東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!

えー、皆さんに謝らなければならないことが。
実はですね活動報告にも書いたんですが。

今回の白玉楼編、正月関係なくなっちゃいました。
よってこの話は「白滝が白玉楼メンバーといちゃいちゃする」単なるIFストーリー特別篇となりました。
「正月」ならではの話を期待されていた方、本当にごめんなさいです。

さて皆さんも気になっていることにお答えします。
Qなぜ前編? 分けたの?
A実はまだ現在執筆中なのですが、最大文字数四万をすでに超えたせいです。

ということで前編、後編分けました。
あとせっかくですので、前編と後編で白滝と接する中心人物を変えました。

前編→ プリズムリバー三姉妹
後編→ 幽々子&妖夢

こんな感じになりますので、この前編はプリズムリバー三姉妹が中心に白滝といちゃいちゃするお話になっております。
あくまでもIFストーリーなので、深く考えず、ただ2828していただけたらと思います。

長い前書き失礼しました。
ではどうぞ! 温かい目で見ていってね!


特別号 ~そうだ、白玉楼にいこう~ 前編

 

 ドンドンドンッ――

 

 

 そんな音が部屋中に鳴り響き、俺は目を覚ました。いや、無理やり覚まされたというべきか。俺はいまにも落ちてしまいそうな瞼を必死に開いて体を起こす。

 

「……まだ日、出てないじゃないか…」

 

 俺は窓から日の光がこぼれていないことを確認して、悪態をつく。まぁ完全に真っ暗じゃないところを見るともうすぐ日の出と言った時間だろうか。何にせよ、まだ眠い。

 音は鳴りやまない。だんだん意識がはっきりしてきて、その音の発生源が何なのか分かってきた。

 

「……? 来訪者か?」

 

 なんか妙に厨二くさい発言と共に、鳴っている音は玄関の戸を叩いている音だと気づく。

 

 俺は、布団から出て玄関へ向かった。

 玄関近くまで来ると、戸を叩く音だけでなく、それをしているであろう主の声も聞こえてきた。

 

「白滝さーん! 大変なのー! 開けてー! うー、やっぱり起きてないかな……もー、姉達も白滝さん呼んでよ!」

 

「えー、お姉ちゃん大きい声出すの苦手だからー。リリカちゃんに任せるわー。ね、ルナサ姉さん」

 

「……ん」

 

「もー! 姉達のバカー!」

 

 ……なんかもう、会話だけで扉の向こうに誰がいるか分かるんですがそれは。手か一部名前出てたしね。

 俺は少しため息をついて「今開けるよ」と言いながら戸の鍵を外し、開けた。

 予想通りではあったが、そこには以前の異変で仲良くなった3姉妹の姿があった。

 

「あ! 白滝さん! よかったぁ!」

 

 俺の顔を見るや否や、俺に笑顔で抱き付いてきたこの子は、3姉妹の末っ子、リリカ・プリズムリバーである。リリカちゃんは非常にうれしそうに俺に笑顔を向ける。

 

「ほんと良かった。白滝さん気づいてくれなかったらどうしようかなって…」

 

「あそこまで戸を叩かれたらね。おはよう、三人とも」

 

「おはよう白滝さん!」

 

「おはよ~」

 

「……おはよう」

 

 戸の前にいた三人ともと朝の挨拶をかわす。挨拶は大切。忘れてはならない。

 さて、話をすすめようにも、リリカちゃんが抱き付いているこの状態では始めれない。少し残念だが、離れてもらうことにしよう。

 

「……リリカちゃん、そろそろ」

 

 俺がリリカちゃんから目線を逸らすと、リリカちゃんも俺が何を言いたいかわかったようで。

 

「あ、ごめん。つい抱き付いちゃった。てへっ」

 

「てへってなぁ…」

 

 そう言って抱き付くのをやめ俺から離れたリリカちゃんは舌を少し出して笑う。その悪びれのない表情に俺は小さいため息をついた。

 

 リリカちゃんはこういう子であった。お茶目というかなんというか、良くも悪くも女の子。そんな感じである。

 先ほどいきなり抱きついてきたが、この子にとって言えばこの行為は珍しいことではない。簡単に言えばこの子なりの「好意表現」なのである。現に抱き付くのは俺だけでなく、姉二人にも、また白玉楼の庭師の妖夢にも抱き付いているのを見たことがある。仲の良い相手に対して自然と出てしまうものなのだろう。

 ……そう、別に俺のことが特別好きってわけじゃない。悲しみが溢れる。

 

「あー! リリカちゃんずるいー。お姉ちゃんも白滝さんに抱き付くー!」

 

 そのリリカちゃんの姉、メルランがその言葉と共に、俺に飛びつくように抱き付いてきた。リリカちゃんより大きく感じる二つのお山の感触が俺に腕に広がる――って何俺は冷静に分析してんだ!

 

「ちょちょっとメルラン!? なんだ急に!?」

 

 俺は慌ててメルランを引きはがそうと両肩を持つ。だがメルランはそれでもあきらめないようにさらに抱き付こうと俺に迫る。

 

「だってぇ、リリカちゃんばっかり白滝さんに抱き付いてずるいんだもん」

 

「リリカちゃんのはいつもの事だろ? 対抗しないの」

 

「むー」

 

 そうしてやっと渋々と言った感じでメルランは俺から離れてくれた。内心うれしいんだけどね。時間と場所はわきまえてほしいかなぁ、と俺は小さくため息をつく。

 

 メルラン・プリズムリバー。三姉妹の次女に当たる彼女は、こういう女性だった。おっとりしていて、優しい雰囲気を醸し出している。公式設定だと陽気な性格らしいけど、こっちでは違う感じだな。

しかしだ、なんというか……何を考えているのか分からない子でもある。

 例えば、今みたいにこうして妹に対抗して俺に抱き付いてきたりとか、前なんか「私音楽やめて白滝さんに養ってもらう―!」と唐突に自らのアイデンティティを投げ出すような発言をしたこともあった。……俺の手料理が食べたいとか言い出した時もあったな。ほんと何をどう考えているのだろうか。思考のプロセスを見てみたいぜ。そう思うことが多々ある子であった。

 ……姉妹思いだし、優しいし、すごくいい子なんだけどね。

 

「?」

 

 不意に、右手に何かがつかまるような感覚があった。俺は自分の右側に視線を移す。そこには、俺の腕を静かに抱きしめる、ルナサがいた。

 

「……」

 

「ルナサ、どうしたの?」

 

「……特に」

 

「もしかして、妹たちと同じことしてみたかったとか?」

 

「……ん」

 

 ルナサは俺の顔を上目づかいで見ながら、こくんと小さく頷いた。……かわいい。ルナサほんと可愛いわこの人。

 

 ルナサ・プリズムリバー。三姉妹の長女である。心優しく、まじめで、妹たちのことが大好きな非常に良いお姉ちゃんだ。ちなみに東方のキャラクターで【姉】という存在で一番好きなのはこの人だったりする。妹たちより身長が低いという点も可愛い所だ。

 だがまぁ、俺の想像していたルナサとは違ったり。見てもらってわかると思うが、非常に無口であった。だが勘違いしてほしくないのが、別に不真面目であったり、無気力であったり、無感情であるというわけではない。音楽活動にも積極的だし、先ほども言ったが妹が大好きであるから妹の為に頑張っている。感情表現は…あまり得意ではなさそうだがな。

 だが、不思議なことに、ルナサの考えていることが、俺にはなんとなくわかるのであった。先ほどなぜ俺に抱き付いてきたのかの理由を言い当てたように、俺はルナサが何を考えているのかわかることがあるのだ。…表情もあまり変わらないのにな、なんでだろ。

 あ、身長は妹のメルランより低身長でした。リリカちゃんよりちょっと大きいくらい。だからさっき俺の腕に抱き付いてきたときは自然と上目づかいになってしまうわけだ。

 

 ……っと、この三人のことを考えていて本題を忘れそうになっていた。

 

「ルナサ」

 

「……?」

 

「えっとね、一回、離れてくれるかな?」

 

「……嫌?」

 

「そんなことないよ、むしろ嬉しいんだけど…一応ね」

 

「……ん」

 

 ルナサは、少し寂しそうな目をしながらも、こくっとうなずいて俺の手から離れる。…メルランとはえらい違う素直さだ。いや、別にメルランが悪いって言ってんじゃないからな?

