本編をどうぞ!
翌朝。
目が覚めたゲンは自室のベッドで固まっていた。
隣で寝ていた一夏も同様、目が覚めた途端に目を見開いた。
なぜならそこには・・・
「すぅ・・・すぅ・・・」
「「なぜここにいるんだ・・・」」
篠ノ之博士がゲンを抱き枕にして寝ていた。
起き上がろうとするも、彼女はゲンを離そうとしない。
腕力が強すぎて動けない。
彼女は昨日長い時間泣いていた。
それで泣き疲れてしまったのだろうか、そのまま寝てしまった為仕方なく自室の空いているベッドで寝かせていた。
その後ゲンは自分のベッドで横になり眠りについていた・・・はずだった。
空いているベッドで寝かせていた筈の彼女がこうしてゲンに抱きついている。
「あの・・・タチバナ少尉、・・・何があったんですか?」
「・・・見ての通り拘束されてる」
「逆に襲われたんですね・・・」
「一夏、頼むから誤解されるような事は言わないでくれると助かるかな」
すると廊下が騒がしくなる。
『篠ノ之、いたか!?』
『いえ、こっちには居なかったです!』
『ど、どうしましょう織斑先生・・・!もし篠ノ之博士がMSを分解してたら・・・!!』
『教官!ここは艦長に報告して事態を知らせては?』
『セシリア、そっちにいた!?』
『こちらにはおりませんでしたわ!』
『これマジでヤバくない!?戦争が起きちゃうわよ!!』
・・・・・・・。
「「すでに戦闘は始まってるよ!!」」
隣の部屋で寝ていた女子達が全員目覚め、篠ノ之博士を探していた。
「タチバナ少尉!」
「一夏、すまないが手伝ってくれ!」
「は、はい!」
一夏は彼女の両肩を掴み、ゲンは彼女から離れるも失敗。
それを何度か繰り返すも失敗に終わってしまう。
「離れねぇ・・・!!」
「何て腕力なんだ・・・!」
そして事態は悪化する。
『織斑先生!そういえばタチバナ少尉の部屋って隣ですよね!』
『確かそうだったな、お前達いくぞ!』
「「そりゃまずいだろ!?」」
女子勢がこの部屋に迫り来る。
なんとしてでも彼女から離れるため一夏とゲンは協力して脱出を図るも失敗。
一夏はある提案をした。
「タチバナ少尉!隠れましょう!!」
「誤解を招きそうだけどこの際仕方ない、毛布を!」
一夏は隣のベッドから毛布を引っ張る。
それを彼女にかけようとしたときだった。
「すまないタチバナ少尉!束を見なかったか!?」
扉が開き、千冬達がついに来てしまった。
彼女達はゲンと一夏を見て固まってしまう。
皆の視線がついに・・・寝ている篠ノ之博士に向いてしまった。
「・・・・一夏、お前は何をしている」
「ち、違うんだ千冬姉・・・!!」
「ほう、何が違うのか説明してくれるか?」
「えっと・・・タチバナ少尉、正直に言っていいですよね?」
時すでに遅し、ゲンの隣にはいつの間にかドス黒いオーラ全開のリエ少尉がゲンの腕を掴んでいた。
「ねぇゲン」
「な、何かなリエ少尉殿・・・」
「昨日ビームライフルの出力調整が終わったから点検射に付き合ってくれない?」
「え・・・?」
「ゲンが点検射の的ね。大丈夫よ、痛みなんかないわ・・・高出力だから」
ゲンは彼女に引きずられてMSデッキへと向かっていった。
・・・彼はいつの間にか篠ノ之博士から解放されていた。
「さて一夏、お前の相手は私だけではないぞ」
「!?」
一夏は横を向く。
「織斑君・・・残念です。ここで命を落とす事になるなんて」
そういって涙をハンカチで拭く山田先生。
千冬の後ろには・・・鬼に成り果てた5人のラヴァーズ。
覚悟を決めた一夏は祈る。
「・・・タチバナ少尉、俺も逝きます」
「「一夏ぁぁあああああッ!!!!」」
こうしてゲンと一夏は女性陣に引きずられていった。
ゲンの部屋に一人残った篠ノ之博士。
彼女は仰向けになり微笑む。
「・・・私を泣かせた仕返しだよ、フフフッ」
最初から目覚めていた彼女はわざと寝たフリをしてゲンに抱きついていたのだ。
彼女はゲンがさっきまでかけていた毛布を抱き締める。
「・・・責任・・・とってよね」
ゲンは2人分の食事をもって医務室に来ていた。
