東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!

お待たせいたしました! 白玉楼編後編でございます!
前編で言った通り、後編では、妖夢と幽々子の二人を中心にしたIFのストーリーとなっています。
白滝とのイチャイチャをお楽しみに。

特別号ですから、僕の好きなように書かせてもらっております。
急展開等あるかもしれませんが、ご了承ください。

なお、何人かに聞かれた。「妖夢の口調」ですが。
『特別篇 四季映姫&小野塚小町編』の妖夢の口調とは異なっております。
正直に言うと、あの口調書くの超難しかったんです……
ということですのでご注意ください。

ではどうぞ! 温かい目で見ていってね!


特別号 ~そうだ、白玉楼にいこう~ 後編

 

 プリズムリバーの三姉妹に振り回されながらも、幽々子様より与えられた白玉楼の今日の分のお手伝いノルマは何とかクリアすることができ、今日のお手伝い終了通告が下された。いやー、いい仕事をした。ほんとあの三人には振り回されたというか、ドギマギさせられたというか……だがまぁ楽しい一日であった。

 ……正直に言ってだ、あまり役には立ってなかった気がするが……、まぁ気にしないでおこう。自分たちなりにやることはやったつもりだ。最低ラインの話だが、白玉楼や幽々子様に迷惑がかかるようなことはしていない。

 若干心残りだったのが、薬の影響なのか俺が妖夢の様子を見に行くたびに妖夢は寝ていたということぐらいかな。いや、寝ていること自体は風邪の時はいいことなんだけどね。会話ぐらいはしたかったかな、と。

 

 

 

 

 

 

 昼食と同じように、夕ご飯を白玉楼でいただいた後。

ここでプリズムリバーの三姉妹は、「鳥獣伎楽」らと共に行う夜の演奏会の為に、今すぐ帰らなければいけないことを俺に伝えた。「今すぐ」というのは、この三人がその夜の演奏会のことをすっかり忘れていたから、と言う事である。思い出した時の三人の慌てぶりったらなかったな。

非常に急いでいた三人と、ろくな挨拶もできず、俺は一人、白玉楼のこの部屋に残された。

 

 唐突な別れに、俺は寂しさを感じていた。ついさっきまで四人で一緒に居たこの部屋も、とても広く感じる。ちょっとの時間しかいなかったのに、不思議なものだ。

 

「……最後に妖夢の顔でも見て、俺も帰るかな」

 

 そう独り言をつぶやいて俺はゆっくりと腰を上げる。

 その瞬間

 

「あいや待たれい~!」

 

「おおう!? っておととっ!? ぐがっ」

 

 後ろからいきなり声をかけられ、俺は驚きのあまり足を滑らせてしまった。頭から畳にダイブ! 白滝に痛恨の一撃!

 痛みが暴れまわる頭を抱えながら、声の主の方を見る。

 

「ゆっ…幽々子様?」

 

「あらぁ。派手なコケ方~」

 

「違う…自分のせいでこけた相手に言う第一声はそれじゃない…」

 

「じゃあ……あなたの頭、大丈夫?」

 

「あれぇー? なんか別の意味が込められてるのは気のせいかな?」

 

「気のせいじゃないわよぉ」

 

「否定してくださいよそこは!」

 

 と、こんな漫才みたいな感じで登場した、今「ふふっ」と笑っているお方が白玉楼の主、幽々子様でございます。

 ……今の会話で、大体みんなわかったかもだが、この幽々子様。けっこうお茶目である。今みたいに冗談言ってくるし、俺の事からかってくるし。正直ね、イメージと違ったよ。もっと俺のイメージでは「のほほ~ん」って「まったり~」って「ぽけ~」ってしてるイメージだった。いや失礼だろって意見はごもっとも。でもそういうイメージだったんだよ。

 でもまぁ、こういう、お茶目な幽々子様もありかな。紫様がけっこうカリスマ色強かったからいい対比かもしれない。

 さて、話は戻って。俺は幽々子様に、質問をする。

 

「それで、どうしたんですかいきなり。あぁ、新しい仕事ですか?」

 

 幽々子様は少し考えるそぶりを見せる。

 

「ん~、そうとも言えるかも」

 

 ふむ、まだ仕事が残っていたか。俺一人だけど、大丈夫だろうか。まぁプリズムリバー三姉妹はちゃんと帰る時、『幽々子さんに連絡はしておくよ』って言ってたし、幽々子様がそれを考慮しないわけはないな。

 俺はちらりと外を見る。夕日はほぼ沈んでおり、暗くなってきている。長引くのも面倒だ。

 

「では日も暮れかけですし、ちゃっちゃとその仕事も始めちゃいましょう」

 

「そうねぇ」

 

 俺の言葉に同調した幽々子様は、俺にゆっくりと近づいてきて

 

「えいっ」

 

 なぜか俺の腕に抱き付いてきた。……え?

 

「ちょ!?」

 

 何いきなりこの人どおしたの!? ってか今日この俺がびっくりして焦るパターン多いな!?

 

「ぎゅー」

 

 そんな俺の焦りも知らないで、幽々子様はさらに力を込めて俺の腕を包み込むように抱きしめる。あぁ! そんなに力入れないで! 柔らかいものが! 幽々子様の大きなお山がぁぁぁ!

 文字通り、包み込まれるって感じに俺の腕がなっていた。って、そうじゃなくて! なんでこんなことしてるのか問い詰めないと!

 しかし、ここで動揺しているのがばれたら俺はただの変態になってしまう。なるべく動揺を幽々子様に悟られないように……冷静に……

 

「ドウシタンデスカ? ユユコサマ?」

 

「…動揺を隠してるつもりなの~?」

 

「ばれてる!」

 

 まぁ冷静になれる方がおかしいよね! やはりわざとらしすぎたか。

 俺は一度深呼吸して、もう一度幽々子様に聞く。

 

「はぁ……で、どうしたんですか? 幽々子様」

 

 俺の質問に、幽々子様は笑顔で答える。

 

「これがあなたの今の仕事なの」

 

「仕事? これのどこが…」

 

 俺の再度の問いに、幽々子様はさらにニッコニコの笑顔になって答える。

 

「仕事よぉ? 私と、いちゃいちゃするって仕事」

 

「ぶほっ!」

 

 驚きの返答につい吹き出してしまった。

 

「にゃにをいいにゃすんですきゃあにゃたは!」

 

「噛みすぎて意味不明な言語になってるわよ~」

 

 幽々子さまのこの冷静なツッコミと、俺のこの動揺。対比は容易である。

 これはどうしたらいいんだろうか。っていうか幽々子様は本気でそんなことを言っているのだろうか。全然わからない。真意がつかめない。あーやばい頭混乱してきた。

 そんな混乱する俺の右腕。その腕から先ほどまでの柔らかい圧迫感がスッと消えた。

 見ると、幽々子様が手を放していたのだ。

 

「冗談よ~冗談。ほんと白滝って、反応が可愛いわねぇ」

 

 そう言って「ふふっ」と幽々子様は笑った。

 俺は安どのため息を漏らす。

 

「冗談ですか……純情な俺をからかわんで下さい」

 

「自分で言うかしらぁ普通」

 

 若干呆れたように幽々子様はそう言った。それが俺だ。仕方ないね。

 さて、混乱も収まってきたことだし、真意を聞くとしよう。

 

「それで、最終的に、何をしにここに? まさか俺をからかいに来ただけってことはないでしょう?」

 

「それも一つだけどぉ。もう一つ、白滝に用があってきたの」

 

「用? なんです?」

 

「今日頑張ってくれたあなたを、ねぎらおうと思って」

 

「ねぎらい? いいですよ、そんなの。別に見返りが欲しくてやったわけじゃないですし」

 

 労ってくれるという幽々子様の言葉を、俺は断った。労われるほどのことをしたつもりはない。白玉楼の為に何かできた。それで十分である。

 だが幽々子様は引きさがってくれなかった。

 

「そう言わないで受け取ってくれないかしら~。大きな善意に対して何もお返ししないのは、白玉楼主といて、許されないことなのよねぇ」

 

「…そんなもんなんですか?」

 

「そういうものなのよ~」

 

 うーむ、主という言葉が出てくるとどうにも弱い。反論がなかなかできなくなってしまう。

 ……なんだか申し訳ないが、ありがたく受け取っておこう。

 

「では、遠慮なく」

 

 俺のその返答を聞いた幽々子様は嬉しそうに微笑んだ。

 

「素直な子は好きよ~。それじゃあ、先に、お風呂に入ってもらおうかしら」

 

 ……はい?

 

「お風呂…? なぜです?」

 

「身を清めるのよ~」

 

「はっはぁ…」

 

 ……身を清めてから、行うねぎらいとは何だろうか。想像もつかない。

なんだかよくわからないが、幽々子様に背中を押され、俺は半ば強制的に風呂に入らされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かぽーん

 

 俺の今いるこの世界がアニメならば、このSEが鳴り響いているだろう。

 俺は今白玉楼の風呂の湯船につかっていた。

 

「はぁぁぁぁ……あったまるぜぇ…」

 

 やはり風呂はいいものだ。体の疲れが抜け落ちていくそんな感覚だ。やはり日本人には風呂は必要だ。

 

「しっかし、さすがは屋敷といったところか。なんてすばらしい風呂なんだ」

 

 別に俺は、風呂評論家とかであったりはしないのだが、この白玉楼の風呂がいい味を出していることは分かる。風情があるといった感じだな。現代の日本ではもう旅館などでしか見れない木の湯船がまた素晴らしい。

 

「はぁぁ…落ち着く」

 

 何度目か分からない、ゆったりとしたため息をつく。

 

 ……ふと考えた。この風呂ってさ、いつも幽々子様や妖夢が使ってるんだよな…?

