彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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二日目

 

 さて、今日も今日とて勉学に励むため絶賛登校中である。新しい友人(仮)の家に寄ってから行こうとも思ったのだが、よく考えたら家知らないや。あっはっは。出会いこそ何よりも運が求められるものだとは思うのだけど、その意味では私にとって昨日の出会いは素晴らしいものだった。

 

 この一年はきっと笑顔(嘲笑含む)が止まらないだろう。そんな予感がひしひしとしているのだ。しかしクラスメイトの誰とも会わないな……一年の時仲が良かった子は軒並み違うクラスだし、唯一グループが一緒だった岡田さんは区域がまったく違う。結局校門まで寂しく――あ、黒木さんだ。荻野先生と……三年の先輩? となにか話している。

 

「おはようございます、黒木さん。どうしたんですかこんなところで。あ、先生も先輩もおはようございます」

「あ、おお、おはよっ!」

 

 話し方が戻っとる。私が処女だと知ってからは調子こいた喋り方だったのに。まあ最後がアレだったし、仕方ないか。こういう人は調子に乗らせたまんまだと増長してくるから、ある程度のとこでリセットかけなきゃね。

 

「おはよう大谷! …もしかして黒木と仲良いの?」

「ええ、昨日仲良くなりました。ね、黒木さん」

「う、うん!」(神かよ)

 

 ねー! といった感じで手を合わせてみた。神と言われた。やはり私はゴッドだったのか…? とまあそんな冗談は置いといて、やはり荻野先生のKYっぷりが炸裂していたようだ。一本気で芯の通った女性ではあるが、空気の読めなさと気の遣えなさは教師トップクラスである。悪意がないだけにより質が悪いというべきだろう。

 

 黒木さんの記憶を読む限り、生徒たちが通り過ぎていくよりにもよってこの場所で『友達出来た?』などと問いかけられたようだ。完全に虐めである。まあ初日にあんだけすべった上に、どこのグループにも属していなかったのは教師の目から見ても心配だったのだろう。

 

「よかったよかった! 先生も心配してたのよ。黒木に友達ができないかもって――」

「はは、は…」(殺すぞ…)

 

 気持ちは解る。いやもうこれ本気で虐めてないか? 黒木さん嫌われてるってこたないよね? ちょっと読んでみよう…

 

「あれ? 先生少し指先怪我してませんか? ちょっと失礼しますね…」

「え?」(黒木に友達ができて本当によかった! これで心の荷が少し降りたわね!)

 

 めっちゃ良い人だった…

 

「あ、気のせいでした。すいません」

「うん、心配してくれてありがとね! さ、遅刻しないうちにいきなさい」

「はい。失礼致します。先輩も」

「うん。じゃあね、黒木さん」

「あ、はぃ…」

 

 手を振って三年生の校舎に消えていく先輩。奥ゆかしさも半端ないし、黒木さんの記憶の限りでは気遣いも完璧で最高の“女性”だ。結婚するならこういう女の子が良いよね。

 

「黒木さん、昨日はごめんなさい。占いのことになるとつい熱くなってしまって……所詮は素人に毛が生えたようなものですから、結果はあまり気にしないでください」

「う、うん。大丈夫」

「まだ友達でいてくれますか?」

「お、おう」

「ありがとうございます!」

 

 感動したふりをしつつ手を握って、と。こういう時ガチで嫌われたか大丈夫かが判別できて楽だよね。クレバーというならいいたまへ。もし服が透けて見えるようになるボタンがついた眼鏡をかけていたとしよう。そして美女が目の前を通ったら押すだろう? 人間は隠されているものを暴くとき、快感を得られる生き物なのだ。だから私の行動も仕方ない。

 

「へへ、へ…」(ま、さっきは助けられたし仲良くしてやってもいいかな。処女だし)

 

 そこかよ! というか笑い方気持ち悪いなおい。キモいじゃなくて“気持ち悪い”なところでそのキモさを解って頂きたい。あ、結局キモいのか。しかしなんという上から目線。中学生の時の私を見ているようだ……え? ああ今はそんなことないよ。ないよ。ないったら。

 

「あれ葵ー。また黒木さんと一緒なんだ?」

「おはようございます岡田さん。ええ、家も同じ方角ですし、昨日も一緒に公園でタコ焼きを食べたんですよ」

「ふーん…」

 

 じろじろと岡田さんの視線が黒木さんに突き刺さっている。まあこれは読まなくても解るな。なんであんまし関わらないタイプの子と仲良くなったんだろ、ってとこか。まあいわゆるリア充グループとの交流がメインだったしね。正味なとこ、この学校結構“良い人”が多い。彼女に関しても、黒木さんとの交流を不思議に思ってはいても『なんでこんなのと』とかは思ってないんじゃないかな。

 

 むしろこう思う私がひどいな、うん。まあ客観的に見れば私の方がこう――なんていうの? ほら、上位というかそんな感じだから……いや思っちゃうのは仕方ないよね!? 友達だって無意識の上下関係とかは絶対あるって! 彼氏彼女だって『うわ、なんであの人とあんなのが…』ってあるじゃん!

