第31話 帰省の日の青年
「……寝れん…」
もう、12時過ぎただろうか?普段なら夢の中にいるはずなんだが……今日はまったく眠くならない。にしても、久々に守谷神社に戻って来たな…
明日、持っていく荷物はもう必要最低限準備している。どこで寝泊まりするのかとか色々聞きたかったが、明日で全て説明すると言われた。流石に銃やナイフは持ってかない。
それにしても、一旦とはいえ戻るのか…もう、ここに来てから半年は経ったのではないのだろうか。光陰矢の如し、まさにその通りにあっという間だったな……みんなは俺のこと覚えてんのかな…もう、忘れてしまった人の方が多いかもしれないな。
「ふぁ…眠い…」
やっと、睡魔が来たようだ。とりあえず、今は寝てしまおう……
「……ん〜…」
もう、朝か……自分で早起きするとは、もう末期だな。
「おはよう」
「あ、おはようございます、勇人さん。自分で早起きするとは珍しいですね」
「まぁ、今日は久々の里帰りだからな」
「そうですね…」
「とりあえず、1週間またいなくなるがよろしくな」
「はい!」
本当に早苗たちにはお世話になっているな。ここに来た時からずっと。いつかは、恩返しをしないとな。
「それじゃあ、朝ごはん食べましょう」
「あれ?神奈子様と諏訪子様は?」
「昨日からお出掛けです」
「そうか……」
「「…………」」
な、なんだろう…この空気。すごく気まずい…いつもは、うるさい諏訪子様がいないせいか…
「ゆ、勇人さんは向こうで何をする気なんですか?」
「あ、ああ…そういえば、何も考えてなかったな…とりあえず、みんなの顔が見れればいいかな」
「そうですね」
「そうだな」
もう少しましな返答はできないのか…俺…
そんな空気のまま、朝ごはんは食べ終え、約束の時間になった。
集合場所は博麗神社と聞いている。
「勇人〜?」
「は、はい、ここにいますよ、紫さん」
「あら、準備完了ね」
「もちろんです」
「それじゃあ、外の世界に行く前にいくつか説明をしておくわ」
「はい」
「まず、こちらの世界と向こうの世界では時間軸がずれてるわ」
「と言うと?」
「まぁ、簡単にいえば軽く浦島太郎状態ね」
「ど、どのくらい……」
「もう、向こうじゃ、3,4年は経ってるんじゃない?それに応じて貴方も3,4年すぎた体になるわ」
は、はあ…よかった……100年単位だったら泣くところだった。
「それと、向こうの世界での貴方は本来もう"存在しない"人なの。つまり、それを無理矢理捻じ曲げて向こうに行くことになるわ」
「何か、問題が?」
「あまり、言いたくないけど…向こうに行ったら、貴方は認識されないわ」
「?」
「うーん…なんて言えばいいかしらね…人としてそこにいるにはいるのだけど…貴方と認識されないわ」
「つまり、石ころみたいな?」
「んー、そんな感じかしら?だから、家族も例外じゃないから、別れの言葉を直接、伝えれないわ…」
「そ、そうですか…でも、手紙とかで間接的にはできるのですよね?」
「ええ、あと、期間は1週間、宿は私がとってあるわ」
「そうですか、何から何までありがとうございます」
「いいの、それよりもしっかりとけじめをつけるのよ」
「はい」
「それじゃあ、開くわよ」
空間からスキマができる。ついに行くのか…
「あ、そうそう、これを渡しておくわ」
「これは?」
お札が何か?
「それは、連絡用のお札よ。もしものことがあったら、それで伝えれるわ。使い方は霊力を込めるだけ、いい?」
「了解です」
「それじゃあ、いってきます」
「ええ、いってらっしゃい……」
「これでいいのかしら?」
「ああ、これでいい…あいつには本当に悪いが…だが、このままでいるのが、一番あいつに悪いことじゃろう…」
「すっかり、おじいちゃんね」
「そうじゃな…」
「ついに来たか…」
周りには幻想郷とは程遠い、自然控えめの景色だ。だが、俺にはひどく懐かしく感じてしまう。あまり、かわってないようだが…自分の家も変わってないだろう。鍵は一応持っている。
「あった、かわってねーな…」
懐かしき我が家である。車も変わってない。この時間的に登校時間と出勤時間じゃないか?両親は共働きでみんな一斉に外に出る。
「あ……」
弟か…3,4年過ぎてるだろうと言ってたから、もう高2ぐらいか…身長も大きくなって、俺よりも大きいな……は?俺も3,4年すぎた体になるはずじゃなかったけ?ま、まさか…俺は成長しないのか…?
「いってきます」
「いってらっしゃい」
あんまり、変わってないや……
「あ、おはようございます」
「お、おはようございます……」
紫さんが言ってたのは本当か……他人のように挨拶をされた。そうだよな…
「私も仕事に行くか…」
お母さんも出るようだ。ということはもう家には誰もいなくなる。
お母さんが家を出たのを見計らって、あれは家の中に入った。
「本当に変わんないな……」
物の配置が全く変わってない。あ、でも…
「やっぱり、死んだことになってるよな…」
仏壇に遺影が…もちろん、俺だ…それにしても、ヘッタクソな笑顔だな。目が笑ってない。
そうだ、自分の部屋は?
「おう……」
半ば弟の物置と化してる。クローゼットの中は…
「……」
俺の物ばかりだ…律儀に整頓されてる…これは…写真か…
確か…みんなで旅行に行った時のだな、たのしかったな…
あれ?なんでかな…雨が…ダメだ…大切な写真が濡れてしまう…
「……っ……なんでだ?……っ…」
そうか……泣いてるのか…俺は泣いてるのか…
ひとしきり泣いた後、俺は写真をそっと置いて、家を出た。
もう、大丈夫だ。元気に暮らしてる。それだけで大満足だ。寂しいけど、みんなが不幸になっていないなら、それでいい…
「時間、すごく余ったな…」
目的もほとんど終わってしまったな…この様子じゃ、俺が分かる人は1人もいないだろう。蓮子も、友達もみんなダメだろう。
少しぶらぶらするか…
俺くらいならもう大学生か…ただ、俺の体は一向に成長しないのか?いや、まだ希望は…あるはず…170越さないのはやめてほしい。
「ん?ここは…」
ああ、蓮子に連れて行ってもらったカフェか。ここのコーヒーは美味しかったな…お金もある程度貰ったしここでゆっくりするか…
「いらっしゃいませ…」
相変わらず、無愛想だな。別にひどいものを出すわけではないのでいいが。
えーっと…いつもの席は…あった。
蓮子に教えて貰ってから、ここに結構行ってたりする。で、お気に入りの席もしっかりとある。隅っこの席だ。
「コーヒーをひとつ」
「分かりました」
ふー、やっぱり落ち着く…と、俺は懐からキーホールダーを出す。これは、誕生日に弟から貰ったやつだ。けっちぃなとか言ったが、少し嬉しかったりして…
「あ、そこ私のお気に入りの席…」
おや?ここをお気に入りとか言う人が…随分と物好きな…
「!?」
れ、蓮子?ま、まぁ、俺のこと分からないだろうが。
「すいません…席、変わりますか?」
「あ、どうも…すいません……!?」
ど、どうした?顔をじーっと見て…やめてください。人に見られて興奮しませんから、むしろ、やめろ。
「……勇人…?」
「……へ?」