ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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19,王女からの密命

 

 

 

 

ルイズは、トリステイン屈指の名門貴族であるヴァリエール公爵家の三女として生まれた。

王家の親戚で、歳も近いということもあり、彼女は幼少の頃にアンリエッタ王女の遊び相手を務めていた。

 

 

当時、子供だったからということもあるが、ルイズはアンリエッタに対して王家へ取り入るといった欲を持たず、敬意を払いながらも純粋にアンリエッタに友情を抱いていた。

 

その為か、アンリエッタもルイズに対してだけは特別な唯一の友達として、大切に思っていたようであったのだ。

 

 

 

「まさか、ルイズが一国の王女と幼馴染だったとはな……。少し、お前のことを見くびっていたぜ…うん」

「私も、まさか姫様がそんな昔のことを覚えて下さっていたなんて、感激よ……って、ちゃっかり見くびってんじゃないわよ…!」

 

アンリエッタはそんな二人のやりとりを、ポカンとした表情で見つめている。

ルイズとの再会ですっかり興奮気味だったアンリエッタも、ようやく落ち着いてきた為、今ルイズの部屋に見知らぬ青年がいることに気がついたのだ。

 

「ルイズの………恋人?かしら…?」

仲睦まじく?言い合いをする幼馴染と青年を見て、アンリエッタは見当違いな感想を呟いていた。

 

 

 

 

アンリエッタがルイズの部屋へやって来た直後のことである。

 

「ああ、ルイズ、ルイズ!懐かしいルイズ!」

「姫殿下、いけません。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」

アンリエッタは感極まった表情でルイズへと抱きつき、再会を喜んだ。

ルイズはというと、そんな幼馴染に対して幼少期とは違い、しっかりと臣下としての対応をしていた。だが、アンリエッタに堅苦しい行儀を咎められてからはすぐに再会の喜びを表情にも浮かばせ、アンリエッタを喜ばせた。

 

 

再会を果たしたルイズとアンリエッタは、お互いの幼少期、二人で遊び合っていた頃を思い出し合い、過去の思い出話に花を咲かせ始めた。

蝶を追って泥まみれになった事。菓子を取り合って掴み合いの喧嘩をしょっちゅう行っていた事。ドレスを取り合っての喧嘩では気絶するほどの蹴りがお腹に入った事など。

 

随分とお転婆な連中だ。とても貴族の娘とは思えねーぜ、とはデイダラの談である。

 

 

それから二人は、顔を見合わせお互いに笑い合う。

学院では、仏頂面を見せることが多いルイズなので、デイダラは新鮮な印象を受けていた。

 

その後、ひとしきり語り合ったルイズ達に隙を見てデイダラが割って入り、ルイズにアンリエッタとの関係を確認したことで、ようやく二人の思い出話が落ち着いたのであった。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

「しかし、いくら幼馴染とはいえ一国の王女がわざわざ外交帰りに、ましてやこんな夜中に、お友達に会う為だけにこっそりやって来る訳がねぇ。何か理由があるんだろう?なぁ、お姫さんよ。…うん?」

「!!」

再会の喜びも束の間。

デイダラの容赦のない疑いの言葉に、アンリエッタは身を強張らせる。思いがけず、核心を突くようなデイダラの発言に気が動転してしまったのだ。

 

「ちょ!ちょっとデイダラ!あんた姫様になんて無礼な口を……‼︎」

ルイズはわなわなと震えながらすぐに叱責を飛ばす。

 

「……る、ルイズ。こちらの方は?」

「!…は、はい!私の使い魔でございます!申し訳ありません!使い魔の不始末は、主人の不始末です!……ほら!あんたも早く謝りなさいよっ!」

ルイズは慌てた様子で膝をつくが、自分の使い魔が変わらず隣で突っ立っているのに気づいて、デイダラの服をぐいぐい引っ張る。

 

 

「口調については、ちと勘弁してほしいなルイズ。オレ達忍ってのは、こっちでいう傭兵みたいなもんだと言っただろ。多少無礼なのが傭兵の常ってもんだ。それで納得してくれよ…うん」

