諸行有常記   作:sakeu

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第104話 騒乱の日の青年

某所にて、薄暗い部屋の中に"スミス同盟"は集まっていた。

 

小さなアナログテレビしかない部屋に、リーダー格の男と7人の幹部は1人の女を前に臨戦態勢を取っている。

 

 

「何故、私らを閉じ込めた?」

 

 

鉄製の車椅子に座り、カラーのついた黒の上下という古風な服を着た老人ーーハーマン・スミスが口火を切ると、スキマから現れた紫に全員の視線が集めた。

 

 

「よくも、まぁ…………勝手に侵入した挙句、好き勝手暴れた分際で言うわね」

 

 

紫は立ったまま、怒りを抑えた声で言った。

 

 

「暴れた?私はせいぜい、たった1人の男を()っただけだが?」

 

 

しわがれた声でハーマンはぬけぬけと言った。

 

 

「そう…………勇人が()()()1()()()()ねぇ。なら、何故彼なのかしら?わざわざ、彼を尾ける真似までして。それが、かの有名な暗殺集団が十数歳の青年にすることかしら?それに、こんな空間まで生み出して…………」

 

 

紫は吐き捨てるように言った。

 

 

「言葉を慎め」

 

 

白いスーツを着た男ーーガルシアン・スミスは紫の無礼を許さず、紫を睨みつけた。

 

 

「私たちはオーダーされた任務を全うする…………それだけ…………」

 

 

スミス同盟唯一の女性だ。ショートカットの紅一点ーー墨洲 楓は屈強な男の多い、暗殺集団の中では不似合いだ。

 

 

「ヒヒッ、それにその勇人って奴がいなくなればこの世界は平和になるんだろ?だったら、むしろ褒めて欲しいな!」

 

 

コン・スミスの生意気な言葉により一層、紫は苛立ちを募らせる。紫は憤りと侮蔑を込めた視線を一同に向けた。

 

 

「勇人は立派な幻想郷の住民、すなわち幻想郷の一部よ。だから、貴方達はこの幻想郷に傷をつけたことになるわ」

 

「幻想郷の一部?」

 

 

ダン・スミスの言葉が聞こえた。

 

 

「ええ、幻想郷は彼を拒まず受け入れた。そして、彼もそれを受け入れた。幻想郷の一部と語るには十分ではなくて?」

 

「だから、なんだ?問題はあいつの生い立ちにあるんだろが。それを聞く限り、生かすなんて事は馬鹿でもしねぇぜ。妖怪の賢者さんよぉ」

 

 

ダンは淡々と告げた。

 

 

「生い立ち?」

 

 

紫が怪訝そうに眉を動かしたのを見て、ダンはフッと苦笑した。

 

 

「もしかして、本気でお前は勇人はあいつの孫だと思ってたのか?」

 

「…………違うのかしら?」

 

 

ダン以外の者は口を噤んでいる。

 

 

「勇人は人間の進化系じゃねぇってことさ」

 

「どういう意味よ」

 

「さぁ…………あとはこの腐れ老人(ロートル)から聞けや」

 

 

ハーマンはゆっくりと車椅子を動かし、前に出た。

 

 

「お前が勇人の祖父だと思う、碓氷清栄(せいえい)は、かつて人の榮を司った神だった」

 

「それぐらい知ってるわ」

 

「彼がいるだけでその国は永遠の繁栄が約束されると言われた。そうとなると、勇人はその繁栄の力を継ぐ者の末裔になるわけだが…………」

 

「その力を受け継いでるいるはずと言いたいのかしら?でも、ありえないわ。彼はほぼ人間になってから子を授かっている。もし、力が受け継がれているのなら、勇人の母だってその力を持つはずよ?」

 

 

紫の発言にハーマンはまるでおかしな話を聞いたかのように大笑いした。

 

 

「それなら、かの青年も普通の人間なのが理だろう」

 

「人間とて、イレギュラーな存在は現れるわ」

 

 

紫はフンと鼻で笑った。それに対して、ハーマンは目にギラギラと光を湛え、車椅子の後ろに付属していた対戦車ライフルを取り出し構えた。

 

 

「勇人は人間などではない!清栄によって生み出された新しい器だ!」

 

 

怒鳴るように叫ぶや、ライフルの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八意永琳の自信作(本人談)の薬によって、怪我とともに意識も吹き飛ばされた勇人は、敷布団の上に横たわって規則正しく息をしていた。この光景、何度見たことか…………

 

 

「まだ目覚めないの?」

 

 

