東方一年郷   作:トーレ

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ども! トーレでございます!

大学のテストが思ったよりも日程的に長引いてこんな投稿結果に……
おのれ大学!

さてさて、最新話でございます。
話の流れ的にアオイちゃんが中心として出ますがご了承ください。

それでは! 過度の期待をせず、ゆっくり見ていってね!


第三十一話 ~視線~

 

 

「よし。今のが大体の手順だよ、わかったかな? 復習すると、家の人に薬箱を持ってきてもらって、この目録と残った薬を照らし合わせて…」

 

「そんで、減ってる薬を補充。補充後、減った分だけ料金をもらうって感じだな」

 

「その通り。ちゃんと理解してるみたいだね」

 

「元紅魔館の執事を舐めてもらっては困るな」

 

「元紅魔館の執事とは思えない性格してるからね、君は」

 

「辛辣だなぁ」

 

「ふふっ」

 

 くすくすと笑うアオイに軽いため息をつきながら、俺は大量の薬の入ったカバンを背負いなおした。

 

 

 

 

 

 現在、俺は人里でアオイから「薬売り」のやり方を教えてもらっていた。

はじめ、突然アオイから「人里に行ってもらう」なんて言われた時はびっくりしたもんだ。しかもいきなりでっかいカバン(今背負っているものなんだが)を持たされてだ。思考回路がショート寸前だったぜ。

そんで、何も言わず永遠亭から出ようとするもんだから思わず引き留めて、もろもろの理由を聞いたら……

 

「君に今から、『永遠亭流薬売り』を教えるんだ」

 

 と、なぜかにこやかな表情と共にそんな答えが返ってきた。そして言われるがまま彼女について行って、現在に至るというわけだ。

 ……薬売りを教えると言われた時は、正直困惑していた。外の世界で、永遠亭の薬売りという仕事は有名なものだ。いや、有名というか…何回も二次創作で取り上げられているような、「東方好きなら、知っているであろうこと」である。しかも、この薬売りは永遠亭の仕事の中でも、資金調達に直接つながることであり、重要な仕事である。そんな仕事に俺が就けるというのだ。紅魔館の執事の時もそうだったが、これほどうれしいことはない。だが……なんというか不安もあった。何しろ、俺は永遠亭に来てからまだ2日であり、仕事関係で言ったらこれが初日である。

 

 ……ちょっと早すぎない?

 

 心情を素直に吐露するとこんな感じである。なんだろう、例え話をすると、コンビニのバイト初日に発注の仕事任されちゃうみたいな。普通はもっとこう…永遠亭の掃除が最初の仕事だと俺は思っていたので、びっくりしちゃったわけです。

 こんな不安を感じたまま仕事をしたくなかったので、アオイに素直に俺は聞いてみた。

 すると、

 

「先生は、なぜかは心底不思議だけど、君の能力を高く評価してるんだよ。それに紅魔館の執事をしていたっていう経験もあるしね。正直、この薬売りの仕事はいつも人手不足だったから、即戦力になりそうな君をすぐにでも使い物になる状態にしたかったんじゃないかな?」

 

 という、なんともまったくオブラートに包まれていない答えが返ってきた。永遠亭の苦労が垣間見えた瞬間である。…そうだよな、前のアオイの話から、永琳先生たちの言う事を聞く彼女曰く「変わり者」の地上兎は10未満しかいない。つまり薬売りに迎えるのは、鈴仙さん、てゐ(まだ会ったことないけど)含め、最大11人しかいないわけだ。それでこの人里を回ろうというんだ。……そりゃ人手不足ですわな! この人里は、広大とは言えないが狭いとも言えない大きさである。人手不足は否めないな。

 それに、永琳先生が俺を高く買ってくれている、なんて言われてしまった。もうそんなこと言われてしまった日には……頑張るしかないよな! その期待を裏切るわけにはいかないし! 永琳先生の評価が、いつ輝夜様に会えるかということに直結しているのだ。輝夜様に早く会うためにも頑張らなくてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 ま、そんなこんなで、現在アオイ先生に付いて行って、永遠亭の薬売りを勉強しているわけである。

