昨日の中里ととの会談を終えた翌日。祝日後の今日は平日であり、殆どの生徒たちがだるそうにしている。まあ、確かにこの時間であれば暖房が利きまくってるからな。眠くなるのは仕方ない。
靴箱から教室までの道のりを歩いていると、俺にとっておなじみとなったバタバタという音が後ろから響いてくる。
「ハッハー!おはよおぉぉぉぉ!」
「・・・・・・」
今日のこいつの挨拶はうるさい奴の挨拶の仕方か。・・・・・・うざいな。
「おいおい、
「0点。凄くウザい。ホントに。うるさいウザいうっとおしいの3拍子」
うざい挨拶とノリで俺の肩を掴み話し掛けてきたこいつの名前は
・・・・・・その反応を見たら、馬鹿にしていたと分かったので1発頭を叩いてやったが。
「え、そんなに?」
「ああ。次やったら容赦なく右でもなく左でもなくゴラゴラしてやる」
最近、克敏に貸してもらった『ギョギョの珍妙な冒険』というマンガの3部にあったネタのこと。ゴリゴリの見た目とは裏腹に、驚く時に『ギョギョッ!?』とか言ったりするそのギャップが凄かったりするのだが、ギャグマンガかと思えば後半はシリアスになるんだわ。なにあれ超胸熱展開。かっこよ過ぎんだろ・・・・・・。
「ちょっとそれは勘弁だな」
「ならもうしないでくれ。それはそうと、お前らには言っておきたいことがあるんだわ」
「ふーん?・・・・・・お前が俺に相談たぁ珍しいな。お前ん家のゴミ虫のことかい?」
「あー、どうだろ・・・・・・確かにそれもあるっちゃあるが、それは重要じゃない」
「へぇ・・・・・・もしかして、恋ってやつですかぁ〜?アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャあいだだだだだだだだだだ!?」
ゲス顔を浮かべながら俺を笑ってくる姿にかなりイラついたのでアイアンクローで引き摺りながら教室まで持っていくことにした。
俺が扉を開けて教室に入ると、クラスメートの目は俺の引き摺っている克敏に目が行く。まあ、それもそうだろう。白目を剥き、こめかみをギシギシという音を立てながら引き摺られているのが目に入れば誰だってそっちに目が行くものだ。
だが、俺たちのこれは3日に一度は起きる頻度のため『ああ、またか』みたいな目を向けたり、克敏を指差して笑ったりと他のクラスにはない反応が見られる。
教室内を闊歩して克敏の椅子に強制的に座らせる。そして、強制的に座らせたそいつは未だに白目を剥いたままだった。暫くそのまま反省させておこうか。
「どうしたのさ。あんた、いつもより疲れた顔してるよ」
克敏と同じく、珍しく目を気にしないで俺に話しかけてくる女の声。その声の持ち主は俺のそばまでやってきていたらしく、顔を見るなり心配してくれているようだ。
「あぁ、梓弥か。まあな・・・・・・そうなるような事情が最近多くてなぁ」
こいつの名前は、
そこで、未だに白目を向いたままのびている克敏と幼馴染みだと言っていて互いに混ぜくった納豆のように糸を引いているレベルでの腐れ縁だと語っているが、本人たちは互いに気があるそうだ。俺に相談するよりも、いっそのことさっさと告白すれば不安もないだろうに。そんなことを思っている俺は悪くないはずだ。
「ま、なんでもいいさ。ただ、辛ければそこのバカや私に相談しなさい。じゃないと、あんたはそのうち爆発しちまいそうだよ」
「・・・・・・おう、そんときゃあ頼らせてもらうわ」
俺はこいつらには頭が上がることはないだろう。なぜなら、こいつら2人の御両親には家のゴミ虫のことで個人的にかなりお世話になっているからだ。今のバイトに付けているのも、克敏や梓弥に相談してなんとか就けたバイトなのだ。迷惑をかけるのはなるだけ避けたいのだ。
「そ、ならいいわ」
心配してくれて、声を掛けてくれる人ってのは意外と少ない。そんな中でも、俺の周りに2人もいたのは本当に幸せなことだろう。一期一会・・・・・・ふむ、バカにはできんな。
柄にもなくそんなことを思いつつ、一時限目の準備に取り掛かるのだった。
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昼休み、飯を食いながらあまり人の来ない屋上で向かい合う。
