、眉毛だ」

 

「はーいっ……ここだー!」

 

「あっちょっとフランそこちがっ」

 

「レミリア様、指示出しは厳禁です」

 

「えっそうなの!?」

 

「いろいろルールはありますが、俺の地域ではそうでしたので、ここはそれに従ってください」

 

「んー…つい口出ししそうになっちゃうわね…」

 

「我慢です。ほいフラン次は、もう片方な」

 

「うんっ……そこっ!」

 

「あっ…」

 

「……次、口な」

 

「ここかな…いやここだ!」

 

「えっ…」

 

「つーぎ、頬紅だ」

 

「うん、えっと……目と口がここだから…ここかな」

 

「ああっ…」

 

「……レミリア様、楽しんでるじゃないですか」

 

「っ!? これは、そのっ違うのよ! ただフランにはせっかくだししっかり顔を完成してほしいなぁとか思ってるだけで!」

 

「童心に帰るくらい、別にいいと思いますよ」

 

「……ま、あんたの言う通りかもね」

 

 そんなこんなで、フランの福笑いは完成して――

 

「よし、フラン。じゃあ最後に、目隠しをとって自分の作った顔を見てみようか」

 

「うんっ!」

 

 フランは目隠しをゆっくりとはずして、恐る恐る目を開く。そして自分が正しいと考えて配置し完成した顔をみて、驚くほど目を丸くした。

 

「えー!? なんでこんなになってるの!?」

 

 驚きのあまりフランは声を上げた。自分では完璧だと思ったのであろう。しかしそれが福笑いの面白い所である。

 フランの作った福笑いは…目が近すぎた。そこから全体のバランスが崩れ顔の中心にすべてのパーツが集まってしまっていた。……あれだ、某ミサワ先生の絵みたいだ、目が離れすぎているの人だ。

 

「なんでだろー! 絶対大丈夫だと思ったのに!」

 

 フランは驚きを隠せないでいる。

 

「ほら、だから違うって言ったじゃない」

 

 レミリア様のつぶやきにフランがぶーと口を尖らせ

 

「そんなこと言われても分からないよー」

 

 と言った。だがフランもそうは言いつつも笑っていたし、レミリア様も微笑みを浮かべていた。

 不意に、「くすっ」と笑う声がした。その方を見ると美鈴が口を押さえて笑っていたのだった。

 

「美鈴?」

 

「ふふっごめんなさい。でも、なんだかじっと見てたら……あははっなんだか笑えて来ちゃって…」

 

「そう言われると…ふふふっフランの作った顔、おかしー! あはははっ」

 

 美鈴につられてフランも笑い出してしまった。うーむ、さすが福笑い。「じわじわくる」というやつだろう。これも福笑いの面白い要素だ。

 

「ねねっ、次は美鈴がやってみてよっ!」

 

「えっわっ私ですか!?」

 

「うんっ! すっごく楽しいよ!」

 

 フランに次をすすめられた美鈴がちらりと俺の方を見る。俺は頷いてフランの意見に賛成の意志を伝える。

 

「では失礼して…よろしかったですかレミリア様?」

 

「ええ、構わないわ」

 

 美鈴の問いにレミリア様もうなずいた。さすが美鈴、主にも許可を取るとは真面目だな…。

 美鈴は、先ほど見ていて要領などを得ていたのか早速目隠しをつけ始める。うむ、やる気満々だな。

 俺は美鈴が準備が整うのを見計らって最初の顔のパーツを美鈴に渡す。

 

「ほい。最初は、目だ」

 

「はい……えっと…ここかな?」

 

「あ、そこじゃないよ美鈴! もっと右っ」

 

「え? じゃあ…このあたりですか」

 

「そうそう!」

 

「……じゃあ次、もう片方の目な」

 

「分かりました。ここが右目だから…ここかな?」

 

「ちがうよ! もっと下だよ」

 

「そうですか? …じゃあ、ここらへんかな?」

 

「うん! 正解!」

 

「よかったですっ」

 

『……』

 

「……指示出し、ダメなんじゃないのかしら?」

 

「んー…二人とも楽しそうだからよし!」

 

「…あ、そう」

 

「勝手な人ですね」

 

「そう言うなよ咲夜……」

 

「そう! そこだよ、美鈴!」

 

「はい!」

 

『……』

 

 なんだか別ゲーになりだした美鈴の福笑いは別の意味で順調に進んで――

 

「うん! かんぺきだよ! 美鈴!」

 

 最後の部品を置いたとき、フランの歓声が上がった。美鈴もそれに呼応して目隠しを外す。そして、美鈴の顔が驚きの表情に変わる。

 

「わっ、ほんとです! 見本のままですね!」

 

 美鈴が驚きの声を上げると同時にフランが満面の笑みを浮かべた。それにつられて美鈴も笑顔を見せる。

美鈴の作った福笑いは、まさに言葉通り、完璧であった。いやまぁ…指示があったということもあるが、途中からフラン見本片手にもってたし。なんというかルールブレイク甚だしいが……二人の笑顔がまぶしいから良し! 隣でレミリア様がため息ついてた気がするけど気にしなーい。

不意にフランが美鈴の方に手を上げた。美鈴は最初きょとんとしていたが、何をしたいのかわかったのか美鈴も同じ方の手を上げて、

 

『いえーい!』

 

 二人ハイタッチをし合い、また二人で笑いあった。その様子を見ていた俺たちの心情はきっと一緒のものであっただろう。

 

⦅二人が楽しそうでなによりです⦆

 

 美鈴とフラン、二人が仲よさそうにしているのを見ていると、なんだか心が浄化される。すっごく癒される。メイフラだな、メイフラは希望の虹だな。

 

「じゃあ次はお姉さまの番ね!」

 

「……え?」

 

 美鈴とははしゃいでいたフランが唐突にそう声を上げた。ほんとに唐突すぎて俺たちは一瞬理解ができなかった、まして呼ばれた本人であるレミリア様はきょとんとした声を上げてしまったレベルである。

 だがそんなことはお構いなしのようにフランはレミリア様の手を取って、無理やり福笑いをする席に座らせた。

 

「さ、お姉さま! 目隠ししてっ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいフラン。いきなりどうしたの?」

 

 フランに無理やり目隠しを渡されたレミリア様だったがそこでフランの勢いを制止させた。うーむ、あのレミリア様がタジタジとしてるなんてなかなかない光景だ、さすが唯一の妹と言ったところか。

 フランの動きは制止されたが興奮冷めやらぬようでフランは笑顔のままレミリア様に攻める。

 

「この福笑いねすっごくおもしろいの! 最初フランね、あんまり面白くなさそうだなぁって思ってたんだけどね、でもでもすっごく楽しかったの!」

 

 フランはテンション高いまま手をぶんぶんと振りそう語った。その勢いにまたもレミリア様は若干たじろぐような様子を見せる。

 このままレミリア様を無理やり福笑いの世界に引き込ませるかと思いきや、そこでフランの動きが止まった。そして「だから…」と呟いて

 

「だから、お姉さまにも楽しいって感じてほしいなぁって思って。……ダメ?」

 

「っ!」

 

 そしてからの上目づかい! これは可愛い! もはやあざとい! あざとリストだ!

