彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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次はまどマギの最終話更新して、その次オバロの方更新致しますので少し遅くなると思います。


少女の嗜み

 夏といえば何を思い浮かべるだろうか。海、山、スイカ、プール、虫取り、その他色々。年代によって様々だろうが、とにかく何かをエンジョイする季節ではあると思う。

 

 今日の私も然り、田舎でのバケーションというものを楽しんでいる。見渡す限りの畦道に田んぼ、古臭い電柱に木造りの家々。なんだか懐かしい匂いがするような感じで私は好きだ。

 

 そこにセミの鳴き声が添えられ、これぞ日本の夏といったところだろうか。とは言ってもそれなりに歩けばそこそこの都会には出るけどね。

 

 プチ旅行でもしたいと思ってはいたが、丁度良くもこっちが従妹の家に泊まりに行くと聞いて同行させてもらったのだ。というかもこっちから誘われた。おいおい誘ってんのか? と思ったところ、どうやら従妹へのリア充自慢のダシにするためのようであり、微妙に複雑な気分である。

 

 彼女の従妹の『きーちゃん』なる少女は、かつてはもこっちを尊敬する純朴な少女だったようなのだ。しかし中学生になり色々知識を身に着け、分別を弁えて現実を見渡したところ――従妹の姉貴分が非常に残念な喪女であることをしっかり認識したらしい。

 

 合ってるんだから潔く認めればいいのにねー。ぷぷ。とまあそんなわけで、その認識を覆したいもこっちは私を連れていくことで自分のリア充っぷりを妹分に見せ付けてやろうと画策しているわけだ。

 

「本当にごめんなさいね。智子が無理を言って……こんな田舎じゃ何も面白いものないでしょう?」

「いえいえ、風情があっていいところだと思いますよ。それに智子さんに誘っていただけて嬉しかったです」

「礼儀正しいわねぇ。あんたも少しは見習いなさい、せっかくこんなに可愛い子に友達になってもらったんだから」

「あーもー、早く行ってよ…」

「お母様にそんな物言いは感心しませんよ。智子ちゃん」

「うぐ…」

「もっと言ってやってくれる? この子ったらほんとに普段からめんどくさがりで…」

「はいはいわかったから! いってらっしゃい!」

 

 おやおや、まるで授業参観にきた母親に対する物言いですな。同級生と母親が話してるのってなんかこっ恥ずかしいよね。わからんでもない。しかし『可愛い子』とは見る目があるじゃないかもこっちの御母上どの。

 

 ま、娘が高校生になってから初めて紹介された友人だし、お世辞もあるか……いやないな。万国共通で私の美しさは限界突破してるし。

 

「それにしてもお母様、お若いですねぇ」

「そう? 若作りしてるだけだって」

「若作りして実際に若く見えるなら、それは若いんですよ。黒木さんも偶にはおめかししてみませんか?」

「あ……う、うん。あ、あの、葵ちゃん…」

「なんですか? 黒木さん」

「その……う、ううん。なんでもない」

「そうですか。では戻りましょう」

 

 そんな縋るような目で見るなよう。わかってるって、智子ちゃん呼びから黒木さんに戻したのが気になってるんでしょ? 残念、お母様がいらしたから下の名前で呼んでいただけですよ。

 

 別に嫌いとかじゃないよ? でも焦らされてもにょる君の顔が可愛いから、ずっと黒木さんて呼んでるだけ。もう少しだけ仲良くなったら、ね?

 

 さて、もこっちの母君はお帰りになった。この家の主には挨拶もしたし、後は出かけているらしいきーちゃんとやらを待つだけだ。記憶を読む限りではうっちーの妹かと思うくらい似ている少女だったかな。のっぺりした顔がいかにも日本人らしいと言えばいいだろうか。

 

「ただいまー。お姉ちゃんいらっしゃい!」

「お邪魔してるねきーちゃん。あとこの子が私の友達の葵ちゃん」

「こんにちは、大谷葵です。仲良くしてくださいね」

「…? 希心、です…」

「はい、希心ちゃんですね。私のことは葵でいいですよ」

「う、うん…」

 

 はて……幼女には懐かれやすいし、少女には憧れられやすいのだが随分おかしな反応だな。私の満面の笑みに陥落しないのは流石におかしい。どれ、少し読んでみよう。このくらいの女の子だったら頭を撫でてもおかしくはあるまい。

