ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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数々のクロスオーバーで、幾人もの主人公達にボコボコにされてきたであろう白仮面の男、もとい◯◯◯氏。←一応ゼロ魔初見の方への配慮(もう手遅れかな?笑)
このSSでも例に漏れないであろうが、原作の描写を拡大解釈してちょっと強化しております。たぶん才人さんでは敵わないっかなー?ってくらい。

何卒、ご容赦下さいませ。そして、楽しんで頂ければ幸いです。




24,桟橋での攻防

 

 

 

 

練兵場から酒場を避けるように、ルイズ・デイダラ・ワルドの三人は女神の杵亭から外へ出た。周囲には誰もいないようであった。

酒場前には町中の傭兵達が集まっているという話であった為、外へ出るまで緊張していたルイズはホッと胸を撫で下ろす。

 

「よし。桟橋はこっちだ」

「さっさと行くぜ、ルイズ」

「う、うん…」

酒場方面から時折聞こえる爆発音を気にしながら、ルイズはワルドとデイダラの後に続くように走る。

 

すでに日も落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。峡谷に挟まれた街は、暗くなるのも早かった。

月が照らす中、三人の影法師が、遠く低く延びていた。

 

 

「ギーシュ達、大丈夫かしら…」

桟橋へと走る中、ルイズは後ろ髪を引かれる様に酒場で戦っている級友達の身を案じる。

 

「オイラの分身がついてんだ。大丈夫だろう…うん」

「……それはそれで心配よ!あんた、あんまりやり過ぎないでよね…!」

半目で睨みながら、ルイズはデイダラへ叱咤する。

 

「なんだそりゃ。いくらオイラでも、戦闘中味方を巻き込む様なヘマはしねぇぞ?…うん」

「そんなの当然の事でしょ…! そうじゃなくて、その、ええと…」

歯切れの悪いルイズを見て、デイダラは怪訝そうな顔をする。

 

ルイズが何を言いたいのか分からなかったので、デイダラはとりあえず先の説明を補うことにした。

 

「ともあれ、影分身体のオイラじゃあ周りを巻き込むだけの威力のある起爆粘土は作れねぇから安心しろ…うん」

「? どういうこと…?」

「影分身の維持にもチャクラが必要ってことだな、うん」

「???」

 

頭上に幾つもの疑問符を浮かべるルイズ。無理もないだろう。ルイズにとって、デイダラの世界の忍術……ハルケギニアでいう魔法の様な力の知識など、彼からレクチャーされた事だけしかないのだ…。

 

「要するに、魔法の維持にお前らメイジが精神力を割くようなもんだ」

 

デイダラは説明する。

 

 

『影分身の術』というのは、術者から分けられたチャクラが尽きるまで現存できる実体を持った分身体であり、その維持には分身体に与えたチャクラが使われる。

また、デイダラの使う忍術『起爆粘土』には、練り込んだチャクラの量、レベルによってその威力を変化させるという性質がある。

 

起爆粘土のそういった性質上、影分身の身では高威力の起爆粘土を練ろうとする事が、分身体の寿命を縮める事に繋がるのだ。

だから影分身体では、真実敵の足止めくらいしかできないだろう。

 

 

「だがそれでも、ただの雑魚相手じゃあ、もうオイラ達に追いすがる事はできないくらいボコボコにはできるがな。うん」

「………そっか。まぁ、昨日みたいにやり過ぎないのなら、それでいいんだけど…」

得意気に話すデイダラを横目で見ながら、ルイズは溜息と共に静かに不安をこぼした。昨夜の光景は、ルイズにはちょっとしたトラウマであった。

 

 

「それにしても、単純にあんたが二人になるって訳じゃなかったのね。影分身の術…だったっけ? 分身と本物のあんたで、二倍の物量攻撃ができる様になる魔法みたいなものかと思ってたわ」

気を取り直すように、ルイズはデイダラに向き直り、話を再開させた。純粋に、デイダラの使っている『忍術』に興味が湧いたという事もあってだが。

 

