諸行有常記   作:sakeu

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第6章 マッドな医者と事件と
第52話 生活改善の日の青年


 

1人の青年が立っている。

 

背は170は超えているだろう。ボロボロな着流しを着ているあたり、貧しい様子がうかがえる。

 

その青年の前には複数の妖怪。知能が低いのだろう。ただ唸り、睨み、獲物を捕らえんと今にも飛びかかりそうである。

 

青年は動かない。ただ、突っ立っている。それだけ。それは、恐怖によるものだろうか。何か理由があるのだろうか。危険な事には変わりはないが。

 

一匹の妖怪が青年に飛びつく。それを皮切りに他の妖怪も飛びかかる。涎を撒き散らし、ただ本能のまま飛びつく。

 

それでも、青年は動かない。

 

それを御構い無しに妖怪は飛びつき、青年に襲いかかるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の青年が立っている。

 

周りにはたくさんの妖怪が倒れている。青年は動いていない。

 

少し時間が経つと、青年は笑う。

 

 

 

「今日も大量……次は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭痛い……」

「病気ですか?それなら、永遠亭に」

「そういう意味での頭痛じゃない……」

 

その日、俺は幻想郷生活を始まって以来もっとも悩ましい事を抱えていた。

生きていく上で健康は確かに大事である。どんなに頭が良く天才であろうが、どんなに運動神経が良かろうが、病気にかかってしまって、挙げ句の果てに死んでしまっては全くもって意味を成さない。

さらに健康を維持していく上で生活は大切になってくる。まぁ、俺は生活能力が高いとは言い難い。しかし、独り暮らしを始めていくうちに慣れ、家事もしっかりこなせるようになっている。

ただ、『慣れ』とは恐ろしいものですぐに面倒となってしまい、段々疎かになってしまった。さらに、寺子屋に参加したいと言う人が増え、嬉しい事に仕事が大幅に増えた。寺子屋で捌きれなくなり、ついには家にまで仕事を持ち込んでやるようになってしまった。一度やり始めると最後までやりたいと言う性により、意地になって仕事をするようになった。

その結果、生活リズムは当然ながら崩れた。まともに飯を食べず、睡眠時間を削ると言うもはや、最終手段まで取るようになり、部屋は荒れ、俺も荒れると言うダメ人間になっていた。

もちろん、そんな生活が長続きするはずも無く、1週間続けたところで倒れてしまった。

 

あの時、早苗が来てくれなかったら本当に危なかった……結局、また永琳さんのお世話になり生活についてご指摘を貰い、とりあえず1日入院して、妖夢や慧音さんが見舞いに来たり、なんやかんやあったりで退院した。

 

今回ばかりは完全に俺のせいであろう。これを反省し、きちんとして生活をしていこうと早苗や妖夢に家事のコツを聞こうとした。

それで、2人とも家に来てくれた。ここまではまだいい。俺が頼んだからな。だから、2人の指摘やアドバイスに反論する気はさらさら無い。

だかな……

 

「俺の家でずっと家事をしてもらう訳にはいかんだろ」

 

流石にこれはダメだと思う。

これからは私達が交代で勇人さんのところでの家事をします!

ーー俺に家事を教えてくれるために来てくれた2人の最終的な考えである。

確かに今回の事は完全に俺が悪いし、教えて貰った後、長続きするかどうかは分からない。だから、2人が家事をする。確かに理に適っているだろう。

しかし、俺にもプライドはある。2人に家事を任せきってしまうダメ男にはなりたくない。

 

「別にそんな事をせずにコツだけを教えてくれればいいのだが……」

「いえ、コツを教えるだけではすぐに怠けて、同じ事が起こる未来が見えます」

「そ、そんな事は無い……と思うぞ?それに、お前達も忙しいだろ?」

「大丈夫です、その旨を伝えましたら、師匠が白玉楼の家事をしてくださると」

「私も神奈子様と諏訪子様に伝えたら大丈夫と」

「…………」

 

何が大丈夫なんだよ……俺はダメ男にはなりたく無い。2人とも家事のスキルが高いから尚更ダメ男になりそうだ……。

 

「や、やっぱり、俺が頑張るからさ……教えるだけで?」

「「ダメです」」

「…………」

 

「お、お前達に利があるとはとても思えないのだが……?」

「勇人さんと一緒にいられるだけで十分です」

「……どうしてもか?」

「くどいですよ」

 

逃げ場なんて無かった、いいね?

