東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!


さて、投稿二か月もの間が空き、本当に申し訳ないです。
この二か月間、自分のこの『東方一年郷』を読み返し、構成やらプロットやら設定やらを考え直しておりました。
けっこう一部に矛盾やら論理の破たんやらあって、このように時間がかかってしまいました。

今回のこの見返しをしっかり活かせるように、努力してまいります!

さて今回ですが注意事項!
今回、オリジナルキャラが出てきます。
まぁオリジナルとはいえ、二次創作の漫画やらアニメ作品やらではちょくちょく見かけるあの妖怪がモチーフですから、オリジナルキャラというより三次創作キャラ的な感じですが。
もしも気にらない方はブラウザのバックボタンよろしくです。

ではどうぞ!
過度の期待をせずゆっくりみていってね!




第三十話 ~お世話係~

 

 

 

 ……朝日が眩しい。眠さのあまり薄目になっている自分の目にも、まるで水を得た魚のように、元気良く入り込んでくる。だが、寝起きの俺からしてみれば、この朝日は刺激的すぎて、目を開けることができなくなっていた。

というのも・・・・・・俺は今しがた、何者かによって、たたき起こされたのである。つらい。TSURAI。

 体を揺さぶられた記憶はある。つまり、人為的な何かによって起こされたようなのだが、光のせいで目をうまく開けられないので、だれかはわからない。誰だろう……永琳先生が俺を起こしに来てくれたのか。ありえない気がするけど鈴仙さんか。

 

 だんだんと光に慣れてくる。眠気はとれぬままだが、姿の輪郭をとらえることぐらいはできるようになった。そのおかげで、何やら人らしきものが立っている。それはわかった。ってか人じゃなかったら何なんだよって話になるけどさ。

 その、人らしきものから声が聞こえてきた。

 

「まったく。いつまで寝てるつもりかな?」

 

 幼いような、女性の声だった。永琳先生のものでも鈴仙さんのものでもない。そうなると本格的に誰なんだろうか?

 疑問は深まるが、起きている以上彼女の言葉に反応しないわけにはいかない。体を起こし、眠い目をこすりながら答える。

 

「もう…起きてるよ…」

 

 体を動かして声を出したことにより、意識が覚醒してきたのか、視点がしっかり定まってくる。ようやく俺は、俺をたたき起こしてくださりやがった相手を、しっかり見ることができた。

 

・・・…うさ耳を生やした少女が俺の脚の上にまたがって、ちょこんと座っていました。

 

 ・・・…うん、きっと俺寝ぼけてるんだよ。きっとそうだ。じゃなきゃこんな……こんな朝起きたら可愛い妹(義理&幼女)一緒に寝ていたみたいな、エロゲ的シチュエーショあるわけがない。 

 ほら昨日寝れない寝れないってめっちゃ言ってたよね。なんだかんだ言って寝ちゃったみたいだけど、睡眠時間が短いわけではあるし。その寝不足の影響だよ。まぁよくあることだよね。

 

 さて現実逃避はこれくらいにいて・・・…うん、時間がたっても、目の前にいるこの娘が消えることはなく、うさ耳が消えることもなく、足にかかる女の子の重みが消えることもなかった。

 つまり彼女は現実に俺の足の上に座っているわけだ。

 ……んーと。神様からのプレゼント?

 

 俺の寝ぼけている様子が気に入らないのか、その娘は、ため息をついて、ずいっと俺に顔を近づけてきた。

 

「なに、眠そうにして。・・・まさか、二度寝しようっていうの?」

 

 ……この娘、すごい可愛い。ってかすごい幼い感じするんだけど大丈夫かな? 見た感じ小学生くらい?

