ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ
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7,決闘の行方

 

 

 

 

 

 

火の塔・風の塔・本塔が囲む学院の中庭が、ギーシュとデイダラの決闘の場であるヴェストリの広場である。西側にある広場なので日中でもあまり日が差さず、普段は人気があまりない場所でもある。だが、今は二人の決闘の噂を聞きつけた生徒達で溢れかえっていた。

 

「諸君!!決闘だ!」

ギーシュが薔薇の造花を掲げると、集まった観客達から歓声が上がる。

デイダラが広場へやってきたのを見て、すぐの行動だった。これで恥をかかずに逃げることはもうできないということだろうか。

 

 

普段と変わりない様子のデイダラの姿を視界に入れながら、ルイズは不安げな表情のまま見つめていた。

 

「随分と面白いことになってるじゃない、ルイズ」

「キュルケ…」

そんなルイズに声をかけたのは、赤髪の女子生徒、キュルケである。隣には彼女の友人のタバサの姿もあった。

 

「いいの?このままで?貴女の使い魔、使い物にならなくなっちゃうかもよ」

「言ったって聞かないんだもん。危なくなったら止めるわ」

そういうルイズだったが、やはり不安げな表情は消えていない。内心では止めさせたくてしょうがないのだ。

 

それでも今すぐに止めないのは、デイダラがルイズの現状の打破を考えて行動してくれているからであった。

 

「ふーん。ま、アタシは面白ければそれでいいんだけどさ。ねぇタバサ、アンタはどう思う…タバサ?」

キュルケに話しかけられた青髪の少女タバサは、普段は本から目を離さないのに、今はルイズの使い魔であるデイダラをジッと見つめていた。

 

「どしたの、タバサ?アンタもしかして、ああいう男が好みなわけ?」

ふるふると首を振り、否定の意を表してから、タバサは小さな声で答えた。

 

「あの人を甘く見ない方がいい」

「えっ?」

「…えっ?」

彼女の言葉に反応したのは、キュルケとルイズである。

 

ルイズは、普段から皆から一目置かれているタバサの口から意外な一言が出て、少し面食らってしまった。それはキュルケも同じなようで、「どういうこと?」と聞き返している。

 

「…彼にも伝えた方がいい」

タバサは、キュルケの質問には答えず、ギーシュを指さしながら、そう言った。

 

 

 

 

 

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「まずは逃げずに来たことを褒めてあげるよ」

「へっ、口だけは達者だな、うん」

デイダラが広場へやってくると、すぐさま周りの観客達を味方につけ、アウェーな状況を作り出したギーシュを、デイダラは皮肉交じりに称賛した。

 

「ふん、君の貴族に対しての口のきき方、気に入らないな。主人に代わってこの僕が、躾けてあげようじゃないか」

言いながら、ギーシュは自身の薔薇の造花を模した杖をデイダラに向け、突きつけた。

 

「オイラも、何故かお前を見ていると、昔の仲間で尊敬していた芸術家を思い浮かべちまうから気に入らねぇ」

全然似てねーのによ、うん。と続けて言うデイダラ。

だが、ギーシュには知り得ないことだし、関係もないことなので、返事をせずにルール説明に入った。

 

 

「まずはこの決闘のルール説明をしてやろうじゃないか」

ルールはこうだ。

どちらか一方が負けを認め、それを相手が承認したら終了。

最悪の場合、どちらかが死ぬことも容易にあり得るということだ。

 

 

「普段は決闘など禁止されているのだが、それは貴族同士の場合、君は別だ。存分に楽しませてもらうよ」

「楽しめればいいがな、うん」

デイダラはそう言いながら、自身の右手をゆっくりと胸の高さまで上げていき、正面に向け、手を開いた。

 

 

 

すると、どうだろう。手のひらの中心が裂け始めたと思ったら、そこから一つの『口』が現れた。

 

 

 

「な、なんだそれは!なんなんだその、手のひらの『口』は!!」

驚きの声を上げ、ギーシュはデイダラに食ってかかる。

事態は、周りの観客である生徒達にも伝わり、徐々に困惑の声が大きくなっていった。

 

 

「ちょ、ちょっと何あれ!ねぇルイズ!何なのよ一体あれは!」

「し、知らないわよ!私も初めて見たんだもん!」

ざわざわとした観客達の中で、ルイズとキュルケも周りと同様に困惑の声を上げていた。

 

