今日も天気は曇り空、雨は降ってはいません。
ジメジメした空気がより一層気分を下げます。
「失礼だと思うが、竜宮の使いさんはいつまでここにいるつもりで?」
頭に大きなコブを作って平然と言うその姿は些か滑稽なものです。
時折、そのコブに触っては「痛っ」と呟き涙目になります。私としてはそのコブをよりも散らかった部屋に気をかけた方がいいと思うのですが。
「そうですね、貴方に幾つか質問をしてから帰らせて貰います」
「んー…………俺の事を知っても何の役にも立ちやせんと思うが、いいぞ」
「では、まずなんでここに住んでるのですか?」
なんでそんな事を聞くのか?とでも言いたげな目をする彼から出た言葉は
「んー…………特に理由は無いな…………そもそも、どこかに住むのに規定とかあるのか?」
質問の答えとしては質問で返しているのでいいとは言えませんが言っていることは確かにそうです。しかし、紅白の巫女や白黒の魔法使いならまだここに住むのは分かりますがただの青年がここに住むのは…………
「別に防衛手段はあるんだから問題無いと思うが」
と彼は懐から何やら見慣れない黒い何かを取り出します。飛び道具でしょうか?
「で、他に質問は?無いなら帰ってくれ。片付けをしなきゃならないからな」
「なら手伝いましょう」
この言葉に彼は驚いた様だが1番驚いたのは私自身である。
基本的に私は他の人の行動にあまり興味を持たない。しかし、彼の態度、竜宮の使いである私と面して物怖じするどころかいたって普通の態度、この妖怪の巣窟の山に住んでいるというのに余裕な態度。彼の死んだ目の奥には何が宿っているのか。珍しくも私はそんな事に興味をひかれてしまったのです。
「いや、悪いし手伝わなk「手伝いましょう」…………言葉に甘えさせて貰います…………」
なぜここの女性は強引なのか。物好きもいるもんだなぁ。とぼやく彼。きっと、彼が好きになった人は苦労するでしょう。
しかし、この後私は彼にとっても予想だにしなかった事態に遭遇します。
まぁ、私にとっては転機の一事でありますが。
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片付けが一通り終わり一息ついている時でした。
碓氷さんにお茶と菓子類を出して貰いありがたく頂戴している時に玄関から大声が聞こえたのです。
「勇人!」と叫ぶ声が聞こえ、続いて戸をバンバンと叩く音が響きます。
「ちょっと、そんなに叩くと…………」
と、言い終わらぬうちにバターンと戸が派手に外れて1人の影が入り込みます。
「ああ…………」
額に手をやる彼、駆け寄るのは人里に住む半妖です。
「ど、どうしたんですか慧音さん。そんなに慌てて」
「勇人、大変だ。すぐに来てくれ!」
常日頃、冷静沈着な半妖が珍しくも慌てふためきながら叫びました。
「寺子屋が…………!」
彼の死んだ目がこの時は見開かれ、絶句しました。
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「寺子屋」に移動するとそこには崩壊した瓦礫と化してました。
半妖ーー上白沢慧音の話では再び地震が起き寺子屋が崩壊したと聞きましたが…………これは…………
そして、その地面を見た時私は思わず手を額にやりました。寺子屋は人里でも端の方に位置し周りには建物がほとんど無い為か寺子屋のみが被害を受けた状態でした。
こんな、局所的に地震が起きたとは考えにくいはずなのですが…………心当たりがあり、言うべきか迷います。
「寺子屋には誰もいませんでしたか?」
「私だけだ。しかし、これでは…………」
「それにしても妙ですね…………ここだけ被害を受けるなんて…………」
ここにきて冷静な判断をするあたり緊急事態には慣れている様です。しかし、どうしましょう…………
「どうしますか…………萃香さんにでも頼んで建て直して貰いますか?」
「しかし、その萃香を探し出すのは大変だぞ?人里の人達に頼むしかあるまい」
「そうなると…………しばらくお休みですね」
「ああ、連絡はすでにしてある」
「となると
「誰がしたか?人為的な原因なのか?」
「そうでしょう。最初寺子屋に来る前に人里の真ん中の方を通ったのですが何の被害も無かったんですが…………ここだけ被害が出るのはおかしいです」
するとそのタイミングで、何処からともなく声を掛けられます。
誰だ?と彼はその声がする方へと向きます。
「天にして大地を制し、地にして要を除き、人の緋色の心を映し出せ」
そう言い立つのは青いロングヘアに真紅の瞳を持つ少女です。少女と一口に言えど、目には自信を通り過ぎて過信に満ち溢れ、どこか人を小馬鹿にする様な顔を彼に向け
「最近有名な教師ね?漸く見つけたわ」
いきなり、桃の実と葉のついた帽子を被った少女に話しかけられたものですから、彼は些か面食らって黙っている内に、天人くずれは御構い無しに付け加えます。
「私は天界に住む比那名居天子。毎日、歌、歌、酒、踊り、歌の繰り返し。天界の生活はほんと、のんびりしているわ」
何と言えばいいのでしょうか…………タイミングははっきり言って最悪です。なんせ、この様なことを起こせるのは彼女。つまり、人為的な原因なのなら犯人は十中八九比那名居天子こと総領娘様です。
そんな彼女に碓氷勇人はギロリと睨みながら
「何だ?忙しい俺に当てつけか?」
「何言ってるのよ。退屈だって言ってるの!だから、貴方が地上で色々な妖怪相手に遊んでいるのを見てきたわ。それに霊夢とも」
「遊んでいる?何言ってんだ?」
「それを見て、ちょっと貴方に興味が出たの。まぁ、衣玖が珍しく人に気をかけているからちょっかい出そうと…………って、衣玖もいたのね」
「ええ。しかし、また勝手に地震を起こされると困るのですが…………」
「別にいいじゃない。被害はここだけなんだし」
「そういう問題じゃあ…………」
「あー!もう、うるさいわね!今は暇つぶしにこいつと遊ぶんだから!」
「…………じゃあ、あんたがこれをやったんだな?」
先程よりトーンが低くなり、彼の方を見れば、感情というものが剥がれ落ちた様な無表情な顔がそこにありました。
「ふ、ふふ。そうよ?」
一瞬、総領娘様は怯みますがすぐに立て直し、自分への自信と相手を見下した、いつもよ総領娘様の姿に戻ります。
「(寺子屋を壊し、あいつを怒らせて戦いに持ち込む作戦成功かしら?)」
「はぁ…………仕方がない…………」
と彼は言うと総領娘様に近づき、鞄から何かを取り出そうとします。
「ん?もしかして、噂の貴方の自慢の銃かしら?」
総領娘様の予測は外れて、取り出したの一枚の紙でした。
「へ?」
「ほら、この原稿用紙一枚分に反省文を書け。それで今回の事は許してやろう」
「じょ、冗談はよしてよ!