 

「……あ、やべ。なんかそう考えるとドキドキしてきた」

 

 完全に変態の図である。あれだ、好きな女の子の縦笛をぺろぺろしちゃう男と同じ心情だと思う俺。いやそこまでゲスじゃないけどさ。

 でも仕方ないと思う。だってあの妖夢と幽々子様がいつも使ってる風呂だよ!? 意識しない方がおかしいじゃん!

 

「……やめよう。別のことを考えよう」

 

 これ以上考えることはきっと俺の人気をゴリゴリ下げる結果になりそうだと予想した。まぁもともと人気なんざねぇだろうけどな!

 

「しっかし、幽々子様、いきなり風呂入って来いってどうしたんだろうなぁ…」

 

 俺はさっきの会話を思い出す。あの時は何か無理やり行かされたけど、労いをしたいから風呂入って来いって意味不明だよな……うーん

 

「もしかしたら、風呂を貸すことが労いか!? いや、幽々子様に限ってそんな小さいことないか。……もしや、俺が風呂あがるの待ってたりするのかな。そうだとすると、早く上がらねばならんな」

 

 そう言って俺は、そろそろ上がろうと脱衣所の方に視線を移した。そして、あることに気づく。

 

「……人影?」

 

 影が何やら見えたのである。誰だろう? 幽霊たちかな? でもここの掃除も終わってるはずなんだけど……

 身構えること少し。その影の主であると思われる人物が脱衣所の扉を開いた。

 その人物は――

 

「なっ、えっ!? 幽々子様!?」

 

「え? あらぁ、見つかっちゃったわ~」

 

「見つかっちゃったわ~じゃないです! なっなんで服着てないんですか!」

 

「お風呂入るんだから、裸なのは当たり前でしょ? タオル巻いてるんだから平気じゃない~」

 

「平気なわけがありますかぁ!」

 

 そう言って俺は全力で幽々子様に背を向けた。

 脱衣所にいたのは幽々子様で、しかもその姿はタオル一枚体に巻いているだけのものであった。そりゃ風呂に入るなら理解はできますけど! 俺入ってるって知ってますよね!? あーほんと今日はこんなことばっかりだよ!

 俺の混乱なんざ知らぬと言いたげに、幽々子様は全く俺の事なんざ意に介していないように湯かけをして、こちらに近づいてきた。いや、見てないか実際は分からないけど、でも音からしてそんな感じ。

 

「隣、失礼するわよぉ?」

 

「えっ、まっまじですか?」

 

「あら、いやかしら?」

 

「嫌じゃないですよ! 嫌じゃないですけど……嫌じゃなさ過ぎて問題なんだといいますか……」

 

「嫌じゃないなら、いいわね~」

 

「あわわわわ…」

 

 やはり俺のこの感情の暴走は伝わらず、幽々子様の足音は近づいてくるばかり。やばい、そう感じているんだが、悲しき男の性かな。体を動かして逃げることなんてできなかった。

 幽々子様の透き通るような白い柔肌の足が視線の中に映った。とうとう湯船にはいるようである。あかん! そう思った俺は、さらに視線を背けた。

 

「はぁぁ……いいお湯加減ねぇ…」

 

「そ、そうですね」

 

 湯船に完全に浸かったと予想される幽々子様の口から洩れた言葉に、俺はそんな情緒もないことしか言えなかった。いやもう無理だよ。心臓バックバクだよ!

 

「……白滝」

 

「はっはい!」

 

 不意に名前を呼ばれ、俺はビクッと体を震わせながら返事をする。

 

「なんで、こっちを見てくれないのかしらぁ?」

 

「いやいや、なんでって。普通見ちゃダメですよ」

 

「どうして?」

 

「そりゃ…幽々子様。はっ裸…ですし」

 

「あら。一応、タオルは巻いてるわよ~? 本当はマナー違反なんだけど」

 

「あ、そうなんですか。良かった…ってそうじゃなくてですね!」

 

「あーもー、うるさいわねぇ。こうしちゃいましょ」

 

 いきなり、俺の俺の両肩をつかまれる感触がした。そしてその感触を認識したのもつかの間。いきなり俺は――

 

「えい~」

 

「わわっ!」

 

 ぎゅん! と回転させられたのだった。一瞬何が起こったかわからず頭がパニック起しかけたぞ!?

 そして、幸か不幸か。俺はちょうど180度回転させられたようで。

 

「う…ぁ…」

 

「はぁい、これでもう逸らせないわよぉ」

 

 俺の目に、幽々子様の整った美しい顔、濡れてつやつや光る髪、そしてタオルで隠されているが自己主張の激しい大きな胸が飛び込んでくる。その瞬間だけで心臓が跳ね上がった。

 

「ふふっ、顔が真っ赤よぉ」

 

「当たり前ですよ!」

 

 こんな展開になるなんて予想もしていなかった俺は、心の準備なんざできていないんだから!

 だが俺は気づいた。幽々子様の顔も紅くなっていることに。そりゃ風呂入れば赤くはなるだろうが、まだ幽々子様は入ったばかりだ。

 俺は仕返しと言わんばかりにそれを幽々子様に言う。

 

「そういう幽々子様だって、顔紅くなってますよ」

 

 俺のその少しいじわるな言葉を受けた幽々子様の顔は少し赤みが増す。

 

「あらぁ、ほんとうに?」

 

「はい」

 

「…ふふっ。やっぱり殿方に素肌を見られるのは、恥ずかしいみたいねぇ」

 

 そう言って幽々子様はまた、ふふっと笑う。

 俺はその言葉に呆れの返事をする。

 

「いやいや、幽々子様がやったんじゃないですか…」

 

「それはそうなんだけどねぇ」

 

 そう言って幽々子様は恥ずかしそうに微笑みを浮かべる。

 その言葉に若干の違和感を覚えた。素肌を見られるのが恥ずかしいなら、やらなければいいのに。正直そう思った。そして、一つの推測を俺は立てた。

 

「幽々子様が何を考えてくれているかは分かりませんが……恥ずかしいのなら、別に無理にやらなくてもいいんですよ?」

 

 俺は少し視線を逸らしながら言う。もしかしたらこれがねぎらいで、俺を喜ばせるために入ってきたのではないかと考えた結果である。そりゃ嬉しくないと言えば嘘になるが、無理にしては欲しくない。それに、俺はそんなこと望んじゃいない。

 だが、予想に反して幽々子様は首を横に振った。

 

「無理なんてしてないわ」

 

「でも…」

 

「だって、私がこうしたいって思ってるから」

 

「え?」

 

 続く言葉を、幽々子様は少し恥ずかしそうに、だけどどこか嬉しそうに、そんな表情で口にする。

 

「私が、白滝といっしょにお風呂に入りたいって、そう思ったの」

 

「……幽々子様」

 

 その言葉は、まっすぐ俺の中に入ってきた。

 幽々子さまは笑顔を俺に向ける。

 

「だから、無理なんてしてないわ。むしろ、今すっごく私嬉しいって思ってるもの」

 

 その笑顔は、眩しすぎた。

あー、そういうのさ。そういうのほんと……

 

「…ずるいですよ、幽々子様。そんなまっすぐな言葉……こっちが恥ずかしくなっちゃいますよ」

 

「ふふっ、ごめんなさいねぇ」

 

 きっと今俺の顔は、真っ赤になっていることだろう。あれほどのまっすぐな好意を向けられて、うれしくならない男はいない。

 その気持ちを、幽々子様に伝えるとする。

 

「……俺も、今こうやって一緒に入れてるの、うれしいですよ」

 

「あら、ほんとに?」

 

「はい」

 

「それは男の子として~?」

 

 幽々子様が少しいじわるそうな笑みを浮かべながらそう言ってきた。なるほど痛いところをつく。幽々子様が言いたいのは、俺が嬉しいのは「幽々子様とお風呂に入っている」ということか「女の子とお風呂に入っている」ことのそのどちらか、ということだ。

だが甘い。俺の今の気持ちは、そんなただの欲望だけではない。

 俺は正直に言いつつも、何故か自信をもったように口を開く。

 

「それもあります」

 

「あら、正直なのね」

 

「嘘ついても仕方がないですから。でも…でも、今のこの気持ちは、白滝という一人の人間としてのモノです。俺は幽々子様だから嬉しいんですよ」

 

「……そう。ありがとう」

 

 俺の言葉に、幽々子様は満面の笑顔を見せてくれた。

 ……二人とも、お互いの深い部分までは言及しない。きっと、それぐらいが一番いいのだ。特に俺は、幽々子様に迫られても、その気持ちに応えれるかどうかわからないしな。

 変な片意地張らず、素直になれたからだろうか。俺と幽々子様の間に、なんとも心地のいい空気が流れる――と思っていたのだが。

 

「それじゃあ~、私と白滝の気持ちを分かりあったところで」

 

「分かりあったところで、どうす――」

 

「えいっ」

 

「うわわぁ! なんでいきなり抱き付いてくるんですか!」

 

 幽々子様がいきなり抱き付いてきたのである。風呂に入る前に味わった、あの柔らかい感触。いやそれ以上の柔らかさが俺の体を襲う!

 そんな俺とはちがい普通そうに見える幽々子様は「あら」と声を上げる。

 

「男の人って、けっこう体硬いのねぇ」

 

「この状況でそんな冷静に…」

 

「私の体は~どうかしらぁ? 白滝」

 

「ええっ!?」

 

 なんてことを聞くんだこの人は! 幽々子様の顔を見ると、ニコニコとしている。これはあれだ。正直に言わないと解放してもらえないやつだ。

 俺は意を決して、震える声で答える。

 

「えっと……柔らかい…です」

 

「ふふっ、素直でいい子ねぇ」

 

 そう言って幽々子様は俺の頭を撫で始めた。くっそ、完全にからかわれたわ! ちくせう! あっでも、撫でられるのも…悪くないな。

 さて、正直に言った俺だが……解放される気配がない。

 

「幽々子様?」

 

「なぁに?」

 

「そろそろ、腕を外してもらえないかと…」

 

「どうしてぇ?」

 

「どうしてって…」

 

「正直に言ってくれないとぉ、ずぅっと離さないわよ~」

 

 又も先ほどと同じニコニコ顔の幽々子様。

なぜそんなに言わせたがるんですか幽々子様! メルランが俺はからかうと面白いって言ってたが、やはりそうなんだろうか。俺って意外といじられキャラだったのか!?

