艦CORE 黒い鳥は海を舞う   作:紅月黒羽

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第1話 平凡な学校生活

 暗い。この光景を見てまずそれが一番最初に思い付く言葉だろう。

 次に異様。空は夕暮れのような『赤』ではなく、血が滲んだようなどす黒い『紅』に染まっている。何とも言えない不気味な光景。なぜこんな光景を見ているのか見当もつかない。分かることは海上にいるということと、辺りには何人もの人が倒れているということだけ。皆血を流し、立っている者は誰一人いない。

 

 しかし一般人が見たら口をそろえて『地獄絵図』と言いそうなこの場所に眩しく輝く光があった。そこには人と思わしき影が二つ。体のラインからして一人は男、もう一人は女だろう。

 

「もう……これ以上………こんな世界に意味は…。人は……いつも自分たち……を…。そんな世界…意味があると…。」

 

「それでも………続ける。まだ俺は…諦めちゃ…ねぇ。あんたの……いこみで………わされて…まるかよ」

 

 どうやら話をしているようだがうまく聞き取れない、だが、男の声はどこかで聞いたような気がした。それに応える女の声はこの場に相応しくないほど美しかった。しかし包み込むような優しさとは裏腹にどこか心の奥底が見えない、無機質で感情が読み取れない深い拒絶を帯びた声に感じた。

 

 

「愚かで…貴方も……筈です、……………分かりあう……いと。なのに……まで?」

 

「それは……そう………でいる……。この世界……人間………がある。」

 

「ならば……みなさい。私は……めない」

 

 どうにか聞き取ろうとしてもノイズが走り途切れ途切れにしか聞こえない。せめて姿だけでも確認しようとしても光が強すぎて見ることもままならない。しかしこれから始まることについては何も言われずとも分かった。これは『戦い』だ。誰にも邪魔することのできない絶対不可侵の決闘。それが今始まろうとしている。

 互いに『譲れない物』を抱えながら、それを否定されぬよう互いに意地をぶつけ合い、勝利しそれを証明する。

 

 子供の喧嘩のように聞こえるだろう。しかし大人だろうがなんだろうが戦う理由の本質はそれと変わらない。いつまで経っても子供の喧嘩のままだ。だがそれが良い。なぜなら一番早くて手っ取り早い。下手なことを考える必要もなくただ戦うだけ。そんな自分の意志や感情をむき出しながらやることに意味がある。

 しかし、互いの緊張感が高まり、それが限界まで溜められたと二人が同時に仕掛けた途端目の前が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

「…夜、斬…!!」

 

 ん?…あぁ寝ちまったのか。まずいな、これでまた授業から遅れてしまった…どうにかして取り戻さないと。

 

 それにしても変な夢だったな…今まであんな夢見たことがない。たまたまだろうか?まぁ所詮は夢だ、いつの間にか忘れてしまうだろう。

 

 しかし数学の時間の異様な眠気は一体何なのだろうか?一瞬眠くなったと思うと一気に避けられない眠りへと誘われる。それに抗おうといろんな手段を試しても結局は眠ってしまう。。

 てかいつの間にかチャイム過ぎてたのか、よくもまぁ起きなかったな。こんな風に眠れるなんてあっちの世界じゃそうそうなかったしな。

 

「おい、聞いてるのか斬夜!」

 

「ん?」

 

 声の主の方に顔を向けると俺と同じくらいの背丈の男子生徒が立っていた。どうやら起こしたのはこいつらしい。寝ぼけ眼を擦りながら見上げると見知った顔があった。

 

「やっと気づいたか。随分と熟睡してたようだな?寝ぼけてたのか?」

 

「…うるせぇな、こちとら睡魔と戦うので精一杯だってのに」

 

 あぁ、何か声が聞こえると思ったらこいつだったか。今、俺の目の前にいる秀才さを醸し出している黒いフレームの眼鏡をかけている男子生徒の名前は『新川 誠(しんかわ まこと)』、中学の時からの付き合いだ。知り合ってからは何かと馬が合いそれ以来ずっとつるんできた、俺の数少ない親友だ。

 

「そんだけ言えればもう寝ぼけてないな。それじゃ昼飯食いに屋上に行くぞ」

 

「ちょっと待ってろ、すぐに行く」

 