 

 単に私はそれを意識してしまうだけだ。そう、能力のせい能力のせい。辛いわー。こんなこと思いたくないのに。

 

 さて、時間は進んで三限目の休み時間。一限目の休み時間でどこかに消えていった黒木さん。それから時限の休みを追うごとににやつきがキモくなっていった。そして今、その表情には愉悦と優越が浮かんでいた。うーむ、私に対してではないものの、彼女がそのような顔をするのは許されん。ちょっと触ってみるか。え、酷すぎるって? 細けえこたいいんだよ。

 

「ふー…」(あーつらいわー。中学の時の同級がボッチとかつらいわー。まあ私にはリア充の友達がいるわけだけど、こみ……こみなんとかには居ないわけだしなー。おなちゅうのよしみで仲良くしてやってもいいかな?)

 

 なんちゅうこと考えとんねん。ほんと素敵に性格がねじ曲がってるなこの子。だがそれがいい。あ、髪の先っぽ触ってるの気付かれた。

 

「…ん? おわっとぉ!?」

「あ、すいません。髪のテカりが一瞬ゴキブリに見えてしまって…」

「そ、そう…」(誰の髪がゴキブリだ!)

 

 突っ込み待ちだったのに普通に流された。その内心を表に出せばボッチも脱却できると思うんだけどなぁ……いやダメか。それはそれで友達をなくしそうだ。しかし『こみなんとかさん』か。本人が覚えてないとこっちもよくは解らないんだよね。勿論じっくり探ればその限りではないんだけど。確か図書委員の人だったっけ…? ちょくちょく借りに行くし、顔は知っている。こみ、こみ……駄目だ思い出せん。まあいいか、こみなんとかさんで。

 

「そういえば黒木さん、お昼はどうしますか? 私はお弁当なんですけど」

「わっ、私もお弁当…」

 

 そうかそうか。なら一緒に食べようではないか。リア充グループは何故か学食が多いんだよね。別に食堂で弁当を食べてはいけないということもないが、混んでる時は肩身が狭いのも事実だ。

 

 

「葵ー。学食行くよー」

「あ、今日は教室で食べますのでお気になさらず。みんなにもそう言っておいてください」

「へ? あー……うん。解った」

 

 一年時親しかった面子で食堂に集まると聞いていたけど、結局そのうちバラけていくと思うよ岡田さん。クラスが離れて微妙に疎遠になって、食堂で違う友達同士で飯食ってる時に鉢あうと妙な気分になるよね。一種の裏切り、裏切られ気分だろうか。もう一歩進むと寝取り、寝取られかもしれない。

 

 しかし岡田さん、口には出さないけど『優しいなー』という感じの表情だ。まあボッチが可哀そうだから一緒にご飯食べてあげるように見えているんだろう。しかしビクビクしている黒木さんは面白いな。

 

「あれ? 葵ちゃんが教室で食べるの珍しいね」

「あ、根元さん。よかったら一緒に食べますか?」

「うん。机くっつけよう」

 

 ツインテ少女のネモちゃん。ちょいちょい黒木さんにも話しかけている隠れオタク少女だ。何回か読んだことがあるけど、声優を目指しているらしい。しかし所属はリア充グループのため、それを周りにひた隠しにしている。別に誰も馬鹿にしないと思うけどなあ。

 

 ひと昔前ならともかく、今はアニメや漫画も十分人権を得ているでしょうに。親の世代ですら『ワンピース』のおかげでかなり寛容になったと思う。集英社の猛プッシュとメディアミックスの成功、そして一章一章がドラマみたいに仕立ててあるから団塊世代にも受けたんだろう。

 

 オタクも珍しくなくなってはきていたけど、あの辺りからオタクであることがステータスとか思う人も増えたように思う。まあ純粋に作品が好きなオタクも、オタクである自分が好きなオタクも本質は変わらんだろう。そう、つまり私の母親はワンピース女子である。

 

「あ、葵ちゃんの弁当すごいね…」

「ぷっ…」

 

 おい、今笑ったな? 黒木。きっちり聞こえたぞ。

 

「母親が嵌まってましてね。まあお腹に入れば全部一緒です。むしろキャラとはいえ顔を解体して食べていくことに罪悪感を覚えますね」

「はは…」

「くっ……く…」

 

 なにぷるぷる震えてんのこいつ!? 別にチョッパー弁当だろうが桜が散りばめられていようが問題ないだろうが! ええい、また格下認定を食らった気がするぞ!