 仕方がないので、俺は本当に正直に話すことにした。……幽々子様が正直に言えって言ったんだからな?

 

「……このままだと」

 

「ん~?」

 

「このままだと、俺の理性が限界なんですよ!」

 

 もはややけくそ気味に俺はそう言った。もうなんだよこの羞恥プレイ!

 俺の叫びを聞いた幽々子様は、一瞬きょとんとして。でも次には、少し恥ずかしそうに笑った。

 そしておもむろに顔を俺に近づけてきたかと思ったら、俺の耳元でこうささやいたのだ。

 

「白滝になら私、襲われちゃってもいいわ~」

 

 その瞬間。俺の理性が崩壊……するよりも前に、

 

「もー! これ以上俺をからわないでください!」

 

 今までの混乱の反動か、知性が先に崩壊してしまった。俺はいきなり立ち上がり、そう叫んだ。

 その様子を見ていた幽々子様。「ふふっ」といつものように笑った後。

 

「ごめんなさい。もうからかわないから、普通にお風呂に入りましょう? 一緒に、ね?」

 

 優しい笑みで、俺にそう言った。その笑顔に俺は何も言えなくなって、その言葉に素直に従うことにするのだった。

そんな感じで、俺と幽々子様の風呂タイムは終わりを迎えていったのである。

 

 ……体の洗いっこに誘われたが丁重に断っておいた。でなければきっと今頃、俺は理性を粉砕させてしまっていただろう。うれしく幸せな時間だったが、同時にもう二度と味わいたくないとも思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病気などに負けて、寝込んでしまうなど、情けない。

 

 

 私は、寝ている間中、ずっとそんなことを考えていた。情けなくて、悔しかった。

 今までも、風邪の症状であったり、熱が出たりすることは何度かあった。だが、私はそれを隠し、生活していた。それは、幽々子様に迷惑をかけたくないって気持ちだったり、白玉楼の営みの邪魔をしたくないって気持ちだったり。そして何より、病気や熱、体の異常は私に課せられた試練なのだと考えていたからだ。病気は仕方がない、と人は言うかもしれない。だがそれは違う。日ごろから注意し、鍛錬を怠らず、身の健康を保持していれば、風邪などひかぬはずだ。

 私の師匠はこういっていた。

 

「自らが未熟の自覚があるならば、何時いかなる時でも、自らを鍛えよ」

 

 それはもはや師匠の口癖のようなものだった。庭師としても、剣士としても未熟者である私にあてた言葉。私はその言葉を強く胸に刻み付けている。

 だから私は、病気などに負けてはいけなかったのだ。高みに上るため、負けてなどいられなかったのだ。

 だが結果として、このざまである。いかに未熟か思い知らされる。悔しくて涙が出そうだ。

 

 ……私はこのままずっと未熟なのだろうか。

 風邪で頭が重いせいか。そんな弱音まで吐いてしまう。

 

 つい思い描いてしまうのは、親しく愛しい人の顔である。

 こんな弱気な私の姿を見て、幽々子様はどう思うだろうか。

 

「そうね~。妖夢はまだまだ未熟。これからも頑張らなきゃいけないわよ?」

 

 優しい微笑みを浮かべながら、されど私の未熟を自覚させてくれるだろう。

 

 ではあの人は……あの人は、私のこんな姿を見たらなんて思うだろうか。

 

「未熟なんてことないさ。妖夢は頑張ってるよ」

 

 あの人なら、そんな優しい言葉をかけてくださって、優しく頭を撫でてくださるのだろうか。そうだったらいいな……なんて思う。

 だが、きっと現実は甘くない。こんな姿を見たらきっとあのお方であっても……

 

「こんな未熟な奴、好きになんてなれないな」

 

「俺の知ってる妖夢は、もっと強い子だったはずなのに……失望したよ」

 

 そんなことを言われるかもしれない。

だって、こんな私のなさけない姿、あの人でも、いつも優しく微笑みかけてくれるあの人でも、幻滅してしまうだろう。それからもうあの人は、私の為に振り返りなどしてくれなくなるのだろう。

 

 

「妖夢の事なんか、嫌いだ」

 

 

 頭によぎったのは、あの人がそんなことを言う姿。それは私の想像か、はたまた夢か。

 

 どちらにせよ、心が抉られる感覚がした。

 

 そんなことありえない。あの優しい人がそんなこと言うわけない。そう思っている。思っているのだが……。

 もしもを、私は考えてしまう。……そんなのは嫌だった。嫌で嫌で仕方がなかった。涙が出そうになるほどに。

 今彼がこの場所にいないこと。私のこんな姿を見られないこと。それだけが救いだった。もし見られでもしたら……私は、どんな顔をしていいか…

 

 

 ふと、頭が温かくなった。理由は分からないが、おでこに何か置かれたような。その感触のおかげで私の意識は覚醒し始める。

 誰かがおでこのタオルを変えてくれたのだろうか。だがそれなら、冷たさを感じるはず。

 不思議なこの暖かさを感じながら、私は、瞳をゆっくりと開けた。

 

 開けた視界。そして、私の目に映ったのは。

 

 

「あ、おはよう妖夢。悪い、起こしちゃったか?」

 

 

 私に、こんな私に微笑みを見せてくれている、愛しのあの人だった。

 そして、今一番会いたくない、こんな姿を見られたくない人であった。

 

 でも、

 

 彼の表情は、私の想像していた失望幻滅に染まったものとは違って。

 温かい、いや、温かすぎるものだった。

 

 どうしてだか分からない。自分でも全く理解できない。

 なのに……なのに……

 なぜか涙が出てきてしまったのだ。

 

 この人の……白滝様の優しい微笑み。それと同時にその顔と、私を嫌いと言ったあの顔とがダブって見える。

 ……嫌いになってほしくない。幻滅してほしくない。

 私の心は、そればかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよう妖夢。悪い、起こしちゃったか?」

 

 あの幽々子様とのお風呂騒動の後、俺は帰る前に最後の一回、と妖夢の姿を見に来ていた。日中は何回も言ってたけど、薬の影響かずっと妖夢寝てたからな。妖夢と話せなかったのは悲しかったし、悔しかったんだよな。

 そして現在、俺は汗でしっとり濡れる前髪をかき分け、妖夢のおでこに手を当て、熱を測っていたところだ。

 そしてたった今、妖夢が目を覚ました。そのことに嬉しさを感じるのと同時に、俺が熱を測ったせいで眠りを妨げてしまったのではないかという後悔を感じる。

 妖夢は、ぼんやりとした様子で俺の顔を見つめていた。ふーむ、起きたばかりだし。まだ意識が覚醒してないのかな?

 そんなことを考えていた俺は次の瞬間、非常に驚くことになる。

 

 妖夢の目から、いきなり涙がこぼれたのだ。

 

「ええっ! よっ妖夢? どうしたの?」

 

 俺は慌てて妖夢のおでこから手を離した。いったい妖夢に何があったんだろうか。俺には全く分からなかった。どうにかしてあげたいんだけど、どうしていいかわからない、そんな感じ。とりあえず、体は起こそうと考えた俺は妖夢の背中を抑えて、上半身を持ち上げた。

 さて、体は起こせた。しかし、妖夢は泣き止まない。ふーむ……

 俺は妖夢の頭をゆっくりと撫でる。慰めるならこれじゃないかな?

 だがそんな安直な考えではだめだったようで。

 

「…えぐ……あぅ…」

 

 妖夢の涙はどんどん大粒になっていくばかりであった。いったい妖夢はどうしたんだ?

 

「妖夢、ほら泣き止んで。どうした? 怖い夢でも見たのか?」

 

 俺は頭を撫でるのは続けつつ、そう声をかける。だが妖夢の涙が止まることはない。

 どうしたものか、と半分お手上げ状態になった時、妖夢が涙交じり嗚咽交じりに、俺の名前を呟いた。

 

「……白滝様…」

 

「なんだ、妖夢?」

 

「……嫌いに…」

 

「え?」

 

「嫌いに……ならないで…くだ…さい…」

 

 妖夢は、消え入りそうな声で、そう呟いた。嫌いに? どういうことだ? 俺が妖夢を嫌う理由がどころにあるというんだ?