いや、待て。キュルケはともかく、なぜ主人であるルイズまでそんなに狼狽えているのか。

 

「ちょっとまて!聞き捨てならないぞルイズ!なぜ主人である君が、彼の手の口のことを知らないんだ!」

ギーシュは、声を荒げたようにしてルイズに話しかける。

 

「だ、だって。手のひらなんて普段意識して見ないし、あいつの手、ほとんど服の袖に隠れて見えないし…」

言い訳がましく答えるルイズに、ギーシュはうめき声を発して、食い下がることができないでいた。

 

「・・あっ、そうだ。ねぇギーシュ!さっきタバサが、その平民を甘く見ない方がいいって言ってたから、気をつけた方がいいわよー!」

(な、なに〜〜⁉︎)

 

キュルケにそう忠告され、ギーシュは冷や汗をかく思いだった。

実際、キュルケの忠告のタイミングも最悪と言えるものだった為、無理もないことであるが。

 

 

(な、何者だこの男。ただの平民じゃないのか?あの手のひらの口は…!)

 

 

「どうした?すっかり黙りこくっちまって。やらないのか…?うん?」

ギーシュが黙っているのを受けて、デイダラが挑発してくる。

 

(お、落ち着け。あんなのただの口じゃないか。手のひらに口があったからって何ができるんだ。ただの平民と同じだ…!!)

心の中で、ギーシュは必死に自分を落ち着かせる。ハラを決めたようである。

 

「そんなこけおどしに惑わされると思っているのか、この平民が…!」

言いながら、ギーシュは再び杖をデイダラへ向け、突きつけた。

 

 

 

 

 

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(あらら、この手のひらの口だけでそんなに驚かれちゃあ世話ねぇな、うん)

周りの騒めきに対し、デイダラの心情は静かなものだった。

本当であれば、そのリアクションを求める瞬間は別にあったのだが、まぁいいだろうと、デイダラは内心でひとりごちた。

 

 

「そんなこけおどしに惑わされると思っているのか、この平民が…!」

 

程なく、ギーシュの声が聞こえたので意識を彼に向ける。どうやらハラを決めたと見ていいだろう。

 

「へっ、じゃあ始めるか。先手はお前にやるよ、うん」

「な、なにっ⁉︎」

デイダラの発言にギーシュは怒りを込めた声で反応した。

 

 

正直、デイダラにとって、目の前のギーシュという男は戦うまでもないような男であった。

力量はおおよそ見えている。そもそも、ここが魔法の教育機関だと聞いた時から、忍世界でいうアカデミーと同等のものだと判断していたのだ。

 

(まぁ、生徒の歳はこっちの世界の方が食ってるみたいだから、その分は知恵を働かせてくれないとな、うん)

だが、力の差に関しての判断は変わらないので、先手を譲ったのはそのハンデである。

 

 

「な、舐めたマネを…!」

ギーシュが、杖を振るうと、薔薇の花びらが三枚宙を舞い、地面に落ちる前には甲冑を着た三人の女戦士の人形が現れた。

身長は人間と同程度で、硬い金属製らしく淡い陽光を受け、煌めいている。

 

「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ!ゆえに青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ!」

キザったらしい仕草をしながら、そう宣言するギーシュ。どうやら気を取り直したようだ。

 

「へぇ、なかなか芸術的な造形じゃねーか、うん」

「・・ほお、僕のワルキューレを見て、そう素直な感想を言えるとは。今にその余裕そうな口を黙らせてやるよ…!」

デイダラの意外な感想に、若干動揺したギーシュであったが、構わずワルキューレに指示を出す。

 

 

ワルキューレと呼ばれた女戦士達は、それぞれが剣や槍、斧といった武器を装備し、三体それぞれが間隔を空けてデイダラに向かって突進してくる。

 

まず、真ん中のワルキューレが槍の柄を長く持ち、デイダラの肩口に向け斬りかかった。が、それをデイダラは左後方へ軽やかに避け、空を切るだけで槍がデイダラを傷つけることは無かった。

 

逃れたデイダラを、今度は左から剣を構えたワルキューレが斬りかかる。それを紙一重で、しかし涼しい顔のまま、デイダラは躱す。

 

