森を走る河豚のTシャツのおさげの少女、それに手を引かれるセーラー服の少女。
そしてその二人の前を走る赤いTシャツに黒地に黄色いラインが入ったマフラーを巻いた茶髪のゆるふわヘアーの少女。
森を抜けると海に出た。
「もうすぐ通るよ、モカちゃん、ショウちゃん」
「うん」
「あ、見えた!」
マフラーの少女が指差す方向に、ブルーマーメイドの艦艇が航行していた。
「お~~い!」
おさげの少女は手を振った。すると、甲板の乗員が帽子を取って手を振り返してくれた。
「カッコいいな~…」
マフラーの少女は目をキラキラさせていた。
「モカちゃん、ショウちゃん、わたしたちせぇ~~ったい、ブルーマーメイドになろうね」
「うん」
「とうぜん!」
マフラーの少女はサムズアップした。
「うみにいき、」
「うみをまもり、」
「うみをゆく、」
「「「それが、ブルーマーメイド!!!」」」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
9年後
とある断崖絶壁。
そこで銀色の戦士とヒトデの姿の怪人が戦っていた。
「はぁっ!」
銀色の戦士のパンチは、ヒトデの怪人・・・ヒトデロードには当たらず、バランスを崩した戦士は崖から落ちてしまった。
「くっ…」
銀色の戦士は辛うじて淵に手をかけたが、ヒトデロードはその手を踏みつけた。
「ぐ………」
ツルッ
踏みつけていたヒトデロードは足を滑らせてそのまま海に落ちてしまった。
「………」
銀色の戦士は茫然ヒトデロードが落ちた海を見下ろしていたが、すぐにハッとし崖から這い上がった。
「ふぅ…」
光が全身を包むと、銀色の戦士はまだ幼さが残る顔立ちの少女の姿になった。
横須賀女子海洋学校の真新しいセーラー服に身を包んだ少女は10代にしてはかなりの長身だった。
「やっば…、入学式始まっちゃう!」
少女は小型スキッパーに飛び乗り、首に巻いた黒地に黄色いラインのマフラーを靡かせながら走り出した。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
横須賀女子海洋学校二十一期入学式
式典が行なわれる【武蔵】の甲板で、二人の少女が抱き合って再会喜んでいると背後から近付く影・・・、
「ミケっち!モカっち!久し振り!」
「わっ、翔ちゃん!?」
「久し振り…、背伸びたねぇ…!」
岬明乃と知名もえかは、抱きついてきた長身の少女、津神翔子の成長ぶりの驚いた。
「鍛えてますから」
翔子は気障な仕草でシュッと手を振ってみせた。
「そのマフラー、相変らずだね」
明乃は翔子の首に巻かれた黒地に黄色いラインのマフラーを指差した。
「まぁ、あかつき号に残っていたの封筒とこのマフラーだけだからね。巻いてるとなんか落ち着くし」
「そういえば、ミケちゃん達はもうクラス分け見た?」
「まだ」
「どうせなら3人とも同じ艦がいいけど、モカっちはともかくオレはどうかな~」
「私もヤマ張ったところは試験に出たけど自身ないな~」
すると、入学式開始のアナウンスが入った。
「っと、そろそろ行かなきゃ。ミケっち、モカっち、後で一緒にクラス分け見に行こ」
「うん」
「またあとで」
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式が終り、クラス分けの艦を3人は確認した。
「モカっちすごいじゃん、艦長だよ、しかも【武蔵】の。剣豪ズバッと超決闘じゃん」
「それを言うならミケちゃんだって艦長さんだよ」
「でも私の乗る【晴風】は航洋艦だから正式には艦長って言わないんだよ」
「けど艦長に変わりはないでしょ?ミケっち艦長」
「翔ちゃんもミケちゃんと同じ【晴風】だったね」
「そそ、主計科ね。まぁ雑用係ってとこかな。人手が足りないから主計科って他科の雑用もこなさなきゃだし」
「せっかく会えたのに、また離れ離れだね…」
明乃は沈んでいた。
「何言ってんのミケっち艦長、日本の海はオレの海、世界の海もオレの海。同じ海だし、2週間の航海実習なんてあっという間だよ」
