東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!
最近「東方人形演舞」を始めたトーレでございます! もちろん主人公の名前は白滝。

やっとこさの投稿です。リアルが忙しすぎるんや、ゆるしてや…
春休みなのに毎日部活とかありえへんやん…

さてさて、久しぶりの本編となっております。
鈴仙の身代わりになって落とし穴に落ちてしまった白滝!
果たしてどうなってしまうのか! こうご期待!

ではどうぞ! 温かい目で見ていってね!


第二十八話 ~永遠亭~

 

「あらら…これは厄介なことになっちゃったね」

 

 因幡てゐは竹林の茂みに身をひそめながら、そう嘆息した。その嘆息の原因は、今自分の眼下で起こったことである。

 目の前で起こったこと。その出来事を至極簡単に説明するならば、

 

『目標でないものが自分の作った罠に掛かった』

 

ということである。言わずとも分かるであろうが、目標とは鈴仙のこと。罠とは落とし穴の事。そして、

 

「あの人間、鈴仙を助けて自分から落ちるとか何考えているのさっ」

 

 目標でないものとは、無計画に定評のある男、白滝の事であった。

 てゐはため息を一つつく。

 

「あーあ、あの男のせいで、せっかく作った落とし穴がパーになっちゃった。今までにない深さにした自信作だったのに」

 

 てゐは今はもはや落とし穴の底にいるであろう白滝に向けて悪態をつく。元は鈴仙に対するいたずらの為に作った落とし穴である。しかも、この頃いたずらがマンネリ化してきたと考えて作ったすごく深い落とし穴であった。が、白滝のせいでご覧の有様である。

 

「しかし、さっきの男、なんで鈴仙と歩いてたんだろ。あの妹紅も一緒だったみたいだし」

 

 てゐの中でそんな疑問が生まれる。鈴仙は人間嫌いである。しかも相手は男。あんな風にともに行動するなんて普通じゃない。妹紅がいたということはあの男に永遠亭まで道案内していたのだろうか。……鈴仙も一緒に? そんな珍しいことあるだろうか。もしかしたら、あの男と何かしらの出来事があったのかもしれない。

 そこまで考えたてゐの脳内に、何かが引っ掛かった。

 

「…? あの男、どこかで見たことあるような…?」

 

 顔見知りとまでは行かないが、どこかで見たことがある気がしたのだ。どこかは全然覚えていないが。人里あたりだろうか。いや、あんな変な服を着た男を、着物系統の服を着ているのが多い人里で見たのなら、もっと印象に残っていてもいいはずだ。はてどこだったろうか……

 ふと妹紅の持っている新聞に目線が行く。新聞、これも何か引っかかった。

 

「新聞…新聞……あっ! カラスの新聞に載ってたね確か!」

 

 合点が言ったかのようにてゐはポンと手を叩いた。そう、鈴仙だけでなく、てゐもあの問題の新聞を読んでいたのだ。だが、てゐは鈴仙とは違う考えを持っていた。

 

「桃魔館だったっけ。そっかあの男、紅魔館の執事だって書かれてたやつさね……でも確か、誤報だったんだっけあれ」

 

 てゐが自分の記憶をたどりながらそう呟く。鈴仙と違っていたのは、あの記事が誤報だということを知っていることだった。よってあの新聞のことに気づいても、白滝に対しててゐがそこまでの嫌悪感を覚えることはなかった。

 嫌悪感よりもむしろ……

 

「……あの紅魔館の執事が、鈴仙と一緒に永遠亭に来た。これは何か面白いことが起こるかも」

 

 てゐはにやりと微笑む。人間嫌いの鈴仙が男と一緒に永遠亭に来ている。しかもその男はあの紅魔館のあの執事である。これほど珍しく、そして面白い状況。いたずら好きのてゐが食いつかないわけがなかった。

 

「どんなことしてやろうかねぇ……ウサウサウサ…」

 