 

「それでリリカちゃん。何が大変なんだ?」

 

 俺はリリカちゃんの方を見てそう訪ねる。忘れそうになってたけど、大変だって言って俺を起こしに来たんだもんな。

 俺が忘れていたようにリリカちゃんもそうだったようで、

 

「あぁ! そうだった!」

 

 と口に手を当てる。そして慌てたようにリリカちゃんは俺の手を取る。

 

「そう! 大変なのよ!!」

 

「おおお、落ち着いて。何が大変なの?」

 

「妖夢さんが……」

 

 リリカちゃんの口から妖夢の名が出た。いきなりのことで俺は少し驚く。がまずは話を聞かなくては。

 

「妖夢がどうしたんだ」

 

 

 

「妖夢さんが、風邪で寝込んじゃったの!」

 

 

 

「ダニィ!?」

 

 妖夢が……風邪で…ダウンしただと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とプリズムリバー三姉妹の四人はさっそく白玉楼に向かっていた。なぜそんなに早くいくのかって? 一番の理由は、妖夢が心配だからだ。真面目な妖夢のことだ。風邪だってのに動き出しそうで怖い。誰かが見ていてやらないと。幽々子様だけではなかなか難しいだろう。

もう一つ理由がある。まぁそれはよく考えれば分かることだ。

 白玉楼の住民は、主の西行寺幽々子、それに庭師の魂魄妖夢、他に世話係の幽霊たちである。

 

 

 話は変わるが驚いたことに、白玉楼にて食事や洗濯、掃除などをしているのは妖夢ではなく、専用のお手伝い幽霊の仕事だった。はじめ俺は家事炊事伝搬妖夢がやってるのかと思ってたからさ、びっくりしちゃったんだよね。まぁよくよく公式設定思い返せば、妖夢は「剣術指南役兼庭師」だから家事炊事やる立場じゃないんだよな。

 但し、幽霊になってしまったということもあるのか、そのお手伝い幽霊さんのする仕事がうまくはかどらないこともあるらしく、監視役兼指示役が妖夢ということになっている。いわば、紅魔館で妖精メイドを働かせる咲夜のような立ち位置である。まぁそのお手伝い幽霊の働き具合に対して妖夢曰く「紅魔館のメイド妖精よりはマシ」だそうだ。

 

 

 さて、そんな司令塔の妖夢が風邪でダウンしている今、白玉楼の家事炊事はどうなっているであろうと想像してほしい。確かに一つ一つの仕事は問題ないかもしれない。だから別段問題がないと思うそこのあなた! 議長のいない会議を想像してくれ。それも難しいならキャプテンのいないスポーツチームを考えてみてくれ。……うまく回らないし、もしもの事態の時に混乱が起きてしまうよな。だから俺たちは白玉楼に向かっているのさ。

つまり俺たちの目的は

 

『幽々子様許可の元、妖夢の看病、及び、白玉楼の家事炊事のお手伝い』

 

 である。ま、幽々子様に「余計なお世話」と言われてしまったらお終いだがな。

 言い出したのは俺である。だがルナサ、メルラン、リリカちゃん共に快く了承してくれた。むしろ乗ってくれる勢いであった。まぁ、3人はあの異変よりも前から白玉楼メンバーと付き合いがあったらしいからな。特にリリカと妖夢は何故だかしらないが仲がいい。リリカちゃん、顔には出していないが、きっとひどく心配しているだろう。そう思うと、自然と早く白玉楼へ行かなくては、と思う。

 

 白玉楼へは、異変の時にできた空に開く穴から入る必要がある。つまり普通の人間、空を飛ぶことができないものは入ることができない。そのため俺は、なぜか立候補してくれたメルランによって運ばれている。かっこ悪いがおんぶされている状態だ。だがまぁ背に腹はかえれん。

 

 白玉楼へ向かいながら、3人は俺に話していなかった詳しい話を聞かせてくれた。

 

「私達、毎月決まった日に白玉楼に御呼ばれして幽々子さんや妖夢さん、それに幽霊たちに演奏させてもらってるのよ」

 

「ねー。いつも好評なのよー」

 

「……喜んでくれる」

 

「へぇ…そんなことしてたんだ。知らなかった」

 

「まぁしょうがないかもね。人を呼んで盛大にやる演奏会じゃないもの」

 

 そう言ってリリカちゃんは肩をすくめた。うむむ、なんか悔しい。そんなことがあるのなら俺も行きたかった。機会があったら行ってみるか。

 話を戻そう。その演奏会のことをわざわざ俺に話したってことは…

 

「話を聞くに、今日がその演奏会の日だったわけか」

 

「そう言う事! だからそのために今日早くから白玉楼へ行ったんだけど…」

 

「いつも出迎えてくれる、妖夢ちゃんがいなかったのよねー」

 

「……白玉楼、静かだった」

 

「なるほどな」

 

 俺は頷く。その様子を見て3人はさらに話をつづけた。

 

「それからね、幽々子さんに会ってきたんだけど…」

 

「すっごく元気なかったわー」

 

「……かわいそうなほど」

 

「そっか。そりゃ音楽は聞く気になれないわけだ」

 

「そうみたい。今回はいいって言われちゃった」

 

「……残念」

 

 ルナサが本当に残念そうにつぶやいた。まぁそりゃそうだなわ。せっかく聞いてもらえるいい機会をふいにしたわけだし。

 しかしなるほど、大体話がつかめてきた。

 

「それで心配になって俺のところに来て、現在に至ると」

 

「そういうことー」

 

「……なんで俺?」

 

 俺は3人の素朴な疑問を返した。

 

「いやだって、それこそ、妖夢の看病やお手伝いなら3人でもできるだろう? 俺、いるか?」

 

「必要だよ白滝さんは!」

 

 リリカちゃんが俺の正面に移動し話す。

 

「だって、妖夢さんが喜ぶもん!」

 

 だが、リリカちゃんの言葉に俺は理解が追い付かなかった。

 

「妖夢が? どうして?」

 

「どうしてって…そりゃあ、ねぇ」

 

「ねー」

 

「……ん」

 

「いやいや、3人の中で理解されても…」

 

 俺全然分からないんですが……

 首をかしげる俺。だがリリカちゃんはそれを気にせず、くすくすと笑った。

 

「ま、自分で考えてみてよ。きっと白滝さんのことだから分からないと思うけど」

 

「うむむむ…」

 

 そこまでいわれると悔しい。だが、答えを見つけられていないのは事実だから反論はできなかった。ぐぬぬ…

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 白玉楼入口の門を過ぎた。当たり前だが、いつも俺が来ると笑顔で迎えてくれる妖夢はいない。まぁ異変前は問答無用で切りかかっていたそうだが気にしない。

 妖夢の出迎えのないことに少しの寂しさを覚えながら白玉楼の庭に下り立つ。

 

「…なんだか、静かに感じるな」

 

 俺はメルランの背中から降りながらそう呟いた。別にいつも幽々子様や妖夢の声が聞こえてくるわけじゃないが……でもなんというかね。感じるんだよな。

 

「……空気が、寂しい」

 

「あー、そうそう、そんな感じ。雰囲気だよな。」

 

 俺はルナサのつぶやきに頷きながら、その不思議な静かさを感じながら辺りを見回した。

 ふむ…

 

「とりあえず、幽々子様に会おうか」

 

「あれ? 妖夢は?」

 

「そりゃ真っ先に行きたいけどね……でも、さすがに家主に断り一つもなしに家に上がり込んで、好きに行動するのは、さすがにな」

 

「なるほどねー」

 

「それに…3人とも幽々子様の話を聞いてすぐ俺のところに来たとしたら、妖夢がどこに寝てるか知らないだろ?」

 

 俺の言葉に3人は少し驚いたような顔をした。

 

「あ、確かに。さっき話したばかりだから、幽々子さんがどこにいるか大体の場所は分かるけど…」

 

「私達、妖夢ちゃんが風邪だって聞いただけで、どこで休んでるなんて聞いてないわねー」

 

「……失念」

 

「あははは」

 

 うん、まぁそうなるな。それじゃあ、まずは幽々子様に会いに行くとしよう。

 俺は3人の方を見る。

 

「みんなも、来るんだよね?」

 

 先ほども決めたが、俺は確認のために聞く。心はやはり決まっているようで3人はすぐに気合いの入った顔を見せる。

 

「もっちろん! 妖夢さん心配だし!」

 

「あの幽々子さんの姿、ほっとけないもんねー」

 

