うちのサーヴァントは文学少女可愛い   作:Ni(相川みかげ)

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無印編、最終話です。どうぞ。


20.Kaleidscope

「……ねえ、えっちゃん」

「なんです?」

「決め台詞言った後でなんだけど、屋内戦闘で翼ってくっそ邪魔なのでは?」

 

 恰好つけた後で気付いた。これ、ローブと同じくらい邪魔だ。そもそも動かし方がよくわからない。

 

「魔力放出でばびゅーんって移動するのはどうです?」

「なんだその擬音。めちゃくちゃ可愛いな。……おお、これならいけそう」

 

 えっちゃんのよくわからない表現に胸をときめかせながらも言われた通りにやってみる。

 

 魔術を使う時と同じようなイメージで翼にありったけの魔力を集中させると、虹色の花火のように余剰分の魔力が粒子状に放出された。

 こんな魔力の無駄遣い、今までならできなかったのに今は底がないかのように体の奥から魔力が湧き出てくる。なんだか不思議な感覚だ。

 

「■■■■■■ーーッ!」 

「おっと、様子見はここまでって事か」

「マスターさん」

「大丈夫だよ。今の俺は負ける気がしないから。俺が切り崩すから、えっちゃんはトドメを頼む」

「了解、です」

 

 俺の準備が整ったのを見て、黒化ランスロットが咆哮を上げた。

 

 えっちゃんが俺の前に立って守ろうとするが、俺はそれを手で制してランスロットと睨みあう。

 

 先に仕掛けたのはランスロットだった。幾度となく繰り返された宝具による投石攻撃だ。

 

 そこそこの威力があって連続で撃てる遠距離攻撃の前では、以前までの俺の防御性能では不安が残る。だが、もはや今の俺は前までの俺とは別物だ。

 

「もうそんなの効かねえ、よッ!」

 

 胸の奥で鼓動する心臓から魔力を凝縮する。喉の奥が焼けるような感覚を覚えるが、不思議と心地良い。こうあるのが自然だとでもいうようだ。

 

 叫ぶと同時に放ったのは竜の吐息(ブレス)。白の光線の放射は俺に向かってきた投石を一瞬で蒸発させ、そのままの勢いでランスロットに襲い掛かった。

 

 思わぬ反撃に、ランスロットは咄嗟に横に飛ぶ事でブレスを回避する。俺は魔力放出による瞬間移動で横っ飛びしたランスロットの鎧の首元を掴んだ。 

 

「つっかまえたああ!」

 

 ランスロットを地面に叩きつける。脱出しようと俺の手首をランスロットは掴んだが、それを気にせず、翼からの魔力放出を全開にした。

 

 摩擦による火花をまき散らし、ランスロットを引きずりながら滑空する。

 

「っらあ!」

 

 勢いをさらに増して、ランスロットを壁に叩き付ける。そして……

 

「……『黒竜双剋勝利剣 (クロス・カリバー)』」

 

 磔のように壁に埋もれたランスロットに、後ろから追従していたえっちゃんの追撃の一撃が放たれた。

 

 赤い十字。その一撃で俺達の攻撃に耐えきれなくなった壁が崩れた。えっちゃんの一撃で崩れ落ちたランスロットの姿が崩落した壁の一部に押しつぶされて見えなくなる。

 

「霊核を破壊しました。私達の勝利です。いえーい」

「いえーい! って、ありゃ。もう終わっちゃったか」

 

 えっちゃんの一撃は間違いなく、ランスロットに致命的なダメージを与えた。

 

 戦闘終了を喜んでいると、俺の背から生えていた翼が消えていった。無限に湧き出るかのような感覚だった魔力もいつの間にか、消え去っていた。どうやらフィーバータイムも終わりらしい。

 

 ちょっとだけ残念だと思っていると地面に積み上がった壁の一部を跳ねのけ、ランスロットが這い出てきた。

 鎧は剥がれ落ちて、胸が十字に抉れているにも関わらず、彼は、聖剣を杖代わりにして立ち上がる。

 

「うげっ、まだ生きてたのか……」 

「下がって下さいマスターさん。今度こそあのセイバーもどきに悪の鉄槌を……あれ?」

 

 ゴキブリ並みの生命力だなと感心しながら、今度こそえっちゃんに任せようとした時にランスロットの異変に気付いた。目の前のランスロットは黒化英霊なのに、執念だとか殺気だとかの嫌な雰囲気を一切感じなかったのだ。