 てゐは、にやりと、ゲスい笑いを浮かべながら、竹林の闇へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますとそこには、見知らぬ天井があった。紅魔館でも博麗神社でもない。

 

「…どこだここ」

 

 天井を見ているということは、俺は仰向けに寝ているようだ。頭を右や左に動かし、状況と場所の確認をする。

 ……ふむ、普通に家の中の部屋のようだ。俺の隣にはふすまがある。ふすま特徴的なことと言えば、

 

「ほかにも布団が並んでる……なんだろ、ベッドではないにしろ、病室みたいだ」

 

 病室。その自分のつぶやきで俺は、自分の記憶を思い起こすことになった。

 

確か俺は妹紅と永遠亭に行く途中で、鈴仙さんと出会って、一緒にいくことになって、それから……

 

「ああ、落とし穴に落ちたんだっけか」

 

 そうだったそうだった。あの兎詐欺さんが作ったであろう落とし穴に落ちたんだ。

 しかし…そこからの記憶がない。意識を失ったとかそういうやつだろうか。

 そうだとしたら、ここはどこだろうか? 順当に考えるなら……

 

「そのまま永遠亭に連れていかれたって感じかな」

 

 今俺がいる場所が穴の中じゃないってことはそういう事じゃないだろうか。鈴仙さん、はなさそうだから妹紅が助けてくれたのかな。後でお礼を言っておかないと。

 まぁここが永遠亭だろうがどこだろうが、このまま寝転んでいるわけにはいかない。部屋から出てもっと情報を得よう。話はそれからだ。

 

俺はゆっくりと体を起き上がらせようとした。だが、

 

「痛っ! いたたたたたっ」

 

 体中に大きく鈍い痛みが走った。よく考えたら意識を失うほど深い落とし穴に落ちて、無事でいられるわけがない。外傷がなさそうだったから全然意識してなかった。あ、外傷あったら俺の体の力(?)で消えるだから無いのは当たり前か。……痛みまでは無くならないようだけどね。

 しかし、痛いからと言ってこのまま寝ているわけにもいかない。俺はゆっくり、なるべく力をかけず、痛みが強くならないように体を起こそうとして――

 

 刹那、俺の隣にある、ふすまの開く音がした。そして

 

「こら、動いちゃだめよ。傷は治ったとはいえ、まだ痛みはあるでしょう?」

 

 そんな大人の女性の声が聞こえてきた。

 俺は咄嗟にその声の主の方を見る。

 

「八意、永琳……先生」

 

 そこには、『月の頭脳』八意永琳がいた。

 俺にとって八意先生は初対面である。だが、間違えるはずなど無かった。長く三つ編みに結んである艶のある美しい銀髪に、大人の女性感漂う整った顔立ち、そして特徴的な左右で赤と青に分かれた服。まさしく八意永琳そのものであった。俺の持っていた八意永琳のイメージ通り。

 

 俺が八意先生の名前をいきなり呼んだためか、八意先生は驚いたような表情をする。

 

「あら、私の名前、知ってるの?」

 

「あっ、いや…」

 

 軽率だったか。八意先生からすると、名前を教えたことのない相手からいきなり名前を、しかもフルネームを呼ばれたわけだ。そりゃ驚きもするだろうて。いやまぁ、八意先生からすると俺とは初対面じゃないからね。俺の事覚えていてくれてるかもしれないけど。

 俺、外の世界から来てあなた達のこと知ってるんです――なんて容易に話せることじゃない。それとなく、でも正直に嘘はつかないように話す。

 

「自分の主から、先生の話を聞いたんです」

 

「ふーん…主、ねぇ」

 

 俺の答えにそう呟いた八意先生は、寝ている俺の顔をじっと見つめてきた。あの深い青色の瞳が俺を捕らえているのがわかる。……なんか恥ずかしくなってきた、というかドキドキしてきた。

