現在、俺とカミトは、魔女から支給された制服に袖を通し、揺れるポニーテールの後を追っていた。
制服は、魔女が用意した特注品。
「教師棟と学生棟は二階の廊下で繋がっている。食堂は一階だ」
校舎を案内してくれてるのは、エリス・ファーレンガルト。
何でも、アレイシア精霊学院の騎士団長だとか。てことは、強いのか?
『カケルの方が強いわ。てゆうか、この学院ではほぼトップじゃないかしら』
「(そうなのか?そんな実感はないが?)」
ちなみに、イレイナは
いやね、ほとぼりが冷めない内の顕現はマズイと思ったからね。イレイナは、『ぶーぶー』と頬を膨らませてたけど。
『私を7割使いこなせるんだから、カケルの方が強いわよ』
まあそうかもしれない。イレイナ・アッシュフォードは氷結最強の精霊だ。
7割使いこなせていれば結構強いかもしれん。
「(……つっても、俺はイレイナを完全には使いこなせてないんだ。……まだまだ未熟ってことだよ)」
『だけどカケルは、歴代の誰よりも使いこなすのが早いわよ。自信を持ちなさい。あとね、私とあなたはどこまでも一緒よ』
「(お、おう。サンキューな)」
どこまでもってどういう意味ですかね?イレイナさんや?
そんな時、騎士団長が足を止める。
「君たち、聞いているのか?君たちの為に説明してるんだぞ」
騎士団長は険しい顔をしながら、腰に手を当てそう言った。
「……ああ、悪い。ちょっと考え事をしてたんだ」
カミトがそう言った。おそらくカミトの考え事は、
つーか、剣を振り回すな。カミトは全部避けてるけど。
「む、君もだぞ」
ま、俺もこうなるよな。
んじゃ――、
「
俺は氷の壁を展開させ、ファーレンガルトが振り下ろす剣を弾く。
氷の障壁に剣が弾かれ、目を丸くするファーレンガルト。
「なっ!精霊魔術!?」
「まあそんなとこだ。次は、剣を凍らせるぞ」
俺は内心で、はぁー。と盛大に溜息を吐く。
おそらく、男に免疫がないのだろう。精霊と交感できるのは清らかな乙女だけ。その乙女たちは、清らかさを保つため、幼い頃から男を徹底的に遠ざけた環境で教育される。つまり、超がつく箱入りお姫様。という事だ。
「い、いいか、勘違いするな!私は決して君たちを認めた訳ではないからなっ。学院長のご命令だから、仕方なく君たちを案内しているだからな!」
踵を返すと、ファーレンガルトはすたすたと歩き出してしまった。
「まったく、なぜ学院長はこんな男共を編入させたのか……」
カミトが生活する場所を聞いたら、ファーレンガルトが窓から指を差す。
その先にあったのは、馬小屋の隣にあるオンボロの小屋だ。ちょっとの風で吹き飛ばされそう。てか、風呂、トイレも馬と共有らしい。
カミトは口論をしていたが、
「(まあ俺は十分だ。風呂はイレイナの清めの水があるしな。……俺の感覚は麻痺してるのか?あんなので大丈夫って思えるなんてな)」
『そうかもしれないわ。私たち、いつもと言っていいほど野宿だったし』
「(だよなぁ……)」
がっくりと肩を落とす俺。
ちなみに、イレイナもこっちの世界で野宿をしてた。何故かわからんけど。
「宿舎のことはひとまずは置いておこう。で、オレたちの教室はどこなんだ?」
カミトがファーレンガルトに聞く。
「君たちの教室は、優秀な問題児たちが集められたレイブン教室だ。君たちにお似合いの教室だな」
「「優秀な問題児?」」
「言葉通りの意味だ。……君は、なぜ苦い顔をする?」
どうやら、カミトには問題児に思う節があるらしい。
ファーレンガルトもレイブン教室じゃね。校内で剣を振り回す奴は、問題児以外の何者でもないと思うが。
「てことは、ファーレンガルトもレイブン教室か?」
顔を真っ赤にするファーレンガルト。だから何で?
「なんでそうなるっ、私は最優のヴィーゼル教室だっ!」
アレイシア精霊学院の教室は、各階ごとに離れて配置してるらしい。教室同士が近いと、決闘騒ぎになるとか。
「だが、学院に通う学院生は、全員が名のある貴族の娘だからな。規則では学院内での私闘を禁じているが、日頃から決闘沙汰は絶えない」
嘆息しながら、ファーレンガルトは拳を強く握りしめた。
「それを仲裁して平穏な学院を守るのが、私たち風王騎士団の仕事なんだ」
そう言ったファーレンガルトの顔は真剣だった。彼女は、騎士団の仕事にプライドを持っているのだろう。
存在するだけで学院に波乱を呼びかねない、男の精霊使い。なので、風紀を守る騎士団長の立場で、認められるはずがない。
「(……なるほどなぁ。根は真っ直ぐでいい
何はともあれ、騎士団長の案内を聞く、俺とカミトであった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
講堂のような教室を覗くと、中には誰もいなかった。おそらく。全員外に出払ってる時間帯で、外で実技の訓練をしてるのかもしれない。
ファーレンガルトは案内を終えると、すぐさま立ち去ってしまった。てか、カミト。火猫少女に絡まれてるけど。お前何かしたの?
「よ、よ、よくも逃げてくれたわねっ。わ、わたしの契約精霊なくせに!」
「く、クレアちゃん。編入生の首を締めあげるのはよくないよ」
俺は、セミロングの黒髪をした少女に見覚えがある。
てか、今朝の女の子だし。
「ユーナか?」
俺を見て、目を丸くするユーナ。
「か、カケル君。ど、どうしてここに?」
「いや、俺はレイブン教室だからだけど」
「そ、そうなんだ。よろしく」
「よろしくな。ユーナがレイブン教室とか意外だな。真面目そうなのに」
ユーナの顔が真っ赤になる。何でも、些細な揉め事を起こした時に、
……人は見かけによらないっていうけど、ホントなのかもしれん。
「カケル君は、
「まあ一応そのつもり。なんか、面白そうだし」
面白そうだけの理由で
つーか、カミト。お前は火猫お姫様を弄りすぎだ。てか、壁ドンはないだろ。壁ドンは。顎も持ちあげてるし。この光景を見て、ユーナの顔が真っ赤だし。
今はともかく、この場を収めるのが先決だ。ということなので――、
「おーい、カミト。後ろ後ろ」
カミトが振り向くと、そこには穏やかな笑みを浮かべた女性が立っている。
年齢は20代半ば程。伸ばした黒髪に、黒縁の眼鏡をかけている。
ダークグレーのスーツの上に羽織っているのは、裾の長い白衣だ。
「神聖なるアレイシア精霊学院の学舎で、何をしてるのかな君は、ん?」
貼り付いたような笑みを浮かべたまま、その女性は名乗る。
「私は、レイブン教室担当のフレイヤ・グランドル。君たちのことは学院長から聞いているよ。学院始まって以来、初の男の精霊使い」
だが、目は笑っていなかった。
「で、なにうちのお姫様を泣かしてるんだ、テメェは?」
俺は内心で溜息を吐く。
「(……はあ、この学院は退屈しなそうだわ)」
『つまらないよりはいいじゃない♪』
おい、人ごとだな。イレイナさんや。
まあいいか。何かなる。と思う俺だった。
原作一巻は書ききりたい。
も、文字数は2500字位かなぁ。