教壇に上がると、俺たちに視線が集中する。男の精霊使いが編入してくる、という噂は既に広まっていて、滅多に触れ合う機会のない同年代の俺たちに、不安と好奇心が隠せないらしい。動物園のパンダになった気分だわ……。
「あれが男の精霊使い……」
「目つきが悪いわ。人を殺してそう」
「てゆうか、あの子は女の子に見えるのは気のせいかしら?」
……後半一人、俺の心を抉らないでくれ。
俺は列記とした男だからね。てか、女装した時の事を思い出すじゃんかよ……。
『また女装する?』
「(しないわっ!あの時は緊急時で、仕方なくだ!)」
『そ。可愛いと思うんだけど』
「(男に可愛い言うな!アホ精霊!)」
『むっ。学院に秘蔵写真バラまいちゃおうかしら』
「(……それだけはやめてくれ。いや、やめてください)」
『ん、よろしい』
どうやら、回避する事ができたらしい。マジ助かった。
回りを見回すと、生徒の数は14、5人程度。全員が育ちのいいお姫様だ。興味津々な視線を向ける人もいれば、本気で怯えてる人もいた。
男の精霊使いで真っ先に思い浮かべるのは、かつて大陸に破壊と混沌を齎した男の精霊使い。魔王の名前なのだ。こうなるのも致し方ない。
「あー、さえずるな。静かにしろ。単位減らすぞ」
フレイヤ・グランドルが名簿で机を叩くと、教室がしんと静まり返った。
「ほら、お前らもとっとと自己紹介しろ」
眼鏡をかけた理知的な容姿の美女だが、口を開けばこんな感じである。
「カゼハヤ・カミト、16歳。見ての通り男の精霊使いなんだが……その、あんまり怖がらずに仲良くしてくれるとありがたい」
「えー、アマヤ・カケル、16歳。同じく男の精霊使い。よろしく」
かなりシンプルな自己紹介である。
てか、語る事なんてないし。
「なんか、ふつーだね」
「うん、ふつー。あんまり魔王っぽくないし」
なんつーか、もっと怖がられると思ったんだが、そんな事はなかったらしい。
まあその方がありがたいけど。
「あ、あの、質問いいですか」
と、1人の女の子が手を挙げる。
「う、うん、なんだ?」
「ん、なに?」
「え、えーっと、す、好きな食べ物は、なんですか?」
この質問。お見合いで話題がなくなった時にするもんだよな。
見合いなんかした事ないけど。
「え?まあ、何でも……強いて言えば、グラタンかな」
「俺は、シチューでいいわ。何でも食えるし」
さて、お姫様の反応は――、
「ふつーよ!」
「ふつーだわ!」
「女盛りとか答えると思ったのに!」
「可愛い!」
その女の子を皮切りに、つぎつぎと質問が浴びせられた。
「故郷はどこなの?」
「お、お風呂ではどこから洗うの?」
「スリーサイズは?」
いやいや、質問してる方が顔を赤くするってどうよ?
てか、ほぼセクハラ発言だぞ。
「チームはもう決まっているの?」
「「チーム?」」
「決まっているでしょ、今度の
え、嘘だろ。個人じゃなかったの?チーム戦とか聞いてないわ。てか、魔女から聞くのを忘れただけなんだけどね。
参加するにしても、マジでどうすっか……。
『1人は、ユーナでいいじゃないかしら』
「(そだな。それ採用で。つっても、チームが決まってたら勧誘もできないし。……前途多難だ)」
まあ何とかなるだろう。カミトもいるし。
「カケル……君。でいいのかな。氷結最強の精霊と契約してるって聞いたんだけど……本当?」
情報早いな。流石、噂話が大好きな女子って所か。
「ん、まあ一応。完璧に使いこなせてはいないんだけどね」
「じゃあじゃあ、人型の高位精霊なんでしょ!?」
「ま、まあそうだけど」
え、何。見てみたい。的な視線は。
俺が担任先生に目を向けると、コクリと頷いた。顕現してもいいって事だ。
という事なので、俺は左腕を挙げ、精霊刻印が蒼く発光すると、イレイナがアレイシア精霊学院の制服を着て俺の隣に顕現する。
ちなみに、イレイナの制服は予備にあったものらしい。
「えーと、カケルの契約精霊。イレイナ・アッシュフォード。よろしくね♪」
きゃーー。と凄まじい歓声。
まあでも、先生の一言で静まったけど。
「カミト君は、あの誰も契約出来なかった、剣の封印精霊を手懐けたって、本当?」
「ええ、そうよ。そしてその精霊を手懐けたカミトを手懐けているのがわたし!」
声に反応して立ち上がったのは、先程の火猫の少女だ。それを聞き、お姫様たちは色めき立った。
「カミト君とクレアってどんな関係なの?」
「ご主人様と奴隷精霊の関係よ!」
「そんなわけあるか!っていうかお前が答えるな!」
「なによ、生意気な奴隷精霊ね」
「誰が、いつ、お前の奴隷になった!」
二人のやりとりを見て、ますます興奮する少女たち。収拾がつかなくなってきた所で、先生がバンッと机を叩いた。静まり返る教室。
「お前らいい加減にしろ。お前らも、とっとと好きな席に座れ」
「は、はい!」
「了解」
「はーい」
カミトは一番後ろの席を目指して歩き出すが、首に鞭が巻き付いた。そして、クレアと呼ばれた少女の方へと引き戻される。
「カミト、死ぬなよ」
「頑張って、カミト君」
と言ってから、俺は見知った少女の隣に座る。
カミトが助けを求めたが……まあ頑張れ。
「よ、ユーナ」
「ユーナちゃん、よろしく~」
「よ、よろしく。カケル君、イレイナさん」
オドオドと答えるユーナ。
人型精霊を見たのは初めてだと思うし、仕方ないだろう。
「そ、そういえば、カケル君とイレイナさんの宿舎はどこなの?」
「ん、俺たちか?」
「馬小屋だよー」
「の近くの場所な。まあ、宿舎もほぼ馬小屋に近いけど」
え、本当に?と言いたい表情で目を丸くするユーナ。
いや、マジです。てか、馬小屋でも問題ない俺だけど。
「じゃ、じゃあ、時間が空いたら遊びに行っていいかな?」
顔を赤くして答えるユーナ。何でそこで赤くなるの。と思ったが、ユーナも箱入りお姫様なのだ。こうなるのも仕方ない。
「いいけど」
「カモンカモンだよ。ユーナちゃん」
「そ、そっか。何か作ってくね」
どうやら、今日は飯を作らなくてよさそうだ。てか、カミト。既にかなりの女子に囲まれてるとか、何処ぞのラノベの主人公だな。
とまあ、アレイシア精霊学院での一日が始まったのだった。
次回も頑張っぺ!