 何か犯罪的なものを感じながら、しかし彼女の顔が近い恥ずかしさから少し視線を逸らす。

 

「いや、・・・二度寝はしないけど・・・普通に、眠い・・・ふぁ」

 

「それならいいけど・・・・・・ふふっ、ねぼすけさんだね」

 

 俺があくびをすると、彼女はくすっと笑った。むぐっ、少し恥ずかしい所を見られたな。

 女の子の前であくびをしてしまうとは。彼女が誰かはわからないが、まぁ誰であれ女の子相手に醜態をこれ以上晒すわけには行かない。ってか笑った顔超かわいいんですけど。

 俺は頬を強く2回叩いた。じーん、とする痛みで視界も意識も定まってくる。

 

「ん。目、覚めたかい?」

 

「ああ、もう大丈夫。迷惑かけた」

 

「まったくだよ。次はちゃんと起きてよね?」

 

「ん? …あぁ、了解」

 

 「次は」という言葉に若干の違和感を覚えつつも返事をする。

 ・・・どこかで会ったことがあるような気がする。でもあまり聞きなれていない声と口調。あと初対面にしては妙に馴れ馴れしいというか、遠慮がない。まぁ彼女、妖怪みたいだしそれは仕方が無いことだね。うさ耳ってことは、この永遠亭の地上うさぎである可能性が高い。つまりは妖怪。俺より格上。俺が敵う相手ではない。……こんなに可愛らしく俺の脚の上にちょこんと乗っている姿からは、妖怪という怖い存在には見えないけどね。まぁ、俺の知ってる「東方」の世界のキャラはみんなそんなんだけど。

 

 しかし、ほんとに誰なんだろうか。あったことある気がするんだけどな・・・

 まぁ考えても仕方が無い。まずは・・・

 

「それじゃ、布団片づけるから、いったん降りてくれるかな?」

 

「うん、わかった」

 

 少女が俺から降りるのを確認して、少し気合を入れて俺は立ち上がる。布団をたたみ、もとある場所に戻すために運ぶ。ふう……朝、特にたたき起こされた後に運ぶ布団はなかなか重く感じるな・・・

 だが、こうして体全体を動かしたことによって、もうほとんど寝ぼけはなくなっていた。その感覚を実感しながら布団を押し入れにいれる。

 そのとき、

 

「へぇ…」

 

 と彼女が呟くのが聞こえた。

 

「ねぼすけさんのくせに、そういう所はしっかりしてるんだね。感心感心」

 

 彼女はうんうんと頷く。容姿に似合わず、その少し上から目線の言葉に俺は可愛らしさを覚える。

 

「んー・・・褒められるのは嬉しいけど、当たり前のことをしてるだけだからね。職場とはいえ・・・いや、職場だからか。こういうけじめはしっかりしないと、ね」

 

 俺は押し入れを閉め、彼女のほうを見る。

 彼女は少し驚いたような顔をしたあと、不思議そうに頷いた。

 

「ん・・・聞いてた話と大分印象が違うかな・・・?」

 

「聞いた話?」

 

「あぁ、いや、なんでもないよ。気にしないで」

 

 そう言って彼女は苦笑いを俺に向けた。

 ・・・なんだろう? まぁ気にするなと言われたので、そこまで言及はしないが・・・うーぬ、気になるな。そう思いながら少々訝しげに俺は彼女を見た。

 その刹那。俺の中で辻褄があった、というか、合点がいった。そんな感覚に襲われる。

 

 というのも、彼女が誰か分かったのだ。

 

 幼い体躯に、腰まで伸びた黒髪。イラストでよく見る因幡てゐと同じピンクの服。

それに・・・この深い、だが澄んでいる蒼い目。

 

 その特徴的な瞳を視界にしっかり捉えたとき、俺の中で、昨日のとあるワンシーンが思い起こされた。

 

「君って・・・昨日俺を案内してくれた・・・」

 

「・・・え? まさか、気づいてなかったの?」

 

「あっ・・・うん、ごめん。いやだってさ、口調とか、雰囲気さ」

 

 ジト目の視線を受けながら、俺は申し訳なさを感じつつ、分からなかった理由を口にする。

 昨日の彼女は、妙にかしこまった感じだったし、口調も丁寧口調だった。些細な違いかもしれないが、第一印象とはとても大切なもので、俺は彼女が誰か気が付けなかったわけだ。

俺が結論に至っている中、彼女は、首を傾げていた。

 

「口調・・・? あぁ、確かに。昨日あったときは君はまだ客人だったからね。永遠亭の客人に敬意を払わないほど、僕はバカじゃない」

 

「・・・つまり、今日から永遠亭で働く、いわゆる同僚になった俺には、そういう敬う気持ちを――」

 

「持つ必要なんて一切ないよね。まして、君は人間。しかも全く知らない相手と来てる。申し訳ないけど、敬意を払う気にはなれないかな」

 