キスメは暇を持て余したのか、勇人の顔を突きながら、破れたカッターシャツを縫うヤマメに言った。

 

 

「ゆっくり休ませてあげなよ。あんだけの怪我をしたんだし、相当お疲れなんだから」

 

「ふーん…………この人なかなか強いんでしょ?一度、戦うところでも見てみたいなぁ」

 

「そんなことよりさ、お腹空いた?ご飯できてるけど食べる?」

 

「食べる食べる!」

 

「う……」

 

 

勇人が息苦しそうに掛け布団をはねのけた。

 

 

「お、目覚めた」

 

「大丈夫?」

 

 

ヤマメとキスメが脇に来ると、勇人は気だるげに瞼を開けた。

 

 

「…………ぁあ。問題ない。あの薬のおかげで怪我も治ったし…………」

 

「本当にすごいねあの薬」

 

「あまりお勧めはしないぞ。猛烈な痛みを受ける代わりに怪我を治すんだからな。一種の拷問に近いと思うぞ」

 

 

咳き込みながら、勇人は言った。

 

 

「とりあえず、勇儀さんは?」

 

 

今すぐに、特訓を始めないと。起き上がろうとしたが、その瞬間に大きな腹の音が響いた。そんな勇人を見て、ヤマメは

 

 

「ちょうどいいや、ご飯にしよう!」

 

「その前に、君ちょっと能力でも見せてくれない?噂は聞いてるんだ」

 

「ちょ、ちょっと!病み上がりの人に…………」

 

「いいぞ」

 

「ええっ」

 

 

流石にヤマメにとって予想外の返答だったらしい。

 

 

「…………ちょっと離れてくれ」

 

 

勇人は腕に巻かれた包帯を解くと、敷布団から這い出るようにして立ち上がった。

 

 

「おぉ?」

 

 

キスメの声には、期待が混じっていた。

 

 

「使うぞ、能力」

 

 

勇人がその言葉を放ち、例の如く不変の結界を生み出そうと集中した瞬間、右腕に青いプラズマが走った。

 

 

〈その能力を使うのか?〉

 

 

〈お前はそっちの生物ではない〉

 

 

〈お前は私の器だ〉

 

 

意識の中に、ささやくような声が響いた。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

聞きなれぬ声に勇人は怒鳴りかえした。反射的に振り返るが誰もいない

 

 

「どうした?誰に怒鳴ってるの?」

 

 

慌ててキョロキョロする勇人にヤマメとキスメは驚く。

 

 

「い、いや、何でもない。まだ、疲れが残っていたみたいだ。幻聴が聞こえた」

 

「それなら、無理してしなくても…………」

 

「平気平気、ちょっと使うだけだから」

 

 

勇人は言い、謎の声に自分で幻聴と決め込んで再び集中した。

 

 

「これは…………物凄い量の霊力だねぇ」

 

「勇儀さんの言う通り只者じゃなかったんだね」

 

 

勇人は大きく息を吐いた。あとは結界を張るのみ…………

 

 

ーーその能力はお前のためではない。

 

 

今度こそははっきりと聞こえた。そして、それは意識の中に話しかけているということも分かった。

 

 

ーー誰だ?

 

 

謎の声にそう問うた。

 

 

ーーお前だよ。いや…………後々のお前だ。

 

 

後々の俺?そう聞き返した後にはもう声はしなくなっていた。少し間が空き過ぎたのか、2人は心配そうな眼差しを向けている。

 

 

ーーやっぱり、疲れてるんだな。ちょっと、弱気になっているだけ。

 

 

そう自分に言い聞かせた。そして、自分の周りに意識を向けた。

 

バリバリと青いプラズマに右手が覆われていると知らず。無論、勇人の能力を知らない2人はそのプラズマを能力の一部だと思っている。

 

 

「はっ!」

 

 

掛け声とともに、右腕のプラズマが右半身に広がり、強い衝撃波が発生した。それと同時に、右腕がボコボコと膨れていた。

 

衝撃波に吹き飛ばされ部屋の隅に追いやられたヤマメとキスメは、突然のことに唖然とし動けずにいた。

 

ひどく膨張した勇人の右腕はついに破裂し、勢いよく血が噴き出した。

 

 

ーーふむ、まだ力に耐えきれない、か。

 

「さっきから何なんだよォォォオ!この野郎ォォォオ!」

 

「ちょ、ちょっと!気をしっかり!!」

 

 

後ろで勇人の有様に驚くヤマメの声がする。

 

青いプラズマは徐々に無くなっていき、勇人は地面にへたり込んだ。しかし、時折バチバチとプラズマが発生している。

 

