諸行有常記   作:sakeu

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第86話 解決の日の月兎

忙しい日々の中で急に休日が来ると何をすればいいのか分からない、何もしなくてもいいのか、と所謂ワーカホリック日本語で言えば仕事中毒という言葉がある。その名の通り仕事に熱中し過ぎるあまりに自分の生活に顧みらない状態である。

 

日本の社会問題の1つだとかよく言われるものであるが…………どうやら俺も軽くその状態らしい。

 

確かにここ最近の寺子屋での仕事は忙しい。前は寝ない日もざらにあったが流石に今の体でオールナイトは厳しい。しかし、それでも俺の疲労は解消されず蓄積しているようで慧音さんからは

 

 

「大丈夫か?顔色がだいぶ悪いぞ?」

 

 

と言われ即休日を言い渡されたばかりである。

 

そういう事なので休日だから何をしようかと考えたのだが…………どうにも思いつかないのだ。睡眠なら昨日早寝し、遅起きしたので十分にとった。問題はこれからの過ごし方であるが…………読書、ランニング…………

 

持参した本は全て読んでしまっており、既に何回か読み直している。紅魔館の図書館に借りに行くという手があるが今の状態では紅魔館にまで行けやしない。よって、読書は却下。

 

ランニングは…………これは論外だな。この体で妖怪の山を走る事なんて自殺行為同然だ。よって、これも却下。

 

なら、部屋の掃除は…………早苗がしてくれてるのでこちらがする余地もない。

 

無論、休日は今日のみである。しかし、余裕のある日がいつ次が来るかは分からない。

 

こういう日を慌てて過ごすなどは愚の骨頂である。自分の部屋で、コーヒーを味わう時間があってもいいだろう。…………今はココアだが。味覚も子供になってるらしい。

 

早苗は何やら博麗の方で用事があるらしいので来ていない。妖夢は妖忌さんとの修行で来れない。つまりは1人だ。

 

ひと気のない部屋で椅子に腰を下ろし、のんびりと一息ついたところで、いきなり玄関から戸を叩く音が響いた。ため息交じりに立ち上がり、カップを置き玄関へと向かう。

 

だいたいこの時間に誰だ?可能性としては文の可能性が高い。

 

玄関に着き、戸に手をかけ開ける。

 

「すまんが、新聞は必要無いぞ」

 

「おはようございます、勇人さん」

 

 

バタン

 

 

俺は相当疲れているらしい。俺の家を知らないはずの鈴仙が見えたんだからな。やはり、休暇は大事なようだ。

 

だと、あの幻覚は誰だ?確認の為にもう一度戸を開ける。

 

 

「おはようございます、勇人さん」

 

「お、おはよう、鈴仙」

 

 

バタン

 

 

熟睡しているところを叩き起こされた衝撃である。リアルで鈴仙だった…………

 

しかし、いくら衝撃を受けようが幻想郷の洗礼を受けた俺が慌てる事は無い。このくらいの事で動揺はせん。

 

だからと言って、これっぽっちもこの状況を変える事は無いが。

 

俺は向きを180度変え、飲み残したココアを取りに行こうとした。

 

 

「おはようございます、勇人さん」

 

「ああ、おはよう、鈴仙」

 

「朝ごはんは食べましたか?」

 

「一応、ココアをだな…………」

 

「それだと体に悪いです!私が作りましょう!」

 

「そうか、ありがと…………な……………………鈴仙!?」

 

 

え?え?確かに外にいて戸は閉めたはず…………どうやって中に入った!?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

体の幼児退行。

 

現実ではとても考えにくい事だ。しかし、ここは幻想郷。不可能では無い。そう、気が付けば鈴仙が部屋に入るのも幻想郷ならあり得る話だ。

 

鈴仙は台所で朝食を作ってくれている。

 

しかし、それが少々問題だ。彼女の事だから何やらかの薬が入っている可能性が無いとは言い切れない。されとて、確認する手立てがあるわけでも無い。

 

そんな事を考えればブレザー姿が目に入る。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう…………」

 

 

机の上にはご飯と味噌汁と焼き魚。見た目からして問題もない。食材も全て俺の家にあったものだ。だが、見た目で薬が入っているかどうかは分からない。

 

とりあえず、1番薬が入っている可能性のある味噌汁から俺は手をつけた。

 

 

「…………美味しい」

 

「フフ、そうですか?」

 

 

どうにも俺の周りの女性陣は家事が上手だ。俺とて最低限の事は出来るがここまで美味しくは出来ない。

 

味からして薬の入っている感じはしない。俺とて体は色々な耐性がついている(永琳さん談)らしいので少量なら効かないだろう。

 

だから、鈴仙の作った朝食をありがたくいただこう…………と思うのだが…………

 

目の前には両手で頬杖をし、こちらをじっと見る紅い眼。その目はどこか恍惚の感情が含まれている。

 

 

「…………なぁ、俺の顔に何か付いているか?」

 

「いえ、付いてませんよ」

 

「そ、そうか…………」

 

 

何というか…………じっと見られると落ち着かない。それに鈴仙には聞かないといけない事がある。

 

言うまでもないが幼児退行化させる薬の件についてだ。いい加減に元の体に戻らないと迷惑がかかってしまう(現在もだが)。

 

 

「れ、鈴仙、とりあえず朝食ありがとな。感謝するよ」

 

「礼には及びませんよ。好きでやってますから…………それに毎日作って欲しいなら私は全然構いませんよ…………//」

 

「お、おう…………考えておくよ…………ところで、話が変わるのだが…………」

 

「何です?」

 

「そ、その…………だな、この体にさせたあの薬の事なのだが…………」

 

「あ!そうでした!解毒剤ですね?」

 

「え?」

 

「勇人さんが小さくなってしまったというお話を聞いて解毒剤を必死に作ってました!」

 

「おお!そうか!なら早速…………」

 

「でも、この解毒剤作るの大変だったんですよね…………」

 

「ん?」

 

「最近はまともに寝られない日も多かったです…………」

 

「そ、そうか…………それは大変だったな…………」

 

「なのに師匠は相変わらず人使いが荒いです…………」

 

「…………」

 

「そんな中でこの薬を完成させたんですよ…………」

 

「…………何をして欲しいんだ?」

 

「今日1日私に甘えてください!」

 

「は?」

 

 

何ともマヌケな声が出たと思う。しかし、この兎さんは何を申すのか?