「そうだよ。それに私には【武蔵】の、ミケちゃん達には【晴風】の新しい家族が増えるんだし」
それは昔もえかが言っていた、ブルーマーメイドだった母親から聞かされていたという言葉。
「海の仲間は家族なんだから」
「そう…、だよね。そうなると艦長の私は、お父さん?」
「いいんじゃない?ならオレは長女ってことで」
「え~、手のかかる末っ子の妹じゃない?」
明乃、もえか、翔子の3人は笑い合うと、小さい頃を思い出してあの標語を口にした。
「海に生き、」
「海を守り、」
「海を往く、」
「「「それが、ブルーマーメイド!!!」」」
「ブルーマーメイドの標語だね」「うち等も子供の頃よく言ってたよね」
そんな3人を見てくすくす笑う生徒達。
「んじゃ、モカっち。久々にアレ、やっとこ」
「うん」
翔子ともえかは握手をすると逆手に握りなおし、コツンと握り拳を正面で合わせ、最後にその拳を上と下から打ち合わせた。
翔子が昔からよくやっていた『友情のシルシ』を交わすともえかと分かれた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
翔子は【晴風】に乗ると他の主計科メンバーと自己紹介をした。
「えー、あたしが主計長と会計を務めます、等松美海です」
「炊事委員の伊良子美甘です」
「同じく炊事委員の杵崎ほまれです」
「杵崎あかねです」
「衛生長の鏑木美波だ」
「津神翔子だよ、よろしく」
翔子は早速全員と友情のシルシを交わした。
「杵崎ちゃん達は双子みたいだけど、顔立ちから察するに一卵性“ブルスト”かな?」
「え…?」
「ブル…、何?」
ほまれとあかねは首を傾げた。
「ブルストとはドイツ語でソーセージのことだ。つまり一卵性“双生児”と“ソーセージ=ブルスト”をかけた洒落を言ったのだろう」
鏑木美波が淡々と翔子の滑ったギャグを解説した。
「そうそうそれそれ。鏑木っちはドイツ語もわかるなんて“河川敷”だね~」
今度は“博識”と“河川敷”をかけた洒落を言った翔子。
「うわっ…、寒っ」
美甘はズバっと斬り捨てた。
自己紹介が済むとすぐに出航準備に入る。錨を上げている時にラッパ手の万里小路楓が調子っ外れな音を響かせていたが、ご愛嬌。
出航した船の甲板で翔子は他の実習へ向かう艦の中でも一際大きい、【武蔵】を見た。そしてその艦橋から手を振るのは・・・・
「モカっち~~!」
【武蔵】の艦長の白い制服に身を包んだもえかが【晴風】に向かって手を振っていた。翔子もそれに応えるように手を振り、サムズアップしてみせた。
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【晴風】が出航してから、翔子は艦内を奔走していた。
倉庫に入るとベレー帽を被った眼鏡っ子とジャージスパッツのサイドポニーっ子が備品の確認をしていた。
「およ、たしか主計科の…」
眼鏡っ子が翔子の名前を思い出そうとしていた。
「津神翔子だよ、よろしく」
「青木百々、応急員っす」
「和住媛萌、応急長よ」
「応急員って備品とかの管理もするんだ」
「まぁ所属は機関科っすけど、艦内のあちこちで仕事があるからこれもその一つっすよ」
「主計科と半々ってとこかな、仕事内容は」
「なら、オレの力が必要ならいつでも呼んでよ」
「うん、そうさせてもらうわ」
「よろしくっす」
翔子は二人と友情のシルシを交わした。
「ところで津神さんは何の用だったんすか?」
「あ、そうだ美海っちに酒保んとこの自販機の中身持ってくるように頼まれたんだ」
「ジュースならそっちの棚に段ボールで置いてるよ」
「お、サンキュー」
「手伝うっすか?」
「大丈夫大丈夫、荷物運びの中にも修行有りってね」
翔子はウィンクをすると段ボールを軽々と抱えて倉庫から出て行った。
「ぐえっ!マフラーが扉に挟まった!媛萌っち、百々っち、ヘルプ~~~」
「あわわ」
「大変っす~」
「ほい美海っち、缶ジュースの在庫持ってきたよ」
「あ~…、ありが、と!?」