 少しの間、八意先生は俺の顔を見てきたが、不意に頷いたかと思うと、俺の枕元に座り口を開く。

 

「あなた、やっぱり紅魔館の執事だったコよね」

 

 八意先生の言葉に嬉しさを感じる。

 

「あっ、覚えててくれてましたか」

 

「もちろんよ。医者……正確に言えば私は薬剤士に近いんだけど、その仕事の基本はまず患者のことを知ること。顔と名前は覚えるようにしているわ。ね、白滝さん」

 

「ははっ、ご名答です」

 

 名乗っていない俺の名前を、八意先生は微笑みながら口にする。つまり今まで受け持った患者の名前はすべて覚えているというわけか。……なんかOZの総帥やってそうだなこの人。

 微笑みを浮かべたまま八意先生は俺に言う。

 

「しかし災難だったわね。落とし穴に落ちるなんて」

 

「落ちた俺が間抜けだっただけです。いやー参った参った」

 

「……そう。そう言う事にしておくわ」

 

 俺の発言を聞いた八意先生はなぜか少し意味深な笑顔を俺に見せる。いったい何なんだ?

 そんなことを悩む俺を置いて、八意先生は「そう言えば」と話をつづける。

 

「あの後、体の調子はどう?」

 

 あの後、とは、もちろん俺の腕やその他もろもろを治したことであろう。

 少し記憶をさかのぼると、俺が目を覚ました時、もうすでに俺の体は全快に近い状態になっていたことを思い出す。

 俺は、なるべく負担がかからないようにゆっくりと体を起こすと八意先生に笑って見せる。

 

「すこぶる快調ですよ!」

 

「それはよかったわ。経過を聞いてなかったままだったから、少し心配していたのよ」

 

「あぁ、それはすみません。じゃあ今します。経過報告! 八意先生のおかげで俺白滝は、すっかり元気になりました!」

 

「そうみたいね。……今またボロボロになっちゃってるみたいだけど」

 

「うぐっ、それは言わんといてください。体は痛んでても心は今すごく元気ですから」

 

「……ふふっ、そう」

 

 八意先生がくすくすとおかしそうに笑った。その笑顔、最高っす。

 ……うん、やっぱり、八意先生、俺の想像より優しい、というか柔らかい感じがすごくする。まぁ原作でも温和で親切だって言われてるしね。少しかっこいい先生を想像していた俺的には意外でしたという話。

 少し間があって、八意先生が口を開いた。

 

「一つ質問いいかしら」

 

「? なんです?」

 

「今、夜よね」

 

「へ? あぁ、はい。夜、ですね」

 

 俺の答えに八意先生は怪訝な表情を浮かべる。

 

「……あなた、仕事大丈夫なの?」

 

「へ?」

 

「吸血鬼は夜行性でしょう? なら、執事であるあなたは、夜に仕事があるものじゃないのかしら」

 

 ……あぁ、それ。そのことですか。うん、なんというかね、すっごくデジャヴ感すごい。この夜に仕事あるから大丈夫なの?って問答、少し前にやった気がするわ。いや、実際にやったんだけどね、相手慧音先生だったけど。

 ……嘘をついても仕方がない。これからお世話になるであろう医者ポジションの八意先生に嘘をついて信頼度が減っても仕方がない。

 俺は慧音先生の時と同じように、核心には触れない程度ですなおにこたえる。

 

「えっとですね……実は、もう俺、紅魔館の執事じゃないんですよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「クビ、というか正確には辞職なんですけど。それをしてきまして」

 

「辞職なんて。どうしてまた」

 

「ちょっと、事情がありましてね。俺が辞職しなければ解決できなかった局面にぶつかったと言いますか…」

 

「そう……災難ね、あなたも」

 

「ははは…」

 

 …辞職の理由が俺の勝手な早とちりなんて言えない。恥ずかしすぎて、というか俺アホすぎて。

 苦笑いを浮かべる俺に、八意先生が何かに気づいたかのように、はっとして口を開く。

 