「初めてその影分身を見た時は、そんな欠点があるだなんて思わなかったわ」

「まぁ、術も使いようだがな。どんな術にも、弱点となる欠点はあるもんだ…うん」

「ふーん………あんたの芸術も?」

「オイラの芸術は完璧だ!!」

 

デイダラに食い気味に怒鳴られてしまい、ルイズは少したじろいでしまった。

今さっき言ってた事と全然違うじゃない! と、心の中で悪態をつくルイズであった。

 

 

「君たち、何を無駄話しているんだ。もう桟橋まで間も無くだぞ」

先導していたワルドが、空けていた距離を詰めて二人に窘めるように言うと、目の前のとある建物の間にある階段を指差す。

 

「あの階段を登れば桟橋だ」

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

長い長い階段を上ると、丘に出た。

デイダラの目の前には、山ほどの大きさの巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしているという、雄大な光景が広がっていた。

 

樹の高さは相当なものだが、特段物珍しいと言えるほどでもない。というのが、この巨大な樹に対するデイダラの第一印象である。

デイダラの居た世界にも天辺の見えない程の大樹というのは、よく見られた為、それも仕方ないのかもしれない。

 

だが、頭上の樹を見上げてみると、それぞれの樹の枝に大きな何かがぶら下がっていることに気づいた。

 

「…ほーう」

左目に装着していた望遠スコープで、頭上の樹の枝にぶら下がっているものが船であると確認したデイダラは、感嘆の声をこぼした。

 

「これが『桟橋』で、あれが『空飛ぶ船』ってわけか?」

「そうよ。あんたの世界じゃ違うの?」

ルイズが不思議そうに聞き返す。

 

「桟橋も船も、海にしかねぇな…うん」

「……そうなの?あんたの居た世界って、もっと何でもありなのかと思ってたけど、意外とそうじゃないのね」

わたし達の世界には、海に浮かぶ船もあれば、空に浮かぶ船もあるわよ。と、ルイズは何故か自分が誇らしげに、胸を張って言った。

 

 

ワルドは、そんな二人を尻目に樹の根元へと駆け寄る。

樹の根元は、一種の吹き抜けホールのように空洞になっていた。どうやら、枯れた大樹の幹を穿って造られたものらしい。夜ということもあってか、桟橋に人影はなかった。

 

ホールの中には、各枝に通じる階段が多数用意されていた。

 

「ここだ。さあ」

その中で、アルビオン行きの船が停泊している枝に通じる階段を見つけたワルドが、二人に手招きをする。

 

「行くぞ…!」

先頭は変わらずワルド。続いてデイダラ、ルイズの順で階段を駆け上っていく。

 

 

階段を駆け上ること数分。木でできた階段は、一段ごとにしなる。手すりがついているものの、ボロくて心許ない。階段の隙間から、ラ・ロシェールの街明かりが見える程だ。

 

「この先の踊り場を越えると、もうすぐ目的の船のある停泊場だ」

「ーーーん?」

ワルドの案内を聞きながら、デイダラは眼前に見えてきた踊り場に何者かの気配を感じとった。

 

何者かは、自分達に不意打ちをする為か、おそらく精神力を練っているのだろう。

メイジの使用する精神力とは、身体エネルギーの練られてないチャクラ……言わばチャクラの出来損ないのようなものだと、デイダラは考えている。

その為、デイダラには、チャクラのようにはっきりとは知覚できないが、それでも誰かが精神力を練って待ち構えているという事くらいは感じ取れたのだ。

 

(……ワルドの奴は気付いてねーのか?)

だとしたら、期待外れもいいとこだ。デイダラは内心で吐き捨てる。

 

 

さっと翻り、デイダラはワルドの頭上を飛び越えて先頭に立った。

 

「!!…どうした?」

「ワルド、ちょっとここで待ってな。ルイズも少し遅れてるみてーだしな…うん」

そう言われ、ワルドが後ろを見ると、確かにルイズが少し遅れていた。飛ばし過ぎたらしい。

 

「……仕方ないな。それで、きみはーーー」

ワルドが前に向き直った時には、既にデイダラは土煙だけを残して踊り場へと先行していったところだった。

 

