彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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そこまでゲスい主人公のつもりはないんですが、感想はゲスの嵐……うーん、なるほど。私が聖人すぎて寛容さが限界突破してるってことですね! まさか逆ってことはあるまい。


同類

 今日は体育の授業がある日だ。着替え時にはお洒落な下着を各種鑑賞でき、大変有意義な日となる。しかし一年の時から思っていたのだが、やたらとテニスの授業が多い気がする。一応カリキュラムって決められている筈だよね……いいのか荻野先生。いくら自分がテニス部の顧問だとはいえ、職権濫用だと思うぞ。

 

 しかしもこっちの下着は色気がなくて、あまりにもあまりである。下手をすればドンキで三枚一セット千円くらいじゃなかろうか。もしくはユニクロか。とはいえあの体型できわどい下着もどうかとは思うけどさ。

 

 そういえば彼女はできるかぎり体育をサボろうとする悪癖がある。面倒くさい、何人かで組む時に焦る、荻野先生がうざい、と色々理由はあるようだが、とどのつまり“サボり”だ。ダメダメ、今の内から逃げてたら将来苦労するぞ。いくら将来の夢が『闇の武器商人』だったとしても――たっ、体力は必要なんじゃないかな、ぷくく。闇の人格やら闇の商人やら大変そうなことで。そっと耳打ちした過ぎて困るんですけど。

 

「どうしたの?」

「いえ、なんでもありませんよ。それより憂鬱そうですね黒木さん」

「まあ……葵ちゃんはテニスできる?」

「ええ。ツイストサーブから零式ドロップまで一通りは」

「嘘!?」

「冗談です」

 

 できるわきゃない。でも得意ではあるよ? というか運動全般秀でているしね。大抵の部活でエースを張れるのは間違いない――と妄想することがよくあるよ。現実? それはまあ、さっき言った通り『優秀でしょう、まる』くらいだね。テニスに関してはかなり上手いけど。

 

「じゃあ適当に二人で組んで、まずは打ち合いをするように! しっかり離れてやりなさい。周りには十分注意すること!」

 

 荻野先生はいつでも熱血だ。でも適当に二人組なんて言っちゃ駄目です。ほら、泣いてる子だっているんですよ!

 

「…どしたの?」

「いえ、なんでもないですよ。始めましょうか」

 

 間違えた間違えた。私がいなければ最後までうろうろして泣きそうになる子だっているんですよ! だった。それはそれで見てみたいなー。凄く可愛そうで可哀そうだ。さて、とにかくやりますか。コートは二面しかないから、ネットも何もなしで軽く打ち合うだけだ。まさに女の子の体育だぜオラァっ!!

 

「うぎゃあっ!?」

「ああっ! すいません、強すぎましたか?」

「なんで全力で振りかぶったの!?」

「なんにでも本気で取り組むよう育てられまして…」

 

 驚く彼女は、キュウリを後ろに置かれた猫みたいで可愛い。でも目を見開いてぜえぜえと息をつくのは流石にオーバーアクションじゃなかろうか。強いったって精々女の子の筋力でしかないし。

 

 …あれ? ラケットが無い。右には無し。左にも無し。前には私を指差して震えているいるもこっち。あ、違うや私の後ろを指して……ぐわあぁぁぁ!!

 

「おい、わざとだろ? わざとだよな?」

「痛いですよ吉田さん。どうしたんですか可愛らしいタンコブなんてつくって――」

 

 あっはっは。漫画かお前は……あだだだだだ! やめてそっちは曲がっちゃいけない方だから! 私に暴力を振るう人間など今まで誰一人いなかったというのに! くぅっ、これがヤンキーのコミュニケーションか。致し方なし、これも愛情だと思って…

 

「ちょっと! なにやってんの!」

「ああ? お前には関係ないだろうが」

「葵が痛がってるでしょ!? 乱暴なことはやめなさいよ! これだから不良は…」

「んだとコラ…!」

 

 あ、やば。吉田さん的には本当に単なるスキンシップだったんだけど、傍から見れば確かにヤンキーに絡まれる優等生の図だな。しかし岡田ちゃん…! 私のためにヤンキーに物申すなんて、なんという的確で冷静な判断力なんだ! 間違えた。なんて友達がいのある子なんだ!

