ども! トーレでございます!
ほんとお待たせして申し訳ないです!
大学部活の新入生勧誘……よもやこれほど大変だとは…
がしかし! 小説が書けなかったのは私の甘さ!
これからも精進いたします。
遅くはなりましたが新話投稿いたします!
今回はあの人が!? とうとうあの人が!? 登場!?
ではどうぞ! 温かい目で見ていってね!
「本日はここにお泊りください。布団は押し入れにございますので」
「ありがとう」
「いえ。それでは」
俺をこの部屋まで案内してくれた地上兎の子はぺこりと頭を下げると、ゆっくりと障子を閉めた。……地上の兎は使える子がほとんどいないって話だったけど、礼儀正しい子じゃないか永琳先生。確かに、愛想が良いとか態度が良いとかそんな感じではないけど、十分なんじゃないかな…?
「ふぅ」
その子の足音も遠ざかり、一人となった俺は、部屋にため息をつきながら座り込んだ。
そうして思い返すは今日の出来事。
紅魔館を離れ人里に向かい、慧音先生と会って、妹紅のことを頼まれて、それでその妹紅とちょっといろいろあったけど話せるぐらいの仲にはなんとかなれて、鈴仙さんにであって、落とし穴に落ちて、そして最後には永琳先生のお誘いで永遠亭で働くことになった。
「なんとまぁ、壮絶な一日だったな…」
展開がめちゃくちゃすぎる。これが幻想郷という世界なのか。ポンポンと話が進んで逆に怖いが、まぁ終わってしまったことだ、気にはしないでおこう。
「しかし……鈴仙さん、大丈夫かな」
思い起こすは、あの時の……俺が永遠亭で働くことが確定した時の鈴仙さんの顔。俯いていたからはっきりは見えなかったが、良い顔をしていなかったのは確かだろう。
確かに、鈴仙さんの公式設定に人間嫌いというかいい印象を持っていないという話はある。鈴仙さんが地上に来たのも人間が月に来たからだし。
それを知っているから、鈴仙さんが人間で、特に男である俺の事を嫌いだったり嫌だと思うことは理解できるのだが……だとしてもあの顔は、そんな感情なんかよりもはるかに重い、もはや「憎悪」といって良いレベルなのではないかと思った。そう感じ取れる雰囲気だった。
「あれは…俺が頑張って解決できるようなものなのかな…」
鈴仙さんとは仲良くなりたい。あんな顔じゃなく、笑顔が見てみたい。切にそう思う。でも、人の好みや気持ちってのは簡単に変れるものじゃないし、変えていいものでもない。
そこまで考えて、俺は軽く決意する。もしもこのまま俺が永遠亭にいて、鈴仙さんが悲しみを背負うようなことがあれば、俺は潔く永遠亭を去ろう、と。それが一番だ。うん、そうしよう。まぁ…残念だけどね。
「女の子の笑顔には代えられないかぁ」
そんなキザなセリフを吐いた時、思い起こされたのは、美鈴のあの輝かんばかりの笑顔だった。
別れを告げてまだ一日とたっていなかったが、今日という日が激動すぎて、なんだか懐かしく感じられた。
「やっぱり女の子の笑顔って癒されるよなぁっと、こんなのんびりしてる暇なかったな。もう夜も深いし、さっさと寝てしまおうか。明日から早速働いてもらうって永琳先生言ってたもんな」
美鈴やフランの笑顔を思い出し、にへらと笑う俺だったが、もう夜だということを思いだし、押し入れから布団を取り出し、敷く。
そう言えば、半分忘れかけてたんだけど、妹紅は俺を永遠亭まで届けてくれたあと、そそくさと帰ったらしい。まぁ妹紅と永遠亭の関係はよくわかっているし、仕方がない事かもね。また会ったら、お礼はしっかり言っておこう。
まぁ、鈴仙さんの事とか、永遠亭という新しい職場の事とか心配なことや不安なことは多々あるが、今それを考えすぎても仕方がない。物事ってのはなるようにしかならないんだから。そのなるようにしかならない中で全力で生きればいいんだ。
だから今は、明日から始まる新たな俺のステージの為に、英気を養わなければ、
「うわ、紅魔館の時はベッドだったから布団とか久しぶりだ!」
そんなどうでもいいようなことを言いつつ、俺は行燈の光を消し、布団に入る。
部屋を薄暗く、しかし確かに照らしてくれているのは月の光か。確か満月ではなかったが、月は確かにそこにある。その証拠と言えるこの月明かりの光に俺は安心感を覚える。
さて、明日から頑張っていきましょうかねぇ! 永琳先生の期待に応え、鈴仙さんの評価を上げるために!