 俺は妖夢の頭を撫でながら、その気持ちを伝える。

 

「妖夢、俺はお前の事を嫌いになったりなんかしないぞ?」

 

 俺は気持ちを伝えた。だが妖夢の涙と嗚咽は止まらない。

 妖夢は、先ほどより、強い力で言葉を口にした。

 

「でも…でもっ……」

 

「妖夢…?」

 

「私……弱い、から……病気に負けちゃう……未熟…者、だからっ」

 

「……」

 

「でも…私、頑張るから……いっぱい頑張るから…っ」

 

 妖夢はもはや泣きじゃくっていた。涙をいっぱいにこぼして、泣いていた。

……この子は、本気でそんなことを言っているのだろうか。俺が、妖夢が風邪をひいて寝込んだごときのことで、妖夢のことを嫌いになるとでも思ったのだろうか。俺は、ある種のショックを受けた。

 そして、それと同時に、この子は何と純粋で、なんと素直で、そして、なんと俺のことを思ってくれていたのだろう……そう思った。

 そう思った瞬間、彼女の存在が、愛しくて仕方がなかった。

 

「だから……だからぁ…」

 

「妖夢っ!」

 

 俺は、泣きじゃくる妖夢を無意識のうちに抱きしめた。妖夢はビクンッと体を一瞬震わせたが、抵抗する様子はなかった。そして背中をポンポンと押しながら、言葉をゆっくりと紡ぐ。

 

「大丈夫。俺は妖夢の事、そんなことで嫌いになったりしない」

 

「…でも……」

 

「未熟だっていいじゃないか。弱くたっていいじゃないか」

 

「…え?」

 

「それで、妖夢という存在が変わってしまうわけじゃない」

 

「……」

 

「例え未熟でも、弱くても、俺はその妖夢が好きなんだから。ね?」

 

「…白滝様ぁ…」

 

 俺の気持ちをゆっくりと伝えた。その気持ちが伝わったのか、妖夢の泣きじゃくる声は小さくなっていく。

 俺は笑みを浮かべながら、妖夢の頭を撫でた。

そしてその妖夢も、次第に強い力で俺のことを抱きしめ返してくれた。

 

少しの間、俺達はこのままでいた。俺は妖夢の存在の愛しさを感じ、妖夢は俺の気持ちを体から感じている、そんな時間だったと思う。妖夢はもう、泣き止んでいた。

ふいに妖夢が、俺の胸に顔をうずめながら呟くように、俺に問いかける。

 

「白滝様」

 

「ん?」

 

「私の事、嫌いにならないですか?」

 

 妖夢の小さく、まだ弱かった。先ほど、その答えは口にしたが…きっと確証を得たいのだろう。それならそれでいい。何度だって言ってやる。

 俺は先ほどの慰めるようなものでなく、今度は自信をもって答える。

 

「ああ、嫌いになんかならないよ」

 

 俺の自信あふれる声に妖夢がこちらを見上げた。妖夢の顔は赤みが差し、先ほどの涙でぐしゃぐしゃになっていたが、それでも、いつみても可愛らしいあの顔だった。

 

「本当ですか?」

 

「本当だ。嘘じゃない」

 

「弱くても、未熟でも?」

 

「弱くても、未熟でもだ」

 

 妖夢の顔が次第に明るくなっていく。俺の自信は、しっかり妖夢に伝わっていたようだ。

 妖夢の質問はそこで一回途切れた。きっともう自分を立て直すには十分だったのだろう。

 だがそう言うわけでもなかったらしく、妖夢はなぜか先ほどより顔を赤くして、俺の問うた。

 

「私の事、すっすす好き、ですか?」

 

「うん。大好きだぞ、妖夢」

 

「あぅっ」

 

 俺の素直な答えを聞いてなぜかそんな声を出した妖夢は、なぜか恥ずかしそうに俺の胸にもう一度顔をうずめた。そして少しして、

 

「……良かった、です」

 

 とぽつりと呟いた。なんだかその様子が可愛くて、抱きしめる力を少し強くする。

 俺はもう少し妖夢を安心させてやろうと、さらに声をかける。

 

「安心しろ妖夢。妖夢みたいに可愛い女の子、嫌いになる奴はいないさ」

 

「そっそんな! そんなこと、ありません……」

 

 驚いたように顔を赤くした妖夢はまた俯いてしまった。

 うーむ、もっと妖夢は自信というものを持ってもいいと思うが……俺は少しの笑顔を浮かべながら妖夢を撫でる。

 

「絶対……とは言えないけど、少なくとも、俺はそうだ」

 

「あぅぅ…」

 

 妖夢の体温が上がったような気がした。風邪のせいか、はたまた恥ずかしがっているのか。いや後者はないか。うーむ、少し話し込みすぎちゃったかな。妖夢の風邪がぶり返すのは避けたい。

 そろそろ休もうか、そう言おうとした俺の耳に、今も俯いている妖夢の声が入ってきた。

 

「……白滝様がそう思ってくださるなら、十分です」

 

 その呟きはちいさかったけど、しっかりとした気持ちのようなものが込められていて、しっかりと聞こえた。…十分ってのがどう意味かは分からなかったが、妖夢の声音は柔らかいもので、安心させられたみたいでよかった。

 ……この感じとか、先ほど俺を見上げた顔とか、もう平気そうかな。

 

「そろそろもう一度休もうか、妖夢?」

 

 俺の質問に妖夢は顔をうずめながら答える。

 

「……はい」

 

 その言葉はどこか悲壮感の混じったものであった。

 きっと先ほどの涙と何か関係があるのだろう。

 

「さっき、なにか怖い夢でも見たの?」

 

「……」

 

 妖夢は小さくでも確かに頷いた。なるほどやはりか。

その妖夢の様子に俺は小さな笑いをもらす。

 

「ははっ、風邪や熱があるときは、悪夢を見やすいっていうからね」

 

「そう、なのですか?」

 

「うん。だから、もうそんな夢見ないように、早くこの風邪を治しちゃおうか」

 

「……はいっ」

 

 今度は妖夢の返事がしっかりと聞こえた。うん、本当にもう大丈夫そうだ。

 俺はもう一度妖夢を寝かせた。……悪夢を見ないためにもう一度眠る、とは我ながら矛盾しているが、仕方がない。風邪の時は寝るのが一番いい方法なんだからな。

 正直、添い寝をしてやりたい気分である。だがさすがに、相手は妖夢とはいえ感染の可能性のある病気だし、難しいだろう。それならば、せめて、ふむ。妖夢が寝付くまでは一緒に居ることにしよう。

 それを妖夢に伝えようとしたとき、ふと気づく。妖夢が俺の袖をきゅっと握っていることを。

 

「あの…白滝様」

 

 妖夢が口を開いた。その顔はどこか恥ずかしげであった。

 

「えと……私が寝るまで…その……」

 

「ああ。一緒に、そばにいるよ」

 

 妖夢の言葉を代わりに言うように俺が言葉をつなげた。よくあるシチュだから言ってみたが正解だったようで、その言葉を聞いた妖夢は顔をほころばせた。

 

「あっ……えへへ、ありがとうございます」

 

「うん」

 

「あの。あ、あともう一つ……いい、ですか?」

 

「うん?」

 

 もう一つ? なんだろう?

 妖夢は先ほどよりもさらに恥ずかしそうに、言葉を紡ぐ。

 

「あの……えっと…寝るまで……私の頭、撫でて、くれません…か?」

 

 ……その言葉、そしておずおずとしたその表情が、なんとも可愛らしくって。

 俺は笑顔になってしまっていた。

 

「おう、まかせろ」

 

 そう言って俺は妖夢の頭を優しく撫で始める。正直妖夢が何故これを頼んだかは分からないが、こんなことで妖夢の眠りの手助けになるなら安いもんだ。

 

「えへへ…」

 

 妖夢も撫でる影響もあってか、すごく安心した様子で、目を閉じた。

 

 それから、妖夢の寝息が聞こえるまで、俺は優しくでも気持ちは強く、妖夢の頭を撫でていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢の部屋を後にした俺。そんな俺にはもはや心残りはなかった。一番残念に思っていた妖夢と話せなかったことが達成されたからね。もう十分である。妖夢の風邪ももう心配するほどでもなくなったたし。あの様子だと明日。かかっても明後日には完治するだろう。万々歳だね。

 最後の心残りも消えた。日ごろ何かと交流がありお世話になっている白玉楼に、ささやかではあるがお礼ができた。ならば、あとは帰るだけである。

 

「よし。荷物まとめて、準備しますか」

 

 俺は先ほどの部屋……今日の俺たちが拠点として使っていた客間へと続く廊下を歩きながら、伸びをしつつそう口にする。荷物をまとめて(まとめるほど持ってきてないけど)、そのあと幽々子様に挨拶して、今日の任務は終了。帰宅させてもらおう。

 

「ふむ、プリズムリバーの三人のところに行ってもいいかもな」

 

 帰った後のそんな計画を立てていたら、何時の間にやらその客間へ到着。

俺は客間のふすまを開けた。

 

「お帰りなさいませ~、あなた」

 

 ふすまを開けた先。前までプリズムリバー三姉妹と一緒に居たが今は誰もいない、そんなはずの客間に、何故か幽々子様が座っていた。初々しく正座して。そしてそんな言葉を言いながら。

 そして何よりも強く俺の目に映ったのは、幽々子様の傍らに敷いてあった布団である。

 幽々子様とその布団。全く理解の追い付かない俺は、開けたふすまをそのまま一度そっと閉じたのだった。

 

「……What happened?」

 

 つい英語になってしまうほど、混乱している俺。まったく訳が分からない。なぜ幽々子様がここにいる? なぜ「お帰りなさいませ」? なぜ「あなた」? そしてなぜ布団が敷いてある!? 分からないことだらけだ。

 もはやなにも関わらず、このまま帰りたい衝動に駆られたがそういうわけにもいかない。俺の荷物はこの部屋にあるし、何より帰るということを伝えるべき相手がそこにいるからだ。

 

 ……もしかしたら、さっき見たのは幻想だったかもしれない。所謂幻視というやつだ。ここは幻想郷、そんなことがあってもおかしくはない。

 

 そんな希望を持ちつつ俺はため息をつきながら、もう一度、ゆっくりふすまを開けるのであった。

 

「も~、あなたったら。いきなり閉めるなんてひどいじゃない」

 

 やはり俺のことを「あなた」と呼ぶ幽々子様と布団がそこにはあった。幽々子様はぷんぷんといった感じで怒っている。

 唐突! 俺はまたもふすまを閉め、現実から目を背け、何も考えたくない衝動にかられる!