 俺は結構な重みを背中に感じながら、アオイに話しかける。

 

「面白い仕組みだよな、この薬売りって」

 

「そうかい? 僕はそんなこと思ったことないけど」

 

 アオイは少し首をかしげる。……幻想郷では普通なのかな? このシステム。

 

 最初に説明したかもしれないが、改めてこの永遠亭の薬売りの仕組みを説明しよう。

 薬売り、という名前ではあるが、実際は、薬「補充」に近い物であった。まず、家に薬箱というものを設置しそこに各種さまざまな薬を入れておく。定期的にその家を周り、薬の使用状況をチェック。薬が減っていたらその薬を補充し、使用分だけ料金を請求する。最後に場合によっては新薬を提供する。これが一連の流れであった。

あれだ、外の世界で言う「置き薬」とか「配置薬」って仕組みにそっくりなわけだ。わかんない人はグーグル先生に聞くといい。知ったかぶりをしてみたはいいものの俺も詳しくは説明できないからな。

 しかし、外の世界で言えば、置き薬や配置薬は、近くに病院や薬院が無い農村や、なかなか動けない高齢者宅にあるぐらいなものな気がする。だから、幻想郷の人里がほとんどこの仕組みになっているのは驚きであった。中には提供していない家もあるらしいが、それも数少ないらしい。つまり人里では一般的なわけだ。評判もいいらしい。まぁ、原作でも永遠亭自身が評判良いらしいからね。

 

だが、驚いたのはその薬売りの仕組みだけではない。もう一つ俺が驚いたことがあった。それは…

 

「…なに? 僕の事じろじろ見て。もしかして、耳、見えちゃってるかな?」

 

「いや、それは大丈夫。ちゃんと隠れてるよ。ただ、フードかぶってるアオイも可愛いと思って」

 

「……変装を可愛いって言われてもうれしくないんだけどな」

 

「はははっ」

 

 そう、アオイが兎耳が見えないように変装したことであった。最初おもむろにフードをかぶりだした時は、某白いアサシンごっこでも始めるのかと思ったが、これにはわけがあった。

 彼女曰く、

 

「異変の影響もあって、永遠亭は人外の集まりって認識がまだ強いんだよ。評判は悪くないんだけどね。だから、一応この薬売りの時は人間に変装して、永遠亭が販売しているってことを隠してるんだ」

 

 ということらしい。まぁ確かに、異変を起こすのはたいてい妖怪や人間辞めましたってやつらがおっぱじめるってイメージはあるしね。それに、そんな人外のモノが作ったものが果たして人間に本当に効くのかって疑問が浮かぶのも確かに普通の事ではあるな。誤解などを生まず、スムーズに薬売るには人間に変装するのが一番というわけか。それに今回、永遠亭には俺という「人間」が就職した。……実験台にされるのはなんだか嫌だが、でもそれで永遠亭の評判が上がるなら、悪くない気がしてくる。

 まぁそんな気難しい話は置いといてだ。俺は目録をチェックしているアオイの姿を見つめる。その視線に気づいたのかアオイが怪訝そうな顔でこちらを見た。

 

「……だからなに? そんなに僕の事見てさ」

 

「いやな、こう見ると、ほんと普通の女の子に見えるなぁって思って」

 

 フードをかぶったアオイは、ほんと普通の人間の幼い女の子に見える。兎耳が無いだけでここまで変わるものなんだな……不思議なものだ。

 俺は思ったことを素直に口にしたのだが、それがどうも気に入らなかったのかアオイは少し不機嫌そうな顔をした。

 

「微妙に引っかかる言い方だね。白滝にとって兎耳のある僕は、女の子に見えないのかな?」

 