 

 なでなで。しかしちょっと目が怖いというかなんというか。うっちーなんかは読まなくてもわかりやすい子なんだけど、似ているようで内面は全然違いそう。

 

「…」(お姉ちゃんにこんな可愛い友達ができるわけないよね? なにか企んでるのかな……私が護らなきゃ)

「きーちゃん? どうしたの?」

「ううん、なんでもない。部屋に行こう、お姉ちゃん」

 

 なんでやねん。もこっちの弟や妹は、彼女を可哀そうなモノ扱いしなければならない縛りでもあるのか? この私をそんな目で見るのは弟君と君くらいだぞおい。

 

 相対的にもこっちを大事に思ってるってことなんだろうけどさ……しかし敵認定されるのはよろしくないな。これでも彼女を大事にすることにかけては世界有数の筈だよ? まあ絶対数がそんなに居ないだけだけど。

 

「希心ちゃんは何年生なんですか?」

「…中学二年生です」

「おお、思春期真っただ中ですね。でも黒木さんみたいに、黒い服に身を包んでビルの屋上で遊んだりしちゃダメですよ」

「な、なななんで知ってるの!?」

「ゆうちゃんが言ってましたけど」

「ううぅ…」

 

 ま、希心ちゃんの態度は置いておくとしても私をダシにしようとした報いは程々に受けてもらわねば。黒歴史を暴くことにかけては私以上の存在はいまい。

 

 知っている理由はだいたいゆうちゃんのせいにしておこうっと。彼女も天然だし、もこっちに問い詰められても『そういえば喋ったっけ?』くらいにしか感じないだろう。ふははは、悶えるがよい。

 

 ――と思ったけど、よく考えたら希心ちゃんに暴露してもあんまり意味ない気もするな。彼女のもこっちに対する気持ちは母性に近いものがある。

 

 『私がこの可哀そうなお姉ちゃんをなんとかしなきゃ』だ。あとは『お姉ちゃんは可愛いのに、他の人は見る目が無い』とも思ってるね。ということはもこっちが残念少女だということを理解しているということだし、黒歴史を公開してもさして思うことはないのかもしれない。

 

 ま、もこっちが悶える姿を見れただけでもいいか。可愛いのう、可愛いのう。思わず抱きしめたくなるな。

 

「…」

「…ん? どうしたんですか希心ちゃん」

「ううん。そうだ、お姉ちゃんの服を用意してたの。見てもらっていい? 葵お姉ちゃん」

「え? ええ、いいですよ」

 

 うん? なんか急にフレンドリーになったな。別に何もしてないのに。あ、行っちゃった……すぐ読めば理由もわかるんだけど、時間を置くと探るの難しいんだよね。読みたい記憶を選別する時は、基本的にこっちがそれに関するキーワードを喋りかけて刺激しなきゃいけないからなぁ。初対面の子にいきなり『なんで急にフレンドリーになったの?』とは聞きにくいし。

 

 べったり長時間引っ付いてれば読めないこともないけど、そうすると私が強く影響受けちゃうし。この子の場合だと、読み過ぎるともこっちを好きになり過ぎてしまうかもしれない。一度猫を読みすぎてひどい目にあったのだ。あれはまさに黒歴史であった。

 

「はい。着替えてお姉ちゃん」

「え……いや、高かったんじゃないのこれ? なんで?」

「お姉ちゃんにおしゃれして欲しかったの。着てみて」

「いや、お姉ちゃんおしゃれだけど…」

「うん知ってる。でも着てみて」

「う、うん…」

 

 ぶふっ! 立場逆転してるじゃねーか。しかも肩口フリルのゴスロリ風味。に、似合わねー……あっはっは! やばい、めっちゃ可愛くない! 希心ちゃんには似合いそうなのがなんともいえんな。私には……うん、似合わないな。もこっちを笑うべきか、希心ちゃんのセンスを笑うべきか。

 

「わー、可愛い。髪型もいじっていい?」

「え…」

 

 ケ、ケモ耳ヘアー! 腹が痛くなりそうだからやめてくれないかね。痛々しい……うん、なんか笑いを通り越して哀れになってきた。項垂れているもこっちは可愛いが、テンション下がりっぱなしだと楽しくない。これでも友達だからね!

