鬱蒼と生い茂る木々の中を通り過ぎる者が1人。
その姿は真っ白な神御衣に長い黒髪を揺らしている。
"あやつ、どこへ行きよった…………"
そう呟きながら、人では考えられないようなスピードで駆け抜けていく。
そして、その男はひらけた場所に出、探していた者を見つける。その者は、大きな岩の上でスヤスヤと寝ていた。
「はぁ…………また、ここで寝ておったか…………」
神御衣の人物は寝ている者の前で、ため息まじりに呟く。
「いい加減、起きんか!お主はそれでも神か?」
白い神御衣の者とは対照的にボロボロな直垂にボサボサの髪をした男は頭を掻きながら目を開けた。その目は青く、潤んでいる。
「お主はまたどっかに消えたかと思えば、また人間の里に行っておったのか!?」
「別にいいじゃないか…………」
「良いわけがないに決まっておろう!我々神は信仰される者として威厳がなくてはならん!それなのにお主ときたら…………そんな格好で人里を歩く…………!」
そう言われても尚、直垂の男は「ふぁぁあ…………」と大きな欠伸をし、鬱陶しそうな顔をする。
「信仰、信仰言うけど、俺はお前と違って信仰されなくても生きていけるからいいじゃんか。それに退屈な神様の仕事よりも、人間の世界の方が面白い」
「神はお主だけではないということを分かってるのか?お主のせいで他の神達の信仰が無くなったらどうしてくれる!?」
「分かってる、分かってる。だから、ちゃんと変装もしてバレないようにやってるじゃないか。何の問題もない」
また、何か言いかけようとする神御衣の男を遮るように、男はある物を取り出した。
「ん?それは何だ?」
「さぁ…………人間達が武器として使ってる物らしい。中々かっこいいだろ?気に入ったから、1つ貰って少し改造したんだ」
その武器は日本刀なのだが、刃が一般的な物よりもかなり長くなっていた。所謂、太刀と呼ばれる刀だろうか。
その刀を片手に男はヒョイと立ち、神御衣の男と向かい合った。そこから分かるのだが、直垂の男の背は神御衣の男よりも頭一つぐらい小さく、とても長い刀とは不釣り合いに見える。
「兎も角、お主は人里に近付くな」
「んー…………そうするかなぁ。しばらくはこの武器をもうちょっと改造したいし」
「そもそも、お主は本来の仕事を…………って、お主、今何と!?」
「だから、しばらくは自重する。流石に今の時期は迷惑をかけられないしね」
「…………お主も知っておったか」
神御衣の男は少し俯く。直垂の男はため息まじりに言った。
「伊達に人里をうろついていないさ。信仰心が薄れてるんだろ?あいつが元気がないのは見れば分かる」
「…………薄れてる、だけなら良いのだが」
「例の集まり、か。まぁ、最悪俺が始末でもするさ」
「それは本当に最悪の場合のみだ。神が直々に人間を殺めるなどあってはならんのだぞ?」
「まぁ、兎に角あいつの状態を見る限り、まだ信仰してくれる人は多い」
「…………そうだな」
「…………後はあの野郎の悩みか?」
直垂の男の突然の問いに神御衣の男は少し驚いた顔をする。
「やはり、お主は鋭いな」
「どれくらい一緒にいると思ってんだ?おかしな所はすぐに気づく」
「ああ、またあの野郎が彼女に婚礼を迫っておる。こんな大変な時に…………」
「大変な時、だからだろ」
「はぁ…………本当に大切に思っておるのなら、もう少し待つだろうに…………それに彼女には心に決めた奴がおる」
「驚いたな」
直垂の男の言葉に、神御衣の男は眉をひそめた。
「珍しくお前が怒ってる」
「はぁ?いつも、お主に怒っておろう」
「ふっ…………それとは違う。本気で怒ってる」
「まぁ、俺ら3人がいれば大丈夫さ。これまでそうだったろ?」
「…………ふっ、お主って奴は…………」
この男はやはり我が友だ、と神御衣の男は胸の内で静かに頭を下げた。
「だが、人里にはもう行くなよ?」
