諸行有常記   作:sakeu

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第85話 過労の日の少年

 

なんという事だ…………俺は軽く絶望した。

 

釈明する事は出来ない失態である。

 

そもそも、俺が悪いのではなく環境が悪いんだ。環境が。だいたい俺のような真面目な子が初っ端からやらかすような事に追い込められたんだから、その環境の酷さがわかる。あ?お前が真面目じゃないだろ?細かい事はいいんだよ。

 

まぁ、真面目だろうがじゃないだろうが緊急事態である。

 

その緊急事態に気づいたのは、つい先刻の事だ。

 

 

 

 

今夜は宿題の丸つけと作成の日である。

 

机の上にはチルノ達などの人外用の宿題や里人用の宿題が山をなし、半分も終わっていない。宿題の問題は粗方考えたが人数分の作成を終えていない。

 

時刻はすでに夜11時。いや、朝までまだ10時間もあるじゃないか。俺は漸く半分終えたところで横になり溜息をついて天井を眺めた。

 

すると、意識は徐々に薄くなり…………

 

 

 

 

「…………はっ!」

 

 

いかんいかん、寝てる場合じゃなかった!

 

時計に目をやり、時間を確認した瞬間戦慄した。

 

しまった!

 

時計は無慈悲にも5時を示していた。

 

慌ててさらに2度確認するが時間が戻るわけもなく、刻々と時は過ぎていく。今日の授業は8時からなので単純計算で残り3時間。

 

 

「マジかよ…………寝過ごしちまった…………」

 

 

まさに血を吐くような思いで言葉が漏れる。

 

 

昨日の朝からずっとやってたんだ。この小さい体でも鞭打って、早苗にも時々手伝ってもらいながら。しかし、2日サボったツケを1日で取り返すのは大変である。時間感覚が狂い、食事したかどうかまであやふやになるような状態で必死に丸つけや作成をしているうちに夜の11時…………。挙げ句の果てには寝過ごし朝の5時。

 

時計を一瞥した後、ギリギリまで粘ろう、いや生徒達に謝って明日にしようかと迷いながら右往左往していると朝日が窓から漏れる。

 

なんと気持ちのいい朝…………なんて思うわけもなく、眼前の宿題の山を睨みつけて、零した。

 

 

「しょうがねぇ…………」

 

 

絶望した時にはいっそ笑みが漏れると言うがまさにその通りの状態となり

 

 

「やってやろうじゃねぇカァァ!」

 

 

言うまでもない事だが、間に合う事はなかった。

 

 

 

 

補足をしよう。

 

俺は体が小さくなってから既に一週間過ぎている。そう、一週間過ぎている。大事な事なので二回言った。

 

本来なら俺の体は既に元に戻っているはずである。実際に一週間経ったら永遠亭に行き永琳さんから薬を貰ったのだ。しかし、その薬は効かなかった。

 

 

「あら、本当に強力ね、この薬…………これはその薬を解析しないと解毒剤は作れないわ」

 

 

その声を聞いた途端俺は気絶したと言う。その間にも鈴仙に会う事が無かったのが幸いか…………

 

まぁ、永琳さんの言葉を要約すれば鈴仙からどのように薬を作ったのか聞けという話である。

 

体は元に戻らない。しかし、仕事は待ってくれないのである。戻らないのならその状態で仕事をするしかないと思った矢先軽く熱が出て2日ほど寝たきりだったのだ。

 

早苗が看病してくれたので良かったものの…………ご覧のように仕事が溜まったわけである。

 

さて、再び宿題の丸つけに取りかかれば、いつもながら回答は色々である。答えは1つしか無いのに。

 

単純な計算ミスや、公式をしっかり覚えていない、そもそも解く気がない、あたいったらサイキョーね!…………などなど。

 

 

いくら大きな里だと言えども現代の日本などに比べれば過疎に近い地域のはずなのに、どこにこれだけの子供がいるのか疑いたくなる。妖怪も混じってはいるが…………それでもどこから出てくるのだ?と変な妄想をしてしまう始末である。

 

それくらいに丸つけの量が多いのだ。

 

その多い生徒を俺と慧音さんの2人だけで対処している。

 

無茶だと思うだろ?

