ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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いつも読んで下さってありがとうございます。
以前の10話を読まれていた方々へ。
今回、ちょっと挫折した為、展開がアニメverから原作verに変わっております。それに伴い、前話もちょっと変わっております。

以前のものとの変更点としましては、ルイズに忍世界から来たことを喋ったこと・デイダラの退屈感を抹消したこと(重要)・タバサに文字を教えてもらうようになったこと・10話丸々、といった感じです。

本当に申し訳ございません。
不甲斐ないばかりですが、今後も楽しんで頂ければ幸いです。




11,盗賊、現る

 

 

 

 

 

夜の魔法学院。

日中、生徒達が往来することで見せる喧々たる様相も、日が沈み、入れ替わりで二つの月が顔を出す頃には、すっかり静かなものとなっていた。

夕食後も外へ出歩いたりするような行儀の悪い生徒は殆どおらず、皆自室でゆったりと夜の時間を過ごしていた。

 

 

 

城下町から帰ってきたルイズ達も、夕食後は寮へと戻っており、現在、ルイズとデイダラは、町で買ってきた世にも珍しい喋る剣『デルフリンガー』を交え話し込んでいた。

 

 

「まったく。せっかく剣を買ってあげようっていうのに、何でこんなボロい剣にしちゃったの?もっと、大きくて太い立派な剣にすれば良かったのに…」

面白くなさそうに、ルイズは件の剣デルフリンガーを弄りながら言う。

 

「てやんでぃ、このド素人娘が!あの店にあった剣なんて殆どが飾り物よ!」

ルイズの言に異議を唱えたのは、デイダラではなく、ルイズに弄られていたデルフリンガーであった。

 

「………おまけに喋るし、口汚いし、なんかムカツクし。どう考えても選択ミスでしょ、これ?」

「…まあ、お前の言いたいことも分かる。オイラもこのオンボロには芸術性を感じないしな…うん」

怒りを抑えながら言うルイズに、デイダラも同調する。

デルフリンガーは「あ、相棒⁉︎そりゃねーぜ⁉︎」と悲しそうな声を出していたが、デイダラは無視を決め込む。

 

「だがまぁ、元々オイラには剣なんざ不要だったんだ。せっかく買うんなら、オイラの役に立つもんを買った方が良いだろ。うん」

デイダラは、言いながらデルフリンガーを鞘から完全に抜く。

 

「……これが?どう役に立つっていうのよ」

「オイラはこの世界の魔法とやらに疎いからな。いざって時は、こいつに見切りを手伝ってもらおうってワケだ。うん」

「あ、相棒〜‼︎それだけなんてあんまりだぜ〜。ちゃんと剣としても使ってくれよ〜…‼︎」

再度悲しい声を上げるデルフリンガーだが、デイダラは尚も無視を決め込む。

ルイズは、段々この剣が不憫に思えてきたのか、憐れみの眼差しを送る。

 

「ちっとうるさくなってきた時は、こうしてちゃんと鞘に収めれば、黙るみたいだしな。うん」

邪魔にはならないだろう、と言うデイダラ。

 

鞘に収めた途端に、デルフリンガーは確かに強制的に黙り込んでしまった。

 

「ん〜、まぁあんたがそう言うんだったら、別にいいケドさ…。でももっと見栄えが良いのを……」

ぶつぶつと不満を呟くルイズ。

 

そんなルイズを余所に、デイダラは自分の左手の使い魔のルーンを見る。

 

(……こいつは一体何なんだろうな。試しにルイズに聞いてみるか…?)

