ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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そのままだとちょこっと歯応えないので、
フーケさんが少し戦い慣れております。



13,vs.土くれのフーケ

 

 

 

 

 

馬車に揺られること数時間。

深い森の中に入っていった為、昼間だというのに薄暗く気味が悪い。

目的のフーケの居所まで、もう間も無くといったところで、ロングビルが「ここからは徒歩で行きましょう」と提案する。もしもの時、フーケに気付かれないようにする為だろう。全員、特に異論はないので素直に従い、森の小道を進んでいく。

 

しばらく進むと、森の開けた場所に出る。森の中の空き地といった趣のある場所に、元々は木こり小屋らしい廃屋があった。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

指をさしてそう言うロングビルだが、廃屋には人が住んでいる気配が全くない。

果たして、どう行動するべきか。ルイズが、そう相談を持ちかけるとタバサが案を出した。

 

まず一人が偵察兼囮として、小屋の側へと行き、中の様子を確認する。フーケがいないなら合図を送り、ルイズ達を呼ぶ。フーケがいれば、これを挑発して外に誘き出し、一斉攻撃を仕掛ける。

タバサが提案した作戦はこんなものだ。

 

「お前、スゲーシンプルな作戦たてるな。なんかイメージと違ったぜ…うん」

「………」

デイダラの発言に、タバサはいつもと変わらない無表情でデイダラを見つめる。

 

「……チッ、悪かったよ。そう睨むんじゃねーよ。偵察役はオイラがやってやるからよ…うん」

コクリ、と頷くタバサ。

 

(…えっ。あれ、睨んでたの??)

(なんであれで分かるんだい…)

(……確かにあれは睨んでる時の表情…、だったわよね〜、あれ〜??)

 

デイダラとタバサのやり取りを傍から見た他の三人の感想である。

 

図書館での語学勉強をやる羽目になった為、デイダラは、ルイズの次くらいにはタバサと顔をつき合わす機会が増えたので、段々彼女の表情のわずかな変化が分かる様になっていた。…なってしまっていた。

 

「それじゃあルイズ、まずはオイラが先行する。こっちにも気を配っとけよ…うん」

「わ、分かったわ…!あんたも、小屋にフーケがいなかったら、すぐに合図送りなさいよ…!」

 

すると、デイダラは印を結んだと思ったら、体が煙に包まれて姿が消えてしまった。

 

「え?あれ⁉︎…デイダラは?」

「……あそこ」

タバサの指差す方へルイズが目を向けると、既にデイダラは小屋の窓から中を窺っていた。

 

「は、早っ!?いつの間に…」

「流石ダーリン!…でもどうやったの?」

「……分からない」

 

デイダラが使用したのは『土遁・土竜隠れの術』である。チャクラを流して土を細かい砂に変えて地中を移動する術で、使用前に煙を用いて経路も隠した為、完全に初見のルイズ達にはデイダラが瞬間移動でもした様に見えていた。

 

「…あっ、合図です。どうやらフーケはいなかったみたいですね」

デイダラからの合図を見て、ロングビルが呟く。

 

「そうみたいね、行きましょう」

「フーケはいない様ですし、わたくしは辺りの偵察に行ってきますね…」

そう言って、ロングビルは森の中へと戻って行った。

 

「………」

ロングビルが消えていった方向を、タバサはジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

ロングビルを除いた三人は、デイダラの待つ小屋の前へとやってくる。

タバサが扉の前で杖を振り、探知の魔法をかける。

 

「罠はない」

「なんだか拍子抜けねぇ〜」

ハズレ情報だったんじゃないの?と呟きながら、キュルケが小屋の中へ入っていく。

 

「…おい、あの女はどこいった?」

「辺りの偵察に行くって言ってたわよ?」

「……あっち」

デイダラが問いかけ、ルイズとタバサが答える。

タバサの指差した方向へ、デイダラは目を向ける。

 

「ちょ、ちょっとこれ!『破壊の杖』じゃないのー!?」

小屋の中で声を上げるキュルケ。その声に、タバサも小屋の中へと入って行く。

どうやら盗まれた宝は見つかったようだ。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

「……ここまで来ればいいだろう」

森の中へと入っていったロングビルは、おもむろに黒いローブを取り出した。

 