「それじゃあ、あなたこれからどうやって生活していくつもりなの? 職なし家なしって状態なわけでしょう?」

 

「うっ、痛いところを。まぁ…あれです。何とかなるの精神でっ」

 

「何とかなるものなのかしら…」

 

「いやっ、あははは。まぁ伝手が無いわけではないので」

 

 もはや慧音先生に頼るほかあるまい。これが今の俺の気持ち。もし慧音先生が駄目だったら、悲しみの野宿開催決定である。

 ははは、と自虐的に笑う俺に同情したのか八意先生は少し悲しそうな顔をした。

 いかん、空気が重くなってしまった。俺は慌てて話を再開する。

 

「でも、逆に考えれば、今に俺には、しがらみと呼べるものが一切なくなったわけです」

 

「まぁ、そうね」

 

「つまり自分の好きなことができるわけです!」

 

「その分責任が増えていくけどね」

 

「世知辛いそんな世の中の話はいいんですよ…」

 

 しかし八意先生の言っていることも事実。自分の責任は自分でとらなくてはならない。

 ってそんな責任問題の話をしようとしたんじゃない。なんだか八意先生聞き上手なもんだからつい深い意味など無い言葉を言ってしまう。さすが診療所の医者もとい薬剤師。患者の身の上話を聞くのも仕事だから、自然と聞き上手になるのかな。まぁいいや。

 

「責任うんぬんは置いておいて。実はこの永遠亭に来たのも、俺のしたいことをしに来たわけです」

 

「あら、そうなの? それで、したいことって?」

 

「お礼です」

 

「…お礼?」

 

 驚いたような顔をする八意先生。俺は「ごほん」と咳をすると、八意先生に頭を下げた。

 

「先日はお世話になりました。助けてくれて、ありがとうございました」

 

「……」

 

「もし八意先生がいなかったら、俺はずっと、片腕のままだったかもしれません。最悪死んでいたとも聞きました。五体満足、そしてこうして元気になれたのも、八意先生のおかげです。本当にありがとうございました」

 

「白滝さん…」

 

 驚嘆のような、感嘆のような、そんな声が耳に入る。頭下げてるからわかんないけど、きっと八意先生驚いているんだろう。

 俺は、頭をゆっくり上げ、少し湧き上がる恥ずかしさを抑えつつ笑う。

 

「俺、治療してもらっているときは意識無かったんで。だからずっと礼を言いたかったんです。いやー、やっと言えました」

 

「お礼を言うためだけに、わざわざここまで?」

 

「はい。……えと、何か問題でも?」

 

「……あなたって人は」

 

「はい?」

 

「なんでもないわ。ただ、話に聞いた通りの方だと、そう思っているだけ」

 

 何故か八意先生は呆れ声でそう言った。うぬ? 何かいけないことでもあったのだろうか。しかし話とはいったい。レミリア様や美鈴が話したのかな?

 ふと見ると、先ほどまで呆れ顔をしていた八意先生の顔は思案顔に変わっていた。

 

「……この人なら大丈夫かしら。確かに何を考えているか分からないけど……でも真面目だし、結構使えるって話あのメイドも言っていたわね……この人ならいける…かもしれないわね」

 

 そんなことをつぶやいていた。ところどころ全然聞き取れなかったし、全く理解ができなかったけど。

 不意に八意先生が俺の方を見る。

 

「一つ質問なのだけれど、あなたのさっき言っていた、伝手というのは確実なものなのかしら?」

 

「……いえ、正直言うと確定事項ではないっす」

 

 八意先生の真意は分からないが、俺は素直にこたえる。それを聞いた八意先生はまた思案顔に戻る。俺は何て声をかけていいか分からず、そのまま八意先生が次に口を開くのを待っていた。

 八意先生の中で結論が付いたのか、顔をこちらに向けた。

 