今見ても、左手にはよく分からない文字が刻まれているだけである。

だが、デイダラが試しにデルフリンガーを抜いた時、確かにこのルーンから力を感じたのだ。

 

「おいルイズ。この左手の印は一体何なんだ?」

「やっぱりもうちょこっと大きい方が………って、え?なに?」

尚もぶつくさ言っていたルイズは、デイダラに話しかけられたことで現実に引き戻される。

 

「だからこいつの事だ。この左手の印」

「ああ、使い魔のルーンね。それがどうしたの?」

「剣を抜いたら妙な力を感じた。お前なにか知ってるか?うん?」

デイダラに問われ、ルイズは「う〜ん」と唸った。

 

「……使い魔になったら、それなりの特殊な力が与えられるとは聞くけど、それは視覚の共有くらいのものだし、そんな妙な力を感じるようなものじゃないはずだけど…」

「つまり、分かんねーんだな…?」

「う、うっさいわね。私にだって分かんないことの一つや二つあるわ!」

プイッと目を逸らすルイズ。

他をあたるか、自分で調べるしかないかとデイダラが考えていた時だった。

 

突如として、外から轟音が響く。

 

 

「………!!」

「え!?な、なに?何の音?」

 

 

狼狽するルイズを余所に、デイダラは部屋の窓を開け放って外の様子を窺う。

 

「!!…ありゃあ、なんだ?」

「何?何だっての…!?」

遅れてルイズも窓から身を乗り出す。

 

「…!あ、あれはゴーレムだわ!大きい…!ここから見ても、ざっと三十メイルはあるわ…!」

「何?……あれが、ゴーレムだと?」

デイダラは望遠スコープを取り出すと、左目に装着し、よりはっきりと対象を見澄ます。

 

巨大なゴーレムの肩部に、黒いローブに身を包んだ、術者と思しき者がいる。フードで顔を隠している為、性別は不明。

どうやら魔法学院の本塔を殴りつけたことで、先ほどの轟音が響いたようである。巨大なゴーレムは、尚も本塔への攻撃を止めない。

 

(あのサイズだと『土影のジジイ』並のゴーレムだ…。それを操作する程の魔法だってのか…!)

 

デイダラが言う『土影のジジイ』とは、彼の元いた世界における、忍の頂点の一人である。

国土の大きい五大国に抱えられた忍の隠れ里では、その里長に、国を影から守る者として『影』の名が与えられ、その実力も折り紙つきの者が選ばれる。五つの大国を影から守る五つの隠れ里の長。それらは正しく忍の頂点であり、土影もまたその一角なのである。

 

その土影をもってしても、三十メートルもの巨大なゴーレムを作り出すことはあっても、操ることはできない。基本的に防御として用いるのみである。

 

(おもしれェ…、試してみるか…!)

 

デイダラが、秘かに巨大ゴーレムを操る術者を獲物として見定めていると、ルイズが声を上げる。

「あっ、シルフィード…!タバサよ!」

 

ルイズに促され、視界を遠方から戻すと、確かにタバサが、自身の使い魔に乗って巨大ゴーレムの元へと翔けていく姿が見える。

 

「あいつか…。結構勇敢だな、うん」

「デイダラ!私達も行くわよ!」

その一言が意外だったのか、デイダラは目を丸くする。

 

「…お前も行くってのか、うん?」

「当たり前じゃない!天下の魔法学院に賊が現れたのよ!見過ごす訳にはいかないわ…!」

強い意志でもってデイダラを見据えるルイズ。

 

「へぇ…!」

ルイズの覚悟が本物だと判断したデイダラは、手のひらで鳥型の粘土造形物を創ると窓の外へと放り、印を結ぶ。

 

 

「なら、さっさとこっちに乗りな…!振り落とされんじゃあねぇぜ、うん!」

「当然よ!」

 

 

大型の鳥の背にデイダラとルイズが飛び乗ると、一気に飛翔する。

 

「さぁ、向かって…!あのゴーレムの元に!」

「血気盛んだな。うん」

 

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

一分もかからずに、ルイズとデイダラは巨大ゴーレムの元へと行き着く。

 

どうやら、件のゴーレムは本塔の宝物庫を狙っているようで、既に何発もの拳を殴りつけた跡がある。だが、頑強な宝物庫の外壁は、いまだ陥落の兆しはない。

 

 

