東方一年郷   作:トーレ

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トーレ復活ぅぅぅぅ!! いやっほい! 年内に挙げれてよかったぁ!

ということでトーレでございます!
皆さんご心配をおかけしましたぁ!

詳しくは後書きにてかきますが、活動報告にも書いたように少々の病気を患っておりました。しかも完治したかと思いきや再発なんかしてみたり……人生で初めて病院でクリスマスを過ごしましたよ(泣

ですがもうご安心ください! 完全に治りました!
そして新話でございます! お待たせしました!

あの子との邂逅。そして……?

どうぞ! 過度の期待をせずに観ていってね!



第三十三話 ~再会~

 

「……はぁ」

 

 ため息をつく声が聞こえる。

 誰の、とかでなく。まぎれもない俺自身のため息だ。だがなんだろう、自分が発したこのため息ですら、まるで自分ではない誰かのように聞こえてしまった。俺が俺でない様な、そんな感じ。

 

俺はいまだにこの場所、鈴仙さんが去った後のここから動けずにいた。別に体に何かあったわけじゃない。確かに、突き飛ばされた時に打った頭の痛みはまだ残ってはいるが、それが今の俺に何らかの影響を与えているわけでもない。これは……そう、俺の心が原因なんだ。

 

「あー……駄目だなこりゃ」

 

 自分の心のもろさに少し嫌気がさして、苦笑いを浮かべる。

 ……俺の頭の中にあるのは、今や一つの事柄である。

 

 鈴仙さんのあの顔。それが頭からずっと離れない。もう鈴仙さんが去ってから時間もたっている。……戻ってくるわけはない。だが、そうだとしてもなぜか俺は動けずに、ここ

に座り込んでしまっていた。

 

 「途方に暮れる」。この言葉はまさにこういう時にあるのだろうと思った。

 いやね? 俺、理由はわからないけど鈴仙さんに嫌われてるってのは分かってるのさ。まぁあんな反応されれば誰でも察せられるだろうけどね。

これ自論なんだけどさ。嫌われてるってだけのレベルなら、もしかしたら仲良くなれる、ないしは、会話できるくらいのマシな関係になれる可能性はまだあると思うんだよね。特に今回は、すべての始まりはあの射命丸さんの誤報新聞っていう、「誤解」から始まっているわけだし。その誤解を解けば、今の俺と鈴仙さんの関係よりはマシになると思うんだよ。

 

……でもさ、相手が俺のこと「恐怖」しているなら、どうすればいいの? どうしたらいいの?

 

鈴仙さんが、どんな気持ちで、どんな経緯があって、俺に向けてあんな顔をしたのかはわからない。たとえわかっていたとしても、鈴仙さんが俺に「恐怖」のまなざしを向けたのは事実だ。

俺のことが「嫌い」で、しかも「恐怖心」さえ抱いている。……どうすればいいんだ。どうすれば誤解を解いて仲良くできるんだ…? いや、必要以上に仲良くしようとは思わない。嫌いなものは嫌いだし、それを変えようとすることは難しい。ただせめて、警戒心なしに会話できるぐらいの仲にはなりたいな、と思うんだが……

 

「…わっかんないな…」

 

 今の俺にはまったくと言っていいほどいい方法が思いつかなかった。なんてこったい。なんかもうね……一周まわって、もう鈴仙さんとは一生仲良くなれないような…そんな気がしてきた。うわー、いやだなぁそれ…

 俺はため息を一つついた。

 その時。

 

「!? なっなんだぁ?」

 

 不意に俺の隣の茂みが音を立てて動いた。思考が、周囲の状況に気を配っていなかったため、俺はすっとんきょうな声を上げてしまった。俺は茂みに目を凝らす。

 ……少しの沈黙。まるで茂みとにらめっこしているような気分になる。

 いったい何がいるんだろうか? 妖怪か? 妖精か? はたまた地上兎のだれかか? 俺は目を凝らす力を強くする。

 

 茂みから、ひょこっと、何かが見えた。

 ……茶色のものの両端に、白い何かがくっついている。…頭か? となると、あの両端のは……耳?

 そうなるともう、あそこに隠れているのが何かが分かった。だれかはわからないけど。

 俺は、声をかけてみることにした。

 

「おーい、隠れてないで出てきなよ」

 

「……」

 

 声をかけられたことに驚いたのか、すこしピクリとするが、返事はない。警戒しているのだろうか。というか、本人はあれで隠れているつもりなんだろうか。

 少しでも警戒心を解くため、さらに声をかける。

 

「君、地上の兎だろ? 俺はただの人間だし、そんなに警戒しないで出てきてくれうれしいなー」

 

 そんな軽口を言いながら、俺は茂みを見つめた。

 少しの沈黙が流れる。俺がもう少し声をかけようかどうか悩んでいたところで……

 

「まぁ、ばれてるんじゃあこれ以上隠れても無駄かなぁ」

 

 不意に茂みからそんな声が聞こえた。そして、ガサガサと茂みが動いたかと思うと、さっきから頭しか見えていなかった「それ」が立ち上がった。

 

「まったく。何が、警戒しないで出てきてほしい、だよ。普通の人間だったら絶対そんなこと言わないさね」

 

 そんなことを言いながら、茂みから出てきた彼女。幼い容姿に垂れた兎耳。ピンクの衣装に茶色の短髪。少し予想外だった彼女は、まさしく先ほど逃げたはずの『因幡てゐ』だったのだ。……逃げた…よね、さっき。鈴仙さんのすきをついて逃げたはずの彼女がどうしてここにいるんだ?

 驚きを隠せない俺を見て、てゐが不思議そうに、けれどもどこか不満げにいう。

 

「なにさ、その顔は」

 

「あぁ…いや、その……」

 

「はっきりしないやつさね。出て来いって言ったのはお前だったろ」

 

「あー、うん。そうなんだけどね」

 

 てゐの言うとおりである。出て来いって言われたから出てきたのに、言った本人が驚いた顔してちゃ、出てきたほうは複雑だろう。

 俺は素直に彼女に訳を話す。

 

「君、さっき鈴仙さんから逃げてなかった?」

 

「おおぅ、見られていたのか」

 

「まぁちょっとだけな。それで君はあっちの方に行ってしまったじゃないか? なんでまた戻ってきたんだ?」

 

「そりゃ簡単な話だよ」

 

「簡単?」

 

 俺の疑問にてゐがニヤリとしながら答える。

 

「それに掛かった獲物が、いったいどんな表情で空を見上げているのか見る為さ。ぽかんとしてるのか? 涙目なのか? 怒り狂っているのか? はぁ…想像しただけでゾクゾクするさね」

 

「うわぁ…」

 

 割とガチ目にやばい発言だった。あれだよ、サディスト的なやつだよ。ちょっと恍惚とした表情浮かべてるし……俺の知っている因幡てゐと、この世界の因幡てゐとで『いたずら』にかける思いが全くと言っていいほど違うようだ。

 俺がまた新しい「世界の違い」に気づいていると、いつの間にかてゐがぶすぅっと顔になっているのに気づいた。

 てゐは不満そうに声を上げる。

 

「ま、あんたのせいでその肝心の獲物が掛からなかったんだけどねぇ。どうしてくれるのさ」

 

 理不尽な怒りをぶつけられた。俺はにが笑いを浮かべる。

 

「いやいや。女の子が落とし穴に引っかかりそうになってたら、普通助けてあげるでしょ?」

 

「それがお前を毛嫌いしてるやつでもかい?」

 

「うぐっ」

 

 永遠亭内でさえ神出鬼没な癖にそんなことは知ってるのかこの子は……ってうわ! なんかすげぇニヤニヤこっち見てやがる! 心情が顔に出てたのか……

 なんだかすごく負けた気がするので、俺は反論するようにてゐに言う。

 

「相手が誰であるかなんて、かっ関係あるもんか! 女の子を助ける。それが俺の生きざまってもんだい!」

 

