ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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読んでくださってる方々、いつもありがとうございます
のんびりとした展開スピードですが、楽しんで頂ければ幸いです


6,求めた刺激

 

 

 

 

 

 

デイダラがシエスタに案内されたのは、大食堂の裏にある厨房であった。

料理人や給仕達が忙しそうに働いている横を通り過ぎて行き、厨房と隣り合わせとなっている使用人の休憩室へと入っていった。

 

 

備え付けの椅子へ腰掛けてから、ふと、デイダラは疑問に思ったことをそのまま口にした。

「そういや、お前は働かなくていいのか?」

「今は私は休憩中なので。昼食後のお昼休みの時間になったら、今食堂で配膳している方と入れ替わりで仕事に戻りますよ」

 

そう答えながら、シエスタは「少し待ってて下さいね」と言い、厨房の方へ戻っていった。

 

程なくして、シエスタがとても香ばしいシチューをトレイに乗せて持ってきた。

「お待たせしました。賄い用に私が作ったものなので、お口に合えばいいのですが…」

「おお、美味そうだな。うん」

 

シチューをデイダラの前のテーブルへと並べながら、シエスタは少し遠慮がちに言った。

そんなシエスタを余所に、デイダラは少し前のめりになり、目の前のシチューへの正直な感想を述べると、早速口に運んだ。

 

 

一口食べると、デイダラはすぐに二口目、三口目、とシチューを口に運んでいき、あっという間に食べきった。

「ああ、美味かった。うん」

「ありがとうございます。すごい食べっぷりでしたね。あの、よろしければおかわりもありますけど…」

 

余程お腹が空いていたのかとシエスタが思うほど、デイダラの完食スピードは早かった。

シエスタが、おかわりはどうかと申し出るとデイダラは即座に反応した。

 

「そうなのか。じゃあ遠慮なく、もらっていいか」

「は、はい!じゃあ、待っていて下さいね」

シエスタは、自分の料理をバクバク食べてくれることが嬉しいのか、すぐにおかわりをよそってきた。

 

 

 

 

結局、デイダラはその後もシチューをもう一杯おかわりしてから、シエスタに水をもらって一息ついた。

 

 

「いやー、すまねぇなシエスタ。正直、助かったぜ、うん」

「いいんですよ。同じ平民同士、お互い助け合っていきましょう」

シエスタに食事を出してもらい、デイダラは少し丸くなったように礼を言った。

 

 

「それにしても、なんで食事抜きにされてしまったんですか?」

「ああ、ルイズの失敗魔法のことで話してたら急に怒りだしてな」

大変だったぜ、と続けて、シエスタは驚いた様子でデイダラに注意する。

 

 

「気をつけないと駄目ですよ!ここで暮らしていくのなら、貴族の方を怒らせる様なマネをしちゃ」

デイダラは、大袈裟だと一蹴するが、シエスタはさらに食い下がってきた。

 

「とにかく!気をつけていれば、ここは待遇も良いんですから、貴族の方に対して、怒らせる様なことは絶対しちゃダメですよ。辞めさせられるか、命だって危ない時もあるのに…」

 

(……ここの平民ってのは、随分と臆病な連中なんだな。いつまでもこんな連中と一緒くたにされてちゃ敵わねぇな、うん)

 

内心で、平民に対しての評価を大幅に引き下げていると、そろそろシエスタの休憩時間が終わるみたいなので、デイダラはこの辺でお暇しようとした。

 

 

「じゃあ、世話になったなシエスタ。悪いが今、金の持ち合わせがねぇんでな、うん。後払いでもいいか?」

「そんな、お金なんていりませんよ。言ったじゃないですか、お互い助け合っていきましょうって」

再び、屈託のない笑顔を見せるシエスタ。

 

 

正直なところ、このシエスタはデイダラにとってすごくやり辛い相手であったので、この笑顔は対応に困ることこの上ない。

「……そうかい。それじゃあ、今度お前が何か困ったことでもあれば、オイラを頼りな。助けてやるよ、うん」

そう言うと、シエスタは意外そうな顔をしたと思ったら、すぐにまた微笑んで答えた。

「では、お言葉に甘えて。その時は頼りにしますね」

 

 

帰り際、デイダラが厨房の出口に差し掛かった辺りで、ふと、何かを思い出した様子のシエスタに声をかけられた。

「…あっ。そういえば、まだ貴方の名前を聞いていませんでしたね」

教えて下さいませんか?と、シエスタに聞かれる。

 