「そんな言い分で納得できる訳ないでしょうが…!」

「い、いいのですルイズ。貴女の使い魔だと言うのなら、咎めません。……それにしても、人間の使い魔とは…。ルイズ、貴女昔からどこか変わってると思っていたけど、相変わらずね」

使い魔の口調について、アンリエッタのまさかの了承と、同情するような眼差しで見つめられたことで、ルイズはすっかりいたたまれなくなってしまった。

 

「面目次第もございません……」

言いながら、ルイズはチラリと隣の使い魔の顔を覗く。

凄まじく勝ち誇った顔でこちらを見ていた。

 

「ぐぬぬぬ……!!」

「それで、お姫さん。用件を聞こうか?…うん?」

「え、ええ…」

親友が悔しそうな顔をしながら自分の使い魔を睨んでいる姿を、なんとも言えない表情で見つめるアンリエッタ。

 

どうやら自分の親友は、この使い魔に随分と振り回されているようであった。

アンリエッタは同情すると同時に、自分もその使い魔にこの場の主導権を握られてしまっていると気づいて、思わず苦笑する。

 

 

話を切り出そうとしたアンリエッタだったが、これから話す内容を、いざ言葉にしようとすると声にできない自分に気づく。

 

「ん?おい、どうした?」

「こら…!あんたはもう黙っててよ。……姫様、どうなさったんですか?」

ルイズは相変わらずな口調のデイダラを制して、固まるアンリエッタの身を案じる。

ルイズの声がアンリエッタの身に優しく染み渡るようであった。

 

「……いえ、やっぱり話せません。ごめんなさいね。貴女に話せるようなことではなかったわ…」

「仰ってください姫様…!昔はあんなに明るかった姫様が、そのような思い悩んだお顔をなさるとは、何かとんでもない悩みがおありなのでしょう?」

「ルイズ…、でも…」

なおも言いあぐねるアンリエッタに対し、ルイズは身を乗り出して彼女の両手をとり、自分の手で包むように握る。

 

「姫様。昔は何でも話し合ったじゃありませんか!私をお友達と呼んで下さるのなら、そのお友達に、悩みを打ち明けて下さい…!」

「ルイズ……!」

ルイズが必死に説得したことで、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。

 

(……めんどくせー連中だな。いちいち寸劇を演じなきゃ、話の一つもできねーのか…)

二人の心境などまったく理解できないとばかりに、デイダラは呆れ顔を見せる。

 

「わたくしをお友達と呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」

そうして、アンリエッタは決心したように頷くと語り始めた。

 

 

現在、『白の国』アルビオンでは貴族達による反乱が起きており、王家の敗北はもはや時間の問題だということ。

反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。

 

「かの国の貴族達には、ハルケギニアに王権というものが存在している事が我慢できないようなのです。アルビオン王家を倒したら、次はこのトリステインに矛先を向けるでしょう」

そうなる前に、トリステインはゲルマニアと同盟を結び、近い未来に成立するであろうアルビオンの新政府に対抗する術をもたなければならないのだ。

 

「その為に、わたくしはゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのです…」

「そうだったんですか…」

アンリエッタが、その結婚を望んでいないのは口調から明らかであったが、ルイズにはかけるべき言葉が見つからない。ただ、沈んだ声で頷くだけである。

 

「いいのよ、ルイズ。好きな人と結婚するなんて、物心ついた時から諦めていますわ」

憂いを帯びた顔を見せるアンリエッタに、ルイズは「姫様…」と、悲しそうな声をもらす。

 

「礼儀知らずのアルビオンの貴族達は、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません」

二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。と、アンリエッタは呟いた。

 

「……したがって、彼らはわたくしの婚姻を妨げる為の材料を、血眼になって探しています」

「では、そのようなものがあるというのですか?」

ルイズが顔を蒼白にして尋ねると、アンリエッタは悲しそうに頷いた。

 

「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救い下さい……」

アンリエッタは顔を両手で覆うと、床へ崩れ落ちる。

 

そんなアンリエッタを見て、デイダラは「またそれか…」と、二人に聞こえない程度に呟く。

もう寸劇は見飽きたデイダラであった。

 

 

アンリエッタの話によると、以前、アルビオンのウェールズ皇太子へと送った手紙が婚姻を妨げるものであるらしい。

内容は教えられなかったが、おおよその見当はつく。

 