「あら、今日はゲンが当番かしら?」
「おはようございますフェリー中尉」
「おはよう、二人なら起きてるわよ。優しくしてあげてね?」
「どうして皆して誤解するような事を・・・」
溜め息をつきながらゲンは医務室で休んでいる二人のいるところへ歩く。
カーテンを開けると彼女達の視線はゲンに向けられた。
二人して怯えた顔をしていた。
「朝飯を持ってきたんだ、調子はどうかな」
「「・・・・・・」」
二人は答えてくれなかった。
敵対心が消えることはない。
ひとまず艦長に頼まれた事を彼女達に伝える。
「無駄かも知れないけど君達に話しておく。昨日IS委員会の代わりにIS学園の織斑千冬が俺達に接触してきた。目的は君達2人およびIS本体の回収、そしてこの艦と巨人の情報収集らしい。艦長はそれに応じて接触、会談を行った。結果、君達は解放、織斑千冬達と国に帰還することになった」
「「ッ!!」」
「また戦場でなんて事はないだろうけど、もし次会った時に敵だったら・・・容赦なく墜とす」
伝えることを伝えたゲンは医務室を後にした。
それから数時間後。
MSデッキでは一機のMSが出撃準備を整えていた。
その足元ではIS学園に帰る千冬達とユウ艦長達が集まっていた。
捕虜となっていた二人は千冬達に引き取られる。
そして全員のISが返還される。
それを受け取った彼女達はISを点検し異常がないことを確認した。
「途中まではタチバナ少尉がMSで同行する」
「最後まで世話になった、ユウ艦長」
「お互い様だ。我々の今後に関する件、よろしく頼む」
「全力で掛け合う事を約束する」
ユウ艦長と千冬は握手を交わした。
千冬はゲンの隣にたっている篠ノ之博士に声をかける。
「束、お前は今後どうするつもりだ?できればお前には私と同行してもらいたいんだが」
「・・・ちーちゃん、私決めたんだ」
「束?」
「・・・姉さん?」
篠ノ之博士は千冬達の前に立つ。
彼女はどうやら決断したようだ。
昨日、ゲンが彼女に言った事。
彼女はそれを考えてこれからどうすればいいのか、その答えを見つけたのだろう。
「私はISを・・・本来の用途として使われるようにしたい」
「何・・・?」
「私ね、どうしても許せないんだ。本来ISは宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツ、そうなるはずだった。けど・・・ISが兵器として使われ世界が変わった」
「あぁ、そうだな」
「私は今までずっと逃げ続けてきた・・・けどそれはもうおしまい」
「・・・・・」
「私は戦うよ、兵器として使われているISをすべて破壊して、ISを本来あるべき姿に戻すため」
「そうか」
「だから私は・・・この艦に残るから!」
「「「はぁッ!?」」」
この場にいる全員が驚く。
彼女が突然この艦に残ることを堂々と宣言したからだ。
突然の事でユウ艦長とベネズ中佐も驚いている。
「正気か束!?」
「うん、正気だよ。それに・・・」
「「「それに??」」」
「こう考えるようになったのはタチバナ少尉のせいなんだからね?その、責任・・・取ってくれるよね?」
「「「はぁあああああああああッ!?」」」
ついには整備員までもが一緒になって驚いた。
名前を出されたゲンは困惑する。
「俺!?」
「タチバナ少尉!?」
突然千冬に肩を捕まれるゲン。
「束に・・・何をしたんだ!?」
「何もしてませんよ!?」
ユウ艦長は呆れて大きな溜め息をついた。
ベネズ中佐はゲンを睨む。
リエ少尉については笑っているが目だけは笑っていない。
「艦長!それにベネズ中佐!!俺本当に何もしてませんから!!リエ、信じてくれよ!」
「ぷいっ」
「軽く無視された!」
このままではいつリエ少尉に撃たれてもおかしくはない。
「あ、あの!!」
「はいッ!!」
名前を呼ばれたゲンは振り向く。
篠ノ之束の妹、篠ノ之箒だ。
ゲンは恐怖した、彼女に何を言われるのか。
それはきっと自分の姉に何て事をしてくれたのかという怒りなのかもしれない。
「その・・・姉さんは色々と大変な人ですが、姉さんをよろしくお願いします!!」