「……ふーん、なるほどね。ま、何でもいいけど」

 

「うおう、自分で話ふっといてその態度かよ…」

 

「あははー、悪いねぇ」

 

 てゐはあっけらかんと笑う。うむむ、なんだかつかみどころのない子だ……何を考えているのかわからないタイプっていうのか。どこかで真意を隠していてそれを決して他人にばらさないタイプだな。

 不意にてゐが笑うのを止め「ま、いいさ」と呟いた。それを聞き逃さなかった俺は反応する。

 

「いいって、何がだよ?」

 

「んー? あんたの言い分は分かったし、鈴仙を捕まえられなかったことは許してやろうかなって思ったのさ」

 

「…そりゃあどうも」

 

 「鈴仙へのいたずらはまた別にやるさ」と言っててゐはニシシと笑う。なんというか、タチ悪いなこの子。

 こりゃいたずらの対象にされたら厄介だ。そんなことを考えててゐの顔を見ると、てゐの視線とブッキングした。何か気まずい感情に襲われ視線を外すと、その様子が面白かったのかてゐがもう一度笑う。そして俺に「そういえば…」と声をかけてきた。

 

「自己紹介がまだだったね。あんた、新しい使用人の白滝っていうやつだろ? 私は因幡てゐ。ま、気軽にてゐって呼んでくれていいさ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えててゐって呼ばせてもらうよ。ってかよく俺のこと知ってたね」

 

「そりゃ曲がりなりにも私も永遠亭のもんだからね。最低限の情報は知っているさ。特にあんたは、新聞の件もあったしね」

 

「うぐっ……」

 

 ここでも後を引くか文々。新聞! くそぅ射命丸さん恨むぞぉ……。

 新聞の話題が出たのなら、当然あの内容も呼んだという事だろう。「俺が紅魔館の女の子を攻略して仕事を得ました」というでっち上げ記事。あれのせいで妹紅に殴られ、鈴仙さんへの第一印象が最悪のものになった。もし鈴仙さんの二の舞になったら、俺の心がブレイクされてしまうやもしれん。

 早期解決のため、俺は誤解を解くことにする。

 

「あっあれはだね……俺はあの記事に書いてあるようなことはしてないぞ! うん! だから、あんまり警戒しないでくれると嬉しいなぁ、とか思ったりしてまして…」

 

「必死だねぇ。ま、心配しなさんな。そんなあんたがナンパな奴なんて思ってないからさ」

 

「…ほんとに?」

 

「うんうん。というかあの新聞は誤報だって言ってたじゃないか。そんなに心配しなくても大丈夫じゃないのか?」

 

「あはは、そうだといいんだけど……」

 

 俺はにが笑いを浮かべる。世の中には、その誤報だったという情報を信じない人や、まずそれを知らないっていう人がいるんですよ。残念なことに。

 

 ふと。俺は自分の目的を忘れていたことに気づいた。そうだったそうだった、俺はこれを渡すためにてゐをずっと探してたんじゃないか。

 俺はてゐに声をかける。

 

「てゐ、ちょっといいか?」

 

「なに?」

 

「実は俺、てゐに用事があってここまで来たんだよ」

 

「用事? まさか愛の告白? 今日初めて会ったのに…白滝は情熱的さね」

 

「んなわけないよ。ってかいきなり告白するほうがナンパな野郎じゃないか! そうじゃなくって、渡したいものがあったんだよ」

 

「渡したいもの?」

 

「うん。……よっと。はい、これ」

 

 そう言って俺は、ポケットに入れていたものをてゐに手渡した。そう、あの人里で拾った『人参のペンダント』である。てゐにこれを返して、そして話を聞くこと。それが俺の目的だった。

 このペンダントを渡されたてゐの顔は、少し驚いたような表情を一瞬見せて、どこか微笑みにも見える表情に変わった。

 てゐがとつぶやく。

 

「あぁこれ……拾ってくれたんだ」

 

「うん。君があの時、人里で俺から逃げた時に落としたペンダント。これを返そうって思ってずっと君を探してたんだ」

 

「……」

 

 てゐは一度俺の顔を見てから、再度視線をペンダントに落とし、少し俯いた。思うところがあるのだろう。なにせあの時、てゐは何か意味ありげに俺のことを、まるで監視するように見ていたんだから。…今のてゐの無言が、あの視線の正体がてゐであることを物語っていた。

 俺は素直にてゐに聞く。

 

「教えてくれ。あの時、君はどうして俺のことを見ていたんだ? あの時君は逃げるようにしていたけど、何か用があったんじゃないのか?」

 

「……」

 

「無理に聞くつもりはないけど、教えてはくれないか?」

 

「……」

 

 俺はてゐの視線の高さに合わせるようにしてしゃがむ。

 てゐは、俺の問いを聞いても無口であったが、少々の間の後、おもむろに俺の渡したペンダントを首にかけた。

 そして、伸びをするように体を動かし、どこか開き直ったような声を上げた。

「もう少し先延ばしにしてもいいと思ったけど、しょうがないさね!」

 

 唐突なそのてゐの行動に驚きを隠せない俺。そんな俺をしり目にてゐは少し笑ったような顔を俺にむけた。

 

「白滝」

 

「? おう」

 

「あんたのその理由を教えるついでに、あんたに耳寄りな情報をあげるわさ」

 

「耳寄りな情報?」

 

 俺は理由という点より、そちらの言葉が気になった。耳より? いったい何に関しての耳よりなのだろうか?

 ?マークを浮かべる俺。だがてゐはその微笑みのような顔のまま、こんなことを言った。

 

「お前さ、姫様に会いたいと思わないかい?」

 

「えっ?」

 

一瞬、てゐが何を言っているのかわからなかった。姫様、つまり輝夜様に会いたいかどうか? ・・・・・・そんなの会いたいに決まっている。昨日の夢のこともある。普通に考えると、今の俺では輝夜様には会えない。だから、どうにかできないか・・・と思っていたところだ。

俺は素直にその気持ちをてゐに伝えようとした。だが、声に出しかけた時、ふと疑問が生まれる。

・・・・・・なぜこの子は、輝夜様について知っている?

いや、これは語弊がある。正確には、なぜ「俺」に対して姫様という言葉を出した?

 

永琳先生の情報統制は徹底的だった。仲良くなった地上兎に片っ端から輝夜様について聞いたが、誰もが「そんなの知らない」といった答えや素振りを見せた。一部すごく怪しい誤魔化し方をしていた子もいたけど。

まぁその子は置いといて、皆が情報を隠していたのは事実。だが今てゐは隠すこともなく姫様という単語を口にした。てゐが情報統制を知らないなんてことはないだろう。

・・・・・・俺の中で警戒心が生まれる。てゐの目的がわからない。俺がそれを探るために、少し演技をすることにした。

 

「えっと・・・姫様って、誰のこと?」

 

「おや? 姫様をご存知ない?」

 

「あぁ、申し訳ないが・・・」

 

俺は考えるそぶりを見せる。無論演技だが、うまく誤魔化せたようで、てゐは少し不思議そうにしながらも「んー、そっかぁ・・・」と呟いた。俺は安堵のため息をこぼす。よしなんとかなるか。うまく行けば、てゐの考えも探りつつ、輝夜様の居場所も分かるかもしれない。

 

だが、次の瞬間、てゐがニヤリと微笑んだ。

少し冷や汗をかく。

 

「意外と頭が切れるんだね、あんた」

 

ニヤニヤとしながらてゐがこちらを見る。その言葉の意味が理解出来ず、俺は演技を続けつつ聞く。

 

「どういうこと? 話が見えてこないんだけど・・・」

 

「はは、演技もなかなかだねぇ。とぼけたふうに見せて、あたしの動向を探ろうって魂胆かな?」

 

「んぬっ・・・」

 

やべ! 変な声でそうになった! 俺は必死に焦りを抑え、平然とした風を装う。

・・・バレてる。完全にバレてるじゃんか! なんだこの子、めちゃ頭の回転早い!