 その可愛さに、この頃妹溺愛ぎみのレミリア様は耐えることなんてできるわけがなく。

 

「わっわかったわよ。フランがそこまで言うんだったら、やってあげようじゃない。…まぁ別に元から断る理由なんてないんだけどね」

 

「ほんとにっ!? わーい!」

 

 折れたレミリア様にフランは思いっきり抱き付いた。驚いたレミリア様だが「もう…」となぜか嬉しそうに呟いてフランの頭を撫でた。うーむ、レミリア様の完敗だな。しかしフラン、今の行動を狙ってやっていたとしたら相当な策士だぜあれ。まぁあのフランに限ってそんなことはないだろうがな。

 そんなこんなでレミリア様も福笑いをすることに。だがいざ目隠しを渡されたレミリア様は若干難しい顔をしていた。

 

「今考えると、目隠しで場所を当てるって、なかなか難しいわよね」

 

「まぁ、難しいからこそ変な顔になって、それを楽しむ遊びですから」

 

「大丈夫だよお姉さま! フランがばっちり指示してあげるから!」

 

「…そうね。頼もしいフランがいるんだもの、難しいことなんて無かったわね」

 

「うん!」

 

 高らかに宣言するフランに、若干の安堵の様子を見せるレミリア様。さっきの弱腰と言い、今の安堵の表情と言い、こういう遊びは、レミリア様苦手なんだろうか…

 ……きゅぴーん。いいこと思いついた。ふふ、これは楽しくなりそうだ。

 俺は今考えた計画を実行するべくフランに声をかける。

 

「実はなフラン。この遊びは、他の人の指示出しは禁止されてるんだ」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「ああ。さっきはフランは初めてだったから目をつむってたけど、今回は指示は出しちゃダメ。わかった?」

 

「うん……わかった。でも、お姉さま、大丈夫?」

 

「えっ? あーそれは…ええっと」

 

「大丈夫だよフラン。フランだって、ちょっと変になっちゃったけどちゃんとできたんだ。それなのに、フランのお姉ちゃんであるレミリア様ができないわけないだろ?」

 

「!」

 

「あ…そっか。お姉さまだもんね! フランがいなくても、ちゃんとできるよね!」

 

「!?」

 

「うん。そうですよね、レミリア様?」

 

 俺は、動揺するレミリア様の心情をあえて無視するように、でも自尊心をくすぐるように聞いた。様子を見るに、やはりレミリア様、こういう「遊び」という類が苦手なのだと感じた。そうなれば……ふふ、慌てふためくレミリア様の姿を拝めるチャンス!

 そんな俺の思惑謎知る由もなく、俺とフランからのあれほどの期待をかけられたレミリア様に逃げ道などなく。

 

「ふっ、ふふふっ、いいわ。格の違いというものを見せつけてあげる! 紅魔館当主の名に懸けてね!」

 

 こうして、レミリア様の福笑いチャレンジが今始まった――

 

 

 結果は……

 

「よし、これで最後よ! はい、完成」

 

『……』

 

「なに? みんな全然反応無いけれどどうしたの?」

 

『……』

 

「なによ、無反応はないんじゃないのかしら? まったく、どんな感じなの――……」

 

 ついに、作製した本人まで黙ってしまった。

 だが、それも仕方ないだろう。なぜなら……

 

 俺達の予想を飛び越えて、圧倒的に下手だったからである。

 

 なぜ口がおでこにあるのか。なぜ目が両方右側に偏っているのか。なぜ眉毛が髪の毛と一体化しているのか。なぜ頬紅は重なってしまっているのか。なぜ鼻は輪郭外に出てしまっているのか。

 その絶望的なまでの下手さ、そして相手が「あの」レミリア様であるという点において、俺達はレミリア様にかける言葉を見失っていたのだった。

 

 この場にいるすべての人が絶句している中、一人の命知らずの猛者、十六夜咲夜が重い口をゆっくりと開いた。

 

「これは…ある意味才能ですよ、お嬢様」

 

 その、全くフォローと取れない咲夜の一言に、レミリア様の表情に亀裂が走った。

息をのむ俺。レミリア様はわなわなと震えだす。仮にも彼女は紅魔郷当主。どんな状況であっても自分を見失わないはず! そう考えていたのだが……ついにレミリア様は爆発してしまい、

 

 

 

「もう福笑い禁止―――っ!!」

 

 

 

 ということで、福笑いは、ここで打ち切られてしまった。無念!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、次は羽根つきをします!」

 

「どういうことなのか説明してほしいけど…」

 

「自分の胸に聞いてください」

 

 さて福笑いは誰かさんのせいで終わってしまったので、次の遊びに移行する。俺はカバンの中から羽子板二つと羽を取り出す。

 

「さっきはインドアな遊びだったから今度は体をうごかす遊びにしよう!」

 

「その羽根つきというものは体を動かすものなのですか」

 

「イエス。テニスは分かるよな?」

 

「はい」

 

「そのテニスの、ボール代わりであるこの羽を下に落とさないようにするタイプの遊びなんだ」

 

「なるほど」

 

 俺の言葉にいち早くうなずいたのは意外に咲夜であった。正直、あの福笑いの時にあまり乗ってこなかったから、あんまりこういう正月で遊ぶってこと自体そんなに好きじゃないのかもしれないと思ったが、そういうわけではなかったんだな。咲夜は福笑いやってるイメージは無くても、羽根つきなってる想像は確かに…うん、できるな。

 

 

 さて羽根つきをするということで、俺たち一行は外にやってきた。羽根つきだからな、部屋なんか狭くてできないし、まず屋内でやること自体雰囲気がない。やはり外でやらねば、という魂胆である。

 だがしかし…そうなると…

 

「お外だから、フランたちはできないねー」

 

「そうね。出れないわけじゃないけど、この傘を持ちながらじゃ、体を動かす遊びはできないわね。だから羽根つきは、咲夜と美鈴で楽しみなさい」

 

「お嬢様を差し置いて楽しむなど…」

 

 そう吸血鬼姉妹は呟やき、咲夜はレミリア様の提案に反対の意を示す。。今はまだ昼間である。太陽はいつものように上っている。そんな中あの遮光傘を持ちながら羽根つきをするのは難しいだろう。まぁ羽根つき自身そこまで激しく体を動かすものではないのだが。

 だがしかし、俺はそこのところもちゃんと考えてきているのだ!

 

「安心してくれ、実は羽根つきは、羽をつくことだけが主役じゃないんだ」

 

「どういうことですか?」

 

 美鈴の質問に俺は頷きで返すと、カバンの中から、あるものをを取り出した。

 

「筆と、墨汁ですか?」

 

「そう。この羽根つきにはルールがあってだな。羽を落としたら罰ゲームがあるんだ」

 

「ばつげーむ?」

 

「うぬ。その罰ゲームというのが、この筆に墨をつけて顔に一筆落書きをするってのなんだ」

 

「顔ですかっ!?」

 

「なかなか…嫌な罰ゲームですね」

 

 狼狽する美鈴と咲夜。まぁ墨っていう真っ黒いものだし、女性的にはあまり顔にそれを塗られるのは好ましくないだろう。だが、嫌がってこその罰ゲームなわけで。

 俺は筆と墨汁をレミリア様とフランのところに持っていく。

 

「女性からしてみるとそうかもな。それで、その罰ゲームの係りを二人にしてもらいたいわけです。それでどうですか? レミリア様、フラン?」

 

「…そうね、それなら悪くないわ」

 

「落書きなんて面白そう!」

 