 だがまぁそう言うわけにもいかず、俺はその衝動に必死であらがった。

 俺は幽々子様に問う。

 

「……何をやってるんですか」

 

「あらぁ。白滝は、こうやって甲斐甲斐しく待ってた新妻に、そんなこと言うのかしら?」

 

 幽々子様がぶーと口を少し尖らせてそう反論する。……幽々子様の新妻。その響きに若干ドキドキするものを感じるが、そんな欲望は捨て去る。さてまずはどこからツッコんだものか。

 俺は二度目のため息をついた。

 

「俺は幽々子様と結婚はおろか籍も入れてません」

 

「もしかしたら、婚約くらいはしてるかもしれないわよぉ?」

 

「いつですか…」

 

「白滝が寝てる間に忍び込んでちょちょいっと、ね?」

 

「なんか怖いよそんな新妻!」

 

 ヤンデレの域じゃないか、それ! 俺は三度目のため息をつく。

 幽々子様はそんな俺の様子を見て楽しいのか、「ふふっ」と笑っている。全くこの人は。

 そんな様子の幽々子様が俺に尋ねてきた。

 

「でも悪くなかったでしょ?」

 

「何がですか」

 

「新妻の、私」

 

「……まぁ、正直言うと、ドキドキしました」

 

「ふふっ、嬉しいわ~。じゃあ、結婚する?」

 

「まて、その理屈はおかしい」

 

 幽々子様にそう俺はツッコむ。いやよく考えると理屈は合ってるのだが、話が飛躍しすぎている。段階飛ばしすぎ。

 しかし、新妻の幽々子様か……ガチでいけるな。って俺は何を考えているんだ!

 幽々子様は本当に可笑しいようで、くすくすと袖で口元を隠しながら笑っている。その様子は非常に可愛いのだが……これはきっと完全にからかわれている。このままではいかん。俺は強引にでも話を戻すことにした。

 

「今はこの話題は置いといて……」

 

「あら、じゃあ後でゆっくり話しましょ」

 

 …揚げ足とられたけど気にしない。俺は続ける。

 

「……問題はなぜ幽々子様がここにいるか、です」

 

「私がいる理由? だって、まだ白滝をねぎらってなかったもの」

 

「…あ、そういえば」

 

 あの風呂事件でうやむやになってしまっていて忘れていた。元々はそう言う話だったっけか。……うーむ。でも俺もう帰ろうとしてたしなぁ。

 俺はその旨を伝える。

 

「気持ちは嬉しいですけど、やっぱりねぎらいはいいですよ」

 

「あら、どうして~?」

 

「だって、俺もう帰ろうって考えてましたし、プリズムリバー三姉妹のところにも行こうかなって思いまして」

 

 俺の答えを聞いて、幽々子様はきょとんとした顔をした。

 

「私、白滝は今日泊まっていくのかと思ってたわぁ。だからこうやって布団も用意させたんだけど」

 

「へ? なぜ泊まるという選択肢が?」

 

「だって白滝、あなた人間のあなたが、どうやって白玉楼から帰るつもりだったの?」

 

「………あっ」

 

 幽々子様の言葉に、俺は気づかされた。盲点であった。そうか、今の俺には白玉楼を離れ、自宅に帰る方法が無い!

 行きはプリズムリバー三姉妹がいたからよかった。だがもうあの三人はいない。妖夢は……当たり前に除外だ。風邪をひいている体に俺の帰りを任せるとかありえない。ではお手伝い幽霊? だが彼女たちが彼女たちとして存在しているのもこの白玉楼のおかげだ。そこから離れるとどうなるか分からない。

 ではそうなると……

 俺はおずおずといった感じで、幽々子様に尋ねる。

 

「幽々子様に送ってもらう…というのは…?」

 

「んー。難しいわ。相当な理由がない限り、主である私がここから離れるわけにはいかないし…それに、風邪をひいている妖夢を置いて、地上には行きたくないわ」

 

「……それもそうですね」

 

「ね~? 泊まるしかないでしょ」

 

 なんと……では俺には最早帰るという選択肢は存在していないという事か。これは予想外だった。うーむ……となると泊まるしかないのか。

 いや、別に白玉楼に泊まりたくない、とかっていうことではない。ただ、今日俺はお手伝いに来た身である。だからその身分で白玉楼のお世話になるってのは、なるべく避けたいことだったんだ。だがこうなってしまっては仕方がないか。

 とそんなことを考える俺の耳に、

 

「それに……私としてもね。」

 

 と俺に声をかける幽々子様の言葉が聞こえた。俺は幽々子様の方を見る。

 幽々子様はどことなく恥ずかしそうに、されど微笑みながら言葉を続けた。

 

「私、白滝に泊まっていってほしいなって思ってるの」

 

「…なぜです?」

 

「だって、もうちょっとだけでも、白滝と一緒に居たいんですもの」

 

 俺の野暮かとも思われる質問に、幽々子様は満面の笑みで答えた。その笑顔に思わず心臓が跳ね上がる。

 

「……白滝はどう? 私と一緒に居たい?」

 

 少し恥ずかしそうにしたその質問。その気持ちがいっぱい詰まった言葉に、俺は無意識に顔が赤くなるのを感じた。

 恋愛感情とか、そう言うのはよくわからない。これは恋なのかもしれないし、ただ友情としての愛なのかもしれない。自分の心とはいえ、ちゃんとは理解できていない。

 でも俺は……この俺の素直に気持ちに従いたいと思う。

 俺は、幽々子様が伝えてくれたそのまっすぐな言葉に、正直に、素直に、答えた。

 

「はい。俺も幽々子様と、一緒に居たいです」

 

 こうして、今日俺は、白玉楼に泊まることになった。

プリズムリバー三姉妹には悪いし、三人の顔を見れないと思うと残念だが、白玉楼に泊まるなんてこともなかなか無いし、いい機会だとも思った。幽々子様とも久しぶりにゆっくり話をしたいとも思う。

 しかし今日は、疲れが出てしまったためかすぐに眠たくなってしまった。残念だが、話なら明日にでもできる、と今日はこのまま就寝することになった。

 

 今日は充実した一日だった。妖夢の顔も見れたし話もできた。白玉楼の手伝いもできたし、満足の一日である。そう思った。

 そして、今日という素晴らしい一日が終わる――

 

 そう考えていた時期が私にもありました。

 

「……幽々子様」

 

「なぁに?」

 

「……なんで俺の隣で寝てるんですか、しかも同じ布団で!」

 

 布団に入った俺は、いつの間にかその布団の俺の隣にいた、幽々子様にそう叫んだ。ほんとにいつの間にか、である。さっきまで布団の外で話していて、俺が眠いからってその場で布団に入った。目を離したのはほんの一瞬。全く気付かなかった。

 今の状況を近頃のライトノベルのタイトル風に言えば『亡霊の姫様は俺の隣で寝ています』ってところだな。ないしは『ゴーストクイーンは眠らない』って感じか。なんかガチでありそうで怖い。ってか後者完全にパクリじゃねぇか。避雷針から最初の文字を取り除いた名前の主人公と、夜を二回繰り返した名前のヒロインのお話じゃないか。

 ってあぶねぇ。非常事態すぎて、思考がおかしくなってしまう所だった。落ち着こう。冷静に……

 そんな俺の様子が面白いのか、現状仰向けに寝ている俺とは違い、右隣で俺の方向いて寝ている幽々子様はクスクスと笑っていた。

 

「これが私の考えたねぎらいよ~」

 

 衝撃の発言をされた。なんと……これが先ほどから言っていたねぎらいだったのか! ……確かに、寝るんだったら風呂に入るのは当然。まさか最初からねぎらいってのは一緒に寝ることだったのか!

 幽々子様が隣で寝ているその衝撃と、これがねぎらいであるという衝撃が俺の中でない

まぜになり俺は不思議な感覚に襲われた。その様子を見たのか幽々子様が笑う。

 

「変な白滝。ただ私が添い寝してるだけじゃない」

 

「その添い寝してるってのに引っかかってるんだよ俺は」

 

 俺はそうツッコミを入れながら仰向けから、幽々子様の方に体と顔を向ける。普段感じられない近さで幽々子様の顔がそこにはあった。サラサラの髪に、整った輪郭、少したれ目で大きく、俺のことをまっすぐ見てくれているこの目。少し緯線を下にずらせば、自己主張激しい胸があったりして、いつも俺をドキドキさせる幽々子様の全てが、ちょっと手を伸ばせがすぐ届く距離にあることを実感する。

 ……逆に言えば、いつもよりも俺はドキドキさせられているともいえる。自分で幽々子様の方を向いておいてなんだが、心臓が鼓動が半端じゃないことになっていたり。

 というか自分、もう幽々子様と添い寝することを拒否しなくなっていた。いやもうね、風呂一緒に入る、とかと比べると、添い寝なんて可愛い物なわけですよ。そりゃ違ったドキドキはあるけど、まだこっちの方が理性が持つ。

 

「ねぇ白滝?」

 

「なっなんだ?」

 

 急に名前を呼ばれたから焦って声が上ずる。だが幽々子様はそれを気にせず言葉をつづけた。

 

「私、この距離感気になるんだけど~」

 

 そう言って幽々子様は、布団の中の俺と幽々子様の距離を目線で示した。俺と幽々子様との間には20センチほどの間がある。この距離感が気になると。えっと、つまり…近すぎるという事だろうか。

 

「じゃあ、もう少し離れるか」

 

「違いわ~。逆よぉ逆。こんなに離れちゃったら添い寝って言えないわ」

 

「えっ、これ以上に近づきたいと?」

 

「えぇ」

 

「それは……ちょっと…」

 

「むー、なんで?」

 

「なんでって言われても…」

 

 理由は簡単だ。この距離でドキドキがやばいのに、これ以上近づかれたらどうなるか分かったものじゃあないからだ。風呂の時にすでに俺の理性はずいぶん削られてしまっている。ここでさらに迫られでもしたら、ほんとに俺どうにかなっちゃうぜ!?