「ーーーやはり速いな、彼も…」

一人先に踊り場へと突入していったデイダラを見て、ワルドは誰の耳にも届かない声量で独白する。

 

 

 

桟橋の中階、その踊り場は、ちょっとした小劇場が開ける位には広さが確保されていた。

階段から飛び出ると同時に、デイダラは計六体の鳥型起爆粘土を投げ放つ。

 

「!!」

 

デイダラの目の前には、白い仮面に黒マントの男が待ち構えていた。昨夜、デイダラが爆破させた男だ。

 

白仮面の男の口元は、明らかに驚愕の色に染まっていた。奇襲をかけようと待ち構えていたところで、逆に相手に先制を取られたのだ。無理もないだろう。

 

 

「ハッ!昨日の分身ヤローか」

嘲笑するように言うと、デイダラはすぐに両の手で印を結ぶ。

 

「悪いが、さっさと終わらせるぜ…うん!」

巳、寅…と、淀みなく印を結ぶと、六体の鳥型起爆粘土は一度煙に包まれ、意思を持ったかのように飛び、動き出す。

 

そうしてデイダラは、片手を未の印で構え、起爆に備える。

 

 

「ーーーッ!」

白仮面の男も、負けじと魔法を放つ為に黒塗りの杖を突きつける。事前に呪文を唱えていたのか、囁くような声で唱えたのか、既に杖から魔法を放つのみとなっていた。風系統魔法『エア・ハンマー』だ。

 

さらに、奇襲をするにあたって予め精神力を練っていた為か、白仮面の男の杖から放たれた空気の槌は奇しくもデイダラの起爆粘土と同じ六発であった。

 

 

鳴り響く爆発音。パラパラと粉塵が舞いながら、続けて二度三度と爆音が鳴る。エア・ハンマーが、デイダラの鳥型起爆粘土を捉えたのだ。

撃ち落とされた起爆粘土は、しかし、デイダラにより起爆され、視界を覆う煙幕となる。

 

「ッ!!」

眼前に展開された爆煙に紛れて、仕損じていた鳥型起爆粘土が白仮面の男に迫る。意思を持ったかのように飛び動く鳥タイプの起爆粘土を、全て撃ち落とせた訳ではなかったのだ。

 

二体の鳥タイプが、驚愕する白仮面の男に肉薄していった。

 

 

「喝ッ!」

 

再び爆発音が桟橋内に木霊する。

広がる爆煙を見つめながら、デイダラは静かに構えを解く。

 

「やっぱ大したことねーな………うん?」

仕留めたと思い、白仮面の男に対し吐き捨てる様に言った後、デイダラは爆煙の中から何か影が飛び出したことに気がついた。

 

飛び出した影は白仮面の男であった。男は、爆煙の後方に飛び退いてデイダラから距離をとると、静かに杖を掲げていく。

 

「なかなかすばしっこいヤローだな、うん」

僅かに腰を落とし、デイダラは再び印を結び構える。

左手で未の印を結び、右手を自身の背に隠す様にして手のひらを広げる。その手のひらの口は、粘土をクチャクチャと咀嚼していた。

 

(チャクラレベル“C1”の爆発力からは逃れられるか……。だが、この場所じゃあ高威力の起爆粘土は控えた方がいいな…)

デイダラは、冷静に相手の動きや戦況を分析する。

 

目の前の男の持つ速さのポテンシャルは、並みの忍の比ではない。加えて、この桟橋内での戦闘では、あまり爆発威力を高めると大樹が倒壊する恐れがある。

それらの状況を踏まえて、デイダラは戦法を決める。

 

(なら、ここは拘束タイプで動きを抑え、至近距離で爆発させてやるぜ…うん)

背に隠した右手のひらの口から、ムカデ型起爆粘土が顔を覗かせる。

 

そうして、デイダラが作戦を決めていると、辺りの空気が急激に冷え始めていることに気がついた。冷気の起点は、白仮面の男の頭上……掲げた杖の周辺だ。

ひんやりとした空気が、デイダラの肌を刺す。

 

(なんだ?あれは…)

