うちのサーヴァントは文学少女可愛い   作:Ni(相川みかげ)

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えっちゃん宝具4……!あと1枚……!
召喚祈願もこめて投稿です。


19.画竜点睛

 ――体から、力が抜け落ちていく。

 

 まだ、終われない。まだ、終わりたくないのに。体はその意思を否定するかのように無情にも崩れ落ちていく。

 

 胴に深々と刻まれた裂傷から流れ出た血は、辺り一面をどす黒い赤に染めている。まるで命そのものが流れ出たようだ。

 

「マスターさんっ!?」

 

 ああ、えっちゃんがこんなに声を荒げるなんて。レアなものが見れた。

 

 そんな事をうっすらと考えながら、自らの作り出した血溜まりへと体が投げ出された。

 

 

 

 

「っ!?えっちゃん!」

 

 原作にない展開。本来ならここにいる筈がない黒化英霊を前に少しの間、惚けていた俺はそれでも誰の仕業かを即座に察して戦闘態勢へと切り替える。

 しかし、そんな隙を見逃さないとでも言うかのように黒化英霊の持つ大剣が消える。同時に左手に何かを持ちそのまま腕を振った。

 見えていても体が反応できなかった俺は俺の前に立つえっちゃんに声をかけ、えっちゃんはそれに反応して超高速で飛来した何かを叩き落とす。

 ブォンという小気味のいい音と共に振るわれた光剣は超高速で飛来した何かを捉え、蒸発させた。

 

「今のは、石か!?」

「ええ。……それにマスターさんを直接、狙ってきたね」

 

 マズい。直感がそう訴えかけてくる。

 あの黒化英霊の正体は間違いなく円卓最強の騎士、ランスロットだ。

 そして今、彼が放った攻撃は投石だが、只の投石ではなく正真正銘の宝具による攻撃。

 丸腰だったのにも関わらず、木の枝で相手を倒したエピソードが由来の宝具、『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』の効果は自身が触れた武器と認識したものを自身の宝具に変える能力だ。

 これのせいでただの投石でさえ、俺が受ければ致命傷になりかねない。

 単発の攻撃なら黒化英霊の宝具でも何とかなる可能性は高い。だが、これを続けられるといつか何処かで取り零すだろう。えっちゃんならこの程度の攻撃は何度だって防げるだろうが、それではランスロットにダメージを与えられない。

 辺りを見渡すと所々でコンクリートの壁が崩壊している。弾切れは待てない。

 このままいくと俺の魔力だけが減り、いつかは崩れる。

 

「……えっちゃん。守るのはいい。本体を叩いてくれ」

「良いのですか?」

「どの道、このままじゃジリ貧だ。大丈夫、ちょっとなら耐えられるからその間にやっちゃってくれ」

「了解、ですっ」

 

 俺の前に立ち、次々と襲い掛かる投石を防ぎ続けたえっちゃんが俺の言葉と同時に駆け出す。

 投石の目標は変わらない。えっちゃんはなるべく撃ち落としながら突撃するが、取りこぼした投石が俺の元に数発届く。

 

「っらあっ!」

 

 先は反応できなかったが、最初から来ると分かっていればやりようはある。ルーン魔術で拳を強化し、石の芯を叩く。少なくない衝撃が全身に走るがそれに構わず、腕を振るって向かってくる投石全てを破壊する。

 

「重いなぁ! でも止めたぞ! いけ、えっちゃん!」

 

 ピリピリと腕が痺れ、血も滲んでいる。それでもえっちゃんがランスロットに辿り着くまでは持ちこたえた。

 『騎士は徒手にて死せず』には欠点がある。それは彼の宝具である聖剣『無毀なる湖光(アロンダイト)』と併用が出来ない事だ。

 えっちゃんにここまで接近された以上、無手でいる訳にもいかないはずだ。

 その目論見通り、ランスロットは一度消した湖光の剣を再び手に持ち、えっちゃんの一撃を受け止める。

 

「よし、今なら! 『反応強――」

 