「ふぬ・・・」

 

 ま、そりゃそうだな。常識的に考えたら初対面の相手こそ敬意を払うべきなきがするが。さすが幻想郷といったところか。

 しかも、同僚だとしても、彼女は先輩だし、まして俺は人間だ。

 ・・・人間より、妖怪の方が優れている・・・かどうからわからないが、単純な力関係では、俺はきっと彼女に歯すら立たないだろう。昔の俺だったら反抗してそうな考え方だが、あの霊夢との一件で、嫌というほど思い知らされたからな。

 

 そう考えると、昨日彼女が俺に丁寧語を使ったこと自身すごいのではないかと思えてくる。もしかした、咲夜のように警戒の丁寧口調なのかもしれないが。

 ・・・比較するわけじゃないけど、美鈴ってなんであんないい子なんだろうね・・・ホームシック。いや、美鈴シックになってきたかも。

 

「・・・・・・否定は、しないんだね。達観か、怯えか、はたまたただの馬鹿か・・・」

 

 彼女が何か呟くのが聞こえた。あまり聞き取れなかったが、俺のことを言っていたような? まぁ特に気にしないが。

 

 俺は1つ伸びをすると、彼女に向き直した。

 

「それで、君はどうして俺を起こしに?」

 

 これ、一番の疑問点ね。いつまでたっても起きてこない俺を激おこぷんぷん丸な永琳先生が叩き起こす(物理)するなら話は分かるんだけど、そうじゃない。しかも彼女はてゐ以外の言う事を聞かないという地上兎と来ている。

 いったい何の理由が?

 俺の質問に彼女は「そういえば言ってなかったね」と微笑んで答える。

 

「えっとね、僕が君の世話係になったんだよ」

 

「世話係? そりゃまた、面妖な」

 

「面妖ってどういうことだい……まぁそれはいいとして。君、永遠亭に来たのは昨日が初めてなんだろう?」

 

「あ、うん」

 

「ということは、永遠亭の間取りすら知らないよね」

 

「……恥ずかしながら」

 

「そんな状態じゃ仕事はおろか生活もままならないだろうってことで、先生から頼まれたのが僕なんだよ」

 

「つまり、永遠亭での生活、そして仕事を教えてくれる専属の教師。それが君ってことか」

 

「そういうこと」

 

 バイト研修の教官みたいなもんか。紅魔館でいう咲夜の立ち位置だな。

 しかし、ありがたい話である。世話係、という言葉はちょっと引っかかるものがあるが、専属の人をつけてくれるとは。さすが永琳先生、新人の俺なんかへのケアをしっかりしてくれるとは。……あれ? 永琳先生? ちょっとまって、おかしくないか?

 

「……」

 

「なに? そんなにじろじろ見て」

 

「・・・いや、どうして君は俺の世話係になってくれたんだ?」

 

「どうして? さっき言ったじゃないか。先生…八意永琳に頼まれたって」

 

「そう。だからこそだよ」

 

 怪訝な顔で答える彼女の言葉に、俺は反応した。そう、そこがおかしいんだ。

 

「だって君、地上の妖怪兎だろ? 地上の兎はいうこと聞かないやつばっかりって、鈴仙さんや永琳先生自身が言ってたからさ。・・・もしその世話係ってのが先生からの頼み事なら、やけに従順だなと思って」

 

「あはははっ、確かに僕達永遠亭の地上兎は・・・うーん、誰が考え出したかは知らないけど、てゐのいうこと以外を聞くのはほとんどいないね」

 

 彼女は何故か笑いながらそう言った。永琳先生も輝夜様も言っていたが、地上兎自身が言うと、説得力が違う。

 ・・・・・・? あれ? 俺の質問の答えにはなってないぞ?