だが、まだてゐがこちらにハッパをかけている可能性もある。このまま、演技を続ける他ない。

俺は苦笑いを浮かべつつ、口を開く。

 

「えっと、さっきから君が何を言いたんだか分からないんだけど」

 

「またまた。とぼけなくてもいいよ。私は知ってるんだから」

 

「・・・知ってるって、なにを?」

 

「そうさね。簡単に言えば、お前と姫様の密会ってところさね」

 

「!?」

 

「んん? 今反応があったね?」

 

「あっ、やべ」

 

・・・とぼけきれなかったよ。ぼろが出てしまった。予想よりもはるかにてゐは俺と輝夜様とのことを知っているようだ。

・・・いやはや面倒なことになった。性格については何も言わないが、落とし穴などの件を見る限り、このてゐもイメージ通りの「いたずら好き」であろう。

もし俺がこのままてゐのいたずらの対象に成ってしまったら・・・・・・最悪、てゐが永琳先生にあの出会いをチクられる可能性が大いにある。そうなると、下手をしたら俺はもう輝夜様に会うことを禁止されてしまうかもしれない。

これは、なんとかしててゐに黙っていてもらわないといけない。効果は薄そうだが、交渉するしかない。

俺は依然こちらを見て笑っているてゐに話しかける。

 

「てゐ、あのな? あれは偶然の出来事であってな?」

 

「うんうん。大丈夫、お前の言いたいことは分かってるよ」

 

てゐは頷き、そう答えてくれた。なんだ、理解がある子じゃないか! 俺は安堵の溜め息をつk

 

「白滝、私に口止めをさせようって魂胆さね?」

 

「ぐぬぬっ!?」

 

・・・・・・つかせてはもらえなかった。

何なんだこの子。俺の心でも読んでるのか? どうにも俺は先回りをされてしまってるようだ。

俺は唸るだけで、何も言えなくなってしまった。

もう後はてゐの気まぐれに身を任せるしかないのか? ・・・・・・女の子に対して、無理やり口止めなんてしたくないし。

なんとかしようと思考を巡らせつつ、次にてゐが一体どんな言葉を俺にかけるかに注意を向ける。いいエサと思われて脅されるやもしれん。

その問題のてゐは、おれのその様子がおかしかったのか、急に笑い出した。

 

「あははは、いやぁ必死さね」

 

「そっそりゃ必死にもなるよ!」

 

「なはは、大丈夫、安心しなよ白滝。私は先生に告口しようなんて考えちゃいないさ」

 

「え?」

 

「なんてったって、私は姫様側の者だからね。姫様が困りそうなことはしないさ」

 

「・・・・・・?」

 

姫様側ってどういうことだ? 永遠亭には派閥があるのか? そんな政治の世界じゃあるまいに。

・・・いや全くわからない。わからないというか理解が追いついていない。

 ……流れに沿って情報を整理しよう。

 

 まず第一にてゐは俺のことを知っていた。使用人としても、紅魔館の元執事としても。

 それに付随して、てゐは永遠亭内の『輝夜様についての情報を白滝に漏らさない』という情報統制についても知っているはずだ。……永琳先生のことだ、その点は抜かりないはず。

 二.てゐは俺と輝夜様の密会を知っていた。どうして知ったのかは定かではない。見ていたのかもしれないし、誰かに聞いたのかも。……誰に?

 三.そして、情報統制を知っているはずのてゐの発言。「私は、姫様側の者だ」そして「姫様に会いたくはないかい?」

 

 こんなところだろうか。姫様側っていうのはどういうことだろう。対立するなら永琳先生側だろうか? そうなると……なんだ、情報統制反対側ってところなのかな? …輝夜様は情報統制反対だったのか? もしそうだとしててゐが輝夜様側の者だとしてもだ、俺を輝夜様に会わせるといった提案の必要性が全く見えてこない。てゐに何のメリットがあるんだ? もし俺が提案に乗って輝夜様に会ったとして、それが永琳先生にばれたら提案者であるてゐも面倒なことになるだろうに。

 あぁーだめだ。煮詰まっちまった。もうこれ以上考えても答えは出てこないだろうて。

 そう考えた俺は、もう直接聞くことにする。

 

「てゐ。君も俺に対する輝夜様の情報の規制は知ってるんだろ?

 

「うん、師匠から聞いてるさね」

 

「それならなおさらだ。君の目的はなんなんだ? 仮に君が輝夜様側の者であったとしても、君が初めに提案してくれたものは……そのなんだ、君の利益が見えてこない。君は俺をどうしたいんだ?」

 

「目的? はぁ、あんたはとことん疑り深い人間さね。姫様に会いたくはないのか?」

 

「……そりゃ会いたいさ」

 

 でも、とつぶやいて俺はそこで言葉を切る。俺が思い出すのは、輝夜様に言っていた永琳先生の言葉。

 

『あなたに穢れの多い地上の人間を引き合わせたら、どんな影響が出るかわからないもの』

 

 俺の一番の不安はそれだった。もしてゐの言っていることが本当で、輝夜様に会えたとする。でもそれが影響で、輝夜様が体調を崩したり何か異変が生じたりしたら……そんなことはしたくない。輝夜様はそのことを「考えすぎ」と言っていたが、こればっかりは俺には分からない。永琳先生、前例もあるっていってたしな。

 だから俺は……「だめもとでも、てゐに騙されていたとしても、輝夜様に会えるチャンスならばついていきたい」という気持ちと、「輝夜様にもしも何かあったらどうしよう」という気持ちの板挟みになっているのだ。

 自分の欲と理性とで戦っている俺の様子を見てかどうかわからないが、てゐがやれやれといった様子でため息をついた。

 

「目的ね。目的ならあるさね」

 

「……え?」

 

「まぁ、目的っていうより、頼まれたっていうのが正解なんだけどさ」

 

「頼まれた? どういうことだ?」

 

「その言葉通りさ。頼まれたんだよ姫様に。白滝って男ともう一度会いたいって、会って話がしたいって」

 

「そう、なのか? 本当に?」

 

「本当さ。私は人間には嘘をつかないさね」

 

 てゐが少し胸を張るようにしてそういった。その様子は何ともかわいらしいが、今はそんなこと考えている余裕はない。

 姫様に頼まれた。その話が本当ならば、確かに話のつじつまは合う。てゐが姫様側っていうのもわかるし、俺に会いたくはないかって聞いてきた理由もわかる。……だが。

 

「理由は分かった。でもさっきも言った君の利益がわからない。もしこのことがばれたら永琳先生に怒られちまうかもしれないんだぞ?」

 

「あー、それはあるかもさね。でもね、これは損得の問題じゃないのさ。姫様に頼まれたから、それをやる。ただそれだけのこと」

 

俺はその言葉になにか使命めいた意志があるように感じた。・・・なるほど、確かにその考えならば利害なぞ関係はないか。

不意にそれに、とてゐが呟いた。落としていた視線をもう一度てゐに向ける。

てゐは今まで見せたことのない・・・・・・そうだな、意地悪な笑顔をではない、微笑みに近い笑顔を浮かべていた。

 

「このペンダントのお礼の気持ちもあるのさ」

 

「お礼、か」

 

「そう、お礼。・・・・・・白滝、私にはどんな能力があるか知ってる?」

 

「・・・・・・うんや、知らない」

 

「ま、当たり前だわさね。初対面なんだし」

 

てゐはカラカラと笑った。そして、俺の顔をじっと見つめてくる。

 

「私の能力は、人間を幸せにする程度の能力さ。あんたを幸せにしたい。ペンダントを渡された時、ビビッときたのさ」

 

てゐがさっきまでのニヤニヤしたものとは違う優しい目を俺に向けた。

・・・・・・なんだか、今まで疑っていたことが恥ずかしい気がしてきた。いや、相手はてゐだしあの疑りは仕方が無いと思うんだけど・・・それでも、ここまでストレートに言われるとね。

 

俺は息を吐く。

・・・もう、疑うのはやめよう。さぁ、後は俺次第だ。どうしたい、俺?