 二人の反応も悪くない。ならば、そういう風な配置で行こう。

 俺は咲夜と美鈴の間に入る位置、つまるところ審判のポジションについて二人に声をかける。

 

「二人とも、準備はいいかー?」

 

「はーい、大丈夫ですよ!」

 

「問題はないです」

 

「OK! それじゃあ美鈴対咲夜の羽根つき対決を始めよう!」

 

 俺のその言葉のすぐ刹那に、二人の間の空気が張りつめた。二人とも戦闘モードに入ったようである。遊びとはいえ、勝負事。この二人なら真剣になるだろうと踏んでいた。だからこそ、面白い勝負が見られると考えている。

 視線をレミリア様に向ける。レミリア様も俺と同じ期待を持っているようで、どこか誇らしそうで、満足そうな表情をしていた。フランは純粋に楽しんでいるようで、ぴょんぴょんと小さく飛びながら「二人ともがんばれー」と声援を送っている。二人の勝負が始まるのを心待ちにしているようだ。

 

「打ち方は、何でもいいんですよね」

 

 最初に羽を打つ咲夜がそう俺に尋ねた。俺は頷きながら答える。

 

「うん、特に決まったことはないよ。危険なことはダメだけどね」

 

「分かっています。それじゃ、いきますよ、美鈴」

 

「はい! あっでもあんまり動くと着物着崩れちゃうかも…」

 

「今は、それは気にせず行きましょう。制限なく、楽しくやりたいですから」

 

「あ……へへ、はいっ!」

 

 美鈴の返事を聞いた咲夜は構える。それに呼応して美鈴も構えを作った。

 そして咲夜は羽を自身の真上の上空に投げ、羽子板を持った右手を振りかぶり――っへ? 振りかぶり?

 咲夜の撮ったフォームに俺は理解が追い付かないまま、咲夜は振りかぶった右腕を鋭く振り下ろした。

 

 パシュンッ!

 

 およそ、羽根つきでは聞こえるはずのない風を切る音が俺の耳に入る。え? 今の羽が風を切る音? ってか今高速で俺の前を通って行ったの羽だったの!? 羽根つきの羽の早さじゃなかったぞあれ!?

 

 咲夜の羽根つきではありえないサーブ。だがさらに驚くことが次の瞬間起こった。

 

「よっと」

 

 うっ…打ち返した…だと!? 美鈴、今の殺人サーブを打ち返したのか!? しかも打ち返しの弾速も早い! あっありえん……なんということだ。

 サーブを打ち返された咲夜に視線を向ける。だが咲夜も打ち返されたことに驚く様子もなく、美鈴の打ち返した球をまたも強烈なショットで返す。あの殺人サーブが返されるのは想定済みだったという事か!? 常人だったら手も足も出ない速さだぞ。

 しかしこれも美鈴は、難なくこちらもまた力強いショットで返した。

 

 ……次元が違う。俺の知っている羽根つきはもう死んでしまった。俺たちが今までやっていた羽根つきは咲夜たちから見るとお子様プレーだったのであろう。この二人とは、格が違いすぎる。

 

 二人の応酬はまだ続いていた。もはや早すぎて何合打ち合ったかも分からなくなってしまった。

 俺はちらっとレミリア様達の方を見る。

 

「うん、いい勝負ね」

 

「いけ! そこだ! やっちゃえー!」

 

 レミリア様はすっごく満足そうな顔で、フランは大興奮の様子で二人の勝負を見ていた。あぁ…二人の羽根つきのイメージが、この超スピード高速羽根つきで定着されていく……。なんということだ、もはやこの四人にとって、『普通の』羽根つきはぬるゲーでしかなくなってしまった。俺はがっくりと頭を下げうなだれた。舐めてた、紅魔館陣営のスペックの高さ舐めてたわ。

 

 不意に、高速で叩かれているはずの羽の音がやんだ。それと同時に、

 

「あー! 美鈴が落としたよ!」

 

 フランのそんな声が耳に入った。ぱっと俺が顔を上げると、確かに美鈴の足もとに羽が落ちている。今の打ち合いは美鈴がどうやら負けたようだが……しまった、決定的瞬間を見逃した! 俺のバカ!

 

「いやー、やられました。まさかあそこで曲げてくるとは。反応できませんでしたよ」

 

「反応できなかった? その割にあの食いつきですか。あと二センチも板が下だったら、返されていましたよ」

 

「門番の意地です」

 

「……そうですか。頼もしいですね」

 

 白熱の勝負をし合った二人は、笑顔を見せながらそう会話しあう。気持ちのいいライバル通しの会話みたいである。ってか曲げた? 羽根つきってカーブ打てるの?

 俺が二人の会話内容に困惑している中、レミリア様とフランが、こちらに近寄ってくた。

 

「負けた美鈴にはー?」

 

「罰ゲーム、ね」

 

 二人はそのまま美鈴に近づき、筆に墨汁をつける。その様子は二人とも笑顔である。レミリア様も笑顔とは珍しい。まぁ人の顔に墨で落書きなんてなかなかできることじゃないからな。ドS心も相まってか面白いのかもしれない。それに、先ほどの試合、なかなか長引いたから二人とも早く罰ゲームしたくてうずうずしていたんだろう。フランなんか羽パたぽたせて楽しんでるのが顔を観なくても分かる。

 

「おっ、お手柔らかに…お願いしますね?」

 

 迫りくる二人に、苦笑いを浮かべる美鈴。だがその言葉にフランは無慈悲な言葉を返す。

 

「美鈴は負けたんだから、手加減は無用だよ!」

 

 世の理であった。負けたものに慈悲はない。

 フランはこれ見よがしにたっぷりと筆に墨を含ませた。そして美鈴の顔にゆっくりと近づかせて行き……

 

「まーるっ!」

 

 美鈴の右目の周りをぐるりと筆で一周させた。美鈴の顔に見事な黒丸ができる。

 

「あはははっ! 美鈴おっかしー!」

 

 そしてフランは美鈴の顔を見てきゃっきゃと笑い出した。フランは幼い子供である。こういういたずら系は好きなのであろう。

 フランがあまりに笑うので美鈴は焦りだす。

 

「えー! どんな感じになってるんですかー!?」

 

「すっごくおもしろいよ美鈴の顔!」

 

「フラン様ぁー」

 

「ちょっと美鈴、動かないで? 次は私が書くんだから」

 

「ああ、はいっ」

 

 フランに問い詰めようとしていたであろう美鈴の動きをレミリア様が止める。美鈴は律儀にもレミリア様が書きやすいように正面を向いて静止した。

 

「そうね……フランがそう書いたなら、私も同じにしましょうか」

 

「えっちょっとレミリア様?」

 

「問答無用よ、えいっ」

 

 拒否の姿勢を見せた美鈴の意見など無視し、レミリア様は先ほどのフランと同じように円を、今度は美鈴の左目を囲うように書いた。

 

「はい、完成」

 

「あははははっ! 美鈴パンダさんみたいー! もぅおっかしー!」

 

 さらにフランの笑いのツボに入ったようで、フランが転げる勢いで笑い出す。その様子を見てさらに美鈴が慌てだした。

 

「ええー!? ほんとどんな感じになってるんですかー!?」

 

「いい感じに、おバカっぽくなってるわよ、美鈴」

 

「それよくない感じですよ!」

 

「あら、案外似合ってますよ、美鈴」

 