そんな良い感じの締め台詞も言ったしね? 月明かりもあって、すやぁって寝れるかと思ったんだけど……
「やっべ、全然寝れねぇわ」
永遠亭で働ける明日が楽しみすぎるのか、逆に不安でいっぱいすぎるのか、俺は寝ることができずにいた。もう完璧に目が冴えてますわこれ。
俺は布団にもぐりこみながら「うーむ」と唸る。
「こりゃあかん。こりゃ明日に支障が出るレベルだ」
そう言いつつも何とか寝れないかと目を閉じる俺。実は今の状況、いろいろ寝れない時に行うと寝れることをいくつか試した後なのである。
例えば、羊を数える。有名なやつだが、25匹を数えたあたりから頭の中で、羊が空を飛びだしたり、殴り合いのけんかを始めたので断念。
例えば、特殊な呼吸法。「4-7-8呼吸法」というものを思い出したのでやってみたが、何故か途中でラマーズ呼吸法に変わってしまったので断念。
とまぁこんな感じでいろいろ試したのだが、どれもイマイチだったようで、今に至る。
これは寝れないと明日永琳先生に怒られちまうなぁ。はてさてどうしたものか……
ふとそんなとき、月明かりが俺の視線に入る。先ほど俺に安心感をもたらしてくれたものだ。
「……ちょっと、外出てみよっかな」
その月明かりの光を見ていたら、なんだかそんな気分になった。
軽い気分転換の散歩みたいなものだ。少し体を動かせば、眠気が起きるやもしれん。
そう考えた俺は、まだ地味に痛む体になるべく負担をかけないようゆっくりと起き上がり、部屋の外へと、足を踏み出した。
「ほー…こりゃ、月が綺麗だわ」
外に出た俺は、まっすぐに夜空を見上げる。少し夜の風邪が当たって寒く感じたが、そこまで気になるほどじゃない。それよりも、月の綺麗さに俺は感嘆の声を上げた。
月は輝いていた。いやまぁそれは当たり前のことなんだけどね。改めてみると、こう…星々の光に負けないくらい光り輝く月は、何とも言えず目を奪われるのだ。
障子越しじゃわからなかった月の輝きが俺の目に映る。想像していたよりも何倍もきれいだ。さすが永遠亭。主がある主なだけに、月が綺麗に見えるところに建てたんだろうか。
俺は、月を見ながら廊下を静かに歩く、他のみんなは寝てるだろうからね。邪魔にならないようにしないと。
廊下を少し行くと、庭の端に大きな石があるのを発見した。和風の庭によくあるインテリア的なものだと思われるが……ふーむ、大きさ高さと言い、人間二人くらいがちょうど落ち着いて座れるような、そんなサイズであった。
これは……
「座るしかないっしょ」
ということで俺はその石のところまで行き腰かけた。石独特の冷たさが全身に広がりぶるっと震えるが、それさえも月の光が癒してくれるような感覚がする。
……なんだか不思議な感覚だ。月なんかいくらでも見たことがある。それこそ月を見てその綺麗さにため息をこぼすこともあった。でも……ここから見る、この永遠亭から見る月はそれよりもすばらしく、今までで一番心奪われる「月」な様が気がしてならなかったのだ。
しかもそれが、風流心がそこまでない俺なのだから尚更である。今日の月が特別なのか、それとも……
「この永遠亭って場所が、特別なのかな…」
永遠亭はその住民からして月に関係する場所である。ならば、こんな特別な気持ちになるもの納得がいくことなのかもしれない。
俺はほぅ、とため息をつくと、再びの感嘆の声を漏らす。
「月が綺麗だなぁ…」
「ええ。今夜の月も美しいわ」
「ほんとに。こんなきれいな月は初めてかもしれない」
「そう? でも永遠亭の月はどこよりもきれいだから、それなるのも当たり前かも」
「さすが永遠亭って感じだな」
「ふふっ、そうね。この場所を選んでくれた、永琳には感謝してるわ」
「そっかそっか、この場所を選んだのは永琳先生だったのか……」
なるほど、永琳先生が自ら選んだというのならこの美しい月が見えるのも納得がいく。自らに関係する場所をあの人がおろそかにするわけがない。
そう考えた俺は「彼女」の言葉に賛同するように声を出す。…いや出そうとした。
……ん? 俺は今、誰と話しているんだ? 今俺自身「彼女」という言葉を使ったが、俺は一人でこの月を見ているはずだ。だがしかし、今確かに聞こえた俺の言葉に反応してくれた女性の声。ということは……俺平然と話しちゃってたけど、ここに誰かもう一人いる!?