「……二人に同じ」

 

 3人のその顔を見て、俺も頷く。

 

「うん、俺もだ。それじゃあ、行こうか!」

 

『おー!(……おー)』

 

 俺達の声が、いつも入り静寂の強い白玉楼の雰囲気を一気に明るくした、そんな気分になる。

 気合は十分だ。さっそく、白玉楼主、幽々子様に挨拶に行こう。

 待ってろよ妖夢。文字通り、動かず待っててくれよ妖夢!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢が風邪をひくなんて、何年ぶりかしらねぇ」

 

 白玉楼の主、西行寺幽々子は、湯呑みの中の茶をぼんやりと眺めながら呟いた。思い返しているのは、昔の記憶である。妖夢が生まれてから、現在に至るまで。ぼんやりとではあるがあのころの妖夢の姿はしっかり覚えていた。……だが

 

「……あら? ほとんどないわねぇ。もしかして妖夢にとって初めての風邪かしらぁ…」

 

 思い返してみても、妖夢が病気を患った記憶など無いように感じられた。半人半霊と言えど、半分は人間であるから病気にもなる。だから、この数十年で病気、まして風邪などひいてないはずなど無いのだが……

 

「もしかしてあの子。例え風邪をひいてても、私に隠してたのかもね…」

 

 幽々子は、ふふと笑みを浮かべるが、その笑みはどこか悲しげに見えた。素直でまじめすぎる妖夢は、自分に心配をかけまいと例え病気になっていたとしても隠して生活していた可能性は否定できない。思い出すと、妖夢が辛そうにしていたことは何回かあった気がする。確かその都度、休んでもいいと声をかけているはずなんだが……あの子のことだ。働き続けてたかもしれない。

 そんな妖夢の姿を想像すると、少し悲しくなった。

 

「ま、悲しんでても仕方ないわねぇ」

 

 幽々子は茶を飲みほし、息を吐いてから、ゆっくりと立ち上がる。そろそろ、妖夢の様子をもう一度見ておこう。情けないとはいえ自分は主である。従者が体調を崩したのならばその回復を手伝うのもまた、従者の仕事であろう。

 妖夢の様子を見たら、使用人の幽霊に指示を出しに行こう。妖夢という指示者がいないため仕事が滞っているのは目に言える。日常的に家事炊事をしない幽々子であっても、さすがにその状況は見過ごせなかった。

 

「さ、やろうかしらぁ。いつも妖夢は指示してたかしら…」

 

 っと、意気込み、維持内容を考えたその時、何かの足音が聞こえてきた。『足音』ということはしっかりとした生を持つものである(幽霊や亡霊でも足音が出せるものもいるが)。ということは使用人の幽霊ではない。客人だろうか。

 足音が幽々子のいる部屋の前で止まった。やはり自分に用があるようだ。幽々子はそのまま、服装と姿勢を正した。

 ふすまが開かれる。そして、そのふすまをあけた者が、全く想像していなかった相手であったことに、幽々子は驚きを隠せなかった。

 

「白滝……?」

 

 

 

「あぁ、ここに居ましたか、幽々子様」

 

 何かの気配を感じた部屋のふすまを開けてみると、ビンゴ! そこには、俺達が探している相手、幽々子様がいた。

 何故か幽々子様は驚いたような顔をしたまま俺の顔をじっと見つめている。

 

「幽々子様、どうしました?」

 

「白滝…あなた、どうしてここにいるのかしら?」

 

 幽々子様は驚いた表情にまま俺にそう問いかけてくる。あぁ、そうか。そりゃ戸惑うわな。

 俺はにが笑いを浮かべつつ、なんと説明しようかと言いよどむ。

 

「えっと、妖夢が風邪をひいて寝込んだって聞きまして。ちょっとお見舞いがてら、白玉楼の様子を見ようかな、と」

 

「どうしてそれを…」

 

 驚きを隠せない様子の幽々子様。俺はどう説明したら一番理解してもらえるかと悩む。

 だが、俺が悩んでいるその間に、

 

「私たちが白滝さんに教えたんです、幽々子さん」

 

 リリカちゃんが姿を見せつつ俺と幽々子様の会話の間に入った。続けてメルラン、ルナサもふすまから顔を出す。

 

「あなた達……帰ったんじゃなかったの?」

 

 3人の登場に、さらに幽々子様はさらに驚いたような顔をした。まぁ驚くのは無理もないな。今日は演奏はいいから帰ってくれと言った相手がここにいるんだから。

 リリカちゃんが前にでて幽々子様に事情を話し始める。

 

「一度は。でも私達、妖夢が風邪って聞いたら、いてもたってもいられなくって」

 

「失礼かもだけど、妖夢ちゃんがいないって大変でしょ。だから何か手伝えないかなーって」

 

「……いつも、演奏を聞いてくれる、お礼」

 

「それに俺が加わって、白玉楼のお手伝いと妖夢のお見舞いに来たってわけです!」

 

「あなた達…」

 

 俺達の本心からの言葉に幽々子様はそう呟いただけで言葉をつづけなかった。

 ……あ、これ。もしかして、反応に困ってるってやつじゃないかな? もしそうだとした非常に申し訳ない。

 

「もしかして……迷惑、でした?」

 

 不安になった俺は、おずおずとそう幽々子様に聞いた。もしそうなら、残念だが帰らざるを得ない。

 しかし、幽々子様は俺のその言葉に驚いたように首横に振った。

 

「そんなことないわ。ただ、今ちょっと、物思いをしていただけ」

 

「そうですか?」

 

「ええ」

 

 どことなく幽々子様は、笑顔を浮かべる。良かった、迷惑ではなかったようだ。

 いくらかの間、幽々子様は俺たちの顔を見て、それからいつものように優しく微笑んでくれた。

 

 

「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えようかしらぁ」

 

 

 こうして、白玉楼主の許しを得た俺とプリズムリバー三姉妹の、白玉楼のお手伝いの1日が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 白滝たちのいなくなった後、一人となった幽々子はどこか嬉しそうに微笑んだ。

 

「愛されてるわね、妖夢」

 

 自分の事ではなのに、なぜかどうしようもなく嬉しくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、早速作業に移るか――と、その前に、やることがあったな。これだけは初めにしておかなくては。

 ということで。

 

「ここが妖夢の休んでる部屋か…」

 

 俺はとある一室の前で足を止めた。そうそこは、幽々子様から教えてもらった、妖夢が療養している部屋である。

 プリズムリバー三姉妹は、今はいない。「後から行くから先に白滝さんどうぞ」とのことだった。一緒に行けばいいのに、と思ったがいっぺんに言っても妖夢がびっくりしすぎてしまうかもしれないと思い、俺だけとなった。

 

「さっき、薬を飲ませたばかりだから、寝てるかもしれないわぁ」

 

 と幽々子様が言っていた。永遠亭処方のなかなかに強い薬らしく催眠性もそこそこあるらしい。まぁ寝ていても寝ていなくても俺としてはどちらでも構わないのだが、寝ているなら静かにしないと、おこしちゃうな。

 俺はゆっくりとふすまを開けた。

 

「すー……すー……」

 

 幽々子様の言う通り、妖夢は静かに寝息を立てながら寝ていた。俺は静かにふすまを閉め、妖夢のそばに座る。

 

「そこまで…辛そうではないか」

 

 寝息を立てる妖夢の顔を見る。頬は紅潮しているし、顔色も少し悪いが、ひどく苦しそうでもない。そこまでひどい風邪ではないようで安心した。

 だが、薬の影響もあってか、汗をひどくかいていた。俺は持ってきた水入ったのたらいを置き、おしぼりを絞り、それで妖夢の顔を優しく拭く。

 

「……やっぱり妖夢って、可愛い顔してるよな。病気の子を前にして言う事じゃないけど」

 

 妖夢のはだを傷つけないようにゆっくりと拭きながら、俺はそんなことを思った。いつも妖夢のことは可愛いと思っているが……なんだろ、病弱になっている時女の子が可愛く見えるよね、あんな感じかな。

 

「んんっ……」

 

「おっと…ちょっと強かった。起きちゃったか?」

 

 妖夢が身じろぎをしたので俺は少し焦る。だが、ただ少しくすぐったかっただけだったようで、妖夢の可愛い寝息はすぐに再開された。

 ……無防備。いつもバカが付くほど真面目で、純粋で、ちょっとお堅い妖夢の寝顔は、年相応のかわいらしさを持っていて、とても無防備に見えた。いや、無防備だからなんだって話だようん。寝込みを襲おうなんて俺は変態じゃねぇ。

 最後に、妖夢の頭を少し撫でて、俺は静かに立ち上がる。

 

「それじゃ。ちゃんと休めよ、妖夢」

 

 名残惜しくはあるが、俺はやらねばならないことがたくさんある。ずっと妖夢の看病というわけにもいかんのだ。

 俺は妖夢の顔を最後ちらりとだけ見て、ふすまを静かに閉めた。

 

「んじゃまぁ、始めますか! 妖夢が心配せずとも休めるようにしないとな!」

 

 伸びを一度して、俺は気合いを入れた。あの様子を見るに一番の不安要素であった『病気なのに無理して動こうとしていた』という事態は避けられそうだ。これなら一心に仕事ができる。

妖夢が起きてきたときに「家事炊事全部終わってるぜ!」と言ってあげれるように頑張らないと!