 

「でも、君は今、永琳先生の命令で動いているんだろ?」

 

「うん。みんなからみたら、私は変わり者ってやつだから」

 

「あぁ自分で言っちゃうんだ」

 

「隠すことでもないからね。それに、私の他にも永琳や月兎の言う事を聞くのはいるし。まぁ両手の指で足りる数だけどね」

 

「うひゃー、二桁行かないんだね」

 

 だとしても昨日の話だと、全くと言っていいほど働いてくれる地上兎は居ないような口ぶりだったから、勘違いしてたよ。一応こういう働いてくれる娘も居るには居る訳か。

 

「それに、だよ」

 

 不意に彼女がそう言葉を続けた。

 

 そして、俺の顔をのぞき込むように、顔を近づけると、少しいたずらっぽく笑った。

 

「僕自身、君に興味があるんだ」

 

 ・・・素直に胸が跳ねた。頬が赤くなるのを感じる。

 いっ、今のはどういう意味なんだろう?

 

「なぁ。いっいまのって――」

 

「そうじゃあまずは、永遠亭を案内するよ。よそ見して、迷わないようにね?」

 

 ・・・彼女は、俺の言葉を聞かず、部屋を出て行ってしまったのだった。

 なんだか悲しい気持ちになったが、このままおいて行かれるのはまずい。慌てて俺は彼女の後を追った。

 

 ・・・・・・なんだろう。不思議な娘である。

 何回かあった思わせぶりな発言。彼女、なにか考えがあってやっているのかもしれないと思った。

 ま、全部俺の妄想かもしれないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はまず、この永遠亭を案内してくれた。

 

 玄関。客間。台所。厠。診察室。診療室。研究室。入院室。永琳先生や鈴仙さんの居住スペース。地上兎たちの居住スペース。

 

 大体のところはこんなものだろうと思う。紅魔館に比べれば部屋数は少ないし、廊下も長くはない。俺が永遠亭で行う仕事の中には掃除も含まれているらしい。「広いから結構大変だよ」と彼女は語ってくれたが、紅魔館の掃除を経験している俺からすればへでもねぇ! それにほら、紅魔館には、怖い怖い教官がいらっしゃったからな。そういう精神的な意味でもこちらの方が楽かな。

 

 そして・・・案内が始まってからずっと気になっていたことだったのだが。

 

 やはり、姫様の部屋や、姫様に関する情報は一切合切彼女の口から出てくることはなかった。まるで俺に対する情報統制などがあるかのよう。

 

 まぁ、昨夜の永琳先生の様子を見るにありえないことではないか。穢れ・・・穢れねぇ・・・いや、ある意味俺ほど穢れてる人間もいないか。自分で言うのもなんだけど、俺こんなんだし。

 

 ・・・まぁそんな輝夜様の事情を知っているから、輝夜様に対する情報が一切来ない理由も大体察せるのだが・・・

なんというか、少し試したくなった。カマをかけてみたくなった。

 

「案内する場所は大体こんなものかな・・・」

 

 首をかしげながら、うーん、と考える彼女に俺は声をかける。

 

「先生! 1つ質問いいですか?」

 

「先生・・・いい響きだね。じゃ、質問を許可するよ、生徒君」

 

「あざっす。いやね? 昨日の夜ちょっと散歩に出かけたんだよ。その時にさ――」

 

「へぇ・・・夜に散歩。余裕だね。だから、今日あんなに寝ぼすけだったわけだ」

 

「あ!しまった!やぶ蛇だった!」

 

 痛恨のミス! なんてこった!

 

「なんという誘導尋問・・・策士かっ貴様!」

 

「誘導してない。尋問してない。策を練ってもない。被害妄想甚だしいよ?」

 

 ゴゴゴゴという擬音が聞こえそうな、怒りのこもる笑顔を俺に見せてくる。

 これ以上おちょくるとオラオラされそうなので、自重することにした。

 

「冗談はさておいて。まぁ・・・その、なんだ。夜で歩いたのはすみませんでした。なかなか寝付けなくてな」

 

「別に怒ってるわけじゃないさ。まぁでも、素直に謝ったし、不当にしておくよ。」

 

「ありがとう。それで、話の続きなんだけど・・・・・・」

 

「うん」

 

「あれきっと、君みたいな地上の兔たちだと思うんだけど・・・・・・その子たちが、『姫様』って言葉を使ってたんだよ。『姫様は今日もきれいだった』みたいな」

 

「・・・」

 

「永琳先生は確かに綺麗だけど、姫様って柄じゃないし。兎同士の関係性から言って鈴仙さんが姫様って呼ばれることもなさそう。って考えたらいったい誰なんだろうなって思ってさ」

 