俺は驚きのあまり、ばっと勢いよく後ろを振り向いた。いったい誰だろうか。永琳先生か鈴仙さんか、はたまたてゐか地上の兎か!?
「っ!?」
「……? どうしたの? そんな顔して」
……俺の目の前には、まるで『美』という言葉を体現したかのような人物が立っていた。
ピンク色の着物のような服をまとった少女。端正な顔立ちに深く透き通った大きな目。そして何より永遠亭の美しき月に照らされ、その何倍にも輝く、長く風の流れるような黒髪。まさしく「美しい」。……俺が想像していていた、何倍もだ。
一瞬で目を奪われた俺は何も考えず、彼女に声をかけた。
「君は…まさか…」
「私の事知ってるの?」
「あぁ、知ってるとも! 永遠亭の主にして美しき姫、蓬莱山輝夜! …さん」
驚きのあまり語気が強くなってしまった俺の言葉を聞いて、「彼女」蓬莱山輝夜は楽しそうにニコニコと笑った。
「当たりー。でも、美しきなんて照れちゃうわね…」
蓬莱山さんはにへらと微笑んで袖で顔を隠した。その姿は美しい容姿と相まって非常に可愛い。いや、きゃわいい。いや、ほんとに。
蓬莱山輝夜。この永遠亭の主であり、永夜異変の中心人物である。
名前から気づく人も多いというが、昔話のかぐや姫その人だ。ただ、俺達の知っているかぐや姫と違うのは、昔話の方でも有名な、『月からの使者がやってくる』シーン。こちらの輝夜は、そのまま月に帰るのではなく、その使者を殺し、幻想郷にやってきたことである。そのことが永夜異変に繋がるのだが……まぁその話はおいおいするとしよう。……この世界の幻想郷ではその異変はもう終わっているらしいし。悲しすぎるぜおい。
さて、かぐや姫に有名なことは、帝さえも魅了してしまう美しさである。今俺の目の前の蓬莱山輝夜も……うーむ、美人だ。もはや美人という言葉で言い表せないほどである。こりゃ、帝もお熱になりますわな!
……しかし、なんだろう? なにか、違和感がする…
「あ、でも。そう言うあなたは、どちら様?」
蓬莱山さん……言いにくいな。そうだな…俺は雇われてる立場なんだから蓬莱山様か。うん、そっちの方がいくばか言いやすい。その蓬莱山様は少し頭をかしげて俺に問いかける。あーもう可愛いなこの人。
「えっ、あ、えっと…俺は…」
「あー! わかったわよ!」
俺が自分のことを正直に話そうか否かを悩んでいた時、蓬莱山様が声を上げた。
そして、びしっと俺を指さすと、ふふんっと自信満々な様子を見せた。
「あなた、永琳が雇った新しい使用人でしょ!」
「……ご明察です」
「やっぱり! やっと永琳、私の頼み事聞いてくれたのね」
俺の正体をズバリ言い当てたのがよほどうれしかったのか、蓬莱山様はふふっ、と口元を袖で隠しながら笑う。
ふむ、なるほど。蓬莱山様が使用人という言葉を使って俺のことを言い当てたということは、永琳先生が実動員不足や新薬開発のために人を雇おうとしていたことは、永遠亭住民みんなが知っている、ということだろうか。俺を雇用しようとしたのは、あの時の思い付きなどではないわけだ。そう考えると、よく俺採用されたな……もっと優秀な人間は人里あたりにいるだろうし。
だが、今の俺は、その雇用問題ではなく、別のことに頭を悩まされていた。
……何だろう…違和感がますます強くなっている。何なんだこれ…?