 

「それでは明日からやらせてもらいます」

「私は明後日なのでよろしくお願いしますね」

 

こうして、ダメ男への階段を登る事になるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、起きてください」

「今日は寺子屋無いから、まだ寝る……」

「朝ですよ?起きてください」

「もう少し……」

 

「…………………………!?ん!?ん〜〜!!」

「あ、やっと起きましたね?」

「プハッ……ハァハァ……鼻と口を塞がないでくれよ……」

「起きない方が悪いんです、朝ごはん出来てますよ」

「ああ、ありがと。とりあえず顔を洗ってくる」

 

 

「あれ?勇人さん、眼鏡なんですか?」

「いつもはコンタクトなんだが、休日は基本的に眼鏡だ」

(き、貴重な眼鏡姿……!しゃ、写真撮りたいです)

「なぁ、今変な事考えてないか?」

「い、いえ!」

「そうか、ところで朝ごはんは?」

「はい、味噌汁と焼き魚とご飯です」

「おお、美味しそうだ」

実際、食べると味噌汁は丁度いい濃さで、魚も塩加減が絶妙である。それにご飯は少し硬めで炊いていて俺好みだ。久々に早苗の料理を食べたがやはり上手だ。

 

「美味しい……」

「ありがとうございます」

「これだけ料理が上手いとお嫁にいっても問題無いんだろうな」

「そうですね、いつでも勇人さんのお嫁さんになれますよ」

「…………」

 

 

 

 

 

 

「えっと……」

 

只今、勇人さんは買いたいものがあると言って、里に行って留守の間に洗濯しよう思っているのですが……

 

「こ、これは……//」

 

少々問題が……し、下着なんですが……う、上は問題無いんです。勇人さんはいつもアンダーシャツを着てますし。ただ……ぱ、パンツは……

 

「さ、さっさと洗濯してしまいましょう!」

 

邪な事を考えてはいけません!邪念退散邪念退散邪念退散邪念退散……あ、アンダーシャツです。ゆ、勇人さんのに、匂いが……

 

「…………」

 

はっ!わ、私は何を?せ、洗濯してしまいましょう!そういえば、幻想郷で洗濯機を見るとは思いませんでしたね。どうやって動いてるかと聞いたら霊力だそうです。流石、河童の技術です!

 

さて、洗濯機に入れてしまいましたし、今度は部屋の掃除をしましょう。

 

「〜〜♫〜〜♬」

 

先程の洗濯機もそうですがこの掃除機もとても便利ですよね!こんな便利な道具を持っていながらどうして面倒になるのでしょうか?

そういえば、諏訪子様が

 

「ベッドの下を見るといいよ、ベットの下にはね……勇人の秘密があるはずだから……」

 

と言ってました。なんでしょうかね、秘密とは。しかし、勝手に秘密を覗くのは良く無いですよね。

 

「…………」

 

き、気になってしまいますね……ダメです!秘密を探るなんて……

 

「…………」

 

わ、私、気になります!す、少しだけ……

 

「……!あ、ありました」

 

何でしょうか、これは雑誌?

 

ガラガラ

 

「ただいま〜」

ジィーー

 

「はっ!」

「ゆ、勇人さんこれは?」

「あ、ああ……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自動車雑誌だよ、最近見ないなと思ったらそんなところにあったのか」

「勇人さん、車が好きなんですか?」

「まぁな」

「これが勇人さんの秘密……?」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いえ!何でも無いです!」

「そうか、そういえば途中で野菜分けて貰ったんだが……」

「そうですか、それじゃあ夕飯に使いましょう」

「ああ、早苗が作る料理は美味しいから楽しみだ」

「ウフフ……それじゃあお腹空かせて待ってくださいね」

「ああ」

 

 

「これは……側から見たら完全に新婚さんですよね……」

 

カァー//

 

「ゆ、勇人さんと結婚したらこんな感じなんですね、キャー//」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Next day〜

 

 

