あの老人とその義理の息子である男に、学校にこないかと誘われて数日経った。バイトの時間も押していたため、面倒だと思って切り上げようとしたら連絡先を渡され後日詳細を話すから俺の連絡先を教えてくれと言われたのだ。正直に言うと、めんどくさいのと疲れてきたのとでどうにでもなれと思っていたため、最後には連絡先を教えてその後はサヨナラ。
ただ、本当にに連絡が来るとはなぁ・・・・・・。あの時の俺を殴り飛ばしてやりたい気分だ。
そうは思っても、時間は戻ってくれることもなく今に至る。場所は俺のバイト先のレストランだ。俺が学校を移るというように話が纏まったら、そのまま店長などに伝えやすいようにといった配慮らしい。そんな配慮はいらん。
「そろそろ時間か・・・・・・」
待ち合わせをする時は基本的に人より前に来る。それを信条としている俺は面倒だと思いながらも、沈む気持ちに耐えながらここまで足を運んできた。店員の何度かバイトのシフトで顔を合わせたことのある知り合いに待ち合わせであることと、その相手の名前を伝えておいてある。
行く来る車を眺めながら待つこと数分、待ち合わせ相手である中里が来たようだ。スタッフに案内されながら俺の対面に座る。
「いやー、ごめんね。遅くなっちゃって」
「このくらいは別にいい。少ない友人の中に、時間に頓着のない奴がいるからな。それに、時間はまだ過ぎていない」
それは良かったと笑いながら頭を掻く中里は、苦笑いを浮かべていた。おおよそ、俺の態度か言葉遣いなのだろう。中里は、さてと口を開いて閑話休題すると本題に入ることにしたらしい。
・・・・・・思ったのだが、この男は場によって言葉遣いを変えるようだ。前回のような丁寧な言葉ではない。
「この前、義父や私が言ったことを覚えているかな?」
「ああ。学校に来ないか、だろ?」
「そうだよ」
忘れてなくてよかったよー、と緊張のない間延びした声で話す。が、油断する事なかれ。あの老人とこの男は、自分たちの判断で学校に来ないかと誘うことが出来る程度には地位が高いはずだ。それこそ、私立の高校で役職は理事長であったり校長であったり様々だろう。
しかし、こちらには転校できるような金はないのだ。クソ親父がクビを切られて働かなくなり、それが原因でお袋が出て行ったというのに働きもせずにフラフラと遊びに出ていつの間にか帰ってくるの繰り返しだ。金銭管理は俺がしているというのに、寝ている間に財布から抜き取られたりと金銭的余裕なんてこれっぽっちもない。何度もそのことで怒ったが実を結ばず、最終的に殴って蹴っての喧嘩に発展までしたが効果なし。仕方なく、金庫等に入れるも今度は逆ギレ。小遣いを出せだのなんだのと喚くそれを無視した翌日には、金庫が壊されていた。それを見て諦めることにして小遣いを月5000円出すことにした俺を誰が責められるだろうか。
そんな背景もあったため、この話は元より断るつもりだった。
「済まないが───」
「おっと、まだこちらの出す条件を提示していなかったね」
「・・・・・・チッ」
「ちょ、ちょっと怒らないで欲しいなぁ・・・・・・なんて」
コツンと拳を自分の頭に軽く付けるその仕草は、女の子であれば絵になるであろうそれなのだが大の男がやると軽く殺意に似た何かが沸き上がってくる。
それを察したのか、中里は慌てて居住まいを正して咳払いをする。
「ゴホン・・・・・・えっと、そうそう。こちらの提示する条件だけど、もし来ることになった場合は寮に移ってもらうことになるね。もちろん、隣の県でも端と端にあるから電車でも通えるけどきついでしょ?」
「で?」
「うん。それに関してなんだけどね?君の寮費は私たち学校側受け持とう」
「因みにその寮費は幾らなんだ?」
「そうだねぇ・・・・・・7万と言ったところかな?」
「・・・・・・たっか。なんじゃそら。そこいらのアパートで一人暮らしするよりたけぇなおい。いいところのお坊ちゃんお嬢様学校ってか?」
「まあ、そういうことだね」
地方で一人暮らしするためにアパート借りて生活するよりも高いその金額には流石に驚きを隠せない。俺には手の届かない雲のような場所だ。きっと今住んでいる俺の家よりも綺麗なのだろう。