 そうして俺は、最初のお手伝い場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めは掃除か」

 

 俺とリリカちゃんとメルラン、ルナサは幽々子様からもらった、お手伝いやることリストを覗き込んでいた。このリストの掃除の項には、どの部屋を掃除するか、どこを掃除するか、などが事細かに書いてあった。何でもこれは、妖夢がお手伝い幽霊に配布している物らしい。いわゆるガイドラインってやつだ。

 

 俺達は今回、白玉楼の通常通りの営みの支援。そして、サボっていないか、とか次の仕事はこれだよ、とかいうお手伝い幽霊の監視及び指示役を任された。仕事順はこのガイドラインに従えとのことだ。

 

 リリカちゃんがそのリストを見ながら、辺りを見渡す。

 

「私たちは、まずはこの客間を掃除すればいいみたいだね」

 

「あぁ。他のところはお手伝い幽霊がやるように幽々子様が指示してくれてたみたいだからな」

 

「それじゃあ始めよー!」

 

「おー」

 

「……ん」

 

 三人とも気合は十分のようだな。俺も頑張らねば!

 早速俺たちは、それぞれ掃除道具を持ち、部屋のそれぞれの場所にはけた。一室だけとはいえ、幽々子様曰く「一番広くて、一番きれいな場所でなくてはダメ」と言われた客間である。確かに、客間の汚い屋敷など品格が疑われる。簡単だとは思ってはいけない。丁寧にやろう。

 しかし、このプリズムリバー三姉妹とこうやって活動するのは初めてかもしれない。これはこの三人ともっと仲良くなるチャンスかも! そう思った俺はいい機会であるし、いろいろ聞いてみることにした。

 

「三人はさ、いつも掃除とかみんなでしてるの?」

 

 話はしたいが掃除の邪魔をしてはならない。俺はなるべく軽い質問をした。それに、この三人の実生活とか全然知らないしな。正直気になる。

 俺の質問に最初に答えたのは、メルランだった。メルランははたき掛けしながら答える。

 

「掃除は私の担当なのよー」

 

「へー、担当とか決まってるんだ」

 

 俺の驚きの声に、リリカちゃんが、たたみを乾拭きしながら答えた。

 

「決まってるわけじゃないんだけどね。自然とそうなったっていう感じかな。メル姉綺麗好きだから」

 

「……いつも、綺麗にしてくれる」

 

「なるほどなぁ。しかしメルランが綺麗好きとは…ちょっと意外かも」

 

「あー、白滝さん私の事ずぼらだとか思ってたのー?」

 

 ぶー、とメルラン口をとがらせて俺の方を見てきた。可愛い。

俺は苦笑いを浮かべながら答える。

 

「そんなこと思ってないよ。ただ綺麗好きって言われるほどとは思ってなかったから」

 

「もー。白滝さんひどい―。白滝さんだって、いっしょに生活してるなら、綺麗好きな女の子の方が良いでしょー?」

 

 なぜ一緒に生活することになっているのかはわからないが、俺はメルランの質問を考えてみた。……ふむ、確かに一緒に生活するとなると、相手が綺麗好きであった場合のデメリットは少ないだろうな。そりゃ若干のわずらわしさはあるかもだけど、潔癖性と比較すれば、ずいぶんましだろう。むしろ生活水準は改善されるし、何より生活の見た目が良くなるし、いいことのが多いなうん。

 俺はメルランに答えを返す。

 

「そうだな。ある程度綺麗好きな方がいいと思う」

 

 俺の答えを聞いたメルランはなぜか異様に嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「でしょー! じゃあ白滝さんは、綺麗好きの女の子が好きってことねー?」

 

「ん? 何故そう繋がるかは分からないが……うん、まぁそうだな。好きだ」

 

「きゃー! 白滝さんに告白されちゃったー!」

 

「ええ!? なんでそうなるの!?」

 

 いきなりこの子笑顔になったと思ったら、なに言い出したの!?

 俺は驚きのあまり開いた口が塞がらない。そんな俺をしり目にメルランは徐々に俺に近づきながら言葉をつづける。

 

「だって、私が綺麗好きって話だったでしょ。どれで白滝さんは綺麗好きな女の子は好きって言ってくれて、じゃあ私の事好きってことよねー」

 

「その理屈はおかしい!」

 

 必死の様相で俺はメルランに抗議する。いや普通に考えてそれはおかしいよ!

 すると、俺の講義の声が届いたのか、メルランの動きがぴたりと止まった。思いとどまってくれたのかと胸をなでおろす俺だった。……が、俺の予想とは反していたようだ。

 メルランは上目づかいで俺のことを見てきたのだ。しかも、

 

「私の事……嫌い?」

 

 そんなことを言いながら、である。……いや、ほんとこの子何考えてんだ!? そんな…そんなことされて、嫌いと言える男がどこにいるか!

 だがしかし、ここで好きと言ってしまうのもおかしい。なんか、さらにややこしくなりそうである。ので、俺は、

 

「嫌いじゃ…ない」

 

 とだけ、答えた。というよりこう答えるしかなかった。これで自体がいったん収拾するのを期待するしかない。

 だが、メルランが俺に近づいてくるのは止まらなかった。今度はメルランは上目づかいはやめず、指をくわえるようにして、呟く。

 

「私の事…好きじゃないんだ。……メルラン寂しいな…」

 

 ズキューン!

 胸が射抜かれた音が聞こえた。あぁもうなんだこのかわいい生物! 事態の収拾とか、どうしてこんな意味不明な展開になったのかという原因とか、そんなのほっぽり出して、この子を思いっきり抱きしめてやろうかしらという欲望が俺の中に溢れる。うわああダメだ体が勝手にメルランの方に行ってしまうぅぅぅ!

 そうして俺が可愛さ余って、メルランにがばっと抱き付いてしまう寸でのところで。

 

「こら、メル姉。白滝さんをからかわないの」

 

 いつの間にかメルランの後ろに陣取っていたリリカちゃんが、上目づかいをしているメルランの頭を、パシッと手でたたいた。

 ……へ? からかう…? どゆこと?

 

「もぉー、リリカちゃん? 邪魔しちゃだめよー」

 

 俺が理解できていないことをよそに、メルランは上目づかいをやめ、リリカちゃんに文句のような言葉をかけた。

 リリカちゃんは小さくため息をついて答える。

 

「邪魔するに決まってるよ。白滝さん変なところ純粋なんだから、からかってあげちゃ可哀想でしょ?」

 

「純粋な白滝さんだから、からかうと面白いんじゃない」

 

「それは否定しないけど……ちょっとやりすぎだよ」

 

 俺の理解を置いてけぼりにして二人の会話は進んでいく。

 ちょっとまって、今までのことを整理しよう。いきなりメルランが迫ってきて、俺がドギマギして、それで今二人の話を鑑みるに……あれ? もしかして…

 

「俺って、からかわれてた…だけ?」

 

『うん。そうよー(そうだよ)』

 

 メルランとリリカちゃんのそろった言葉が返ってきました。まっまじかぁぁぁ。俺、ガチでドキドキしてたよ。俺は盛大にため息をついた。

 俺の様子を見てリリカちゃんがメルランにジト目をする。

 

「ほらー、白滝さん本気にしてたでしょ?」

 

 だがメルランは悪びれもせず、てへっといった感じで

 

「ふふっ。ごめんねー、白滝さん」

 

 と謝るのみであった。

 

「くそぅ…」

 