 マークが外れた。そう判断し、支援魔術を起動したその瞬間だった。

 一撃を受け流したランスロットが再び剣を消し、えっちゃんを無視してこちらに投石を繰り出したのだ。

 完全に無防備だった俺の額にその一撃が亜音速で迫る。

 

「……っぶねえ! 頭は反則だろ!」

 

 真正面だった事もあり、ちゃんと視えていたおかげでなんとか反応した俺は、首を傾ける事で薄皮一枚といった所でギリギリ回避する。

 えっちゃんはこちらの無事を確認すると、ランスロットに斬りかかる。ランスロットは再び剣を手に持って応戦する。突然の一撃によってあわや戦闘が終了しかけたが、なんとか持ち直した。

 とはいえ、楽観視はできない。少しでも気を抜くとまた先程のようにこちらに直接攻撃してくるだろう。これでは支援魔術もロクに使えない。

 えっちゃんも押されてはいないもののどうにも攻めきれないといった戦況が続く。黒化英霊となってもランスロットのスキル『無窮の武練』は健在らしい。『無毀なる湖光』のステータス上昇効果も合わさって本物の英霊であるえっちゃんと互角に戦いながら俺への牽制までこなしている。

 「こんなんやってられるか!」と自棄になりそうになる気持ちを押さえ、何かできる事はないかと考えるが、思いつく前に戦況が動いた。

 えっちゃんの上段からの攻撃を流したランスロットは突如、反転しその場から走り出したのだ。

 一体、何をと思案するもその理由は直ぐにわかった。

 

「……それはズルじゃないかなぁ!」

 

 ランスロットは駐車場に止めてあった車に乗り込んだのだ。『騎士は徒手にて死せず』によって車は宝具化し、エンジンがかかる。

 そして、初動速度からスポーツカーも凌ぐスピードで走り出した。勿論、その先に居るのは俺だ。

 ヤクザ映画で見たような光景。しかし、この攻撃を防ぐ方法を俺は持たない。馬鹿みたいな攻撃だが、これ以上ない的確な一撃だ。……俺だけならば。

 

「えっちゃん、頼んだ! 『魔力放出』!」

「任され、ましたっ! やあっ!」

 

 ランスロットの思惑に気付いたえっちゃんは俺の前に立つ。

 支援魔術も合わさった光剣の一撃は宝具化した車を一刀両断する。

 爆発。薄暗い駐車場が爆炎で照らされる。その光のせいではっきりとは見えなかったが、俺は確かに見た。車が爆発した瞬間、ランスロットが横っ飛びで離脱した所を。

 

「うしろっ……!」

 

 それはほぼ反射的に、この好機に敵が攻撃を仕掛けてこない筈がないという考えからとった行動だった。

 直観のままに後ろを向くと、そこには聖剣を振り下ろさんとするランスロットの姿があった。

 迎撃は、できない。えっちゃんも、間に合わない。

 俺は苦し紛れにバックステップするが、完全には避けきれず、聖剣は俺の右肩から左わき腹にかけてを薄く裂いた。 

 

「あっ……」

 

 本来なら戦闘不能には程遠い傷。だが、思わず声が漏れた。

 なぜなら、この一撃だけで勝負が決まってしまう事を俺は知っていたからだ。

 

「……■■■■(アロンダイト)■■■■(オーバーロード)」 

 

 黒化英霊の、淡々としたひび割れた声が耳に届く。

 薄く裂かれた傷から深い青の光が漏れる。咄嗟に胸を抑えるがもう遅い。

 光は傷を大きく広げ、最後に弾けるように光が漏れた。

 

「……ごぽっ」

 

 口の奥から溢れ出る血が止まらない。重要な器官が損傷し、背骨が露わになるほどのもはや繋がっているのが可笑しいくらいの傷から流れた血と合わさって爆炎が照らす地下駐車場には血の湖が出来ていた。

 薄れていく意識と共に……膝をついた。

 

「マスターさんっ!?」

 

 

 

 