「そういやそうだったな、うん。オイラの名はデイダラだ。芸術家だ」

「デイダラさん、は、芸術家なのですか?」

「そうだ。今度機会があれば披露してやるよ、うん」

 

そう言い残し、デイダラは厨房をあとにした。背中から「楽しみにしてますねー」というシエスタの声がしたが、デイダラはそのまま振り返らずに、片手を軽く挙げて応えるのみであった。

 

 

 

 

 

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厨房から出て大食堂に入れば、すぐにルイズを見つけることができた。

デイダラは、そのままルイズに近づいていき、普段と変わらずに声をかけた。

 

 

「よう。まだメシ食ってんのか」

「ふん、何か用?デイダラ」

言っておくけど、鶏肉の皮一枚だろうとあげないわよ。と間髪入れずにルイズは言う。そこまで、ルイズの意志は固い。昼食抜きと言ったら、とことんやる、という様な雰囲気だ。しかしーーー

 

 

「残念だが、もうメシは済ませたぜ、うん」

「はぁ⁉︎なによそれ!一体アンタ、どこで拾い食いしてきたのよ!」

澄まし顔で昼食を食べていたルイズは、途端にデイダラの方へ向き直り声を荒げた。

 

 

「酷い言い様だが、朝昼とメシを抜くお前が悪い。オイラもちゃんと仕事はこなすつもりだが、こうも待遇が悪いとなるとオイラも考えを改めるぜ、うん」

「ぐ、ぐぐゥ〜。な、なによ、アンタ今のところ仕事らしい仕事してないじゃない。朝起こさないし、洗濯もしないし、着替えも…っ‼︎」

 

途中まで言いかけて、突然ルイズはハッとして顔を背けた。デイダラからは表情は見えないが、何故か耳は真っ赤だ。

 

 

「ん?なんだいそりゃ」

と、デイダラが尋ねるが返事は返ってこないので、他の部分の回答をした。

 

「聞くが、掃除も洗濯も使い魔とやらの仕事じゃあねぇだろ。朝起こすのは百歩譲っていいとしてもな、うん」

ルイズは顔を背けたままなので、聞いてるのか分からないが、デイダラは気にせず続けた。

 

「重要なのは、お前の護衛ってだけだろう?なら今のところ、その必要もなさそうなんだからしょうがねーじゃねぇか、うん」

言い終わると、程なくしてルイズが向き直った。その顔は、だいぶ落ち着いていたが耳と同じ色をしていた。

 

 

「……アンタ、晩ご飯も抜き…!」

「てめー、なんでだコノヤロー!」

 

デイダラは抗議したが、ルイズは聞く耳を持たずに給仕が配ってきたデザートを食べ始めてしまった。

 

 

しょうがなく、デイダラはルイズの元から離れ、しばらく自由行動でもするかと考えていた時だった。

食堂の一ヶ所に、何やら人が集まって大きな声で盛り上がっていた。そこにはシエスタの姿も見えた。

 

 

 

 

 

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(……ああ、どうしてこんな事に…)

目の前の、貴族であるギーシュに対し、必死で床に膝をつけて謝罪しながら、シエスタは心の中で自分の不幸を嘆いていた。

 

 

 

事の起こりは、ほんの数分前に遡る。

ここ『アルヴィーズの大食堂』は、昼食後のお昼休みの間も解放しており、貴族である生徒達が食後のデザートや紅茶を飲んだりして語らうことができる様になっていた。

 

そんな中で、シエスタはデイダラを見送ったあとに、すぐ仕事に戻り、貴族の生徒達にデザートなどを配っていたのだが、そこで一つの問題が生じた。

 

 

金髪の緩い巻き髪に、薔薇をシャツに刺した貴族であるギーシュ・ド・グラモンを中心として、他の貴族の男子生徒達が、彼が現在誰と付き合っているのかという話題で盛り上がっていたのである。

 

「なあギーシュ!お前、今は誰と付き合っているんだよ?」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ」

周りの生徒達がギーシュにまくし立てる。半分冷やかしに近い様子だった。

 

「付き合う?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね」

随分とキザな台詞だな、とシエスタは思った。内心で、彼と付き合っている女性がかわいそうだと思ったほどだ。

 

 

そんな時、彼のポケットから一つの小ビンが落ちたのに気付いた。どうやら香水のようだ。教えなくては、とシエスタは思ったのだ。

 

 

「あの、ミスタ・グラモン。こちらの香水を落としましたよ」

言いながら、小ビンを拾ってギーシュへ差し出した。

 