 そして、驚くべき発言を俺にしてきたのだ。

 

「白滝さん。ものは相談なんだけどね」

 

「はい」

 

 

「あなた、ここに住み込みで働くつもりはない?」

 

 

「…え?」

 

 八意先生の言った言葉の意味が分からず俺はきょとんとして聞き返した。

 先生は微笑みを浮かべる。

 

「分かりにくかったかしら? 要は、職の当てもなくて、住む場所の当ても伝手もないなら、ここに住み込みで働いてみるのはどう? ってことなんだけど」

 

「あ、いや、言葉は聞き取れましたし、意味も分かったんですが……ええ?」

 

 分かりやすく八意先生が説明してくれたんだが、違う、俺の驚きと戸惑いはそう言う事じゃないんだ。

 八意先生は、俺の戸惑いの理由を理解できていないようで、首をかしげている。仕方がない、なんだか少し恥ずかしい気もするが説明するとしよう。

 俺はコホンと咳を一つして、話し出す。

 

「八意先生。俺が戸惑い、聞き返したのは、先生の言葉を受け止められなかったわけじゃないんです」

 

「そうなの?」

 

「はい。俺が聞きたかったのは、なぜ俺が、この永遠亭に住み込みで働くことを八意先生から勧められているのか、という理由と、その考えに至る経路を――」

 

 

「あんたが、ここで、働く……?」

 

 

 不意に背後から、ふすまが勢いよく開く音が聞こえ、そこから震えるような声が聞こえた。いきなりのことで俺は言葉を途切れさせ、しかも振り返ることができなかった。……今の俺の一言が聞かれてしまったという事だろう。しかも、聞かれたら一番面倒くさいことが起こりそうな人に。

 震える声は続く。

 

「それを師匠が……勧めた…?」

 

 その声の震えは大きくなっているように感じた。俺はゆっくりと顔を背後へと向ける。

 そこには

 

「…ううぅ」

 

 何故か今にも泣きだしそうな顔をした鈴仙さんがいたのだ。うん、涙目なのは可愛いんだけどね。

 鈴仙さんは、そんな表情のまま、俺の事なんか見向きもせず八意先生のそばへと歩み寄る。そして

 

「師匠、こいつが今言ったの……嘘、ですよね?」

 

 八意先生に問うた。あの震え声は怒りなのか悲しみなのか、ちょっとよくわからないところである。

 鈴仙さんのそんな様子とは裏腹に、八意先生はこともなげに微笑みながら答える。

 

「嘘じゃないわウドンゲ。私が彼にそう提案しているのは事実よ」

 

「なっ…どうしてですか! どうしてこんなやつを!」

 

 八意先生の話を聞いて、鈴仙さんの声が大きなものに変わった。震え声ではなくなった鈴仙さんが八意先生を問い詰める。なんだかとても必死な様子だ。そこまで……そこまで俺と一緒に居るのは嫌なんですか鈴仙さん。あたしゃ泣きそうだよ。

 

鈴仙さんの発言を聞いた八意先生は、小さくため息をつく。

 

「どうしてか。あなたなら、冷静によく考えれば分かるはずよウドンゲ」

 

「え……?」

 

「まぁでも、白滝さんもそのあたりを知りたがっていたみたいだから、ちゃんと説明しておきましょうか」

 

 八意先生はそう言うと少し姿勢を正した。そしてコホンと咳をすると、どこかふてくされている様子の鈴仙さんと、その鈴仙さんの発言にショックを受けている俺に、詳しい説明をし始めてくれた。

 

「なぜ白滝さんにここ、永遠亭で働くことを勧めたか。理由は4つあるわ」

 

「4つもあるんですか!」

 

「ええ、そうよウドンゲ。その数だけでもそれ相応の理由があることは分かるでしょう?」

 

「……はい」

 

「話を戻すわね。まず、一つ目。永遠亭の実動員不足、ね」

 