キスメは恐れをなしたのかヤマメの後ろに回り込んでいた。

 

 

ーーまだ、まだだな…………

 

 

ドゴォ!と轟音を立てて、玄関方から勇儀が飛び出した。

 

 

「おい、大丈夫か!って、これは…………!?」

 

 

衝撃波によってめちゃくちゃにされ、破裂した右腕によって血塗れとなった部屋に勇儀は一瞬戸惑った。しかし、すぐに冷静さを取り戻し

 

 

「勇人!!」

 

 

呼びかけに対し、勇人は顔を向けることしかできなかった。

 

 

「な、何があった!?」

 

「お、俺にもさっぱり…………ちょっと、能力使おうとしたら…………」

 

 

ヤマメの空いた口が塞がらない。さっきのは何だったのかーー。

 

勇人の右腕から、プラズマを纏った血が滴り落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからかな大きな気配に、一同は動きを止めていた。何かの得体の知れない者ーーその存在を誰しもが感じ取っていた。

 

 

「ふむ…………ダン、どうやら()ってはいなかったらしいな」

 

 

予想外のことにも、慌てる様子も見せないのは仕事柄故か。それに対して、紫は少し動揺めいた様子を見せていた。

 

一同のいる部屋にはいくつもの銃痕が残っていた。ここで戦闘をしていたらしい。

 

 

「どうだ?妖怪の賢者よ。これが勇人の真の力だとしたら?」

 

「…………真の力?あれくらいの力なら私は何回も見たわ」

 

「…………それは勇人の力じゃない。()()()の力だ」

 

 

楽しいのか、笑みを含みながらハーマンは言った。

 

 

「まぁ、いいわ。…………後は任せたわ」

 

 

紫の背後にスキマが開き、メイド服姿の銀髪少女ーー十六夜咲夜が現れた。そして、パチンと指を鳴らした。

 

そして、時間と世界は静止した。

 

部屋の中にいる人はすべて動きを止める。

 

 

「お嬢様に命じられて来たのはいいものの…………」

 

 

嫌々連れてこられたようだ。ため息を吐き、ナイフを取り出す。そして、そのナイフをスミス同盟の一同の首元に投げた。

 

 

「1、2、3、4、5、6、7人ね…………」

 

 

再び、指を鳴らす。静止していた世界は再び動き出す。それと同時にナイフはそれぞれの首に刺さるーーしかし、ハーマンとガルシアンのみはナイフを掴んでいた。

 

 

「…………あら、老いぼれかと思ったけどなかなかやるわね」

 

 

次の瞬間、首元から鮮血を噴き出す5人は粒子となってハーマンへと吸い込まれた。

 

 

「え?」

 

 

ハーマンの謎の能力に咲夜は驚きを隠せなかった。

 

 

「咲夜!」

 

 

紫が叫ぶと同時に咲夜の背後に銀髪の男が現れた。その手にはナイフが握られている。

 

 

「いつのまに…………ッ!?」

 

 

ナイフが首を切り裂く前に咲夜は時を止めて間をとった。しかし、男はすぐさまスローイングナイフを取り出し、咲夜に目掛けて投げた。

 

咲夜も同じくナイフを投げて相殺させる。

 

 

「ナイフ使い同士ね…………って、気持ち悪っ」

 

 

異常なほどの白い肌。そして、上半身裸で極端な猫背。そんでもってサングラス。こんな人が街にいればほぼ変質者だと思うだろう。

 

咲夜の発言にも眼鏡(ケヴィン)は表情1つ変えずに次のナイフを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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草木の生い茂る山の中で、碓氷清栄は瞑想していた。

 

 

「後もう少しか…………」

 

 

白い神御衣が夕日の色を浴びて朱に染まる。シワの入った顔からは心持ちは量り知れない。

 

そこへ、一羽の伝書鳩が手紙を運んできた。内容を読むとその紙を引き裂いた。

 

 

「勘付かれたか…………しかし、もう遅い」

 

 

風が引き裂からた手紙を運んでいく。

 

 

「お主か…………」

 

「ええ」

 

 

鳩は女性らしき声を発した。

 

 

「こちらの準備は進んでいる…………お主はどうじゃ?」

 

 

沈む夕日を見ながら、清栄は言った。

 

 

「私はいつでも構わないわ。後は器の完成を待つのみ…………」

 

 

今頃、勇人は不可思議な力に驚いていることだろう。

 

夕日を見ながら、清栄は満足げな笑みを見せた。

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