6月 18日 晴れ
最後の黒化英霊を倒してから一ヶ月が経った。
あれからなんやかんやあって、凛ちゃんとルヴィアさんはこの冬木に一年間留学する事となった。
確か、ヘリコプターで逃走したルヴィアさんを凛ちゃんが撃墜した直後にそれを知らされたって感じだったような。疲れてなければ是非その場面を見たかった。アイツじゃないけど愉快な人は見ていて面白いし。おのれランスロット。
まあ、それはともかくあの二人は今日もクラスで士郎氏とのラブコメを繰り広げていたわけだ。エロゲかよ。エロゲだったわ。俺的には委員長、森山奈菜巳ちゃんを推していきたい……人の恋路に首突っ込んでもロクな事にならないか。
>そっとしておこう。
学校が終わってからはえっちゃんとスタバで本を読みながらまったりとくつろいでいた。
普段はラノベくらいしか読まない俺だが、最近はえっちゃんの影響もあり、純文学などにも手を出している。
えっちゃんオススメだけあり、中々面白い。ただ、こういう面白い本だけを自分で探すのは難しいなとは思ったかな。
ほら、こういう系の本のタイトルって見ただけじゃ内容全然わからないのが多いし。もっとラノベくらいわかりやすく本の中身出していってもいいと思うんだ。……いや、アレはアレでやり過ぎだとも思ってるけど。
それはそうと、スタバの呪文ネタは俺も知ってるけど、えっちゃんが言ってたダークマターキャラメルグラビティなんたらって何だったんだろう……店員さんに「はぁ?」と言われてショボンとしてたから多分、売ってないんだろうけど。
「ああ……懐かしい故郷の味は何処へ行けば……」とか言ってたからもしかしたらサーヴァントユニバース? だったっけか、そっちの世界のスタバに似たような店で売っている物なのかもしれない。何とか手に入れられないだろうか、ダークプラズマなんたら。
◇
「明日望おにーさんっ!」
学校の帰りに、そんな声をかけられた。
幼い、どこか聞き慣れたようで聞き慣れない少女の声だ。
声の主の方を向く。そこにいたのは――
「アレ? どうしちゃったの? もしかして私の事忘れちゃった?」
――見慣れない/見慣れた銀髪の、浅黒い褐色の肌が特徴的な少女だった。
俺を欺くために用意したのだろう。穂群原学園小等部の制服に身を包んでいる彼女からは、ポワポワした暖かい雰囲気とは違い、どこか蠱惑的な印象を受ける。
……そっか。もうそんな時期だったか。確か地脈が乱れていて、それを正常にする任務の時のアクシデントが原因であの娘は生まれたんだっけ。
となると、凛ちゃん達は俺に内緒で楽しくやっていたって訳だ。まったく。役に立たないだろうけど呼んでくれたっていいのに。
まあ、とにかく……
「いいや。忘れてないに決まってるだろ?
……俺は目の前の少女にイリヤちゃんと声をかけた。
彼女はそれを聞いて、クスリと笑った。
「えっちゃんさーん。ちょっとおにーさん借りてもいーい?」
「ええ、勿論です。というわけで明日望くん。私は家で本を読んで待ってます」
目の前の少女が甘えるようにそう言うと、えっちゃんは迷う事なく即答した。
「ふふ。俺マスターなのに決定権微塵もなかったよ……まあ、いいんだけどね!」
えっちゃんの言う事に逆らうつもりはないし、えっちゃんのやりたい事はさせてあげたい。
それは第1前提だけれど、目の前の少女の提案は俺にとっても都合がよかった。えっちゃんがいたら向こうはきっと警戒しちゃうだろうし。
えっちゃんもきっとその辺りの微妙な感情を読み取って提案に乗ったんだろう。多分。いや、えっちゃんだから絶対にそうだ。
断じて今読んでる本が途中だったからじゃない。
「帰りにどら焼き買ってくるから留守は頼んだ」
「了解、です。御武運を」
えっちゃんは特に問題はないといったように悠々と帰っていった。……多分、信頼してくれてるんだろう、うん。
「それじゃあ、とっとと私の用事も済ませちゃいましょうか。ついてきて」
「……そうだな、あんまり遅くなったら士郎氏も心配するだろうし」
「……っ! そうね。早くしましょう」
俺の言葉に少しピクリと眉を動かした彼女だったが、それ以上の反応は見せる事なく、俺を促した。
「おいおい。もう暗くなってきたのにこんな森の中に入って大丈夫なのか?」
「平気よ。直ぐに終わらせるから」
彼女が向かったのは、国道を少し外れた海の近くの小規模の森林だった。
夕日も落ちて辺りは暗くなりかけている。人目につかない場所としては絶好の機会だろう。
そんな中、おとなしくついてきた俺の方を向いて彼女が口を開いた。
「ねえ、おにーさん。1週間くらいわたし達に関わらないでくれないかしら」
「そりゃまた、どうして。もしかして嫌われちゃったかい?」
「ううん。そうじゃないけど、流石にサーヴァントと事を構えるのはキビしいかなーって。だから暫くの間、おにーさんには大人しくしていてほしいの」
「おや? まるで俺とイリヤちゃんが戦わなくちゃいけないみたいな事を言うじゃん?」
「そう言う事、よっ!」
その言葉と同時に俺の首筋に向けて、刃が疾っていた。
眼前に居たはずの彼女はいつのまにか俺の背後から黒白の夫婦剣、その片割れの白の剣を俺に振るっていたのだ。
――そして、その刃は俺の首の手前で紫の籠手に包まれた親指と人差し指に挟まれて阻まれていた。
「
「なっ!?」
完全に決まったと思っていたのだろう。攻撃が阻まれた事に動揺して、彼女は剣を手放して俺から距離を取る。
所有権が移った夫婦剣の片割れを適当に放り投げて、俺は彼女の方を向く。
「……いつから気づいてたの? 私がイリヤじゃないって」
「おいおい、キミはイリヤちゃんだろう。自分で否定してどうする」
「……ムカつく!!」
俺の言葉に腹を立てて、イリヤちゃんに瓜二つの、もう一人のイリヤちゃんが両手に夫婦剣を再び投影して、こちらへと向かってきた。