 姫様、という単語を出した時、一瞬彼女の動きが止まった。んー、今のは確実に、脈ありの反応だよなぁ。

 だがそれも言葉通り一瞬で、気づいから彼女はバツが悪そうな顔をこちらに向けた。

 

「んー、ごめん。僕にはよくわからないや」

 

「ふむ、そっか。聞き間違いか何かかな」

 

「じゃないかな。少なくとも僕にはなんとも」

 

「ん、OK。まぁさほど気にしてることでもないし」

 

 ……永遠亭に住んでいるのに、まして永琳先生たちのお願いを聞いてしまうほどの変わり者なのに、輝夜様の事を知らないわけはない。つまり彼女は嘘をついていることになるのだが。その割には動揺やら焦りの様子が、「あの一瞬」以来、全然感じ取れなかった。

 逆に言えば、「あの一瞬」のおかげで、やはり思った通り、俺に対して輝夜様の事を言わないという決定事項のようなものがあることが分かった。……情報すら得られないとなると、隠れて輝夜様のところに行くこともできないなぁ。もし発見された時の理由がないもの。

 

「えっと。質問は以上かな?」

 

 不意に彼女が微笑みながらこちらに話しかけてきた。

 

「え? あぁっ、ちょっと待って! 今考えるから」

 

「今の長考は、質問を考えていたわけじゃなかったのかい?」

 

「あはは、ちょっと考え事をな」

 

 君が何を隠しているかを考えていた――なんて言えるわけないよな。素直にほかに聞きたいことを模索することにする。

 しかし、質問と言われて何があるか。これ以上聞いて逆に怪しまれると厄介だから、輝夜様について聞く気はない。輝夜様との『秘密』は守らねば。

 ということは別系統の質問だな。うーん……掃除手順や方法なんかは実際に担当した時聞けばいいだろうし、案内も聞く限り疑問に思うことはなかった。つまりまぁ、今は特にないってことだ。

 その結論を、何故か思案顔になっている彼女に言おうとしたとき、彼女が声を上げた。

 

「あっ、そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったね」

 

「え!? 永琳先生から聞いてないの?」

 

 俺の言葉に、彼女は苦笑いを浮かべる。

 

「うん。名前は本人から聞くようにって。すっかり忘れてたよ」

 

「なんでまたそんな」

 

「よくは分からないけど、直接聞いた方が面白いって」

 

「……あー、なるほど」

 

 意外とお茶目だな先生。俺に対してはそんな冗談言いそうじゃないのに。……信頼関係が築ければ、おのずと冗談も言ってくれるのかな。いいね、冗談を言い合える関係って。今のところそこまで深い関係の人なんかいないよ……これじゃ二次創作によくある、誰かと恋仲になってウハウハなんて夢のまた夢だよなぁ。

 

 ……あれ? 彼女、目がしいたけになってない? なんか妙にキラキラしてるような……もしかして、俺の名前に期待してるのだろうか。まぁ面白い名前なんて言われたらそりゃ気になりもするか。

 その期待に応えれるかはわからないが、名乗らないと話にならない。俺は彼女に聞かれないように心の中でため息をついて、口を開く。

 

「俺の名前は、白滝。よろしくな」

 

「しらたき?」

 

「うん」

 

「……おでん?」

 

「うん、正解」

 

「……はははー、タシカニオモシロイネー」

 

「全然心がこもってねぇ!」

 

 さっきまでキラキラしてた期待のまなざしが、なんか憐みの目に変わっていました。

 うっうるせぇ! 俺も時々「偽名にしたってなんでこんな名前にしたんだろう…」とか夜な夜な落ち込むことがあったんだ!今更憐れみなんて慣れてらぃ!