「落書きが似合うって、どんな美的センスですか……ねぇ白滝さん、どんな風になってるんですか? 私の顔」

 

 みんなからお褒めの言葉(?)をいただいた美鈴は俺の方に顔を向ける。その表情は若干涙目であった。

 どれどれ……ほほう、これはこれは、二つの円が綺麗なシンメトリーを醸し出している。まるで00ライザーから放たれる二つのGN粒子サークルのようだ。そしてその二つの黒墨の円が美鈴の綺麗な顔をいい感じに台無しにしており、結果として……

 

「……ぷっ、くくくく…」

 

「しっ白滝さん!?」

 

「いやっごめ、美鈴…ははははっ、面白いわその顔!」

 

「うわーん! 白滝さんにも笑われたぁ!」

 

 結果として非常に面白い顔になっていたのである。ごめん美鈴、笑う気なんてさらさらなかったんだけど……草不可避ですわ。

 

 頭を撫でたりなどして美鈴をなんとか慰めた俺達。だが当の美鈴が

 

「これ以上汚されるのは嫌です………でも…白滝さんになら汚されても……ってなんでもないですよ!?」

 

 となにかトラウマのようなものを植え付けられてしまったため戦闘続行不能。後半何を言ってるのかは聞き取れなかったが、本人何でもないとか言ってたし、気にしないでおく。まぁ確かに顔に落書きされてしかもそれを笑われるのは、女性としてはけっこうショックが大きい気がした。男目からするとさほどでもなさそうなんだけどね。

 しかし、美鈴ができないとなると、この羽根つきもお終いかな? まだ一回しかやってないけど、なんかもう十分な気がする。お腹いっぱい感バリバリ。

 残念だが、仕方がない。俺は羽根つき終了のお知らせをみんなに伝えようとした。

 

だがその時、俺はありえない言葉を耳にする。

 

「美鈴が駄目なら……次は咲夜対白滝ね」

 

 ……え? 今なんと?

 

「俺が…咲夜と羽根つきを…? そんな…そんな酷なことをおっしゃるのですか、レミリア様は」

 

「いや、どこが酷なのよ。順当に考えてそうでしょう?」

 

「いや、それはそうなんですけどっ」

 

 確かに、普通に考えれば、美鈴が駄目な今、咲夜と俺が羽根つきをするのは当たり前のことである。当たり前すぎて、見てみて! 反吐が出たー!

 俺の反抗の理由が分からないようで、レミリア様は怪訝な顔をする。

 

「なに、白滝実は、羽根つきそこまで好きじゃなかったりするわけ?」

 

「いや、そういうわけじゃなく……」

 

 そう、そうじゃないんだ。羽根つきが好きか嫌いではなく、もっとおぞましい……

 俺の煮え切らない反応に少しイライラしてきたのかレミリア様が迫ってくる。

 

「じゃあ、落書きされるのが嫌とか?」

 

「それも違くて…」

 

 むしろフランとレミリア様に落書きされるのはご褒美です。ってそうじゃなくて。

 

「じゃあ、いいじゃない。何が問題なのよ」

 

「……あんな」

 

「あんな?」

 

「あんな殺人的なレベルの羽根つきに参加できるわけないじゃないですかっ!」

 

 無理だよ! 不可能だよ! 咲夜の相手するとかムリゲーだよ! だって咲夜がやってる羽根つきと俺の知ってる羽根つきはもう根本的に何かが違うんだもの! 俺は必死の叫びをあげた。

 だが、その叫びはレミリア様に届くわけもなかった。

 

「咲夜に勝てるわけないから羽根つきをやりたくないっていうの? 情けない男ね」

 

「うっ」

 

「勝負してもいないのに、まず土俵にも上がらないなんて、男のすることじゃないわよ?」

 

「うぅ…」

 

 そう言われると痛い。確かに男のすることじゃない。いわばこれは敵前逃亡である。だが……だがしかしっ、これに参加する勇気など、俺は持ち合わせていないんだよ!

 

「やっぱり、俺にはむr」

 

「じゃあフラン、白滝さんが勝てるように、応援するー!」

 

「…ゑ?」

 

「だから、白滝さん! ふぁいと!」

 

「……」

 

 試合辞退をレミリア様に告げようとしたとき、フランがいきなり声を上げ、俺にそう言ったのだ。しかしその言葉は、敵から逃げようとした俺への、励ましの言葉だったのだ。フランの笑顔が、俺の心に突き刺さった。

 

「フランの声、聞こえたわよね。……フランの期待を裏切るのかしら?」

 

 レミリア様が、俺に羽子板を渡してきた。先ほどまでの俺だったらこの羽子板を絶対に受け取ることはしなかっただろう。

 

だが、今は……今の俺には、フランの励ましの声がある。フランからもらった勇気がある! 俺は羽子板を強く握りしめた。

 

フラン、よく見ていろ。これが、お前のために戦う、男の姿だ。

 

俺は咲夜の正面を切り、構えをとった。

 俺は目の前の、今は敵である咲夜に声をかける。

 

「咲夜」

 

「なんですか?」

 

「手加減は無用だ。全力で来い!」

 

「…分かりました」

 

 俺の願いを受け入れた咲夜も構えを作った。

 

 こうして、俺と咲夜の熾烈な羽根つきバトルは、幕を開けたのだった――

 

 

 結果として、俺は全敗して顔を余すところなく真っ黒に塗られたとさ。まぁ、予想通りだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、次はかるたをします!」

 

「あっフランかるた知ってるよ! 札をべしって取るやつでしょ?」

 

「お、正解だぞフラン。えらいえらい」

 

「えへへー」

 

 俺はフランの頭を撫で、フランはにへらと笑う。しかしなんて可愛い子だろう…

 俺がフランを愛でているとレミリア様が咲夜と何やら話し始めた。

 

「咲夜、かるたなら確か…新品同然のやつ、あったわよね」

 

「ええ、去年の正月に紅魔館が宴会会場になった時の忘れものとして」

 

「あー…去年のあれのか…」

 

 …去年ここで宴会あったのか。レミリア様の苦虫でもつぶしたかのような表情に、安易に大変だったんだろうなという予想がつく。主に準備と後片付けでの咲夜。

 ふむ、紅魔館にかるたがあるなら、俺が持ってきたのはわざわざ出さなくてもいいかな。なにせ俺が人里で入手したこれ、結構古いやつだから紅魔館メンバーには合わないとは思ってたんだよね。フランに古いかるたをやらせたくないし。できれば新品に触れてほしかったからな。

 

「それじゃあその新品の方、お願いできますか」

 

「構わないわよ、咲夜」

 

「はい、かしこまりました」

 

 レミリア様の指示によって、かるたを持ちだしに、部屋を出ようとした咲夜。だがその咲夜が部屋のドアを開ける前に、そのドアはなぜか、勢いよく開かれたのであった。

 静粛するこの場。咲夜さえも状況が呑み込めず動けないでいた。

 

「かるたなら、ここにもあるわよ、レミィ」

 

 ドアの方からそんな声が聞こえてきた。聞き間違えるはずもない、この声、そしてレミリア様への独特な呼び方。この人はまさしく…

 

「動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジっ!」

 

「紹介ありがと」

 

 俺のこぶしの聞いた叫びを軽く受け流し、パチュリーさんは部屋に入ってくる。その後ろからこあさんこと小悪魔さんが少し疲れたような顔をして入ってきた。

 

「お疲れさまですね、こあさん」

 

「あぁ白滝さん。大変でしたよぉ、パチュリー様全然動いてくれないんですもん」

 

「ははは、でもそれなら、どうして急に?」

 

「さぁ……召喚陣で、何かしらの物を呼び寄せたかと思ったら、急に行くって言い出して」

 

「ふむ? その何かしらのものとは?」

 

「これのことよ、白滝」

 

 不意にパチュリーさんが俺とこあさんの会話に入ってきた。

 

「これとは、どれのことですか?」

 

「これってのは、このかるたよ。このかるたのことをあなたに聞きたくてね」

 

 そう言ってパチュリーさんは俺に一つの箱を見せてくる。パチュリーさんほどの引きこもり、もとい本の虫を動かすほどのかるたとはいったい――? 俺はその箱を見てみた。

 瞬間、俺の思考が止まる。まっ…まさか……まさかこいつはぁ!?