 

無茶なんだよ。

 

その無茶をどうにかして切り回しているのが今の寺子屋の現状である。

 

別に寺子屋が人気になっている事を恨んではいない。寧ろ、喜ばしい事である。俺が先生として入ってきたばかりの時よりも生徒は増え素直に誇らしい。

 

しかし、今の体では厳しのだ。それでもやらなくてもならない。

 

まぁ、それが世の中だと言われればそうなのだろう。

 

そう考えながら丸つけをする。

 

 

マルマルマルマルマルマルマル…………いや、ここはバツ。マルマルマルマルマルマル…………

 

マルマルマルマルマルマル……………………

 

 

「勇人さん、何をブツブツ言ってるのですか。もう時間ですよ」

 

 

不意に台所から早苗の声がした。いつの間に…………ってもう7時か。それにしても自然に俺の家に入る辺りもう当たり前のようになっている。実際に朝ごはんを作ってくれるし、寺子屋に連れて行ってくれてありがたい話だが…………

 

 

「ああ、いつもありがとな」

 

 

と言い、リビングに行けば朝ごはんが準備されていた。

 

 

「お仕事も大切ですけど体も大切にしてくださいね。体が小さい上に病み上がりなんですから」

 

「んー…………しかしだな、やらないと生徒達が困るし何よりも中途半端にしたく無いからな…………」

 

 

こればかりは自分の性分が許さないのだ。何事もやり切る。たとえ不恰好でもやり切りたいのが自分の性分なのだ。

 

 

「そういうところは勇人さんの美点ですが…………体が壊れてしまっては本末転倒ですよ?」

 

「ハハ…………そうだな、気をつけるよ」

 

「そうしてくださいね。あ、ほっぺにご飯粒が」

 

 

と俺の頰からご飯粒をとり食べる早苗。はたから見れば親と子もしくは年の離れた姉弟か。

 

朝ごはんを食べ終え、支度し早苗と共に寺子屋へ向かう。

 

丸つけを終える事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

疲れた…………

 

職員室の机の上で突っ伏して時計を見れば3時過ぎ。あと一コマの授業がひかえている。

 

今日は生徒への謝罪から始まる授業だった。しかし、見た目というのは大事なものである。この状態になって授業をするとそれを痛感せざるおえない。

 

この姿だと中々生徒は言う事を聞かないのだ。それ故に労力の量は増え、比例するかのように疲労も溜まる。

 

労力(=x)と疲労(=y)の関係を式にするならy=xか?いや、今回は通常の二倍ぐらい疲れがたまっているからy=2xか。いや、そもそも今日は朝から疲労が溜まっていたから、朝の分(=b)を考慮すると…………y=2x+bか。あ、労力がマイナスになる事は無いからxの範囲は x>0か。だと…………y=2x+b(x>0)だな。

 

 

「さっきから君は何をブツブツと呟いているんだ?」

 

 

ふいに声がかけられる。首だけ動かして見ると慧音さんがいた。

 

 

「自分の疲労の公式を立てたところです…………俺の疲労はy=2x+b(x>0)で溜まっていくんですよ…………」

 

「そ、そうか…………すまないな。いつも無理をさせて…………」

 

「いえ、元凶は蓬莱ニートですので」

 

「無遠慮に人を貶す辺り相当疲れているようだな」

 

 

と慧音さんのは俺の机の上に湯呑みを置く。

 

ありがたくそれを頂戴し、一口飲む。

 

緑茶の香りが疲労した脳をリラックスさせる。早苗や妖夢はお茶を淹れるのが上手だが、慧音さんもとても上手い。自分ではどうにも美味しくならない。

 

 

「まぁ、君の授業はとても楽しいと評判だからな。それに何か新しい授業を始めたそうじゃないか」

 

「ええ、理科という授業を…………」

 

 

とりあえず、電気についてから始めた。外の世界から流れ着いたガラクタから手回し発電機と銅線、豆電球を引っ張り出し実際に実験して見せた。

 

ここは電気を使う文化は無いのでみんな興味津々にみていた。

 

 

「今日も後1つだ。頑張ってくれ」

 

「…………はい」

 

残りの緑茶を一息に飲み干して、俺は授業へと向かった。

 

