モンハンの裏話妄想です。
――違法ハンターとは何か?
違法ハンターはギルド公布の
それでは報酬金が貰えずに本末転倒ではないのか? と思う者もいるだろう。それでそうやって日々生き抜いているのか、と。しかしそれは違う。
ハンターが狩ったモンスターは一度ギルドに納められる。その後報酬として、狩ったモンスターの素材をハンターに提供するのだ。
当然ギルドも仕事であるので給料と言うものが存在する。それなのにクエストを公布し、それを成功したハンターに報酬金とモンスターの素材を全部あげるのでは、それはただのボランティアである。
そのためモンスターの素材を一部、ギルド側が頂いて、それを売った金を給料とギルド運営費に回すと言う形をとっている。
そして、違法ハンターはモンスターを非公式に狩り、狩ったモンスターの素材をすべて独り占めし、余剰分を売り日々の生活を賄っているのだ。
それでは、我々ギルド公認のハンターは不正を黙認しているのかと問われれば、それは違うと答えるだろう。
ただ、ほとんどのハンターは”違法ハンターを処罰する存在”がいる、と言うことしか知っていない。
違法ハンターを処罰する存在――、ギルド非公認の暗殺ギルドナイトに所属する者。
秘密裏に情報を収集し、違法ハンターを
悪を決して許さず、自分の手を血に染めようとも命を裁く存在。
そして、私は暗殺ギルドナイトの一柱として、とある男と協力し悪人を裁いている。
◇
月明かりのみが宵を照らしている、そんな場所で私とナナシは組み手をしている。ナナシと出会ってからの日課だ。
彼が放つ右正拳突きを軽くいなし、鳩尾に肘を入れる。蹲った彼に追撃を加えるため距離を詰めようとするが、土煙を撒き逃げられてしまう。
後方へとバックステップした彼を挑発すべく、手の平を向けチョイチョイとする。
安い挑発に乗った彼が、一気に距離を詰めてきたので身構える。一瞬ニヤリとして、しゃがみ足払いを仕掛けてきた。少し焦りはしたが冷静に跳躍で対処する。それを好機と見たのか、彼は立ち上がりの勢いを利用して、下から斜めに回し蹴りを放ってきた。空中にいる私は流石に避けることができない。彼は勝利を確信した表情をしている。
――でもそれじゃあ、私は倒せないよ。
真正面から彼の蹴りに合わせ掌底をぶつける。丁度半月版と膝関節の辺りに。
そして着地したと同時に、蹴り足に足を絡ませ、そのまま横に一回転させる。地面に思い切り叩きつけられた彼の胸に、軽く跳躍して踵落しを喰らわせる。ガハッと肺の空気をすべて吐き出した彼はそのまま仰向けに倒れた。
「おまっ……、少しぐらい手加減しろよ」
十分ほど経って目を覚ました開口一番の言葉。手加減? 何を言ってるのだろうか。
「手加減なら十分したけど? あとお前動きが素直すぎる。少しは絡め手使えてきたけど、まだまだ」
「今回結構上手くいったと思ったんだけどなぁ。何がだめなん?」
「顔」
「顔!?」
だって顔がわかりやすすぎる。目線も表情もバレバレで次攻撃する場所と手段が丸わかりだ。死んだ魚の目なら、ちゃんと目を固定すればいいのに。死んでるんだから目は動かないでしょ?