 怒るほどではないが、若干のショックを受けた俺。この傷は深いぞっ。こうなったら…

 

「ルナサー。お前の妹たちがひどいんだー」

 

 ルナサに癒されることにしよう。ルナサの実直で純粋な姿は癒されるからね、うん。俺はわざとふらふらとして、こちらに背中を向けているルナサの隣に座る。

 

「……」

 

「……?」

 

 ルナサからの返答がない。無口とはいえ、応答はしっかりしてくれる子だ。自分に向けられた言葉を意図的に無視することは優しいルナサはしない。だが待ってもルナサからの返事は来ず、ただルナサの掃除をする手だけが動いているのだけだった。

 

「ルナサ―?」

 

 俺はルナサのその動き続ける掃除の様子を覗き込んでみた。

 

 ……ルナサは、白磁の壺を一生懸命に磨いていた。物凄く真剣に、物凄く集中して。

なんか、シュールな絵だった。

 

「……? 白滝、どうしたの?」

 

 さすがに覗き込まれれば気づくのか、ルナサが俺の顔を不思議そうに見つめてきた。うむっ、やはりリリカちゃん、メルランもさることながら、ルナサも可愛いのぉ。身長は低いが大人びた顔だちをしている――ってそうじゃなくて。

 

「いやなに。ルナサ、黙々と掃除してたからさ。なにやってるのかなぁと」

 

 先ほどの物凄い集中の様子を見るに、きっとルナサは先ほどの、俺とメルランの騒動を聞いていなかったであろう。しかし今からそのことをルナサに説明するわけにもいかないので、俺はいい感じに話をごまかす返答をした。

 俺の返答を聞いたルナサは、先ほどまで磨いていた白磁の壺を両手で持ち、俺の前にずいっと持ってきた。

 

「……壺、磨いてた」

 

「そ、そうみたいだね」

 

「……ぴかぴか」

 

 ルナサが言った言葉には、得意げな響きが込められていた。心なしか、ドヤ顔しているように見える。ルナサの大人びている顔つきからは想像できない、宝物を自慢するときの子供のような感じであった。

 それが非常に可愛らしくて、俺は。

 

「ははっ。確かに、すごく綺麗だ。頑張ったな、ルナサ」

 

 そう言ってルナサの頭を撫でるのであった。自慢していた事が褒められたのが嬉しかったのか、ルナサは目を細めて気持ちよさそうにしてくれている。その様子がまた可愛らしくって、俺はニヤケる顔を止められずにいた。

 

 

 

 そのあとまたメルランが「ルナサ姉さんばっかりずるい―! 私も撫でてよー」と飛びついてきて、グダグダなった後、

 

「もー! メル姉もルナ姉も白滝さんも! 真面目に掃除しなさい!」

 

という、リリカちゃんの怒りの一喝で、掃除が再開されましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客間を掃除し終わったら、他の部屋の掃除がきちんと終わっているかどうかなどを確認したりしていて、気がついたらもうお昼時であった。

 

「掃除に時間がかかりすぎたな。もうお昼か」

 

「ご飯の用意しなくちゃねー」

 

「自分たちの分と、幽々子さんの分。あと妖夢ちゃんのおかゆも作ってあげたいわー」

 

「だな」

 

 メルランの言葉に同意した俺たちは、厨房へと向かった。ここの主、幽々子様は二次創作でよくあるような大喰いではないものの、人並より多く食べる人である。ご飯の準備は不可欠だ。それに妖夢は朝から寝込んでいるはずだから、朝食もろくに用意されていなかっただろう。それに、妖夢のおかゆも必要である。

 

 厨房に到着した俺たちは、さっそく料理に取り掛かろうと準備をしだしたが、その準備は厨房にいたお手伝い幽霊に止められてしまった。

 一人の人型のお手伝い幽霊……面倒だから幽ちゃんと呼ぼう。その幽ちゃんは俺たちの目の前で、手で大きくバッテンを作っていたのである。

 

「えっと…そのバツは、どういう意味かな?」

 

「……」(!)

 

「いや、そんな目力で訴えられても分かんないんだけど…」

 

 お手伝いをするような下位の使役幽霊は、俺達の話す言葉を聞くことはできても、話すことができないらしい。妖精と同じ感じだな。よって、俺のような人間とは一方通行の意思疎通しかできないのだ。よって、こういう時は……

 

「リリカちゃん、この子、なにを伝えようとしてる?」

 

 同じ幽霊の種であるプリズムリバーの3人が通訳をできるのだ。ということで俺は早速リリカちゃんに通訳を頼んだ。

 

「はいはーい、任せてー!」

 

 とリリカちゃんは早速その子と話を始めた。これで一安心だ、といった時に俺はいきなり後ろから抱き付かれた。むむ、この身長的に…メルランだな? そう俺は身長で判断したんだ。けして背中に伝わる柔らかい感触の大きさで判断したんじゃないぞ、うん。

 

「なんだよメルラン、いきなりどうした」

 

「むー、どうしてこういう時リリカちゃんに頼むのよー。私に頼んでくれればいいのに―」

 

 ぶーたれるメルランの声が耳に聞こえる。俺はにが笑いを浮かべながら答える。

 

「特に理由はないよ。今はリリカちゃんが一番近くにいただけ。あー、でも…そうだな。メルランに頼むとなぁ…」

 

「私に頼むと、なにー?」

 

「うん……俺達が伝えたいことと、相手が伝えたいことをしっかり疎通してくれるか不安だ」

 

「あっひどーい! 私だって真面目にやるときはやるよー」

 

「ははははっ、ごめんごめん」

 

 さっき俺をからかった仕返しだ。ちょっと意地悪を言ってやった。さらにぶー、と唸るメルランの頭をポンポンと撫でてやる。さっきメルランは俺をからかうと楽しいと言ったが、俺も、メルランをいじるのは楽しかったりする。……女の子をいじるのが楽しいとか若干最低な男臭がするが気にしない。

 

「白滝さん! わかったよ!」

 

 俺とメルランがじゃれあっているうちにリリカちゃんがこちらを振り返りそう言った。

 そして、俺とメルランの様子を見て「またか」と言いたげにため息をついたが、その後すぐ気を取り直した様に、先程聞いたことを報告する。

 

「えっと、食事の用意はこの厨房を担当するわたし達の仕事だから、準備などしなくていい…だって」

 

「そうなのか…」

 

 なるほど、司令塔の妖夢がいないとはいえ、前もって分け与えられている仕事自体はしっかりこなす様になっているわけか。そう言えば、あの掃除だって、幽々子様が指示を前もって出してくれていたおかげもあるだろうが、しっかりやることはやっていた。

 …ごめん、俺きっとお手伝い幽霊たちのことを侮っていたよ。

 いやなに、この子達みたいなお手伝いさんたちがあまり役立つってイメージがないもんでね……君たちの働きっぷりをあの紅魔館のメイド達に見せてやりたいよ……と何故か感極まるものがあった。

 だが、ここで引き下がっては、今の俺達は手持ち無沙汰になってしまう。いやまぁ仕事はあるんだけどね。お昼ご飯も食べたいし、今がいい頃合いなんだよ。

 ルナサも同じことを思ってなにか伝えたいことがあるのか、俺の近くに来て、袖をくいくいっと引っ張ってきた。

 俺はルナサの高さまで腰をかがめる。

 

「……このまま引き下がるの、癪」

 

ルナサの耳打ちに俺は苦笑いを漏らす。

 

「癪とまでは思わないけど…まぁでも同じことを思ったよ」

 

「……わたし達もなにかやろ?」

 

「…だな」

 

 ってか、ルナサさん、そんな上目遣いしないでください、可愛すぎてお持ち帰りしたくなります。俺の理性よ……我が欲望をおさえてくれ……

 さて、ということでだ、俺は幽ちゃんの前に目線が合うようにしゃがむ。

 

「君たちの言いたいことはよくわかった。でも俺たちも引き下がる訳にもいかない」

 

「……」(!?)

 

 幽ちゃんが、非常に驚いた顔をした。てか俺もなんであんなカッコつけて言っちゃったかは分んないけど。

 

「でも君たちの仕事を横取りするつもりはない。だから、妖夢の分、それから自分たちの分は俺たち四人で用意するよ。だから君たちは、幽々子様、そのほか必要な人の分を作ってくれないかな? これなら、俺たちは仕事をもらえるし、みんなの仕事の負担は減る。……どうだろうか?」

 

「……」(チラッ)

 

 俺の言葉を聞いた幽ちゃんが、他の幽霊たちと顔を合わせる。そのあと、頷きあって、こちらを見て、

 

「……」(マルっ!)