それがゲルマニアに対して明るみになった場合、即座に結婚は破談となり、トリステインは一国でアルビオンの反乱軍と戦わねばならなくなるのだ。

 

「破滅なのです…!遅かれ早かれ、ウェールズ皇太子は反乱軍に囚われてしまうわ!それまでに、どうにかあの手紙をウェールズ様から返して頂かなくては…!」

無意識なのかどうなのか、アンリエッタの身振り手振りはいちいち大袈裟である。

 

「では、姫様。私に頼みたいことというのは…!」

「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ!考えてみれば、貴族派と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがーーー」

 

 

「喝ーーッ!!」

 

突然、ルイズとアンリエッタの間に投げられたデイダラの起爆粘土が、目の前で小さく爆発を起こす。

 

とても小規模なものであった為、害は無かったが、アンリエッタは「きゃあっ」と小さく悲鳴を上げて驚き、尻餅をついてしまう。

 

「ち、ちょっと!あんたいきなり何やってるのよ!」

ルイズは、すぐに自分の使い魔に対して眉を釣り上げ、怒りを露わにする。

だが、デイダラは憮然とした表情を崩さない。

 

「お前らいい加減にしろ…!いちいち寸劇がなげーんだよ!蚊帳の外にされてるオイラの身にもなりやがれ…!」

話がまとまりかけたと思ったら、また寸劇を演じて話が長引く。

そんなルイズとアンリエッタのやりとりに、ついにデイダラの堪忍袋が爆発した様だ。

 

 

『ゲルマニアとの同盟の妨げになる手紙が、アルビオンのウェールズ皇太子の手にあります。行って取り戻して下さい』

 

アンリエッタの話、ひいてはルイズに頼みたい任務とは、これだけの話で足りるのである。

 

それを、ルイズとアンリエッタは一回一回に大袈裟な演出をするのである。

文化やしきたりなど、まったく違う世界から来たデイダラが痺れを切らすのも、無理もないことであった。

 

「もうオレ達のやるべきことは分かったんだ。後はお前の決断だけだぜ、ルイズ」

「私の、決断…?」

もともとそこまで怒ってはいなかったのか、怒りを静めたデイダラがルイズへと向き直る。

 

「今まさに戦火の真っ只中なアルビオンとかいう国へ行って、敗北濃厚なウェールズ皇太子とやらから、アンリエッタ王女の書いた手紙を返してもらいに行くかどうか、だ」

危険は十分あるぜ、と言うデイダラ。

 

「そんなの、行くに決まってるでしょ…!姫様とトリステインの危機を、このヴァリエール公爵家の三女であるルイズ・フランソワーズが見過ごす訳がないわ…!」

ルイズは、熱い口調でそうデイダラに啖呵を切る。

デイダラは、そんなルイズを見て満足そうな不敵な笑みを浮かべる。

 

「それでこそだぜ、ルイズ。面白くなってきた…うん!」

「ちょっと!私達は遊びに行くんじゃないんだからね…!ちゃんとそこは理解してよ!」

腰に手を当てプンスカ言うルイズに、デイダラは適当な返事を返す。

そんな二人を、またまたポカンとした面持ちで見つめるのはアンリエッタである。

 

「ち、ちょっと待って下さい…!アルビオンですよ?戦争を起こしている国なのですよ?そんなあっさりと……」

アンリエッタは慌てて立ち上がり、ルイズの決断が性急過ぎではないか訴える。

 

「ご安心下さい姫様。このルイズ、先のフーケ討伐任務にて、さらに成長できたと自負しております。必ずや、成し遂げてみせますわ!」

「ルイズ……」

片膝をついて恭しく頭を下げるルイズを見て、アンリエッタは小さく声を零すことしかできなかった。

 

「で、お姫さんよ。こいつは急ぎの任務なのかい?」

「え、ええ。アルビオンの貴族達は、王党派を国の隅っこまで追い詰めていると聞き及んでいます。敗北も時間の問題でしょう」

デイダラからの不意の問いかけに、アンリエッタは戸惑いながら答える。

 

「では早速明日の朝にでも、ここを出発致します」

それを受けて、ルイズも真顔になりアンリエッタに頷いた。

 