 

「こっこれは…」

 

「やはり、これが何かわかるのね、白滝」

 

「あぁ間違いない。これは…このかるたはっ!」

 

 俺は驚きのあまり、この箱を手に取り、椅子から立ち上がり、そして叫んだ。

 

「2007年の年末にDEARSから発売されたCV釘宮理恵による『ツンデレカルタ』じゃあないか!!」

 

『……』

 

 みんな俺の様子を見て唖然としている。パチュリーさんだけがふむふむと聞いていた。

 

「素晴らしい…まさかこれが幻想入りしていたとは…」

 

「それ、幻想入りじゃなくて、私が外の世界から引っ張り込んできたのよ」

 

「まじっすか。そんなことできるんすね」

 

「初の試みだったけどね。何とかなったわ」

 

 パチュリーさんが自慢げにそう答えた。マジか…まぁ幻想入りするほど不人気でもないし、古くもないからおかしいとは思ったんだけど、小型の物体ならもう幻想入りさせれるという事か。

 …ん? でも待てよ?

 

「しかし、パチュリーさん。なんでまたあなたがこんな辺鄙なものを?」

 

「辺鄙って……そうね、でも魔法使いとしては、こんなかるた見過ごせないわ」

 

「? 魔法使いとこれ、関係あるんですか?」

 

「それ、魔法のかるたなんでしょ?」

 

「へ?」

 

「だって、音声と画像のみで世の男を虜にしてしまうカルタだって本に書いてあったから。それはもう、魔法の類でしかないじゃない」

 

「あっ、あぁー……なっなるほどー」

 

 それはねパチュリーさん、魔法の力じゃなくて「萌え」の力だよ。いや、…萌えも魔法の力みたいなもんか。とある大学の教授が「萌えとはいついかなる時でも無尽蔵に湧き、人間という存在を行動へと駆り立てる。それはまるで力尽きることはない魔法のようだ」と言っていたのを思い出した。その教授の言っていることが妄言か真実かはわからないが……あながちま違いでもないという事か。……って納得しそうになったけどやっぱり関係ねぇから! パチュリーさんそれ調べても魔法こと勉強できずに、変な方向の勉強出来ちゃいますよ! まぁ……この人たちに萌えを説明しても理解できないか。

 

「そっ…そんなにすごいものなの白滝?」

 

 レミリア様がなぜか深刻そうな顔をしてこちらを見る。…あれ? ガチだと思ってる? さすがレミリア様、変なところ純粋だ。

 さてなんて答えようか。違うと否定し萌えについて語るか。もしくは、そうだと肯定しレミリア様がまんまとだまされる姿を拝もうか……萌えについて語るのがめんどくさくなったので、

 

「まぁ、間違いではないです」

 

 と正解とも不正解とも取れる答え方をしておいた。その言葉を聞いたレミリア様は何も言わず、ただ深刻そうな顔をしたままつばを飲み込んでいた。

 

「えっと…それで…、そのつんでれかるた? というのを今からやるんですか?」

 

 美鈴が俺とパチュリーさんに向かってそう聞く。

 うーん…どうしようかな。確かに「あ~わまでの一文字からなるツンデレなセリフが書かれたカルタ」というこのカルタの性質を見ると気が引けるが、別にかるたをえり好みするつもりはない。俺は、「カルタで遊んで、楽しんでもらう」ということを中心に考えているからな。別段ツンデレカルタでも問題はない。

 それに…

 

「ええ。研究の材料にしたいから、ぜひやってくれると助かるわ」

 

 とパチュリーさんが即答したことによって、このカルタで遊ぶことはほぼ確定した。

 俺は、うんと頷いてみんなに許可の是非を聞く。

 

「ということで、このカルタをやってみたいんだけど、みんなそれでいい? けっこう特殊なカルタだけど」

 

「フラン、楽しいことなら何でもいいよ!」

 

「白滝さんと楽しめるならそれで!」

 

「構わないわ。外の世界の特殊なカルタなんて、興味あるしね」

 

「お嬢様がよろしいのであれば」

 

 というみんなからのOKも出たので。俺たちはこの「ツンデレカルタ」で遊ぶことになった。……セリフだけで誰がしゃべってるのかわかるなんて、やっぱりキャラの濃い面子だよなぁ…

 

 

 

 

 俺はパチュリーさんから箱をもらい取り札を机に広げ、みんなにそれを囲うようにしてもらう。普通カルタは畳の上、つまりは床でやるものだが……ここは洋館であり皆靴を履いている。下でできる環境ではないから机の上で行うことにした。

 また、読み手は、パチュリーさんとなぜかパチュリーさんに指名されたこあさんがやることとなった。なんでも「研究だから客観的なデータが欲しい。自分が参加してしまって熱中なんてしてしまったら何の意味もない」だそうだ。だからこれ魔法じゃねぇから!

 こあさんは「えっ私もですか!?」と驚きの声を上げていたが、渋々ながらパチュリーさんの指名を承認していた。主従関係の厚さをうかがえるな。

 しかし、このツンデレカルタは、あの某声優の力あってのもの。パチュリーさんたちがそのまま読んだら果たしてどうなるか。普通のかるたになるのかな?

 

 

「しかし…ほんと特殊なカルタね。というかこれ本当にカルタなの?」

 

 取り札を見たレミリア様が明らかに嫌そうな顔をした。まぁ普通に想像するカルタと内容は大きく異なるからなぁ。

 レミリア様の疑問に咲夜が答えた。

 

「かるたの定義は、あいうえお順から『を』と『ん』を抜いた46音が頭文字になっていれば良し、ということになってますから。一応カルタではあります」

 

「でも…なんとなく、取りづらいですねこれ…」

 

 美鈴が苦笑いを浮かべた。まぁ気持ちはわかるさ。でもやるとなったからには我慢してもらおう。

 

「ねぇねぇ、白滝さん」

 

「なんだ?」

 

 俺の右隣に位置しているフランが俺の袖を引っ張る。

 

「ツンデレって…なぁに?」

 

「あぁ、そうか。なじみない人には分からない言葉だよな」

 

 今や日本中で使われているが、いわゆるオタク用語ってやつだし。幻想郷でも知っている人はいたが……知らない人は知らないか。

 

「ツンデレっていうのは、性格の種類の一つなんだよ。人に厳しくトゲあるように接する『ツンツン』と好きな人とかにだらしなく甘える『デレデレ』。その二つの性格を持つ人を『ツンデレ』っていうんだ。始まりは『あやしいわーるど』で呟かれた『君が望む永遠』に登場する『大空寺あゆ』ってキャラのことを――」

 

「……?」

 

「…ちょっと、難しい?」

 

「うん」

 

「そうだな。簡単に言ってしまえば、レミリア様みたいな人のことを言うんだよ」

 

「ちょっと、なんでそこで私が出てくるの」

 

「あっ、確かにお姉さま、いっつもぶっすーってしてツーンってしてるけど、フランと二人きりになると、にぱって笑ってデレデレって感じする!」

 

「ちょっ、フラン!?」

 

「ちなみに、時々ではありますが、私と二人きりの時もデレデレとなります」

 

「咲夜ぁ!? あなた冷静に何言ってるの!?」

 

「俺と二人きりの時も、デレデレってしてくれていいんですよレミリア様?」

 

「コロスっ!」

 

 むきーっと怒りをあらわにするレミリア様。久しぶりのカリスマブレイクktkr!