「え? そんなわけないじゃんか。どっちのアオイも可愛いよ?」

 

「っ……出会って間もない相手に、君は平然とそう言う事をいうんだね……」

 

 少し俯いてアオイがそう呟いた。

 あらー……、本心をただ口にしたんだが……またやってしまったか。

 

「あっ、悪い。いやー、あはは……つい思ったことを口にしちゃうんだよな俺。だからその…他意はないんだ。気分悪くしたら、ごめん」

 

「いや、いいよ。大丈夫。君はそういうやつだって思い込むことにする」

 

「おっおう」

 

 何かすごい苦虫をかみつぶしたような顔をするアオイ。うーむ、いかんなぁ、紅魔館で働いてた時も何回か美鈴や咲夜、霊夢に言われたが、どうも俺は不用意な発言がおおいようだ。注意しないと。……でも可愛いのは事実だしなぁ、難しいところだ。

 

「……はぁ、あの人が警戒する理由がなんとなくわかったよ…」

 

「?」

 

「ごほんっ。なんでもないよ。……ここで道草喰っても仕方ないね。さ、次の家に行こうか」

 

「ん、了解」

 

 彼女は何か誤魔化すように、何故か紅い顔をして一つ咳をついた。どうしたんだろ? まぁ体調が悪い様子でもないし大丈夫かな。それよりも仕事に集中しよう。

 

 

 

 

 

 

 ということで、次の家に到着。さてさっそく仕事に取り掛かろう、というところでアオイが思いついたように声を上げる。

 

「そうだね。次は、実際に白滝にやってもらおうかな」

 

「えっまじか。まだ俺アオイの見本、一回しか見てないんだけど」

 

 突然の指令に驚きを隠せない俺。彼女は少しいじわるそうに笑いながら、俺の方を見る。

 

「実際に体験したほうがいい経験になると思うよ。そっちの方が覚えやすいし。それに、なんだかもう要領は掴んでるみたいだから、大丈夫じゃない?」

 

「んー、まぁ確かにそれは一理あるな。紅魔館の仕事も実際に体で覚えた面が多いし……よし! じゃあやってみますか!」

 

「うん、その意気やよし! だね。サポートはしっかりするから、実際にやってみよう」

 

「おk!」

 

 ……なんだか若干乗せられた感があったが、アオイの言っていることは全然間違っていない。実際の経験が一番である。

 それじゃ、永遠亭に就職してからの初仕事と行きますか!

 俺はアオイから薬の目録を受け取り、気合いを入れてカバンを担ぎなおした。

 

 

 

小一時間後

 

 

 

『ありがとうございました。失礼します』

 

 そう二人で言って、俺とアオイは家を後にした。

 少し緊張の間。そのあとにアオイがうんうんと頷いた。

 

「うん、上々じゃないかな」

 

「ほんと!? よかったぁ…」

 

 安どのため息。やっぱり初めての仕事は緊張する。だが及第点といったところなんだろうか、アオイの評価はよかったみたいだ。

 だが、何故か彼女の表情がジト目に変わっていた。

 

「まぁ不安な点も多かったけどね」

 

「うぐっ」

 

「薬を手玉みたいにしたときはどうしようかと思ったけど」

 

「いや! あれはその…ほら、薬落としそうになったからつい…」

 

「つい、であんなことされちゃ堪ったものじゃないよ。先生が自前で作ったものであり、商品なんだから」

 

「うぐっ……そりゃ、そうだな。ごめん、次は気を付ける」

 

 あれは自分でも焦ったよ。落とさまい! と思っている間にいつの間にか俺、薬でジャグリングしてたんだもんな。アオイに頭パァンッって叩かれたよ。まぁ仕方ないね。

 そう考えると結構失敗多かった気がする。薬の名前もめっちゃ聞き間違えたし、テンパって「南無三!」とか口走っちゃうし……あれ? 失敗だらけじゃね? そりゃ初めてだから仕方ないと言われたらそれまでなんだけど……それでも何か悔しいものがあるよね。