謎の感覚に襲われている俺をよそに、一通り笑ったのか蓬莱山様が俺の方を向きなおす。
「使用人なら……うん。それじゃあ、改めて自己紹介ね。私は蓬莱山輝夜。さっきあなたも言ってくれたけど、一応ここの永遠亭の主をしてるわ。これからよろしくね」
彼女のまっすぐな瞳と言葉に俺はなぜか妙に緊張してしまって、かしこまって俺は一度頭を下げる。
「白滝、と言います。明日からここで働かせてもらいます。よろしくお願いします。蓬莱山様」
俺が自己紹介してもう一度頭を下げる。
……? 蓬莱山様からの応答がない。不思議に思った俺はゆっくりと頭を上げる。
すると…
「むー…」
蓬莱山様はふくれっ面を見せていた。
彼女はその表情のまま不満そうに声を上げた。
「蓬莱山様なんて堅っ苦しいのやだ。月を思い出しちゃうわ」
「やだって…」
何を言ってるんだこの人は。あと「月」とかさらっと重要ワード言いよる。
失礼ながら呆れた声を上げる俺をしり目に、蓬莱山様は駄々をこねる。
「嫌なものは嫌だもの」
「じゃあ……蓬莱山さん?」
「それじゃ言いづらいでしょ? あと響きもやだ」
「うーん……姫様、では?」
「みんなとかぶるわね…」
「では、輝夜様、でどうでしょう? というか、これ以上譲歩できません」
「えー、どうして?」
苦々しい俺をまるで無視するかのように蓬莱山様はぶー垂れる。というかどんどん呼び方を親しい方向にしているけど……この人は、俺という人間に軽く呼ばれることに抵抗はないのか? レミリア様だったら即刻頭と体がさよならしてるところだぜ。
俺は蓬莱山様に聞こえないくらいの小さな声でため息をつくと、彼女の問いに答えることとする。
「もしも、一使用人である俺があなた様のことを、輝夜さん、とか、呼び捨てで呼んだとしましょう」
「うんうん」
「……永琳さんや鈴仙さんに見つかったら、それはもう恐ろしいことに…」
想像しただけでも悪寒が止まらない。最悪殺されてしまうで。というか様を付けたとしても名前呼びの時点で殺されそうなんだがな……
不満そうにしていた蓬莱山様もさすがにそれは想像できたのか「あー…」と声を漏らした。
「確かに、永琳そういう所厳しいから……否定できないわね」
やっぱりそうなんですね。よかった、調子に乗って名前さん付けとか呼び捨てしなくてよかった。ほんと良かった……
ということで、俺は最終結果を彼女に伝える。
「ですので、輝夜様、とこれからはお呼びしますね」
「うん、分かったわ。よろしくね、白滝」
輝夜様は、にっこりと俺に微笑みを返した。……やっぱりこの人は綺麗だ。ずるいくらいに。
彼女の姿に見惚れながらも、俺も言葉を返す。
「はい、よろしくお願いします。輝夜様」
「うん!」
ニコニコと笑顔を見せる輝夜様。その笑顔は、美しく、でもどこか可愛らしかった。
……! そうか! 俺の感じてた違和感って!
輝夜様と言葉を交わしたその時から感じていた違和感。俺は彼女の笑顔を見てその違和感の正体にようやく気付いた。うーむ…気づけば単純なことだ。
俺の目の前にいる蓬莱山輝夜。彼女は、俺の予想よりも、幼く見えるのだ。いや、幼い、というよりは元気いっぱいというか、素直というか。この人は『可愛い』って言葉が似合う人だ。
俺の想像していた蓬莱山輝夜というのは、容姿は今のままなんだけど、性格面が大きく異なった。もっとこう、大人の女性チックで、言動も風雅や姫の貫録がある。そんな人だった。所謂『綺麗』とか『美しい』って言葉が似合う。
でもこの世界の彼女はそうじゃなくて、可愛い、ということだ。俺の感じていた違和感は、そのイメージとのギャップから生まれていたものだった。
しかし……輝夜様がこのような性格をしているとするならば……なんだかいろいろ疑問点が生まれる。
こんな性格では、かぐや姫の逸話にある無理難題を出すというドS極まりないことをしそうではないし、まして同胞である月の使者を殺すようなまねをするだろうか…?