「実動員?」

 

 俺は首をかしげる。どう言う事だろうか。チラッと鈴仙さんの様子を見ると「うぅっ」と苦虫をつぶしたように唸っていた。……心当たりがあるのだろうか。

 

「この永遠亭には、今多数の兎が暮らしているわ。その子たちも永遠亭のお手伝いはしてくれているのだけれど……ウドンゲ、実際問題、使える子は何人ほどいるのかしら?」

 

「……ほぼ、0です」

 

「そうなのよね。地上の兎は気まぐれな子が多いし、総括するべき存在の『あの子』があんなに自由奔放じゃどうしようもないわ。せめて、命令したことぐらいちゃんとこなしてくれるといいんだけど……それさえもできない子がいるから。つまり、今永遠亭に忠実に働いてくれているのは、ウドンゲ。あなたしかいないの」

 

「……はい」

 

 鈴仙さんが力なく頷いた。思い当たる節が絶対にあったんだな。どんまい。

 しかし……なるほどな。ひどいもんだ。こっちの世界の永遠亭はそういう風になっているわけだ。公式設定では、地上の兎が使えないなんてことないと思ったが。記憶が曖昧だ。でもあれだよね、とある曲の1節に鈴仙が「私が月の兎だから、地上の兎は言う事聞かない。地上の兎はてゐが幹部してる。でもてゐがそもそも言う事聞かない」という悲しみの歌詞があった気がする。つまりこの世界の永遠亭はそう言う状況なのだろう。

 俺の納得がいったところで、八意先生が話を再開した。

 

「2つ目。安全な薬開発の為、といったところかしら」

 

「安全?」

 

「ええ。薬ってものは、患者がどんな人なのかによって、服用するタイミングや量、そう言ったものが変わるのよ。つまり、患者が人間なのか妖怪なのか、男か女か。そう言ったことが重要になってくるわ」

 

「ふむふむ」

 

「妖怪用の薬を、人間に服用させたら症状が悪化する。最悪そんなことも起きかねない。だから、薬を開発したとしても、それが妖怪用なのかとか、男性には効くのかとか、そう言う事を実験しなくてはいけないのよ」

 

「ほほう」

 

「でも、今の永遠亭には人間はおろか、男性さえもいない」

 

「つまり俺は、良い実験考察の材料になるわけですな」

 

「そういうことになるわ」

 

 なるほど、つまりモルモットになれというわけか。なんだかひどい言い方だがそう言う事だろう。まぁ、現実社会でも裏でそういうこと行われてるみたいだしね。『それはいわゆる、コラテラルダメージというものに過ぎない。医療目的の致し方ない犠牲だ』というやつか。普通に考えても八意先生の言っていることは理に適っている。まぁ、俺的にはモルモットなんか嫌だ、なんて言ってられる場合じゃないからな……

 ちらりと鈴仙さんの方を見る。

 

「……」

 

 何とも悔しそうな顔をしていました。反論ができないのだろうか。永遠亭の実情を考えるとしかたないね。

 八意先生は頃合いを見て話を再開する。

 

「次に3つ目なんだけど……その理由はね、白滝さん」

 

「はい?」

 

「あなたが、良い人間だからよ。それが、3つ目の理由」

 

 八意先生が俺の目をまっすぐ見てそう言った。

……なんとも、分かりやすく。そしてなんとも反論のしやすい理由であった。言われたこちらとしては嬉しい。でも、その理由は……

そして予想通り、八意先生に鈴仙さんが食って掛かった。

 

「それはきっと間違いですよ師匠!」

 

「あら、どうして?」

 

「だってこいつ、紅魔館の執事なんですよ! あの!」

 

 あのってなんだあのって。

 鈴仙さんの食い掛かりに八意先生はため息をついて答える。

 

「今はもう紅魔館の執事じゃないそうよ、彼。仕事の兼ね合いに関しては大丈夫だと思うけど」

 

