〜人里〜
謎の城『ヘブン・クラウド』が現れてから早数日。人里では大きな事件も無く元の平穏な日々が戻りかけようとしていた。
「慧音さん、もうある程度は外出を許可しても良かろう?」
「そうだな…………虫の大群以来、大きな事件も無い。とりあえず、夜間以外の外出を許可してもいいでしょうね」
「ふぅ…………これで、里の者も仕事を始められる」
里長と慧音さんの話し合いにより、警戒がある程度解除された。肝心の城は未だに浮いたままだが。
里長との話し合いの後、慧音はもう一度西欧の歴史書を読み返していた。
「ここに置いての魔王城は魔力を"供給する装置"か…………ん?"供給"?それだと、何処に魔力を溜めてるのだ?ここには魔王城に魔力を溜めていたとは書いていない…………しかし、そもそも作り話の可能性もあるな…………」
魔王城の謎を考えている慧音の元に訪問者が。
「お邪魔します。慧音さんはいますか?」
「ああ、こっちだ。何か分かったのか?」
「いいえ、さっぱりです。神奈子様や諏訪子様に聞いてみてもそんなのは知らないと。慧音さんは?」
「確信では無いが…………可能性としてこれもありうると言う事なんだがな、この歴史書に置いては魔王城はただの魔力を供給する装置で溜めておく物では無いだろう、という事がわかるのだが…………この歴史書に書かれてある事自体、作り話の可能性もある」
「でも、確かめてみる価値はあるんじゃ無いでしょうか?」
「そうなんだが…………仮に魔力を溜めている装置を見つけて破壊するとする。だが、あの城はどうやって浮いている?可能性としては魔力を使って浮いていると考えた方がいい。魔力を失った場合、城は墜落する」
「あ!城の中には勇人さん達が!」
「そうだ。急に落ちたりでもしたらただじゃ済まない」
「それでは…………どうしたらいいのでしょうか?」
「早苗の言う通り、確かめる価値はあると思うぞ。それに完全に破壊するのでは無く、城が浮く程度の魔力を残すようにすればいい。まぁ、あの城の意味はまだ分からないがな」
「それは勇人さん達が解明してくれますよ!!」
「フフ……そうだな」
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〜ヘブン・クラウド 6F〜
「はぁ〜〜、疲れた…………」
情けない声と共にその場にへたり込む。今のショットで2丁拳銃は完全にイかれた。もう、霊力を撃ち出す事でさえできまい。
「イタタ…………急に動くのは良くなかったようじゃの…………歳はとりたく無い者じゃ」
「その割にはとても機敏でしたよ」
2人はまだまだ大丈夫なようだ。まぁ、そもそも人間では無いからな。俺よりは頑丈だと思うぞ。もう、俺はついに肋骨が折れて、内臓も傷ついてほぼ満身創痍だ。
「終わったようだな…………」
「ああ、京谷か。周りの奴らは?」
「生き残りはああなっちまったよ」
と京谷が指差す先には
「お頭!目ェを開けてくださせェ!」
「いつもの様に強き者が絶対だと教えてくだせぇ!」
『お頭!』
「人望も厚かったようだな」
「誰よりも野心家で、豪快な奴だったからな。慕う理由も分からんでもない」
ライカンにさえならなければきっと素晴らしいリーダーとなれたのかもしれない。しかし、当の本人はライカンになった事を後悔していないらしい。いつの時代にも力は魅力的な者なんだろうな。
「イテテ…………」
立とうとすると、怪我した場所に痛みが走る。
「お前、怪我してんのか?見せろ」
「別に大した怪我じゃないさ」
「大した怪我じゃよ。肋折れて内臓も傷ついて何を言っておる」
「少し動くなよ」
と京谷は俺の怪我した場所に触れる。
「あれ?痛みが…………」
「もう怪我なら治してやったぜ」
「それもスタンドか…………」
全くもって便利だな。
怪我も治った所で次に行こうとした矢先
「待ちやがれ!」
1人のライカンが声を荒げた。
「お頭の……お頭の!カタを取ってやる!」
『そうだ!』
1人に呼応し、残ったライカンがこちらに向かおうとする。
それに合わせ、俺らは構える。が、
「待て!お前らはお頭の信念を知って、カタを取ろうとしてるのか!?」
「…………!」
1人のライカンが周りのライカンを制した。
「お頭は常に言ってただろう!強者こそが絶対と!お頭に勝ったこいつらは強者だ。俺らがカタを取る理由なんて無い…………」
「ぐ…………ッ!」
「とっと行きやがれ!俺らの気が変わらねぇ内に!」
「……そうさせてもらう」
歯を食いしばり、拳をワナワナと震わせるライカン達を後に次の階へ進むのだった。
「今回の敵は誰よりもカッコよかったのかもな…………」
「そうだな。お?もしかして憧れちゃったり?」
「…………さぁな」
確かに京谷は強い。咲夜も強い。妖夢だってそうだ。でも、果たして、俺は彼らの言う強者なのだろうか?