 だがそんな俺を慰めるように、アオイは笑顔に変わっていた。

 

「ふふっ、でも初めてにしてはよかったよ。お疲れ様」

 

 ……天使かこの子。めっちゃ可愛いんだけど…

 アオイは笑顔のまま続ける。

 

「やっぱり紅魔館での経験が活きてるのかな? 接客方法や態度に関しては申し分ないし、この調子なら、今日中にでも習得できちゃうかもね」

 

「そうだといいなぁ…」

 

 まぁ実際活きてるのは外の世界でのコンビニとか喫茶店のアルバイトのおかげだと思うけどね! ほんと、高校大学とたくさんのバイトをしてきてよかった。まさかこんな風に活用されるとは思ってなかったけどね。

 だが、アオイがここまで期待をかけてくれているのだ。これは、この期待に応えないとな。

 

アオイが俺の方を振り返って、まるで俺のやる気を上げるかのように声を上げる 

 

「さ、まだまだ回るところはあるからね。僕がしっかり支援するから、白滝にはどんどん経験を積んでいってもらうよ?」

 

「…あぁ、そうだな。いっちょやったりますか!」

 

「うん! その意気その意気」

 

 そうだな、落ち込んでいても状況は変わらん。経験が増えるわけでもないし、この薬売りが上手くなるわけでもない。仕事初日の俺は、何回も何回も経験を積んでいかないと!

 

「さ、次に行こうか」

 

「いえっさ!」

 

「……その掛け声は、なんだい?」

 

 こんな感じで、俺はアオイに教えられつつ、支えてもらいつつ、薬売りの仕事をこなしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん。今ので、今日回る分は終了だね。お疲れ様」

 

「おう! お疲れさん」

 

 人里に来てから結構な時間がたち、もう日が暮れ夕日が綺麗に見える頃、俺の失敗もありつつ、なかなか大変だったが、なんとか今日回る分の家は終了した。「今日」ということは、この仕事は一日で会わらせるものではない、と言う事である。なんでも、人里を何区画かに分けて、それを担当の兎が回る、というシステムになっているらしい。薬売りのできる人数が少ないが故の工夫というわけだ。

 俺は軽く伸びをする。まぁ明日のことはいったん置いておこう。今はこの仕事が終わったひと時の余韻を楽しむことにする。

 しかし我ながら最後の方は完璧だったのではないだろうか。ジャグリングすることもなかったし、テンパること自体なかった。後俺の課題は、「薬の名前を覚えること」と「細かいお金計算」だな。前者は何とかなりそうなんだけど、後者はなぁ……まだこっちの貨幣システムに慣れてないもんだから厳しいものがある。だがまぁそれもこれからやっていけば慣れていくだろう。そう信じたい。

 ふとアオイを見ると、なぜか少し驚いたような顔をしていた。

 

「どうした?」

 

「えっ? ああ、いや別に大したことじゃないんだけど……あんまり疲れてないように見えてね」

 

「俺がか?」

 

「うん。普通初めてのこういう仕事って疲れるものじゃない? 現に僕もそうだったし」

 

「あー、まぁ伊達に紅魔館の執事をやってないって感じかな。紅魔館中の掃除とかより比べると、全然楽さ」

 

 俺はマッスルポーズをとって元気さをアピールする。実際、体はまだまだ動けると言っている。

 ふむふむ、とアオイは頷く。

 

「なるほど。大変だったんだね、紅魔館の仕事」

 

 微妙に同情したような表情でこちらを見るアオイに、俺はにが笑いを返す。

 

「ははは、確かに…大変だったな。なにせ怖い上司がいたからね。……まぁ、でも」

 

「でも?」

 

「…大変だったけど、楽しかったさ」

 

 そう言って俺はなんとなく空を見る。思い出すは紅魔館での日々。ほんと楽しかった。またみんなに会いたい。……ってしんみりするほどまだ俺が紅魔館を出てから時間たってないけどね!