「そうじゃなくって! こいつ、あの新聞の男なんですよ!?」

 

「……あぁ、そういう」

 

 八意先生の中で何か辻褄があったようだ。妙に納得したような顔をした。そしてそれと同時に、呆れたような表情も見せる。

 

「ウドンゲ。あの新聞は誤報だったって書いてあったじゃない。あなたともあろうものが、まさか知らないということはないでしょう?」

 

「うっ、それは…まぁ、知ってましたけど。でも、その誤報だったっていう新聞が嘘かもしれないじゃないですか! それこそ、こいつに脅されてとか」

 

 俺が射命丸さんを脅す? そんなハードル高すぎることできるわけがない。もう不可能に近いよ。

 八意先生はため息をついた。そして少し真面目な顔をする。

 

「ウドンゲ。私は白滝さんのことを、そんな信憑性の無い話で判断したわけじゃないわ。私はそんな軽率な風に見えるかしら?」

 

「…いえ、そんなことは。でも、師匠」

 

「私は、彼の態度、言動、そして目を見て判断したのよ。白滝さんの目は優しかったわ。少なくとも、私たちをどうこうして私腹を肥やそうって考えを持つ人間にはどうやっても見えなかった」

 

「……」

 

「それにね、ウドンゲ」

 

「…なんですか?」

 

 悲しそうというか、悔しそうというか、何とも感情が入り混じったような声を出した鈴仙さんの八意先生は近づき、その耳元でなにやら話し始めた。

 

「彼、あなたの名前を一度も出さなかったわ。例え、落とし穴の話をしても、体がボロボロであることを話しても、ね」

 

「っ!?」

 

「自分が間抜けだった。彼はそうとしか言わなかったわ。悪い心を持つ人間だったら、あなたを助けたお礼とか、言い出すかもしれないわね。でも彼は違った。これ、どういうことか、分かるわよね」

 

「……はい」

 

 ……? なんだか話について行けないが、鈴仙さんが何かに衝撃を受けたような、そんな表情をしている。そしてそのあとは、鈴仙さんが反論することはなくなった。俺にはよくわからなかったけど、良かったのかな? しかし、ああやって八意先生にこう評価をいただくと、得も言われぬ幸せな気分になるね。

 八意先生が鈴仙さんではなく、こちらにも視線を向ける。

 

「この3つが、主な理由ね」

 

「あれ? 4つ目は?」

 

 俺の疑問に八意先生は少し苦笑いに近い笑みを浮かべる。

 

「最後のは、ちょっと説明がしずらいのよ。私の考えたことじゃないというか、私の意見じゃないというか」

 

「そうなんですか?」

 

 八意先生の意見じゃない? どう言う事なんだろう。それを問うと八意先生は考えるように話す。

 

「んー、そうねぇ。簡単に言ってしまえば」

 

「言ってしまえば?」

 

「あなたが、異変というものに関与した人間、だからかしら」

 

 八意先生のその言葉。俺には全く理解ができなかった。異変に関与? そりゃしたけど、それがどうして俺を雇用する話につながるんだ? 八意先生も苦笑いを浮かべているから、きっとどう言葉にしたものかと困っているのだろうか。

 

「まぁこのことに関しては、おいおい説明するわ。……さて、以上が理由になるのだけれど、何か質問、意見、反論はあるかしら」

 

 八意先生はそう俺達に促す。というか主に鈴仙さんに、って感じがするが。

 その肝心の鈴仙さんは

 

「……」

 

 少し俯いたまま、ただ無言のままであった。うーむ、この様子。大丈夫なんだろうか。

 

「それじゃあ、白滝さん」

 

「あ、はいっ」

 

 急に名前を呼ばれて少しきょどったが、俺は先生の呼びかけに答えた。八意先生は微笑みを作り、俺に口を開く。

 

