ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ
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第2章
17,夢の中


 

 

 

 

 

 

夜。ルイズはひとり、夢の中にいた。

とあるうらぶれた中庭。そこには、季節の花々に囲まれた池があった。池の真ん中には小さな島があり、白い石で造られた東屋が建っている。

 

その島のほとりに、小船が一艘浮いていた。舟の上にある毛布が、不自然な形をなしている。

小船の中で、毛布にくるまって身を隠していたのは、ルイズであった。その姿は、現在のルイズと比べると、十ほども幼く見えた。

 

 

ここは、ルイズの生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷、また、その中庭であった。

夢の中の幼いルイズは、魔法の物覚えが悪いと母に叱られ、ここまで逃げ回ってきたのだ。

母にも、召使い達にも、ルイズは上の姉二人と魔法の出来を比べられる。

 

ルイズには、それが悲しくて悔しくて、こうして自分が唯一安心できる場所であるこの小船の上に逃げてきたのだ。

そのまま母の説教を受け続けていると、劣等感で押し潰されてしまいそうになるから。

 

 

「泣いているのかい?ルイズ」

 

 

ルイズがそうして毛布に隠れてうずくまっていると、若い男の、優しい声がした。

顔を見なくても、ルイズには彼が誰だか分かる。子爵である。最近、近所の領地を相続した、年上の貴族。晩餐会をよく共にした。

 

そして、彼はルイズの父とある約束を交わしていた。

 

「子爵さま、いらしてたの?」

「君のお父上に呼ばれてね。……またお母上に怒られたんだね?安心しなさい。僕からとりなしてあげよう」

だから、こっちへおいで。子爵はルイズへ手を伸ばす。

ルイズは頷いて、その手を握ろうとした。

 

 

その時、風が吹いて貴族の帽子が飛んだ。

 

 

「あ、れ?」

目の前に、最近見慣れた顔が現れて、ルイズは当惑の声を上げた。はたしてそれは、憧れの子爵などではなく、自分の使い魔デイダラであった。

 

「な、なんであんたが」

それがデイダラだと気がついたら、いつの間にかルイズは六歳の姿から今の十六歳の姿になっていた。

 

「さぁルイズ、こっちに来いよ。うん」

「来いよ、じゃないわよ。なんであんたがここにいるのよ」

憧れの子爵の姿を取っ払い、いつもの黒い衣に赤い雲模様という外套姿になったデイダラは、普段の傲慢な調子で手を差し伸べる。

 

「気にすんな。さぁ、オイラと一緒に最高の芸術を創りあげようぜ。うん」

「ちょっと!私は貴族で、芸術家じゃないのよ。あんたの言う芸術なんて分からないわ!」

「なんだよ、散々オイラの芸術を見せてやったってのに呆れたもんだぜ」

なんだかバカにされた気分になって、ルイズは目の前のデイダラに文句を言ってやる、と思って口を開きかけたその時。

 

「それじゃあ改めて、オイラの芸術を教えてやるよ。うん」

目の前に、自分の頭くらいの大きさの人形を見せつけるように取り出すデイダラ。

 

「え、あ、ちょ、ま、待ってーー」

「芸術は………爆発だァああ!!」

一瞬で目の前が真っ白になる。ラ・ヴァリエール領の中庭は巨大な爆発に飲まれてしまった。

 

 

 

「いぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

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「いぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「うおッ!いきなり叫ぶなルイズ!びっくりすんだろーが!うん!」

絶叫と共に上体を跳ね起こし、ルイズは目を覚ます。最悪な目覚めであった。

ベッド脇を見ると、デイダラが文句を言いながら突っ立っていた。どうやら自分を起こすところだったようだ。

 

「ハっ!デイダラ!」

「あん?」

すぐ側に立つデイダラに改めて気がつくと、ルイズはさっと飛び起き、身構える。さっきはよくもやってくれたわね、と。

 

「なに寝ぼけてやがんだルイズ。いい加減目を覚ましやがれ!…うん!」

「わきゃあッ!」

水差しの水を顔にかけられ、ルイズの頭は一気に覚醒する。ここは、自分の部屋だ。間違いない。

 

 

「よお、目は覚めたかよお嬢サマ。ったく、一体どんな夢を見てりゃあんな取り乱し様になるんだよ…うん」

「あ、あんた、誰のせいだと思ってんのよ……!」

「うん?オイラのせいだって言うのか?」

首を傾げる使い魔に、ルイズは声を荒げて説明してやった。夢の前半は恥ずかしかったので、結末だけ話す。

 

 