 不意に、「ふーん」となぜかふてくされたような声が聞こえてきた。

 声のする方を見ると、頬を少し膨らませて「ぶー」としているアオイがいた。

 

「悪かったね、あんまり楽しくない仕事で」

 

「なっ…そんなこと言ってないだろ? この仕事も楽しいさ」

 

「…世辞はいいよ」

 

「世辞じゃないって。この、薬売りって仕事も楽しいよ。いままでやったことないタイプの仕事だし、人里の人とも交流できる。それに」

 

「それに?」

 

 俺の顔を覗き込むようにしているアオイの頭に、俺は手をのせた。そしてそのままくしゃくしゃとするように撫でる。

 

「アオイと一緒にいれるしな」

 

「……」

 

 アオイは黙って俺の顔を見つめてきた。その表情がどんな感情から来ているものなのか俺にはよくわからなかったが、俺はそのまま頭を撫でる。……できればフードの上からじゃなく直に撫でたかったが、ここは我慢。

 少しの間俺の顔をじっと見ていたアオイだったが、なぜか唐突に俺を蔑むようなジト目に変わっていた。

 

「……それは、僕を口説こうとしてるのかな?」

 

 唐突なその発言に俺は驚いてアオイの頭から手を離れさせた。

 

「なっ!? そんなつもりじゃないよ!?」

 

「ふーん……ほんとに?」

 

「ほんともほんと! 俺はただ、アオイって可愛い子と一緒に仕事ができるっていう……この、男冥利につきるっ! みたいな!」

 

「…僕には軟派な言葉にしか聞こえないけど?」

 

「だからそういう下心じゃなくって…ただ本心を伝えているだけで!」

 

「……」

 

「あぁ! ほんとそういうやましい気持ち無いんで、そんな目で俺を見ないで!」

 

「……ふふっ」

 

「!?」

 

 俺が焦りでもうよくわからなくなっている中、アオイが唐突に笑い出したのだ。え、なにこれどういうこと?

 

「あははっ! もうっ…そんな顔紅くして必死に言い訳して、ほんとに面白いな君は」

 

「…へ? あれ? 俺もしかして……からかわれた?」

 

「うん。君の反応が面白くて、ついね」

 

「えぇぇぇ…まじかよぉ…」

 

 からかわれてるのに気付かずに、あんな必死に取り繕ってしまった……かっこ悪いな、俺。

がくっと落ち込む俺。そのようも面白いのかさらにアオイに笑われてしまう。

 

「まあまあ。そんなに落ち込まないでよ」

 

「ぐぬぬ、恥ずかしい所を見られてしまった…」

 

「ふふっ。なんとなく、君がどんな人なのか、分かった気がするよ」

 

「あんな風には分かってほしくなかったなぁ」

 

「ごめんごめん」

 

 はぁ、とため息をつく俺。それと対照的に笑うアオイ。なんか若干悔しい構図である。だがなんというか……うん、なんだか心地いい。そんな雰囲気。

 アオイは今日初めて会った相手だ。まぁ正確には昨日なんだけど。まぁだとしてもこんな短時間でここまでこの娘と仲良くなれるとは思ってもみなかった。なんだろう、彼女といるとなんとなく話しやすいというか、妹紅とは違った接しやすさというか。……あー、周りが接しにくかったり、地位が上すぎる人ばかりだったから、その反動で、俺のたいして普通に接してくれるアオイに親近感を沸かせていたのかもしれない。そう考えると、アオイに感謝だな。

 

「……ありがとな、アオイ」

 

「ん? 何か言った?」

 

「いや、独り言だ」

 

「このタイミングで独り言とか、なんか気持ち悪いよ?」

 

「おおう、唐突な貶し言葉だぁ」

 