 

 両手で丸を作ってこちらに見せてきた。

 …なんというか、その様子がめちゃくちゃ可愛かった。……可愛い女の子! 撫でずにはいられない!

 

「ありがとうな」

 

 俺は自然と浮かんでしまった笑顔でそういいながら、幽ちゃんの頭を撫でた。

 最初とても驚いた様で、顔を真っ赤にしてビクッと体を震わせた。…だか、抵抗も見せなかった。むしろ少し嬉しそうにも見えた。自分で勝手に撫でといてなんだけど、嫌じゃなかったみたいでよかった。

 よし、そうと決まれば早速行動だ。

 

「よーし! ルナサ、メルラン、リリカちゃん。さっそくご飯の用意だ!」

 

『おー!(……おー)』

 

 プリズムリバー三姉妹も気合は十分である。

 俺は最後に幽ちゃんたちの方を見た。

 

「それじゃ、幽々子様達の分、任せたよ。よろしく頼むな」

 

 そう言ってもう一度幽ちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。

 

「……」(にこっ)

 

 幽ちゃんは何も言わず、満面の笑みを見せてくれた。うん、いい子だ。あれだ、撫でられた時の反応が美鈴に似てるんだ可愛い。

 

 こうして俺たちは自分たちの分の昼ご飯、そして妖夢の看病用のおかゆを作ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー! 家ではリリカちゃんがご飯作る担当なんだ」

 

「うん、そうなんだ。まぁこれも成り行きというか、自然にというか、ね」

 

「私たちの中で料理が一番上手だったのがリリカちゃんだったのよー」

 

「……おいしい」

 

「ほほぅ! それは楽しみですなぁ」

 

「あんまり期待しないでよー?」

 

「それは無理な相談というものだ」

 

「もー! 白滝さんっ!」

 

「はははっ」

 

 幽々子様にお昼ご飯休憩に入ることの許可をもらった後、俺達は厨房が見えるすぐそばの部屋に、席を取った。一応俺たちはお手伝いとして来てるんだから、勝手に休憩なんかしたらいかん。

 幽々子様も一緒に食べるか、と声をかけたんだが、四人で仲良く食べなさい、となぜか微笑みながら言われてしまった。なんでだろうか……まぁ無理に誘うのも申し訳ないので引き下がったが。

 さて、そんな感じで、リリカちゃんが料理している中、俺達四人はたわいもない会話で盛り上がっていた。

 なぜリリカちゃんのみが料理をしているって? いや、任せるつもりはなかったんだよ? ただ料理を作る段階になって、

 

「料理なら私得意だから、私に任せて! みんなは休んでていいよ!」

 

 とリリカちゃんに胸を張られて言われてしまったのだ。だが俺も男、仕事をリリカちゃん一人に任せることもできず、何とか手伝おうとしたのだが、

 

「白滝さん、あんまり料理とかしないでしょ? いいから休んでてよ」

 

 と、遠回しに「足手まといだから見てろ」と言われてしまったかのような感覚に陥り、何も言い出せなくなってしまったのである。まぁ…本人がやると言いだしたことだ。あまりネガティブに考えないでおこう。……これでも一人暮らしなんだから一応自炊してるんですよ? リリカちゃん?

 しかし、まさかこんな形で女の子の手料理が食べられるなんて! なんという至福! この頃は自炊とか、店のものばかりだったから、こういう手料理の温かみが非常にうれしい。確か……慧音先生が日ごろの感謝だとか言って作ってくれたのをごちそうになったのが最後か。何十日前だろうか……

 …ふとここでとある疑問が湧く。

 

「なぁ。亡霊とか幽霊って、ご飯食べるの?」

 

「んー? いきなりどうしたのー白滝さん?」

 

 俺の質問にメルランが首をかしげる。

 俺はさらに補足のように言葉をつづける。

 

「いやさ、亡霊とか幽霊って飯食べる意味あるのかなーと。肉体がないからさ。そんな素朴な疑問」

 

「あー、なるほど」

 

 リリカちゃんが包丁で食材を切りながら、そう返した。うーん、料理する姿がさまになっている。さすが、手慣れていると違うな。

 さすがに料理しながらは難しいのか、俺の質問に答えたのはメルランだった。

 

「べつに食べる必要ないのよー。栄養なんてものもほんとは必要ないしねー」

 

「あー、やっぱりそうなんだな」

 

 魔女とかとおんなじ感じなんだな。種族とか全然違うけど。

 でもそうなると、どうして今三人はご飯を用意し、食べようとしているのか。その答えはルナサが端的かつ簡単に教えてくれた。

 

「……でも、おいしい」

 

「おいしい? ってことはつまり…」

 

「えぇ。これは亡霊や幽霊の種類や形によるんだけどー、私達には、味覚があるのよー」

 

「……ん。おいしいって感じる。おいしいって分かる」

 

「おいしいものは食べたいでしょ?」

 

「なるほどな……つまり人間食事に求める欲とあまり変わりはないってことか」

 

「そういうことねー。お腹は減らないし、いっぱいにもならないけど」

 

 メルランは、お腹をポンポンと手で押しながら、そう言った。

 食事は必要ない。でも、おいしいから食べる。おいしいから求める。つまりはそう言う事だ。ってことはだ。

 

「幽々子様にも味覚があるのかな」

 

「そうみたいねー。じゃなかったら、あんなに大量のごはん食べるわけないものー」

 

 そう言ってメルランは、リリカちゃんの隣でせっせと料理をするお手伝い幽霊たち(通称幽ちゃんby俺命名)の方を見る。その幽ちゃんたちが作っている料理の量は、バカみたいに多い……というわけではないが、絶対に、一人の女性が食べる量ではなかった。成人男性の、結構食べる人用ぐらい。俺も食べきれるかわからないぐらいの量だ。

 確かに、あの量を『おいしい』と感じず食べるのは無理だろうな……

 

「さぁ! 出来たよー!」

 

「おっ待ってました!」

 

 そんな話をしているうちにリリカちゃんの手料理が完成したらしい。リリカちゃんが、大皿に乗せた料理を持ってくる。その持ってくる姿も慣れているというか様になっていて、いつもこんな感じに料理してるんだろうなぁという想像ができる。

 

「時間をあんまりかけれないから、簡単なものだけどね」

 

「おぉ…これは…っ」

 

 メニューは、ご飯、味噌汁、川魚(鮎かな?)の塩焼き、きんぴらごぼう、菜っ葉のお浸し、といったところか。いやー…

 

「あの短時間でこれだけ作るとは…すばぁらしい」

 

「褒めても何も出ないよ。さ、早く食べよ?」

 

 リリカちゃんが照れたように少し顔を赤くして箸を渡してくる。リリカちゃんの照れた顔……珍しいな。

 さて、冷えるのももったいないし、さっそくいただくとしますか。

 

「それじゃあ……」

 

『いただきます』

 

 みんなでそろっていただきますを言う。うん、挨拶大切。

 よーしではさっそくいただこう。まずはきんぴらごぼうから……

 

「うん! おいしい!」

 

「ほんと? よかった」

 

 俺の言葉にリリカちゃんは笑顔になる。うん、やっぱり可愛いなこの子。

 しかしほんとにおいしい。塩加減といい、風味を生かす味付けといい、やはり料理に手馴れてる感じがする。おいしい、これは箸が進んじゃうぜ!