そう言われ、直垂の男はああ、とだけ言い刀に視線を下ろした。
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今日の俺の目覚めは酷いものだった。
昨夜まで早苗と宴会の準備に勤しみ、寝床に着いたのが1時過ぎ。そんな中の朝のことだった。
天子との戦いと準備の疲れで爆睡していた俺を、萃香のボディブローによって強制的に起こされた。
無防備な腹を、強烈な一撃によって失神寸前まで追いやった。
「おい、宴会はまだかい?」
悶絶している俺を他所に萃香はヌケヌケとそんな事を言う。
「くぅ…………宴会は夜にやると言っただろ…………」
「あら、そうだったんだ。なら、すまないねぇ」
こうして、酷い目覚めがあったわけなんだが…………
「何で、まだいる」
「いいじゃないか。そんな事を言いながらも朝ごはんを準備してくれるあたり、優しい奴じゃないか」
「はぁ…………朝から酒臭い奴に出くわすなんて」
萃香は瓢箪に口をつけながら、
「宴会の準備はどうだい?」
「早苗の手伝いもあって、順調だ。後は酒を用意するだけ」
「そう。それが聞けて安心したよ」
「はぁ…………鬼にも肝機能障害が起こればいいのに…………」
俺の言葉に萃香は意に介した様子もなく、
「いやぁ、楽しみだねぇ…………久々の宴だ」
「永琳さんから肝臓を強化してくれる薬貰えないかなぁ…………」
あ、飲まなきゃいいんだ、と萃香に聞こえないように呟く。不健康生活を送る俺にお酒が入れば体がボロボロになってしまう。
「勇人はそんなに弱っちいのか?」
「普通の人間なら、そんなもんだ」
アル中で永遠亭に入院など勘弁してほしい。そもそも、俺の出費が食料の次に永遠亭の入院費に消えてるのが可笑しい。
「まぁ、今回の宴会は存分に楽しむといいさ」
「はいはい…………飲む、食うだけで済めばいいが」
「それじゃあ、私は消えるとするよ。朝食ごちそうさん」
そう言い、萃香は例の如く霧となって消えた。
俺は宴会の準備のために守谷神社へと向かうのだった。
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守谷神社は昼下がりもあって、参拝客が多かった。
早苗は参拝客の対応の為、宴会の準備ができない為俺1人で準備を進めた。
そんな参拝客も日が暮れていくうちにいなくなり、宴会に誘った人達が集まり始めた。
「あら、勇人じゃない」
「ん、ああ、霊夢か。宴会はまだだよ」
「そう、タダで酒が飲めるならいいわ」
「ハハ…………今回は全部俺負担だ。存分に飲んだり食ったりすればいいさ」
「ええ、言われなくてもそうするつもりよ」
ブレない霊夢に思わず苦笑が漏れる。
「そう言えば、あんたの爺さん最近怪しい動きがあると聞いたけど?」
思いもよらぬ言葉に俺はかなり驚いた。
「初耳だ。だが、じいちゃんが何か企んでるとは考えにくい」
「そう、何か起こせば退治するだけだしどうでもいいけどね」
後、たまにはお賽銭を入れに来て頂戴、と言い残し霊夢は宴会のある方へと向かった。
「で、覗き見なんてして、どうしたんですか?諏訪子様」
「いいや。珍しい組み合わせもあるんだと思って、ね」
「まぁ、彼女とは中々顔を合わせませんし」
「まぁ、本当はそんな事どうでもいいんだけどね。私的にはあんたのじいさんが気がかりだ」
「はぁ…………最近はそんなにじいちゃんが怪しいんですかね?」
「さぁ…………ただ、妙なのは確かだ。ま、今さらあいつが神と繋がってるとは考えにくいけどね」
「どちらにしても、ほんの覗き見の一場面で、判断するのは良くないですよ」
「あら、人間にお説教を食らうとは」
「そんなつもりは…………」
「分かってるよ。ああ、暇があればじいさんに何故、最近無縁塚によく行くのか聞いてくれ」
「はぁ…………?」
無縁塚に行っている?何か探しものでもしてるのかな?