 

 どれ、可愛くしたいというなら私がプロデュースしてやろう。光栄に思ってくれよ? 私のお洒落スキルは徹頭徹尾、私のためだけに鍛えたんだからな。自分以外を可愛くするとすれば妹くらいのものだ。

 

「希心ちゃん。人には似合うものと似合わないものがあります。そしてこれは間違いなく後者です。黒木さんが可愛くないと言っているわけではありませんよ? ただ似合わないものを無理やり纏えば元よりひどくなります。それにどうせなら思いっきりやっちゃいましょう。お風呂借りていいですか?」

「うん! 葵お姉ちゃん!」

「いやちょっと待って、私の意見は…」

 

 無視。素材はいいんだ。まず剥いて洗って、ついでにムダ毛も処理しよう。だいたい夏だというのにその脇の甘さはなんだ。女の子として間違っているぞ。

 眉毛も整えて、ついでに整体もしてやろうではないか。こと美容に関するスキルでは、理髪からネイル、ヨガまで一流(自称)だぞ私は。なんせ物心は最初から付いていたからな。有り余る時間の結構な部分を自分磨きに使えたわけだし。

 

「ぎゃー!」

「ほらじっとして。というか髪の毛ギシギシじゃないですか。さては二日くらいお風呂入ってないでしょう」

 

 キャッキャウフフ? いいえ、飼い犬のシャンプーです。私は脱いでないし。旅行用にミニボトルに詰めてきた高級トリートメントを駆使し、ボサボサの頭を綺麗にしていく。いらない毛は全部剃ってー……下も剃っていい? あ、駄目ですか。眉も整えて、ついでにツボマッサージでもしておこう。血行の乱れは姿勢の乱れ!

 

 ん? 逆か。でも人の印象って結構姿勢で決まるからな。堂々としてれば舐められることもない。私が美しいのも、いつだってしゃんとしているからさ。

 

「あだだだだだ!」

「我慢です我慢」

 

 バロ・スペシャル! あ、間違えた。まあ柔軟体操がわりにはなっただろう。髪も梳いたし、ボリュームは減ったが艶やかで美しくなった。ところどころ跳ねていた枝毛もなくなり、仕上げにうちの妹のお洒落な服を着せれば美少女の出来上がりっと。

 

「なんで妹の服持ってきてるの!?」

「たまたま神隠しにでもあって、私のところに飛ばされてきたら必要かもしれないじゃないですか」

「こえーよ!」

 

 ほら、なんせ私は神に近い存在だから。でも妹の服を使わせてあげるなんて超特別待遇だよ? 喜ぶがいい。サイズもぴったり――胸がスカスカだけど、まあそれ以外はぴったりだ。なに、貧乳はステータスって言葉も既に一般的になって久しいさ。気に病むことはない。

 

「わー! お姉ちゃんかわいい!」

「そ、そう?」

「…ふぅ」

 

 …ふぅ。おっと、別にいやらしいことは考えてなかったよ。ほら、女同士だしね。ご馳走様でした。いやー、それにしても可愛くなったもんだ。

 

 クマはファンデでできるだけ消したし、ピシっとしてれば文句なしの美少女だ。私の横に立てば相対的にただの少女になってしまうけど、普通に考えれば美少女だろう。ちょっとキスしてもいいですか?

 

「希心ちゃん、姿見ありますか?」

「うん、玄関の方にあるよー」

 

 ほれもこっち、生まれ変わった自分の姿を見るがよい。今ならガチでリア充っぽいぞ。2クラスに一人いるかいないかのレベルだ。このまま学校に行けば『あれ誰? ウソ、黒木さん!?』とか漫画みたいなことになるかもしれんな。きっと岡田ちゃんとかにやにやしながら近づいてくるよ。

 

「お、おお…!」

「いい感じでしょう? あ、まだちょっと枝毛が……少しじっとしてください」

「あ、ありがと…」(この美少女だれ!? え、私? あのメガネ女は勿論として、もしかしてゆうちゃんよりも可愛いんじゃないか…? いや、下手をすれば葵ちゃんすら凌駕している…!)

 

 してねーよ。調子に乗るの早いなおい!? 所詮見てくれだけだよ? 内面が伴わないと私みたいな美少女とは言えないんだ! ええい、やはり自分以外を着飾るべきではなかったか!