 適当に返事をし自分の弁当を持つ。俺はいつも誠ともう一人の親友と屋上で飯を食うことにしている。この高校珍しいことに工業高校だというのに屋上まで整備されており花壇まで備え付けてある。今は初夏ということもあってツツジやキキョウ、コチョウランなどが鮮やかに咲いている。

 手入れは基本事務員の人がやっているが何人かの生徒や教師も自主的に手伝っているらしい。

 

 別に花を愛でる趣味はないが晴れているときに屋上でのんびりと過ごすともの凄く居心地が良いのだ。この学校はどちらかといえば山に近いが海からも近い。優しく頬を撫でる微風には潮の香りがうっすらとついている。なので当然屋上からは海が見えるわけで、俺たちは毎回海を見ながくだらない会話をしながら飯を食っている。

 

「それじゃあいつのこと呼びに…」

 

「おーっす、斬夜と誠いるか?」

 

「おっと、丁度いいときに来たみたいだな」

 

 教室のドアの方に視線を移すとがっちりとした体をしているわけでもなく、かといって痩せすぎでもない所謂中肉中背な男子がいた。顔立ちは整っている方でそれなりに女子からもモテているが中身を知っている俺たちからしたら絶対に付き合わない方がいい………というか絶対に付き合わないもう一人の親友。

 

「翔海、ちょうど今から俺たちもお前のところに行こうとしてたとこだ」

 

「おっそうだったか、入れ違いにならなくてよかったぜ」

 

「どっかの誰かが爆睡してたもんでな。まぁ、どうせ行くところは決まってるから問題ないがな」

 

「なんだよ、またか斬夜?」

 

「うるせぇ。大体数学んときの眠気はおかしすぎるんだよ。なんだあの強さ、下手なラスボスなんかよりよっぽど強ぇぞ」

 

「確かにあの睡魔は強いが…ってそんなことより飯だ飯!時間が無くなっちまうから早くいくぞ!」

 

 教室に来た生徒に促され俺と誠は互いに苦笑しながら教室を出て行った。

 

 この、見た目はいたって平凡のどこにでもいるような高校生は『中村 翔海(なかむら かける)』こいつも誠と同じように中学からの付き合いだ。いつも無駄に元気でそれに付き合わされる俺と誠は中々に参っているのだが本人は全く気になどせず、なし崩し的にいつも流される。

 クラスが違うため毎回俺たちか翔海のどちらかが互いの教室に声を掛けにいっているが今回は俺が寝ていたということであっちから来たらしい。そのまま俺たちは駆け足で屋上へ向かう。

 

「別に時間的にはまだまだ余裕はあるだろ?何でそんな急ぐ?」

 

「いいから早くしろって!じゃないと見逃しちまう・・・・・・!」

 

「あぁ、なんだそういうことか。今日は丁度・・・重なったのか」

 

 今の時刻はまだ昼休みが始まってから数分しかたっていない。それなのに何故翔海がこんなに急いでいるのか気になったが今の会話でその理由が分かった。つまりはアレをみたいのだろう。

 会話をしながらも進む速度を変えなかった俺たちは数十秒ほどで屋上についた。まだ昼休みになったばかりなので人気は少なかった。それからはいつもの場所にとりとりあえず腰を落ち着かせた。この屋上の一角は海を視界全体に入れられる数少ない場所だ。更にちょっとした木も生えているため日差しがそれほど当たらずに快適にいられる。

 

「よし、間に合ったみたいだな。見逃さずに済んでよかったぜ」

「全く、どうにかなんないのかお前のその性格は」

 

「いいだろ人の趣味なんざ気にしなくたって?」

 

「それに付き合わされる俺たちのことを考えろ」

「へいへい、それは悪うござんしたっと」

 

 

 さして悪びれた様子もなく誠の言葉を受け流す翔海だがそれに対して誠もそれ以上は言わない。伊達にこれまで一緒にいたわけじゃない、互いのことを分かっているからそれ以上言う必要がないのだ。

 

「おっ!見えたぞ!」

 

 翔海が子供のようにはしゃぎながら声を上げはじめた。どうやらお目当てのものが出てきたらしい。さらにはどこから持ってきたのか手には双眼鏡が握られている。

 呆れた奴だ、だが人間これくらいの個性があった方が面白い。だからこそ俺はこいつらとずっと一緒につるんできたし、何をするにもとりあえずこの三人でやってきた。まぁ、こいつらに合わせるのも中々に疲れるがな。