「そっちなの!?」
怒りではなく彼女をゲンに嫁がせる挨拶だった。
「でもね・・・私一人じゃ不安なんだ。だから『ゲン』、私と一緒に戦って欲しい、側にいて欲しい。ダメかな・・・?」
ゲンは彼女に頼まれてしまう。
彼女をこうさせてしまったのは自分のせいだと考え溜め息をついた。
決断したゲンは答える。
「分かった、そう考えさせたのは俺だから最後まで付き合うよ」
「ッ!!・・・ありがとう、ゲン!!」
「あー・・・ベネズ中佐、彼女の部屋を用意してあげてくれ。後必要な衣類と・・・ブラックコーヒーを頼む」
「了解しました。コーヒーについては丁度私も飲みたくて2つ用意しております、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
篠ノ之博士については艦長も許可してくれたようだ。
「やれやれ、すぐにでも掛け合う必要がありそうだな。ではそろそろ行くとしよう。束、失礼のないようにな」
「うん!もちろんだよ~!」
「・・・・タチバナ少尉」
「はい」
「苦労するかもしれんが、束をよろしく頼む。何かあれば私に連絡してくれて構わない」
そういって千冬はゲンに連絡先の書かれたメモ紙を渡す。
ゲンはそれを受け取りポケットにしまう。
「えぇ、任されました」
「フッ・・・束に先を越されるとはな。では行こうか」
「「はい!!」」
千冬達はISをその場で展開し、ユウ艦長達に一言挨拶をしカタパルトへ。
それに続きゲンも機体のコックピットに入る。
篠ノ之博士も一緒にいきたいと言い始めたので整備員に頼んで補助席を取り付けてもらった。
彼女が補助席に座った事を確認したゲンはモニターを操作してハッチを閉じる。
機体の最終確認を終えたゲンは機体の動力を始動。
スタークジェガンが起動しバイザーに光が灯る。
駆動音が徐々にコックピットに伝わってくる。
「これが・・・MS」
「博士・・・いや束さん、貴女に言っておく事があります」
「うん・・・」
「本来ならこの世界に存在しない技術はすべて機密事項に指定されています。けど貴女は今こうしてMSのコックピットに乗っている。知ってしまった以上、必然的に俺達と運命を共にする事になる。もし貴女が技術を流せば俺は貴女を撃たなきゃいけない、その覚悟はありますか?」
「そうなった時は間違った私だから。・・・でも、ゲンが私を正してくれるって信じてる」
「・・・出会ってからまだ間もないのに信頼してくれてるんですね」
「ゲンがこんな私を受け止めてくれたからだよ?こんな事初めてなんだ、だからかな。ゲンなら信用できるって思ってる」
「そっか・・・。束さんのこれからの戦いについても覚悟を見せてもらいました。下手をすれば世界の敵になる、後戻りは出来なくなります。それでも?」
「うん、やっと見つけられた私の戦いだから。もう逃げるだけの毎日はうんざり」
「いい答えが見つかってよかった」
サイドモニターが通信モードに切り替わる。
周波数を設定し千冬達と通信ができるか確認した。
すると艦長の顔が映る。
<タチバナ少尉>
「艦長?」
<見送りは途中まででいい、艦の射程圏内から出たら帰還してくれ>
「了解」
<それと・・・篠ノ之博士についてだが、我々もフォローする。詳細は帰還してきたら話そう>
「すみません艦長」
<気にするな、では気を付けて>
「はい。・・・では束さん、行きますよ」
「うん、宜しくねゲン!」
「よろしく!・・・ノーベンバー3、ゲン・タチバナ、スタークジェガン・・・出撃します!」
ペダルを踏み込み、操縦捍を操作する。
機体が電磁カタパルトから射出され大空をかける。
後から射出されたベースジャバーに機体をのせて飛行、先行する千冬達の後ろにつき彼女達を見送る。
彼女達の報告と掛け合いがユウ達の今後を左右する。
彼らがこの世界で本格的に活動をするのも、そう遠くはないのかもしれない・・・。
読んでくれてありがとうございます!
ついに束さんがペガサス・コーウェンの乗員となります!
今後の展開をお楽しみを!
評価・意見等お待ちしてます!