 

俺は、輝夜様に会いたい。純粋に会いたい気持ち。そしてそれ以上に「あの夢の異変の話」について聞きたい気持ちが大きい。

前にも言ったが、まだ人里への影響がないように見える。ということは霊夢や魔理沙もまだ気づいていない可能性が高い。・・・・・・別に俺が異変を解決しようなんて考えちゃいないさ。というかそんなことは無理に等しいだろう。俺は所詮人間だからな。・・・・・・紅魔館では異変を解決させるどころか加担してた側だしね。

だから、早いところ異変の専門家達に異変の兆候を知らせねばならんと思うわけだ。まぁまだ確定してるわけじゃないんだけど。もし異変が起こるなら早急な行動が必要だ。

・・・・・・永琳先生には申し訳ないがこのまま働いていてもなかなか早くには輝夜様に会える許可は降りないだろう。問題は俺の穢れなわけだからな。

穢れ・・・・・・心配だ。だが、そればかりを考えていても仕方が無い。穢れ俺の目に見えないし! それならまず行動だよ! もし輝夜様に拒否されたら帰るだけだし!

それを考えるならば・・・・・・ほんとにこのてゐの提案は、チャンスなんだ。

 

うん。俺の心はもう決まっているようだ。

俺は決意の気持ちをもっててゐを見る。

 

「・・・俺はどうしても輝夜様に会いたいみたいだ」

 

「そっか。ならどうするの?」

 

「・・・てゐ。俺を輝夜様に会わせてくれ」

 

「・・・・・・ふふ、わかったさね!」

 

そう言っててゐが俺を先導するように歩き出した。俺は自分の思いを再確認しつつ、その背中についていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、いつまでこうしてればいいんだ?」

 

「もうちょっともうちょっと」

 

「いや…竹林ってか雑木林で目隠しとか、めっちゃこけそうになるんだけど……」

 

「実際何回かこけてたもんね」

 

「気づいてるならもうちょい何とかならないかな!?」

 

「つべこべうるさいやつさね。一応手は握ってやってるじゃんか」

 

「せやかて、てゐ!」

 

「はいはい、もうちょっと辛抱さね」

 

「ぐぬぅ、スルーされた……」

 

 まったくこちらを気遣う様子もなくどんどんと進むてゐに手を引かれながら、俺はため息をついた。

 

 あの話のあと、てゐはおもむろに俺に目隠しをつけられた。てゐが言うには、輝夜様のところには案内するには、条件があるらしいんだわ。

 

 一つ目が、輝夜様のいる場所を知ろうとしないこと。たとえばこの目隠しを外さないこと。もしもこれからも輝夜様に会いに行きたいというのなら、行きも帰りもこの目隠しをつけること。

二つ目、行きも帰りもてゐの付添が必要なこと。まぁ、目隠ししてるなら当たり前のことだな。

三つ目、他言無用。……せやな! って感じがすごい。自分で自分の首を絞めに行くようなことことはしないよ!

 

この三つが条件である。まぁどれもこれも永遠亭……というか永琳先生の情報統制を知っていれば納得の内容だ。俺は、輝夜様に会えるだけで十分。それを逆に感謝しなければいけないくらいだ。

 

「ささ、ついたよ」

 

「おお、とうとう来たか」

 

 てゐがふと足を止めた。急に止まるもんだからこけそうになるが何とか踏みとどまる。

 ……改めて気にしてみると、なんだか空気が変わった気がする。どこか洗礼されたような、そんな感じ。さすが輝夜様の住むところといったところか?

 なんだか今更緊張してきた。念願の輝夜様との再会。いやまぁ一週間くらいしか時間立ってないんだけどさ。

 しかし……もう着いたというのならば。

 

「なぁ、てゐ。もう目隠し外してもいいか?」

 

「あー、うん。そうさねぇ」

 

 どこか気の抜けた返事をてゐが返す。

 俺は外しやすいようにしゃがみ、てゐは俺に近づいてくることがわかる。しかし俺の目隠しをとろうとするてゐの手が不意に止まった。

 

「どうした?」

 

「・・・・・・本当に、これをとってもいいんだね?」

 

てゐが呟いた。その言葉の意味がわからず、俺はその問いかけに答えることは出来なかった。

それを察したのか、てゐが続ける。

 

「これを取ってしまったら、もう後戻りは出来ないさね。この場所を見てしまうわけだからね。でも今戻れは、きっと、師匠たちに疑われることもないし、怒られることもないさね・・・・・・それでも、この目隠しを取るかい?」

 

・・・・・・なんだ。俺に選択肢をもう一度くれたって訳か。優しいヤツめ。頭を撫でたい。

確かに今永遠亭に帰れば、無問題で終わる。強いて言うなら、アオイに「遅くまで何やってたのかな?(おこ」みたいになるだけだ。それくらいならいくらでも誤魔化しが効くからな。・・・・・・安定した永遠亭での生活を望めばその選択肢がベストだ。

だが・・・しかしだ!

てゐの止まった手を押しのけて、俺は目隠しを勢いよく取った。そして、驚いたような顔をしていたてゐに目隠しの布を手渡した。

 

「覚悟はもう決まってる。それを曲げる気なんて更々ないさ」

 

「・・・わかった。もう止めないさね」

 

てゐは布を受け取り、どこか諦めたようにため息をつく。

 

「まったく意外と肝の座った男さね。認識を改めるよ」

 

「ありがとう。・・・俺にはすぐにやらなきゃいけないことがあるんだ。こんなところでうじうじしてられないんだよ」

 

「なるほど。じゃ、ここからはあんたの足で進むのさ。私はここであんたの帰りを待ってるよ」

 

「おう、わかった。帰り道もよろしくたのむな」

 

「任せるさね」

 

そう言っててゐは俺の背中を叩いた。・・・いけ、ということなのだろう。俺は目の前にある、小さくけして豪華ではないが、強い存在感を放つ門へ歩いていく。もう一度輝夜様に会える。だが、今回はただ話をしに行くのではない。きっとこの先、俺の見た夢のようになるはずだ。ならば、その詳細を、異変のことを知らなければならない。

・・・・・・心臓が高なっている。緊張か、嬉しさか。

拳を少し強く握り、俺は門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 白滝の背中を見送った後、因幡てゐはため息をついた。

 

「あーあ、面倒なことになったさね」

 

 てゐは少しの後悔を覚えていた。予想できるが、白滝を輝夜の元へ誘導したことである。

 

「姫様に頼まれたこととはいえ、バレたら師匠のお叱りは免れないさね……」

 

 レアキャラとはいえ、てゐも永遠亭の一員。永琳がいろいろやっていることは知っている。また、その理由も。

 だが、永遠亭の主たる輝夜に直々に頼まれたことだ。てゐは断ることができなかった。

 

「ま、もしバレたらあいつが勝手に行ったってことにするか」

 

 てゐが輝夜にそう依頼されたことを永琳は知らないはずだ。だからとぼければきっと疑われないだろう。そう思う。

 

「それに、ね」

 

 てゐは、首からかけられているペンダントを手に取る。無くしたと思ったペンダント。人里に探しに行ってもなかったこれは、よもや白滝に拾われていたなんて。しかも、これを渡したいがために永遠亭中、私を探し回るとか。変に律儀な奴。

 

「……ま、悪い気はしないさね。」

 

 だが……

 

「あの男、単純に見えて、何考えてるか分からないから不安だけど……この件に関してはこのペンダントに誓って目をつむってやるさ」

 

 そう言っててゐは小さく笑った。

 しかし、気になる。自分の生活を危ないものに陥れてさえ、あの男を突き動かすものは何なのか。それが分からない。しかしあいつは、自分を嫌っているであろう相手……鈴仙をてゐの落とし穴から二度も救っている。自分の身を顧みずだ。

 

「そこんところ、少し気になるさね」

 