 いい感じにレミリア様をからかえて満足した俺。そんな俺はふと左手の袖がひっぱられていることに気づいた。左隣にいるのは美鈴である。

 

「美鈴、どうしたの?」

 

「あっ、いえ…その」

 

「ん?」

 

「えっと…白滝さんは……ツンデレは好き…ですか?」

 

「んー。好きか嫌いかと言われれば、好きだな。」

 

「そうですか…」

 

「でも、それがどうしたのさ?」

 

「あっいえ! 深い意味はないですよ!」

 

「そうか?」

 

「はい! ……今度、ちょっとやってみよっかな」

 

「?」

 

 なんだかよくわからなかったが、美鈴はいいと言ったし、深くは気にしないでおく。時々不義な行動するよな、美鈴って。

 

 

「みんな、落ち着いたみたいだけど、準備はいいかしら」

 

 俺達の騒ぎが終息した辺りでパチュリーさんが読み札片手に俺達に声をかける。

 カルタのルールを知らない人には先ほど説明もしたし、準備は大丈夫なはずだ。レミリア様はまだ落ち着いていないようだけど。ありゃちょっとやりすぎたな、あとで謝っておこう。

 

「勝つのは、フランだからね!」

 

 唐突にフランが自分の意気込みを口にした。その行動や様子から察するに、相当に気合いが入っているようだ。俺も負けじと声を出す。

 

「ふっふっふっ。お手付きの速さは天下一品と呼ばれた俺に、勝てると思っているのかな?」

 

「白滝さん、それ貶されてます……でも、私も負けませんよ!」

 

「例えお嬢様や妹様相手でも、勝負事は譲れません。ご理解のほどを」

 

「あら、少しでも私に勝てるとでも思ってるの? さっきは恥をかいたけど、このレミリア・スカーレット。紅魔館当主としての力を見せてあげるわ」

 

 みんなやる気は十分である。これは面白い戦いになりそうだ!

 

「そじゃ、一枚目、読むわよ」

 

 パチュリーさんのその一言で、俺達の間には独特の緊張感が広がった。皆、取り札に視線を落とし、よそ見はしない。視覚と聴覚に全力を注いでいる。真剣勝負の証拠である。

 皆が同時に、一斉に構えをとる。さぁ、勝負の始まりだ!!

 

 皆がすべての神経を取り札に集中させる中、パチュリーさんが一枚目を読むべく、口を開いた。

 

 

 

『し、心配なんてしてないんだからね!』

 

 

 

 

「萌えの極み!?」

 

 俺は、パチュリーさんから放たれたその言葉、そして声に驚愕を隠せなかった。そして、俺が驚き身動きが取れない間に。

 

「一枚目はもらったわ」

 

 と、記念すべき一枚目『し』の取り札がレミリア様にとられてしまった。

 よほど悔しかったのかフランがばたばたと手を動かす。

 

「むー! お姉さま早いよぉ!」

 

「これが当主の力よ。ていうか白滝はいきなりどうしたのよ」

 

「あぁいや、…なんでもないです」

 

 俺はあはは、と笑ってごまかした。……うん、さっきのは俺の空耳か聞き間違いだったかもしれない。それか幻聴だったかもしれない。もしかしたら釘宮病を発症しただけかもしれない。だから…うん、さっきのは気のせいだ。

 さ、集中集中……

 

「それじゃ、二枚目行くわね」

 

 次を読む合図をパチュリーさんが告げる。さぁ、次は取らせてもらおう!

 

パチュリーさんが口を開いた。

 

 

『な、なによあいつ! 私というものがありながら! うぅぅぅぅ』

 

 

「これがヘブンか!」

 

 俺はまたもや驚きを隠しきれず、今の『な』の取り札を――

 

「あっ、はい! 取りました!」

 

 美鈴にとられてしまった。またもフランが悔しがったり、咲夜が「やりますね」と美鈴を認めたりしているが、俺は今それどころじゃなかった。

 

 

 パチュリーさんの読み方が……声が……非常に萌える!!

 

 

 なんだあれ声優か!? パチュリーさん実は声優なのか!? もうそんなレベル。声の質感、高さ、そして演技力。あのセリフ一言にぴったりマッチし、尚且つ最大限の萌えをパチュリーさんは引き出していた。この世界の東方登場キャラ、みんなとてもきれいで可愛い声をしているけど、今だけは今のパチュリーさんの声が群を抜いて『萌え』になっていた。なんだあれ、パチュリーさんの意外な能力!?

 なんだよあれ! 悔しい! でも萌えちゃう!ぐへへぐへへ

 

 だがしかし、問題はそこじゃない。問題なのは『パチュリーさんの読みが萌えすぎて、札をとることに集中できないということ』である。このままでは、俺の勝利は、無い。勝負は正々堂々皆平等にやらねばならぬ!

 奇跡か運命のいたずらか、読み手はパチュリーさん一人ではない。俺はパチュリーさんに提案する。

 

「パチュリーさん、次、こあさんに読んでもらってもいいですか?」

 

 俺の変な提案にパチュリーさんは不思議そうな顔をする。

 

「いいけれど、どうしたの? 私の読み方、悪かったかしら」

 

「いや悪かったというか……むしろ良すぎたというか…」

 

「? まぁいいわ。じゃあ次は小悪魔、読んでちょうだい」

 

「あ、はい」

 

 パチュリーさんは読み札をこあさんに渡す。こあさんは少し緊張した様子でそれを手に取った。ふぅ、これでやっと札とりに集中できる。俺は構え治した。

 

「それでは三枚目、いきます」

 

 俺は神経を耳に集中させた。いける、俺ならいける!

 何事かとみていた周りのみんなも今は集中している。この強敵たちに勝たねばならん!

 

 こあさんが、読み札を読むべく、口を開く。

 

 

『ボケーっとしてるんじゃないわよ!! もう蹴り飛ばすわよ!』

 

 

「ありがとうございます!」

 

 俺はまたも驚愕を隠すことができず反応が遅れて、

 

「とったよー!」

 

 『ほ』の札をフランにとられてしまった。良かったなフラン。ってそうじゃなくて!!

 

 こあさんかも……こあさんの読み方と声からも、萌えをめちゃくちゃに感じた!!

 

 なんだこれ今めっちゃ萌えたぞ! 全力でありがとうございますって言っちゃったぞ! ドMになってしまったぞ! 主従そろって声優かこの二人は!?