 

 あ、岡田さんの後ろに何人か……いかんいかん、これは吉田さんが弾劾されてしまう流れだ。違うんだ、これは奴なりの愛情表現なんだよ。

 

「あ、違うんです岡田さん。吉田さんは私のことが好きすぎてげふぅっ!?」

「なに言ってんだてめえ!」

「ちょっと、誰か先生呼んできて!」

 

 なんでお前はそんなに腹パンが好きなんだ……もう恥ずかしがっちゃって。げ、先生きちゃった。いや私を助けてくれようとしてるのは純粋に嬉しいけど、このままじゃ吉田さんの立場がなっしんぐ。えーと、どうしよう。

 

「吉田! なにしてるの! 大谷は大丈夫? 何があったのか先生に話しなさい」

 

 おお、一方を贔屓しない教職の鑑だね。先生によっては完全に優等生に難癖をつけるヤンキーだと断定してただろうに。しかし荻野先生が勘違いしやすい人なのも確かだ。ここは慎重に事実を話さなければ。

 

「吉田さんが急に抱き着いてきて……私も嫌ではないんですけど、時と場所を考えてほしいというか」

「うおおぉっ!」

「ちょっと吉田! 落ち着きなさい!」

 

 もう、そんな勢いで抱きしめようとしてきたらダメだよ吉田さん。流石の私でも――ああ、もういいや。そろそろ普通にするか。人を揶揄うのは好きだけど、これ以上はね。といっても無駄に挑発したつもりもない。荻野先生も少しだけ虐め的なことを疑ってたから軽くボケてみただけだ。

 

 こういう時は変に空気を悪くしたりすると後に残るからさ。吉田さんと岡田さんにしこりが残ったら私のせいになってしまうじゃないか。今の遣り取りで先生もただのじゃれ合いかと考えてるし、後はそれを結論付けさせるだけだよっと。

 

「あはは、冗談です。ごめんなさい吉田さん、少し頭見せて……うん、コブ以上にはなってないですね。お昼にジュースでも奢りますから許してくださいな」

「…さっさとそう言えっての。リアルゴールドな」

 

 カップの自販機があるとこだと、ヤンキーって基本リアルゴールド飲んでるよね。なにか不良を引き付けるものでもあるんだろうか。タウリンならぬノウタリンてか。いや吉田さんを馬鹿にしてるわけじゃないけど。

 

 それはともかく、みんなの前で彼女の頭をなでりなでりと擦り、私の不注意で怪我をさせたとわかりやすく主張してみせた。ついでに仲が良いこともわかったことだろうし、これでいいでしょう。まったく美少女は苦労しますね――

 

「じゃあ大谷、グラウンド5周ね。グリップはしっかり握りなさいって言ったでしょう!」

 

 ――えええっ!? そんな不条理があってたまるかよ。私は少し調子に乗ってもこっちを驚かせただけなのに……くそう、この学校グラウンド結構広いのに。高くついちゃったぜちくしょう。

 

 …ふぅ、ふぅ、あ……岡田ちゃんが吉田さんに謝ってる。ぶっきらぼうにそっぽ向かれたけど、岡田ちゃんはああ見えて察しがいいからちゃんと解ってることだろう。パイナップル頭は伊達ではないのだ。

 

 …ひぃ、ひぃ、あ……そういえばもこっちはどうしたんだろ。一人になっちゃってるよね今……ぷっ、一人になってるな今。ふはは、吉田さんに襲われていたところを助けなかった天罰がくだりおったか。ま、あわあわと片手を何度も上げて下げてしてたのは見えてたけどね。正直ちょっと意外だったけど――ふふ、そこがいいんだ。

 

「ふぅー……あ、終わりました荻野先生」

「あら早いわね。じゃあ適当にクールダウンして終わろうか」

「はーい」

 

 結局ほとんど走ってただけじゃないか。こういった前時代的な罰は生徒の成長を妨げ、教育的な観点から見ても正しいとは言えないと思いますが、そこはどうお考えでしょうか荻野先生。

 

 ――というようなことを心の中で呟いておいた。けして走らされたことがむかついた訳ではなく、健康な少年少女を育成するにあたっての問題点を指摘したまでだ。

 

「あ、あの、葵ちゃん…」

「? どうしたんですか、黒木さん」

 

 みんなが片付けしてるのに、サボったらいけんよ……なんかめっちゃ焦ってるな。どしたい、黒木嬢。最初に会話した時みたいになってるぞ、やっと普通に喋れるようになってきたというのに。

 

 うーん…? どれ、ちょっと触ってみるか。私がやたらスキンシップ多い人というのはもう解ってる筈だしね。最初に違和感を覚えても、ずっと続けていればそれが普通になるものだ。んまっ、私が可愛いからこそ許される行為ですけどね!

 

「え、えと…」(普段より素っ気ない……よな? やっぱ何もしなかったこと怒ってるのか? でもヤンキー怖いんだから仕方ないじゃん! むしろ逃げなかった私を褒めてやりたい。謝るべきか――ここで普通に謝れたらぼっちなんてやってねーよ)

 

 ……おお。なるほど。

 

 ――うーん。えっへっへ、そういうことですか。

 

「ふぉわっ!?」

「止めてくれようとしてたの、見えてましたから。ありがとうね黒木さん」

 

 思いっきり抱き着いてみた。走り終わったばかりだし汗だくだけど、私の汗なら一リットルあたり一万円くらいの価値はあるでしょ、うん。

 

「あ、あああわ」(こりゃ勃起もんやで…)

 

 ナニがだよ。焦ってんのか興奮してんのかどっちだ。まったく、ほんとに色々残念な子だな……なんでこんな子を気にかけてんのかな私。確かに面白いのは面白いけど…

 

「あ、葵ちゃん…?」

「…」

 

 …ああ、そっか。親よりも、妹よりも、岡田ちゃんよりも、ネモちゃんよりも。こみーよりもゆうちゃんよりも――ずっと安心するんだ、この子に触ってると。なんでだろ? 