 ま、今ではこの名前好きだけどね。覚えやすいだろうし。

 

 しかし、なんやかんや言っても、俺の心に悔しい気持ちが広がる。仕返し…というほどイヤな奴にはなりたくないが、若干のそんな気持ちも込めて彼女に質問する。

 

「じゃ、じゃあ、君の名前は何ていうんだ? ……あっ、今咄嗟に言って思い出したけど、俺も君の名前知らないよ」

 

「あぁ…うん、聞かれなかったからね」

 

「じゃあ今聞くよ。お名前は?」

 

「……うーん、困ったな」

 

 ? なんで困るんだ? なんか聞いてはいけないことだったのだろうか。いやでも名前だし。不思議に思う俺。

 彼女は少し困った表情のままだったが、その表情は微笑みに変わった。だが…その微笑みには、少し寂しそうなものにも見えた。

 

 

「僕、名前が無いんだよ」

 

 

「えっ…」

 

 一瞬にして、仕返しの気持ちが、土下座したい気持ちに変わった。

 これあれでしょ? 聞いちゃいけないやつでしょ。事情のある家庭系の話でしょ。今俺きっと羽川の家の内部を見ちゃったときの阿良々木君みたいな顔してるよ。

 えっと…どうしよう、なんて言えば正解なんだろう。これは話を切り替えた方がよさそうか。

 そんな感じで、俺がうろたえているのを感ずいたのか、彼女は少し慌てたような声を上げる。

 

「あぁ、違うんだよ。そんな暗い話じゃなくって」

 

「え? でも名前が無いって…相当な事情が無いと…」

 

「あー、人間的にはそうかもしれないけど、妖怪としてはよくあることなんだよ」

 

「どういうことなの…♂」

 

「なんで気持ち悪い言い方をしたのかな? まぁいいや。ほら、妖怪ってみんながみんな人間と同じような知性を持っているわけではないよね。妖怪ってひとくくりで考えれば、『言葉を話せる』ほどの知性を持っている妖怪の方が少ないかもしれない。それなのにそんな知性の低い妖怪が、自分に『名前』を持っているってのもおかしな話だよ。僕たち地上の妖怪兎もそう。基本は名前を持っていない種族なんだ」

 

「んー、その話には納得できるけど、でも今君は現に言葉を話してるじゃないか。知性が無いようにも見えないし」

 

「確かに、多少の知性はあるかな。でも、本来は言葉を話すほど、ではないんだ。言葉を話すことのできる妖怪兎は、人間や言葉を話す妖怪と深い深いかかわりを持つ者、それに天才。大体この二つに絞られて、数なんかも取っても少ない。この永遠亭に僕を含めて三、四人かな」

 

「へぇー…そうなんだ、知らなかった。君や因幡てゐの場合はどっちなんだ?」

 

「てゐのこと、知ってるんだ」

 

「あぁ、鈴仙さんや永琳先生からな」

 

「ふーん……話を戻すと、てゐは天才の方かな。以前「いつの間にか覚えてた」って言ってたよ。まぁ彼女、生きてる長さが僕らなんかとは段違いだからね。」

 

「あー、なるほど」

 

 てゐ、めっちゃ長生きって話だもんな。

 

「それで、僕の場合は、前者の方だね。僕に言葉を教えてくれた人がいるんだ」

 

「へぇー! それってちなみに誰だったり?」

 

「んー、ちょっと言えないかな。その人に口止めされてるからね」

 

「およ、そうなのか」

 

 一瞬慧音先生あたりかな、とか思ったけど、そんなことはなさそうだ。あの慧音先生が自分のことを隠すようなことはしないだろう。自慢するようなこともないだろうが。

 

「まぁ、結論として、僕たちは本来言葉を必要としてない種族だから、名前はないんだよ。事情は分かってくれたかな?」

 

「はーい先生。よくわかりました」

 

「うん、よろしい。妖怪の中にはそうやって人間の常識が通用しないのもいるらしいから、気を付けてね」

 

「いえっさー」

 

 なるほどなぁ。確かに、言われてみればそうか。俺が以前妖怪の山とかで出会った饕餮とかも「グルルル」しか言わなかったしな。そんな奴に個体名があるわけはないか。うーん、大分幻想郷のことも分かってきたつもりだったが、やはり認識を改めなければいけないことはまだまだありそうだ。

 しかし……そうなるとだ。

 

「困ったことになったな。君を呼ぶときにどうしたらいいかわからない」

 

「今みたいに、君、とかで僕は気にしないけど?」

 

「俺が気になる」

 

「思ったより自分勝手な意見でびっくりしたよ」

 

「いやでも、名前はあった方が良いと思うぜ? 仕事とか変な時間をかけずにスムーズにできるし。ほら、俺不慣れだからな、君の事いっぱい頼ることになるだろうから」

 

「んー、その理由は……まぁ確かに納得できるものだけど。じゃあどうするの? もしかして、君が僕の名付け親になってくれるのかな?」

 

 彼女がいたずらっぽく笑う。からかわれてる、と感じた俺は、仕返しと言わんばかりに胸を張った。

 

「あぁ、いいぜ! とびっきり素晴らしい名前を考えてやろう!」

 

「あ、やっぱりやめておくよ。なんかいやな予感するし」

 

「わー撤回早すぎんよー」

 

 候補を聞いてくれるぐらいしてもいいんじゃないかな!? 