「正式に、あなたにこの永遠亭で雇用しようと思うんだけど、いいかしら」

 

 その言葉に、俺は少し考えをまとめる。

 今日俺がここに来たのはお礼を言いに来たためだ。職を求めに来たのではない。ここでこの話に同意してしまうのはいささか軽率な気もする。だが、確かに今の俺には働く場所もないし、住む場所さえもない。人里や、慧音先生に頼るのも不確定要素が多すぎるし、何より申し訳ない。かといって、住む場所とかが無いのは、あのルーミア事件の再来の可能性が大きい。

 つまり、俺の取るべき行動は、もはや決まっているというわけだ。

 

 

 

「はい。不肖この白滝、永遠亭の為に尽力させていただきます!」

 

 

 

 こうして、俺の住む場所、職場が思いもかけず、決まったのであった。

 なんだか、話がうますぎる気もするが、それは考えないでおこう。

 

 だが。

 

 ……鈴仙さん、大丈夫だろうか。人間嫌いの彼女には非常に申し訳ないことをしたような気がする。

 俺がここに来たことで、鈴仙さんになにか悪影響が出るようであれば、ここを早々に出ていくことも考えねばなるまい。

 

 彼女が傷つくのは、絶対に見たくない。

 そう俺は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白滝が厠で席を外した後、永琳は鈴仙に優しく声をかけた。

 

「そこまで邪険に扱わなくてもいいんじゃないかしら、彼の事」

 

 鈴仙の先ほどまでの態度。普通の彼女からは考えられない行動である。

 永琳の言葉を聞いた鈴仙は、少しの間ののち、首を小さく横に振った。

 

「…人間は、信用できません。まして、男であれば尚の事」

 

「あなたの人間嫌いも筋金入りね」

 

「すみません」

 

 ちいさく謝る鈴仙に、永琳は苦笑いを浮かべる。

 

「謝らなくてもいいわ。あなたのことは分かっているつもりだから」

 

「……」

 

「でも、白滝さんを雇うことに関して、考えを改める気はないわ」

 

「……分かっています。今の永遠亭のことを考えると、師匠の考えは至極正論ですから」

 

「そう。ありがとう」

 

 永琳はそう言って微笑んだ。鈴仙の様子からするに、納得は全然していないようだ。

 

「もし」

 

「?」

 

「もし。何日かたってそれでも彼が駄目だというのなら、言ってちょうだい。その時また、考えるわ」

 

「はい」

 

「それじゃ、今日はもう休んでいいわ。彼の案内は明日り、誰かに任せるから」

 

「分かりました」

 

 そう静かに言うと、鈴仙は部屋から出ていく。いつも活発な鈴仙と比べると驚くべき違いである。

 永琳は一つため息をつく。

 

「元々人間嫌いだとは知っていたけど……あそこまでのものだとは知らなかったわ。確か、拍車がかかったのは鈴仙が幻想郷に来て、それから永遠亭に来るまでの間だっててゐが言ってたわね…」

 

 永琳は鈴仙の出ていった後の軌道をなぞるかのように目線を動かす。

 彼女のあの表情。裏に何かの闇を、永琳は感じ取っていた。

 

「何があったのか、聞く時が来たのかもしれないわね」

 

 

 

 冷たい風が、止むことなく、永遠亭に吹き込んでいた。

 

 

 




お疲れ様でした! そして見てくださってありがとうございます!

永琳先生初登場やでぇ。しかし正直言うと、キャラが確立しきっていない。悩んでいるところです。
そして何やら鈴仙の様子がおかしいですね。どうなることやら。

え? 急に職が見つかるとかご都合主義すぎる? 細かいことは気にしないで。
実はこれ、なにかの伏線だったりする…かも?

誤字脱字指摘、感想お待ちしております。
いつも感想くださる方、本当に感謝してます!

では次回お会いしましょう! なるべく早くに投稿いたします!
グッバイ!
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