僅かに眉根を寄せて、デイダラは相手の魔法に注意を払う。

 

次の瞬間、空気が震えた。稲光が弾け、男の周囲から電撃が放たれる。

 

「ッ‼︎ 雷遁…!」

「相棒、逃げろ!『ライトニング・クラウド』だ!」

呪文の正体に気づいたデルフリンガーが鞘から刃を出して叫ぶ。

 

 

稲妻が走り、デイダラを襲う。白仮面の男から放たれた電撃は、しかし空を切るだけに留まる。デイダラが『ライトニング・クラウド』よりも速く動き、回避したのだ。

 

「ッ!!」

白仮面の男は、尚も杖を振るい稲妻を走らせる。その速さはまさに、目にもとまらない。

 

だが、振るわれる度に渦巻く稲光がデイダラに向かって走るが、左、右へと瞬時に回避するデイダラには当たらない。

時折横薙ぎする様に走る稲妻も、デイダラは身を低く屈め回避したり、飛び退ったり、時には軽業師の様にバク宙し、躱してみせた。

 

「ハッ!その程度の雷遁じゃあ、オイラにゃ当たらねぇよ」

「相棒!おめーさん、やっぱただモンじゃあねーな。てーしたもんだ!」

当たればただでは済まないその稲妻を、デイダラは軽やかな身のこなしと体捌きによって巧みに躱していく。

 

 

白仮面の男には、次第に焦りの色が見えてくる。

すると、男は何かを思いついた様にニタリと笑みを浮かべ、デイダラのいない階段方向に稲妻を放った。

 

「ふん。何処狙ってやがんだよ(そろそろだな、うん)」

白仮面の男を嘲笑しながら、デイダラは印を結び起爆に備える。そこで、ーーー。

 

 

「デイダラッ!!」

 

 

叫び声がした。階段から飛び出る様にして、ルイズが現れたのだ。

その為、白仮面の男から放たれた稲妻は、真っ直ぐルイズに向かって走る構図となった。

 

「あっ……!!」

「バカが、ルイズ…!なんで出てくる!?」

 

階段下で、ワルドと共に待機している筈のルイズが現れたことで、デイダラはすぐさま地を蹴った。

稲妻は決して遅くはない。加えて、この出遅れた状況では、デイダラのスピードでもルイズとの間に滑り込むのが限度であった。

 

(ーーー待て。なんでオイラは、なんの迷いもなくこいつを庇うんだ…?)

 

稲妻が迫る一瞬の時間の中で、デイダラは怪訝に思う。

だが、そんな事よりも、今は目の前の状況を何とかする方が先だ。デイダラはすぐに頭を切り替える。

 

咄嗟にデイダラは、生身で受けるよりもマシと判断し、背にあるデルフリンガーを左手で引き抜き、稲妻を剣で受ける。

 

 

「ぐぁあッ!!」

稲妻が伸び出し、デルフリンガーを伝ってデイダラの左腕を焼き付ける。

左手と片膝を地につけて、デイダラは息を整える。

 

「デイダラ!……ッ!」

ルイズがデイダラの肩を支えようと手を伸ばすが、すぐにそれを止める。

デイダラの体には、まだ稲妻が帯電していたのだ。時折バチバチと音を立てて電撃が走る。

 

「……チィッ」

表情を歪めながら、デイダラは右手で印を結ぶ。

 

「!!」

デイダラに『ライトニング・クラウド』を当てられて、満足気に口元を緩めていた白仮面の男は、油断していたのか、自分の足元から突如として現れた粘土製の大型ムカデにあっさり体を巻き取られてしまう。

 

 

「喝ッ!!」

 

デイダラが唱えた瞬間、白仮面の男は爆散した。その後には、何も残らない。

 

 

「クソがッ(分身か…)」

周囲を見渡し追撃がないことを確認すると、デイダラは静かに立ち上がり、左手を握ったり開いたりして動く事を確かめた。

 

「で、デイダラ…。あんた、大丈夫なの…?」

「…………」

おそるおそるといった様子で、ルイズがデイダラに問いかける。

デイダラは、ルイズの問いに答えずに、ジッと彼女を訝しむ様に見つめる。

 