さらに、すでに先行していたタバサとシルフィードによって、現在巨大ゴーレムは撹乱されているようであった。

 

「ラナ・デル・ウィンデ…!」

シルフィードの背に乗りながら、タバサが呪文を唱える。

空気を固めて不可視の槌を放つ風属性の魔法『エア・ハンマー』である。

エア・ハンマーはゴーレムの胸部へ直撃するも、対象が巨大過ぎる為か、効果は今ひとつであった。

しかし、負けじとタバサは、これを何度も繰り返す。肩部のメイジに気づいたのか、標的をメイジのいる範囲に絞る。

 

「チッ…!ちょこざいな!」

巨大ゴーレムの肩部に立つ黒ローブのメイジは、タバサによる魔法攻撃に対し、肩部の岩を隆起させ、盾とすることでやり過ごし、鬱陶しそうにそう呟く。

 

ゴーレムは一旦本塔を殴るのを止め、その巨大な腕を振るい、シルフィードを打ち落とそうする。

 

「ッ!避けて…!!」

「!!……きゅっ、きゅい!!」

攻守が交代したかのように、今度はタバサが回避にまわり、自身の使い魔に指示をする。背後からの腕の接近に、シルフィードは慌てた様に鳴き声を上げる。

 

巨大ゴーレムは、両の腕を駆使し、上手くタバサ達の退路を断つ様に振るい、追い詰める。

 

「…!!」

上方へと回避しようとしたシルフィードに合わせて、巨大な腕が振り下ろされる。

あわやシルフィードが打ち落とされる、まさにその時ーーー

 

 

 

「芸術は……、爆発だァ!!」

 

 

 

振り下ろされた腕付近を目がけて、デイダラの放った起爆粘土製の鳥の群れが、一斉に爆発した。

 

振り下ろした巨大ゴーレムの腕は、肘付近から下が欠損し、リーチが不足した為にシルフィードを打ち落とすことは敵わなかった。

 

 

「大丈夫だった……!?」

ルイズとデイダラが飛行している高さまで逃れてきたタバサに、ルイズが声をかける。

 

「助かった…。ありがとう」

「ルイズの指示だ。感謝すんならこいつにしな、うん」

デイダラの言に、タバサは頷くことで返事をする。

 

「よーし、デイダラ。今度は私達の番よ!ゴーレムに接近して…!」

「へっ!偉そーに命令するねぇ、お前も…!うん!」

 

タバサとシルフィードからバトンタッチしたかのように、ルイズとデイダラはゴーレム目がけて降下する。

 

「狙うならゴーレムの右肩だ。岩が隆起して見え難いが、術者はそこにいる…うん」

「分かったわ!食らえ、ファイアーボール…‼︎」

呪文を唱え、ルイズは火属性の攻撃魔法を発動させる。しかし、ーーー

 

 

盛大な爆発が起こる。その箇所、左腹部。

 

 

「……………」

「…………言いたいことは色々あるが、せめて当てようぜ。うん?」

頬を赤らめながら「うっさい!次!」と声を荒げるルイズ。照れ隠しのつもりなのだろうか?

 

 

 

「……なんだい、今の魔法は?ファイアーボールじゃなかったっての?」

杖の先から火球が飛ばなかったのを見て、巨大ゴーレムを操っている、黒ローブのメイジも頭に疑問符を浮かべて呟く。

 

すると、再びルイズがファイアーボールを唱える。今度も黒ローブのメイジには当たらずに、あられもない方向で爆発音が響く。本塔外壁、ちょうど宝物庫の辺りだ。

 

黒ローブのメイジが、外壁に視線を移す。巨大ゴーレムの殴打で傷さえつかなかった外壁に、ヒビが入ったのを見届ける。

 

ニヤリ、と薄く笑う。黒ローブのメイジは、ゴーレムの拳を鋼鉄に変え、ヒビの入った外壁目がけて殴りつける。

 

 

 

