ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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4,ゼロのルイズ

 

 

 

 

 

 

 

朝。窓から差し込む陽の光によってルイズは目を覚ました。「ん〜〜っ!」っと伸びをしてから、ルイズはベットから起き上がった。

 

眠たそうな目をこすりながら、ルイズは毎朝の習慣として、顔を洗い、化粧台の鏡の前に座ってヘアブラシで自分の髪を梳かしていく。

その後は慣れた様子で、寝間着から制服へと着替えていき、そうして、最後にテーブルの上に置いてある杖をとったところで…

 

 

「・・あっ!デイダラ!私の使い魔は⁉︎」

と、昨日自分が召喚した使い魔が見当たらないことに気が付き、部屋の中を見回した。

 

しかし、幾ら見回してもデイダラの姿はなく、昨夜洗濯しておく様にと言いつけておいた衣類しか見つからない。

 

 

「あ、あいつ〜〜!昨日、洗濯しておく様に言ったのに〜!朝ちゃんと起こせって言っておいたのに〜!服だって自分で着替えちゃったじゃなーい!」

使い魔に着替えさせるつもりだったのに、とルイズはプンスカと怒り、地団駄を踏む。

 

 

「はぁ…はぁ…。私が甘かったわ。あいつには、もっとしっかり自分の立場ってものを分からせてやる必要があったみたいね…」

 

息を切らせるまで怒りつくしたルイズは、自身の使い魔の素行の悪さを再認識するのであった……。

 

 

 

 

 

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仕方がないので、一先ずデイダラのことは放っておいて、ルイズは朝食の為に食堂へ向かうことにした。

 

 

「あら、おはようルイズ」

 

自室から出ると、すぐに隣の扉が開き、燃え上がる様な赤い髪をした褐色肌の女子生徒が出てきて、ルイズに声をかけてきた。

 

 

「……おはよう、キュルケ」

赤髪の女性、キュルケに対し、ルイズも挨拶を返した。今、ルイズにとって、できればあまり会いたくない人物である。

 

 

キョロキョロとルイズの周りを見てから、キュルケはルイズに問いかける。

 

「貴女の使い魔、見当たらない様だけどどうしたのかしら?」

もしかして、逃げられた?と、薄い笑みを浮かべながら聞くキュルケに対し、ルイズは「うっ…」と言葉を詰まらせ、俯いてしまう。

ルイズ自身、考えていなかった訳ではないが、なるべく頭の隅に置いやっていたことであった。

 

もしかすると、自分に愛想が尽きて早々に出て行ってしまったのではないか、と。

 

そうだとしたら、自分は今後どうなるのか。使い魔のいない生徒はこの先の授業には参加できないだろう。呼び出した使い魔によって今後の属性を固定し、専門課程へと進むのだから、当然だ。

なら、使い魔に逃げられたルイズは良くて留年。最悪の場合、退学となってしまうのだろうか……

 

そんな惨めな終わりなんて嫌だと考え、ルイズは意志を強く持って勢いよく顔を上げた。

 

「べ、別に!ちょうど今、洗濯物を洗わせに行かせてるだけよ!」

ルイズは、キュルケに対し胸を張るように言い放った。

 

「ふーん?そうなのー?」

「そ、そうよ。悪い?」

若干、歯切れが悪かった為、少し疑われてしまったが何とか誤魔化せたルイズであった。

 

 

「そうよねー。貴女の使い魔、ただの平民だものねー。そういうことにしか使えないわよねー」

「ふん、平民の使い魔でも使い方次第じゃ、便利なものよ。他にも部屋の掃除とか服の着替えとかさせられるしね」

さも、実際にやらせた様に言うルイズであったが、もちろん口から出まかせである。

 

「あははは!なぁに?貴女、男の平民に着替え手伝えさせてるの?」

「な、なによ?なんで笑うのよ!何か問題でもあるの?」

下僕同然なんだから当然じゃない、とルイズは反論する。

 

「あはは!貴女がいいのなら別に構わないけど、あたしなら自分の肌をそんなに安く晒したりはしないから、ついね」

「あ、アンタに言われたくないわよ!しょっちゅう発情してる色ボケのくせに!」

思わず口が悪くなるルイズ。

 

「失礼ね。いくらあたしでも、好きでもない男の前で肌を晒したりしないわよ」

当然じゃない、とキュルケは言う。

 

「な、な、なっ…!」

まさかのキュルケにそう言われ、ルイズは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

傍から見ると顔が真っ赤になっている。

 

 

「ふふん、使い魔っていうのはこういうのを言うのよ。おいで〜、フレイム」

勝ち誇った様にキュルケは自身の使い魔を呼ぶと、キュルケの背後から尻尾に炎が点った巨大なトカゲが現れた。

 

「火竜山脈のサラマンダーよ。好事家に見せたら値段なんてつかないわよ〜」

自慢気にルイズに見せつけるキュルケだが、ルイズからの反応は薄い。

 

どうやら、先程の話がよっぽどショックだったのか完全にフリーズしている様子だった。

 

 