『……無様だ。情けない』

「……返す言葉も無いね。本当に、情けない」

 

 ――消えゆく意識の中、声が響き渡る。

 厳粛でありながら、どこにでもいるような人の声だ。

 

『よりにもよって、あの裏切りの騎士に負けるとは。これでは貴様に任せたオレ達(・・・)が無様ではないか』

「申し訳ない……でもこれも、全部あの人でなしのせいだから……」

『言い訳は不要だ。立て。あの裏切りの騎士に、ましてや、あの人でなしに負けるなど断じて許さん。それにわかっているだろう。貴様が消えれば……』

「わかっているさ。それ以上は言わなくていい」

 

 彼らが言う通り、俺は立ち上がらなければならない。だけど、それは彼らの事情だ。俺には関係ない。

 

「立ち上がらなきゃいけないから立ち上がるんじゃない。立ち上がりたいから立ち上がるんだ。まだ俺は、えっちゃんと一緒に生きていたい」

『――ああ、そうだ。王を独りにするな。それこそが貴様が存在する理由であり、オレ達の未練だ』

 

 やりたい事()と、やるべき事(彼ら)。見る場所もその在り方もまるで違うのに共存していられるのはその目的が同じだからだ。

 俺がこのまま沈んだなら彼らは望まぬ顕現をする羽目になる。だからこそ、ここまで親身に俺を引き留めようとしている。

 

「……なんか、嬉しいな。君たちが俺の心配をしてくれるなんて」

『無駄口を叩くな。さっさと目の前の騎士を塵も残さず消滅させろ』

「りょーかい。でも、俺一人じゃあ、さっきの焼き直しだぜ? どーするんだい?」

 

 にいっと笑いながら試すように彼らに問いかける。

 

『わかり切った事を聞くな。……霊基を解放する。貴様が乗りこなせ』

「ふふっ、初めての共同作業だね」

『殺すぞ』

「ヒエッ……」

 

 物騒な事を言う。でもまあ……

 

「……ありがとね。一緒に戦うって決めてくれて」

『……フ、次に無様に負けてみろ。死ぬよりも辛い事というものをその身に教えてやる』

 

 その声を最後に、意識が浮上する。

 

 

 

 

 私の力不足で、マスターさんが瀕死の重傷を負った。その事に忸怩たる思いを抱くが、立ち止まっている訳にはいかない。

 倒れ伏したマスターさんに黒化英霊が近づく。もはや死に体のマスターさんにトドメをさそうとしているのだろう。

 ……あの傷では助かる可能性は限りなく低い。それでも、私はマスターさんのサーヴァントだから。これ以上、私の目の前でマスターさんを傷つけさせはしない。

 

「やめ……っ!」

 

 黒化英霊を止めようと斬りかかろうとしたその時だった。

 魔力の鳴動が大気を震わした。同時にマスターさんから流れてくる魔力が増大する。

 

「これは……」

 

 黒化英霊は警戒して剣を構える。そして次の瞬間、マスターさんを中心に放出された嵐を思わせる魔力の塊に吹き飛ばされた。

 

「……やられっぱなしじゃ、いられないからな」

 

 ムクリとマスターさんが体を起こした。胸に刻まれた筈の大きな傷は消え去り、血に濡れ、破れた服だけがその痕跡として残っている。

 そして、いつか見たようにマスターさんは服の上からボロボロの黒のローブを羽織っている。足元の血溜まりからは彼岸花が咲いていた。

 

「えっちゃん、ゴメンね。勝手に死にかけた」

「……許しません。帰ったらオシオキです」

「おお、そりゃ怖い。まあ、とにかく今は目の前の事に集中しよう。さて――」

 

 だけど、以前とは違う。 

 

「――画竜点睛(がりょうてんせい)。悪竜は今、再誕する」

 

 吹き飛ばされた黒化英霊へとその眼を向けたマスターさんの背からは、白い翼が生えていた。

 

 




ランスロット強すぎなあい?

次回、無印編ラストです。
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