「大丈夫だったか…?」

遅れてワルドがやって来る。デイダラは、ルイズから目を離し、ワルドを睨む様に視線を移した。

 

「ワルド!テメー、どうしてルイズをここへ行かせた。オイラがどういう理由で、階段で待ってる様に言ったか、お前が分からねー訳ねぇよな?ああ!?」

「………」

「ち、ちょ、ちょっと待って!デイダラ…!」

 

ワルドに対し、デイダラは責める様に言葉を告げる。そこへ、ルイズが割って入った。

 

「ワルドを責めないで、デイダラ…。わたしが悪いの。敵がライトニング・クラウドを出したってワルドが気づいて、わたしが、“あんたが危ないかも”っていうワルドの言葉を真に受けて、思わず飛び出しちゃったの…。ワルドはわたしを止めてくれたのに、気が動転しちゃって…本当にごめんなさい…」

 

ルイズは、普段がウソのように一際しおらしく謝罪する。彼女なりに、それだけ事態を重く受け止めているのだ。

 

デイダラは「…ふん」と鼻を鳴らし、足元に落ちてしまっていたデルフリンガーを左手で拾う。

 

「しかし、あのライトニング・クラウドを受けて、よくその程度で済んだな。本来なら命を奪う程の呪文だぞ。……ふむ、その剣が電撃を和らげたようだな。よく分からんが、金属ではないのか?」

「知らん、忘れた」

「…………」

ワルドの問いに、デルフリンガーが答え、デイダラは無視を決め込む。ワルドなど、相手にしている暇はない。

とにかく今は、早急に体を休めなくてはならない。その “ワケ” がデイダラにはあったのだ。

 

 

「さっさと船行くぞ…うん」

デルフリンガーを鞘に収めながら、デイダラは歩き出した。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

階段を駆け上がった先には、一本の枝が伸びていた。その枝に沿って、一艘の船と思しきものが停泊していた。帆船のような形状だが、空中で浮かぶ為か舷側に羽が突き出ている。上からロ ープが何本も伸び、上に伸びた枝に吊るされていた。デイダラ達が乗った枝からタラップが甲板に伸びていた。

 

「な、なんでぃ、おめぇら!?」

デイダラ達が船上に現れると、甲板で寝込んでいた船員が起き上がった。ワルドが前に出て対応する。

 

「船長はいるか?」

「寝てるぜ。用があるなら、明日の朝に改めて来るんだな」

男はラム酒の瓶をラッパ飲みしながら答える。

ワルドはすらりと杖を引き抜いた。

 

「貴族に二度同じ事を言わせる気か?僕は船長を呼べと言ったのだ」

「き、貴族!」

船員は立ち上がると、船長室にすっ飛んでいった。

 

しばらくして、寝ぼけ眼の初老の男を連れて戻ってくる。帽子を被っており、彼が船長らしかった。

 

「なんの御用でーーーって、貴方は昨日やって来た子爵様ではありやせんか!」

船長の目が丸くなる。相手が身分の高い貴族だと知っているからだ。

 

昨夜、ルイズとワルドは、船の様子を見に来ており、その時にワルドはこの船長と交渉していたのだ。

 

「アルビオンへ、今すぐ出港してもらいたい」

「御冗談を!昨日申し上げたでしょう。この船はアルビオンへの最短距離分しか『風石』を積んでいませんと!」

船長は、困ったように叫んだ。

風石をこれ以上積むと赤字だと言うので、出港はアルビオンが最もラ・ロシェールに近づく時でなければならないのだ。

 

「明日の朝には出港しやす。それで勘弁して下さいよ!でなけりゃ、地面に落っこちちまう!」

「風石で足りぬ分は僕が補えば大丈夫だ。僕は『風』のスクウェアだ」

 

船長と船員は顔を見合わせた。それから船長がワルドの方を向いて頷く。

 

「なら良いでしょう。ですが、料金ははずんでもらいますよ」

「積荷はなんだ?」

「硫黄でさぁ。アルビオンでは、今や黄金並みの値段が付きますんで」

「その運賃と同額を出そう」

 