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「お頭ぁ……」
「泣くな!お頭の前で……泣くな!」
「お前だって……泣いてんじゃねぇか……」
「泣いて……なんか……いない!」
「……俺らは、どうしたらいいんだ?」
「受け継ぐしか無い。お頭が目指した帝国を俺らで作るんだ!」
「お頭がいねぇんじゃ、何も出来ねぇよ……」
「居なくてもやるしか無い!強者が絶対だと俺らが示すしか無いんだよ!」
「……そうだ!やるしか無い!」
「…………終わってたか」
「誰だ!また戻って…………シアンさん!?」
「ん?誰だ?シアンって」
「ソネさんの仲間だよ」
「ああ…………そういえば、お頭と知り合いだったな」
「グントラムは死んだのか?」
「ええ……お頭は……」
「そうか、ソネが残念がるな。お前らも相当悲しいだろ?」
「そうです……でも、俺らはお頭の意思を受け継ぐと決めました!」
「どうするつもりだ?」
「兎に角、この城を出て外で一からやり直します!」
「…………それは出来ないな」
「え?」
「お前らは全員ここで死ぬからな」
ザーッ
「な、なんだ?部屋がだんだん黒く…………」
「あれは…………色が変わってるんじゃ無い!虫の大群だ!」
「ウアァァァァ!!」
「虫!?人を食う虫だと?!」
「こいつ!これでもくらえ!」
ザクッ
「ひっ!?な、なんだ?お前の体は!?」
バリゴキグシャグシャバリバリガツガツ…………
「逃げろ!退却だ!退却!」
「何処に行くつもりだ?」
「お、お前は!は、ハキ ガブッ!
ベキバキボキボキ…………
「……………………」
「おい、ソネは食わないのか?こいつら、普通の人間よりも歯応えあってうまいぞ、まぁ、毛が多いが」
「ははは、いや、私は結構。死体はある程度残してください。何かに使えるかもしれません」
「いや…………それは…………無理かもな」
「シアン、がっつきすぎですよ」
「…………勇人はどこに行った?」
「上ですよ、魔王の魂ならここに」
ザーッ
「相変わらず食欲旺盛ですね…………」
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〜ヘブン・クラウド 7F〜
「何もねえ!!」
「確かにそうだが…………そのテンション、どうにかならんのか?」
「だって、何故か力がみなぎってんだよ!それなのに何もねぇ!」
「はぁ…………」
「げ、元気なのはいいと思いますよ?」
「限度があるだろうに…………」
それに、咲夜と腕を組んで歩いている。イチャイチャっぷりを見せつけられても困るのだが…………
「お前さんもすれば良かろうに」
「はぁ?」
「わ、私は構いませんよ…………//」
「お?ついに勇人もイチャつくのか?」
「そうよ、むしろ奥手すぎてこっちが砂糖吐きそうだわ」
まさかの味方無しだと!?無言で迫る妖夢、囃し立てる周り。
「……………………!」
「え?もしかして、怒っ パァン! う、撃つなよ!」
「ふむ?躊躇いのない、いい狙撃だ。私の体が5匹は死んだな」
「え!?」
「お、お前はシアン!」
「京谷!火だ!虫には火だ!」
しかし、すぐに群れと化し距離を取られる。
「やれやれ。これでは落ち着いて話もできん」
「お前らの目的は何だ?どうして、俺らを襲う?」
「貴様は家族はいるのか?」
「質問を質問で返すなよ」
「ああ…………そうだったな。貴様を魔王にする」
「「「「はぁ!?」」」」