「……これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

「えっ…、でも…」

確かに彼のポケットから落ちるのを見たのだ。そのことを伝えようと口を開きかけた時、

 

「おい、その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」

「そうだ!その鮮やかな紫色はモンモランシーが調合している香水だぞ」

周りの生徒達が一気に騒ぎ出した。

 

「親しい相手にしか渡さないというモンモランシーの香水を持っているということは、つまりギーシュは今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」

「違う。いいかい?彼女の名誉の為に言っておくが…」

ギーシュが言い訳をしようとするが、その前に茶色いマントを着た女子生徒がやって来た。手には蓋付のバスケットを持っている。

 

 

「ギーシュ様…やはりミス・モンモランシーと…」

「ケティ、彼等は誤解しているんだ。僕の心の中に住んでいるのは君だけ…」

パチン、と音がした。ケティと呼ばれた少女がギーシュの頬を叩いたのだ。その拍子にバスケットが落ちて、中に入っていた美味しそうなスフレが露わになった。

 

「その香水が何よりの証拠ですわ!さようなら!」

 

バスケットをそのままにケティが去ってすぐに、今度は金髪縦ロールが印象的な二年女子生徒、モンモランシーがやって来た。

 

「やっぱりあの一年生に手を出していたのね…」

「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただ…」

ギーシュが言い終わる前に、モンモランシーはテーブルの上に置かれていたワインをギーシュの顔にドパッとかけた。

 

「嘘つき!」

怒鳴って踵を返し、去っていくモンモランシー。見事な修羅場であった。辺りに沈黙が続いた。

 

 

「あのレディ達は薔薇の存在する意味を知らないようだ」

言いながら、ハンカチを取り出し、ワインで濡れた顔を拭くギーシュ。

 

そんな彼を見て、周りの男子生徒達は笑い出していたが、シエスタには笑えない状況だった。

 

「君。君が軽率に香水のビンを拾い上げたせいで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」

「は、はいっ!申し訳ございません!」

 

慌てて床に膝をつけて謝罪するシエスタ。その顔は、恐怖で真っ青になっていた。

 

「おいおい、ギーシュ。平民に八つ当たりかよ」

「君達、黙りたまえ。僕はこのメイドが香水のビンを拾った時、知らないフリをした。話を合わせる機転があってもいいだろう?」

確かにな!と周りの生徒達もギーシュに話を合わせ始めた。

 

(そんなのっ…!)

無茶苦茶だ、とシエスタは心の中で訴えたが、何もすることはできなかった。

 

実際、貴族という者達は世間に対する体裁ばかり気にするものが殆どであり、このギーシュも例外ではなかったのだ。

このままでは、自分に下される結末など目に見えている。だが、それでもシエスタには、どうすることもできない状況であった。

 

「さて、では君には今回の一件の責任を取ってもらう為に、ここを辞めてもらおうか、な」

 

と、ギーシュ達が揃ってシエスタに脅しをかけている時、渦中のシエスタに声をかける者がいた。

 

 

 

「よう、何やってんだいシエスタ?」

 

 

 

ついさっきまで聞いていた低い声に思い当たり、シエスタはハッとして顔を上げた。

 

 

「って、見りゃ分かるか。うん」

 

 

「で、デイダラさん…‼︎」

自分の真横に立つ人物の姿を視界に入れ、シエスタは驚きの声を出す。

 

「……さっきまでオレに貴族を怒らせないよう注意してたってのに。早々に自分がその立場になっちまうなんて、面目が立たないな。うん」

 

「…っ‼︎」

言われて自分でも恥ずかしくなる。なんでこんなことに、と。

 

 

「どうだい。今困ってるか、うん?」

 

 

「………えっ?」

そう言われて、この人が今何を考えているのか思い当たり、再び驚きの声を出す。

 

「おい、君達。貴族を前にして無礼じゃないか」

話をそのまま置き去りにされ、怒り出したギーシュが薔薇の造花を模した杖を二人に突きつけた。

 

「なんだ。誰かと思えば、昨日の夜会った軽薄そうな貴族じゃねーか、うん」

「君は…、ゼロのルイズの使い魔…!」

 

顔を見合わせた途端、二人はお互いに相手が誰なのか気づいたようだった。

 

「なんの真似かね?なんでここで、ルイズの使い魔の君がでしゃばってくる?」

「…まぁ、ちょっとした訳があってな、うん」

ギーシュは、ピリピリした様子で言葉を続ける。

 