 

「王を……最後まで……」

 

 掠れた聞き取りずらい声。それは言葉を発する事のない筈の黒化英霊が、確かに俺に向けて放たれた言葉だった。何の確信もないがそう感じた。

 黒化英霊ランスロットは言葉を言い切らずに粒子状に溶けて、俺の持っていたペンダントへと吸い込まれていった。

 

「……ああ、そっか。そういう事か。アイツは、俺がえっちゃんにとっての弱点だから狙ったんじゃなくて……」

 

 俺が執拗に狙われたのは、俺が死ぬとえっちゃんが現界できなくなるからだとずっと思っていた。

 だけど、本当の所は俺が(えっちゃん)の傍に立つ事が相応しいかどうかアイツなりに確かめたって事なのかな。

 

 真意はわからないままだ。でも、最後に言葉を交わしてくれたって事はちょっとは認めてくれたのだろう。

 

「……行こう、えっちゃん。大遅刻だから急がないと」

「はい。行きましょう、マスターさん」

 

 想定外の戦闘はこうして幕を閉じた。これはなくてもよかった戦いだ。だけど、俺にとっては意味のある戦いだった。そんな思いと共にこの場を離れた。

 

 

 

 

「ギリッギリ、セーフッ!」

「やあっ」

 

 そして、数分後。

 

 セイバーのカードの夢幻召喚(インストール)で魔力切れになり、英霊化が解けた美遊ちゃんの前に立った俺とえっちゃん。

 えっちゃんがそのまま黒化バーサーカーに斬りかかっていく所を見届けてから美遊ちゃんに声をかける。

 

「いやあ、美遊ちゃん。遅れてゴメンね」

「あ、明日望さん!? なんで、接界に失敗したんじゃ、それにその服……」

「いたずらとハッピーエンドが大好きなクソ野郎の邪魔が入ってね。まあ、もう大丈夫さ」

 

 美遊ちゃんに怪我はないようだ。なんとか間に合ったらしい。

 俺を心配する声をかけてきた美遊ちゃんに端的に事情を話してから、俺も戦闘に参加しようと前にでる。

 

 先程までの圧倒的な力は体の奥に引っ込んでしまった。少なくとも今は呼び掛けても使えないだろう。でも……

 

「さあ、あんだけ苦労させたんだ。役に立たなかったら次に会った時にぶん殴ってやる」

 

 代わりにペンダントをギュッと握りしめる。その内に眠る霊基に呼び掛けるように。

 

夢幻召喚(インストール)ランスロット(セイバー)!」

 

 体が内側から置換されていくのを感じる。

 一瞬の内に自分の姿が変わった。鎧に膝程まである青いマントの騎士姿だ。手には湖の聖剣アロンダイト。

 

「うわっ、似合わねーなー、コレ」

「明日望さん、それ、なんで……二枚目のセイバーのカードなんて」

「おう。凛ちゃん達には内緒だぜ」

 

 美遊ちゃんの追求に、人差し指を口元で立て他言無用だぜと茶目っ気を出して言ってからバーサーカーへと突貫する。

 

 えっちゃんの紅の雷撃による魔力放出で全身にダメージを負った黒化バーサーカーは俺の姿を確認すると、えっちゃんから俺に標的に変え、拳を俺に突き出す。

 俺の眼はその一撃をハッキリと認識する。普段の俺では見えていても対応できないスピード。だけど、ランスロットのスキルである『無窮の武練』を再現している今は違う。

 

 ガントレットを薄く滑らせるように拳に当て、力を外に逃がし軌道を逸らす。

 黒化バーサーカーは続けざまに反対の腕も振るったが、それも見えきっている。さらに前進する事でパンチを掻い潜る。

 そして完全に無防備ながら空きの胴をすれ違いざまに横一線に聖剣で薙いだ。

 

縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)!」

 

 宝具解放。黒化バーサーカーの腹部に開いた傷から膨大な魔力が青い光となって漏れ出る。

 

 たまらず膝をついた黒化バーサーカーは夢幻召喚を解いた俺を睨み付ける。だが、黒化バーサーカーは体の再生中のために動けない。

 

Anfang(セット)──!!」

Zeichen(サイン)──!!」

「「獣縛の六枷(グレイプニル)!!」」

 

 半ばから断たれた体の再生に手間取っている黒化バーサーカーが魔術で拘束された。

 

