第0話 転生したから人生楽しむ
「なので、この問題にはこの公式が当てはまるわけで,さらに…」
数学の教師が淡々と授業を進めていくなか俺は窓から外の景色をボーッと眺めていた。
「もう10年か…」
誰にでも言うわけでもなく俺は独り言ちた。
唐突だが『生まれ変わり』というものを経験したことがあるだろうか?死んだ後に意識や記憶を引き継いで、また新しい肉体に移ると言われているアレだ。
俺は荒れ果てた世界で傭兵をしていた。明日への命を繋ぐのにも精一杯な世界では力が全てだった。だから俺は戦い続けた。自分が生きるために。
だがある時依頼が入った。企業からレジスタンスの鎮圧を任され、次はそのレジスタンスからの依頼だった。元々劣勢だったレジスタンスだったが、途中までは何とか上手くいっていた。しかし企業が雇われていた代表を裏切り謎の無人兵器を設置してからは一転し、レジスタンスは撤退を強いられた。それからは執拗に俺を狙うようになりさすがに参ってきた状態だった。
更には仲間の一人が裏切り俺を殺しにきたが俺は何の躊躇もなく正面から叩き潰した。終いには俺の雇い主のフランからも恐れられてしまった。
依頼だから戦っているというのに何て言い草だ、と思わなかったこともないがその時点ではそれなり以上の信頼を置いていたので別に気にはしなかった。しかし企業からは違ったようで、その後文字通り最終決戦を行い俺は辛くも勝利した。
その後は、仲間と少しの間放浪した後それぞれの道へと歩き出したが、別に俺は大してやりたいこともなかったので、雇われる前と同じように、ただ戦い続けた。誰の依頼であろうと断らずどんなことでもやった。
しかしいつかはガタが来るもので俺の体とACはボロボロになっていった。しかも何でも屋のように依頼を受けすぎたせいで俺の周りには殆ど敵しかいなかった。そんな状態で相手をできるはずもなく俺は呆気なく死んでしまった。まぁ、波乱もあったが退屈しない人生だったなと死ぬ間際に今までの出来事を思い出し、やがて眼を閉じた。しかし目が覚めると俺は見慣れない場所に立っていた。それも5歳の男の子としてだ。
最初は混乱したが意識が覚醒していくと共にこの体の記憶が様々な情報を与えてくれた。普段だと言葉遣いに気をつけたり、あちらの世界との習慣の違いに戸惑ったが生活していくうちに慣れてしまった。
それからというもの俺は戦いとは全く無縁の生活をしていった。スポーツや成績を競うのが戦いというのならまた違ってくるが、あちらと比べると優しいものだろう。それに俺は生きるために戦うというよりも戦うために生きるというスタンスだ。正直この世界の日常は俺には合わない。
俺自身この体『霧雨斬夜』になってから何度もあの世界のことを思い出す。もし願いが叶うならあの命のやり取りを繰り広げた戦場にもう一度戻りたいと思ったことは一度や二度ではない。
しかしこの世界に来て良かったと思えることもある。それは非常に快適に暮らせるということだ。空気も汚れておらず寝床も安心できるし、なにより飯が美味い。あちらだとろくな食料がなかったから初めてこっちの飯を食ったときは柄にもなく驚いてしまった。
まぁそんな感じで暮らしてきたが今年でそれも10年目だ。俺も高校生となりこれからの人生を決めるという時期に差し掛かった。公務員など俺からしたらそんなクソ真面目みたいな仕事は論外だったので、ACを整備する際に身についた技術を使えればと工業高校に入った。
中学の時の同級生も何人か入りそれなりに充実した生活を送っている。だがやはり何年経っても授業というのはダルい。あちらの世界で勉学などまともにやってこなかった…というよりそもそも、そんなことをする意味がなかった。
レジスタンスのリーダーであるフランやMoHの創始者の娘であるロザリィなら何らかの教育は受けているとは思うが生憎と俺はそんな風に生きられなかったんでな。
力こそすべて。力がなければただ殺られるだけ。そんな中で覚えたことはACの技術と体術くらいだ。まともな教育など受けているはずもない。まぁ、そのおかげで企業にも勝てたんだが。
「ふぁぁ~」
まずい。眠くなってきた。授業を受ける気は殆どないが、最低限聞いておかなければ今後の成績に関わる。夏季休暇の前に受けた考査では中々にひどい点数だった。幸い筆記以外での部分点が高かったので赤点にはならなかったがそれでも油断してはいられない。しかし…
(この眠気には逆らえない…)
何とか抗おうとしていたが、やがて初夏の陽光に包まれ意識が遠のいていった。