 そんな俺の気持ちがわからないのか、幽々子様はぶーと口をとがらせて、こちらを非難のこもった目でみる。そんな目で見ないでくださいよ幽々子様ぁ。だがさすが幽々子様、そう言う様子も可愛い。

 幽々子様は不満そうな顔をしたまま、もぞもぞと動きは始めた。

 

「じゃあいいわぁ。私から近づくもの」

 

「えっちょっ!」

 

「ほらぁ、逃げないの~」

 

「いやいや、逃げますって普通!」

 

 幽々子様の顔が、体がどんどん近づいてくる。しかも布団の中で逃げるのは容易じゃない。布が体にまとわりつく。こらそこ! 布団から出ればいいじゃんとか言わない! 布団から出て逃げたりなんかしたら、幽々子様をガチで拒否してるみたいになる。それは嫌だった。

ふと気づく。その幽々子様の顔、さっきまでの不満そうな顔でなく……あれだ、俺をからかう時の面白がっている顔だ。なんてことだ、また俺はからかわれているのか。

 幽々子様の真意は分からない。だがまたさっきみたいにからかわれるのは非常に癪だった。悔しかった。

 だから俺は、反抗にでたのである。

 

「知らないですよ……」

 

「ん~? なぁに?」

 

「……幽々子様から、誘ってきたんですから…ねっ!」

 

「えっ? ちょっとまっ――きゃあっ!」

 

 俺は、じりじりと詰め寄ってきていた幽々子様との距離を、一瞬で詰め、有無を言わさず幽々子様を強引に抱きしめたのだった。幽々子様はいつもの余裕そうな声とは違い、少し焦ったようなでもどこか可愛らしい声を上げた。

幽々子様は俺に抱きしめられながら、

 

「え? えっ?」

 

 と状況がいまいち理解できていないような声を上げる。反抗は成功したようである。幽々子様の余裕を奪うことが出来た。

 ……だがしかし、これ。自分でやっておいて、やばい。幽々子様の体が、触れるところ触れるところ、女の子独特の柔らかさを醸し出してくる。これはやばい、鼓動がさっきの倍くらいになってる。

 俺はそれを幽々子様に感づかれないようにしながら、言葉を発する。

 

「幽々子様が悪いんですよ。俺を何度もからかうから……これは仕返しです」

 

 俺の言葉に幽々子様は思わずといった様子で声を上げる。

 

「いきなり抱きしめるのは卑怯だと思うわ」

 

 やはり自分の予想外の出来事だったのか、幽々子様も動揺を隠せないらしい。いつもより早口になっているのが何よりの証拠である。

 俺は少しいじわるに返事を返した。

 

「幽々子様から迫ってきたんでしょ」

 

「むーそれはそうだけど……こんなの…」

 

 幽々子様の声が次第に小さくなっていった。聞きもらさないように俺はその声に耳を傾ける。

 

「こんなの……仕返しなのに…」

 

 幽々子様は、小さく小さく呟いた。

 

「……ドキドキしすぎて…嬉しくなっちゃう…」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が跳ね上がるほどの衝撃を感じた。

 ……それはこっちのセリフです、幽々子様。そんなこと言われたら、俺が嬉しくなっちゃいますよ。

 抱きしめる力が自然と強くなった。幽々子様の柔らかさが、霊体独特のでもどこか温かい体温が俺の体に直接伝わる。

 幽々子様は俺の服をきゅっと掴むだの小さな抱擁を返してくれた。その様子が可愛くってさらに心臓の鼓動が早くなる。…俺の胸元に幽々子様の頭があるから、このドキドキしてるの伝わっちゃってるんだろうなぁ……そう考えると恥ずかしいが、全然嫌じゃない。

 

 

 

 

 

 少しの間、俺達はこうして抱きしめあっていた。お互いの温かさを感じるように。静かに。

 その静寂を破ったのは、幽々子様のつぶやきであった。

 

「私ね」

 

 その言葉は小さく、弱々しく感じられた。

 

「本当は、ねぎらいなんて言葉、使いたくなかったの」

 

 幽々子様の声。弱々しいだけでなく、どこか悲しげにも聞こえる。

 

「…本当はなんて俺に言いたかったんですか?」

 

 俺のその問いに、幽々子様は少し間を取って、ゆっくこたえた、

 

「ほんとわね、お礼って言いたかったの。ねぎらいなんて、堅苦しくて、偉そうで、白玉楼の主からの言葉っていう、何の感情もない言葉だから。私の感情のこもった、感謝の、好意の気持ちがこもった言葉を、あなたに送りたかった」

 

 幽々子様はゆっくり、そう言葉を紡いだ。俺も幽々子様の声をしっかりと受け止めながら聞く。

 俺は話を促すように声をかける。

 

「じゃあ、どうして?」

 

「……考えちゃったの。白滝がここに来てくれたのは、私が心配なんじゃなくて、妖夢のいない白玉楼が心配だからじゃないかって。」

 

「……」

 

 俺は、幽々子様の言葉の意味を噛みしめた。自分自身を見てもらえない。そんな幽々子様の悲壮感が俺の中に伝わってきて、広がるように感じる。。

 幽々子様の声は、次第に強くなっていった。まるで今までため込んできた思いをかきだすかのように。

 

「そう考えたら、お礼なんて私個人の言葉、使えなかった。そんな、気持ちを押し付けるような言葉、使えなかった。白滝が白玉楼しか見てないなら、私は白玉楼の主でいよう。それ以上にならないようにしよう。そう思ったわ。」

 

「……幽々子様」

 

 抱きしめる手に力が入る。自分の気持ちをまっすぐに俺に伝えてくる。その言葉が、俺に伝わってくる。その言葉が伝わるたびに、幽々子様が愛おしくなる。

 

「でも我慢できなかったの。あなたと一緒にいると、自然とうれしくなっちゃって、自然と幸せになっちゃって。もっと一緒に居たいって思っちゃって。だから――」

 

「俺も! 嬉しくて、幸せで、もっと一緒に居たいって、そう思うよ。幽々子」

 

 無意識に俺は、そう声を上げていた。

 

「っ!?」

 

 幽々子様がビクッと体を震わせる。まさか俺が、そんな言葉を口にするとは思っていなかったのだろう。

 俺は言葉をつづける。

 

「確かに、俺がここに来たのは、妖夢が心配だったこと。そして、白玉楼が心配だったからだ」

 

「じゃあ――」

 

 幽々子様のその不安そうに、寂しそうに、悲しそうに口にしようとする言葉を俺はさえぎる。

 そう俺は白玉楼が心配だった。でも俺は、白玉楼だからこそ心配だったのだ。だって――

 

「でも、白玉楼が心配になったのは、幽々子がそこにいるからだよ」

 

「……白滝…」

 

「幽々子が白玉楼の主だから、幽々子の負担をなくせるようにって、そんな手助けをしたいから、俺はここに来たんだ」

 

「……っ」

 

「俺は、幽々子をちゃんと見てるよ」

 

 幽々子の顔をまっすぐ見つめた。幽々子の顔以外なにも見えないぐらいにまっすぐ。

 幽々子の顔は、はじめは驚きばかりであったが、次第に赤みが差してきて。ついには幽々子は俯いてしまった。

 

「……もう…そんなこと言われたら……」

 

「嬉しくなっちゃう?」

 

 幽々子はこくんと頷いた。ほんと、愛らしい人だ。こうしていられるのが本当に幸せである。

 俺は、幽々子の頭を撫でながら幽々子に声をかける。

 

「なぁ幽々子」

 

「…なぁに?」

 

「ねぎらいなんていらない。お礼もいらない」

 

 幽々子は俺の顔をまっすぐ見つめる。反論はない。俺はそれに安心して、俺の今の気持ちを素直に口にした。

 

「俺のすぐそばで、一緒に寝てくれないか? 幽々子がいる幸せをもっと感じたいんだ」

 

「……うんっ」

 

 幽々子は俺に、精一杯の笑顔を見せてくれた。

 

 次第と訪れるまどろみ。遠ざかる意識の中で、最後の幽々子の、涙交じりの声と笑顔が、俺の心の中にずっと存在し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ら……さ…!」

 

 なんだか体がゆらゆらと揺れる感覚がする。なんだろう、地震かな?

 

「しら…きさ…!」

 

 …地震にしては揺れすぎかな……なんだなんだ…俺はまだ眠いんだが。

 しかし、このまま寝ているわけにもいかないようだ。いつまでたっても揺れるのは治まらないし、これは仕方ない。目を開くとしよう。

 目を開くと、眩しい光が目に入る。そのおかげで、俺の意識は一層覚醒されることなった。

 

「あっ白滝様。お目覚めになられましたか?」

 

 眩しい光で目がちかちかしている俺の耳に、そんな優しげな声が聞こえてくる。まだぼやけてしか見えないが、この声、そしてこの雰囲気……

 

「妖夢…なのか?」

 

「はい、そうですよ。おはようございます、白滝様」

 

 やはり妖夢だった。うん、視界がはっきりしてきたぞ。まぎれもなく妖夢だ。銀髪にぱっつんの短い髪。青色の綺麗な瞳。これを妖夢と言わずに誰を妖夢と呼ぼうか!