 …なんにせよ、アオイとの距離は今日という日で大分縮まったはずだ。俺の世話係ということはこれからもアオイとは長い付き合いになるはずである。……仲良くやっていこう。

 

 

 

 刹那。

 

 

 

「!?」

 

俺の体に、なにか悪寒のようなものが走った。俺は体を震わせる。

 その突然の俺の様子に驚いたのか、少し恐る恐るといった感じでアオイが俺の顔を覗き込む。

 

「どっどうしたの、白滝?」

 

「……いや、なんだろう。いきなり…悪寒がして」

 

「大丈夫? 仕事はもう終わったし、そろそろ戻ろうか?」

 

「あぁ…そうだな」

 

 きっと気のせいだろう。そう思った俺は、心配そうに見るアオイの頭をポンポンと叩くように撫でて、歩みを始めようとした。その時

 

(!? まただ…)

 

 またさっきの感覚。でも今のはもっと鋭く感じた。……今のは視線? 何かが俺達を見てる?

 俺は辺りを見渡す。なんとかこの視線の主を探そうとした。だが夕刻の人里だ。人の数が多く、なかなか見つからない。

 この視線に気づいていないのか、アオイは平然とした顔をして俺の袖を引っ張る。

 

「また悪寒?」

 

「あぁ…」

 

 この感覚の正体のつかめない俺は、アオイのその問いに明確な答えを伝えることができなかった。

 なんだ…? もし視線だとするならば、いったい誰が見てるというんだ?

 俺はアオイの頭を撫でるのはやめず、さっきよりも、注意深く辺りを見てみる。しかし、どの人もこちらをちらりと見る人はいるが、俺がこんな感覚になるほどの視線を送っているものはいない。それに今はその視線も止んでいる。

……やはり俺の勘違いだったか?

そう思った瞬間。

 

「!」

 

 また先ほどの感覚。しかも先ほどより強い。視線だとしたら距離が縮まったからか? いやそんなことはいったんいい。この視線……背中から!

 

「こっちか!」

 

 ばっ! と俺は視線の方を振り返る。いきなりのことでビクッとアオイが震えるが、ごめんアオイ。今はちょっと気にしてる余裕がない。

 

 俺の視線が何か別の視線とかち合った。その視線の相手は、ある店の木の柱からこちらを覗くようにしていて――そして

 

「あっ! 待て!」

 

 俺と視線が合ったのがわかったのか、ひゅっと顔を隠してしまった。今の存在がさっきまでの感覚の正体かはわからないが、だがあたってみる価値はある。

 

「アオイっ」

 

「うっうん! なに、かな?」

 

 急に呼ばれてびっくりしたのか、アオイがどこかきょどり気味に俺の言葉に反応する。

 俺はアオイの両肩をもつ。

 

「悪い、用事ができた。ちょっと行ってくるから、ここらへんで待っててくれ」

 

「え?」

 

「待ちきれなかったら帰ってもいいけど…できれば待っててくれると嬉しいかな」

 

「ちょっと、まっ――」

 

「じゃ!」

 

 そう言って俺はアオイを置いて、人里の人ごみの中へ繰り出した。後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえるが……すまないアオイ。今は一刻を争う、気がするんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、いない…」

 

 

 思ったよりも人ごみが多かった人里の道はなかなか進みづらく、先ほどの店の柱に着いた時には、もう先ほどの姿は無くなっていた。

 

「でも、ツイてる。ここから先、道はここしかない!」

 

 その店の柱の先は裏路地のようになっていて、ここから逃げようと思うと、この続く道一つしかない。つまり…

 

「まだ諦める時じゃない!」

 

 俺はこの道を走り出した。夕刻の影響か、辺りは薄暗い。ましてここは裏路地だ。少々見にくいが、行くしかない。

 

 少し走った先、突き当りだった。だが曲がれるのは右方向しかない。俺は思い切り踏ん張り、なるべく速度を落とさずに右に曲がる。すると

 