「あらあら。それじゃ、あたしは先に食堂に行くわね。あんまり遅くならない方がいいわよ」

そう言い残し、キュルケはフレイムを伴って歩いていった。

 

 

 

入れ替わりで、キュルケが向かった方向とは逆の通路からデイダラが現れた。

 

「なんだ、起きてやがったのか。起こしてくれなんて言うから、とんだ寝坊助なのかと思ってたぜ、うん」

 

扉の前で立ち止まっているルイズに、そう声をかけたデイダラであったが、ルイズからの反応はない。

顔色を伺おうにも、俯いているのか、ルイズの前髪で隠れていて、よく見えない。

 

 

「………、……っ!!」

デイダラが、覗き込もうと体を屈ませたところでルイズからの反応があった。

 

「ん?なんだって?」

聞こえなかったので再び問うデイダラ。

 

 

 

 

「……あんたの朝食抜きーっ!!」

「なんでだコノヤロー!!」

理不尽な命令を下すルイズに、当然の抗議をするデイダラ。

二人はしばらくの間、廊下で言い合いを繰り広げるのであった。

 

 

 

 

 

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(………やってしまったわ)

中央本塔内にある豪華絢爛な大食堂『アルヴィーズの食堂』で、ルイズは傍から見ても分かりやすいほど落ち込んでいた。

 

 

(本当なら、この朝食の格差で主従関係をハッキリさせようと思っていたのに…)

目の前の豪華な朝食を見ながら、ルイズは先刻の自分を恨めしく思った。

これでは、ルイズの考える躾には程遠い、ただの八つ当たりである。

 

 

そんなルイズを余所に、既に周りのメイジ達は食事前に行う祈りの唱和がなされていた。

一応、ルイズも形だけは取り繕ってはいたが、声は出ていない。

 

 

 

 

 

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(うう…。あんまり喉を通らなかったわ…)

朝食を終え、食堂を出ていく生徒達の波に合わせ、ルイズも歩き出していく。

 

そうして食堂を出ると、すぐ側の壁を背もたれにしてデイダラが立っていた。

ルイズの姿を認めると、隣まで近づき、すんなり声をかけてきた。

 

 

「よう。オイラは食えなかったが、貴族の朝メシとやらは美味かったか、うん?」

開口一番に、若干皮肉を込めたように尋ねてくるデイダラ。やはりと言うかなんと言うか、少し根に持っている様子であった。

 

それに対し、ルイズは多少の居心地の悪さを感じながら「べ、別に…」とだけ答えた。

デイダラは「そうかい」とだけ返し、その後話かけることはなかった。

 

そんなデイダラを、ルイズはチラチラとだけ見ながら、素直に謝罪もできない自分に溜息をついた。

 

 

 

 

 

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「へぇ、なかなか。色んな生物がいるもんだなぁ、使い魔ってのは、うん」

 

教室へ着くなり、周りを見渡し、他の生徒達が呼び出した使い魔を見て、デイダラが感想を述べた。

 

使い魔の話題を出されると返答し辛いからやめてほしいな、とルイズは考えながら「そうね」とだけ返事をした。

 

 

 

ルイズ達が教室に入って来たことに気付いた途端、他の生徒達が一斉にクスクスと笑い出した。

 

 

「ああ?なんだこいつら?」

「いいから、ほっときなさい」

 

周りの笑い声に対し、若干の苛立ちを込めたようにデイダラが尋ねる。どうやら、この男はなかなかに喧嘩っ早いというか、好戦的な性格のようだ。

 

そんなデイダラを制しながら、ルイズは席に着いた。それに倣い、デイダラもルイズの隣の席に腰を下ろした。

 

ルイズはそれを見て、ここはメイジの席だと告げようとしたが、朝のことが負い目に感じてしまい、言うに言えないでいた。

 

 

そうしている間に、扉が開き、紫色のローブに身を包んだ女性教師が入って来た為、ルイズは諦めて教卓の方へ意識を向けた。

 

 

 

「皆さん、春の使い魔召喚は大成功だったようですね。このシュヴルーズ、こうして春の新学期に様々な使い魔を見るのが、毎年の楽しみなのですよ」

教室に入ってきた教師、シュヴルーズは、ひとしきり教室の中を見回すと、満足そうに微笑みながらそう言った。

 

 

その言葉に、ルイズは僅かに俯いてしまった。

そして、シュヴルーズの目がデイダラに向けられた。

 

 

「おやおや、少々変わった使い魔を召喚したみたいですね、ミス・ヴァリエール」

 

 

直後、教室の中で再びクスクスと笑いが起きる。

 

「なんたって、ゼロのルイズだしな!本当は召喚できなかったから、その辺を歩いてた平民を連れてきたんじゃないか?」

男子生徒の一言で、さらに教室内で笑いが起きた。

「違うわよ!ちゃんと召喚したわ!」

ルイズは立ち上がり、反論する。

 

「だってあの『ゼロ』だもんな。召喚が成功したっていうのも疑わしいぜ!」

肩にフクロウの使い魔を乗せた、少々小太りな男子生徒がルイズに向けて言い放つ。

 