 

「しっ白滝さん、そんなに急いで食べなくても、ご飯は逃げないから…」

 

「いやー、おいしすぎて箸が止まらんのだよ」

 

「そっ、そんなに?」

 

 リリカちゃんがこちらを若干不安そうに見てきた。むむ? 俺を疑っているというのか? 正直な感想だぞこれは。

 俺はその気持ちをリリカちゃんに伝える。

 

「そんなに、だ。おいしいよ! リリカちゃんはいいお嫁さんになるな」

 

「ふぇっ!? おっお嫁さん!?」

 

 珍しく、リリカちゃんが顔を真っ赤にして驚きの表情を作る。…どうしたんだろう? ベタすぎる言葉だったが、何か使い方間違えただろうか…

 リリカちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまっていた。そして、なにかもじもじし始めたかと思ったら、顔は俯いたまま、こちらをチラチラとみながら、聞いてきた。

 

「私……いいお嫁さんに…なれる?」

 

 そんなことを、上目づかいで、顔を真っ赤にしながら聞いてきた。

 いやね? なんかね? もうね? それが可愛すぎて……俺はテンションが上がってしまったのだ。

 俺はリリカちゃんの手を両手で包み込むように掴んだ。驚きすぎたのかリリカちゃんはビクンッと体を震わせる。だがテンションの上がってしまった俺は止められない。

 

「なれるよ、リリカちゃんなら絶対なれる!」

 

「ひゃい!?」

 

「だってリリカちゃん、料理もうまいし、さっき見てたけど掃除も普通にできるし!」

 

「えっ、えっ?」

 

「明るい性格ってのは、一緒に居ると元気になれるし!」

 

「あぅっ」

 

「なによりリリカちゃん可愛い!」

 

「はうっ!」

 

「リリカちゃんを嫁にできる男は幸せだろうなぁ…」

 

「へぅ…」

 

「ってか、むしろ俺が嫁にしたいくらいで!」

 

「!?」

 

「だからリリカちゃんなら絶対いいお嫁さんに――ってリリカちゃん大丈夫!?」

 

「…きゅぅぅ…」

 

 結論に達するまで語り、リリカちゃんの顔を見ると、それはもう茹蛸のように真っ赤になっていた。

v……しまった、さすがに調子に乗ってテンションの赴くままに言葉をつなげてしまった。……どう考えても、なんか告白してるみたいだったぞ今の!? 特に最後から二番目! なんか欲望が口に出ちゃってるぅ!

 ふと、リリカちゃんの姉二人の視線が俺達に刺さる感覚を味わう。うぅ、これは…言い逃れできないか…?

 

 

 

 

「いいなぁーリリカちゃん。白滝さんにあんな風に言ってもらえてー」

 

「……良かったね、リリカ。……私も言ってほしいかも」

 

 

 

 

 二人の姉のつぶやきがかすかに耳に入る。ぐっ…かすかにしか聞こえなかったから全文は分からなかったが、俺の名前とリリカちゃんの名前、それから『あんな風』とか聞こえたから、きっと俺を非難する言葉に違いない……やってしまった。これじゃただのナンパ野郎じゃないか…っ!

 今更遅いが、弁解しないよりする方が良いだろうと考えた俺は、いまだ顔の赤さが引かないようで俯いてしまっているリリカちゃんに話しかける。

 

「リリカちゃん。えっと…今のは…ね? その――」

 

「しっ白滝さん!」

 

「はっはい!」

 

 いきなりリリカちゃんが俺の名前を叫ぶように呼び、俺はなぜか敬語で返事をしてしまった。いっいきなりどうしたんだろうかリリカちゃん。まさか…説教とか!? いや可能性はある。掃除の時の俺みたいに純情を踏みにじられた的な感じで!

 俺はいつでも土下座できるようにスタンバっておく。その程度のことに許してもらえるとは思っていないが……せめてもの足掻きだ。

 

 だが、リリカちゃんが小さく小さく呟いた次の言葉は……

 

「……今のって…本気にしちゃっても…いい、の?」

 

「……へ?」

 

 なんと? おっしゃいましたか?

 まったく理解が追い付かない俺。だがその理解をさらに引き離すかのように、リリカちゃんがまたも顔を赤く染め上げ、否定を始めた。

 

「やっ! 待って! 違うの違うの! 今の無し、今の聞かなかったことにして―!」

 

「ちょちょっと、落ち着いてリリカちゃん!」

 

「落ち着けないよー! うわーん!」

 

「なんでそんなに慌ててるのかわかんないけど、大丈夫! 俺今リリカちゃんが言った言葉、正直全然聞き取れなかったから!」

 

「ふぇっ? ……本当?」

 

 俺の言葉を聞くや否や、なんだかめちゃくちゃに取り乱していたリリカちゃんの動きがぴたりと止まった。俺は正直に、本当に聞き取れなかったことを告げる。

 

「あぁ…なんて言ったか、恥ずかしながら全然分かんなかったよ」

 

「……」

 

「リリカちゃん?」

 

「よ……」

 

「よ?」

 

「よかったぁぁぁ…」

 

 盛大な安どのため息をリリカちゃんはついた。いつもの様子とは想像がつかないほどの乱れっぷりから、よほど先ほどの言葉は俺に聞かれたくないことであるという予想がついた。逆にそこまで来ると気になるが……無駄な詮索はやめておこう。

 理由は全くわからないが、取り乱したリリカちゃんに「大丈夫?」と俺は声をかける。だが今のリリカちゃんにはそれは逆効果で、また顔を赤くして、顔を俯かせてしまった。……もうどうすりゃいいのこれ。嫌諦めてはいけない。何とかなだめよう。このままじゃ、ろくにご飯が食べれない。

 ……リリカちゃんの姉二人は何事もないかのように二人で話しながらご飯を食べている。なんてことだ…他人事みたいに構やがってぇ!

 

 

 

 

 

 

「まさかリリカちゃん。あそこまで白滝さんの事想ってるとはー」

 

「……気づいてた」

 

「あらー? そうなの?」

 

「……リリカが異性で抱き付くの、白滝しかいない」

 

「あー、確かにー」

 

「……それに」

 

「それに?」

 

「……妖夢の事聞いて、真っ先に出たのが白滝だった」

 

「でもそれは妖夢ちゃんの為を思ってじゃ?」

 

「……ほんとにそうなら、真っ先に出てくるのは永遠亭のはず。白滝じゃ、風邪は治せない」

 

「言われてみればー。つまり思考の優先順位が白滝さんになってると」

 

「……ん」

 

「そっかー…」

 

「……残念?」

 

「んー、妹の成長を考えると喜ばしいことではなるんだろうけどねー。あーあ、敵が二人も増えちゃったなぁ」

 

「……二人?」

 

「姉さんもでしょ? 白滝好きなのー」

 

「……!? …そんなこと…ない」

 

「隠しても分かるわー。好きでもない男の人に、ルナサ姉さんがあんなにくっつきに行くわけないもの」

 

「……それは…」

 

「あんまり隠してると、私かリリカちゃんにとられちゃうわよー?」

 

「……やだ」

 

「じゃ、時には積極的になることねー。…っと、さすがにさすがにあれ以上ほおっておくとまずいかなー。助け舟出そうかしらー」

 

「……」

 

 

 

 

 

 なんだかグダグダになってきた俺とリリカちゃん。さすがに見かねたのか、メルランが

 

「リリカちゃーん? いつまでは恥ずかしがってるの。せっかくのごはん覚めちゃうわよー?」

 

 と言って俺の代わりにリリカちゃんを宥めてくれた。良かった、俺がやっても堂々巡りにしかならなかったから、素直に助かった。……でも、どうせ助けてくれるなら、もっと早く来てほしかったなぁなんて。まぁ元々は俺のミスなんだから反省しなくては。

 

「……積極的に」

 

 ぽつりと、ルナサが何かをつぶやいた気がした。だが、なんて言ったかわからなかった。まぁ言及するほどのことでもないと思ったのであえて聞かなかったけどね。

 

 リリカちゃんがいつもの様子に戻ってからは、つつがなく、昼食の時間も終わっっていった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリカちゃんは妖夢におかゆを届けに行って……メルランは?」

 

「……幽々子さんに話があるって」

 

「話か。何だろうな」

 

「……個人的なことって言ってた」

 

「そっか。じゃあ気にしないでおこう」

 

「……ん」

 

 昼食後、俺がトイレに行っている間にリリカちゃんとメルランの姿がないことに気づいた。

 ルナサに事情を聞いたところ、二人ともそれぞれ主従コンビの所に行ったらしい。しかし、メルランはどうしたんだろうね。現状の報告にでも行ってくれたのかな?

 

「……お茶」

 

「お、ありがとう」

 

 ルナサが胡坐をかいて座る俺の前にお茶を置いてくれた。食後のお茶は格別なモノがある。こういう気遣いは素直に嬉しい。

 俺は湯呑を持った時の熱さを手に感じながら、それを口に持っていった。

 ……が、

 

「うわっちぃ!?」

 

 予想よりもお茶が熱かったぜおい!?