「何もかもバレバレなの。予備動作もわかりやすいし、呼吸の違いや筋肉の収縮。もっと隠して」
「そう言われてもなぁ……」
「次。剣術訓練するよ」
「了解」
そう言って二人武器を出し、五歩ほど離れた位置で構えを取る。
私は一本、ナナシは二本での武器使用の訓練だ。
オトモアイルーのニャッという掛け声を合図に、二人同時に走り出す。
まずは小手調べ、軽く横薙ぎに振るう。上手く一本で止められ、もう片方で突きを放ってきた。それに合わせ止められていた剣を上へと切り上げ、状態を逸らした相手を見て距離をとる。
そして次はお前の番だと言わんばかりに待ちの体制をとる。彼は左右から挟み込むように剣を振るってきた。それを見て私は――、一気に肉薄する。背後から剣と剣がぶつかる音がした。同時、左手に蹴りを入れ、落とした剣を遠くへと放り投げる。
これでお互い持っている剣は一本。同じ土俵だ。
その後も、剣閃が二つ、何度も交錯する。使っているのは普通に人もモンスターも殺せる、れっきとした武器だ。一手でも間違えれば斬られる。死が待っている。しかし、誰も助けてはくれない。信じられるのは自分の剣だけ。
私は準備運動の剣戟を終わらせ、軽く呼吸を整える。もっともナナシに至っては準備運動どころか肩で息をしている状態だけど。
集中し、彼の一挙手一投足を見逃さない。彼の放つ銀閃を予測し事前に対処し、どんどん相手の手数を潰していく。自然彼の剣は押されていく。押され、弾かれ、――彼は後退を余儀なくされる。
「お前……、手加減しろって。なに? イライラしてんの? 生理?」
出た。セクハラ発言。本当にこいつは、エロオヤジめ……。
「黙って集中して」
言葉と一緒に前方へと回転して、上から剣を振り下ろす。しかししっかりと横にした剣で受け止められてしまった。すると彼は徐に手を伸ばし、私が着ている腰装備を捲りあげた。じろじろと無遠慮に見られてしまう。
「ほう、黒か……。ちょっと見栄張りすぎなんじゃ――へぶっ!?」
鼻に思い切りパンチを喰らわす。
この前古代林でラージャンを二頭狩るクエストをしているときに、蔦を上っているときのことを思い出す。
エリア移動したラージャンを追いかけるべく、蔦を上っていた私の下から、まじまじと下着を見られたのだ。本当にこいつはどうしようもない。だからちょっとばかし意地悪しても誰も文句は言わないだろう。
「鼻血出すとか、変態。エロオヤジ、ハゲ」
「鼻血って、これはお前のせいだろうが! あとハゲてねぇ!」
「黙って。私も剣二本使うから、お前もあそこにある剣拾って来い」
「おま……、それ反則じゃね?」
さっき放り投げた剣を指差し命令する。不満げにブツブツと言葉を漏らしながら、彼は剣を拾い構えた。
私も腰に携えていたもう一本を手に取り、構える。
第二ラウンドだ。
カサリと落ち葉の音が鳴り響いた瞬間、弾けるように飛び出す。
目にも留まらない速度で近寄り、死角から一閃。慌てて弾いた彼に追撃の突きを放つ。
一発目は囮、二発目が本命だ。上手く策が決まり彼の喉に剣を突きつける。
「はい、おしまい」
そして優しく声をかけた。
◇
翌日、私は武器防具の手入れをしていた。昨日はあの後数戦武器を使った模擬戦闘を行い、ナナシの動きも格段によくなっていた。まだまだ甘い所はあるが、十分実戦にて通じるだろう。まあ相変わらずセクハラをしまくってきたので、集中しないと捻じ切るぞと脅したのも効果的だったのかも知れない。
彼の成長を嬉しく思いつつ、手入れを続けていると、我が家の窓から一通の手紙が投げ込まれてきた。それを拾い手持ちのナイフで封を切って中身を確認する。
内容は、渓流近くの洞窟に潜んでいる違法ハンターグループの討伐。今日の日付が変わる時間ギリギリに決行らしい。パートナーはナナシ、これはいつものことだ。それに私は彼以外と上手く仕事を出来る気がしない。たまに他の男性隊員が下卑た目でこちらを見てくるのは、本当に虫唾が走るぐらい気持ちが悪い。うっかり殺してしまいそうだ。