 

「黒木さんはそういうのお好きなんですか?」

「えっ……あ、うん。割と」

 

 うむ、口調で解るぞ。もう侮られてる。何故君はそうなんだ黒木さん。だがそれがいい。

 

「私もそういったサブカルチャーは好きですよ。海外でも日本のそういった文化は評価されていますし」

「へー…」

「ふーん…」

 

 どーせワンピースとか進撃の巨人とかだろうな、という感情が透けて見える。おい、ネモ。お前までそれはどうなんだ……ああ、そういえばこの子は人が死んだりする系統のやつは好きじゃないんだっけな。

 

「けいおんとかゆるゆりとかいいですよね」

「へ、へー…?」

「ぶっ…!」

 

 動揺が手に取るように解るぞご両人。まあネモちゃんはともかく、黒木さんの方はあれだ。私の百合疑惑がまたもや浮かび上がってきたのだろう。うん、正解です。

 

「なんていうか、その……オタク的なアニメだよね?」

「ええ。でも日常ものですし、キャラの掛け合いも面白いですからね」

 

 こらこら。それを聞いた時点で知ってると言ってるようなもんだぞ。とはいえ才色兼備で完璧な私の印象とはだいぶかけ離れてるからね! 美少女だからね! 頭良いからね!

 

「根元さんはどうなんですか?」

「えっ……あ、えーと。偶に見たりするかな。その、葵ちゃんが見てるみたいなのも、時々…」

「ふふ、日常ものはどこから見ても面白くていいですよね。ああいう、どこかほっとするアニメは好きですよ。声優さんも凄いですよね。聞いていてまったく違和感とかないですし」

 

 ついでにちょっとゴマすっとくか。いつどこでこういうのが役に立つか解らんからね。人に好かれて悪いことなどあんまりないのだ。人の本音が聞こえるってのは本当に便利だ。ほら、ネモちゃんも口元が緩んでるし。そのまま惚れてくれてもいいんだけどなぁ。

 

「うん、わかるわかる! 声優って声だけで全部表現しなくちゃいけないから本当に難しいんだよ。キャラによって全然違う声質で演じる人とか凄いなって――」

「お詳しいんですね」

「あ。う、うん、ちょっとだけど」

 

 熱意があるなー。もしかしたら超有名アイドル声優とかになるかもしれん。今のうちにもっと仲良くなっておこう。しかし黒木さんの方は……うん。なんだこいつって感じの目でみてるな。いや、リア充が声優語ってんじゃねーよって感じの目かもしれん。この子はほんと読めないというかなんというか…

 

 まあそんな感じでつつがなく昼食も終了し、放課後になった。自然に二人で帰る形になったのだが、ちょうど校門前で件の『こみなんとかさん』と鉢合わせになった。

 

「っ…!」

「ふっ…」

 

 なんか勝手にバトってる。一人ぼっちで帰るこみなんとかさんに対し、明らかにリア充の雰囲気を放っている私を連れている黒木さん。まあ確かに圧勝だ。なにせ私は最高の女だし。ていうかなんか話せよ! なんでそのまま離れていくかな? だからボッチなんだよ!

 

「あ、あの……こみなんとかさん!」

「はあ!?」

 

 あ、間違えた。

 

「えーと……黒木さんのお友達ですか? よかったら一緒に帰りましょう」

「え、いや…」

「一人は寂しいでしょ? 帰ってあげるよ」

「こっ…!」

 

 煽りすぎだろ。仮にも中学生の時の友達じゃあないのか? だから両方ともボッチなんだよ……って違う違う。一応花の高校生活を応援してあげるとは言ったんだから、彼女に友達ができるように手伝うんだった。私の楽しみが最優先ではあるけど。

 

「図書委員の方ですよね? 私もちょくちょく本をお借りしてます」

「あ、うん。大谷さんは最近ミステリーに凝ってるよね」

「おっと。司書さんにはかないませんね…」

 

 それなりによく利用はしてるけど、だからってお前。名前と借りてるもの把握してるのはちょっとキモいぞ。こみなんとかさん。まあでも図書委員だけに彼女は幅広く読んでるみたいだ。赤川次郎とか内田康夫みたいなライトなミステリー……厳密にいうとミステリーじゃないけど、まあそっち方面の話が意外とあう。

 

 彼女と話していてなにが面白いって、一人だけ話に入れない黒木さんの表情が面白い。リア充っぷりを見せ付けてやろうとしたら友達とられちゃった、みたいな。やだな、そんな彼女を寝取られたみたいな表情やめてよね。ちょっと嬉しくなるじゃないか。

 

「じゃあ私こっちだから」

「ええ。またお勧めの本があったらお願いします」

 

 そしてこみなんとかさんは道が違うため、去っていった。黒木さんは憎々しげに手を振っているが、邪魔ものが去ったという感情がありありと見て取れる。まあ別に私に執着してるわけじゃなくて、単にこみーがボッチにならなかった事にイラついているだけだろう。なんという理不尽な嫉妬。

 

 ――だけど、それがいい。

 

「それにしてもこんなに家が近くだったのは意外ですね」

「う、うん」

「休みの日にでも遊びに行っていいですか?」

「えっ!? ま、まあいいけど…」

 

 家探ししてバイブでも探し当ててやるか。初心なふりして『これなに?』とか聞くのも面白そうだよね。なーに、私の能力があればどんな場所でも見つけられる。君の部屋にあるエログッズは占いの時にだいたい把握しているんだ。観念したまえ黒木さん。

 

「では私はもう少し先ですから。さようなら黒木さん」

「うん。じゃあね」

 

 さて、明日も面白くなるといいな。黒木さん、明日も楽しませてね?


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