「そりゃ、オイラの芸術を理解できないお前が悪い。まったく、おめーの能力も爆発だってのに、頭のかてー奴だよホント」

「あ、あ、あんた〜!ご、ご主人様に向かって〜〜!」

デイダラは反省の色も見せず、腕を組んで神妙な顔つきでうんうん頷いているもんだから、ルイズは怒り心頭だった。

 

「まぁ待てルイズ、そう怒るな。いいか?芸術っていうのはクールな感情から醸し出す、情熱的な一瞬の美だ。そんなんじゃあいつまで経っても、お前は芸術家として半人前だぜ。うん」

「だ・れ・が〜!芸術家だって言うのよ!私は貴族よ!メイジよ!いつまでも爆発ばっかりの魔法使いじゃあないわッ!」

「って、耳元でがなり立てんな!コラ!」

憤慨するルイズを宥めるつもりが、さらに怒らせてしまうデイダラであった。

 

「まぁ、お前にオイラの芸術のなんたるかを教えるのは後にしておくとして。いいのか、ルイズ?さっさと教室に行かなくてよ」

「はぁ?教室?」

先に朝食でしょ?と、疑問を問う前にルイズはついと窓の外に目を向ける。

朝日にしては太陽の位置が微妙に高いな、と思った。

 

 

「……って、寝坊じゃないのこれ〜〜!!」

「だから言ってんだろーが。さっさと行かなくていいのかってよ。うん」

もう朝食など終わっているだろう。本気で急がなくては、朝の授業にさえ間に合わないと悟る。

 

「あんた、掃除も洗濯もしないんだから、朝起こすくらいはちゃんとやりなさいよ!もう〜〜!」

「口を動かすより、さっさと着替えた方がいいんじゃねーのか?」

ま、オイラにゃ関係ない話だがな。デイダラはそう言って、早々と部屋を出て行ってしまう。

 

「ああもう!後で絶対お仕置きしてやるんだからぁ!」

夢でも現実でも、デイダラに文句を言うルイズ。大慌てで支度をして、駆け足で教室へ向かう。

 

 

 

ルイズは、駆け込むように教室へと滑り込んだ。どうやら授業には間に合ったようだ。

だが、デイダラの姿は見えなかった。

 

(まったく。どこほっつき歩いてるのよ…)

内心プンスカと怒るルイズだったが、すぐに風系統の授業の講師である疾風のギトーが現れた為、渋々と席に着く。

 

 

 

 

 

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ルイズが朝の授業を受けている間、デイダラはというと図書館で本を立ち読みしていた。

 

別にデイダラが読書に目覚めたとか、そういったワケではない。タバサの教えのお陰で、そろそろ自分もハルケギニアの語学にも慣れてきた頃だろうと、試しにタバサの協力無しで本を読んでみようと試みたのだ。

 

「読み書きを習い始めて、二週間くらいか?もう簡単な本なら読めんだろ…うん」

 

そうして、デイダラが現在手にして読んでいる本は、ハルケギニアに伝わる英雄譚の中で最もポピュラーとされる物語『イーヴァルディの勇者』である。

 

その内容は、始祖ブリミルの加護を受けた勇者イーヴァルディが剣と槍を用いて龍や悪魔、亜人や怪物など様々な敵を倒すというものであった。

本の内容など、デイダラにはどうでもいいことであった。本自体のチョイスも適当である。要はちゃんと読めるかどうかが問題なのだ。

 

 

しばらくして、デイダラは本を読み終える。所々はまだ読めない単語がチラホラとあったが、概ね内容も理解できたので、まあ及第点だろう。

だが、本を読み終えたデイダラには分からない点が一つあった。

 

 

「ああ。ここにいたのねダーリン」

「………」

デイダラが顎に手をやり、考えを巡らせていると、図書館にキュルケとタバサがやってきた。

 

「……てめーも懲りねぇヤローだなキュルケ。いい加減その『ダーリン』呼びは止めろ、うん」

「え〜、いいじゃない。別に〜」

ぶーたれるキュルケだったが、隣にいたタバサに「程々に」と言われてしまったので、素直に了承した。

 

「…それ」

「ん?」

キュルケへの釘刺しを終えると、タバサがデイダラの持つ本へと興味を移した。

 

「イーヴァルディの勇者」

「あっ、ほんとだ。なーに?デイダラが読書?」

意外ね、と零すキュルケを余所に、デイダラはタバサへと向き直る。

 

「そうだ。ちょうど良い。そろそろ本くらい一人で読めるだろうと思ってな、これ読んでみたんだ…うん」

コクコクと頷くタバサ。自分の教え子の成長を喜んでいるのだろうか。

 

