――届かない。
「――21、22」
――届かない。
「にじゅさん、にじゅよん、にじゅご」
――何をしても、届かない。
「にじゅろく、にじゅ……おっと」
キンという音を立てて、刃が交錯する。
これで六度目。転移を用いた死角からの一撃がまたしても悠々と止められた。
剣の投影に至っては脅威にすらなっていない。射出された剣を彼はお手玉のように代わる代わる手にとってその動きのまま叩き落としていく。撃墜数を数える余裕まであるといった無様な有様だ。
本来ならわたしが投影したものはわたしにコントロールがある。消すのも良し。魔力を暴発させて爆弾――
……そのはずなのに、目の前の男がわたしの射出した剣を手に持った瞬間、剣とわたしとの繋がりが消えてしまう。
恐らく男が装着した紫色の籠手が何らかの力を以ってわたしのものを自分のものに置き換えているのだろう。
ならば、男の手に届く前に全てを壊れた幻想として使ってしまえばいい。……もちろん、それは試した。だが、発生した爆風は何らかの力で散らされてしまう。魔力の無駄遣いだとわかってからは剣の射出は完全に牽制として用いていた。
「これなら――っ!」
防がれた瞬間に、その場から転移で離脱して投影するのは夫婦剣――干将・莫耶。二対を投擲し、一対を手に持つ。
そして再び転移。
「鶴翼三連!!」
互いに引き合うという性質を持ったこの剣によって振るわれる絶技。
四方向から飛来する剣と、転移によって死角から振るわれる斬撃。普通の相手ならば回避不可能な一撃。
「――ハアッ!!」
「っ!? またっ!?」
首筋にまで刃が迫ったその瞬間、男を中心に暴風が吹き荒れた。
風なんて生易しいものじゃない。これは魔力を以って吹き荒れる嵐そのものだ。
壊れた幻想によって発生した爆風もこの嵐によって打ち消されたのだ。
結果、彼の眼前にまで迫っていたわたしは飛翔する剣共々吹き飛ばされて後退する。
「ふぃ〜、危ない危ない」
危うげもなく対処したくせにそう嘯く眼前の男を睨み、わたしは歯ぎしりする。
――こんな筈じゃなかった。
わたしの目的。わたしから知識も、記憶も、
その為に乗り越えないといけない大きな壁。それが本物の英霊だった。
イリヤの中からわたしも戦闘を見ていたが、アレはわたし達とは一線を画す強さだ。力も速さも私では足元にも及ばない。
だけど、その英霊にも弱点がある。マスターだ。
アインツベルンの力を使わずにどのようにして英霊を召喚したのかは知らないが、マスターとのパスが繋がっていないと英霊は現世にその霊基を維持できない。その為に、召喚された英霊も動きを制限されていた。
ならば、マスターと英霊が分かれて行動しているところでマスターを叩いてしまえばいい。殺す、まではいかなくても1週間くらい行動不能にさえすれば、その間に全てを終わらせる自信はあった。
幸いにも、分断は上手く成功した。
イリヤの中から見ていた時も、マスターであるその男は頭のネジが何本か抜けているような男だったので、イリヤのフリをして近づけば何の警戒もなく一人になってくれるだろうと思っていたので、ここまではいい。
誤算はこの後だった。わたしの攻撃の一切がその男には通じなかった。
思えば不思議な男だった。常人離れした妖しい顔立ちのくせに思考は完全に一般人。英霊を召喚する程の腕を持ちながら、魔術師としての知識はゼロ。オマケに英霊の力を何処からか引っ張り出しておいて、何の影響もなく生きている。
異常。不確定要素。アンノウンという言葉が最も相応しいその男だったが、戦う前は勝機は十分にあると思っていた。
過程を省いて望んだ結果を得る。そんな力を持っているはずのわたしがその男に対して一切の勝機も見出せずにいた。
「――なんで……っ!」
「何でって。それはキミと戦ってることかい? それとも俺の力の事?」
「両方よっ! イリヤの中から見ていた時の貴方はそんな力は持っていなかった!」
「――あまあまだぜ、イリヤちゃん。それは一体、いつの俺の話をしているんだい?」
戦っているというのに柔らかい物腰で男は私の言葉に答える。
「まあ、わからなくてもしょうがない。なんせイリヤちゃんの見てない所でこんな事になったわけだからねえ。まあ簡潔に説明すると――俺の霊基は大きく変質した。以前の俺とは一味違うぜ?」
「霊、基……っ! まさか貴方も英霊なの!?」