 

「ならこんな機会もそうそうないし俺も見させてもらおう」

 

「なんだよ誠。お前も見たかったんじゃんかよ~」

 

「別に。俺はただ珍しいから見ようと思っただけだ。お前とは違うよ」

 

「で、本音は?」

 

「だから…珍しいからって言ってるだろ?」

 

 いつもこいつらはこうだ。何かあるたびに翔海がちょっかいをだし誠がそれを流す。ただ流されたとしても翔海もそこで終わらずまた返す。会話に割り込む暇がないが見てる分には面白いから別にいいが。

 そんなことを思っていると翔海が俺に双眼鏡を差し出してきた。

 

「ほら斬夜も見てみろって。滅多に見られないんだからさ」

 

 こいつの趣味にはさして興味はないのだが何回も言われると面倒だな。どうせ断っても無理にでも渡してくるだろう。なら、

 

「そうさせてもらうよ」

 

 あまり気のりはしないが受け取っておくことにしよう。なぜか受け取ったときに翔海が笑っていたような気もするが聞いても無駄そうなので無視し、二人が見ていた方向に目を向ける。

 

 深い青に染まった海。その上空には真っ白な翼を震わせながら飛行する海鳥。

 港には幾つもの船が留まっておりここから見ても活気に溢れているのが分かる。 

 

 何の変哲もない景色だろう。

 

 

 

 

 

 海の上に少女が浮かんでいなければ。

 

 

 

 

 

 

 『艦娘』それがあの少女たちに付けられた総称。過去に起きた戦争で沈んだ軍艦たちの生まれ変わり。それが艦娘だ。そしてこの世界では一つの戦争が起こっている。『人類』と『深海棲艦』の戦争が。

 

 『深海棲艦』とは白黒の、人とは違った生物のことだ。複数の個体が発見されているが人とは全く違った姿をしているのもあれば、肌の色が同じならば人と間違うほど似ている個体も見つけられている。そのため様々な説が立ち一時は情報が混乱した時期があったが日本政府が国内放送でそれをまとめて鎮めた。

 

 しかし尚その仮説の域を出ない噂は人々の間に残っている。深海棲艦には艦娘の艤装しか効かないことから同一の存在とされ、もしかしたら艦娘もいつかは人類に牙を剥くのではないのか?深海棲艦は地球が生み出した防衛本能の様なものではないか?など根も葉もない噂が流れている。

 

(…くだらない)

 

 おかしな話だ。艦娘は命を張って自分たちを守っているのに人々はそれを信用しない。大本営などと過去の組織まで引っ張ってきて利用しているというのに。先のことばかりに気を取られ今起きていることになど全く関心を向けない。

 それでもそんな風に思っているのは人口のほんの数割だろう。今では友好的な関係を保っており艦娘をそんなに毛嫌いする人は減った。それもこれも彼女たちの努力と大本営が積極的に活動してきたからであろう。

 

(よくもまぁここまでやったもんだよ。あの人も)

 

 とある人物を思い出し思わず苦笑する。あんな人が人類と艦娘の関係をここまで繫げたのだから余計に尊敬の意を向けたくなる。

 

(まぁ、俺には関係ない話だがな。戦う力なんぞないし今はこの生活を楽しませてもらおう)

 

 戦う力があれば今すぐにでも行きたいがそれは無理な話だろう。…やはりあちらの世界での感覚が抜けないな。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~今回も榛名ちゃんはいなかったか~」

 

 昼飯を食い始めて数分後に翔海が心底残念そうに言う。

 まったく飯んときにそんな課顔をするな、まずくなるだろう。言い忘れていたがこいつは無類の艦娘好きだ。同世代の俺らから見ても引くレベルに。

 今回のことも初めてではない。今まで何度もこんなことをしている。一度こんなストーカーまがいのことをするのはやめろと誠が言ったが翔海が、

 

『あんな可愛い娘こたちを見逃すなんてできないね!これを逃したら俺は何を楽しみにしたらいい!?それに、こんなむさ苦しいところにいるんだからこれくらい問題ないって!』

 

 とこんな感じに返されて俺らは絶句した。確かに工業校だから必然的に男が多いが、流石にアレはないと思った。てか他に楽しみくらいあるだろ。だったら別な高校に行けばいいのにと言ってみたら、