(なるほどな、三体での連携。ちょっとは考えながら攻めてきてるようだな、うん。だがーーー)

腰のホルダーバッグへ手を入れながら、ギーシュの攻撃を難なく回避し、デイダラは次に攻撃がくるであろう方向に目を向ける。

 

ギーシュは右側へ逃れたデイダラを、斧を構えたワルキューレで攻撃を命じる。それを再び、紙一重で躱すデイダラ。

 

それぞれ三体のワルキューレから付かず離れずに、身を翻しながら攻撃を避け、デイダラはギーシュを翻弄する。

 

(やはりこいつらは見かけ倒し。あのガキにはこの人形を捌ききるだけの技量はないみたいだな、うん)

 

「く、くそっ!なぜ当たらない…!」

ギーシュが戸惑いの声をもらす。

 

 

「スゲーぞ!ギーシュのワルキューレが手も足も出てない!」

「人間の動きじゃないぞ!」

「何者なんだ、あの平民は⁉︎」

信じられない光景を目の当たりにして、観客の生徒達は次々に驚きの声を上げる。

 

 

「いい気になるなよ…!」

ギーシュは呟き、ワルキューレに指示を出す。

三体のワルキューレはデイダラを中心にして囲みだした。

 

「へぇ。囲って次はどうする、うん?」

「こうするのさ!」

ギーシュが杖を振り下ろした時、三体のワルキューレはそれぞれの武器をデイダラ目掛けて振り下ろした。

 

 

砂塵が舞う。ワルキューレ三体の攻撃は全て外れ、地面に叩きつけられるだけであった。

 

「こんなもんで仕留められるか、うん」

「ぐっ…!」

デイダラはワルキューレ達の攻撃の中心からややズレた位置で立っており、やはり紙一重で躱していた。

 

狼狽えるギーシュを余所に、デイダラは動きの止まったワルキューレ目掛けて飛び上がり、一体のワルキューレの肩に足をかけて、さらに上空へ跳躍した。

 

 

「なっ!バカなっ…!」

ギーシュが、観客の生徒達が、それぞれデイダラの跳躍力に驚き、目で追いかける。

 

「そらよっ!」

デイダラは二体のワルキューレに向けて、自身が創り出した二つの粘土造形品を投擲する。

赤い、鳥の形をしていた。

 

 

赤い鳥は、まるで生きているかのような動きをして、剣と斧を持ったワルキューレの胸元まで接近する。

 

 

「喝っ!」

デイダラが印を結び、声高々と唱えると、二体のワルキューレへ接近した赤い鳥は、盛大に爆発した。

 

 

「なっ…!」

ギーシュはついに、二の句が継げないほど驚いた。

爆発をモロに受けた二体のワルキューレは、胸元が見事に吹き飛び、首と両手、下半身とがバラバラになっていた。

 

「へっ…」

デイダラが不敵な笑みを浮かべながら着地すると、残った一体のワルキューレの足元から赤色の巨大なムカデが現れ、巻きつき、ワルキューレの動きを封じた。

 

 

「き、貴様、なんだその『変なの』は⁉︎マジックアイテムかっ⁉︎」

「『変なの』、はねぇだろ。やっぱバカには芸術ってもんが分かってねぇな、うん」

ギーシュの発言で、恐ろしく冷たい雰囲気になりながら、デイダラは再び印を結ぶ。

 

「教えてやるよ」

 

 

 

“ 芸 術 は 爆 発 だ … ‼︎ ”

 

 

 

ワルキューレに巻き付いていた赤色のムカデは、デイダラの発言後、盛大に爆発した。

今度のワルキューレは、全身がバラバラとなってしまっていた。

 

 

「・・は、はは。ルイズの使い魔なだけはある。爆発するマジックアイテムとはね…。貴様!決闘ではマジックアイテムは禁止だぞ!」

ギーシュは震えを抑え、違反を咎めるようにデイダラに向けて杖を突きつけ、言い放つ。

しかしーーー

 

「これはマジックアイテムとかいうもんじゃない。れっきとしたオイラの能力だ、うん」

「能力だとっ…!」

デイダラは、再び手のひらを自身の胸元の高さまで上げた。

 

ギーシュの目でもしっかりとその『口』が見えた。手のひらの口はクチャクチャと何かを噛んでいる様子だった。

 