俺はその疑問とギャップに確信を得るために彼女とさらに会話をしようと考えた。そこでふと思ったことがあった。
俺って…こんなに軽々しく輝夜様と話していていい身分なの? いや、俺只の使用人だから駄目だよね?
もし、今の俺たちが永琳先生や鈴仙さんに見つかったら……
なんか、冷や汗でた。
「? どうしたの?」
「いっ、いえ~」
俺の顔が引きつっているのを見たのか、輝夜様が首をかしげる。くそっ、輝夜様が可愛いから!(八つ当たり)
さてどうしたものか。輝夜様はここから動く気配がない。正直さっきの疑問点は考えても仕方がないことだ。今無理に答えを得なくてもいいだろう。
ということで。まだ全然眠気はないし、輝夜様とも話していたいが、そろそろ理由をつけて部屋に戻るとしますか。
「では輝夜様、俺はそろそろ――」
「あ、いけない! 永琳が来ちゃうわ!」
別れを告げようと俺が輝夜様に声をかけた瞬間。輝夜様はビクンと体を揺らし目を開くと、そう声を上げた。
へ? 永琳先生が? まじで? ってかなんで分かるの?
?マークを浮かべる俺。そんな俺とは対照的に輝夜様は慌てだした。
「永琳にあなたと話してるところを見られるとまずいわ! 早く隠れて!」
「かっ隠れる? 隠れるって言ったって…」
「いいからー!」
「わわ分かりました。えっと…あそこなら…っ」
輝夜様にせかされて辺りを見渡した俺は、すぐ近くある俺の背丈ほどはあろうかという大岩を庭の隅に見つける。
俺は走ってそこに向かい、身を隠し、息をひそめた。永琳先生が来るって言ってたけど、やはり使用人ごときが館の主と仲良さげに話していてはだめだってことだ。ぐぬぬ。
俺が隠れたすぐに、足音が聞こえ始めた。俺はチラッと顔を出して様子を見ると、輝夜様の言っていた通り永琳先生が来ていた。早い足音から察するに相当急いでいるみたいだ。
ここからはばれるとやばいので、顔を出すのも止めて、聞き耳を立てることにした。
「輝夜、こんな夜更けに勝手に出歩かないでちょうだい。寝室にいなかったから、心配したわよ?」
「でも永琳。こんなに月が綺麗なんだもの。月明かりだけじゃなくて、直接見たくなるのは、仕方ないことでしょ」
「気持ちは分かるけど……ここまで来なくていいじゃない。・・・はぁ」
永琳先生、気苦労が絶えない様子。まぁ輝夜様の気持ちも分かるけどね。
しかし、東方儚月抄で記述があったけど、永琳先生、永遠亭内で二人きりの時はやっぱりあんな感じで輝夜様と話すんだな。公私をしっかりしてるというわけか。
「今の状態のあなたは、警戒が無さ過ぎて困るわ」
「警戒なんて。永遠亭の中でそんなことしてたら疲れちゃうわ」
「それはそうかもしれないけど、心の隙間くらいには、その二文字をとどめておいてほしいわね」
うーむ、警戒ねぇ。どういう理由があるかは知らないけど、輝夜様の意見に同感だな。自分の住んでる場所で警戒なんてしたくないよなぁ。でも輝夜様は姫って立場だし、何かといろいろあるのかも。
「むー、今日の永琳は妙に厳しいわ。何かあったの? もしかして、新しく雇ったっていう新しい使用人関係かしら?」
「そう、その通り――ってなんでもう知ってるの? まだ鈴仙にしか話していないわよね…」
「あー、いや、その……そう! てゐが言ってたのよ! 『新しい使用人かぁ』って。偶然それを耳にして、ね」
「てゐが? もう、盗み聞きしてたのねあの子。またなにかたくらんでるのかしら…」
「そっ、そうかもしれないわねー…」
輝夜様、また絶妙な嘘をつきましたな。すごく思いついた感バリバリだったけど、てゐならやりかねん。
