「無理を承知でお願いします。私を、ここに置いてはくださいませんか...?」
何で私は、見ず知らずの彼にいきなりこんな事を言っているのだろう? 優しくされたから? ご飯をご馳走してくれたから? ...ううん。違う。そんな事は、今までにもあった。優しくされた事だってあるし、ご飯をご馳走してくれた事もある。じゃあ、何で?
私が、ドラゴンである事を打ち明けた瞬間、人間は私を殺そうとする。
じゃあ、彼は?
これは賭けだ。私が、これからも人間を信じ続けるか。それとも、人間を殺しに行くか。元の私に戻るかの賭け。何と身勝手な事か。いや、そうとも限らないか。私がドラゴンである事を知った瞬間、彼は私を殺そうとする。私は、それに対抗して彼を殺すだけだ。正当防衛だ。しかし、私をベッドで寝かせてくれて、食事までご馳走してくれた彼を殺すのは、心苦しい。
さぁ、あなたはどっち? 殺す? 殺さない?
「...えっと...頭イタイ子なのかな? ドラゴンとか結構ワロスなんだけど...」
まさかの三択目。笑われた。
「なっ、笑いますか!? ドラゴンであるこの私を愚弄すると言うのですか!?」
「いやだって...ぷっくく...助けた女の子がまさかドラゴン系中二病とか...どこのラノベだよ...くくっ」
...???? 意味が分からない。だって、人間は、例えそれが嘘だったとしても、相手がドラゴンだと言えば、すぐさま殺そうとするのに。何故彼は私がドラゴンだって事を笑う? 彼はドラゴンが怖くないのか?
「このご時世ドラゴン系中二病は流行んないよ。だってドラゴンとか居ないし。...居たら良いんだけどなぁ...」
居たら...良い!? どういう事なんだ? 彼の頭が狂っているのか...まさか...ここって...!!!
「...すみません、ここって...?」
「ここ? そっか、ドラゴンって大抵外国だもんな。ふふ、ではこの私が、伝説のドラゴン殿に教えてしんぜよう。ここは、龍の住まう国、日本だ!!」
ニッポン...? ニッポンって...いや、無かったはずだ。"私の知ってる世界ではニッポンなんて国は無かった"
つまり、ここは...
「...やってしまったぁ...」
「え? どうした? 来る国間違った?」
そうだ。思い出した。私は..."時空の裂け目"に飛び込んでしまったんだ。だれが、作ったのかも分からない、時空の裂け目に。命からがら逃げ込んだ先が、まさか別の世界だったなんて。
おかしいと思った。この家の内装も見た事ない物ばかりだし、あの四角い物体とか何なんだ。そして、ドラゴン相手にこの様子。ましてや笑ってきやがった。
「えっと...その...じゃあ証拠見せますね」
「お? まじで? 火とか吹くの?」
「いえ、私は雷と光のドラゴンなんで...雷出しますね」
「うおぉー!! まじかキタコレ!」
そう言って彼は、何に使うのか分からない不思議な薄平べったい物を出して構えた。...武器には見えないし、魔力も感じらない。大丈夫だろう。
私は、手の平を天井に向けて呪文を唱える。
「レクレール」
そう言うと、手の平からバチっと白い雷が現れる。それは徐々に大きくなり、手の平の上には超高密度の電球が出現した。
「...え? え? 嘘、まじで? これ...嘘!?」
凄く同様している。恐らく信じて無かったのだろう。この世界は、魔力も魔獣もいないのだろうし。
「...ドラゴンにも変身できますけど、ここじゃ狭いですね...」
「うっそ...まじでドラゴンなの...!?」
えぇ。まじでドラゴンです。
「...あっ!! もうこんな時間かよ!? まずい...」
彼はそう言うと、急いで着替え始める。...何となく気恥ずかしくて後ろを向く。
「あぁまずい!! 間に合わない...ねぇ!!」
「はい?」
「転送魔法とか無いの!? なんかこう...ビュバーっと思い通りのところへ行けるやつ!!」
「一応ありますけど...じゃあ行きたいところを思い浮かべてください」
「...いきなり現れたらやばいし、トイレで良いか。おっけー!!」
「では...テレポーテーション」
そう呟くと、彼の姿は白い粒子へと変換され、後には何も残らなかった。
...え!? 私一人!?
gdgdになってきた...