その点、ナナシの場合は怒りことすれど殺意までは芽生えないのだから、何ともまあ恋というのは厄介である。
そんな訳で、仕事の準備を始めることにする。『黒狼姫のグンセン』を武器庫から取り出し調子を確認する。いい感じだったので次は防具を。『混沌のパオ・覇』、『ホクシン』、『ガムートアーム』、『マスターフォールド』、『エコールブーツ』、と順に床に並べる。暗殺の際に着る私の正装だ。これで準備は整ったので夜まで仮眠を取ろうと思い、服を脱ぎ下着姿になってから備え付けのベッドに飛び込む。ルームサービスに時間指定をして起こしてと頼み、目を瞑り深い水底へと沈んでいく。
◇
至る所で断末魔が上がり、次々と見知った顔から生気が失われていく。
ああ、夢か。あの日からそこそこな頻度で見る夢。私が天涯孤独へなった原因。姉が私を庇い殺された後の記憶。
当時はまったく記憶になく、気付いたときには周囲は血の海、生きている存在は私のみだった。
けれど、年を重ね日々この夢が映し出され、段々とあのときの全貌が明らかになっていった。夢と言うのは自身の記憶から映し出されると聞く。それ故に、思い出せなかった、否思い出そうとしなかった記憶の扉が強制的に開かれ私に現実を突きつけてきた。
そう、私はあの時、村を襲った
――まだ生きていた村人も含めて。
最愛の姉を殺され理性の枷が外れた私は、姉のいない世界なんてと絶望し、本能の赴くままに周囲の生き物を全てこの手で殺した。
こんな記憶を何の前準備も無しに見せられた私は発狂した。私も今すぐ死んでやろうかとさえ思った。
だが、姉の遺髪を握った途端、ある結論に至ることができた。
これは私の罪だ。背負うべき十字架だ。
姉の復讐は果たした。ならば、後は村を奪った違法ハンターを全て根絶やしにする。世に蔓延る違法ハンターを全て駆逐する。私に殺された村人たちの、恨み、絶望、憤怒、等々を全て私が背負い生きていく。
そして最終的には、私の手で、私自身に復讐を果たそう。
村人たちの怒りを一身に受け、自らの手でこの血に塗れた人生に終止符を打とうじゃないか。
これでいいんですよね? お姉ちゃん――
◇
体を揺さぶられる感覚に、私は意識を覚醒させる。んっと伸びをして時計を見ると、集合時間まで後三十分。
急ぎ顔を洗い、髪をセットして先程並べていた装備たちに腕を通していく。
装備を着込んだ私は、武器を携え、暗殺用の道具を袋に放り込み、家を出る。
目的地への道をゆったりと歩いていく。
渓流と空に浮かぶ満月、辺りを照らす蛍が幻想的な雰囲気を醸し出している。
これからここが悪人共の血に汚れると思うと申し訳なく思う。が、私はやらなければならない。復讐のために。
更に歩き集合場所の滝が見えてきた。傍らには死んだ魚のような目をした男が手を振っている。
「おーい、こっちだぞー、フキョウ」
相変わらず緊張感のないやつだ。頭を下げ首肯し、どのように進めていくか方針を決める。
人数は二十人ほどらしい。洞窟の入り口に見張りが二人、中はよくわからないので臨機応変に対応。
そんな感じに方針はすぐ決まった。
洞窟への道を歩きながら、方針を更に詰める。ピチャリと水面に波紋を作り出しながら歩いていると、洞窟が見えてきたので、気を引き締める。そしてナナシにアイコンタクトを送る。
まず見張りをどうにかするべく、私が出ることになった。
二度深呼吸してから呼吸を浅くする。そして武器を取り出し腰を低くして、一気に飛び出した。
ナナシには陽動を頼んでおいたので、音を立てるなりして見張りの注意を引いてくれているだろう。案の定変な方向を向いていた見張り二人の首を刎ね飛ばす。すぐにその場から離脱。数瞬後切断面から真っ赤な血が噴出した。