「君には用はない。見逃してやるから、早々に立ち去りたまえ」

「へっ、要するにお前は今、憂さ晴らしがしたい訳だろ?」

 

なんだと?と聞き返すギーシュを見て、デイダラは続けてある提案をする。

「オイラがその相手をしてやる。こんな女を虐めるより、その方がずっといいだろ?」

「…っ!なにを…!」

言っているんですか、とシエスタは続けて言おうとしたが、先にギーシュが反応してしまった。

 

 

「はっはっはっは!これはいい!実は僕も、例え平民であっても女性に対し、これ以上の仕打ちは本意ではなかったのでね」

実に都合がいい、とギーシュはひとりごちた。

 

「決闘だ!ヴェストリの広場で待っている。逃げるんじゃないぞ」

「誰が逃げるかよ、うん」

マントを翻し、ギーシュは食堂を出て行くと、周りの生徒達は先にも増して騒ぎ出した。

 

「うおお!ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔の平民だ!」

急いで広場へ行こうぜ、と騒ぐ貴族達を余所に、シエスタはさっきより顔を青くさせていた。

 

「デイダラさん。あ、貴方なんてことを…‼︎」

フルフルと肩を震わせながら、シエスタは怯えたように言う。

 

「ふん。だからちょっと大袈裟なんだよ、うん」

 

(ああ、私のせいでこの人が殺されちゃう…)

シエスタが、良心の呵責に苛まれていると、小走りでルイズがデイダラの側まで来ていた。

 

 

「ちょっとアンタ、何やってんのよ。見てたわよ!」

「ルイズか。なーに、ちょうど色々なことにウンザリしてきた所だからな。ここいらでそれをぶっ壊してやろうと思ってな、うん」

 

シエスタには、デイダラの言っている意味が全く分からなかったが、それはルイズも同じであったようだ。

 

「なにワケの分からないこと言ってるの⁉︎いーい?いくら腕っ節に自信があったとしても、平民は貴族に絶対に勝てないんだから!今のうちに謝っちゃいなさいよ。今ならギーシュも許してくれる筈よ」

「そ、そうです…!今ならまだ、私が罰を受けるだけで済む筈です…!だから…」

ルイズの言葉にハッとして、デイダラに謝ることを訴えかけるシエスタ。だが…

 

「いい機会だから言っておくがな。平民の力の無さもよ、ルイズの体裁の悪さもよ。そのどれもこれもが今のオイラに付きまとってくるんだ。いい加減ウンザリしてくるだろう?だからその評価をひっくり返してやろうと思うんだよ、うん」

 

デイダラは気怠げな雰囲気のまま、そう言い放った。

 

「シエスタ、さっきのメシの礼だ。頼りにすると言ったのはお前だよな、うん?」

そんなデイダラに圧倒されながら、不意に彼に声をかけられたので、シエスタは「は、はい!」と返事をしてしまった。

 

「ルイズ。お前、オレに今だに仕事もしてないと言っていたよな」

「な、なによ?今は関係ないでしょ」

デイダラは、ちょうど良い機会だろ、と不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「使い魔であるオレの評価が変われば、主人であるお前の評価も多少は変わるだろ。うん」

「た、確かに、メイジの力量は使い魔にも現れるって言うけど……。でも、危険よ!」

 

シエスタとルイズは、なんだか二人揃ってデイダラのペースに流されそうになるが、ルイズが一歩踏みとどまった。

 

「まぁ見とけ。芸術家ってのは、より強い刺激を求めていないと、感情が鈍っちまうもんなんだよ。現状、あまり相手に贅沢は言えないが、まぁしょうがないだろ、うん」

 

ここらが潮時だ。と、デイダラは止まる気配がなかった。

 

「も、もういい!知らない!」

ルイズは自棄になったように食堂から出ていった。

 

「あの、デイダラさん…」

「ん?」

ルイズが出ていくのを見ていたデイダラに、シエスタは小さな声で話しかけた。

 

「本当に、今からでも遅くはありません。考え直していただけませんか…?」

「くどいぜ、シエスタ。大人しくオイラに任せておけ、うん」

シエスタは、そう言うデイダラの背中を見て、頼もしいと思いながらも、無事を祈らずにはいられなかった。

 

 

 

「さて、ヴェストリの広場ってのはどこにあるんだ?」

 

デイダラは、近くに残っていたギーシュの取り巻きに声をかけ、決闘の場へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 


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