多分続かない。
暇つぶし程度に流し見てもらえれば。
「はは・・・・悪いマスター、やられちまった」
「・・・・おいおい、謝るこたねぇだろ。あんたはよくやってくれたさ」
「胸張りなって、あの円卓に一泡吹かせるなんて、並みのウィザードにゃできないことなんだろ?」
「あたしもあの世で自慢できるぜ、『いいマスターと組めた』ってさ!」
「・・・・ま、そりゃあ悔しいよ。あと二回勝ちゃ、万々歳だったってのに」
「あんたを帰すことだって出来たのに・・・・それが心残りだな」
「ん?・・・・はははッ!何かと思えば、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」
「今の聞いたかマスター?太陽の騎士に褒められたよ!」
「あたしみたいなインチキ英霊が、円卓に認めてもらえるなんざ。こんなに光栄なことはないねぇ!」
「こっちも思いっきり歌った甲斐があったってもんさ!」
「・・・・っと、そろそろ、か」
「わり、先に逝くわマスター。消える前になんか言っとくことある?」
「・・・・おいおい、ここでそれかよ」
「――――――ありがとうはこっちの台詞だ」
「
「なんでこんな時に、思い出すかなぁ・・・・!」
夜の帳が下りた街。
両手に小さな命を抱えて、彼女は駆け抜けていた。
カーブミラー越しに背後を見れば、色とりどりの『死』が迫ってきている。
歯を食いしばって、速度を上げる。
走る理由なんてただ一つ。
死にたくないから。
たまたま一緒に居た少女を捨てない理由なんて一つ。
なんか負けた気がして悔しいから。
「よ、っと・・・・!」
階段を飛び降りてショートカット。
無理な着地で脚に痛みが走るが、捻っていないので問題ない。
地面を蹴ってその場を飛びのき、降り注いできた『死』を回避する。
靴底を擦り付けて急旋回。
入り組んだ路地裏に逃げ込んだ。
連中にとってこんな迷路は無いに等しいが、視界を遮るのには成功したらしい。
あちこちを走り回って抜けた頃には、背後の気配は薄く遠くなっていた。
念の為もう少し移動して、無人の公園にたどり着いた彼女は。
抱えていた少女を降ろし、どっとため息をついた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「んー、へーきへーき」
春先だというのに、髪の毛が張り付くほどの汗が流れている。
心配そうに覗き込む子どもに薄く笑って返しながら、しばらく呼吸を続けた。
「っはー・・・・」
ある程度落ち着いたところで、体を起こす。
上着を脱ぎ捨て、汗を乱暴に拭う。
『死』に、『ノイズ』に対する警報はもう鳴り止んでいるが。
自身の端末には、未だに警戒解除のメールは届いていない。
油断は禁物だろう。
体は疲れきり、体力は限界。
(次に来たら、『あれ』使うのも視野に入れないと・・・・)
少女の頭を撫でながら、現時点での『切り札』を思い浮かべた。
本来なら『同業者』に激しく咎められる行為だが、『こちら』には統括する『組織』もないので許して欲しいところだ。
いや、『組織』がない時点で許しを請う方がどうかしているのか。
小さく笑みを零して、伸びを一つ。
自分の命がかかっているのだ、躊躇などしない。
「よっし、休憩終わり」
立ち上がり、軽く柔軟。
景気づけにもう一度少女の頭を撫でながら、振り返って。
「っげ」
律儀に待機していた、ノイズの群れに遭遇した。
『近いシェルターどこだったかしら』なんて呑気な考えは一気に吹き飛ぶ。
隠れるなんて無理、既に相手はこちらを捕捉している。
ついでにもう何体かは、突進してきていて。
「code_cast...!!」
決意したとおり、躊躇い無く『力』を走らせる。
少女を下がらせながら、地面に手を叩きつける。
「Fire_wall(32)!!」
0と1が迸り、電子を現実に具現させれば。
熱を纏った『壁』が、ノイズ達を弾き飛ばした。
「へ?」
「うっしゃ」
呆ける少女の隣で、小さくガッツポーズ。
ノイズがいなくなる条件は二つ。
人間を殺しきるか、時間経過で自壊するか。
今狙っているのは後者。
故にペース配分しながら魔力を込めて、ノイズ達をやり過ごそうと画策する。
が、相手だってそう簡単に思い通りにならない。
思ったよりも数がそろっているようだ。
かかる衝撃は段々重く、多くなっていく。
安易に耐久を選んだことをうっすら後悔するが、だからとてやめるわけには行かない。
「・・・・ん?」
ふと、群れの向こう側に何かが降り立った。
続けて聞きなれた剣戟音が聞こえてくる。
一瞬薄れた壁の向こう。
見知った顔が、切羽詰った様子でこちらを見た。
「ッ
「翼?」
ちらっと見えた姿は、確かに親友の姿だった。
片っ端からばっさばっさと切り捨てる様が、群れの隙間から見て取れる。
正直彼女が戦えるのには驚いたが、救援に来てくれたのはありがたい。
途中から仲間らしきオレンジ色も加わったようで、二人係でノイズを倒しているのが分かる。
「・・・・ッ」
しかし、やはり数が多すぎる。
なんだってこんな示し合わせたように大量発生するのか。
必死に演算を繰り返す頭は鈍い痛みを訴え、視界はぼやけてくる。
目元に鋭い痛み。
拭ってみると、赤かった。
血涙とか笑えないなんて呑気に考えながら、それでも必死に耐え続ける。
親友達にこれ以上の援軍が来ないあたり、現存する戦力はたった二人と見て良いだろう。
敵に対する絶対数が少なすぎる。
背水の陣、崖っぷち。
覆すどころか妥協すら許されない危機的状況。
切迫する状況に対し、笑みすら浮かべて立ち向かう。
かつて駆け抜けた『戦場』に比べれば、これくらいのピンチなど造作も無い・・・・!
「生きるのを諦めない・・・・そうでしょう?」
『相棒』の口癖を零す。
地面に当てた手を握り締めれば、灯る鋭い熱。
扉が開くように、運命を定めるように。
刻み付けられる赤い紋様。
「えっ?」
怯えるばかりだった少女の声に反応して、顔を上げれば。
懐かしいステンドグラスが佇んでいた。
もう見ることが無いと思っていたそれに、一瞬驚くものの。
知っていたからこそ、次の瞬間には手をかざして。
躊躇い無く叫ぶ。
「来て!ランサーッ!!!」
刹那、爆ぜる。
ステンドグラスが、空気が。
暴風が吹き荒れ、周囲の何もかもを吹き飛ばした。
しがみつく少女を抱き返しながら、破片と強風を耐え抜く。
「・・・・?」
風が治まった頃。
ゆっくり目を開いて、見上げる。
「サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した」
街灯に照らされて、久方ぶりに見る姿が立っていた。
「――――悪いねぇ、魔術師さん」
浮かぶ、ニヒルな笑み。
「あたしみたいな大ハズレを引かせちまってさ」
口にしたのは、『あの時』と同じ台詞だった。
「バカ言わないで」
だからこそ、こっちも同じ台詞を告げる。
「当たりハズレを決めるのはわたしよ、精々見限られないように尽くしなさい」
「・・・・へへっ、じゃあそうさせてもらおうか!!」
振り返る。
未だに健在なノイズの群れ。
暴風に吹き飛ばされてもなお、数だけはそろえている。
懐かしい感覚に、笑みを抑えられない。
「小手調べにはちょうどいい、行くわよ!
「あいよッ!
再結成した主従の従者は、愉しそうにノイズへ突進した。
誰か書いてもいいのよ?チラッチラッ