私はこんな悪人共の血に塗れる気はない。上書きされる訳には行かないのだ。罪科を背負うためにも、村人たちの血を塗り潰されるなんて考えただけでおぞましい。
「見事な手際だな。よし、この調子で行くか」
私が決意を新たにしていると、ナナシが陽動を終え近寄ってきた。表情は硬く強張っている。
彼はこんな職に就いていながら、殺人に抵抗を抱いている。
以前、『最強への挑戦』という高難度クエストを二人でクリアしたとき、クリアの祝いと言うことで宴をしたことがある。その際ナナシの過去の話を聞いた。なんでも、小さかった頃、人を殺すのに手が渋った彼の父親が、違法ハンターに呆気なく殺されてしまったらしい。そんなことがあったナナシは、違法ハンターを罰するべく暗殺ギルドナイトに入ったと言っていた。それなのに、人を殺すのに抵抗を抱いている。父親と同じ道を進みたいのか。
そんなことはないだろうが、しかしこのままでは確実に同じ轍を踏む。
ならばどうすればいいか? 簡単だ。その考えがなくなるまで、囮に徹すればいい。
人を、悪人を裁くのは、”化け物”である私に任せればいいのだ。都合のいいことに私は殺人に抵抗なんてない。むしろ嬉々としてやっていると言ってもいい。その先で村の悲願が叶うのだから。もってこいじゃないか。
彼の弱みは、私の強みで覆い隠す。
彼の復讐を代行する気はない。が、その手助けはするつもりだ。
だから私はお前と言う陰に隠れ、悪人を断罪する。これでいいんだ。
ナナシの言葉に返事をして、二人で洞窟内へと入っていく。
◆
「これだけありゃあ、しばらくは贅沢できそうだな!」
「違ぇねえ!」
目の前に広がるモンスターの素材たちに、男たちは欲望に染まった目を輝かせる。
これは、男たちにとって大きな賭けだった。わざわざ危険な目に遭いながらも、強力なモンスターを密猟して成果を挙げる。だからこそ、彼らは成功を祝し、目の前の素材たちの使い道に思いを馳せていた。
もちろん警戒は厳重にしているが、それでも浮ついた気は誤魔化せない。
だから、気付けなかった――。
――すぐ目の前に狩る者がいることに。
「なっ!? 誰だおま――ッ!」
突然現れた人影に驚いた男の誰何の声を遮り、フキョウはその首を刎ねる。
突如として襲撃された事実に周りの者達も気付き、戸惑いと怒りを顕わにして辺りを警戒する。
「一体誰の仕業だ!」
「近くにいるぞ! 逃がすな! 殺せ!」
周りはあっという間に警戒態勢へと移行し、男達は懐から武器を引き抜き構え始めた。
しかし、そんな彼らを嘲笑うかのように被害者は更に出た。
悲鳴が上がりそちらを向けば、首と胴体が離された死体が転がっているだけ。
やられ方からして刃物による攻撃だと判断出来るが、その犯人の姿は一切捉える事ができない。
それが二人や三人ならまだ良い。
次第に数が増え、あっという間に半分以上が地面に血の花を咲かせる。
なのに一向にその姿はなく、それまで憤っていた者達は次第に恐怖に心を浸食された。
自分達は一体何を相手にしているのかわからない。姿は一切見えず感じず、なのにその牙は確かに自分達に襲いかかっている。
それはもう現実的とはいえない。性質の悪い悪夢にしか思えないだろう。
だからこそ、集団は統率をなくす。
皆恐怖に従い武器を捨て逃げ惑う。
だが、フキョウは容赦をしない。
一言も漏らすことなく無言のまま、着々とその手に持った刃でターゲットの心臓を突き刺し首を掻き切る。
まるで作業のように、淡々と彼女は殺人を行う。
誰一人として気付かない。彼女の姿は普通に見えるはずなのに、その身はまるで空気と一体化しているかのように希薄で虚ろ気だ。まるでそこに存在していないかのように。だからなのか、誰一人として彼女に気付かないし、気付けない。まるで世界に一人取り残されたかのように、彼女は一人だけの世界で限りを尽くす。その結果が地面に倒れる死体達。