 

 うーん。ま、気にしなくてもいいか。ほれほれ、嬉しかろうー……これからもよろしくね、もこっち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もやってきた例のゲーセン。今日は吉田さんいるかなー……あ、いた。パチンコ打ってやんの。しかしほんとに似合ってるなおい。子供を車に残していないか心配になる外見だ。

 

「こんにちは、吉田さん」

「…ん? ああ、よう」

「お子さん、車に残してきたりしてませんよぬえぁっ!?」

「お前ほんとに学習しないよなぁ、優等生?」

「痛いです痛いです! 愛ゆえの軽いスキンシップなのに…」

「ばっ…! なにが愛だ馬鹿!」

 

 なんでヤンキーなのにそんな初心なんだ。その辺の廃墟で『夜露死苦(よろしく)』とか『愛羅武雄(あいらぶゆう)』とかスプレーするのが不良じゃないのか? 愛とか恋とかにわけわからん拘りもってんのがヤンキーでしょ? まったく、このなんちゃってヤンキーめ。だからいまだに処女なんだよ。

 

「…」

「…なんだよ」

「…」

「だからなんだよ!」

「いえ、ずっと打ちっぱなしなので気になって。ゲーセンなんですから捻り打ちくらいしましょうよ。チャッカ―のタイミング見てほら、1、2、止めてー1、2…」

「おっさんかテメエは!」

「なっ、ししっ、失敬な! この私のどこがおっさんですか! この私の!」

「どんだけ動揺してんだよ」

 

 前だって別におっさんじゃないし! なに頓珍漢なこと言ってんだこの処女は! だからヤンキーなんだよ! せっかく人が優しく教えてやってるというのに。ええい、むかむかしてきた。からかってやる、とことんまでからかってやるぞ吉田!

 

「そういえば吉田さんは彼氏いるんですか? 友達のかたとかもちょっと進んでる感じですよね」

「…それがどうかしたのか?」

 

 濁した。濁しおったな小娘。すなわちそれは突っ込まれたくないことに他ならない。そして突っ込まれたこともないんだろう。ナニがとは言わないが。舐められたくないという気持ち、けれど嘘をつくのもなという気持ち、こいつスキンシップ過剰だよなという気持ちが手に取るように解るぞ。って誰が変態だ! 別に女の子同士なんだから少しくらいいいじゃないか。

 

「好きな人はいるんですか? うちの学校割とカッコイイ男子多いですよね」

「…別に」

 

 お前は沢尻エリカか……あれ、誰の顔も浮かんでこないな。多少気になってる人とかもいないのか、珍しい。男女のあれこれに関してはゆうちゃんより純粋無垢だな。ぷふー。黒い羊の中に、黒い振りをした白い羊が混じっておるわ。ギャル所帯ではその初心さは辛かろう、辛かろう。

 

「つーか人のことばっか聞いて、お前はどうなんだよ」

「私ですか? 今のところ好きな人はいませんし、交際経験もないですよ」

「そ、そう…」

 

 なんの躊躇いもなく言い切れば馬鹿になどできまい。そもそも童貞はよく馬鹿にされるが、処女はまた違うのだよ。主観的な童貞君と処女ちゃんは似ているといえよう。高校生ともなればどちらも卒業したいと考える人が多くなってくる。しかし客観的に見た場合、前者は侮られ後者は貴重とさえ思われる。まあ人生のクリスマスを過ぎれば不良物件扱いされるのはどちらも同じだが。

 

「ふふ、クラスで一番素直になれるのは吉田さんと喋っている時ですから――付き合っちゃいます?」

「なっ、まっ、おま……なに言ってんだ!」

「いえ、冗談ですけど。そこまで反応されるとは…」

「こ、こっちも冗談に決まってんだろうが!」

「…吉田さん」

「えっ? わ、ちょ、馬鹿おま…」

 

 顔を赤くしている彼女の手を取って、そのままピタリと体をくっつけ――囁いた。

 

「当たってますよ」

「お、お前があててんだろ!?」

「はい? いえ、大当たりしてますよって言ってるんですけど」

「えっ、あ…。~~っ!!」

 

 はーっはっは、これで私の勝ちだ。こらこら、台パンしちゃダメだよ。ほらほら、落ち着いて。なんかジュースでも買ってこようか? はいはい……ってどんだけ好きなんだよリアルゴールド。ま、好きなら仕方ないか……うん、好きなら仕方ないよ、ね。えっへっへ。




感想、評価等ありがとうございます。わたもてともこっちが好きな人、結構多いみたいで嬉しいな。原作がもっと売れて売れて、売れまくって続きますように…!

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