 

「お姉ちゃん、葵お姉ちゃん。お散歩いこ」

「お散歩ですか?」

「うん。人がいっぱいいるところ」

 

 急に何を……ああ、お披露目したいのか。ペット自慢的な? 何気にこの子ちょっと怖いな。成長したら小悪魔的な感じになりそうだ。ま、お洒落というのは人に見せてこそだから別にいいけどさ。

 

 もこっちもちょっと乗り気なのがちょいと癪に障るが、まあいいだろう。どうせナンパされるとしたら私目当てばかりさ。格の違いを見せ付けてやろうではないか。

 

 さて、そこそこ歩いてやってきたのは人通りの多い駅前。ナンパ待ちっぽい女とチャラい男がチラホラ見えるスポットだ。希心ちゃん、正直ちょっとどうかと思うぞ。

 

「ここだよー。お姉ちゃんはここで待っててね。葵お姉ちゃんはこっち」

「へ? いや私も…」

「こっち。ね? お姉ちゃんはじっとしててね」

「ちょ、まっ…」

 

 いや待てこら……ぬう、有無を言わさぬ無言の圧だ。将来大物になるなこやつ。というか完全に怪しいスポットじゃまいか。こんなところにもこっち一人で置いておくとどうなるか知れたもんじゃない。

 

 …けどちょっと面白そうだし、ここはきーちゃんに乗ってみるか。引っ張ってくる手から読んだ限り、近くで様子見るみたいだし。私がいたらもこっちに声がかからないと判断しているあたり、中々に冷徹っ…!

 

「希心ちゃん? こういうのは感心しませんよ。黒木さんは玩具じゃないんですから」

「うん。でもお姉ちゃんだから」

 

 いや答えになってないんですが。ナチュラルにこえーよきーちゃん。壁から半分だけ姿を覗かせてもこっちを監視する様子は、さながらお受験中の子供を見守る母親だ。もしくはトリマーさんにお世話してもらったペットを見る飼い主のようだ。うん、後者の方がしっくりくるな。

 

「声かけられませんね」

「うん…」

「まあ下手をすれば小学生に見えないこともないですから。世の男どもも児ポには敏感になってるのかもしれません」

「じぽ?」

「いえ、なんでもないです」

 

 中学生相手に何を言ってるんだ私は。いやでもこの子もこの子で中学生らしさというものがあんまりないからな。もこっち、弟君、きーちゃん……ふむ、この血筋はなにかしら変な気がする。

 

 母君はさしておかしいところもなかったけど、父方の家系がなんか変な遺伝子でも持ってるのかな。

 

「それにしても希心ちゃんは黒木さんのことが好きなんですねえ。用意してた服だってお小遣いじゃきつかったんじゃないですか?」

「うん。葵お姉ちゃんもお姉ちゃんのこと好きだよね?」

「へ? あ、いや……その、まぁ、お友達ですから」

「お姉ちゃん見てる時、ずっと笑ってるから」

「え、あ、そ、そうですか?」

「うん。目も優しいよ?」

「あ、あぅ…」

 

 な、なんで中学生如きにやり込められてるんだ。というか見透かされてるんだ。心を読めるのなんて私だけでいいんだよ……怖いからやめてくれ。やるのは好きだが、やられるのは嫌いなんだ。常に優位に立ちたいこの乙女心、わかっていただきたい。

 

「あ!」

「えっ。あ……声かけられましたね。男の人は――リュックサック、眼鏡、ぽっちゃり、短パン、バンダナ。数え役満です」

「どうしよう、お姉ちゃんが襲われちゃう」

「私が言うのもなんですが、偏見が酷すぎますよ希心ちゃん」

 

 むしろオタクの皮を被ったなにかとしか思えんぞ。今時あんなオタクがいてたまるか。だいたいオタクは女の子に声なんかかけないさ。え? その方が偏見だって? 気にするない。

 

「あ、離れていきましたよ」

「ちゃんと断れたんだ。偉いねお姉ちゃん」

「お、おおう…」

 

 なんてナチュラルに見下しているんだ。流石の私でもそこまでじゃないよ。この子の中学生活が気になるところである。

 

 クラスメイトとまともにコミュニケーションとれてるんだろうか? 気になるけど読むのが怖い……こんな気持ち初めて。はっ、これが恋…? いや、恐怖だな。ゆうちゃんとかとはまた違う天然の怖さ。

 