しかしあの様子から見るに、まだ俺を雇ったことを話してなかったんだね。まぁ決まったのが今日の今日だったし、仕方がないわな。
「でも、その使用人がどうして関係してくるの?」
「彼が地上の民、しかも人間であり、男だからです。まだ彼の素性や性格、性質がはっきりしていない以上、あなたを彼に会わせるわけにはいかないわ」
……ごめんなさい永琳先生……もはや顔あわせて、しかも会話なんかしちゃってます…
「それで夜出歩くなんかして偶然その人間に会っちゃったら――っこと? 心配しすぎだと思うけど…」
「そんなことないわ。あなたは地上の穢れを体に受け始めてまだ日が浅い。そんなあなたに穢れの多い地上の人間をひきあわせたら、どんな影響が出るかわからないもの」
うぐ…永琳先生の意見も頷けるな。確か永遠亭は永夜抄の異変後まで、ずっと永遠亭内の時間を止めて、穢れが入ってこないようにしていたんだっけ。この世界ではその異変はもう終わっているらしいから……日が浅いとはそう言う事なんだろう。
「考えすぎじゃない?」
「もう前例があるからそれぐらい考えるわよ」
前例? なんのことだろう?
「それに、彼は男。何を考えているかまだ分からないもの」
あー、まぁそこは俺の考えたけどね。輝夜…いわゆる『かぐや姫』を考えると、「男」という言葉には引っかかるものがあるからな。極端に例を言えば、俺が輝夜様の美貌に惚れ、求婚を申し込むかもしれないってことだ。
……結婚なんて、そんなの考えるだけで幸せだけども、さすがにありえない。恋人関係になることさえ幻想郷ではほぼ不可能なのに……俺を好きになってくれそうな人なんていなさそうだしね……ショボーン。
「でも、雇ったのは永琳でしょ」
「あなたの出した条件を満たす存在は、彼しかいなかったのよ」
「えっ、じゃあその使用人は!」
「ええ、希望にこたえてあるわ」
「やったぁ!」
無邪気に喜ぶ輝夜様の声が聞こえる。やはり俺の想像とのギャップがあるな……しかし是は是で普通に可愛いからいいか。
しかし、条件ってなんだろ。まさか永琳先生の言ってた、四つ目の理由って輝夜様が提案したのか?
「まったく、苦労したのよ? 無理難題を出す相手は私じゃないでしょう?」
「ふふっ、ごめんね」
「もう……そんなあなたの期待に応えたんだから、ちょっとくらい私の言う事も聞いてちょうだい」
「…はーい。無暗に出歩いて、その彼に会わないようにすればいいのね?」
「そう。わかったなら、早く部屋に戻ってちょうだい。夜はまだ冷えるから」
「永琳も、ちゃんと休んでね?」
「分かってるわ、輝夜」
その永琳先生の言葉を最後に、足音が遠ざかっていくのを聞いた。
足音が聞こえなくなった後、俺はひょこっと顔を出す。
「もういないわよ」
輝夜様は苦笑いを浮かべる。若干の気まずさからくるものだろう。正直俺も気まずさを感じている。
「すみません、永琳先生の言う通りです。あなたは、俺みたいなただの使用人が、気軽に話していい人では……なかったですね」
俺は、なるべく穢れ、とか地上の民、とか普通の一般人が知らないような情報単語には触れず、あくまで俺の立場に関してを話した。永遠亭の人たちはまだ、俺が外の世界の住人であることを知らない。あくまで知らないように、無関心を装った。
俺の謝罪を受けて、輝夜様は驚いたような声を上げる。
「謝らないでよ。話し掛けたのは、私なんだから」
「ですが…」
「永琳にはバレなかったみたいだし、大丈夫大丈夫」
「うーん…そうでしょうか」
「うん!」
不安を隠しきれない俺とは対照的に、何故か輝夜様は満足げに微笑んだ。まぁ確かにバレてはいなかったみたいだし、そこまで気にすることでもないのか?