「さて、あとはあいつらの中に『破壊の杖』の使い方を知る者がいれば万事解決だね」

ガキ共しか来なかったのがちと残念だが、と呟きながら杖を構える。

 

彼女の雰囲気や言葉遣いは、既に学院長秘書の時のような上品なものではなく、どこか蓮っ葉なものとなっていた。

 

小屋の方を見通し、彼女は呪文を唱え始める。長い呪文であった。ルイズ達の様子に変化はない。詠唱を続ける。

そんな折、彼女に声がかけられる。

 

 

「ここにいたか……うん」

「!!」

ロングビルは、驚き、思わず声のした方へ杖を向ける。そこには、ルイズの使い魔であるデイダラがいた。大きな木の枝の上に、器用に立っている。

 

「あっ…。お、驚かさないでください…。ど、どうしたんですか?何故ここにーーー」

「そんな演技しなくたっていいぜ。もうバレてるからよ…うん」

 

「っ!」

「お前が『土くれのフーケ』ってワケだろう?…うん?」

核心をつくように、デイダラがロングビルを指差す。

 

チラリ、とロングビルは小屋の方を見やる。そこには間違いなく、デイダラの姿もあった。

 

「バカな…!何故お前がここにいる…⁉︎」

「小屋の方にいるのはオイラの分身だ…。朝の会議の時から、お前が本当に調査をしてたってんなら、調査時間に無駄がなさ過ぎると思ってな。一応警戒してたのさ…うん」

 

もしも、ロングビルが本当に早朝からフーケの捜索を始めたとしたら、学院から聞き込み現場までの往復でも十分に時間がかかり、会議には間に合わない。

魔法で移動を速くしたと仮定しても、どこに逃げたか分からないフーケの逃走経路を、奇跡的にジャストミートで調査しない限りは、不可能である。

 

「ってわけで、ここの場所を知るお前がフーケ本人の可能性が高いと思っていたのさ。うん」

「……ふん。この状況じゃあ、言い逃れできそうにないねぇ」

ロングビル改め、土くれのフーケは諦めたように態度を変え、黒いローブを捨てながらデイダラを見据える。

 

「正直、お前にはガッカリしたぜ。もう少しホネのあるやつかと思ったのによ…うん」

「……もうあたしを捕まえた気かい?そう思うにはまだ、早いよ…!」

言うや否や、フーケは呪文の最後の一節を早々と唱えながら、足元の地面を強く踏みしめる。

 

「!!」

途端にフーケの足元から巨大なゴーレムができ上がり、一気にデイダラは見下ろされる。

 

「……ああ、そうだった。ここのやつらの魔法ってのは呪文を唱えるんだったな。ついいつもの癖で、手に注意しちまったぜ…うん」

ゴーレムを見上げながら、デイダラは少し自嘲気味に呟く。

 

 

「詠唱が不完全だとでも思ってたのかい?こういうのを、油断って言うんだよ!くたばりなっ!」

 

 

フーケが叫ぶと、巨大ゴーレムはその腕をアッパーカットのような動きで、デイダラ目がけて振り上げる。

 

「……!!」

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

森の中に巨大ゴーレムが現れたことで、小屋の外にいたルイズは声を上げる。

 

「ご、ゴーレム!!フーケが現れたわよ!!」

すぐさま、小屋の中からキュルケとタバサが破壊の杖を持って出てくる。

 

「…うわっ、本当にでっかいわね!」

「!!…危ない!」

キュルケがゴーレムを見ての感想を呟いていると、タバサが危険を促す。

 

巨大ゴーレムが腕を振り上げたことで、森の木々が何本も小屋の方に吹き飛んできた。

 

 

「「きゃああぁぁぁああ!!」」

 

 

叫ぶルイズとキュルケはそれぞれ、デイダラと、タバサが近くに控えさせていたシルフィードが救出して、降ってくる木々から逃れた。

 

