「おお、響よ、死んでしまうとは情けない」
「いや、死んでないよ」
おじいちゃんにそう言いながら、私は泉から水を飲みながら浮き上がる。うん、相変わらず美味しい。
「おお、響よ、暴走してしまうとは情けない」
「はいはい、それはあってますよっと」
水面に立って歩いていく。私の足元にある泉。前を向けば視界に入り込んでくるのは巨大な大樹。その幹の上に白髪の老人が立っている。老人の片方の瞳は無く、眼帯がされている。残った彼の瞳が虹色に光。同時に私の片方の瞳も光る。
「でも、死んではいないしだいじょ~ぶ」
「あの程度で死なれてはたまらんわい。というか、さり気なく水を飲むでない。代価が必要だぞ」
「あ~じゃあ、肝臓で」
私がそう言った瞬間。口から血を吐いた。直に再生されて事なきを得たけれど、やっぱり痛いな~。もう、何回目だろうか。
「儂は片目だけじゃったが、お主は限度を知らんな」
「私の身体は既に大半が聖遺物だからね」
そう、ここは
「でも、これで欲しい知識は手に入れたから、もうやらないよ。多分」
「破滅願望を感じるのう」
「失礼な。これは未来への投資だよ。そう、私達が歩む未来の為のね……」
「そうか」
「それより、おじいちゃん。槍の使い方を教えてよ。めそめそ泣いて鬱陶しいんだよね」
「使ってやらんからじゃな。よかろう。儂自らが訓練してやる。お主は儂の瞳を持つから特別じゃ」
「やったね」
流石は神様だけあって、無茶苦茶強い。素手ならなんとか戦えるけれど、槍じゃ無理。やっぱり槍は邪魔かな。あっ、また泣いた。というか、槍の知識を貰おう、そうしよう。代償、何がいいかな~?
瞳を開けると天井が見えた。ミーミルの泉から精神が戻ったようだね。酸素マスクが鬱陶しいから外す。ここはアレだよね。
「知らない天井だ……未来の家でもないし、何処だろ?」
身体を起こそうとすると縛られているのがわかる。顔をそちらに向けると、固定された腕には点滴の針とチューブが取り付けられている。取り敢えず、腕を上げて固定されているベルトとベッドごと破壊する。次に酸素マスクを取る。もう片方も破壊して自由になる。それにしても、着替えさせられているって事は、うら若き乙女の柔肌を見られたって事だよね。
「よっと」
足も固定されていたので、そちらは両手で引きはがしてベッドから出る。身体を動かして、問題ないかを確認する。結局、肺は完全になくなった。二個とも。でも、槍の知識が入ったのでよしとしよう。本当に欲しかった知識は貰っている。これで
「ん~どこかわからないけど、帰ろっか」
病院の服みたいなのを脱いで、近くにあった私の服を着る。あ、次は胸の脂肪を捧げたらいいんだ。女の子にとっては大切だし、多分代償になるだろう。うん。やった、後二個のストックが出来たよ。女の子として終わってる気もするけど。取り敢えず、下は着替えた。次は上かな。
「立花くん……」
「あっ」
服を着ようとした瞬間。扉が開いておじさん達が入ってきた。赤いおじさんとうさんくさいおばさん。それにスーツの男の人。
「「「……」」」
「男どもは出た方がいいんじゃない~?」
「別に気にしないよ」
さっさと服を着て、身体を動かしてみる。なんの問題も無い。むしろ、前より調子がいい。身体の中を意識してみると、複数の聖遺物が私の中に取り込まれて臓器の代わりとなっているのがわかる。各部調整は問題なし。エネルギーの伝達に若干の遅れがみられるけど許容範囲だし。
「すまんかった。さて、君が居る場所だが……」
「リディアン音楽院でしょ」
「わかるのか」
「視たから」
「その眼、やっぱり特別製のようね」
「これも聖遺物だから」
「そうなのか……」
何故かおじさんが悲痛な表情をする。
「それで、何の用ですか? 用がないなら帰りますけど」
「うむ。立花響君。君にお願いがある」
「嫌です」
「話だけでも聞いてくれ」
「まあ、話だけなら」
「君にノイズを倒して貰いたい。こちらに居る奏者は先の戦いで絶唱を歌い、戦える状況にない」
あの人、歌い終わったらボロボロだったし、仕方ないよね。彼等はノイズに対抗する手段を無くした訳だ。
「つまり、貴女を雇いたいという事です」
「高いですよ」
「出来る限り、支払おう」
「じゃあ、お願いを一つ。なんでも聞いてくれればいいですよ」
「わかった」
「よろしいのですか?」
「背に腹は代えられん」
「あ、やっぱりもうちょっとお願いがありました」
「なんだ?」
「携帯とここに入学させてください。携帯は壊れたので」
「それはありがたいが、いいのか?」
「ええ。未来が一緒に通いたいって言ってたから。まあ、別に試験を受けてもどうとでもなりそうですけど」
「わかった。手配しよう」
「じゃあ、メディカルチェックを……」
「お断りします。自分でできますから。こう見えても私も聖遺物の専門家ですから」
私自身が聖遺物だしね。それにかかりつけ医の専門家もいる。あっちは錬金術師だけどね。
「そう……それじゃあ、何かったらお願いするわ」
「差し当たって、こちらから頼むのはとある物を運ぶ護衛だ。近いうちに依頼する。この携帯を持っていくといい」
「了解です。では、失礼します」
携帯を貰って、私は転移する。適当に転移してから欧州のある場所へと転移した。
「やっほー遊びに来たよー」
「遊びに来たなら帰れ」
同じ顔をした子達が沢山働いている場所。
「というか、貴様。また、やったな」
「あれ、わかる?」
「当たり前だ。そのままだと貴様は……」
「ん~約束した日まで持てばいいんだよ。それに対策はしてあるよ」
「そうか。ならば好きにしろ。なんだったら、新しい身体を用意しておいてやる。貴様に死なれても困るからな」
「きーちゃんのツンデレ~」
「殺す」
放たれた風の刃を避けて、さっと近付いて撫でてあげるとまた攻撃してくる。
「さてさて、おねーさんはお仕事をしてくるとしましょうか」
「俺の方が年上だがな!」
「身体は4,5歳でしょう」
「精神年齢は数百歳以上だ」
「じゃあ、おばあちゃんだ」
「死にたいのか、貴様は……」
「はっ、やれるものならやってみなよ」
互いに膨大な力を集結させ、戦闘態勢になる。でも、直ぐに霧散させる。
「二人共、やめてください! せっかくここまで作った物を壊す気ですか!」
「ちっ。後は任せる。魔法使い。さっさとやる事をやって出ていけ」
「はいよ~錬金術師のきーちゃん」
「……」
「だ・か・ら! やめてください!!」
「はーい。えーちゃんは可愛いね。お姉ちゃんが撫でてあげよう」
「は・た・ら・け!」
「やれやれ。じゃ、頑張りましょうか」
さて、頑張って仕事をしよう。終わったら未来の所にいかないと。お土産に何か持って帰ろっか。宝石とか。