そんなルイズを見て、アンリエッタはさらにそわそわした雰囲気で、どこか落ち着かない様子である。

 

「どうした?お姫さんよ…?」

「い、いえ…」

デイダラに声をかけられたアンリエッタは、歯切れの悪い返事を返す。

 

アンリエッタ自身、決心がついたと思っていても、まだ、唯一の親友を戦地へ向かわせる事に躊躇いが残っていたのだ。心苦しく思っていたのだ。

ルイズともっと会話を重ねれば、それも払拭できたのだが、デイダラの横槍によって中途半端に終わってしまったのだ。

 

アンリエッタが、悶々と思い悩んでしまうのは無理もないことだった。

 

 

「頼もしい使い魔さん」

「ん?」

アンリエッタは、デイダラの方を見つめて呼びかける。

 

「わたくしの大事なお友達を、どうかよろしくお願いしますね」

そうして、デイダラに左手を差し出した。

 

せめてもの思いで、アンリエッタはこの使い魔に託すしかなかった。

この任務の間は、親友の身を全力で守ってもらいたかったのだ。

 

 

一方で、手を差し出されたデイダラは、何が何だか分からないといった様子であった。

だが、ルイズにはそれが何事かすぐに分かった様で、慌てた声を上げる。

 

「いけません、姫様!そんな、使い魔にお手を許すなんて…!」

「いいのですよ。この方は貴女を守り、わたくしの為に働いて下さるのです。忠誠には、報いるところがなければなりません」

「??」

勝手に話を進めているルイズとアンリエッタを見て、デイダラはさらに困惑する。

一体、この手が何だというのか。

 

「何してるのよ、早くなさい。お手を許すってことは、キスしていいってことなのよ。砕けた言い方をするならね」

「キスだと〜?」

しかめっ面をして、デイダラは思った。いつの時代の人間だ、と。それとも自分の認識している世界が狭かったのか。

 

とにかく。そんな些事に付き合うつもりは、デイダラにはなかった。

 

 

ペロリ。

アンリエッタの手の甲に舌が這う。

 

「きゃっ!」

驚いたアンリエッタは、思わず差し出した手を引っ込める。

何事かと思ったアンリエッタは、デイダラの手のひらに口がある事に気づいた。先ほど、彼女の手の甲を舐めたのは、あの手のひらの口だったのだ。

 

「手のひらに口がある人間は珍しいか?早く慣れろよ。いちいちそんなことに驚いてたら身が持たねーぞ…うん」

そうして、デイダラはからかう様にして笑う。

 

 

当然、アンリエッタにそんな非行をしでかして、黙っているルイズではない。

 

「あ、あ、あんたって奴はァーー!!」

「き、貴様ーッ!姫殿下にーッ!何をするだァーッ!ゆるさんッ!」

その時、ルイズと声を揃えて、何者かがドアを勢いよく開けて飛び込んできた。

 

「なんだ。お前だったのかギーシュ」

飛び込んできたのは、以前デイダラと決闘したギーシュ・ド・グラモンであった。

 

デイダラは、ドアの前で誰かが息を潜めている事には気づいていたので、大して驚きもなかった。

ギーシュだとは思わなかった様だが。

 

「ぎ、ギーシュ!あんた、今の話を聞いていたの!?」

驚きの声を上げるルイズ。しかし、ギーシュにはルイズの声が聞こえなかったようだ。

 

「薔薇のように見目麗しい姫様の後をつけてみれば、このような所へ…。それで、ドアの鍵穴から中を覗き見れば、せっかく姫様がお手を許して下さったというのに、デイダラ…。君という奴は……」

わなわなと震えながら、ギーシュは薔薇の造花を振り回しながら叫んだ。

 

「決闘だぁー!バカチンがぁあああ!」

叫ぶギーシュだったが、すぐに目の前が真っ暗になる。

デイダラがギーシュにアイアンクローをしたのである。

 

「ほー。いい度胸だなー、うん」

「あがァーッ!ま、待て。不意打ちとは卑怯だぞーッ!」

ジタバタともがくギーシュだったが、デイダラのアイアンクローからは抜け出せない。

 