翔子は一つでも女子では運ぶのに苦労しそうな10kg弱の段ボールを3つも同時に運んできた。
「酒保ってなんでも揃ってるね~」
「まぁ一応ね。払いはツケで陸に戻ったらまとめて請求するから。あ、ついでに自販機に今持ってきたの補充しておいて」
「りょうか~い」
ガタン
「…?」
医務室の前を通ると、何やら物音がした。
「入るよ~」
翔子が中に入った途端、キャスター付きの椅子の上に乗って薬品棚を並び替えていた鏑木美波の手から瓶が落ち、その弾みで身体もバランスを崩してしまった。
「っ危ない!」
間一髪、翔子が鏑木の身体を抱きかかえ、瓶もキャッチした。
「もぅ、なにやってんのさ、危ないでしょ。揺れている艦内で不安定な足場の上に乗るなんて」
「む…、すまないな、薬品棚の中を私が使い易いように並び替えようとしてな」
「なら、オレが手伝うよ」
翔子は瓶を掲げてみせた。
「鏑木っち、これは?」
「それはあまり使うことはないから上の方でいい。そっちのは一応真ん中の手前に置いといてくれ」
頻繁に使う物を下の段に、使用頻度が高くない物を上の段にと、手早く並べていく。
「これでいい?」
「あぁ、助かった」
翔子は鏑木の顔をじっと見つめた。
「えい」
「む…」
翔子におでこを突かれた美波は露骨に嫌そうな顔をした。
「ごめんごめん、なんか見ていたらつい…」
翔子は両手を合わせて謝った。
「…謝りついでにちょっと訊きたいんだけど………」
「なんだ?」
「記憶喪失を治す方法って何かある?」
「…記憶喪失?一概には言えないが、例えば一時的な記憶の健忘なら時間が解決する。また、“何らかの強いショックを受けた場合”や“何か思い出したくない程強烈なストレス”を与えられた時、自衛として自らの脳がその記憶や関連することを思い出させないようにしている場合は、正直お手上げだな。本人が解決するしかない」
淡々とした説明に、しかし翔子は落ち込む様子はなかった。
「そっか、あんがとね。あ、またなんか背が足りない時は声かけてね」
そう言って医務室を出た翔子は首に巻いていたマフラーで口元を隠した。
「………自分で解決か…、できるかな…」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
夜になり、翔子は宛がわれている自室へと戻った。同室は伊良子美甘と和住媛萌の二人だ。
「ねぇ媛萌っち、足台って作れる?」
「足台?どんな?」
「鏑木っちが薬品だなとか高い所にある物取る時に使えそうな。今日さ…」
翔子は医務室での一部始終を話した。
「なるほど、わかった。明日早速作るよ。丁度航海長の台も作るし」
「そっか~、操舵の時って視野を広く取らないきゃだから、背が低いと大変なんだね~」
さらっと酷いことを言った美甘と媛萌を連れて、翔子は隣の第5兵室へと遊びに行った。そちらは杵崎姉妹に美海、百々の4人の部屋だった。
「あ、あかねっち、それって最新の携帯ゲーム機じゃん。ワンダ●スワン」
「うん、ゲームが趣味で持ってきちゃった。今ハマッてるのは『マイティアクションX』。『タドルクエスト』ってのもあるんだけど、流石に航海中にRPGは時間がないからね。『爆走バイク』ってレースゲームもオススメだよ。あと今度『バンバンシュミレーション』っていうのも出るみたいでそれも気になってるんだ」
「ねぇちょっとやらして」
「いいよ」
「よ~し、ノーコンティニューでクリアしてやるよ!」
こうして、翔子の【晴風】での航海実習が始まった
~次~回~予~告~
翔子「いよいよ始まったねミケっち艦長オレ達の航海!」
明乃「うん翔ちゃん、次回はみんなでカレー食べるんだよ」
翔子「やっぱり艦と言えばカレーだもんね。美味しく作るから期待してて」
明乃「翔ちゃん昔からお料理上手だったよね」
翔子「記憶を亡くす前はフードマイスターだったのかも、ボナペティ」
明乃「次回、『シロちゃんキレンジャーになる』」
翔子「お楽しみに、といや!」
ましろ「ちょっと待て~~~~!!!!」