 俺は体を起こし、伸びをする。それと同時にあくびを一つ。

 しかし、ここに妖夢がいるってことと、この妖夢の元気そうな様子を見るからに……

 

「風邪、もう大丈夫なのか?」

 

「はい! おかげさまで」

 

「それはよかった。しかし、妖夢が風邪でダウンなんてびっくりした。心配したんだぞ?」

 

「心配をおかけしました……」

 

 俺の言葉に妖夢はしょぼんとしてしまう。あや、まじめな妖夢には、これはちょっと意地悪だったかな。失敗失敗。

 俺は苦笑いを浮かべる。

 

「そんなに落ち込まないで。元気になったんだからなにより、なにより」

 

 俺の言葉のおかげかは分からないが、妖夢は笑顔を見せてくれた。

 

「はい! 私はもう、元気な魂魄妖夢です!」

 

 ふんすっと妖夢は元気はつらつと言った感じでそう言った。

 ……なんだか、そうやって意気揚々としている妖夢の姿を見ていると、昨日の泣き顔の妖夢が思い出されて。なんだかその対比が面白くて、俺は思わず吹き出してしまった。

 妖夢が驚いた顔になる。

 

「ええ!? なんでいきなり笑うんですかぁ!」

 

「いや…ごめん。はははっ、昨日の妖夢と…つい比べちゃって、ははっ!」

 

「あう! きっ昨日のは、その……」

 

 妖夢は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。あちゃー、これも意地悪だったな。でも吹き出したのは我慢できなかったことだし、許してほしい。

 俺は妖夢の頭を慰めるようにポンポンと撫でる。

 

「ごめんごめん」

 

「むー…白滝様意地悪です…」

 

「はははっ」

 

 やはり妖夢可愛い。いや可愛いのはいつものことだから置いといて。うん、必要以上にネガティブにならないし、体調も精神状態もすっかりよくなったようだ。しかしさすが永遠亭の薬というべきか。あの妖夢がダウンしてしまうほどの風邪を一日で治せてしまうなんて。

 

 ……ふと俺は、気づいたことがあった。

 

「なぁ妖夢」

 

「はい、なんですか?」

 

「えっと、幽々子…様は?」

 

「幽々子様ですか? 幽々子さまでしたら、今は自室にいらっしゃると思いますよ。ってあ、あそうだ。白滝さん!」

 

「えっ、えっと、なに?」

 

 昨晩のアレで俺の隣で寝ていたはずの幽々子様がいないことに気づいた俺。それでどこにいるのかを妖夢質問したら、なぜか妖夢に迫られてしまった。なんだなんだ?

 

「今朝、幽々子様に会いまして、お話を聞いたんですが。幽々子様は今日白滝様に会いたくないとおっしゃっていました。……なにか幽々子様にしたんですか?」

 

「えっ……あー、そういうこと」

 

「どういうことですか?」

 

 妖夢がキッとさらに睨むように迫ってきた。さすが主のこととなると怖いな。

 俺は確認の為、妖夢に質問をした。

 

「なぁ妖夢。幽々子様がその……俺に会いたくないって言った時、幽々子様どんな顔してた?」

 

「どんな顔……確かお顔を真っ赤にされていたと思います。」

 

「あぁ…やっぱり」

 

 そんなことだろうと思ったよ。つまりだ、昨日の晩、二人で自分たちの気持ちの打ち明け合って、抱きしめあって。それで幽々子様が先に起きて、あまり昨日の出来事の恥ずかしさに、俺を起こすこともできず部屋を後にした、と考えられる。そして今日会いたくないってのは、昨日今日の出来事だ、どんな顔で会えばいいかわからない、と言う事だろう。……なぜそこまでわかるって? 現に俺が今同じ気持ちだからだよ。そりゃ幽々子様に会えるなら嬉しいんだけどね。

 さて俺の方では納得がいったんだけど、妖夢には当たり前に理解のできない話である。

 

「それで、幽々子様と何があったんですか? 何をしたんですか?」

 

「いやー、はははは…」

 

 迫る妖霧に、俺は苦笑いを浮かべるしかできなかった。

 少しの間睨む妖夢だったが、俺のこの様子を見て、諦めたようにため息をつく。

 

「はぁ。白滝様はひどいことはしないお方だと思っていますから、深くは言及しないでおきます」

 

「あはは、ありがとう」

 

 妖夢が優しくて理解ある子で助かったよ。

 正直昨晩のことは説明しようにもしにくいからな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢の用意してくれた朝食を食べた後。

 食器などを片付け終わった妖夢がいきなり、俺の前に正座をした。正直いきなりのこと過ぎて、何が起こったか一瞬分からなかったレベルだ。

 

「妖夢? どした?」

 

 俺の言葉にピクッと反応した妖夢。次の瞬間、妖夢は俺に向かって思いっきり頭を下げた。

 

「この度は誠に、ご迷惑をおかけいたしました!」

 

 びっくりの連発で驚きを隠せない俺は、きょどりながらも妖夢に聞く。

 

「おっおう…急にどうした?」

 

「いえ。例え親しい仲……親しい仲とはいえ、しっかり感謝の気持ちは伝えねば、と思いまして」

 

 一瞬、なぜか「親しい仲」といったあたりで顔を赤らめた妖夢。理由は全然わからないけどね。

しかし、ふーむ……さすが、真面目な妖夢といったところか。わざわざもう一度言葉にして伝えてくれるとは。俺は朝のあの挨拶で十分だったのに。

だがせっかく妖夢が言葉にしてくれるというのだ。ありがたく受け取っておこう。

 妖夢は続ける。

 

「幽々子様、プリズムリバー三姉妹のお三方、そして白滝様。皆様のおかげで、こうして無事、職務に戻ることができます。ありがとうございます」

 

 そう言って妖夢はもう一度深く頭を下げた。うーむ、生真面目。まぁその生真面目さが可愛いんだけどね。

 

「それで、ですね。ぜひ白滝様には何かお礼をしたいな、と思いまして」

 

 妖夢がそんなことを言い出した。お礼という単語で昨晩のことを思い出す。…正直、あの出来事でお礼はもらいすぎてる。それに俺は妖夢からのお礼やお返しが欲しくて看病したわけではない。

 そんなことを考えて、俺は妖夢の申し出を断ろうと考えた。

 

「いいよお礼なんて。妖夢がいつも通りの笑顔でいてくれる。俺にはそれで十分だ」

 

「ですがそれでは、私が自分を許すことができません。何なりと申し付けください。私にできる範囲でしたら、して差し上げたいです」

 

 強い意志をもってそう言われた。さすが生真面目な妖夢。やはり引き下がってくれない。

しかし、お礼か……特にやってほしいことがあるわけでもないし。てかこんなことで妖夢に行動してもらうこと自身申し訳ない。

でも……いつもの感じから言って、このまま俺が断っても妖夢が引き下がらず堂々巡りだ。早い所、折り合いをつけたほうがいい。

 ……あ、そうだ。この願いだったら、俺も大助かりだし、妖夢の言うお礼にもなる。

 俺は妖夢に提案した。

 

「だったら、妖夢」

 

「はい! なんですか?」

 

「俺を、家まで送ってくれないか?」

 

「……はい?」

 

 妖夢の拍子抜けしたような、そんな声が俺の耳に印象深く刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地上に降りるのも、久しぶりな気がします」

 

「そうか、妖夢は異変以来あんまりこっちには来てないんだっけ」

 

「行って買い物程度でしょうか。白玉楼の業務や剣術修練がありますから、よほどの用が無い限り、地上にはいくことはありません」

 

 現在、俺は妖夢におんぶされて、幻想郷の空を飛んでいた。先ほどまでの会話から分かるだろうが、帰り道である。結局あの後、「そんなことでいいんですか?」と食い下がる妖夢に「俺にとっちゃ死活問題なんだよ…」とゴリ押しした結果である。

 ちなみに、幽々子様には顔を合わせていない。妖夢の話にもあったし、実際俺もどんな顔で、どんな口調で会えばいいかわからなかったのも事実だったからな。次、白玉楼を訪れた時にでもゆっくり話すとしよう。その時にはこの心の火照りも収まるだろうて。

 

 俺は妖夢の「地上に行くことはない」という言葉に若干の寂しさを感じる。

 

「そっか……なんかちょっと寂しいね」

 

「寂しい? なぜです?」

 

「だってさ、しょっちゅうこっちに来てるなら、もしかして人里でばっかり会う、とかそう言う事あるかもしれないじゃんか」

 

「あー……そうですね。そう考えると、私と白滝様ってなかなか会える機会が無いんですよね…」

 

 妖夢が寂しそうにそう呟いた。後ろからだから表情は分からないが、なんとなくどんな顔してるかも分かる気がした。

 実際人里でばったり、ということは多かったりする。先週は咲夜にあったしな。近頃言えば鈴仙にもあった。……二人とも俺に冷たかったけど、それはいつもの事なので気にしない。

 俺は妖夢の言葉に同調する。

 

「そうそう。しかも俺が妖夢にあいに行こうと考えても、空を飛べないから気楽にいけないんだよな…」

 

「そうですね…」

 

 妖夢の声がますます沈んで聞こえる。寂しい現実だが、妖夢が俺に会えなくて寂しいと思ってくれていることに気づいた。少し心が温かくなる。

 そこまで考えて一つ気づいたことがあった。

 

「そうだ。妖夢が俺の家に遊びに来るってのはどうだ? っておおわっ!?」

 

 そう俺が言った瞬間、がくんと飛行する高度が落ちた。どど、どうした妖夢!?