霊基――サーヴァントを構成するモノ。それが変質したと目の前の男は言った。
ならば、この男の正体は英霊の力を使う魔術師ではなく、英霊そのものという事になる。
「まさか。俺はただの人間だよ。今までも、今も、これからもね」
だが、わたしの言葉を彼は一笑に付した。
嘘をついているようには見えない。だが、男が何らかの原因でイリヤの中で見ていた時よりも成長し、わたしの勝ち目が限りなく小さいという事だけはわかった。
「……ねえ、明日望おにーさん。突然襲いかかった事は謝るからここは見逃してくれない?」
なら、恥も承知でこう頼むしかない。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
「それは無理さ。だって俺はイリヤちゃんの味方だからな」
「……やっぱりそうよね。いいわ。勝ち目が限りなくゼロに近くたってやりようはある……!」
当然のように私の頼みは断られる。
こうなってしまっては仕方ない。不本意ではあるが、私の中の魔力を限界まで使ってこの場をなんとか切り抜ける。使った魔力は町の人から奪えばいい。今はここを乗り越える事だけを考えろ。
剣の射出と壊れた幻想は有効打にはなりえない。ならば、私に残されているのは転移による一撃必殺のみ。
転移の連続行使で揺さぶりをかけて、不意をつく。そんな作戦を立てて転移魔術を使った。
「――え?」
そんな間抜けな声が口から出る。だって、男の背後に転移したはずなのに男の姿が目の前になかったのだから。
「――
「っ!?」
そんな呑気な声が背後から聞こえた。
まさか――驚きながらもその場を跳びのき、自分の立っていた場所を見る。
そこには誰もいない。
「俺の前で転移魔術を連用したのはまずかったなあ。お陰でこの通りってわけさ」
ポンと頭に手を置かれた。
……もうここまでくればわたしにもわかる。彼はわたしの使っていた転移魔術を模倣したのだ。
魔術を数回見ただけで使えるようになる。そんな魔術師に喧嘩を売るような能力を彼が持っている事は知っている。だが、転移魔術まで使えるだなんて思いもしなかった。
……これで、私のアドバンテージは完全にゼロになった。何だ、思ったより呆気ない終わりだったな。
せめてもの抵抗だ。死ぬ瞬間まで男の顔を睨みつけようと思い、後ろを振り向き――
「てい」
「あいたっ!?」
――わたしの額にデコピンが放たれた。
そういえば。イリヤとの特訓の時もデコピンをしていたっけ。
……いや、おかしい。何でわたしを殺さない? もしかして遊ばれてる?
「はい。これで突然襲いかかってきた件に関してはチャラな」
額を押さえ、警戒心を強めるわたしだったが、紫の籠手を消して、戦闘心が完全に消え去っていた目の前の男を見て、なんだかバカらしくなった。
この分だと向こうは最初からわたしを殺す気はなかったと見える。
こちらはあれだけ必死になっていたというのに、彼からすればわたしを殺さないように制圧するのは簡単な事だったのだろう。
それでも、敢えてわたしを生かしておく理由がわからない。
これまでの戦闘で私がクラスカードの力を使っている事はバレているはず。カードの回収が任務である凛の仲間の彼が私を見逃す理由がない。
「何で、わたしを殺さないの?」
「おかしな事を言う。さっきも言ったじゃん。俺はイリヤちゃんの味方だって」
恐る恐る訪ねた答えがそれだった。
思わず絶句する。
彼はわたしが本物のイリヤじゃないと知りながらそんな言葉を言ったのだ。彼の言う「イリヤちゃん」は本物のイリヤに向けられた言葉のはずだ。断じて私に向けられた言葉ではないはず。
「どうせ行く当てもないんだろう? なら、うちに来ないか? もうだいぶ遅くなっちゃったし、えっちゃんが晩御飯を作って待ってくれてるだろ」
とにかく、負けたわたしは事情を飲み込めないままに彼の言葉に従うしかなかった。
彼の言葉の真意はわからないままだが、こんなところで消えてしまうよりかは遥かにマシだと思ったからだ。
「……仕方ないわね。いいわ、乗せられてあげる」
多少の強がりも込めてそう口にする。
そんなわたしを微笑ましげに彼は見ていた。
……やっぱりムカつく!
☆★☆霊基変質☆★☆
黄金律 C
支援魔術 D
直感 E-
↓
◼️竜◼️象 EX
◼️き風の加護 EX
花◼️◼️◼️(異) EX
【悲報】えっちゃん出番/ZERO
ゆるちて……