大陸に伝わる逸話。かつての八欲王、十三英雄のようにおぼろげに伝わっている感じか

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第1話

 魔導王アインズ・ウール・ゴウン。

 

 かの王が支配せし魔導国はまさに理想郷であった。種族を問わず、その庇護下にある者はみな慈悲深い統治を受け、大陸中からあらゆる種族の者が魔導王のもとに集まった。

 

 魔導国の建国から60余年、建国からその栄華はとどまることを知らなかった。

 

 ――――アインズ・ウール・ゴウンよ、永遠なれ――――

 

 魔導国の民は今日もまた慈悲深い統治者である魔導王を、そして数多の種族の理想郷である魔導国に対する感謝を胸に生きる。

 

 だが、輝かしい発展を遂げる裏で、一人の英雄の命が尽きんとしていた。

 

 英雄の名はモモン。

 

 かつて己の正義のために単身魔導王と対峙し、後にかの王と互いにその偉大さを認め合い、偉大なる支配者の剣として、そして力のない民の盾として魔導国の繁栄に尽力した男。

 

 偉大な統治者である魔導王と並び、魔導国の民より絶大な信頼を寄せられていた男の命はもはや風前の灯火であった。

 

 

 

 魔導国領、かつてはエ・ランテルと呼ばれた都市の中央に都市一番の屋敷がある。魔導王たるアインズ・ウール・ゴウンの名に恥じない立派な館であり、その門をくぐるものは畏敬の念を抱かざるを得ない。

 

 その館の一角に、魔導王の居室に勝るとも劣らぬ警備態勢が敷かれた部屋がある。外部からは蟻一匹侵入できず、不眠不休のアンデッドが警護している。

 

――――もっともその日に限ってはどんな護衛よりも頼もしい存在がその部屋を訪れていたのだが。

 

 「こうして顔を合わせるのは久しぶりだな、わが盟友モモンよ」

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王。その声色からは、為政者として日々多忙を極める中、生涯の友として認めた男との再会への喜びが感じられる。

 

 声をかけられた男――モモンは顔に喜色を浮かべながらベッドから体を起き上がらせようとするが、すぐに顔を歪めてバランスを崩してしまう。

 

 とっさに魔導王がモモンの体を支え、ゆっくりと横にならせる。

 

 「すまない、アインズ」

 

 力のない声でモモンは友と同じ目線に立つことのできない自分を責めるが、アインズは気にする素振りもなく、ベッドの横に椅子を作り出すと腰を掛けた。

 

 人は歳を取り、モモンもまた例外ではない。かつての英雄はいつからか剣を持つことを辞め、ついには自力でベッドから起き上がることも難しくなってしまっていた。

 

 「よいのだ、モモンよ。私はいつだってお前という存在に助けられてきた。だから今度は私がお前を助ける番だ」

 

 不死者であるアインズと人間であるモモン。互いを認め合い、どれほど心を通わせようとも、二人の間に存在する寿命という溝は埋めることができなかった。部屋にいる世話係―――まだ若い男―――が堪え切れず涙を流す。

 

 ひとしきりの歓談の中で、アインズがふとモモンに呼びかける。 

 

 「なぁ、モモンよ」

 

 「なんだ、アインズ」

 

 これは本来言ってはいけないことなのだ。誰もが想いながらも口に出すことはしなかった言葉。英雄として鮮烈に人生を駆け抜けた男に対して侮辱となり得る願い。だがふとした拍子に出てしまったのだ。久しぶりの再会で気が緩んでいたのかもしれない。零れ落ちるように出たその言葉は――

 

 「私と共に――――――」

 

 アインズは我に返り、続きを言うのを止めた。濁した言葉の先はこの場にいる全員が理解していた。大陸において比類なき魔法詠唱者(マジック・キャスター)である魔導王ならばあるいは、と期待するものいた。だが――

 

 モモンは穏やかな目をしていた。アインズを責めるわけでもなく、かといって何も感じていないわけではない。それは、自分の為すことをすべてやり切った者のする目であった。

 

 無双を誇った武を失ってなお、モモンの英雄としての輝きは少しも損なわれていない。アインズはその輝きを見せつけられ、これほどの人物を失ってしまうのはあまりに惜しいと、そんな思いを持つと同時に、だからこそ(・・・・・)何もしてやれることは無いことを理解していた。

 

 「そうだったな。力を失ってなお、お前は英雄であったか」

 

 友のそのような目を目にしてなお、無粋な言葉を継ぐことはアインズにはできなかった。英雄モモンは人として死ぬことを選んだのだ。

 

――――魔導国は平等である。そこに人も異形もありはしない。ただ純然たる事実として人は異形よりも早く死ぬ。そして英雄モモンは人として得た輝きをそのままに生涯を終えるのだ。

 

 「アインズ――――」

 

 モモンもまた同じ気持ちであった。叶うのならば、世界が滅ぶその日まで生きるであろう友の横に立っていたかった。だがそれは許されない。モモンの英雄としての矜持が、それ以上に人であることの誇りが、生にしがみつくことを拒否していた。だから、アインズの全てを見透かした宣言に心から安堵した。

 

 「私はアインズ・ウール・ゴウン。わが名において魔導国に永遠の繁栄を約束しよう」

 

 モモンとて遺していく友のことが心残りでないはずがない。だが、自分の心を存分に理解してくれる友の心遣いを嬉しく感じ、同時にアインズならば任せられると信じていた。二人の偉大な者は、お互いを認めているからこそ、余計な言葉を嫌った。

 

 二人のやりとりに周囲の者たちはみな滂沱した。二人の邪魔をしないために必死に嗚咽をこらえながらも、彼らはひそやかにつぶやいた。

 

 「アインズ様、モモン様・・・・・万歳。アインズ・ウール・ゴウンよ――――永遠なれ」

 

 

 モモンとアインズの再会の後、モモンは眠るように息を引き取った。彼の死は瞬く間に魔導国全域に広まり、民は悲しみに暮れた。

 

 英雄の死を悼んだ魔導王により、大々的に国葬を行うことになった。この時ばかりは各地に散らばっていた冒険者も可能な限り首都に帰還し、彼らの英雄を見送るためにはせ参じた。

 

 後に語られるは、英雄の死と創世。魔導王アインズによる永遠の約束。

 

――――モモン様万歳!魔導王万歳!アインズ・ウール・ゴウン万歳!――――

 

 人、亜人、異形のもの――――あらゆる者たちの、力の限りの唱和は世界の隅々まで響いていった。これより永劫に続く、アインズ・ウール・ゴウンの輝かしい未来を祈って――――

 

 

 

 

 

 

 魔王は止まらない。かつての仲間を求めるその意志だけが残り、もはや妄執となって彼を突き動かす。そこに慈悲は無く、人々の笑みも無く、蠢く屍と絢爛な建物だけが存在する空っぽの国が残っていた。

 

 「アインズ・ウール・ゴウンよ・・・・・・永遠なれ」

 

 栄華を称える大音声も無く、ただ一つのかすれた声が風に乗って消えていった。





 アインズとパンドラの小芝居。多分将来的に絵本とかになってこれを読んだ者がモモンに憧れて冒険者になる感じ。




 アンデッドの精神に飲み込まれアインズ様。ギルドメンバーへの異常な執着だけが残った感じ(捏造)。多分こんなんになる前にデミかパンドラがなんとかするでしょ(適当)。


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