しかし、学校側が持つということは学校に金を借りることになってしまうわけで。もちろん、それは借金であり借金である以上返していかなければならないのは目に見えている。
「ああ、言い忘れてたよ。もちろん、学費も持つよ」
「学費は月幾らなんだ?」
「そうだね。17万かな」
どうやら本当にとんでもない金持ち学校らしい。今年の四月から通うことになったとして計算すると、制服代から授業料、寮費やその他諸々における金額は2年間で多く見積もって700万を超える金額だ。それを考えると無理だ。もう無理だ。やはりこの話はなかったことにするのがベストだ。
「・・・・・・済まんがその話には乗れない」
「ふむ。ある程度は予想していたが、これでもダメか」
「そちらが持つということは、こちらにとっては借金をすることになる。こちらの経済状況はクソ親父のせいで火の車だ」
「ほう・・・・・・。いや、済まない。私も勝手に君の家庭に首を突っ込んでしまった」
それは別にいい。実際にそれは俺にとっても問題なのだし、それを相手がどう思っていようがそれは第三者の考えであり俺には何ら関係の無い話だ。
「そうか・・・・・・私はもっと違う理由かと思っていたのだが・・・・・・」
「ふぅん。・・・・・・言いたいことはわかる。どうせこの外見なんだろう?残念ながらこれは生まれつきで、今までに手を付けたことなんて一切ないがな」
俺がそう切り返すと、頷いて俺の中で唯一好きだと言える綺麗な銀の髪の毛に目を向ける。これが唯一、親父との繋がりを否定させてくれる。それと同時に、お袋の家系を最大限に肯定してくれるからだ。勿論、血の繋がりは否定することは出来ないが。まあ、それは置いといて問題は、それを台無しにするような目つきだ。一体俺は誰に似たのやら、目つきがかなりきつい。中学、高校入学当時はボーっとほかの奴らを眺めてただけなのにかなり怖がられたことを今にも覚えている。そして地味に傷ついたこともな。
前回、中里に会う前に助けた義父に近付いた時のことだ。周りの連中があのじいさんを心配そうに見つめるも誰も助けにこない。それどころか、その現況たる俺が目をそいつらに向けたら勢いよく目を背けことがその最たる証拠だろう。
「これは、出ていったお袋との関係を唯一肯定できるモノだからな。誰がなんと言おうが、髪色を変えるつもりなど無い」
この言葉だけでも俺がマザコンだというのは理解できるかもしれんな。まあ、ぶっちゃけていえばそうなのだろう。お袋が離れてからそろそろ十年くらいだろうか。お袋が出ていってしまったきり帰ってこなかった時は、かなり大泣きしたのを今でも覚えている。
「しっかし、これは困ったなぁ・・・・・・義父さんからはなんとも欲しいと言われていたんだけどね」
「悪いな」
「まあ、このままだと平行線なのは見えてしまっているし無理やり続けて嫌われたくはないからね。・・・・・・それにしても、綺麗な髪だね。目が台無しにしているけど」
「・・・・・・ん、何だ?今ディスったな?ディスっただろ。どれ、俺も一つここでお前をディスるとするか」
「ハハハハ、君は容赦というものを知らないようだね?」
「お互い様にな」
「「・・・・・・」」
両者共に立ち上がりキャットファイト始めそうな雰囲気が漂うが理性でそれを抑え込んで、片眉の上をピクンと動かすだけにとどまらせる。それでも、俺たちの額にはきっと青筋が浮かんでいるだろうが。
「はぁ・・・・・・では、今日はこれで帰りますね。それと、気が変わったら私の連絡先にお願いします。義父さんの影響か、私も気に入った人物は何が何でも手に入れたいタイプですので」
「・・・・・・チッ、ありがた迷惑って言葉、知ってるか?」
「ええ。知っていますよ?意味を知ろうとは思いませんけどねぇ」
ニヤリと笑ったその顔は悪戯が成功した子供のように、してやったりと言いたげに口の端を釣り上げていた。その顔を見て、憎々しげに顔を歪めた後に舌打ちをした俺は悪くないだろう。
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