「いい加減なこと言わないで!かぜっぴきのマリコルヌ!」

「誰がかせっぴきだ!俺は風上のマリコルヌだ!」

マリコルヌという生徒も立ち上がってルイズに反論する。

 

 

言い合いを始めた二人に頭を悩ませながら、シュヴルーズは持っていた杖を振ると、ルイズもマリコルヌも糸が切れた人形のように、ストンと席に着席した。

「二人とも、みっともない口論はおやめなさい」

 

「ミセス・シュヴルーズ。お言葉ですが、僕のかせっぴきはただの悪口ですが、ルイズのゼロは事実です」

マリコルヌの発言に、一部の生徒達が再び笑い出した。

 

 

それを見てシュヴルーズが杖を振ると、笑っていた生徒達に向かって赤土の粘土が飛んでいき、その笑っている口を塞いだ。

 

「貴方達はその格好で授業を受けてなさい」

シュヴルーズのお陰で、教室内の笑いは収まった。

 

ルイズはホッと一息つき、ふと、今の光景を見ていたデイダラに何か言われやしないかと様子が気になり、目を向けた。

 

デイダラは、特にこれといった反応はしていない様子で、ルイズは再びホッと息を吐いた。

 

 

………ルイズは気がつかなかったが、デイダラは先程のシュヴルーズの行動に熟視し、何やら悪そうな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「それでは、授業を始めますよ」

 

 

 

 

 

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授業は魔法の基礎のおさらいから始まった。

 

 

 

ここで、この世界の魔法について簡単に説明すると、

ハルケギニアの魔法には四代系統というものが存在しており、それぞれ『火』『水』『土』『風』となっている。さらに補足をすると、かつては伝説の系統『虚無』という属性も存在し、五代系統と呼ばれていたのである。

これらの系統魔法は、いくつの系統を足して使えるかによって、『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクエア』という四段階のクラスが存在しているのだ。

 

 

 

これらの座学に関しては、ルイズは学院でもトップクラスの実力を持っている為、あまり根を詰めずに授業を受けていた。

 

しばらくして、シュヴルーズの授業は土系統の魔法である『錬金』の復習へと進んでいく。

ふと、ルイズは、隣に座るデイダラの様子を伺う。どうやら、多少の興味があるようで、割と真剣に授業を聞いているみたいだった。

 

 

「なぁルイズ」

不意に声をかけられる。ちょうどデイダラの方へ意識を向けたところだったので、ルイズは少し驚いてしまった。

 

「なによ?」

「お前らメイジの二つ名っていうのは、そいつが得意としてる属性にあやかったものになるんだろ?」

「……ええ、そうよ」

「なら、お前のゼロってのはなんなんだ?うん?」

 

聞かれながら、ルイズはついにこの質問がきたか、と心の中で歯噛みする。

「それは…」と、歯切れ悪く口を開いた時だった。

 

 

「ミス・ヴァリエール!授業中に使い魔とお喋りとは、あまり感心しませんね」

「は、はい!申し訳ありません!」

シュヴルーズから叱責が飛んできてしまった。

 

「お喋りする余裕があるのなら、この錬金は貴女にやってもらいましょう」

途端、教室中の生徒達は、ビクンと反応し、次々と反対意見が挙がる。

 

「ミセス・シュヴルーズ、やめといた方が…」

「そうです!無茶です!」

「ゼロに魔法を使わせるなんて…」

 

シュヴルーズは、なにをそんなに反対するのか分からずにいた。

このルイズという生徒は、実技の成績はまったくだが、座学はとても優秀で努力家だとも聞いていたし、ちょうど良いと考えてのことであった。

 

 

「…やります!」

周りの反対意見に対抗するかのように、ルイズは立ち上がり、教卓の前へとやってきた。

 

「ミス・ヴァリエール、目の前の小石を、錬金したいものに思い浮かべるのです。失敗を恐れてはいけませんよ」

ルイズの隣に立ち、優しく微笑みかけるシュヴルーズ。

 

それを受けて、ルイズはコクン、と頷き、杖を掲げて呪文を唱え始めた。

 

デイダラは、興味深くそれを眺める。

 

 

そして、ルイズが杖を振り下ろした瞬間、教室が光に包まれ、爆発が起きた。

 

 

 

 

ーーーーー教室の中、特に教卓周辺は大惨事となっていた。

 

 

机の下に隠れていた生徒達が顔を出し始めると、教卓の方へ目を向ける。

ルイズはどうやら無事だったようで、爆心地で杖を振り下ろした状態のまま立っていた。それでも、身体中煤まみれとなっており、服も所々破けていた。

酷いのはシュヴルーズの方であり、爆発を至近距離でモロに受けた彼女は、吹っ飛ばされ、床に倒れて気を失っていた。

 

 

生徒達と同じ様に、咄嗟に机の下に隠れたデイダラは、その光景を見てよくもまぁこの程度で済んだものだ、と言いたげな表情をしていた。

 

 

「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」

「もうルイズは退学にしてくれよ…!」

「この、魔法の成功確率『ゼロ』のルイズ!」

 

 

 

「……なるほどな、うん」

周りの、ルイズへの非難を聞きながら、デイダラはルイズの二つ名の由来を理解するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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