「後、式は私達がとり持つから安心してくれ」
「はい…………はい?」
ニシシ、と笑いながらとんでもない言葉を残して、諏訪子様は去って行った。
向こうの方からどんちゃん騒ぎが聞こえてくるあたり、誰かがフライングしているのかもしれない。早く行って、始めるか。
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「えー、今k「ヒャッハー!酒を持ってこい!」…………今回はお集まりくださっt「こら!私の分も残しなさいよ!」…………今回はお集まりくださってありがとうg「おい、勇人も飲めよ!」ああ!始まりの挨拶ぐらいさせろ!」
「そんなもん、いらないぜ!さっさと始めようぜ!」
さっさと始めようとか言いながら既に始まってるんですが。やっぱり、手当たり次第に誘うんじゃなかった。
「もう、いい!ほら、今日は俺の奢りだ!存分に楽しめ!」
「言われなくても、そうするわ!」
既にどんちゃん騒ぎの宴会はさらに熱を浴びた。
「すいません、食材とお酒を全部負担してもらって…………」
「場所も設けてもらったし、手伝いもしてもらったからからくらいしないとな。それに、あまりお金使わないからね」
「おうおう?宴会の輪に入ってないかと思えば、2人してイチャイチャしてるのぜ?」
と、既に出来上がってしまっている魔理沙が絡んで来た。
「久し振り会って早々で悪いんだが、あまり近づかないでくれるか?酒臭くてかなわん」
俺の悪態が聞こえてないのか、グビグビと酒を飲む魔理沙。本当に俺と歳が近いのだろうか?
「最近のお前は仕事ばかりで、ダメなんだぜ。たまには、弾幕ごっこでもするのぜ」
「後半の事は同意しかねるが、確かに仕事ばかりだな。たまには幻想郷中を回るのもいいかもしれないな」
「それはいいとして…………飲むのぜ!」
と言うなり、魔理沙は酒の入った瓶を俺に突き出して来た。思わず、俺は反射的に躱した。俺の後ろには早苗がいるのだが…………
「「あっ」」
物の見事に、瓶は早苗の口に命中し、
「ゴクゴクゴクゴク…………」
みるみる、瓶の中の酒は無くなっていき、早苗の顔色も変わってきた。これは良くない。ここはさっさと立ち去るとしよう。
「…………勇人ひゃん」
服の裾を掴まれた。振り返ると、頰を赤く染め、上目遣いにこちらを見る早苗が…………
「お、俺、今から料理を…………ほ、ほら、幽々子さんがもう食べ尽くしてる頃合いだし…………」
「…………ヒック、私だって…………ヒック、我慢ひてるんでしゅよ?」
「わたひは!勇人ひゃんに!甘えたいんでしゅ!」
と、これまた瓶を掴み一気に飲み干した。
「ちょっと、落ち着け…………もう、酔っ払っちゃってるじゃんか…………」
「わたひが、ヒック…………酔ってる、ヒック…………様に見えますか?ヒック」
「おい!魔理沙…………」
元凶を探せば、霊夢達の所で「ほら!もっと飲むんだぜ!」と騒いでいる。
「魔理沙ひゃんに構わないで、わたひに構ってくだひゃい!」
「分かった!分かったから、料理を運んできたら、な?料理を運んできたら早苗に構うから、な?」
「本当でしゅか?」
「ああ、約束するから」
「なら、信じてあげましゅ!」
意外にもあっさりと引いた早苗は、再び酒を煽った。肝臓に異変が起きなければいいのだが。
兎に角、俺は台所へ向かい、料理を作るか。
「あら、貴方は飲まなくてもいいの?」
調理をしてる最中に後ろから声をかけられた。声の主はどうやら、幽々子さんのようだ。
「今回は主催者なので、自分はもてなす方に回らないと」
「と言いつつ、逃げてきただけなんでしょ?」
「幽々子さんが食べすぎるのでその分を俺が作ってるだけです」
「あら。なら、私が食べなかったら妖夢達と飲むのかしら?」
「なっ…………!」
「フフ、冗談よ、冗談。でも、作り終わったら妖夢に構ってあげて」
「早苗が先客なのでその後でも?」
「あら、先客いたの。ま、構わないわ」
その後は会話は続かず、料理を黙々と作るのみだった。
「貴方のおじいさんどう思う?」
不意に、そう言われ調理する手が止まった。
「どう思う、とは?」
「聞いてないわけじゃないでしょ?」
「…………そうですが、今は何も言えません」
「そう…………なら、あのじいさんの昔話とか興味、ない?」
「人には知られたくもない過去もありますから、興味があるない云々なしに聞こうと思いません」
「あら、真面目。これだっから…………妖夢が悶々とするわけね」
「はい、料理ができましたから、運ぶの手伝ってください」
「はいはい。美味しそうねぇ」
と幽々子さんにも手伝ってもらい料理を運んだ。
「ま、これからも頑張りなさいな。はい、お酒」
運び終わった後、幽々子さんが酌をしてくれ、ありがたくこれを頂戴した。
「準備お疲れ様」
と、この日は珍しく幽々子さんが優しいのでこれに甘え、盃を掲げて
「「乾杯」」
どんちゃん騒ぎの中、静かに俺は酒を口に運んだ。