「勇人が魔王?冗談にしてはキツイぜ」
「勇人さんがそんな事する訳ないです!」
「守るべき人々、友人…………大事にしていたものが、目の前で壊されるのは辛いぞ。それに対して、何も出来ない無力さにお前は、耐えられるかな?」
「はぁ……そんなやり方で俺を脅しても、もし俺が魔王になれば最初にその力でお前を殺すぞ」
「むしろ、そうであってほしいね。そして、その力を一度手に入れればもう捨てる事は出来ない」
「自ら命を絶つかもしれないし、どこか山奥に閉じこもるかもしれないぞ?」
「それは無理だな。お前は私と同じで責任感がある。自分に何か出来ると知れば、世界に対して何かをやらずにはいられない」
「お前と同じにしないでくれ、バケモノ」
「とっと燃えやがれ!」
強烈な熱気がシアンを襲う。しかし、虫の大群となり回避される。
「ところで、ネズミ算というのを知ってるか?」
「「??」」
「私が魔族になってそれなりの年月は経っている。最初は数千匹だった体も、今では随分と増えた」
「だから?全て殺してしまえばいいだろ?」
「ほら、後ろを見たまえ」
ザーッザーッ
俺の後ろに黒い煙がたつ。いや、黒い煙に見えているのは全て"虫"だ。
「だいたい270万匹と言ったところか?」
「勇人!そっから逃げろ!」
京谷が叫んだ時には遅く、俺は虫の大群に囲まれてしまった。
「勇人さん!」
「くそッ!数が多すぎる!処理しきれねぇぞ!」
回転式拳銃で応戦するが、焼け石に水。全くもって数を減らす事が出来ない。
「こうなったら!」
自分の周りに不変の空間を作る。そして、群れの中からどうにか脱出する。
「ほら!ここだ!早く来い!」
京谷が炎のバリケードを張っている所に向かう。そして、何とか辿り着く。
「よし!大丈夫か?勇人…………?」
「ゴフッ…………」
「勇人さん!」
俺の胸にはぽっかりと穴が開いていた。虫で食い破られて。どうやら、俺は着く寸前に油断して能力を解除してしまったらしい。
しかし、京谷はすぐに穴を直した。
「だ、大丈夫か?勇人?」
「も、問題無い…………!?」
傷は治った。でも、体がおかしい。何故か胸が苦しい。頭が割れるように痛い。
「安心しろ、貴様には魔王の魂を入れてやった」
「何だと!?なら、今すぐ取り出せば…………」
「やめといた方がいい。心臓の一部を食い破ってそこに取り付けたからな。魔王の魂はもはや、心臓の一部だ」
「ウゥ……お、俺は大丈夫だ……」
「まだ、意識はあるか…………それは記憶を侵食出来る。もう時期、私達が作り上げた記憶に擦り変わる」
「「「!?」」」
「勇人!自分を保つんじゃ!」
「…………ス」
「ど、どうしたんじゃ?勇人」
「コロス、コロスコロスコロスコロス!」
「勇人さん!」
「……!!お、俺は?」
「そうだ!真実を上書きすれば!」
ザーッ
「な?虫!?火があるはずだぞ?」
「こ、これは!ボール状に固まって突入してきとる!外側の虫だけしか死んでおらん!」
「ひとまず引くぞ!」
「勇人さん!」
「どうした、勇人…………!?」
「意外にもここまで精神的にもタフとはな…………」
「勇人を離しやがれ!」
「こいつは魔族の平和に必要だ」
「ま、待ちやがれ!」
ザーッザーッ
「勇人!くそッ!邪魔だ!」
「…………京谷…………妖夢…………じいちゃん…………!」
「まだ意識があるとはな。まぁ、お前には才能があるからじきに馴染む」
薄れていく意識の中、ただ妖夢達を見ることしかできなかった。