 俺は派手に声をあげてしまった。その声に驚いてルナサもこちらを見た。

 

「……大丈夫?」

 

 ルナサが心配そうに俺のそばに近寄ってきた。俺は苦笑いを浮かべながらそれに応答する。

 

「大丈夫大丈夫。思ってたよりも熱かっただけだから」

 

 火傷もしてないみたいだし、奇跡的にもお茶も零していない。せっかくルナサが淹れてくれたのに零したくなかったからよかった。

 だが、ルナサの顔は依然として明るくならなかった。

 

「……ごめん」

 

「ルナサのせいじゃないよ! なにも考えず飲んでしまった俺が悪い」

 

「……でも」

 

「いいのいいの。気にしすぎだぜルナサ」

 

 そう言って俺は、いつの間にか隣に来ていたルナサの頭をポンポンと撫でる。だがそれでもルナサは責任を感じているらしく、しょぼんとした顔だった。あ、可愛い。

 刹那、ルナサがなにか気づいた…というか、ハッとなにか思いついた顔をした。

 途端、ずずいっと俺に近づいてきて……俺の湯呑をおもむろに両手で掴んだ。

 

「るっ、ルナサ? なにを――」

 

 そして、俺の湯呑を徐々に持ち上げたルナサは、

 

「……ふー…ふー」

 

「!?」

 

 こっこれは!?

 風邪をひいた時に彼女にして欲しいことランキングで上位に必ず入るふーふーじゃないか!? ルナサが…ルナサが俺のことを心配して…ふーふーしてくれている!?

 俺は動揺と驚きと嬉しさの感情が一気にこみ上げてくるのを感じる。これは…これは卑怯だよルナサ! 可愛くない訳ないじゃん!

 ルナサはそんな俺の心情など気づくわけもなく。

 

「……ふー…ふー」

 

「……」

 

「……はい、白滝」

 

「……」

 

「……んっ…なんで頭撫でるの…?」

 

「いや、なんかルナサが可愛すぎて…」

 

 俺はもう無意識のうちにルナサの頭を撫でていた。

 いやもうルナサのずるいわこんなの。これ狙ってないよね? 天然だよね? いやむしろ天然なのが怖いよ。

 俺の言葉にそんなルナサはキョトンとした顔をする。

 

「……可愛い?」

 

「うん、ルナサ可愛い」

 

「……どう可愛い?」

 

「どう…どう、か。うーん…」

 

 これは難しい質問だ。ルナサがどう可愛いか。どんな風に可愛いかってことだよな? 例えば…犬みたいに可愛い、みたいな? それとももっと抽象的でもいいのかな……それでこのルナサの可愛さを言葉で表すとなると……

 結論の出た俺は、ルナサにこう伝える。

 

「何をされても許しちゃう可愛さ……みたいな」

 

「……」

 

「ちょっと抽象的すぎたかな…」

 

「……」

 

「?」

 

 何故かルナサは俯いてしまった。あれ、もしかして俺、なにか言っちゃいけないこと言ったのかな。具体的すぎると比較されたみたいで気に障るかもしれないから、抽象的に言ったんだけど……逆に駄目だったか。もしそうだったらどうしようか。素直に謝った方が良いのかな。

 

「……積極的」

 

 どう謝ろうかと悩んでいたら、唐突にルナサがそう呟いた。

 途端先ほどまで隣にいたルナサが俺に体を引っ付けるように近づいてくる。

 

「おっおい、ルナサ?」

 

「……んしょ」

 

 そして俺の前まで来たと思ったら、おもむろに俺の胡坐をかく足の上に、座ったのだった。所謂、膝の上に座る美少女の図である。

 ……え? どゆこと?

 っていうかですよ? ルナサの体めちゃくちゃ柔らかいんですけど!? なんじゃこれ! 女の子の体ってみんなこんなに柔らかいものなの? 膝の上に乗られるとこんな感じなの!? 

ってやべぇ俺落ち着け! 今俺思考が相当ゲスだった! 落ち着きたまえ^^ すっごく落ち着いた^^

 訳が分からず、戸惑う俺。いきなり座ってきたそのルナサの顔を覗き込むと、

 

「……」

 

 ……すごい満足そうな顔をしていらっしゃいました。いや、可愛いんだよ?可愛いんだけどね。お兄さん、説明がほしいかなぁなんて。

 ということで俺はルナサの顔を覗き込みながら、素直に聞いてみることにする。

 

「えっと、ルナサ?」

 

「……?」

 

「これは、どういう事?」

 

「……私が、白滝の膝の上に座ってる」

 

「現状報告を聞いてるんじゃなくて。どうして座ったのかなぁと」

 

「……座りたかったから…じゃ、ダメ?」

 

「……駄目じゃないです可愛いです」

 

 あぁうん、もうなんか俺の負けだよ。その意を表すかのように俺は何も言わず、ルナサの頭を撫でた。……なんか俺もうめっちゃルナサの頭撫でてるけど、いいよね? ルナサ嫌そうじゃないからいいよね?

 …あ、そうか。さっき俺が何されても許すって言ったから、いつもはしないことに挑戦してみたって可能性がある。いやでも、膝の上に座るって行動じゃなくてもいいよな。

 悶々とこのルナサの行動を考えていると、ルナサが俺の方にかおを向けていることに気づいた。

 

「どうした?」

 

「……白滝」

 

「ん?」

 

「……ぎゅって抱きしめて、ほしい」

 

「ぶぶっ!?」

 

 へっ!? えっ!? この子は急に何を言い出したの!?

 先ほどのいきなり膝に乗られたことに対する混乱も冷めやらぬ間に、また混乱が俺を襲う!

 ってか、膝の上に座られただけで俺の理性崩壊しそうになってたのに、抱きしめたりなんかしたらもう堕ちるの確定なんじゃ……完全にゲス野郎になる未来が超簡単に予想できるんですがそれは。

 そんな俺のカオスな状態に気づかないであろうルナサは、俺の顔を見つめる。そして

 

「……ダメ?」

 

「っっ!?」

 

 上目づかいで、首を少しかしげて、そんなことを言ってきた。

 あぁ……もうこれ駄目だ。ルナサが可愛すぎて、俺はどうにかなってしまうよ…

 もはやルナサ病にかかるレベルの俺に、ルナサのそのお願いを断る気力はなかった。

 

「いっ、行くぞ。ルナサ」

 

「……ん」

 

 ルナサのその返事を聞いて、俺は両手を徐々にルナサの体に近づける。

 そして、ルナサの体を抱きしめる直前。俺が生唾を飲み込んだ瞬間――

 

 

 

「たっだいまー。幽々子さんから、お昼にする仕事聞いてきたわー」

 

 

 

 という声と同時にふすまが開かれ、そこからメルランの姿が現れた。

 俺がルナサを抱きしめるほんの直前である。正直……何か言われても言い訳できない体制であった。

 メルランの視線が俺達に注がれる。俺は、衝撃や驚きや焦りのせいで声が出せずにいた。そして、少しの間があった後メルランは

 

「…お邪魔だったみたいねー。ささ、続きをどうぞー」

 

 と言って、ふすまをゆっくりと閉めた。

 いやいや。いやいやいやいや!

 

「ちょぉ! ちょっと待ってメルラン! 誤解! 何か誤解してるからそれ!」

 

 俺はメルランが去ってしまったほうへ手を伸ばし声を上げる。追いかけたいくらいだ。だが……今俺の膝の上にはルナサがいるわけで。

 そのルナサは、少し不満そうな顔をして呟いた。

 

「……残念」

 

「いやいや、残念ってのは俺のセリフ――じゃなくて! ちょっとルナサ降りてくれるか!? 今すぐメルラン追いかけないと!」

 

「……ほっとこ? それより続き…」

 

「つっ続きってちょっと待っておくれよー!」

 

 盛大に何かを勘違いしたメルラン。そしてなぜか超迫ってくるルナサのどっちの対応もできない俺は、ただただ悲痛な叫びをあげるしかなかったのである。

 いやまぁ…ルナサのは嬉しかったんだけどね?

 

 

 

 こんな感じ、つまりプリズムリバー三姉妹に振り回されながら、午後の仕事が始まっていくのであった。

 

 




お疲れ様でした。そして見てくださってありがとうございます。

語りたいことは後編の後書きにて話しますのでここでは最低限の連絡だけ。

まず後編の内容ですが、前書きで言った通り幽々子&妖夢を中心といした話になります。
もちろん話は前編よりつながっております。

あと、情けないことに、後編は現在執筆中です。
来週の水曜日には投稿いたしますので、気長にお待ちください。

それでは後編にて!
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