 俺が取り乱してしまうくらいこあさんも、声の質、高さ、表現、どれをとっても素晴らしかった。パチュリーさん共々、外の世界で声優やっててもおかしくないレベルだと思う。

 

 しかしそうなると…非常にまずい。一枚一枚、それぞれの言葉で俺の心情が突き動かされてしまう。さっきから叫んでいる言葉も、自然と口から出てしまったものだ。

 どうする……どうするよ!? このままじゃ、みんなに負けちまう! なにか…なにか策は!?

 

「一枚一枚交代で読んでいきましょう、小悪魔」

 

「そうしましょう」

 

「じゃ、四枚目行くわよ」

 

 だが、全く考えはまとまらぬまま、良い策も浮かばぬまま、四枚目の読み札が引き続きパチュリーさんの口から発せられる。

 ここから地獄、いや耳から言わせてもらえば天国が始まるのであった。

 

『ラーメン伸びるわよ、はやく食べなさいよ!えっふぅふぅしてくれ? ばかぁー』

 

「ふぅふぅしてぇぇぇ!」

 

「頂きました。これで皆並びましたね」

 

『わ、私だけを見ていればいいのよ!』

 

「Yes,sir!」

 

「もらい! へへ、フランが一番!」

 

『盗まれたのは私の…もうっ、知らない、バカ!! 何言わせんのよ!!』

 

「銭形の父つぁん!」

 

「とう! やった! 二枚連続!」

 

「やるわねフラン」

 

「お姉さまにも負けないもん」

 

『す、好きでこんな格好してるわけじゃないんだからね…あんたの前だけよ…もう…バカ…』

 

「うひょおおおおお!」

 

「はい! 二枚目です!」

 

『変態 変態 変態 変態 変態バカ大変態!!!! もう知らない…』

 

「ぶひぃぃぃぃ!」

 

「はい。お先に失礼します、お嬢様」

 

『NOとは言わせないわよ!』

 

「答えははいかYES!」

 

「よっと。そうやすやすと、先に行かせたりはしないわよ」

 

『目から汗が出てるだけなんだから! 涙じゃないわよぉー!』

 

「それ、いい値で買います!」

 

「えーい! またとっちゃった! これで四枚目―!」

 

『隣に来ないでよ、恥ずかしいじゃない』

 

「むしろwelcome!」

 

「はいっと。これで三枚ね」

 

「……白滝さん、大丈夫でしょうか」

 

「ほっときましょ、あんな変な奴」

 

『勘違いしないでよね、別にあんたのためにやったわけじゃないんだから!』

 

「テンプレキタァァァァ!」

 

 こうして俺は、カルタ46枚分、パチュリーさんとこあさんによって。心躍らされっぱなしで、1枚も取る。ことはできなかった

 結果として、フランが優勝。レミリア様が2位、咲夜が3位、美鈴が4位である。

 

 俺が得たものは、最下位という称号と、みんなから受けた冷たい視線であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも俺たちは遊び続けた。杵と臼があるという話だったのでもち米をもってきていたので餅つきもした。まぁ途中でフランが力と気合い入れすぎて臼を粉砕して餅が土だらけになったけど……フランを宥めるのが大変だった。

 それからコマ回しやお手玉もしたな。……コマ回しはいいとして、お手玉は見本となるべき俺が一切できないという悲惨な状況だったけど。なんで俺、お手玉やろうなんて言い出したんだろう…あ、でもお手玉の唄みんなで歌ったのはよかったな。

 いろいろな遊びをした。これがほんとの「遊び倒す」というものだったのだろう。どの遊びを思い出しても、一番に来る感想は「楽しかった」である。……みんなもそう思ってくれているだろうか。

 

 

 楽しい時間は、あっという間に過ぎるものだ。それは、お正月の元日という特別な日でも変わらず――

 

 

 

 

「白滝さん…もう帰っちゃうの?」

 

「うん、ごめんよフラン」

 

 俺の袖をぎゅっと掴み、とろんとした顔で俺の顔を覗き込むフランの頭をそっと撫でた。

 そう、もう俺は帰らなくてはいけない時間……いうなれば夜になっていた。いやなに、特に用事があるわけでもないが…紅魔館のことを思うと、きっと、俺がいない方が良い。それは、俺が部外者だから、とか、人間だから、とかそう言う事じゃなくて。

 

「でもフランまだ……ふわぁ……まだ遊びたいよぉ」

 

「そんなあくびをしておいて…遊ぶのはまた今度になさい」

 

「やだやだぁ」

 

「妹様、睡眠不足は成長の妨げになります。妹様は成長期なのですから」

 

「むー…」

 

 そう、日中寝ている存在であるはずの吸血鬼が昼間にずっと起きていたのだ。フランに眠気の限界が来ていた。昼間寝て、夕方から夜にかけて起きる、という吸血鬼の生活サイクルを考えると今素直に寝てしまうとそのサイクルが乱れてしまうような気がしないでもないが……だがあの様子だとそれも難しいことである。その点、レミリア様は俺が執事生活をしていた時から思っていたが、日中行動することも少なくなく、サイクル調整をするすべを持っていたようだ。

 フランは、俺の為にそんな生活サイクルを乱してまで、このお正月を楽しんでくれたのだ。遊んでくれたのだ。そう考えると、申し訳なさと一緒に、うれしさがこみ上げてくる。

 俺はその感情の赴くまま、眠そうにして駄々をこねるフランを抱きしめた。

 

「ありがとう、フラン。今日は楽しかったよ」

 

「フランも楽しかったよ、白滝さん。でも…フランもっと遊びたい」

 

「それは俺も同じだよ。でも、フラン、眠いまま遊んだって楽しくないよ。そう思わない?」

 

「……楽しくないと思う」

 

「うん。俺もフランが眠そうにしてたら、どんな遊びだって楽しめないよ。だから、約束」

 

「約束?」

 

「そう! 約束。次は、フランの眠くならない夜に、いっぱい遊ぼう?」

 

「……えへへ、うん! 約束!」

 

 声から、フランが笑顔になったのがわかる。うん、この子はほんとに…ほんとに純粋な子だ。この純粋さを……大切にしなくちゃいけない。俺は、約束という言葉を大切に胸の中にしまう。

 俺は両手を離し、フランを抱きしめるのをやめた。フランの顔は、やはり笑顔になっていた。俺はフランの頭を軽く撫でる。

 それから俺は、視線をレミリア様の方へ向ける。

 

「ということなのでレミリア様、次御呼ばれしていただくときは…」

 

「ええ、夜、呼ばせてもらうわね」

 

「はい。お願いします」

 

 レミリア様は了承してくれた。よし、これで大丈夫だな。そろそろお暇させてもらおう。

 そう思い、最後の挨拶を口にしようとしたとき、ふいにレミリア様の口が開かれた。

 

「まぁ、その…えっと…」

 

「? なんですか?」

 

 ごにょごにょとするレミリア様は珍しい。なぜか顔も赤くなってきている。いったいどうしたんだろう。

 ごにょごにょとしたまま少したって、

 

「別に呼ばれなくても…あなたが来たければ、来ていいわよ」

 

 と顔を赤くしながら呟いた。…あぁもう可愛いなこの人!

 

「了解っす!」

 

 俺は全力で肯定の姿勢を示した。マジずるいわこういう可愛さ!