 妖夢が高度を戻しながら、慌てたように声を出す。

 

「すすすみません! ちょっとびっくりしてしまって」

 

「あー、悪い。さすがに俺の家に来るのは嫌だったよな」

 

「いっいえ! そういうわけではないんです! ただ単純にびっくりしただけです!」

 

「そう?」

 

「はい! 白滝様の家、行ってみたいです」

 

 妖夢はそう健気に返事をしてくれた。妖夢のやさしさに俺は涙が出そうになる。

 俺は妖夢のやさしさに答えるように返事をする。

 

「そっか。それじゃ、妖夢が来るときはちゃんとおもてなしができるようにしておかないとな」

 

「いえ! そんな私なんかにおもてなしなんて…」

 

「いやいや、妖夢はお客様であり、女の子なんだから。女の子をエスコートするのは男の役目。これ常識ね」

 

「そう…ですか?」

 

「うん!」

 

「それじゃ……楽しみにしてます」

 

「おうよ!」

 

「……えへへ、白滝様からお誘いもらっちゃった」

 

「何か言ったか?」

 

「いっいえ! なにも!」

 

 何か妖霧が言ったようだったが、風邪を切る音で全然聞き取れなかった。まぁ重要そうなことではなさそうだから、あまり気にしないでおこう。しかし、こりゃ妖夢が来たときはがんばらなきゃいけないな! 期待に添えるように全力を出そう。そう俺は決心した。

 と、話がいい感じに終わったところで、ちょうど森の中にポツンと建っている俺の家が見えてきた。もとは狩人かなにかの空き家だったものを、萃香が改装してくれたものだ。今では普通にいい家である。

 俺は指をさしながら妖夢に目的地が近いことを伝える。

 

「妖夢、あそこの家、見える?」

 

「えっと……あの森の中にある赤い屋根のですか?」

 

「あ、それはアリスの家だ。俺の家はもっと左」

 

「あっ! あの黒屋根の」

 

「そそ、それそれ。そこまでよろしく」

 

「はい!」

 

 俺は妖夢の元気な返事に頷く。

 そうして俺たちは俺の家に向けて、高度を下げていくのだった。

 

「ありがとうな、送ってもらって。助かったよ」

 

 着陸後、俺は妖夢から荷物を受け取って礼を言った。

 妖夢はなぜか慌てたように首を振った。

 

「いえ、そんな! もとは私のお礼ですから! むしろ…こんなことでよかったんですか?」

 

「何度も言ってるだろ。これで十分だって」

 

「そう、ですか?」

 

「うん。むしろこうして最後まで妖夢と話せたから、俺は満足してるよ」

 

「あうっ…」

 

 俺は、申し訳なさそうにする妖夢の頭を撫でる。……なんか、妖夢頭撫でるのデフォルトになってきた。……いいのかな? 妖夢も抵抗しないし…良しとしておこうか。

 やはり妖夢、まだ若干納得できないのか食い下がってきた。

 

「でも――」

 

「それにだ」

 

 俺は食い下がる妖夢の言葉を遮る。そして

 

「可愛い女の子の笑顔が見れる。それで俺は幸せだよ」

 

 妖夢の顔を見つめてそう言った。その途端

 

「はぅ!」

 

 妖夢は顔を真っ赤にしてしまった。

 実はこれ、策略だったりする。妖夢はその真面目で素直な性格の為か、ああいうストレートでキザなセリフに弱いのだ。まぁ策略と言っても本心だし。そこは勘弁してもらいたい。

 妖夢が顔を赤くしながらこちらをジト目で見てくる。

 

「もー…白滝様ずるいです…」

 

「ははっ、ごめんごめん。あ、そうだ。せっかく来たんだし、ちょっと休んでくか? お茶でも出すよ?」

 

 俺は謝まったあと、妖夢にそう提案した。せっかくここまで来たんだ。ちょっとしたおもてなし位したい。

 妖夢は、一瞬嬉しそうな顔をした。しかし、すぐにその表情は消え、寂しそうにしながら首を横に振った。

 

「すみません。いただきたいのは山々なんですが、まだ白玉楼の職務がありますから」

 

「あー、そっか。そうだよね、ごめん」

 

 当たり前だ。妖夢は風邪で一日休んでいて、今日はその翌日だ。やりたいことは山ほどあるだろう。むしろ朝からこうやって付きあわせてしまっているのは俺なわけで。申し訳ない気持ちになった。

 妖夢は驚いたように首を振る。

 

「そんな! 謝らないで…ください」

 

 妖夢の声は次第に小さくなっていき、最後は消え入りそうなほどになった。

 

 訪れた静寂。

 

 俺と妖夢は、この静寂でもう別れの時間だということを悟る。

 

 正直言うと、もっと妖夢と話したかった。昨日、ほとんど話せなかった反動なのかもしれない。もっと妖夢と話して、もっと妖夢の笑顔が見たいと思った。

 だが……これ以上妖夢を付きあわせるわけにもいかない。先ほども言ったが、妖夢にはやることがあるのだ。

 寂しいが、ここでお別れとしよう。そう思い、妖夢に別れの言葉を言うとしたその瞬間。

 

 

「……白滝様っ」

 

 

 唐突に、妖夢が俺に抱き付いてきた。

 

 最初何が起こったから分からず、俺は妖夢の名を呼ぶ。

 

「妖夢? どうした?」

 

「……少しだけ」

 

 妖夢が消えりそうな声で呟いた。

 

「少しだけ……このままで」

 

 妖夢の表情は見えない。だが、声が、そして肩が少し震えているような気がした。

 ……もしかしたら、昨日のあの怖い夢の続きを、引きずっているのかもしれない。自惚れかもしれないが、俺と別れてしまうことで、あの夢を思い出してしまうのではないか。そう感じた。確証など無いが、そう思う。

 小さく震える妖夢。そんな妖夢に俺はなにをしてやればいい? そんなの決まっている。あの夜と同じことをしてやればいいんだ。

 俺は、優しく妖夢のことを抱きしめた。妖夢は少し驚いたように顔を上げる。

 

「……白滝…様?」

 

 俺はあえて、その妖夢の言葉には答えず、ただ妖夢を抱きしめた。気持ちが伝わるように、優しく、されど強く。

 

「白滝様……温かいです…」

 

 妖夢はどこか安心したような息をつきながら、そう答える。それでますます妖夢が愛おしくなってしまう。

 

 しばらくの間、俺と妖夢は抱きしめあう。あの夜と同じように、お互いの温かさを感じあうように。

 

 不意に、妖夢が呟いた。

 

 

 

「私、白滝様の事、好きです」

 

 

 

 それは突然の告白だった。いや告白かはわからない。その「好き」はLike か Love か。それは俺には分からなかった。でもきっと、今の俺達にはそんなこと関係ないのだろう。ただ自分の気持ちを伝えあう。だから、LikeでもLoveでもどちらでもいい。

 ただ俺は口にすればいい。素直な気持ちを。素直な思いを。

 

「俺も妖夢が好きだ。大好きだ」

 

 しっかりと気持ちを言葉に乗せ、妖夢に送った。

 妖夢は俺のその言葉を受け取ってくれたようで、「ふふっ」とほほ笑んだのが聞こえた。

 

「ありがとうございます。安心しました」

 

「もう、大丈夫か?」

 

「はいっ」

 

 そう言って妖夢はゆっくりと俺から離れた。俺もそれを拒むことなく、素直に妖夢を離す。

 妖夢の顔は、晴れやかになっていた。

 

「それでは白滝様。私はこれで戻ります」

 

「おお、気を付けて帰れよ」

 

「はいっ。ほんとにありがとうございました!」

 

 最後に妖夢が、笑顔を、満面の笑顔を見せてくれた。うん、やっぱり妖夢は笑顔が似合う。泣き顔も可愛いけど、笑顔が一番だ。

 妖夢は俺に手を振り、そのままふわりと宙へ浮かぶ。

 そして、白玉楼へ向かって飛び去る――と思いきや、こちらを振り返った。

 

「白滝様!」

 

「なんだ?」

 

 俺の問いに、妖夢は先ほどの満面の笑みを浮かべて答えた。

 

「今度、ぜっったい遊びに行きますから!」

 

「……ははっ、ああ! 待ってるよ! おもてなし期待しておいてくれよな!」

 

「えへへ、はい!」

 

 その言葉を最後に、妖夢は青く澄み切った空へと飛び去り、すぐに見えなくなってしまった。

 訪れる寂しさ。

だがその寂しさはすぐに消え去ってしまった。なぜかって? そりゃあもちろん。

 

「あー! あんなこと言われたら、今から妖夢が来るの楽しみになっちゃうぜー」

 

 楽しみだ、という感情があふれるのを俺は止めることはできなかった。

 いつ来るのだろうか。意外と近くかもしれない。

 もしかしたら幽々子様も来るかも? そうだとしたら、もっともてなしに気合いを入れねばならない。

 

「よーし! 今の内にプランを考えちゃおっかなー!」

 

 俺は意気揚々と自宅の扉を開け、中に入る。

 

 いつ来るか分からない。そんな日を、俺はとてもとても、楽しみに思ってしまっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白玉楼へ向かう空の道中。

 

「白滝様の言った好きって……どっちの好きだったんだろ……私と同じ『好き』だったら、嬉しいなぁ、なんて。……えへへ」

 

 誰も見ていない中、魂魄妖夢は無意識に浮かべてしまう笑みを、止められないでいた。

 

 

 

 

 

 




お疲れ様です! そして最後まで見てくださってありがとうございます!

結果発表!
この特別編。そう文字数。
5万1千5文字! 新記録でございます!
まさか自分もこんなに書くとは……びっくりです。

さて今回特別篇ということでしたので、珍しく、ほぼほぼハーレム状態といった感じにしてみました。
皆それぞれ白滝好感度メーターが80を超えているという設定です。
ただし、この話はあくまでIFストーリーなので、本編でこのような好感度設定になるかはわかりません。ご了承ください。

しかし……文章量は合っても、文章力は低下している気がする。
もっと精進せねば。

感想誤字脱字指摘待ってます。
みなさんの書いてくださる感想が楽しみになっている自分がいます(笑)

さて次は、本編ですね!
うどんげを助けて落とし穴に落ちた白滝はどうなるのか!
こうご期待!

早めに投稿しますね!
ではでは次回をお楽しみに! グッバイ!
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