悩む俺に、「それに…」と呟く輝夜様の声を聞いた。
「私と白滝のこの出会い。何か、運命めいたものを感じるの」
「運命…?」
「ええ。だって私とあなた、二人とも、この綺麗な月に惹かれて…出会ったんだもの」
そういうと輝夜様は、俺の目をまっすぐ見つめてきた。その姿は月の光を浴びて神々しく、そしてその瞳は本当に透き通っていて、綺麗で。なぜかこっちが恥ずかしくなってきた! 俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら、さっと視線を逸らした。
その様子が面白かったのか、輝夜様は、ふふっと笑う。
「それにあなた、悪い人には見えないし」
「それ、永琳先生にも言われました」
「さすが永琳。分かってるわね」
ニコニコと笑う輝夜様。言いたいことはいろいろあるが、まぁ…悪い気はしないな。無論、彼女たちに危害を加える気なんて一切ないし、正当な評価を受けていると言えばそうなんだけど、こうやって認めてもらうと嬉しいものがある。
俺が若干照れていると、輝夜様が、「さて」と話を切り返す。
「そろそろ、部屋に戻ろうかしら。これ以上はさすがに永琳に本気で怒られそうだし」
「……永琳先生、怒ると怖いですか?」
「かなり。ウサギの中で、恐怖で失神しちゃった子もいるくらいだから」
「おうふ…」
やっぱり怖いんだな永琳先生。二次創作の影響で予想はしていたが……これはがんばらないと。
別れの最後に輝夜様が、嬉しそうに口を開く。
「ま、頑張ってね。あなたが永琳に認められて、堂々と私に会える日を楽しみに待ってるわ」
「…はいっ!」
「いい返事ね。それじゃ、おやすみなさい」
「お休みなさいませ、輝夜様。いい夢を」
輝夜様に挨拶をし、俺は一礼する。「うん」という声が聞こえ、輝夜様が歩き出したのが聞こえた。
が、その足音がぴたりと止まった。頭おあげると、輝夜様がこちらを振り向いていることに気づく。
「輝夜様?」
「秘密よ」
「…はい?」
「今日のこの出会いは、二人だけの秘密よ。だから、もしあなたがこれから私に出会っても、私とあなたは初対面。いいわね?」
……あぁ、そう言う事か。確かに、そうしないと永琳先生にあらぬ疑いをかけられそうだ。
自然と笑みがこぼれた。
「はい。分かりました」
「ん、それだけ」
そういうと輝夜様は再び歩き出す。俺はその背中が見えなくなるまで、彼女を見つめるのだった。「秘密」か。なんだかドキドキする言葉だ。
蓬莱山輝夜。その経歴からか、すこしどんな人かと思っていたが、その不安も払しょくされた。
「……さて、そろそろ俺も戻りますか!」
足取りが軽い。なんだか、明日になるのが楽しみになっている自分がいた。
頑張って、できるだけ早く永琳先生に認められよう。そして、輝夜様と堂々と仲良くなれるようになろう。
永遠亭にて。新たな目標がたてられた瞬間だった。
まぁ明日が楽しみになりすぎた俺は、そのあと一睡もできませんでしたとさ。
めでたしめでたし。
……就職初日に寝不足とか、永琳先生激おこだな。
お疲れ様でした! そして見てくださりありがとうございます!
とうとう姫様がやってきましたね!
しかし、皆さんのイメージしている蓬莱山輝夜ではなかったかもしれません。
依然私の書いたIFストーリーの性格とも違いますからね。
しかし、これには理由があったり? そしてそのヒントとなる伏線がこの本文にあったり?
まぁ、そこまで深い物ではありませんが、楽しみにしていてください(笑)
感想誤字脱字指摘待ってます。
こんなに待たせてしまったのに、感想を書いてくださる読者様はトーレのマイエンジェル。
さて、少し前書きにも書きましたが、現在、大学の部活が忙しい状況です。
ですが大分余裕も出てきたので、これからはペースを上げて書いていきたいと思います
次回は、白滝の初仕事! そして物語が大きく展開し始める――!?
こうご期待!
ではでは、次回お会いいたしましょう! グッバイ!