「安心しろ。密命の任務を盗み聞きした以上、お前の運命は決まった。死因はオイラが決めてやるよ…うん」

「いだだだ!ま、待て、やめてくれ!君のことだ、どうせ死因は爆死だろう…⁉︎」

両手でデイダラの腕を掴み、もがきながら叫ぶギーシュ。

そんなギーシュから手を離すデイダラ。ギーシュがホッとしたのも束の間。

 

「うぐッ」

「窒息死だ…!うん…!」

デイダラがギーシュの背後に回り込み、両腕でチョークスリーパーをかける。

早くもギーシュがデイダラの腕を叩き、ギブアップの意を示すが、止まらない。

 

「どうしましょう、姫様。今の話を全部聞かれてしまっています」

「そうですね…。今の話を聞かれたのは、まずいですね…」

悩むルイズとアンリエッタを前に、ギーシュは残った力を振り絞って声を出す。

 

「ひ、姫殿下…。そ、その、困難な任務、ぜ、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに、仰せつけますよう……」

「……とりあえず離してあげなさい、デイダラ」

ギーシュを可哀想に思ったルイズが、デイダラにチョークスリーパーをやめる様に訴える。

 

「チッ…」

悪態を吐いて、手を離すデイダラ。

 

すぐに解放されたギーシュは、ゲホゲホとむせ返るように咳をした。

 

 

「貴方、グラモンとは。まさかあのグラモン元帥の…?」

「は、はい!息子でございます、姫殿下…!」

素早く息を整えると、ギーシュは姿勢を正して恭しく一礼した。

 

「貴方も、わたくしの力になってくれるというの?」

「任務の一員に加えて下さるのなら、これはもう望外の幸せにございます」

熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んで、ギーシュも任務の一員に加わる事を許した。

 

 

「姫殿下が!トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さったー!」

ギーシュは感動のあまり、嬉し涙を流してガッツポーズをしている。

 

どうやらギーシュは、アンリエッタに惚れてしまった為に、彼女の役に立ちたいと考えている様であった。

ある意味、これ程警戒しなくても大丈夫と思える存在もいないだろう。

 

 

「まぁ、オイラも粘土の供給元がすぐ側にいると助かるな。扱き使ってやるからそのつもりでいろよ、ギーシュ」

「って!僕は君の為の粘土精製機じゃないぞ…!」

抗議の声をデイダラに投げかけるギーシュ。だが、悲しい哉、この二人の上下関係は決闘以降すでに決まってしまっているのである。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

ギーシュがデイダラに無益な主張をしている間、ルイズとアンリエッタは話を進めていた。

 

ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えているとのことである。だが、貴族派の者に嗅ぎつけられでもしたら、ありとあらゆる手を使って妨害の手が加わるとのこと。

油断はできない、とルイズは思った。

 

 

「始祖ブリミルよ…。この自分勝手な姫をお許しください。それでも、国を憂いていても、わたくしはやはり、この一文を書かざるを得ないのです…。自分の気持ちに、嘘をつくことはできないのです…」

 

ルイズの机に座って、ウェールズ皇太子から手紙を返してもらえるように密書を書いていたアンリエッタだったが、ルイズから見たら、まるで恋文でもしたためているかのような様子であった。

 

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」

アンリエッタは魔法で封蝋した巻き手紙をルイズに手渡し、それから右手の薬指から指輪を引き抜くと、それもルイズに手渡した。

 

「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです」

お金が心配になったら売り払って旅の資金にあてるように、アンリエッタは言う。

そんなアンリエッタに、ルイズは深々と頭を下げる。

 

「この任務には、トリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように……」

憂いを帯びた表情で、アンリエッタは祈りを捧げるのだった。

 

 

 

 

 

 





一気に分量増えた気がするけど、気のせいじゃなかった。

ちなみに、補足として。
フーケ戦以降、デイダラの主な粘土調達元はギーシュ君です。
そんな設定にしております。彼がデイダラに対して、畏怖とか怯えとかを見せないのも、そんなやりとりの中で、決闘時のデイダラの印象が大分緩和されているからってことにしてます。

それにしても、錬金ってホント便利な魔法ですよね。
この世界に等価交換のくだりとかあるんでしょうか?

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