「ふぁ〜……」

「おはようございます、勇人さん」

「おわっ!い、いたのか」

「はい、起こそうとしたのですが……」

「今日は仕事があるからな」

「そうですか……(寝顔を見たかったのに……)」

「?」

 

 

 

 

「朝ごはんはおにぎりと豚汁か」

 

「やっぱり、美味い……俺が作ってもこんなに美味しくならないのになぁ。隠し味とかあるのか?」

「隠し味ですか……」

 

「あ、愛情……」 ボソッ

「ん?」

「ひ、秘密です!」

「おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 

 

 

 

「はぁ……ついてないです」

 

早苗さんは勇人が休日の時だったのに私は仕事の時ですか……勇人さんといたかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「おかえりなさい」

 

勇人さん、すごく疲れているみたいです。何かできないでしょうか……

 

「…………」

「…………」

 

モグモグ……

 

食事も黙ったまま……何か話題を……

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

「もう少し仕事があるから、帰っていいよ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで丸つけは終了……」

 

丸つけは終了。"丸つけ"は。次は宿題を作らなきゃならん。幻想郷にドリルや問題集が無ければ、コピー機も無い。全部手書きだ。担任は妖怪達のクラスだが、和算の授業には人間のクラスにも出る。さらに最近は寺子屋に参加する人が増えたので尚更量が増える。そのせいで満身創痍なんだが。

 

「喉が渇いたな……」

 

と周りを見渡すとベッドが目に入る。

 

「…………」

 

だめだ……ベッドが目に入った途端睡魔が。しかし、宿題を作らなければ。

ああ、暖かいベッド……

何を甘えてるんだ!俺にはやるべき事が!

 

「よし、やってやんぜ!」

 

自分で自分を奮い立たせる。

 

「の前にコーヒー淹れるか」

 

そして、このザマである。

 

「勇人さん、お茶を……」

「よ、妖夢!?」

 

あれ?帰ってなかったのか?

 

「どうしてここに……」

「だから、お茶を持ってきました」

「大丈夫だよ、悪いけどコーヒーが飲みたくて」

「いえ!お茶には疲労回復効果があるのでそのこーひーと言うものよりは最適です!」

「あ、ああ……」

 

とりあえず、お茶を啜る。程よい熱さが胸に染みる。

 

「ふぅ……ありがと」

「いえ、肩を揉みましょうか?」

「いや、そこまでしなくても」

「遠慮なさずに」

「ね、眠いだろ?」

「眠そうに見えますか?」

「…………」

「決まりですね、前を向いてください」

「ああ……」

 

お茶を飲む俺の肩に妖夢の指が食い込む。

 

「かなりカチカチですよ?そこまで仕事してるのですね」

「そこまでか……運動しないとな……」

「そうですよ、休息も大事ですけど」

「でもなぁ、時間が無いんだよな」

「たまには休みを求めてもいいと思いますよ。こんなに頑張ってるんですから」

 

 

 

「勇人さん、気持ちいいですか?」

「ああ、だがもう少し強くてもいいかな」

「このくらいでしょうか?」

「あ、ああ……そのくらい……」

 

気持ち良さすぎて思わず気の抜けた声が漏れる。なんか、ダメ男の階段を一歩登ったような……

 

「こんな感じでしょうか、どうですか?」

「完璧だよ、ものすごく肩が軽くなった」

「ふふっ、よかったです。耳掃除もしてあげましょうか?」

「そのくらいは自分でできるさ」

 

ジィーー……

 

正座して、手には耳掻きを持ち、こちらを凝視してくる。

 

「……分かった、頼むよ」

「任せてください!」

 

俺は横に倒れて妖夢の脚の上に頭をのせる。

柔らかいし、いい匂いがするしで、強烈に眠くなってきた。

 

「あまり無いようですが……奥が溜まってますね」

「……そうか」

 

そして、耳掃除が始まる。丁寧にしてくれるお陰で気持ちいい……ただでさえ、ものすごく眠いのにさらにこれで……は……

 

スゥー……

 

「寝ちゃいましたか、朝寝顔を見れなかった分、堪能させてもらいます」

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、文々。新聞で『寺子屋の教師、結婚か!?』という見出しが出たことはまたこの後の話。

 

 

その新聞にはもう1つ小さく『妖怪の怪奇死』というのもあった。

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