「よしっ!」

 

 何かが次の突当りを左に曲がる姿が見えた。先ほど俺が発見した存在なのかはわからないが、今はもう追うしかない。

 

「待っとけよぉ! 俺が今捕まえちゃる!」

 

 謎の方言で俺は自身を鼓舞しながら、走る。

 あいつ、思ったよりも早い! さっきから影しか見えない。

 

「くぅぅ! このかばんアオイに預ければよかった!」

 

 最大の誤算。鞄の存在を忘れていた。まぁ中身はもうほとんどないんだけどさ! それでも邪魔なもんは邪魔である。しかし今は走るのみ! 俺は路地裏を疾走した。

 しかし……影から見るに、背丈はそんなに高くない。むしろ小さいくらいだ。アオメと同じくらいかな? しかしそれにしてのこの足の速さ! もしかしたら相手は妖怪かもしれないな。

 

 だが、徐々に、ほんとに徐々にだが距離が縮まっているのを感じる。ふふふっ! この最盛期50m走6秒ぴったりで「お前以外に足早いよな!?」ってことで一時期有名になった俺の力を見せつけてやんよ!

 

 俺の視線の先に突き当りが見えた。影はそこを左に曲がった!

 よっしゃここで決めてやんよぉ!

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 ありったけの力を足に込める。足を前へ前へ出す。

 全力疾走。そして俺は、突き当りを左へ曲がった。

 そして俺は、その影の背中をはっきりと捉える――

 

 と思っていたのだが……

 

「なっ!?」

 

 俺が左に曲がった先に広がったものは、白く高い塀だった。

なんと行き止まりだったのである。

 

「まじかよ…」

 

 がっくりと俺はうなだれた。せっかくあともう少し、という所だったのに……

 久しぶりの全力疾走でガクつく膝を支えるように俺は両手をつき、乱れる息を吐く。

 

 俺の背丈、いやそれよりと高いであろうこの塀の高さ。俺…というか普通の人間では簡単には超えられない。横にある家の柵なんかをつたって上るか、頑張ってよじ登るしかない。

 

「はぁ……さっきのやつ、やっぱ妖怪だったんだな」

 

 あいつがさっきの角を左に曲がったのは確実だ。だがそこにそいつの姿はなかった。つまり、俺が追い付くという数秒でこの塀を超えたということだ。そんなの、妖怪並みの身体能力が無いと無理だ。まぁ、この横の家とかに無理やりお邪魔します、すれば隠れれるんだろうけど。

 

「しっかし、いったい何だったんだろうな」

 

 疑問に残るのは、そいつの目的。俺の事なんかあんなに凝視してどうするつもりだったんだろうか。

 

「はっ! まさか俺に惚れてる誰かとか!? 俺を発見したはいいものの声をかけれず逃げてしまったというわけか……憂いやつよのう」

 

 なんていうありえないことを考えてしまった。うん、まぁそれはありえないね。常識的に考えて。……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「ま、悩んでも仕方ないか。アオイ待たせてるし、戻るとするか」

 

 そう言って最後に呼吸を整えるように、深呼吸した時、ふと足元に何かが落ちていることに気づいた。

 

「ん? なんだこれ?」

 

 みつけたそれは、夕日の光を受けて光っていて、なにか特別なものに感じられた。俺は、それを拾い上げた。

 それは……なんだかとても、見たことがあるようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「にんじんの……ペンダント?」

 

 

 

 




お疲れ様でした。そして見てくださってありがとうございます!

白滝が最後に拾ったペンダント。
もう誰のものなのかは確信的かと思われますが公言はお控えください。

まぁ想像通りのひとですがね(笑)

感想、誤字脱字指摘、その他質問なども受け付けています!

ぐぬぬ…なかなかペースを上げれない。せめて月2回くらいにはしたいなぁ…
がんばります!

ではでは次回でお会いしましょう。ぐっばい!
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