洞窟入り口には、フキョウとナナシ以外、皆その命を刈り取られていた。
◇
「とりあえず入り口は終わり。この調子で奥のほうに行くよ」
「了解」
入り口のほうに大分固まっていて焦ったが、上手く事が運んでよかった。
ナナシの囮も役にたった。私が七人殺して、ナナシは二人殺した。
彼の顔はやはり暗い。だが、殺せた。時期に慣れることを祈りながら深部を目指していく。
足音をなるべく響かせないように二人で移動していると、目の前に五人ほど談笑しているのが見えてきた。全員服装も髪も何もかもが汚く、顔だって厭らしく歪んでいる。
「また私が突っ込むから、囮よろしく。危なくなったらちゃんと斬ってね」
「あ、ああ」
再び私は闇に姿を潜ませ接近していく。すると一人の男がハッとして、口を開いた。手には音爆弾。それで援軍を呼ぶつもりだろう。そうはさせないと、投げナイフを男の手に目掛けて投擲する。
「グアッ!」
痛みに声を上げた男に即座に近寄り、首を断つ。
仲間がやられたことに気付いた仲間たちが一斉に武器を構え、ボウガンを発射してきた。状態を捻り、しゃがみ、難なく避けていく。そして回避しながら距離を詰め、首を切り裂く。
全然当たらなく、痺れを切らしたのか、悪人たちは散弾を用いてきた。回避が難しくなったが視線や呼吸を見極めて、辛うじて避けていく。
すると、不意に後ろからキィンという音が鳴った。
「ちッ!!」
どうやら散弾が先程の音爆弾に命中したらしい。舌打ちをしつつ戦況を確認する。
見ると、音に気付いた違法ハンターが更に五人ほど横穴などから出てきた。後ろからも出てきたようで完全に囲まれてしまった。ナナシも二人同時に相手をしている。どうにか頑張ってくれ。
「ひひ、形勢逆転だな嬢ちゃん。すぐにその体で楽しいことしてやるよ」
男の一言に周りも下卑た表情を浮かべ色めき立つ。ああ、気持ち悪い。
だが、この状況ならあれが役立つだろう。畳んでいた扇剣を開き、姿勢を限りなく低くする。そして地面に足をかけ踏ん張り、
「《血風独楽》」
発動と同時に一気に踏み込む。人ならざる膂力に従い、体を回転させて悪人を薙ぎ払う。方向転換をしてどんどん死体を作っていく。そして、数度の方向転換をして、フィニッシュに最後の男をクロスに切り裂いた。
乱れた息を整えながら、周囲を確認すると惨状が広がっていた。皆腹を裁かれ、胃や腸がでろりと飛び出ている。濃い血の匂いと排泄物の臭気に思わず顔が歪む。だが感情を乱してはいけない。
常に冷静に、冷酷に、冷徹に。心を乱すな、全て受け止めろ。
ナナシのほうはきちんと二人を殺したらしい。
彼に感心していると、パチパチと乾いた音が近づいてくる。音のほうを見やると、この場にそぐわないいい装備を着た男が仮面のような笑みを貼り付け口を開いた。
「いやはや、やりますね。まさか皆殺しにされるとは思いませんでしたよ」
「な……!! お前は!!」
突然声を上げたナナシに驚き、その顔を見ると、怒りに歪んでいた。
「お前のそのエンブレム、あいつのと同じだろう!? お前はあいつを知っているのか!」
「あいつぅ? エンブレム……。ああ、なるほど。もしかして私たち違法ハンター組織のリーダーのことを言っているのかしら?」
「そうだ! あいつは今どこにいる! あいつは、俺が殺すんだ!」
どうやら、彼の父親を殺した男の仲間らしい。
彼は父親を目の前で殺され絶望しただろう。目の前の光景に、自分の無力さに。
だけど、絶望しただけで終わってはいけないのだ。奥底に封じ込めた彼の憤怒に、怨嗟に、復讐と言う形を与える選択だってある。現に彼は復讐をしたいと思っていたのだろう。だが、人殺しに抵抗を持つが故に甘さが捨て切れなかった。
それが今、改めて選択を迫られている。
復讐相手につながる奴が近くにいる。やろうと思えば殺せるし情報を引き出せる。
奴を殺せば少しぐらい気がまぎれるだろう。
さあ、ナナシはどうする?