「文句を言わずに書け。これでも相当頭にきてるんだぞ?これで許してもらえるだけありがたいと思え」
「へぇ〜、まるで自分が私より上みたいな言い方ね?
「天人というのは、こんなに腹が立つ様なやつなのか?」
「いいえ、総領娘様ぐらいしかいませんよ」
やはり、甘やかされ過ぎです。寺子屋を破壊して尚ここまでの態度をとるのはもはや、総領娘様にしか出来ない芸当でしょう。
「一体、どんな教育を受けたらこんなになるんだ…………」
「そういう貴方は自分がまともだと思えるのかしら?
「少なくともあんたよりは人格者だと思うよ。それに先生と呼ぶのを止めろ。そもそも生徒じゃないんだから呼ぶ必要は無い」
「別にいいじゃない。嫌なのかしら?先生?」
「お前の場合は先生、先生と言われるたびに阿呆、阿呆と聞こえてくるから不愉快だ」
「は、はぁ?」
「それに、俺を戦わせようとしているかもしれないがあんたがの煽りには簡単に乗っかるほど俺は阿呆じゃないんでな。その紙を持ってとっとと書いてこい」
と彼は総領娘様に背中を向けて立ち去ろうとしました。血の気の多い幻想郷では幾らかばかりか冷静な人の様です。
「ムキー!何よ!こうなったら!」
「総領娘様!?」
緋想の剣をどこからか取り出して、彼の背後から斬りかかろうとした瞬間、パァン!と乾いた音が鳴り響きました。
その時には総領娘様の手には緋想の剣は彼方へと飛ばされ、ただ、え?と言うのみ。何が起こったのでしょうか…………
「次、眉間だからな」
「ひぃっ!?」
し、信じられませんが…………私の目には総領娘様が、怯えている様に見えます。あの、唯我独尊の総領娘様が、怖いもの知らずの総領娘様が、怖がっているのです!
総領娘様の身体はとても頑丈で人間では傷すらつける事は叶いません。つまり、眉間を撃とうが総領娘様なら大丈夫なはずなのですが…………彼の目には本気で撃ち抜くーー明確な殺意が満ちています。
ーー本当に撃ち抜かれる、明確な根拠が無いのにそう思わずにはいられないのです。
今まで死さえも恐れない(恐る必要が無い)総領娘様が初めて恐怖というのを彼に抱いたのです。
「分ったなら、さっさと書いてこい」
「わ、分かりました!」
「総領娘様!?」
「い、衣玖!私、先に帰るから!」
脱兎の如く総領娘様は空へと飛びました。
「済んだか?勇人」
「本来ならフルボッコにしたいぐらいに頭にきてますが…………教師に悪評たったら生徒も来なくなりますし…………」
「そうか。しかし、あの天人にも困ったものだ…………」
「す、すいません。本当にすいません。後で総領娘様にはきつく言っておきますので…………」
「んー…………あいつの場合だと、きつく言っても効果が無いような…………」
うっ、まさにその通りなのです。誰が注意しても総領娘様は素行を改めようとはしません。
「一回恐怖を覚えさせた方がいいんじゃないか?」
「え?」
「まぁ、あいつの事よりも寺子屋の再建を萃香さんに頼まないと…………」
恐怖、それなら!私は今にも鬼を探しに行こうとする彼に向かって
「碓氷さん!」
「はい?」
「私から頼みたい事があります」
「頼みたい事?」
「どうか、総領娘様の教師となっていただけませんか!?」
「はぁ!?流石に無理だ!あんな奴の教師はごめんだ!」
やはり、断られますか…………しかし、ここで引き下がれば、再び総領娘様は我儘なまま。ここはどんな手でも!
「そうですか…………しかし、貴方、私に恩がありますよね?」
「へ?」
「ま・さ・か、教師でもあろう方が恩を返さないなんて事、しませんよね?」
「はぁ?ちょっと…………」
「それではいい答えを待ってます」
「お、おい!待て!」
人の良心を利用するのは気が引けますがそんな事言ってられません!きっと、彼なら総領娘様を更生させてくれるでしょう!
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「今、思い出すと君、強引だよね?」
「そうでしょうか?人は誰でも見返りを求めるものでしょう」
「……………………」
俺はただ黙って時間が解決する事を祈るのだった。
気がついたらUA10000突破していました。ご愛読ありがとうございます。ちょうど節目としていくつかアンケートを取りたいと思いますのでよろしければ活動報告にて回答お願いします。