 てゐは笑う。

 その笑いは初めて白滝の姿を見た時のような。新しいおもちゃを見つけたような、どこか含みのある笑いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって永遠亭のとある部屋。

 対になるように机が置かれてあり、その上に料理が並んでいる。その片方に座るのはアオイだった。

 

「まったく、一体どこにいっちゃったんだろ」

 

 思い描くのはあの男の事。いつもは「待ってました!」と言わんばかりにアオイの前に笑顔で座る、その姿が今はなかった。

 

「もー、帰ってきたら叱らなくちゃ」

 

 アオイは怒りを覚えながら、けれどなぜか少しの寂しさを感じていた。

 

「……白滝、まだかなぁ…」

 

 アオイはぽつりと呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

目の前には永遠亭に似た古き良き日本庭園が広がる。その奥に屋敷が見える、そんな感じのところだった。……永遠亭と比べると小さいが、立派なところである。

 

「ここに、輝夜様がいるのか」

 

 ……いやね、正直輝夜様は永遠亭に普通に住んでるかと思っていた。あの夜あったのも永遠亭だったし。前一人で永遠亭探検した時全然見つからなかったし。なるほど別のところにいたわけだ。そりゃここから永遠亭まで来てたら永琳先生怒るよ、無理ないよ輝夜様。

 そんなことを考えていたら門を入って正面のふすまの前まで来ていた。玄関は別にあったんだけど、なんとなくここに引き寄せられた。なぜかは分からないけど、ここに導かれたような気がする。

 俺は靴を脱ぎ、縁側に乗る。ふと空を見ると、うん、素晴らしく綺麗な満月が見える。ちょうど正面に満月。なんだかここが特別な場所のように感じられた。だからこそ俺はここに導かれたのかもな。

 

「そこに立っているのは、誰?」

 

 不意に声をかけられ俺は体をピクリとさせる。あたりを見渡すが人影はない。つまり声は後ろのふすまの中から聞こえた。つまり……まぁそんなこと考えなくても俺には分かる。この透き通った綺麗な声は、まちがいなく。

 

「輝夜様」

 

 俺はふすまの方に体を向け、そう声をかけた。

 なんというか……不思議な気持ちだ。会えないと思っていた人と、こんなに早く会うことが、声を交わし合うことができるとは。

 少し驚いたことに、声を覚えていたのは、彼女も同じだったようで。

 

「男の人…? その声……まさか」

 

 そんな声がまた聞こえたかと思うと、こちらに歩み寄る足音が聞こえた。

 ちょっ、ちょっとまてよ。輝夜様の行動の移りが思ったよりも早い。まだ心の準備ができてないよ! しかも、ここまで来ておいて今更ながら、いざ輝夜様に会うとなると、果たして本当に俺が会っていいものなのかとか考え始めてしまった。俺のバカ! 覚悟を決めただろう!?

 自分を叱咤激励したいが如何せん時間が無い。俺はあくまで使用人。最低輝夜様に失礼が無いようにしなくては!

 そこまで考えた瞬間、ふすまが音を立てた。もう目の前。俺は咄嗟に行動をとる!

 

「しーらたき! 会いに来てくれたの!?」

 

 ふすまが開くと同時に、輝夜様のあの元気で茶目っ気のある声が聞こえてきた。

 対する俺は。

 

「……」

 

「あれ? 白滝どこ?」

 

「……」

 

「……どうして土下座してるの、白滝?」

 

「あぁー、いや、これはですねぇ…」

 

 輝夜様に突っ込まれ、言いよどむ俺。いやね、なんか無意識のうちに土下座をしていたよ。まぁ、敬意を払うって意味では間違っていないからいいんだけどね。でも無意識に土下座とか……もう人間としては相当ダメな奴な気がする。まぁいいやそれを気にすると悲しくなってくるから気にしないでおこう。

 このまま言いよどんでいても仕方がない。俺は理由を説明しようと顔を上げた。うーん、さすが輝夜様可愛いって今はそんなことどうでもよくて。

 

「えっとですね、これは敬意を払おうとして…ですね」

 

「敬意? 私に対して?」

 

「はっ、はい」

 

 恥ずかしくなりながら俺は頷いた。すると輝夜様が口に袖を当てながらくすくすと笑う。

 

「やっぱりあなたっておかしな人ね。そんなにいちいち土下座までしてしなくてもいいのに」

 

「ははは……俺もこれは大げさすぎたというか。もっと適切なものがあるとは思ったんですが…」

 

 咄嗟にやってしまったのがこれ。とは恥ずかしくて言えなかった。くすくすと笑う輝夜様に俺はにが笑いを浮かべる。

 笑いが収まったのか、輝夜様は袖を離す。だが依然ニコニコとはしている。やはりこの輝夜様は「可愛さ」が表に出ているな……そんなことを思う。

 

「あー、おかしかった。でもまさか、本当に白滝が会いに来てくれるなんて、驚いたわ」

 

「俺もですよ。まさかこんなに早く会えるとは」

 

「ふふ、そうね。後でてゐにお礼を言っておかなきゃ」

 

「……やっぱり輝夜様だったんですか、てゐに指示を出したのって」

 

「指示だなんて、そんな偉そうなことしてないわ。てゐに白滝のことお話しただけよー。会いたいなぁって」

 

「…そうですか」

 

 ニコニコとする輝夜様。あぁなるほど、天然かなこの輝夜様は。自分が使える主にそんなことを言われたら、ほぼそれは指示とか命令と変わらないのに。もしかしてあの「かぐや姫」の話も、こんな感じのノリだったのだろうか輝夜様。そう考えるとちょっと怖い。

 しかしてゐは本当のことを言ってたんだな。あそこまで疑っていたことに今更罪悪感が芽生える。後でもう一度お礼を言っておこう。

 しかしやっと会えた輝夜様は、当然だがやっぱり綺麗で、可愛かった。うーん、もう一度再開できたことに感謝感激雨霰!

 ……だが、再会できたのは嬉しいんだが、前々から思っていた不安もある。俺は+その不安に早めに決着をつけようと考えた。

 俺は座ったまま。輝夜様に声をかける。

 

「あの、輝夜様」

 

「うん? どうしたの」

 

「えっと……その、ここまで俺の意志で来ておいて何なんですが」

 

「うん」

 

「俺、輝夜様にちかづいても、いいですか?」

 

 一番の不安。『穢れ』のことだ。永琳先生の言っていた、俺の穢れによる月人の輝夜様への影響だ。一体、輝夜様達にとって穢れというものがどれほどまでの影響力を持つのか俺には分からないが、もしやばいほどの影響を出すなんて考えたら、恐ろしくて夜も眠れない。

 もしこのことを本人に直接聞いて、もし渋い顔でもされたら、きっと俺は帰った方が良いと、そう思っている。あそこまで異変解決に乗り気でいたくせに、俺はここまで来て、輝夜様にそれこそ異変が生じるのが嫌になったのだ。いや、違うな。嫌、というより怖いが正解か。輝夜様に迷惑がかかるようなことはしたくない。

 そんな思いから俺は輝夜様に問いかけた。だが輝夜様は俺の問いを聞いた途端

 

「えっ?」

 

と言った。何故か顔を真っ赤にして、俺から顔をそむけるように少し俯いる。

…どゆこと? 俺変な事聞いた? 困惑する俺。

輝夜様はそのままぽつりとつぶやいた。

 

「そっ、そんな。私たちまだ二回しか会ってないのに……白滝って意外と積極的なのね」

 

「……はい?」

 

 正直輝夜様が何を言っているか俺にはさっぱりだった。積極的? なんのこと? 俺がここまできたこと?

 俺がきょとんとしているのに気づいたのか、輝夜様が顔を赤くしたまま、おどおどとした様子でこちらに顔を向ける。いや、その様子はびっくりするくらい可愛いんだけど、どゆことなの。

 

「ねぇ……白滝」

 

「はい?」

 

「それって……告白なのかしら?」

 

 思考停止。

 少しののち俺は輝夜様が言った言葉をやっとの思いで理解した。

 なっ何を言っているんだこの人は!?