「ーーああぁ、あ?た、助かった…」

「……なんだ、失敗したみたいだな。うん」

ルイズを脇に抱えながら、デイダラは独り言を呟く。それをルイズが疑問に思う前に、飛んできた木々と一緒にもう一人のデイダラが降ってきているのに気づいた。

 

「…チィッ!!」

「あ、あれ!?デイダラがもう一人?!」

ルイズが驚きの声を上げる。

降ってきたデイダラは、舌打ちをしながら難なく着地する。

 

「ち、ちょっとデイダラ…!あんたなんで二人いるの!?」

ルイズは、さっきまで自分を抱えて、降ってくる木々から逃してくれた方のデイダラに問いかける。

 

「このオイラは粘土分身。あっちが本体だ…うん」

「い、いつの間に……、ていうか、そんな能力があるんなら先に言っときなさいよ…‼︎」

わずかに憤慨してみせるルイズをスルーして、デイダラは前半の部分だけを説明する。

 

「オイラが小屋に先行した時だ。あの緑髪の女がフーケなんじゃねーかと思ってたからな。偵察へ離れつつ、油断させたってワケだぜ…うん」

「…って、ミス・ロングビルがフーケですって!?そんな訳ないじゃーー」

言いながら、巨大ゴーレムに目を向けると、その肩部に立つ人影に、彼女の特徴的な緑色の髪が確認できた。

 

「……ウソッ」

「震えてるヒマなんざねぇぜ。お前、アレを捕まえんだろ?…うん?」

デイダラにそう言われ、ルイズはハッとして気づく。

 

(…体が、震えてる?)

ルイズは先程の、木が自分目がけて降ってきた瞬間に、死の恐怖を感じていたのだ。

 

(デイダラが、助けてくれてなかったら、さっきので…私、死んでいた…?)

遅れてやってきた恐怖に、ルイズは体を震わせてしまっていた。

 

 

 

「エア・ストーム」

「フレイム・ボール!」

タバサとキュルケが、シルフィードに乗りながら魔法を放つ。それぞれの属性が合致して、より強力な炎の渦となってゴーレムを襲う。

しかしーーー

 

「ふん!無駄だよ…!」

フーケは、ゴーレムの拳を鋼鉄に錬金して迎え撃つ。巨大な拳を前に、タバサとキュルケの魔法はゴーレムの拳に多少の熱をもたせただけに留まり、打ち消される。

 

さらに、ゴーレムの腕は再び振り上げられ、森の木々がシルフィード目がけて打ち上げられる。

 

「無理よこんなの!」

「退却」

「きゅいきゅい…‼︎」

キュルケが叫び、タバサが呟く。シルフィードが鳴き声を上げながら飛んでくる木々を避けていく。

 

 

 

(キュルケ……、私と一緒に叫んでたクセに、もう戦ってる…。なのに、私は……!)

フーケの巨大ゴーレムに挑む級友を見上げるルイズ。

 

 

「こっちもボチボチ始めるか…うん」

本体のデイダラは、そう言いながら梟型の造形物を創ると、空中へ投げる。造形物が煙に包まれた時には、分身のデイダラが煙の中へと飛び込んでいった。

 

「さーて、こっからはオイラのアートの時間だ。盛大に驚嘆させてやるぜ…うん!」

煙が晴れたときには、大型の梟型造形物に乗る分身デイダラがいた。

 

 

言うや否や、分身デイダラは瞬く間に巨大ゴーレムの頭上へと飛んで行く。

 

「!!」

「よっと…!」

驚きに目を見開くフーケを余所に、分身デイダラはフーケ目がけて梟から飛び降りる。

 

「何を…!くそッ…‼︎」

ゴーレムの腕が間に合わないと悟ったフーケは、杖を振るうと自身を囲う様に土のドームを作る。

 

「そんなんじゃ防げねーよ……『喝ッ!!』」

「イル・アース・デル……『錬金!!』」

 

 

デイダラが印を結んだ瞬間、分身デイダラの体は元の赤土色の粘土となり、盛大に爆発した。ギーシュ戦で見せた爆発などとは段違いの威力である。

 