◇
ナナシは『ギルドナイトセイバー』を構え男に斬りかかった。しかし軽くいなされてしまう。
いなされ体勢を崩した彼に男の斬撃が迫るが、何とか受け止めた。
その後も一進一退の攻防が続く。しかし段々とナナシが押されてきた。
双剣を上に切り上げられ、空いた胴体に思い切り蹴りが刺さる。胃液を吐き苦しそうにしている彼に男が何か話しかけているようだが、よく聞こえない。だが、更にナナシは憤慨し動きが単調になっていく。
これは少し、まずいか?
ナナシを冷静にさせないと勝つのは難しいだろう。と言うか殺される。もう目の前で大切な人が殺されるのは見たくない。隙を見て何とかするしかないだろう。
何かないか探っていると閃光玉があった。
「ナナシ! 目を瞑れ!」
忠告をして、ナナシと男の間に閃光玉を投げる。瞬間、世界が真っ白に塗り潰され、その隙にナナシに近寄り、彼の頬を思い切りひっぱたく。
「冷静になれ、ナナシ。暗殺者は常に心を乱してはいけない。落ち着いて情報を引き出して……お前の手で奴を殺せ。お前なら出来る、訓練を思い出せ」
叩いた頬を撫でながら彼に言葉をかける。
「ああ、ありがとう、フキョウ。助かった」
私の言葉が効いたのか、彼の目は強い意志を映し出していて輝いていた。
これなら大丈夫だろう。そう思い私はその場から離れる。
その後は三十分ほど斬り合いが続き、お互いぼろぼろになっていた。急に動きがよくなったナナシに驚いた男が、虚を突かれ痛手を負ったのがよかった。
そして現在、床に倒れ伏した男の傍らで、ナナシが一言二言交わして、手に持った双剣を振り上げ一気に心臓を突き刺した。
彼は少しは抵抗がなくなったのだろうか。
◇
その後死体の処理等を済ませた私たちは、蛍と月明かりが照らす渓流の滝近くで向き合っていた。
少しの沈黙の後、ナナシが口を開く。
「しかし、お前は本当に血を浴びねえしださねえな。破瓜の血も出ないんじゃねえか?」
ハァ……。意を決した感じの表情をしてたから何を言うのかと思えば。
彼は日常的にセクハラを行ってきているから見逃しがちだが、こういうときの発言は薄っぺらい。
自分を誤魔化すために、無理にセクハラ発言をしているのだろう。やはり今日の仕事は相当心に来たようだ。
無言で睨み付けていると、肩を竦めたナナシが再びこちらに向き合い言葉を発した。
「え、えーっとな……、あー、うん。あのな! その、情報も手に入った、だから……」
はっきりしないなぁ。たぶん復讐に手を貸してくれないかと頼もうか迷っているんだろうけど。
まったく、そんな迷わなくたって私の返事は決まっているのに。
相変わらず私の恋心には気付かないし、本当にこいつは鈍感だ。少しは気付いて欲しいのに。
だからこれぐらいの不意打ちは許して欲しい。
天涯孤独の私には、確固たるつながりが必要なんだ。
そしてつながりを一番得たいと思っているのは――ナナシ、あなただよ。
私は未だ逡巡しているナナシの元へ近づき、彼の唇に自分の唇を重ねた。
私の心は決まっている。私は貴方についていく。
だって貴方は――
「私はずっと、ナナシと一緒にいるよ」
どうしようもなくてしょうがない人なんだから。
本当にこの人は私がついてないとだめな人なんだから。
幻想的な風景の中で、私たちはキスをした。
視界の端では、アイビーの花が揺れていた。