あれから数時間後、俺とカミト、イレイナは学院の中庭を歩いている。
他の学院生はともかく、俺たちは講義を受ける予定がない。編入したばかりなので、カリキュラムができていないのだ。
取り敢えず、俺たちは用意された宿舎の前に到着し、軋んだドアを開けて内部に入って行く。
「ちゃんとしてるんだな」
「私たちにとっては、かなりの宿だね」
まあ確かに、俺とイレイナがちゃんとした屋根の下で眠れるのは、約数週間ぶりである。
その間は、洞窟で雨を凌いで休んだりとか、ほぼ壊れかけた小屋で休息したりとかだったのだ。それに比べ此処には、
「……カケルとイレイナさんは、どんな生活をしてたんだ」
カミトが藁のベットに座りながらそう聞いてくる。
俺とイレイナは椅子に座り、
「旅人生活」
「サバイバル生活かな」
カミトは顔を引き攣らせた。
「……そ、そうか。大変だったんだな」
「まあでも、それなりに楽しかったぞ」
「私も楽しかったなぁー。冒険してるみたいで」
まあ俺は、コイツと居られれば何処でも大丈夫って感じだ。
決して、恋愛っていう意味じゃないからな。固い絆って言えばいいのか、そんな感じだ。
――閑話休題。
まずは
「(それにしても、誰がレン・アッシュベルの名を騙ってるんだ?)」
レン・アッシュベルは、
そんな時、腹の虫の音が聞こえてきた。どうやら、カミトのらしい。
俺が聞いた話だと、《精霊の森》を彷徨っていた今朝から、何も食べてないらしい。学園には一応、学生が利用するレストランがあるが、その値段がかなり高い。スープ一杯で、俺が数週間食ってける賃金とか、マジか、的な感じだ。流石、お姫様学院と言った所だ。
まあいいや。俺も腹が減ってきた所だ。調理器具もある事だし、何か作るか。火種とかは、《精霊の森》で火属性の低位精霊を捕まえてくればいいし。
「カミト、イレイナ。精霊の森でキノコでも採りに行くか?兎とかも捕れそうだしな」
高位精霊のイレイナが着いているのだ。《精霊の森》で迷う事はないだろう。
「お、いいね。久しぶりのお肉だ♪」
「カケルの案に賛成だ。オレは、腹が減って仕方がない」
その時だった。何処からか旨そうな匂いが漂ってきたのだ。
匂いは、半開きになったドアの隙間から入り込んできてるようだ。カミトが立ち上がりドアを開けると、そこには白い湯気がたつ鍋が置いてあった。
たっぷりのタマネギと骨抜きの鶏肉が入った、旨そうなスープだ。
カミトが鍋に手を伸ばすが、ひょいと取り上げられる。もう一度手を伸ばすが、またしても取り上げられる。
「(鍋、結構重いのに頑張るなぁ)」
と、俺は身も蓋もない事を思っていたのだった。
「カゼハヤ・カミト。アマヤ・カケル。イレイナ・アッシュフォード。お腹は減っていないかしら?」
「俺はいいや。それはカミトに上げてやれ」
「私たちは、《精霊の森》で食材を捕ってくるね」
ということなので、《精霊の森》に行って食材を捕ってこよう。俺はそう思いながら椅子から立ち上がった。次いで、イレイナも立ち上がる。
「んじゃ、行きますか。イレイナさんや」
「OK。出発進行―」
とまあ、ドアから出て行く俺とイレイナ。
外に出るとそこには、プラチナブランドの髪をしたお姫様。たしか、……リンスレット・ローレンフロストだっけか?
『ちょ、待ちなさい』を背にして、歩き出す俺とイレイナ。
歩いていると、見知ったお姫様が目に入る。大き目のバスケットを持った、ユーナ・キャンベルだ。
「あ、カケル君。サンドイッチ作ってきたんだけど。食べる?」
あー、そうだった。今夜は飯を作らなくても大丈夫だったんだっけ。
「悪いな、頂くよ。腹減ってて」
「ユーナちゃん。私も私も」
そう言って、バスケットからサンドイッチを摂り、口の中に運ぶ俺とイレイナ。
かなり旨い。俺が旅をしてた時の非常食より旨い。……いや、当たり前だけどさ。でもまあ、市販のより旨いのは確かだ。イレイナも、俺と同じ感想だろう。まあ立ち食いになっちゃうけど。
――閑話休題。
三人分あるという事は、あと一つはカミトの分だ。ユーナと共に宿に戻ろうとしたのだが、その手前でクレア・ルージュと、リンスレット・ローレンフロストが対峙してた。
「……何やってんの。あの二人は」
「うーん、クレアちゃんとリンスレットさんは仲がいいんだけど。それがこんな形になっちゃうんだ」
「なるほどねぇ。二人の友情表現が、決闘的な感じに出てるということ?」
その通りだと思いますよ、イレイナさん。まあ、喧嘩する程仲がいいってことかな。つーか、精霊を召喚するな。
そう、リンスレットは契約精霊の
精霊の格としては、
「……かなり嫌な予感がするんだが」
まあそれは当たってしまい、火精霊の火の粉が飛んで、小屋に燃え移ったのだ。
んで、小屋は火に包まれていく。
『凍てつく氷牙よ、穿て――
リンスレットが
矢弾は無数の氷の欠片となって降り注ぎ、燃え盛る炎を一瞬で消化する。まあ、結果として
……うん、ちょっとイラッとした。……ちょっと脅しちゃうか。
「――氷結の全てを司る女帝よ。汝、我の矛になる為、我に力を与えた給え」
イレイナが発光し、俺の左手に綺麗な長剣が、そう、透き通るような氷の剣が握られていく。
「我は命ずる、汝、我を導き剣と成れ――
そして詠唱が完了すると、俺の左手に美しい氷の長剣が握られた。
最強を冠する氷結精霊。イレイナ・アッシュフォードの
まあ、かなり美しい氷結の長剣だしね。
「おーい、君たち。その辺で止めようか。俺も参加しちゃうよ」
俺の言葉で、ビクッと肩を震わせるクレアとリンスレット。
まあ、イレイナは最強の精霊だし、こうなるのも無理もない。
「まああれだ。精霊を
「「……はい」」
「よろしい」
そう言ってから、俺も
すると、俺の隣にイレイナが姿を現す。それとほぼ同時に、中庭の方から足音が聞こえてくる。
感想待ってます!
次回も頑張るぜ!