俺はしょぼーんとうなだれる。

 

「でも、俺の名前つけ作戦が駄目だとすると、あとどんな方法があるかな……」

 

「だから僕は、君、とかでも気にしないって」

 

 彼女は少しにが笑いを浮かべた。

 彼女はそう言うけども、俺としては何とかしたい。いやなんていうか……「君」って言葉使い慣れてなくて、むずかゆくなっちゃうんだよね。彼女、見た目年齢的にすごい幼く見えるからさ、「お前」とかも言えないし。だからなんとか呼び方は欲しいんだけど。

 そう思った時、不意に彼女が声を上げる。

 

「あっ、そういえば」

 

「なに?」

 

「あぁ、いや。別に大したことじゃないんだけど……僕に言葉を教えてくれた人いるって言ったでしょ?

 

「うん」

 

「あの人が、一つ付けてくれた、いや違う、いつも僕を呼ぶときに使ってた名前があったなぁって思い出して」

 

「大したことあるよ、それ!」

 

 あるんじゃん名前! なんだー、もっと早く思い出してくれればよかったのに。

 希望が見えて舞いあがる俺。だが、そんな俺は、彼女の表情が気になった。

 ……? どうしたんだろうか?

 

「どうした? せっかく思い出したのに、浮かない顔だな。」

 

「え? いやっ…うん、そうだね。あんまり…好きな名前じゃなかったな、と思って」

 

「そうなのか。して、どんな名前だったんだ?」

 

「……」

 

 少しの時間が流れる。言おうか言わまいか悩んでいるのだろうか。そんなに嫌いだったのか? そこまで行くと逆に気になるな。

 決心がついたのか、彼女がちらりとこちらを見る。その蒼い綺麗な目でじっと見られると一瞬ドキッととするが、俺は笑顔で答えた。

 彼女は、ゆっくり口を開く。

 

「アオイ」

 

「あおい?」

 

「そう。漢字を当てずに、カタカナでアオイ。それが、あの人が僕を呼ぶときに言ってた名前」

 

 彼女がそう言って、今いる廊下から空を見上げる。その、「あの人」へと思いはせているのだろうか。

 しかし……うん、べつに変な名前じゃない。光宙(ぴかちゅー)とか嘉緒翠(かおす)とかそういうキラキラした名前でもないし。どうしてだろ?

 

「いい名前じゃないか。どうして嫌いなんだ?」

 

「嫌いとまでは言わないけどさ……由来がね、ちょっと…」

 

「由来? 名前の意味ってことか」

 

 ちょっと考えてみよう。

アオイ、あおい。漢字に直すと葵、青い、蒼い。英語にするとAOI、BLUE。そこから連想されるものは……心当たりがある。すごくわかりやすい。

え? まさか。いやでも、さすがにそれは安直すぎ……いや、でも。

 

「もしかしてさ、アオイってのはさ」

 

「うん」

 

「君の目が綺麗な、蒼い、色だからかな?」

 

 瞬間、彼女の顔が驚きに変わった。そして、どこかしょぼんとした様子で、答える。

 

「正解。はぁ、僕があんまり好きじゃない理由が分かったよね?」

 

「あぁ、理解した。安直だってことだな」

 

「そう。確かにアオイって言葉自身は、いい雰囲気を出してることは分かるんだけどね」

 

 そう言って彼女は、ため息をついた。うーん、確かに安直で単純な名前ではある。ちょっと神経質そうな彼女にはそこが気に食わないところだということもよくわかる。

 だけど、俺はそれにあえて反論したかった。

 

「でも、いいんじゃないかな、その名前。俺は好きだよ」

 

 彼女は訝しげにこちらを見る。

 