 

「いやいやいや! 輝夜様、そういうことじゃないですよ!?」

 

「でも、私に近づきたいって」

 

「ちょっとニュアンスに差が! いや近づきたいのはそうなんですけど、そう言う意味じゃなくて。俺の穢れがどうこうって意味ですよ! ほら、永琳先生が心配してたじゃないですか!」

 

「…あっ! そういうことね! あらぁ私ったら……勘違いしちゃった」

 

 輝夜様は「えへへ」と恥ずかしそうに笑う。よかった、誤解が解けてほんとよかった。

 さすがの俺もそんなあって間もないの女の子を口説こうなんて考えないよ。どんなナンパ野郎だってんだ! まったく失礼しちゃうなぁ。

 しかし…確かに分かりにくかったとはいえ、俺のあんな言葉だけで顔を真っ赤にしてまで勘違いしてしまうとは……この人本当にあの「かぐや姫伝説」の輝夜様なのだろうか? だってあの輝夜様は、言い寄る男のことをちぎっては投げちぎっては投げしてたんでしょ? こんなウブな反応をされてしまうと、どうにもイメージがぶれる。

 不意に輝夜様がこほんとわざとらしい咳をした。どうやら話を本筋に戻したいようだ。顔はまだ赤いが。

 俺は少し笑顔になりながら、輝夜様にどうぞと促す、輝夜様は小さく頷ita.

 

「んと、それじゃあ白滝の質問に答えるわね」

 

「はい」

 

「穢れのある白滝が私に近づいていい……のか……あれ?」

 

「どうしました?」

 

「……私って、そんなに詳しく穢れについてはなしたかしら?」

 

「……」

 

「白滝、あなた……何か知ってるの?」

 

「……」

 

 輝夜様から、疑問のこもった目が向けられる。俺は冷や汗をかいた。

 ……完全にミスった。しまった、俺が輝夜様や永琳先生が「月の民」だってこと知ってるのって、輝夜様はしらないよな。そりゃそうだ、俺が外来人なんだってことは永琳先生も輝夜様もしらないはずだもの。俺は両名にとって「永遠亭の裏事情を知らない使用人」のはず。それなのに、月の民しか気にしないような「地上の穢れ」に理解を示しているような言動をとってしまった。

 やっちまった。輝夜様に会いたいと思う気持ちが先行して、そこんところの事一切言い訳考えてなかった。あー、あんまり俺自分の事外来人なんだーって言いたくなかったんだけど……これ言うしかないかなぁ。ミスったなぁ。

 

「えっとですね……これにはわけが…」

 

 俺が迷いつつも事情を話そうとしたとき、俺の言葉に輝夜様のはっとしたような言葉が重なる。

 

「あ、でもそうよね。異変の経験者で、あの巫女と交流があるんだったら、話くらいは聞いてるか」

 

「え、あっ…え?」

 

 俺は輝夜様の方を見る。何故か輝夜様は合点がいったような、納得の顔をしていた。

 

「あなた、穢れとか、そう言う話。博麗の巫女からきいたんでしょ?」

 

 ……なにやら、勘違いがまた発生しているようだ。霊夢の名前が出ているが、如何せんよくわからん。だがこれは俺にとっては好機、だろう。

 俺はなるべく疑われないように、話を合わせることにした。

 

「あ、はい。そうなんです。実は霊夢から事情は聴いてて」

 

「やっぱり。じゃあ私の素性のことも?」

 

「はい。……月の姫様。なんですよね、輝夜様」

 

 少しおずおずと俺は言う。デリケートなところかと思ったからな。

 だが輝夜様はさほど気にも留めないような様子で、うんうんと頷いた。

 

「えぇそうよ。なんだ、知ってたのね白滝。それならもっと早く言ってくれればよかったのに」

 

「ははは、すみません」

 

「でもそっちの方が話が早くて助かるわ。いちいち説明しようと思ったら、大変だもの」

 

「そうですよねぇ…」

 

 ……何とかうまくいったようだ。なんという危機回避能力! いやまぁ別に本当の事話してもいいんだけどさ。変な目で見られるようになっても面倒だしね。

 輝夜様はもう一度うん、と頷くと、説明を始めた。

 

「じゃあ、話を戻すわね。確かに月の民にとって穢れというものはとても大きなものよ。まぁ言葉通り『穢れ』であり『汚れ』なのだから、それはそうよね。永琳が言っていたように影響力があるものであり、私たちが地上と呼ぶそのすべての場所にあるもの。だから地上の人と接触しても、穢れが私につくのは事実」

 

「えっと……じゃあやっぱり、俺は…」

 

「でも、地上その物に降り立った時と比べると微々たるものなの。そんなの気にしてたらキリがないわ」

 

「……そんなもんなんですか」

 

「そういうものなの」

 

 ふふっ、と笑う輝夜様。それに対して俺は小さくため息をつく。意外と豪快な理由だった。いやまぁ……理に適っていると言えば適ってるのかもしれないけど、ね。確かに地上の人間に会う事さえ警戒してしまったら輝夜様この場所から出られなくなっちゃうもんね。だとしても、なんというか「それを言っちゃおしめぇよ」状態な気がする。

 そんなことを考えていると、今度は輝夜様がなぜかため息をついた。俺は疑問を口にする。

 

「どうしたんです?」

 

「ううん、ほんと永琳は心配性だなぁと思って。それにね、やりすぎだと思わない? いくら白滝が地上の民で男の子だからって、私の事一切教えないってのはひどい気がするわ」

 

「ははは、まぁそう思ったことはありましたけど。何か思うところがあったんですよ、永琳先生にも」

 

「そうねぇ…」

 

 輝夜様の言う事も分かるが、永琳先生の気持ちも分かる。難しい所だな。

 ぽつりと、輝夜様が呟く声が聞こえた。

 

「まぁ……永琳がここまでする理由も分かるんだけどね」

 

「理由ですか?」

 

「うん。えっと……ここだけの話なんだけど、穢れのせいでちょっと影響が出ちゃってね」

 

「……輝夜様に、ですか?」

 

「うん」

 

 そう言って、複雑そうに頷いた。やっぱり、永琳先生の言うように影響はあるものなんだな。輝夜様はああいってたけど……。俺の中で少しの迷いが生まれる。しかし影響か……

 

「輝夜様にでたその、影響ってのはなんだったんですか?」

 

 俺の質問に、輝夜様は少し悩んだようにすると、苦笑いを浮かべた。

 

「ごめんなさい。ちょっと口では説明が難しいわ」

 

「……そんなに複雑なものなので?」

 

「んー、複雑っていうわけじゃなんだけど……どうやって伝えたらいいか分からないというか、見てもらった方が早いというか」

 

「? 見れるものなんですか?」

 

 輝夜様は、にこりと笑った。

 

「うん。きっとそっちの方が良いわ。それに、今日は満月だから必ず『会える』し」

 

「『会える』? ええと、それってどういう――」

 

 そこまで言って俺は言葉を止める。いや、止めてしまったが正解か。

 輝夜様は、月を見ていた。輝夜様の言う通り、今日は非常に綺麗な満月だ。だがそれよりも、月明かりに照らされる輝夜様の横顔があまりに神秘的で、魅力的すぎて見惚れてしまったのだ。

 ……穢れ。影響。満月。そして輝夜様は『会える』といった。会えるって会うって意味だよな? どういうことなのだろうか。まさか月から使者が来るとか? いやしかし異変が終わったあとだから、その可能性は……いや、無きにしも非ずなのか? ぐぬぬ、わからん。これはもう、輝夜様に直接聞くのが妥当だな……ん?