「!!……本塔の外壁がっ」

ルイズは唖然としてそれを見つめる。強力な『固定化』の魔法がかけられていたはずの本塔外壁が、ゴーレムの拳によって打ち砕かれたのである。

 

「おい…!見てみろ、ルイズ」

「な、なによ…!今大変な…」

一方、デイダラの関心は、いまだ巨大ゴーレムにあった。

 

「オイラやお前が破壊した部位が、再生していってるぜ…!」

「えっ、ウソ!?」

巨大ゴーレムは、先ほど欠損させた腕や左腹部をどんどん再生させていき、瞬く間に元通りとなった。

代わりに、ゴーレムの足元の地面が、吸収されるように徐々に陥没していった。

 

「…なるほど。体を構成するものが側にあれば、あのゴーレムは何度でも再生できるみてーだな…うん」

「……分析してる場合じゃない」

のんびりと構えてゴーレムの能力分析をしていたデイダラに、シルフィードを横につけてタバサが注意する。

 

程なくして、再生されたゴーレムは、再びその巨大な腕を振るい始めた。

 

「おっと…!奴さん動き出したな、うん」

ゴーレムが振るう巨大な腕を、何度か危なげなくかいくぐると、ゴーレムの頭上付近まで上昇する。

 

巨大ゴーレムはデイダラを逃した後、今度はタバサの乗ったシルフィードを狙い始めた。

 

「って、ちょっとデイダラ!そういえば黒いローブの賊は!?」

どこいったの!?と、ルイズは叫ぶ。

 

「ん〜。……いた、あそこだ。うん」

ルイズは、デイダラが示した方向を見やる。

黒ローブのメイジはフライを使い、空を飛んで逃走していた。既に魔法学院の外壁を越えている。

 

「お、追ってデイダラ!おそらくあいつは盗賊よ!何か宝物庫から盗んだに違いないわ…!」

「あん…?だがよ…」

「いいから…!早く!」

「…チッ」

渋々といった様子で、デイダラは黒ローブのメイジを追おうとする。

 

「…ッ、危ない!!」

タバサが細い声で叫ぶ。デイダラとルイズの背後から、ゴーレムの腕が接近していた。

 

「うおっと、危ねぇ…!」

さらりと、横に旋回することで回避するデイダラ。

 

「きゃあああぁぁぁあ!!?」

「あっ、やべ…」

 

緊急的な回避行動だった為、鳥の背に乗っての飛行に慣れていないルイズが振り落されてしまっていた。

 

「ああぁぁあ、!?きゃんっ」

「おっ、ナイスキャッチ。うん」

 

落下したルイズを、タバサのシルフィードがルイズの服を咥えることでキャッチする。

 

「…乱暴」

「しょうがねーだろ。うん」

タバサの小言に、デイダラが投げやりに返すと、巨大ゴーレムに向き直る。

 

「やっぱ、こいつをぶっ壊してからだな…うん」

言いながら、デイダラは起爆粘土を両の手で握る。

 

(このサイズで、ちまちまと破壊してもすぐ再生するってんなら、チャクラレベル『C1』じゃあ火力不足か…うん)

 

いまだに腕を振るい続けるゴーレムに対し、デイダラが迎撃の準備を始めた、その時。

 

「……!!」

「あ?なんだ?」

突如として巨大ゴーレムが崩れ始め、ただの大きな土の山になった。

 

 

 

 

 

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「……やられた」

「そ、そんな…‼︎」

大穴の開いた本塔から宝物庫の中へと入ってきたルイズとタバサは、宝物庫の内壁に刻まれていた文字を目にする。

 

 

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

それは、魔法学院の貴族達を嘲笑うかのような、犯行声明であった。

 

 

 

「……不完全燃焼ってやつだな。うん」

そんな二人を背後に、デイダラは打ち砕かれた大穴から『土くれのフーケ』が去っていった方向を見やる。

 

望遠スコープ越しに見ても、わずかに森の木々が見えるのみで、あとは夜の闇ばかり。

フーケの姿は影も形もなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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