「もういいかな」

「いいんじゃないですか? というかまず何がしたかったんですか」

「みんなにお姉ちゃんの可愛さを見て欲しかったの」

「そんなペットじゃあるまいし…」

 

 私がこんなことされたら切れる自信がある。まあもこっちだし別にいいけど。しかし結構なナンパスポットみたいだし、もう少し声をかけられてもおかしくはないと思うんだけどなぁ……うーん、見る目がない男どもだなまったく。

 

 特にずっとうろうろしてるチャラ男、なに歯牙にもかけない感じだしてんだ。言っとくが今のもこっちは貴様などよりレベル高いぞ。

 

「すいません黒木さん、お待たせしまし――」

「ねえねえ彼女、今ヒマ? よかったら遊び行かない?」

「申し訳ありません、寝言は永眠してから言ってもらえますか」

「なっ…!?」

 

 はっ、しまった。つい本音を出してしまった。唐突にこんな美少女が現れたら必然の行動だったというのに、すまんなチャラ男。だがどう考えても釣り合ってないから、どっちにしても烏滸がましいぞ。わきまえなさい。

 

「お高くとまってんじゃねーぞブス!」

「なっ…!? 黒木さんのどこがブスですか! 私だって怒る時はありますよ!」

「なんで私!?」

 

 え、だって世界がひっくり返ったとしても私がブスなわけはないから……じゃあきーちゃんのことか! この勘違い男め! もこっちに声をかけなかったのはもっと小さい子が好きだったからか? 変態め。

 

「行きましょう黒木さん、希心ちゃん。不愉快です。友達を貶められて笑っていられる性格でもないですから……このままじゃ殴りかかってしまいそうです」

「意地でも自分とは認めない、その強さに憧れすら抱きそうだよ…」

「葵お姉ちゃんカッコいい!」

 

 男の顔が『なんか変な奴に声をかけてしまった』みたいな感じになってる……はて、確かにもこっちときーちゃんは変なやつだが、そんなに察しのいいやつには見えないのにな。いや待てよ、そこに気付いていたから声をかけなかったのか。悪いことをしてしまったなぁ。

 

「ところで二人共どこ行ってたの?」

「え? あ、いえその…」

 

 君を見張ってました……とは流石に言えんな。えーっと、どう誤魔化すか。といっても、もこっちだってぶっちゃけだいたい気付いているような気もするけど。

 

 あんな露骨なやり方で気付くなという方が難しいだろう。そこで怒らずに内心で毒づくのが彼女が彼女たる由縁である。

 

 というかきーちゃんはどう誤魔化すつもりなんだろう。私は誤魔化すのが得意だからどうとでも言えるけど、ここはお手並み拝見といこうじゃないか。

 

「えっと、葵お姉ちゃんが二人でいいところに行こうって…」

「ぶっ!? ちょ、まっ…!」

「じ、児ポぉーー!?」

 

 ちょ、おま、なんてこというんだ! 人をダシにして誤魔化すのは私の十八番なのに…! くっ……だが所詮は中学生のお子ちゃまよ。そういう冗談を言うってことは、そうされてもいいってことだぞ。覚悟はいいか? 私はできてる。

 

「もう、言っちゃダメですよ。二人だけの秘密だって言ったでしょう? お仕置きです」

「ひゃ、え…!?」

 

 見よ、壁ドンからの顎クイコンボ。はっはっは、顔真っ赤にしちゃって初心よのう。私が上で、貴様が下だ。亀の甲より年の劫とは言ったもんだ。人をからかうことに関しては誰にも譲りはせんぞ。

 

「さて、冗談はこのへんにして帰りましょうか。今日はお祭りもあるみたいですし、浴衣姿もきっちりお洒落しましょうね」

「あ……う、うん。冗談だよね、うん」

「なんで口元から涎を垂らしてるんですか…」

 

 友達と従妹が百合シーンを繰り広げそうになっているのに、それを興奮しながら見守るもこっち。控えめにいっても変態である。君の性癖はどこまでも天元突破しているんですね。だがそれがいい。

 

 ま、それはともかく祭りだ祭りだ。屋台の焼きそば、美味しくはないけど大好きなんだよね。田舎だし、エロ漫画よろしくカップルの盛り場もあるかもしれん。楽しみだなー

 




きーちゃんて目が怖い。見た目うっちーっぽいのにね。特に八尺様仕返し前の晩、目を見開きながら布団に入ってたとこは軽いホラー。

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