 

 

 

 

 

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教材を両手で抱え教室へと向かう。

 

 

「こんにちは勇人先生」

 

 

と礼儀正しく大妖精が。

 

 

「今日は何をするのだー?」

 

 

と両手を広げているルーミア。何故あのポーズをとるのかは謎である。

 

 

「まだ小さいままなんですね…………」

 

 

と憐れみの目で見るミスティア。

 

 

「私達じゃどうしようもないしね…………」

 

 

と残念そうに語るリグル。彼女はどうにか解決案を考えてくれてたようだ。ありがたい話である。

 

 

「紫しゃまもお気の毒ねと言ってましたよ」

 

 

とやや舌足らずの橙。多分、紫さんに関しては気の毒という思いよりも面白がっていると言った方が正しいだろう。

 

 

「別にこのままでいいんじゃない?面白そうだし」

 

 

とみんなが気遣ってくれる中空気の読めない発言をするチルノ。

 

 

「ダメッ!絶ッッ対にダメ!戻ってもらわないと!」

 

 

と全力でチルノの発言を否定してくれるフラン。

 

 

「えー、可愛いからこのままでもいいと思うよ」

 

 

と無意識に俺のプライドを破壊するこいし。

 

…………と彼女らの教師を勤めているわけだ。

 

とは言っても彼女らは皆俺よりも圧倒的に年上だから驚きだ。そもそも彼女らは人間じゃないが。

 

このような癖の強い彼女らに授業を始めるのだった。ここだけ疲労の公式をy=3x+b(x>0)にしておくか。

 

 

 

 

 

 

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夕日が空に映える。

 

景色が示すようにもう夕方だ。先程の2つの疲労の公式通りに俺の疲労は相当な量と化した。

 

今は妖怪の山の八合目辺り。視界には赤い夕日と緑の森が広がっている。

 

そう、今は守谷神社にいる。

 

 

八坂神奈子様と洩矢諏訪子様を祭神とする神社で早苗が風祝をしている。山にある神社ではあるが境内は広く本殿も大きい。俺もかつてお世話になった。

 

何故そこにいるのかと言うと家と寺子屋の移動は早苗が俺を抱えて行うため早苗の存在が今は必要不可欠であるが、その途中で早苗に少々用事があると言うことでここに寄った次第である。

 

 

「久しぶりだね、見ない間にすっかり変わっちまって」

 

 

と振り返ればその祭神である諏訪子様がいた。

 

 

「お久しぶりです。が、この体は薬によって…………」

 

「はいはい、分かってるさ。早苗から聞いたよ」

 

「さいですか」

 

「しっかし、小さくなっても相変わらず忙しいみたいだね」

 

「ええ、お陰で寺子屋は大人気。ほぼ毎日授業ですよ」

 

「ま、それが君らしいといえば君らしいね」

 

「諏訪子様も相変わらずのようですが」

 

「まぁまぁだね。人間とは違って人生が長いからねぇ。気楽にやってるよ。と言うわけで早苗とは結婚しないのか?」

 

「まだ、そんな歳じゃないですよ」

 

「ありゃ?えらく冷静に返すねぇ。だとしても今の早苗はもう通い妻状態じゃないか。いっそ事実婚にするか?」

 

「ふぁ…………そんな事を簡単に言わないで…………くださいよ」

 

「君も罪な男だねぇ…………ま、兎に角頑張りたまえ」

 

「ふぁい…………」

 

 

諏訪子様の言葉も徐々に頭に入らなくなっていくほど眠くなってきた。早苗まだかなぁ…………

 

 

 

 

「お待たせしました!勇人さ……ん?」

 

「おお、早苗。やっと戻ってきたか。彼なら寝ちゃったよ」

 

「すみません…………おんぶしてもらって…………」

 

「いや、いいさ。こういうのも新鮮だしね」

 

「幸せそうに寝てますねぇ…………」

 

「そうだね。早苗に子供ができればこんな事も出来るんだろうな」

 

「……ッ//!?こ、子供!?ゆ、勇人さんとの子供!?」

 

「やっぱり勇人一択なんだね…………」

 

 

 

 

 

「ありがとな…………早苗…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 元凶現る

 

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