 不意に俺は袖がひっぱられているのに気が付いた。引っ張っているのは当たり前だが輝夜様。

 

「ね、白滝」

 

「はっはい」

 

「立ち話もなんだし。部屋に入らない?」

 

「あ、そうですね。すみません、寒いのに気づかなくて」

 

 気にしてみれば肌寒いことに気づく。それなのに縁側で夜話すとは……輝夜様に会えてうれしくて夜風の冷たさを忘れていた。輝夜様には申し訳ないことをしたな。

 

「じゃあ、この続きは部屋の中で。ということでいいですか?」

 

「うんっ」

 

 えへへ、と笑って輝夜様は部屋に入る。俺も部屋にお邪魔し、満月を惜しみながらふすまを閉じた。

 

 

 

 

 

 輝夜様の部屋。月明かりとろうそくだけで、夜だというのに、不思議な明るさがあった。なんだろう、心休まる暖かな感じか。

 部屋の中心には座布団が一つと、ひじ掛けが置いてあり、時代劇とかでよく見る偉い人がくつろぐ空間がそこにはあった。輝夜様はそこに座る。何とも優美で堂に入っていて、やはり姫様なんだと再確認する。ちゃんと月明かりが見える方向だし、なんというか趣深い。

 しかし……これどこに座ればいいのかな? 隣に座るのは論外だとして、正面かな? でもそれもなんか忍びない気が。

 

「さ、白滝も座って。遠慮しなくていいから」

 

「あ、ありがとうございます。それでは……」

 

 ポンポンと輝夜様が自分の正面を叩いたので、お言葉通り遠慮なく座ることにする。あんまり近すぎると失礼だし、ダメだと思ったので少し間をあけて正座で座った。

 

「……ぶー」

 

「なっ、なんですか? 輝夜様」

 

 何故か輝夜様は頬を膨らませて俺を睨んできた。……可愛い。びっくりするくらい可愛い。端正な顔立ちとのギャップが素晴らしい。素晴らしいんだが……いったい何が不満だというんだ?

 困ったことが顔に出てしまい、それを輝夜様がみたのか、不満そうなまま口を開く。

 

「……とおい」

 

「え?」

 

「遠い! 遠いの! 二人だけで話すのに、そんなに距離取らなくてもいいじゃない!」

 

「えぇー……」

 

 何言ってんだこの姫様。別にそんなに離れてないと思うんだが……むしろ一介の使用人が姫に対してこの距離って、時代が時代なら「無礼者っ!」って斬られそうな距離なんだが。

 俺はそれを必死で説明する。

 

「輝夜様、俺は誰です?」

 

「白滝」

 

「いや、そうですけどそうじゃなくて。俺の階級ってか位はどれくらいですか」

 

「永遠亭の、使用人?」

 

「そうです。対して、輝夜様は?」

 

「永遠亭の主?」

 

「そうです。それにお姫様でもあります。そんなお方にこれ以上近づくことは……」

 

「むー、さっきあそこではここより近かったじゃない」

 

 そう言って輝夜様は縁側をさす。いや、それはそうなんだけどね。

 

「あそこは場所が狭かったですから……」

 

「もー、今は二人きりなんだからそんなの気にしなくていいのに」

 

「そう言うわけにはいきませんよ」

 

 勘違いしてほしくないのは、俺は輝夜様に近づきたくないわけじゃないってことだ。ってかそんなことありえないだろ! もし穢れとか位の違いとかそう言う問題なんにもなかったら、もう俺は輝夜様の頭を100回程度撫でている自信がある。

だがしかし! 礼節大切! いやなに、紅魔館時代あんまり礼儀がなってなくていろいろレミリア様に怒られた時があったからね。次こそは、と活きこんでいるわけで。そのおかげで慧音先生には褒められたしね! ひゃふう!

 それに穢れのこともあるし。気を付けることに越したことはない。

 しかし、そんな俺の事情を知るわけもない輝夜様はふてくされるのを治してはくれなかった。むぅ、その姿は可愛いんだが、何とかせねばな。

 何とか解決先を考えている中、輝夜様が「もぅ、仕方ないわね」と言う。そして俺をビシッと指さすと、少し得意げな顔でこういった。

 

「主命令よ、白滝。もっと近づきなさい」

 

「なん……だと……?」

 

 命令。命令か……いやー命令なら仕方がない! 仕方がないなぁうん。観念して近づくことにしようようかなぁ。

 命令という大義名分を得た俺は、少しずつ距離を縮める。しかし、いくら俺自身輝夜様に近づきたい&大義名分があるからと言って、無遠慮というわけにはいかない。俺は初期の半分くらいまでにして身を止めた。

 

「これくらいですか?」

 

 ……半分だけだが、いやはや割と近く感じるな。少しドキドキしてきた。これならきっと輝夜様も満足する――と思っていたんだが。

 

「……もっと」

 

「ええっ!」

 

 輝夜様は『満足できねぇぜ!』状態だった。鬼柳さんはお帰りください。

 仕方がないので、俺は小さくため息をついてから、もう少し距離を詰める。

 

「こう、ですか?」

 

「もっと」

 

「…これで、どうです?」

 

「もっと!」

 

「ふぇぇ……」

 

 まだなんですか? ってかこれ以上近づいたら……

 

「あのー、輝夜様?」

 

「なーに?」

 

「もうこれ、膝と膝が引っ付きそうなんですが」

 

「これぐらいがいいんじゃない」

 

 そう言って輝夜様は屈託なく笑う。近さとその笑顔が相まって俺をドキドキさせる。

 個人的は喜ばしい距離だが……

 

「いいんですか? 穢れとか」

 

「いいのいいの。今日は満月だもの」

 

「はぁ、そうですか…」

 

 満月ってスゲー。なんだろ、穢れをはらう力があるのかな? まぁ確かに今日の月は一段と綺麗だからそういう力があってもおかしくはないかもだが。

 しかし、なんで輝夜様はこんなにニコニコとして嬉しそうなんだろうか。俺と同じように会えてうれしいとかって思ってくれているのかな? そうだとさらに嬉しいんだけど。

 ドキドキしている俺に、輝夜様はいつもの可愛いニコニコとした表情で俺に話す。

 

「それじゃあ、どんなお話しようかなぁ」

 

「……」

 

「ん? どうしたの白滝?」

 

 輝夜様の言った言葉。それを聞いた瞬間、俺はなぜか賛同の言葉を輝夜様にかけれずにいた。俺の心は迷っていたのだ。

 俺がここに来た目的。確かに俺は輝夜様に会いに来た。輝夜様とたわいもないおしゃべりはしたいと思う。だが俺は……ここに『異変』について聞くために来たのだ。しかし、ここで急に「異変の話を!」と輝夜様に言っても駄目な気がする。輝夜様は俺の夢の能力を知らないわけだし。

 ぐぬぬ、どうしたものか。仕方がない。それとなく誘導して聞いてみるか。そう思って輝夜様の顔を見る

 

「?」

 

 ……なんの屈託のない表情で、少しの罪悪感を俺は覚える。だがここで引くわけにはいかない。おしゃべりもいいが、まずは異変を優先したいんだ。

 俺は話し掛ける。

 

「輝夜様」

 

「なに?」

 

「話が戻るようで申し訳なんですが、てゐに俺を連れてきてほしいって頼んだのは輝夜様ですよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「理由は、なんですか?」

 

「理由?」

 

「はい。俺はまさか輝夜様から招待を受けるなんて思ってませんでした。わざわざ永琳先生に怒られる危険まで犯して、です。だから、何か理由があるのかなぁって」

 

「……」

 

 我ながらへたくそな誘導。そんなおれの言葉を聞いて輝夜様は少し思案をするような表情を浮かべた。

 少しの間の後、輝夜様は少し照れたような顔をこちらに向けた。

 

 

「白滝に会って、おしゃべりしたかったの。理由はそれだけじゃダメ?」

 

 

「…っ」

 

 俺は生唾を飲み込む。その照れた顔! 少し恥ずかしそうに朱に染まる頬! そして口調! かっ可愛いぃぃぃぃ! 