「アンタ今まで何やってたのよーっ!!」

「来るのが遅いですわ!」

「いやあ、ゴメンゴメン。まあ、美遊ちゃんはちゃんと守れたから許してよ」

「ゴメン、ね。マスターさんは、後でちゃんとオシオキしておきますので」

 

 魔術で黒化バーサーカーを拘束したのは凛ちゃんとルヴィアさんだ。

 彼女達は黒化バーサーカーに魔術が効いた所を確認してから俺達を叱責し始めた。いやあ、本当に申し訳ない……

 

 俺が謝っている内に彼女達の仲直りも終わったようだ。俺は美遊ちゃんと、一度この世界から逃げ出す事を選び、そして今度は戦う理由を見つけて戻ってきたイリヤちゃんを見る。

 イリヤちゃんは俺の視線に気づくと、吹っ切れたような笑みを浮かべ小さく頷いた。……良かった。俺の言った事はちゃんと伝わってたんだ。

 

 ──境界面に太陽が現れた。燦爛と輝く黄金の光が世界を照らす。

 

 並列(パラレル・)限定展開(インクルード)。空に円状に展開された星の聖剣が万華鏡(カレイドスコープ)のように光り輝く。

 

 人の思いの結晶。願いがカタチになった最強の幻想。その光は今、少女達のささやかな願いのために振るわれる。

 

 闇を切り裂き、彼方へと駆けたその光は。……とてもキレイだった。

 

 

 

 

「……ふぃ~、今日の日記も終わりっと」

 

 日課になった日記もつけ終わり、一息吐く。もう少しでノートも使い切りそうだ。二冊目買わないとなあ。

 

 想定外の黒化ランスロット戦。そして黒化バーサーカーとの闘いを終えた俺達は無事に(凛ちゃんとルヴィアさんは空へと旅立っていったが)帰路についた。カード回収は終わり、これからは何でもない日常が続く。そういう事になっている。

 

 ……思えば、遠い所まできたなあ。最初は死にたくないって思いだけだったけど、大切なものができて、やりたい事ができて。しまいには人間半分やめてしまったし……俺、これからどうなるのかなぁ……

 

 少しだけアンニュイな気分に浸っていると、首元を引っ張られた。そして、そのままポスンと柔らかいものの上に頭を下ろした。

 

「マスター、さん。お疲れの所、悪いですけどオシオキ、です」

「……ああ、そうだった。そんな事も言ってたっけ」

 

 自分の太股の上に俺の頭を乗せたえっちゃんは、そんな事を言いながら上から覗き込んできた。

 

「危ない事しちゃ、ダメ、です」

 

 そのまま俺の頬をムニムニと弄ぶえっちゃん。俺はされるがままだ。

 

「頑張り過ぎちゃ、ダメ、です」

 

 やっぱり無茶した事を怒っていたのだろう。目を閉じて、静かにえっちゃんの言葉を聞く。

 

「勝手に、いなくなっちゃ、ダメ、です」

「……うん」

 

 ギューッと痛くなるくらいに頬っぺたを抓って、えっちゃんは俺の頬から手を離した。

 

「そんな訳で今夜は寝かせません。マスターさんは今日一日私のおもちゃ、です。私の言う事をちゃんと守るようにてってーてきに躾けてあげます」

「あはは、怖い事言うなあ」

「もちろん、です。だって私は……」

 

 俺が軽く笑いながらそう言うと、えっちゃんも微かに笑ってそう言った。 

 

「宇宙一のヴィランですから。欲しいものは絶対に手放しません、よ」

 

 ……まだまだ俺の旅路は始まったばかりなのだろう。まだまだ苦労は続くだろうし、無茶する時だってきっとある。人としての姿を完全に失う事にだってなるかもしれない。

 でも良いんだ。えっちゃんが俺の手を握り返してくれる間は、どんな姿になったって俺は人でいられるって確信できるから。

 

「……そっか。それは頼もしいな」 

 

 だから。俺は笑顔でそう言った。

 

 

 

 このあとめちゃくちゃオシオキ()された。

 

 




そんな訳で、無印編完結です。

色々と伏線などは残したままなのでちゃんとドライ編まではやろうと思ってます。次の投稿はツヴァイ編のストックが溜まってからかな。

あと、最近なろうで新作始めました。活動報告にリンクがあるからそちらからどーぞ。

それでは一年間ありがとうございました!
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