「そうかい? そりゃ白滝って名前も安直だから、親近感はわくだろうけど」

 

「いやいや、そう言う事じゃなくてな」

 

 まぁ確かに俺の名前も安直だけどな。思い付きだったしね。

 だが今はそれが問題じゃあない。

 

「安直っていうけどさ。それは逆にとらえると、分かりやすいし、表現しやすいって事だろ」

 

「…うん」

 

「アオイって言葉はさ、君の、その綺麗な瞳を意味してるわけだ」

 

「きっ、綺麗って……」

 

「綺麗さ。すごく綺麗だよ。深いのに、それでいて透き通ってる」

 

「うっ…なんだか照れるね」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女。その様子を見ていたら自然と笑みがこぼれた。

 

「外見的とはいえ、君の瞳はとっても魅力的だ。そう考えると、その魅力を表しているこの言葉は、すごいと思わないか?」

 

「……」

 

「だから俺は、アオイって名前、好きだな」

 

 自分の気持ちを述べた後、彼女の様子を静かに見てみる。彼女は黙ってしまっていた。

 んん? 俺もしかして変なこと言ったかな? まさか何かの地雷踏んだとか!? あわわわ、どっどうしよう。もしそうなら謝り倒さないと!

 

 そんな感じで俺が、動揺を隠せずいると、彼女の唇が動くのが見えた。

 だが、動揺の走っている俺は、「なにか」を言ったのは聞き取れたが、「なにを」言ったのかは聞き取れず、

 

「……あのブン屋の新聞も、あながち誤報じゃなかったのかもね…」

 

「へす?」

 

「なんでもないよ。それよりも僕は君のその変な疑問言葉の方が気になったよ」

 

 むう、なんかよくわからんが反撃された。急に黙ったことといい、よくわかんないぜ。

 

 少しの時間「へすって何さ、へすって。意味が分からないよ」と言ってきた彼女だったが、一つ大きなため息をついた。

そして、俺の顔を見上げる。その表情は、やわらかな微笑みだった。

 

「君の熱意に負けたよ」

 

「へ?」

 

「まぁないよりはいいかな。決定じゃないけど、一応、候補ってことで」

 

「それって……えっと、つまり」

 

「うん」

 

 彼女は廊下を、とててて、と少し走って、こちらを振り返り口を開く。

 

「少し、遅くなったけど」

 

 そして、満面の笑みを浮かべて、自らを名乗った。

 

「僕の名前は、アオイ。よろしくね、白滝」

 

「ああ、よろしくな! アオイ!」

 

 

 これが、これから俺の生活、仕事を全面的にバックアップしてくれる、少し幼く見えて、可愛い、地上兎の少女、アオイとの出会いであった。

 

 

 彼女が裏でなにをしているかなんて、俺には、まだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、名前って大切なものだよな」

 

「一般的、人間的に言えばそうだね」

 

「……こんなに簡単に決めちゃっていいものだったのかな?」

 

「君が言い出したことじゃないか!?」

 

「いや、ほら、一応仮だから! (仮)だから! Betaだから!」

 

「何を訳の分からないことを言っているんだ君は……まったく。ほら、さっそく仕事をしてもらうよ」

 

「おお? さっそくか。して、その仕事内容は?」

 

「うん、仕事内容は後で説明するけど、とりあえず白滝には――」

 

「俺には?」

 

 

 

 

 

「人里に行ってもらうよ」

 

 

 

 

 





お疲れ様でした! そして見てくださってありがとうございます!

オリジナルキャラ、地上の妖怪兎であるアオイちゃんです。
ほんとは出す予定なかったんですが、見直したら必要になってしまったキャラです(笑)
なるべくこの作品はオリキャラを出したくなかったのですが……もしも、その所に魅力を感じてくださっている読者様、申し訳ないです。
とはいえ、このキャラが物語の中心になることはない予定なので、あくまで登場出番の多いモブとして見ていただければ(笑)

感想、誤字脱字指摘待ってます。
こんなにもお待たせしてしまったのに感想をくださる方は、マイエンジェル。

大学の方も夏休みに入りますし、更新速度上げていきますよ!
こんなに期間が開いてしまうことはもうないと思ってくださいな(笑)

ではでは、次回をお楽しみに! ぐっばい!
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