 

『だってこの高校からしか見えないから仕方ないじゃん?』

 

 こいつ本当に阿保だろって思ったな。その行動力を別のことに使えればよかったのに…。しかしそれに何回もつき合わされるたびに俺らも慣れてきた。今では咎めることなんてしなくなったし誠も僅かにだが興味を持ったらしい。誰かが言ってた言葉を借りるなら、慣れとは怖いな。

 

「そんなものだろ。毎回お目当ての艦娘を見れるわけがない」

 

「クールだねぇ誠は。そういうお前こそ見たかった娘いたの?」

 

「俺はお前みたいに不埒な衝動で見ているわけじゃない。ただの興味本位だ」

 

 流石に誠は見た目通りに真面目だ。頭脳明晰、運動神経よし、性格よし、美顔、完璧かって話だが実際こいつの悪い点など見つからない。唯一上げるとすれば反応が薄いくらいか。

 

「それだったら斬夜もどうなんだ?艦娘については俺らよりもよく知っているだろ?」

 

 なぜそこで俺に振ってくる誠。翔海にあれこれ聞かれるのはうんざりなんだ。

 

「…人類を救ってくれてる救世主くらいにしか考えてない。それに俺は確かにあの人の孫だが大本営についてなんぞ何も知らない。軍にいったって縛られるだけでそんなの俺には似合わない」

 

「もったいないだろそりゃ?せっかく提督に慣れる機会があったってのに。艦娘と毎日会えるんだぜ?最高かよ!」

 

「言っとくが、あくまで深海棲艦から俺たちを守っているということは忘れるなよ。それにお前みたいな気持ちで提督になろうってんなら速攻たたき返されるのがオチだろ」

 

「くっ、言い返せないのが辛いぜ…」

 

 こいつもまともな性格だったら彼女の一人や二人できてたろうに。どうしてここまで曲がったか。今からでも変えればいい人生を送れると思うが恐らく無駄だろう。こいつが俺の説得で変わるはずもない。もし変わったのなら次の日には異常気象が起こるだろうな。

 

 そんな考えをしていたら翔海が俺の手元へうらやましそうな視線を向けていた。

 

「にしても相変わらず斬夜の弁当は旨そうだな」

 

「それには同意するな。今どきここまでする奴も珍しいだろう」

 

「別に?ただ自分でも美味いもん作ってみたいなって思ってやってるだけだぞ?」

 

「思ったことをすんなりできたら苦労しないっての」

 

 翔海や誠が言ってるように俺は自分で弁当を作っているが何故そんなことをしているかというとこちらの世界で食べた料理に感動して自分でも作れないかと地道に練習してきたのだ。いつしかそれが趣味になり今では色んな料理を作れるようになった。

 両親が既にいないことも関係あるがどちらかというなら作りたかったという気持ちの方が大きかった。それで今まで続けてきたというわけだ。

 

 とこんな日常的な会話をしていると、

 

 

 

 

 

 

『一年電子機械科、霧雨斬夜、普通科職員室まで来てください。繰り返します一年…』

 

 なに?

 

 「おい斬夜どうした?何かやらかしたのか?」

 

 どうしたと聞かれてもこっちが聞きたいが。目立たないようにいたって平凡な暮らしをしていたつもりなんだが一体何をしたのか自分でも分からない。

 …まてよ、まさか数学の授業のとき寝ていたのをチクられたか?いや、わざわざそこまでするか?しかし他に思い当たる節もない。やはり数学のときか?

 

「分からないって顔しているが、呼び出しをくらったからには早めに行った方がいいぞ。俺らの担任はこういうことにはうるさいからな」

 

「悪い、そうさせてもらう」

 

「ならさっさと行っとけ。面倒なことになってないことを祈ってるよ」

 

「後で詳しく教えろよ~」

 

 人が不幸な目に合ってるってのに気楽でいいよなお前らは…。全くついてない、飯もゆっくり食えないとんじゃ休む暇が無い。

 まぁいい愚痴をこぼすのは終わってからにしよう。後であいつらに何か奢らせればいいしな。

 

「了解」

 

 短くそう返しながら俺は階段を下りて行った。

 

 

 




今回は斬夜の今までどのように生活をしてきたのかを書きましたが、分からない点がありましたらご報告ください。
 
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