 

「私はむしろ、毎日来てほしいくらいなのだけれど」

 

「うおっ!?」

 

 いきなりパチュリーさんが俺の視界に入ってきた。あれ? この人さっきまでいなかった気がしたんだけど……あ、そこで小悪魔が伸びてる。……押しては測るべしだな。

 しかし、毎日来てほしいとは…? まさか、パチュリーさん、俺に惚れた!?

 

「今回のことで、外の世界の魔法理論について興味が湧いてきてね。ぜひあなたの話も参考にしたいのよ」

 

「でっデスヨネー」

 

 まぁ知ってた。フラグ建ってるわけないもんね。そんなイベントもなかったし。なっ泣いてねぇよ! これ汗だよ! 目から出る新種の汗だよ!

 

 さて、最後が自虐ネタというなんとも締まらない形だが……そろそろほんとにお暇させてもらおう。これ以上いると別れが恋しくなる。

 

「そろそろ、俺はこれにて」

 

「そう」

 

 俺の言葉に静かにレミリア様は頷いた。だが予想外にそれだけでは終わらず

 

「美鈴、白滝を人里まで送ってちょうだい」

 

「はい」

 

「え、そんな! そこまでしてもらわなくても」

 

「駄目よ。あなたは一応、曲がりなりにも客人だもの。客人は最後まで見送るのが当然のマナー。それを怠ったというのなら、スカーレットの名に傷がつくわ」

 

「…そうですか。ではお言葉に甘えて」

 

 ああいった態度の時のレミリア様は何を言っても揺るがない。それは経験上知っている。俺は言葉に甘えることにし、「よろしく、美鈴」と声をかけた。美鈴は笑顔でうなずく。

 

 最後に俺はフランの前に立ち、フランの目線に合わせしゃがんだ。それから頭を再度撫でる。

 

「じゃあな、フラン。約束、待っててくれよ」

 

「うん! フラン楽しみにしてる!」

 

 眠気まなこであったがフランは笑顔を見せてくれた。その愛らしさが何とも言えず、やはりこの紅魔館を去りたくない気持ちがこみ上げるが、ここは我慢。

 

 そのフランの笑顔を最後に、俺は皆に見送られながら、紅魔館を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里へ向かう帰り道、俺と美鈴は隣り、並びながら静かに歩いていた。あの騒がしさの後だからか、この静かさはいつもより大きなものだったが……うん、心地の良い静かさだ。なにより美鈴という美しい人と、綺麗な月の下歩くというシチュ自体素晴らしい。

 

「今日は、楽しかったですね」

 

 不意に美鈴がそう口を開いた。その言葉に、俺は素直に同意する。

 

「あぁ、そうだな。楽しかった」

 

 俺はそう言って美鈴の方を見る。美鈴をこっちを見ていたようで目が合い、二人で笑いあった。

 会話はそこで途切れた。いや途切れたというより必要ではなかった。思い出は振り返るだけでいい。それより今はこの包まれるような優しい静かさを、素直に享受したかった。

 しかしほんとに楽しかった。しかもみんな着物だったし、とっても綺麗で、可愛かった。最高の新年のスタートだ。今年は絶対にいいことがある。神様か誰のおかげか知らないが、本当にありがとう。……あれ?

 そこで、俺の思考がストップした。……あれ? 俺何か…重要な正月のイベント忘れてね? 思い出せ……何を忘れてる? 今俺は何に引っかかったんだ? 何がきっかけだったんだ? 神様…? 神様!?

 

「あ! しまった!」

 

 俺は、自ら犯した過ちに気づき、つい声を上げてしまった。それに驚いたのか美鈴がビクッと体を揺らしこちらを見てくる。

 

「どっどうしたんですか? 白滝さん?」

 

「俺は…大切な行事を忘れてしまっていた…」

 

「え?」

 

「女の子と……可愛い女の子といつもより仲良くなれるイベントを忘れてしまっていた!」

 

「えっと…白滝さん?」

 

 俺は俺が心配でそう聞いてくる美鈴の言葉に、返事をする余裕さえなかった。なんてことだ、あの…正月独特の行事を忘れるなんて……着物の女の子がいてなんぼの行事への参加を忘れるなんて!!

 どうするよ俺、どうする! あのイベントを消化しないなんてありえない。せっかくのチャンスなのに! 今から紅魔館に戻る? いやそれはダメだ、今更過ぎる。ならば……ならば……!

 

「ひゃっ、えっ? 白滝さん?」

 

 俺はおもむろに、美鈴の手を取った。美鈴はまたも体をビクッとさせた。

 もう…可能性があるのは、いや俺の望みを叶えてくれるのはこの子しかいない!

 俺は美鈴の目をまっすぐ見つめて、言った。

 

「美鈴」

 

「はっ、はい」

 

「今から、初詣に行こう」

 

「へ? ひゃあ! ちょっとそんな、引っ張らないでくださいよぉ」

 

「あぁ、ごめん」

 

 俺はこれからすることを口にしたら、美鈴の手を握ったまま、歩き出した。最初ひっぱり気味にしてしまったが、美鈴はさほど文句も言わずそばに寄ってきてくれた。

 ふと美鈴の顔を見た。無理やりで怒っているかもしれないと思ったからだ。だが、予想外にもその顔は、真っ赤に染まっていた。

 その美鈴が、もじもじしたように口を開く。

 

「あの…白滝さん」

 

「なんだ?」

 

「私を、初詣に…白滝さんの言うその行事に誘たってことは……私と…もっと仲良くなりたいから、でっですか?」

 

「ん? うん、そうだよ」

 

「…はぅぅぅっ…」

 

 俺が返事を返したら、何故だか美鈴はもっと顔を赤くしてうつむいてしまった。なんだろう? 俺は正直に返事しただけだし……なんだろ、意味は分からないが、怒ってはいないようだ。

 

 今日という最高の時間は、紅魔館での楽しい遊びから始まり、今美鈴との幸せな時間を阿味わうことで終わりを迎えようとしている。

 

 楽しく、温かく、幸せな正月であり、年の初めであった。

 

 

 

 今年中ずっと、この幸せが続きますように。

 

 

 

 初詣で願うことは、これで決定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに美鈴、さっきは、なんてお願いしたんだ?」

 

「えっ! あっそそそんな大層なことはお願いしてないですよ!? そんなっ白滝さんの彼女になりたいとかっそそそそんなこと願ったりなんかしてないですよ!?」

 

「おっおう…なんでそんなに慌ててんだ……てか早口すぎて俺半分以上聞き取れなかったぞ? なんて言ったんだ?」

 

「あぅぅぅ……何でもないです……」

 

「?」

 




お疲れ様でした! そして見てくださってありがとうございます!

いやー長くなってしまいましとよ本編が!
なんと! 私トーレめの、最長記録となりました。ズバリ約三万三千文字。長すぎる! 特別号だからって!
読者様が飽きずに読んでくださったことを感謝いたします。
……これも文章力がなくなってきた証拠か……つらいな。

あとパチュリーファン、小悪魔ファンの方、出番少なくて申し訳ありませんでした。
しかも若干アレな内容でしたし…

感想誤字脱字指摘待ってます!
ちなみになんと! 先日この東方一年郷、お気に入り数が400人を超えましたひゃっほい!!
これもひとえに皆さんのおかげです!

さて次回は、特別号三段。白玉楼編です。お楽しみに!!
……できるだけ早いうちに、投稿します……ぐはっ

ではでは、次回、お会いいたしましょう。グッバイ!
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