船長は、小狡そうな笑みを浮かべて頷いた。

 

「もやいを放て!帆を打て!『マリー・ガラント号』出港だ!」

商談が成立したので、船長は矢継ぎ早に命令を下していったーーー。

 

 

 

戒めが解かれた船は、一瞬空中に沈んだが、発動した風石の力で宙に浮かぶ。

帆と羽が張り詰める程の風を受け、船が動き出す。結構なスピードのようで、桟橋である巨大樹の隙間から見えるラ・ロシェールの明かりがどんどん遠くなっていく。

 

 

デイダラは、舷側に座り込み体を休ませる。未だに体のシビれは巡っている。早く回復させなくてはならない所だが、デイダラは医療忍者ではない。こればっかりは、自分ではどうしようもない事なのだ。

 

「ねえデイダラ。その、傷は大丈夫…?」

そこへ、ルイズが心配そうにしながらやって来た。

 

「ほっとけ、うん」

「なによ!心配してるのに!」

ルイズは、デイダラにそっぽを向かれて怒った。思わず耳元で怒鳴ってしまう。

 

「〜〜ッ! 耳元でギャーギャーうるせーぞルイズ!ちったぁオイラを休ませろ!うん!」

「!!……ごめんなさい」

デイダラに怒鳴り返されて、またもやルイズはしおらしくなってしまう。

 

さっきも感じた事だが、今のルイズは本調子ではない様子だ。いつものルイズであれば、言い合いの一つや二つ、しそうなものなのだ。

 

最も、デイダラとしても言い合いを今やるつもりはさらさらなかったので、好都合ではあったが…。

 

「わたし、また……あんたに頼りっぱなしになっちゃって、あんたの足をひっぱっちゃって、ほんとにどうしようもないわよね…」

「あん?」

「森の中での、フーケとの戦いの時に、ようやくあんたの隣に立てたと思ってたのに……やっぱりダメね、わたしってば」

「………」

 

どうやら、ルイズはすっかり気落ちしてしまっているようだった。

デイダラが、励ましの言葉など何も言えないでいると、ルイズが緊張した面持ちで、デイダラの服の左袖を摘むように掴んできた。

 

「……左腕、出して」

「………ホラよ」

根負けしたのか、デイダラはルイズの言う通り、袖を捲って左腕を露わにした。

 

「ッ!…これ」

そこはひどいことになっていた。左腕の手首から肩にかけて、巨大な火傷跡ができ上がっていた。ルイズを庇って、白仮面の男の『ライトニング・クラウド』を受けた結果であった。

 

「ひどい火傷じゃないの!早く手当てしなきゃ…!」

「だから騒ぐんじゃねーよルイズ。これくらいどうって事ねぇ。それよりも問題なのは……」

言葉の途中で、デイダラは口を噤む。そこから先は、言うべき事ではないと判断してだ。

 

急に口を閉じたデイダラを見て、自分に言えない事があるのかと勘づいて、ルイズはまた少し落ち込んでしまう。

 

 

さらに落ち込んでしまったルイズを見て、デイダラは「ったく…」と呟くと、ルイズの肩にポンと手を置いた。

 

「いいかルイズ。オイラはこれから少し寝る。一刻も早く体を休ませねぇといけねーからな、うん」

「……?」

「その間、ここでの事はお前に任せるぜルイズ。しばらくは無防備を晒すことになるんだ。しっかり護衛してくれよ、うん」

「っ!……ええ!ここはわたしに任せなさい。あんたはゆっくり休むのよ…!」

 

杖を取り出し、ルイズは過剰にやる気を見せ始める。

気を取り直したようだが、単純なヤツだ。とデイダラは思った。

 

 

(まぁ、いいか。とにかく今は、体のシビれを回復させる事が先決だ…うん)

その為には、先の戦闘で使用したチャクラを回復させ、体の抵抗力を一時的に高めるしかない。

 

その為の睡眠だ。デイダラは、静かに目を閉じた。甲板に吹く夜風が、妙に心地よかった。

 

 

 

 

 


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