デイダラは、手のひらを正面から真上に向きを変え、口が食っているものを吐き出させた。

それは粘土だった。赤土の、粘土であった。

 

「・・あっ」

その光景を見て、ルイズは思い出した。確かにデイダラは粘土造形師であると言っていた。そして、昨日の時点では粘土がないとも。

あの粘土は午前の授業でシュヴルーズが放った赤土の粘土だ。

 

ルイズがそのことに思い当たった時には、すでにギーシュが次の行動に出ていた。

 

「またその人形か、うん」

「だ、黙れ!」

デイダラの正面で、再びギーシュはワルキューレを作り出していた。その数四体。

 

「その魔法もタネが分かったぜ。お前が振り回している薔薇の花びらの数だけ生成することができる人形。そしてそのコントロールには、その薔薇の杖も必要…。そうだろ、うん?」

「ぐっ…!だからどうだと言うんだー!」

 

デイダラの言葉に動揺したのか、ギーシュが一斉にワルキューレ達を突っ込ませた。考え無しの突進である。

 

(ここらで終いか、うん)

デイダラは再び鳥型の造形品を創り出すと、ワルキューレの数分投擲した。一度煙に包まれたかと思うと、すぐさま煙の中から鳥達が、自らの意思で羽ばたくように動き出した。

 

ワルキューレ達はそれぞれが構える武器を振り下ろす。鳥の接近を許すものと、鳥を両断できたものとがいたが…

 

 

「喝っ…!」

先の三体のワルキューレに続き、新しく生成したワルキューレ達も鳥達の爆発によりバラバラとなってしまった。

 

「う、う、く、来るなー!」

「人形は薔薇の花びらの数だけ生成できる。もう花びらが付いてないみたいだが、これ以上生成できるのか…うん?」

デイダラが、少しずつギーシュに近づきながら尋ねる。

 

ギーシュは、観念したように膝をついた。

「ま、参った…。こ、こうさ…!」

 

 

ギーシュのすぐ足元の地面から、今度は赤色の大蛇が現れ、ギーシュを三周ほど体で巻き取ると、空高々と持ち上げた。

 

「う、うわあぁぁッ、ぐえっ…!」

ギーシュを持ち上げた大蛇は、そのまま地面へと彼を叩きつけた。

 

「・・うっ、ぐはっ…!?」

ギーシュが口から血を吐いていると、大蛇がさらに彼の体に巻きついた。

 

「な、なに、を…。こ、こうさんだって…ッ!!」

ギーシュの喉元に大蛇が噛みつき、ギーシュはついに、降参の意を示すことができなくなった。

 

 

「さて。じゃあな、軽薄そうな貴族さんよ、うん」

デイダラは、ギーシュへと近づいていた足を止めた。もちろん爆発範囲の外でだ。

 

 

 

デイダラは印を結ぶ。ギーシュは喋れない。終わりだ・・。

 

 

 

「そこまでよ…!デイダラ!」

 

 

 

場に凛とした声が響く。ルイズである。

 

「・・これは生死をいとわない決闘だと聞いたぜ。トドメを刺して当然だと思うが?…うん?」

「もうギーシュは杖を落としたわ…!杖が無ければメイジは魔法が使えない。決着よ…」

それに、とルイズは続けた。

 

「こんな、決闘なんていうつまらないことで命をとるような真似、私は許さないわよ…!」

ルイズは、強い意志をもってそう言い放った。

 

「・・・」

「・・・」

 

しばし、睨み合い続ける両者。

 

 

「・・チッ。わーったよ!やめりゃいいんだろ?」

折れたのはデイダラの方であった。

ギーシュを拘束していた大蛇も煙となって消えていった。

 

 

 

 

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「う、うおおお!ギーシュが負けたぞ!」

「あの平民、勝ちやがった!いや、平民なのか、あいつ…⁉︎」

「すげー決闘だったぜ!」

緊張の糸が切れたのか、決闘を見ていた観客達が一斉に歓声を上げる。

 

 

ルイズも同様に、緊張の糸が切れたのか、へなへなと腰が抜けたように座り込み、ひとりごちる。

 

 

「・・・もしかして私……、ものすごい奴を召喚したのかも……」

 

 

 

決闘は終わった。勝者、デイダラ。

 

 

 

 

 

 

 








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