「大体は読めたんだが、分かんねーとこがあってな。この本のタイトル、『イーヴァルディの勇者』ってなってるけどよ。作中じゃあイーヴァルディってのは地名じゃなくて人名だろ?これおかしくねーか?…うん?」

それなら普通、本のタイトルは『勇者イーヴァルディ』となるだろう?とデイダラは問う。

 

デイダラの疑問点を聞き、タバサは一瞬呆気にとられたような表情を見せたかと思うと、目を逸らし、口元に手を当てて小さく笑い出してしまった。

 

その、まさかの光景に、キュルケもデイダラも、ぽかんとした表情を見せてしまう。が、デイダラはすぐに気を取り直す。

 

「てめー!何笑ってやがるタバサ!オイラをバカにしてんのか!?」

「……まだまだ、勉強不足」

なんだとー!?と声を荒げるデイダラを余所に、キュルケは一歩身を引いて、タバサとデイダラのやり取りを微笑ましそうに見ていた。

 

「……なんだか、タバサも変わったわねー」

デイダラに絡まれて、タバサは助けを求める様な無表情でキュルケを見ていたが、キュルケはそのまま二人を眺めていた。

タバサとデイダラがそうして騒いで、図書館に迷惑をかけていると、今度は遅れてルイズがやって来た。

 

 

「……ここにいたのね。何あんたら図書館で騒いでんのよ」

ルイズが来た時には、タバサはデイダラに胸ぐらを掴まれてカックンカックン揺らされていた。無表情で。

 

「あーん?…ああ、ルイズか。そういやお前ら授業はどうした?」

ルイズを見て、デイダラが思い至った様に疑問を口にする。その問いに、ルイズは静かな口調で答える。

 

「『アンリエッタ姫殿下』がこの魔法学院に行幸されるとのことで、今日の授業は全部中止になったわ」

ルイズの説明に、知らない人物が登場したので、デイダラは思わず聞き返した。「アンリエッタ?」と。

 

「このトリステイン王国の王女様よ。授業の代わりに、歓迎式典の準備をして私達生徒は全員正装でお出迎えするのよ」

ほら、キュルケとタバサもはやく準備手伝いなさい。とルイズは促す。

 

実はキュルケとタバサもルイズに頼まれて一緒にデイダラを探していたのだが、すっかり目的を忘れてしまっていたのだ。

 

だが、そんな風にルイズに促されて面白くないキュルケは、ちょっとルイズをからかうことにした。

 

「なーに仕切ってんのよルイズ。あんたってば、舞踏会でデイダラとダンスできたからっていい気にならないでよね」

「な、何言ってるのかしらこの女は…。い、今はそんなこと関係ないでしょ…!」

不意にキュルケにそう言われ、ルイズはデイダラへと目を向ける。

デイダラは、何やら苦い表情を見せていた。

 

「……ああ。ありゃ、オイラも魔が差しただけだ。さっさと忘れる事だな…うん」

ルイズから目を逸らし、デイダラが言う。そんなデイダラに、ルイズは思わず噛みつく。

 

「ちょ、ちょっと!どういう事よそれー!?」

「あぁん?なんだやんのかコラ」

睨み合いを始めてしまうルイズとデイダラ。キュルケは思わぬ展開に「あらら」と呟く。

 

そんな二人を前に、タバサは堂々とルイズに近づき、くいくいと彼女のマントを引っ張る。

 

「式典準備」

タバサの一言で我に返るルイズ。気を取り直す様にこほんと咳払いをひとつする。

 

「と、とにかく。あんたも式典準備を手伝いなさい。あと、姫殿下を前にしても、くれぐれも粗相のないようにしなさいよ…!」

ビシッと指をさすルイズ。指さされたデイダラは、誰から見ても分かるような、不満気な表情をしていた。

 

「準備ってよ。そりゃ、オイラが手伝うことあんのかよ…うん?」

「あんたは私の使い魔でしょ。サボりは許さないわよ。……朝の件もね」

デイダラは「人使いの荒いヤローだな」と悪態をつきながら、渋々とタバサ達と共に図書館を後にする。

 

 

「まったく、なんだってあんな奴が夢の中に出てきたのよ。あんな、野蛮で融通の利かない男……」

ルイズは苛だたしげに、呟くように口にする。

言葉とは裏腹に、内心ではそれ程イヤがってはなかったのだが、そんな気持ちになってしまう自分に腹が立って、ルイズはデイダラの後ろ姿を睨み利かせた。

 

 

そうして見つめていると、キュルケがデイダラの腕に抱きついていた。

 

「こらーキュルケー!あんたまた私の使い魔にー!」

怒鳴るのと同時に、ルイズは三人を追いかけ始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 








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