「そういえば、言いたいことってなんだよ」
珍しい、そう付け足すような顔を向ける克敏。それにどういうするかのように興味深そうな表情を向ける梓弥。早めにこの話を終わらせようと、俺は昨日のことを詳細な事を省いて説明する。
「あー、確かにそれは一人では決めにくいわね」
「でも、その話を受けるとゴミ虫と離れられるんだろ?なら受けてみるのも一つの道じゃないか?」
「とは言ってもな、ここからはアレな話になるが家の家計は火の車状態なんだよ。常日頃からな」
「「あー」」
仕方ない、そう言うと沈黙が続いた。
「正直に言えば、あのゴミ虫が居なければ俺は十分なんだよなぁ」
「確かにな。つってもそうもいかないだろ?」
「でも、流石にこれ以上お前らに世話になるわけにも行かない。確かに長期的に見れば受けて金を返しつつ成功させるのもアリなんだろうけど、失敗したりとか考えると選びづらいんだよな」
「でも、アンタ勉強できるじゃない。って言っても、勉強だけが全てじゃないか」
上げて落とす・・・・・・ホントそれやめてくれよ。安心させて不安にさせるとか、お前ドSかよ。俺もS気味だから相容れないんだぜ?ドSは打たれ弱いってなんかのマンガで見たから、これは説得力があると思う。
空を見上げると、本日も快晴なり。俺の心の中は曇天だというのに。ああ、妬ましいわね。おっと、誰かの口癖が。
「はぁ・・・・・・ほんと、空はこんなに青いのに」
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なんなく授業を終えるといつの間にか放課後だ。本日の内容は小テストと学年末が段々と近づいているため、その内容と確認。普段から勉強していれば苦しむことなくテストを迎えて学年上位といつも通りなのだろう。
私立高校で県内屈指の進学校である俺の通う高校は、皆それなりに成績はいいがやはりそこはピンキリで突き上げたかのような上が入れば、飛び抜けた下もいるのだ。俺は、高校に進学する時から特待生を狙うために頑張った。それはもう頑張った。こんな見た目でも中学もの時は校内で一番だったのだ。だから高校でもそうなると思っていたが、その壁は予想以上に高く段々と順位を上げてはいる。しかし、流石に一桁台。簡単には譲ってはもらえない。
今度こそ、1位を奪い取ってやる。そんな意気込みを抱えつつ、ペダルを漕ぐため力を入れる。今日も今日とてバイトだ。準備をするために家に向かう。
「そういや、あのゴミ虫昨日帰ってこなかったけどどうしたんだ?どこかでくたばってるのかねぇ・・・・・・それなら連絡が来るだろうし、てかくたばってくれた方が俺も楽なんだよなぁ」
そう、昨日は珍しくクソ親父が帰ってこなかったのだ。基本的には、いつも日中はどこかに出ているのだが夜になると帰ってくるのだがそれがなかったのだ。まあ、いずれ帰ってくるだろうと思っていたがあまりそういうことがなかったため気になったのだ。
学校から二十分。帰宅が完了してバイトの準備を終える。いつも通り、十五分程度の余裕がある。明日、学校への提出物の準備を進めるため筆記用具などをひっぱりだす。
「・・・・・・あ?」
ピクンと俺の眉が上がった。書類を仕上げていく中、印鑑を必要とするプリントがあった。面倒だなと思いながらも、印鑑を出すために椅子を立つ。引き戸を開けてガサゴソを音を立てて探すが一向に見つからない。
どこに閉まったか記憶の引き出しを片っ端から開け閉めして思い出そうとするが、一向に見つからない。あったところに直すを常日頃から実践してきた俺としては余り無いことだからいつか出てくるだろうと思い、付箋を引っ張り出してプリントに貼り付けて市場を事細かに書き連ね、赤いペンで印鑑を必要とするところに上の苗字である
「ホントに何処にやったかなぁ・・・・・・」
全ての準備を終えて方を回して背もたれに寄りかかる。不意に時計を目に入れる。時刻は十七時五十分。いつもより少し遅い。それを確認すると、先程準備していた鞄を肩にかけてバイト先へ向かう。
───この時に気づいていれば、俺の少し先の未来は変えられていたのかもしれない。
読んでくれた方々に感謝の言葉を申し上げます。ありがとうございました。