出来るだけ短めの文に出来ないかと挑戦しました。
からんころん、下駄が石畳を弾く。
見渡すのは卒塔婆や墓石。
私は唐笠お化け。
自慢の傘を持ち、墓場を闊歩する。
隣にあるお寺からは和尚さんや、弟子達の読経の声が聞こえてくる。どうやら修業中らしい。
空模様は、先程まで晴れていたのにあっ、と言う間に曇り空。
どうやら、雨が降るらしい。
日光は隠れ、灰色のふわふわとした雲が空を覆う。
暫く後、ポツポツと雨が降り始めた。
けれど、にわか雨でも大丈夫。私は傘の妖怪だから。
ザバザバと降ってきても、私には傘がある。
自慢の傘を掲げ、激しくなりつつある雨を受ける。
サァァァと、雨は強くなっていく。
誰か入ってくれないかな? なんて冗談を思いつつも雨の中を歩く。
ザブザブ、ザブザブと雨は降り注ぐ。
静か、とても静か。
墓場には誰も居ない。
何時ものキョンシーさんもお休みのようだ。
ぽつんと世界に取り残されたみたい。
ザーザーと雨は降り続く。
「誰か、来ないかなぁ……」
墓場で、私は驚いてくれる人を待ち続ける。
私は、いつの間にか幻想郷にいた。
覚えているのは嘲笑と寂寥感。
棄てられ、忘れられ、そして此処に辿り着いた。
辿り着いた先は騒がしくも楽しかった。
思い返せば何だかんだ傍に一人は居たし、追い出そうとしてくるキョンシーとも戦っていたから一人でいるという事は少なかった。
雨脚は早まり、ザーザーと降り注ぐ中、誰に向けるでも無く、うらめしやー、と呟く。
当然、聞き届ける人物などおらず。囁いた声は雨音に掻き消される。
何となく寂しくなり、墓場から離れる事にする。
テクテクと、道行く人を見逃さない様にゆっくりと。
からんころん、と墓場の石畳に下駄の音が響いていた。
暫く歩くと、人は目に入らなかったが、紫陽花が道の端に咲いているのは目に飛び込んできた。
赤、紫、雨に煙った景色に色鮮やかな色が広がる。
近寄って紫陽花を覗き込む。
蝸牛が嬉しそうに這っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
本当は急いでいるのかも知れない。
けれど、私からはとても緩慢。
蝸牛さんからはせっかちに見えるのかな?
そんな事を思いつつも、また歩き出す。
しとしと、しとしと
雨は弱くなっていく。
傘に響く足音が耳に響く。
パタパタ、トコトコ
そんな音が心地好い。
墓場を抜けて、泥道を歩く。
ぺとぺと、ぽちゃぽちゃ。
少し歩きづらいけど我慢、我慢。
森を切り開いて作った道に下駄の跡が刻まれる。
泥を跳ね、水溜まりを踏み踏み。
雨を満喫する。
雨と遊びつつも、人里へ。
人影絶えた道を私は一人で歩いていく。
誰かに会えるかな? なんて思いつつ。
やっと人里の壁が見えてきた。
人と妖怪の境界線。大きな大きな壁
雨に浮かんだ壁は、まるで此方を拒絶している様だった。
ポツポツ、ポツポツ
雨は静かになっていく。
人の姿は無い。
もう少しだけ近寄ってみよう。誰か居るかもしれない
壁がじわじわと近寄ってくる。
「おー」
思わず声が出てしまった。
目に入ったのは、雨をものともせずに頑張る見張りさん達。
私は、道具。
人間と共に在り、共に暮らした物。
だから、その頑張る人達がとても尊くて、嬉しくて。
私は、来た道を戻る事にした。
道具であった私はもう居ない。
今は唐笠お化け。だからきっと邪魔せずに帰るのが一番なのだ。
もう一度だけ、後ろを振り返る。
私の目には、頑張る人達が映っていた。
いつの間にか、雨は止んでいた。
まだまだ、時刻は昼下がり。
きっと、これから外に出て活動する人もいるのだろう。雨に沈んでいた人里もまた起き出すのだろう。
にわか雨は過ぎ去っていき、徐々に雲が散り始める。
雨上がりのその道を、ぴちゃぴちゃと踏みしめながら、墓場に帰る事にする。
茄子の様と言われた傘を指しつつ、私は歩く。
雲間から見えたお日様は、カーテンの様に光を差していく。
雨上がりの空は何処か嬉しそう。
私は、歩く。
「おかえりなさい!!!」
命蓮寺前に辿り着くと、修業が終わったのか響き渡る山彦の声。
ちょっとだけうるさいなんて思っていた声も、曇った今日にはありがたい。
「ただいま!」
負けじと大声を出してみる。
その声は寺の奥まで響いていき、気づいた何人かが顔を出していた。
口元から晴れ間が覗く。
雨上がりの空には虹が掛かっていた。