 

 

「ですから、私に甘えてください!」

 

「しかし…………」

 

「聞きました。早苗がずっと勇人さんの世話をしていた事を…………肩車とか抱っことか挙げ句の果てには膝の上に座らせたりとか…………羨ましい!」

 

「だがな…………」

 

「そして、今日は勇人さん1日暇なのでしょう?いいじゃないですか!」

 

 

しかし、人に甘えるというのは…………気が引けるというか、何というか…………慣れてない?

 

 

「たまには人に甘える事を覚えた方がいいですよ?」

 

「だか…………」

 

「大丈夫です!いつも頑張ってるのですから甘えたってバチは当たりません。さぁ、永遠亭へ行きましょう!」

 

「そうだな、言葉に甘え…………永遠亭?」

 

 

気づいた時には既に鈴仙に抱きかかえられていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに…………ついに、無傷の状態で永遠亭に来た…………

 

永遠亭に来て早々そんな事を考えてしまう。しかし、過去永遠亭に訪れてまともな状態で来た事が無いのだ。

 

様々な怪我を負いこの永遠亭に来、永琳さんに採血または訳のわからない薬を投与されたりと散々だ。

 

とつまらない事を考えていたら永琳亭の中に入っていた。無論、まだ鈴仙の肩の上だが。

 

 

「あら、また怪我でもしたのかしら?」

 

「いえ、今回は…………今回こそは怪我以外のみの用件です」

 

 

永琳さんの第一声がアレなのだからいかに俺が怪我してたのかが分かる。もう少し自分の体を労わるようにしよう。

 

 

「あれ?鈴仙から解毒剤を貰ってないのかしら?」

 

「その為にここに来たんです」

 

「ふーん…………ああ、成る程。結婚するのね?」

 

 

いきなりぶっ飛んだ事をこの医者は言いやがった。

 

どの過程を踏んだらそうなるのだ。

 

 

「そういう事では無いです」

 

「あら、てっきりウドンゲに解毒剤を渡して欲しいのなら条件として結婚を提示されたかと…………」

 

「だいたい当たってます」

 

「ま、そんな事はいいわ」

 

 

そんな事という言葉で片付けられたよ、チクショー。

 

とりあえず、俺は鈴仙に降ろしてもらった。

 

 

「あ、勇人じゃん、元気か?」

 

「この体を見てそう思えるのか君は?」

 

 

何処からともなく全ての原因の輝夜が現れた。もう、こいつのせいでどれだけ苦労してる事か…………!

 

 

「フッ、元に戻った時は覚えとけよ!」

 

「はいはい、怖い怖い」

 

「そう言いながら頭を撫でるんじゃねぇ!」

 

「いいじゃんいいじゃん、減るもんないし」

 

「本当に覚えとけよ…………ッ!」

 

「で、鈴仙は勇人を連れて来てどうするつもりなの?まさか、食べる気?」

 

 

食べるの意味は深くは聞かない。ていうか聞きたくない。

 

 

「そ、そんな訳無いじゃないですか!…………確かに食べちゃいたいくらいには可愛いですけど…………す、少し勇人さんに構ってもらうだけです!」

 

「…………そ、そう。それじゃあ勇人頑張ってね〜」

 

 

頑張ってねって何をだよ。

 

 

「と、とりあえず私の部屋に行きましょう!」

 

「え、ちょっ…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあ…………可愛いですね〜」

 

 

今、ただ鈴仙の膝の上に乗せられひたすら頭を撫でられている。気持ちよくなんかないから…………別に気持ちよくなんか…………

 

 

「こんな見た目なんですから本当の昔の勇人さんは性格も可愛かったんでしょうね」

 

「まさか、ただのクソガキだったと思うぞ」

 

「ええ、そんな訳無いですよ」

 

 

小学校の時から可愛げが無いとか何を考えてるのか分からないとか色々と言われた事があるが可愛いとか言われた事がない。

 

小学校以前は…………んー…………何かあったけ?

 

怪訝な顔をする俺に

 

 

「どうしたんですか?」

 

「いやー、昔の事を思い出そうとしたんだけど…………中々思い出せなくて」

 

「そう時もありますよ。でも、そんな顔したら可愛い顔が台無しですよ!」

 

「うん、その言葉は男に送る言葉じゃない」

 

 

可愛い可愛いとか言ってたら、もう泣くぞ!?

 

 

「ふぁ〜、もう眠い…………」

 

「眠いんですか?なら、私の膝を枕に」

 

「それは…………悪…………いよ」

 

「今日は私に甘えると言う約束ですから、存分に甘えちゃってください」

 

「…………そうする」

 

 

あっという間に意識は深い闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜後日談〜

 

鈴仙はちゃんと約束を果たし、解毒剤を渡してくれて元に戻った。その時に何人か残念がったとか無かったとか。

後、寺子屋は週に2日は休みが取れるように調整したらと提言した結果、週2日の休みを手にする事ができた。

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