 ……は!? あっあぶねぇ。今危うく手を伸ばしかけた。手を伸ばして輝夜様の頭を撫でかけた。やべぇ、まじ輝夜様破壊力やべぇ。

 しかし白滝よ! ここで引いてはいけない! 俺がただ単に輝夜様を訪れる理由はそれで十分なんだけど、今回はここで引きさがってはいけないんだ!

 

「ダメじゃないです。ダメじゃないですけど……もっと何か深い理由がある気がして」

 

 そう言って、俺は輝夜様を見る。輝夜様はどこか困ったような顔をしていた。ううむ、やはり唐突すぎて怪しまれたか。

 しかし輝夜様は一度ため息をつくと、こういった。

 

「あなた、意外に鋭いのね」

 

「……と、いうことは?」

 

「うん。あなたという通り、あなたを呼んだのにはわけがあるの」

 

「そのわけってのは……」

 

「私はあなたに話したいことがあるのよ、白滝」

 

 輝夜様がまっすぐに俺を見つめる。さっきまでの可愛らしい様子とは違った、真剣な表情。その顔に俺はドキッとする。

 やっぱり、というと変な感じがするが、俺の考えは当たりだったというわけだ。きっとその話したいことというのは異変についてなんだろう。さすが俺の「夢を見る程度の能力」。はずれはないという事か。

 さて、ここまでこればもういいだろう。俺は異変の話をするべく、輝夜様に話しかけようとした。だが、俺の言葉は輝夜様が続けた言葉によってさえぎられることとなる。

 

「でもね、その話をしたいのは、私じゃないの」

 

「……? どういうことです? 今さっき輝夜様、自分で話したいことがあるって」

 

「うん、その通りよ。でも……」

 

 そして輝夜様は、どこか寂しそうな笑みを浮かべながら、こういった。

 

 

「その話をしたいのは私じゃなくって……『もう一人の私』なの」

 

 

「……」

 

 思考停止。今の俺にはその言葉が一番合っている。

 どういうことだ? もう一人の輝夜様? なに? 輝夜様二人いるの? もしかして双子なの? 正直何言ってんだこの人状態に陥る。

 困惑する俺。だがそんな俺など意にも解さないように輝夜様は笑顔をこちらに向けてくる。

 

「だから、難しい話はもう一人の私に任せて。今の私は白滝とのおしゃべりを楽しむのっ」

 

 そう言って輝夜様は俺の顔に自分の顔をぐぐいっと近づけてきた。思考停止していた俺もさすがにその行動には驚く。

 

「輝夜様!? ちっ近いですよ!」

 

「気にしないで、もう一人の私もこれくらいの方が喜ぶわ」

 

「いやいや……ていうか! そのもう一人の輝夜様ってのは誰なんですか!?」

 

「誰も何も言葉通り。もう一人の私、よ?」

 

「さも当たり前のように言わないでください。それがわからないんですよ……」

 

「大丈夫、もうすぐ会えるから」

 

「会える…?」

 

 俺のその疑問の問いかけに、輝夜様はにっこりとほほ笑むことで返す。

 

「うん。だからそれまで、私とおしゃべりしましょ?」

 

「いや、でも……」

 

 困惑の中渋る俺。その態度が不満だったのか、輝夜様は「むー」と頬を膨らませてからこう言った。

 

「私とお話しするの、イヤ?」

 

「……嫌なわけ、ないですよ」

 

 完敗。輝夜様の可愛らしさに俺は負けた。これ以上は言及しないことにする。

 ここまで輝夜様が話そうとしないんだ、きっと何か事情があるんだろう。それなら、その輝夜様の言う「会える」時まで我慢しよう。必ず会えるなら、こちらとしては文句はない。

 俺は輝夜様に向かって話かける。

 

「それじゃ、輝夜様。俺と話しましょう」

 

「うんっ!」

 

 こうして俺は、月と蝋燭の明かりに照らされながら、輝夜様との時間を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 それは、その『変化』は、唐突だった。

 

「ふふ。ここからは、私の時間よ」

 

 そういって輝夜様は、俺に向かって微笑む。

 だがその微笑みは、俺が知っている輝夜様の微笑みとまるで一致しない。あの可愛らしい屈託のない物じゃなく、どこか妖艶で淫靡で、誘われるような笑み。

 いや、その笑みだけじゃない。顔つき、仕草、そして雰囲気までも、ついさっきまで俺と笑顔で話していた輝夜様と違う。

 

 まるで、『別人』。

 

 それと同時に俺は思う。

 

 こちらの方が「かぐや姫伝説」のかぐや姫のようだと。

 

「やっと会えたわね、白滝。あの子の中にいる時から、私はずっとあなたに会いたかったの」

 

 ふふっ、と笑う彼女。さっきまでのギャップに戸惑いと驚きを隠せない。だがしかし彼女も紛うことなき輝夜様のような気がして……

そこで俺はハッとする。ようやく合点がいった。……輝夜様の言っていたことはこのことだったのか。

目の前の彼女は、俺に微笑む。

 

「さぁ白滝。私と『異変』の話をしましょう?」

 

 彼女は輝夜様であり、そして輝夜様の言っていた『もう一人の輝夜様』とは彼女なのだ。

 俺は確信に息をのんだ。

 

 俺と輝夜様との、不思議な一夜が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある地上兎が盗み聞きした話。

 

 

 

「さて、それじゃあ報告しようかな。と言っても、前回とそんなに変わってないけどね。……なに? 僕が怒ってるって? まぁ、ね。とある人に夕ご飯をすっぽかされたから、ちょっとイライラしてるだけだよ、気にしないで。――やっぱり最低な男――だって? そうだね、確かに彼に対しては思うところはあるけれど……でも、それは否定させてもらおうかな」

 

「彼は、あなたが思ってるより、良い人間だよ。絶対にね」

 

「今日の報告も、結論は今言ったことと同じだよ。あなたに頼まれて、この一週間彼を傍で監視し続けた。一緒に飲み食いして、一緒に仕事をした。その中でちょっと色仕掛けをしてみたりしたり、言葉ではっぱをかけるたりしてみたけど……君が懸念しているような事態には一切ならなかったよ。そう、例えば……僕が彼に襲われたり、傷つけられたり、ね。――その話はしないで――? そんなこと言われてもね。 彼の素性を……いや『本性』と言ったほうがいいか。それを調べろって言ったのは、あなただよ」

 

「じゃ、このところの一週間の調査報告のまとめだね。確かに変態、軟派気質なところはあるが、不快ではなく人によっては心地よいと感じる度合い。つまり結論として『好ましい人間』だったよ。うん、少なくとも僕は彼の事、結構好き」

 

「――信じられない――? ならここからはあなた自身で調査しなよ。僕がこれ以上調べてもきっと、いや絶対に調査の結論は変わらないし、僕の気持ちも変わらない」

 

「……それじゃあ、僕は帰るよ。さっきも言ったけど、もう僕は彼の事監視なんてしないから。ただの世話係に戻ることにする」

 

「……そろそろ、あなた自身が動くべきだと僕は思うんだけど、どうかな鈴仙さん?」

 




お疲れ様でした。そして見てくださってありがとうございます!

さて、白滝がまさかの姫様との再会!(早いな!?)
そして正夢へとつながる――?
さらに最後には謎の動きが?
怒涛の展開は次話へとつながります!

しかし本当にご心配をおかけしまし。
自分自身まさか肝炎にかかるとは思わず……しかも治って安心して活動報告で「再開します!」って意気込んだ直後再発とは……自分も思ってもみませんでしたよ。

ですが二回目は早めに治り、現在の元気元気状態になります。
これからは通常状態に戻りますのでご安心ください。

誤字脱字指摘感想待ってます。
あと活動報告にコメントくださった皆さんありがとうございました。非常にっ嬉しかったっす!

気付けば年末! ハヤイ!
来年もこのトーレと東方一年郷をよろしくお願いします!

それではみなさん、次話で会いましょう。
良いお年をー!!
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