 

「わお!」

「………」

空から爆発の瞬間を見たキュルケとタバサが、それぞれの反応を見せる。

 

 

「…………」

しかし、爆煙が晴れた時には、ゴーレムの顔が三分の二くらい吹き飛んだ程度であった。

 

その他、最も被害の大きいはずの爆発の中心であったゴーレムの肩部は、フーケが直前で作った土のドームごと、黒っぽい色の物質へと変わっていた。

 

「…あれは、『鉄』か?なかなかの硬度だな…うん」

参ったな、デル公を持ってくるんだったぜ。と、デイダラはひとりごちる。

 

ただ一口にゴーレムが動くだけと言えば別だが、そこに魔法を付与するだけで、なかなか多彩に戦えるものである。

デイダラは、まだ魔法の見切りが正確でない為、デルフリンガーを置いてきたことを少しばかり後悔した。

 

(…あらら。もう粘土が少ししかねーな)

腰のバッグに手を入れて、デイダラは残りの粘土の残量を確認する。

 

「さて、どう攻めるかな…うん」

考えながら、デイダラは正面のゴーレムを見据える。

フーケが鉄のドームに隠れていても、ゴーレムの操作にはあまり問題はないらしい。真っ直ぐこちらへ向かってくる。

 

「デイダラ…!」

思案中のデイダラに、ルイズが声をかけ、近づいてきた。

 

「手こずってるみたいじゃない」

「バカ言え。オイラの芸術の真髄はこれからだ…!お前こそ、もう震えるのは終わったのか…?」

ルイズの、若干の皮肉を込めた物言いに、デイダラが悪態をついて返答する。

 

「……ええ、そうよ。今度は私の番。私が、あんたに、有難いご高説を聴かせる番よ…!」

「うん?」

ルイズのよく分からない言い分に、デイダラは頭に疑問符を浮かべる。

 

「あんた言ってたわね。芸術は一瞬の美だとか、爆発こそが真の芸術だとか……よりにもよってこの私に、爆発の講釈するなんて…」

「ああ?」

ルイズはデイダラの隣に立つと、続けて話す。

 

「だから私も、あんたに教えてあげるのよ…!私が教えるのは、真の貴族についてよ!貴方を召喚したご主人様が、どれだけ偉大な存在かってことを…!」

教えてあげるわ…!と、ルイズは胸を張って言う。その表情は、先程の様な弱々しいものではなかった。

 

「…へぇ、あの学院で臆病風吹かしてるような連中とは違うってか。無理しねぇでお前も逃げりゃあいいんじゃねーか?…うん?」

「……ふん。いい?貴族っていうのは、魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ」

ルイズは杖を握りしめ、ゴーレムへ向ける。

 

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!私は貴族よ!あんな賊から逃げ出す様なマネ、絶対にしないわ!」

声高々と叫ぶルイズ。

デイダラは、そんなルイズを素直に好ましいと思った。

 

「はっ!そんな綺麗事、言ってられねーときなんていくらでもあるんだぜ…うん」

「う、うるさいわね…!人がせっかく決めてる時に…!」

デイダラの現実的な反論に、ルイズは頬を染めて照れてしまう。

良いところで水を差す、自分の使い魔にもう一言くらい小言を言ってやろうかと思ったルイズだが、デイダラに遮られる。

 

「…だが、まぁ。学院の他の連中と比べりゃ、断然上等だ…。うん」

「……デイダラ!」

 

「お前がその気なら、あのゴーレムの攻略方法は決まった。やるぜ、ルイズ。反撃開始だ…。うん」

「ええ!」

ルイズとデイダラの前に、先程放った大型の梟の造形物が降りてきた。二人はそれに乗り込み、フーケのもとへ飛び立つ。

 

 

「さぁ。オイラ達『爆発コンビ』の力、見せてやろーぜ…うん!」

「……その呼び方、もうちょっと何とかならないの?」

ルイズは呆れ顔だが、デイダラの表情はこの上なく生き生きとしていた。

 

 

 

 

 

 

 





デイダラがルイズをコンビとして認めた回でございます。

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